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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

2015年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2016年01月

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マニトウスワイヤー 第六章 精霊の支配者(マニトウスワイヤー)

「少しですが、体力が回復いたしましたわ・・・」

 籐で作られた長椅子に足まで伸ばして横になっていた都は、ゆっくり頭を持ち上げ起きざまにそう言った。

「驚いたわよ・・。  傷だらけの身体でいきなり入って来て、少しだけでいいから寝かせろと、いきなり爆睡しだすから。
・・で、特に重症だった足は大丈夫?」

 うなじが美しい色白の和服美女はそう言って、お茶の入った四つの湯呑みをテーブルに並べた。

「おかげ様で。まだ傷口が塞がった程度ですが、とりあえず歩くくらいなら大丈夫そうですわ」
 都はそう言ってスカートをまくり上げると、白い足を露わにした。

 浄化による消滅を避けるため、霊光矢を自らの太腿の肉ごと抉り取った深い傷。
 まだ痛々しさはあるものの、さすが妖怪の回復力。 傷口はある程度塞がり、出血も完全に止まっている。

 ちなみに、ここは色とりどりの反物が並んでいる、丘福駅から少し離れた場所にある反物屋。

 だがその場所は複雑怪奇で、まるで迷路のような路地裏を潜り抜けなければ辿り着くことができない。

「そっちの付喪神(ヌイグルミ)は霊力でお茶を飲むことができるでしょうけど、異国の女の子は煎茶は大丈夫かしら?」

 そういって心配する和服の美女は、この反物屋の女将。

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 本名は誰も知らないし、また・・ここだけの話、この女将は人間では無い。

 だがここでは女将で通るし、またそれ以上の詮索も必要はない。

 なぜなら来てみればわかる。

 この店は時間の流れ・・・、世の中の動きから全て隔離されたような空間のように感じるからだ。

「大丈夫です」
 フェアウェイはそう言って湯呑みに口をつけた。

「ねぇ・・女将さん。ここミシンありますわよね? 借りてよろしいかしら?」
 都はそう言うと、バッグから鮮やかな茶色の生地を取り出した。


「その生地は・・!?」


 都が手にした生地を見て香苗は思わず声を上げた。

 それはバレンティアの身体から精製された、明るい茶色の生地。

「あるけど、裁縫ならここでやらず自分の家でやったらいいじゃないの?」

「ここからわたくしのアパートまでかなりの距離がありますし、それに大至急・・仕上げたいのですわ」
 都はまだ『借りて良い』という了承を得ていないのに、ミシンを漕ぎだした。

「相変わらず、自分のペースね・・・」
 女将は呆れて、言うだけ無駄といった仕草をとった。

「ところで都さん。貴女を傷つけたというマニトウスワイヤーという一味。貴女が寝ている間に少し当たってみたわ」

 都の生地を送る手が一瞬だけピタリと止まる。

「どうやら、とんでも無い化け物よ。できれば早急に手を引くことを、勧めるわね」








「マニトウスワイヤー・・・。マニトウとは先住民族たちの間で『精霊』を指す言葉。そしてスワイヤーとは支配者。 すなわち精霊の支配者ということ」

 青い妖魔狩人は二人の少女の前でそう語った。

 洋風で落ち着いた雰囲気のこの部屋は、丘福駅から少し離れた高級ホテル・・ニューオーニタの一室。

 さすがにここでは例の戦闘用コスチュームでは違和感があるため、青い妖魔狩人は水色のブラウスに白いキュロットパンツ。
 そしてポニーテールの髪型に白いマスクを覆っている。

 同じ部屋にはベッドに横たわる凛。 それを見守る金鵄。

 青い妖魔狩人を護衛するように寄り添っている祢々。

「精霊って、木や草や水なんかに居着く弱っちぃ・・霊の事っちゃろ? そんなのヤツらのボスだからって、何をビビる必要があるっちゃ?」

 独特の方言で話すショートヘアで少しイタズラっ子のような風貌の小柄な少女。
 歳の頃合いは凛と同じくらい?

「日本ではそういう霊の事を言うようですが、海外では妖怪や悪霊・・・。その他諸々の物の怪全般を指している地域もあるそうですわよ」

 もう一人は落ち着いた十代後半といったところか?
 山吹色の長いストレートヘアーに黄色いカチューシャ。整った鼻筋にパッチリした目。
 芸能界でも充分に通るほどの美少女である。

「さすがは『高嶺 優里』。教養が高いので話が早くて助かる」

 青い妖魔狩人は一応褒めているのだろうと思われる。だが、いつもながら淡々と話すため、聞く方は素直に喜べない感もあるが。

「それって、ウチがまるで馬鹿のように聞こえるんやけど!?」

「誤解を生じているみたいだな『斎藤 千佳』。 貴女は馬鹿のようなのではなく、真の馬鹿だから気にする必要は無い」

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 そう言われた千佳という名の少女。

「あ・・!?」

 思いっきり青い妖魔狩人を睨みつけると、怒髪天突くように髪を真っ赤し逆立てた。

 それは過大表現ではなく、本当に髪が真っ赤になり逆立っているのである。

 それを見て青い妖魔狩人を守るように間に入る祢々。

「千佳さん、今は争っている場合ではありません。早く経緯を聞いて、どうして凛ちゃんがあんな大怪我をしたのか? その真意を確かめないと」
 優里も千佳の間に入り千佳の怒りを制した。

「わかったっちゃよ!」

 髪を元に戻しベッドに腰掛けると、静かな寝息を立てている凛の顔を覗きこむ。

― ホント・・可愛いなぁ~凛~♪ それにしても、誰がウチの凛をこんな目に合わせたっちゃ!? 絶対にぶち殺したるっちゃよ!―


「話を本題に戻す・・・」

 青い妖魔狩人は淡々と言葉を続けた。

「マニトウスワイヤー、その正体は『エノルメミエド』という名の遥か古代の神族の一人」

「神族・・・?」


「そう・・。唯一神派が多数である今の時代ではピンと来ないかもしれないが、元々神というものは一人ではなく大多数存在している。

 日本の古事記、ギリシア神話、ゲルマン神話、ヒンドゥー教、エジプト神話など。
 国同士の交流のなかった時代なのに、多少の違いはあってもその中身は割りと類似している。

 その理由は神というのは一族のようなものであり、その一族の生活や行動が神話となって伝わっているのだ。

 それが証拠にギリシア神話のゼウスとインド神話のインドラ。
 日本神話のイザナギとギリシア神話でのオルフェウス。

 これらは一例だが、名こそは違っているものの同一人物だ」


「つまり、同じ人物の行いが、その国・・その国の言葉に合うように変化して伝わっていたということね」

「そういう事だ。
 彼ら神族は人間よりも遥かに高い知能と力を備え持っている。まぁ、人間の上位機種版みたいなものと考えれば、わかりやすいかもしれん」

「スマホとガラケーの違いみたいなものっちゃね?」

「能力的な違いはそんなものかもしれん」

「その一族の中にエノルメミエドという女がいた。彼女は操作系の能力に卓越しており、中でも強力な精霊操作の力を持っていた」

「ここで言う精霊というのは、先程・・高嶺優里が言っていたようにアタシのような妖怪。霊魂、妖精・・・全ての亜種生命体、生物の事だと思ってもらいたいわ」
 祢々が付け加えるように言った。

「精霊の中には大地や天候など強力な力を持った者もいる。それらを全て自分の意のままに操ることができれば・・・・」

「世界中に大災害を起こし、世の中の動きを変えることができる・・・」


「そう。その力を恐れた他の神族は、彼女から神族の生態の一つである数千年の寿命を消し去り、人間の寿命に替え人間界に追放した。

 人間としての寿命は僅か数十年。エノルメミエドはすぐに歳を取り死を迎える事になった。 そこで彼女は自らに転生の術を施し、数百年の眠りを得て転生を繰り返した」


「では、もう何度もこの世界に蘇っているということ?」

「そうだ。その度に彼女は自らの野望を抱くため、その力を見せしめに使っている。 過去、世界各国であった大災害の殆どは、エノルメミエドの仕業だ・・・」

「でも・・・そんだけのヤツが蘇って、よく今まで世界は無事で住んでいるっちゃね?」

「彼女の属性は『闇』。闇属性は『光』属性に弱い・・・。光属性は天界の一部の者か、もしくは心清らかな一部の人間でしか操る事のできない属性。
 その度に天界は人間と協力し、光属性の力でエノルメミエドの野望を抑えてきた」

「なるほど・・・。まるっきり手段が無いわけでは無いのですね?」

「そう・・・。だからヤツはその光属性にも耐えゆる不死の肉体を手に入れる事にしたのだ」

「不死の肉体・・・・?」

「そうだ。人間・・神族、そして天界の住人。その中で限りなく不死に近い肉体を持つ種族がいる」

「・・・・・?」


「それは『天女族』・・・」


「天女族・・・?」

「見た目は人間の女性とあまり変わらないが、『緑色に輝く髪』と再生能力を持った不死の肉体を持つ天界の住人」









「緑色の髪の毛って・・・・・・!?」


 女将の話を聞いていた香苗はとっさにフェアウェイを見た!

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「そう、フェアウェイ・・。その子が天女族の限りなく不死に近い子ども」

 女将はそう言うと飲み干した湯呑みを見て、ポットに手をかけた。

「それでその精霊の支配者様はフェアウェイをどうしようというのかしら? まさか、お茶飲み友達にしたい・・ってわけでもないでしょう?」

 黙々とミシンを漕ぎながら言葉だけ返す都。









「エノルメミエドの目的は唯一つ! それは自身の『魂』を天女族の身体に融合させ、不死の身体として転生を完成させること・・・」


 辺りがシーンと静まり返った。


 強力な力を持つ者が唯一の弱点を克服するために不死の肉体を手に入れようとしている。
 その意味を理解すれば、それがどれだけ恐ろしい事かを・・・。

「その情報。 そして、天女の子とエノルメミエドの手下がこの丘福市へ来ることを知ったワタクシは、黒い妖魔狩人・・若三毛凛にこの事を話し天女の子を確保に向ってもらったわけだ」

「じゃあ! 凛がこんなにボロボロになったのは青い妖魔狩人・・・。てめぇのせいだと言うわけちゃね!?」

 千佳が右手をワナワナと震わさせる。その爪先は灼熱のように赤くなり微かだが湯気まで立ち上がっていた。

「千佳さん、怒りの矛先が違うわよ。こんな話・・凛ちゃんが聞いたら動かない理由がないし、それに傷つけたのはエノルメミエドの手先・・・」
 物腰は軟らかいが、明らかに優里の表情にも怒りが見える。

 更に・・

「それよりも何故・・天女の子は、この丘福市へ逃げてきたのかしら?」
 と、青い妖魔狩人に問い返した。









「都さん。その答えは貴女が戴いた手紙の中に記されているはずよ」
 何もかもお見通しのように女将が答えた。

 作業の手を止め、バレンティアから引き継いた封筒を取り出しその中身を見る・・・


 日本、神田川県、丘福市・・・と地名が続き、私立聖心女子大学附属聖心女子高等学校の名の次に・・・


「神楽 巫緒(かぐら みお)!?」


「その名の人物が、この世界で唯一マニトウスワイヤーの野望からフェアウェイを守りきれるそうよ」

「まるで聞いたことがありませんわ。 一体どなたですの?」

「私も会った事はないけど、風の噂によると・・・・」

「どいつも・・コイツも、風の噂話が好きですわね」


「天界・・・いえ、全世界でも唯一人。光属性の力を持つ・・奇跡の天女!」

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第七章 闇からの襲撃へ続く。
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| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 20:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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マニトウスワイヤー 第七章 闇からの襲撃

「あの虫けら妖怪と天女の子の足取りは、あれからサッパリなの?」


 とあるファミレス風の一室で、アンナ・フォンはベーコンを頬張りながら話していた。

 その側には、女性の皮膚で作った面を被っているクエロマスカラ。

 何の肉を使っているのか? 聞くのが怖いハンバーグやベーコンを作っている、長身の年配男性ドレイトン。

 そして・・・・

「今日は良い人形が手に入ったから、久しぶりにメンテナンスをしようかしら?」

 全身にマントを羽織った人物、パペット・マスターは一人の若い女性にそう告げた。

 野球のチーム名とロゴが入ったTシャッツにミニスカート。
 どうやら、その若い女性はチームのマスコット兼チアガールのようだ。

 いや、若い女性には違いないが、よく見ると・・何かが違う・・。

 光沢のある硬質の肌。 湿りの無い唇・・・・。 そして、まるでガラス球のような瞳。

 それは若い女性の形をした人形、マネキン人形である。

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 パペット・マスターは人形の頭部を両手で支えるように握ると、ゆっくりとその首を捻りだした。

 一回転……二回転と捻ると、人形の首はスポっと胴体から外れた。

 ゴロリと転がる美しい頭部。

 パペット・マスターは嬉しそうに頷くと、羽織っていたマントを取り払った。

 そこには眩いほどの全裸の女性の肉体が・・・・。

 いや、よく見るとツヤツヤに輝く肌。だが、お世辞にも柔らかそうとは言えず、むしろ硬質化しているように見える。
 そして・・その頭部はツルツルのスキンヘッド。ガラス細工のような瞳・・・。

 そうなのだ。

 パペット・マスターの全身も、まさしく・・マネキン人形の身体。

 だが、恐ろしい光景はそれだけでは留まらない。

 パペット・マスターは自身の頭部も両手で掴み、二~三回転させるとスッポリと引きぬいたのだ。

 そしてその頭部を、頭を失ったマネキン人形の胴体に乗せた。

 同じように二~三回転させ頭部と胴体をしっかり固定させると、それまで動いていたパペット・マスターであった身体が、崩れるように倒れた。

 そして新たに首を付け替えた身体がコキコキと動き始める。

「メンテナンス終了・・・。定期的に替えていかないと動きは悪くなるし、なにより飽きるわよね」

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 パペット・マスターはそう言って楽しそうに微笑み、再びマントを頭から羽織った。

「さて、次は新しい人形たちの作成ね・・・」

 彼女が振り向いた先には先程と同じコスチュームを着たチアガールが、四人程立ち尽くしている。
 しかし先ほどと違うのは、こちらの四人は生きている人間の女性だということ。
 平均年齢21歳の健康的な女性たち。

 パペット・マスターは一番左にいるサンバイザーを被ったポニーテールの女性の前に立った。

 彼女は先程取り外された人形の頭部から目を離せずに、ガタガタと震えている。

「んっ!?」

 なにやらツンと鼻につく匂いを感じパペット・マスターは視線を下げると、彼女の太腿には湯気が湧き上がり黄金色の液体が滴っていた。

「そうか・・・。先ほどの人形は元々貴方の大切な友人・・だった・・娘(こ)よね。貴方はあの娘を人形にするところから、こうして私の身体になるまでの一部始終を見ていたからね。それで恐怖しているのね?」

 そう言うとパペット・マスターは、その黄金色の液体を指先ですくい取り自身の口でしゃぶり始める。
 酸っぱいような、しょっぱいような味が口の中に広がる。

「お前の恐怖の味。とても可愛くていいわ! 特別にもっとも可愛らしい人形に変えてあ・げ・る!」


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 パペット・マスターはそう言うと、彼女の口に自分の口を覆い被せた。

 チュパッ・・チュパッ・・と口内で舌と舌が絡みあう。

「あ・・あ・・・っ・・」

 先ほどまでとは打って変わったように、青ざめていた彼女の顔色が薄桜色に変わっていった。

 更にパペット・マスターの両手は、彼女の胸や尻そして股間を弄り始める。

「あぁぁ・・ん・」

 焦点の定まらない瞳に甘い喘ぎ声・・・。
 完全に心も身体の自由も奪われ、為すがままにされていくチアガール。

 すると時を見計らったかのように、パペット・マスターは重ねた唇を大きく開き、まるで深呼吸でもするかのように大きく息を吸い込んだ。

 まるでバネ人形のように、ブルブル・・と小刻みに震えだすチアガール。

 次第に身体の動き自体がぎこちなくなり、更に柔らかそうな肌はプラスチックのように照り輝いていく。
 虚ろな瞳もまるで輝羅やかなビー玉のように変わって。

 数分後には、彼女は一体のマネキン人形と化していた。

 そう・・・。

 パペット・マスターは生きている人間の口からその魂を吸い込み、残った肉体を自由に人形に変えることができる。
 あのバレンティアの友人ルゥも、こうしてマネキン人形にされていたのだ。

「うふふ・・。いい出来だわ~、可愛い!」

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 それを間近で見ていた他のチアガールたち。 怯える彼女達に視線を移したその時・・・・

「パペット・マスター! さっきからアタクシの話・・・聞いているの!?」

 アンナ・フォンはパペット・マスターの肩をマント越しに掴み怒鳴りつけた。

「?」

 感情の欠片も無いビー玉のような瞳で睨み返すパペット・マスター。

「街中に放っている人形たちは、まだ天女の子の足取りと掴めないのか?・・って、聞いているのよ!」

「大凡の見当はついているわ・・・」

「なら何故すぐに捕らえに行かないの!?」

「探せ・・とは聞いていたが、捕らえてこい・・とまでは聞いていない」

「その位……言わなくてもわかるでしょ!? 馬鹿なの~っ、あなた!?」

 アンナ・フォンがそう言った瞬間・・!

 パペット・マスターの片腕がアンナ・フォンの首を掴み、そのまま吊るし上げた。

「貴女・・一つ大きな勘違いをしていない? 私もサンダーバードも。そしてここに居る誰もが、貴女ごときに命令される筋合いは無いのよ? 貴女の背中にマニトウスワイヤー様が『宿っている』から、協力してあげているだけ」

 そう言いながら首を掴む力を更に強める。

「二度とでかい口を叩いてみなさい。貴女の肉体を傷つけず、精神だけ殺す事も可能なのだからね?」

 パペット・マスターの言葉に涙目のアンナ・フォンは無言で何度も頷いた。

 その様子を面白そうに眺めていたドレイトン。

「まぁ、喧嘩はそこまでにして。その・・天女の子を捕らえにミーとエイダの二人で行ってきましょう」
 そう言って立ち上がり、美味そうに焼きたてのハンバーグを食しているクエロマスカラに声をかけた。

「エイダ、ちょっと仕事に行くよ。ついておいで・・・」

「・・・・」

 ドレイトンの言葉にクエロマスカラはしばらく名残惜しそうにハンバーグを眺めていたが、やがて決心したように立ち上がった。



「出来ましたわ!」


 ミシンの前で黙々と作業をしていた都は、嬉しそうに声をあげた。

 早速縫い終えた服を手に取ると、フェアウェイの元に駆け寄った。

「うん、予想通り可愛いですわ!」

 フェアウェイに服を着せてやりその姿を確かめて、都は満面の笑みを浮かべた。

「どれどれ・・・?」
 香苗と女将も寄ってきてその姿を眺める。

「あら・・、とてもお似合いね」

「たしかに可愛いね~~♪ でも・・・」

 香苗はそこまで言うと苦笑する。

「可愛いけど・・・。この真夏に、なんで『ポンチョ』なの?」

 都が作ったのは、身体をスッポリ包む可愛らしいポンチョであった。

「この子のネイティブ・アメリカンな雰囲気に、一番ピッタリ合うと思ったからですわ」

「ハハ・・、なるほどね・・・」

「それに・・・・」

「ん・・?」

 都は優しくフェアウェイの頭を撫でてやると、

「あの方がこの子を守るには、身を包んであげるものがいいと思うし・・」
 と、微笑んだ。

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 その時・・・!!


ガガガガガガッッッ!!


 激しいエンジン音が店内に響き渡ると、入り口の扉が大きく×印で切り裂かれていく。

 前に出て待ち構える女将。


ガーンッ!!


 激しく扉を蹴り破り、チェーンソーを手にしたクエロマスカラが入り込んできた。

「この店は幾重もの結界と迷路を組み合わせているから、簡単には辿りつけないはずなのに・・・」
 日頃冷静な女将も、さすがに驚きを隠せなかった。

「やはりここにいましたね・・・天女の子」

 クエロマスカラの背後から長身の年配男性ドレイトンが姿を見せる。

「お客様、ここは反物屋ですよ。 女の子を買いたいのなら色街へ行かれたほうがいいですわ」

「いやいや、我々は買い物に来たのではない。そこにいる天女の子を返して頂きたいだけだ」

「その子はうちの常連さんのお連れ様・・。見も知らぬ方にお渡しはできません。お引取りください」
 凛とした態度で一歩も引かない女将。

「ただでは帰れない・・・と言ったら?」

「その時は不本意ですが・・・・」
 そう言いながら両手を水平に広げると、

「強制退場していただきます!」

 クエロマスカラ、ドレイトンに向けて振りかざした。

 すると店中に展示されていた反物が一斉に宙に浮き、クエロマスカラ達に襲いかかる。
 反物に包まれるように動きを封じられる二人。

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「都さん、今のうちに裏口から!」

 女将の言葉に、都はフェアウェイと香苗を連れて裏口から飛び出した。

 まるでミイラのように、反物でグルグル巻になり拘束されたクエロマスカラとドレイトンの二人。

「このまま、絞め殺してやるわ・・・」
 更に力を込めるように反物を縛り上げていく女将。


グィィン~グィィィ~ン!!


 突然エンジン音が鳴り響くと、ズサッ!ズサッ!とクエロマスカラを包み込んでいた反物が切り刻まれていく。

「ま・・まさか、私の妖力を篭めた反物を・・・!?」

 自身を縛り付けていた反物を切り落とすと、ドレイトンを包んでいる反物も切り刻んでいくクエロマスカラ。

「なるほど……。 この国流で言う、付喪神系の妖怪ですか?」

 女将の正体をあっさり見破ったドレイトン。

「もう・・充分永く生きたでしょう。そろそろ、あの世に戻りなさい」

 その言葉と同時に、女将に向ってクエロマスカラが突進してきた。 クエロマスカラの激しい当りに、店の外まで吹き飛ばされる女将。
 たったの一撃だが、かなりのダメージを負ってしまった。

 更に手にしたチェーンソーを振り上げ女将に狙いを定める。

「くっ・・・」

 クエロマスカラがチェーンソーを振り下ろそうとした瞬間!

 その手に細い光る物が巻き付いた。

「都さんっ!?」

 女将の目に飛び込んできたのは、ビルの壁に這いながら糸を引っ張る都の姿。

「アレですか? 我々の邪魔をする蜘蛛の妖怪というのは・・・。エイダ、先にあの蜘蛛娘を捕らえて頂いちゃいなさい」

 ドレイトンはそう言ってニヤリと笑った。

「蜘蛛なんか食べても美味しくなさそう・・・」
 だが、当のクエロマスカラは渋々とした表情。

「あら!? 脂身ばかりのおデブさん体型の方に、そんな言われ方するとは心外ですわ!」

 負けずと言い返す都。

「デ・・デ・・デ・・デ・・、デブって、イウナ~~~~~っ!!」

 それまで無表情に近かったクエロマスカラに、明らかに怒りの色が見える。

「誤解ですわ! わたくし・・貴女がデブだなんて、一言も言っておりません。 デブの方が貴女の体型によく似てらっしゃると言っているだけですわ!」


「コ・・・コ・・・殺すっっっっ!!」


 沸騰したヤカンの様に、真っ赤になって怒り狂うクエロマスカラ。

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 腕に巻き付いた糸を、そのまま力任せに引き寄せる。

 都も成人男性を片腕で釣り上げる程の力を持っているが、こと・・相手が妖怪や化け物だと勝手が違う。
 都の力など魔物の世界ではまだ非力な方だ。

 簡単に引き寄せられ、路上に思いっきり叩きつけられてしまった。

「うぐっ・・・!」

 口から血が吹きこぼれる。いくら妖怪とはいえ相当なダメージだ。

 更にチェーンソーを振り回しながら駆け寄ってくるクエロマスカラ。

 都はよろめきながらも手短な建物に糸を貼り付けて、糸を手繰りながら移動して一旦その場から逃げ出した。

 頭に血の上ったクエロマスカラは、見境なく後を追っていく。

 都の逃げ込んだ場所は路地裏から出た大通り。 夜の十時を過ぎているとはいえ、さすがに商業都市である丘福市。 大通りでは、まだまだ多くのトラックや自動車が走っている。


シュッッッ!!


 追ってくるクエロマスカラの両手両足に糸を巻付けそのまま高く飛び上がり、建築中の十二階建てビル屋上に設置されているクレーンの先に糸を潜らせた。

 その後、すぐにトレーラー型の大型トラックの荷台にその糸を貼り付ける。

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 それは大型トラックの力を借りて、クエロマスカラを宙吊りにする作戦だ!

 さすがのクエロマスカラも500馬力程のパワーにいきなり引き寄せられたらどうにもならない。

 ピンと張った糸は一気にクレーンを伝ってクエロマスカラの身体を引き上げ、屋上近くに宙吊りにした。

 それを見届けると、都はトラックに繋がっていた糸を一気に切り裂く。
 十二階建ての高さからクエロマスカラは真っ逆さまに落ちていった。


ズシィィィ―ン!!


 粉塵と化したアスファルトが舞い、激しい振動が響き渡る。

 クレーターのように陥没した路上の真ん中で、倒潰したクエロマスカラが沈黙していた。

「やれやれ・・。しばらくは肉まんを食べる気も失せますわね」

 勝利を確信した都は小さな溜息をつき、その場を離れようとした。


 その時・・・

「!?」


 都の身体が急にふわりと浮き上がり、そのまま逆さ吊りとなった。

「ま・・まさか・・・、たしかに殺したはず・・なのに!?」

 都の目に映ったのは逆立ちしたクエロマスカラ。いや、都が逆さまに釣り上げられているので、両手を真上に上げ仁王立ちしたクエロマスカラだ。

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「グフゥゥゥゥッ・・・・」


 大きく荒い息を継ぎながらクエロマスカラはそのまま都を振り上げ、勢いをつけて路面に叩きつける!!

「ゲボッ!!」

 激しく吐血する都。

ガンッ!! ガンッ!! と、二度・・三度、路上に都を叩きつけた。

 クエロマスカラは、まるでボロ雑巾のようにズタズタとなり失神した都の身体を確認すると、クン・・クン・・クン・・・と匂いを嗅ぎ、

「やっぱり、旨ぐなさそうだ・・・」

 とその場に放り捨てた。


「蜘蛛のお姉ちゃん・・!!?」

 路地裏から都の敗北を目のあたりにしたフェアウェイと香苗。

「お姉ちゃん、死んじゃいや~ぁ!!」

「ダメだ、逃げるんだ!!」

 都の元へ駆け寄ろうとするフェアウェイを必死で制止する香苗。

 その背後から・・・

「見つけましたよ♪」

 香苗が振り返ると、そこには長身の年配男性の姿が。 ドレイトンは嬉しそうにフェアウェイに手を伸ばす。

「この子に触るなぁぁっ!!」

 香苗が懸命に対抗するが、ヌイグルミであるこの姿では当然勝ち目がない。 簡単に放り投げられ、壁に叩きつけられた。

「フェ・・ア・・・ウェイ・・」

 気絶寸前の香苗の目に入ったのは、クエロマスカラに抱え上げられるフェアウェイの姿であった。



第八章 丘福ドームスタジアムへ続く。
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| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 19:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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マニトウスワイヤー 第八章 丘福ドームスタジアム

「てんこぶ姫・・・。あの天女の子を無事に送り届けることができたかな・・・?」

 ベッドの中でうっすらと目を開け、凛が独り言のように呟いた。

「凛っ! 気がついたっちゃね!?」

ギュゥゥゥゥゥッ!!

 千佳が抱きしめ、スリスリと頬擦りをし始める。

「千佳、ウザイっ! 離れてっ!!」

 凛は力いっぱい千佳を押し返した。 シクシクと涙する千佳。

「あっ!? 雷撃で受けた傷が殆ど回復している・・?」

「ワタクシが治癒の術を施したから。まだ若干のダメージは残っているかもしれないけど、とりあえず動けるようになったはず」

 浄化だけでなく、治癒系の術も使える青い妖魔狩人。
 凛は深々と頭を下げた。

「で、凛ちゃん。その・・てんこぶ姫というのは?」
 優里が再び話を戻す。



 凛は都と出会った事・・。そしてサンダーバードとの戦いまで、その経緯を話した。



「まだ、天女の子が無事に送り届けられたという情報は入っていない。この丘福市の何処かで上手く逃げ延びていてくれればいいが・・・」

 青い妖魔狩人は部屋の窓から夜の街並みを眺めながら呟いていると

「ちょっといいですか?」

 祢々が話しかけてきた。

 青い妖魔狩人の耳元で、二言・・三言話す祢々。
 そのうち青い妖魔狩人の目つきが険しくなっていった。

 振り向きざま凛や優里、千佳、金鵄を見渡すと

「最悪の情報が入った。 天女の子がエノルメミエドの手の者に拉致されたらしい」
 と語った。

 場の空気が一気に冷える。

「詳しい事情を知っている者がここに到着する。話はそれからだ」



 十数分後、凛や青い妖魔狩人の前に現れたのは七~八歳くらいの少年。

 それは子どもの姿をした妖怪『セコ』。

 普段、柚子村で凛たちのために情報収拾の役割をこなしている。

 そしてそのセコが抱きかかえている物は・・・

「あなたは、てんこぶ姫たちと一緒にいた・・!?」

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 予想外の再会に目を丸くする凛と金鵄。

「あたしの名は伊達香苗。なんつーか・・・こんな形(なり)だけど、元は人間の付喪神妖怪・・? っていうものらしい」

 香苗はそう言うとピョコっと頭を下げた。

「一時間程前、河端町の一角で人間離れした者同士の争いがあったと連絡があったの。手下に様子を見に行かせたら、荒れ果てた街の中にこの妖気を持ったヌイグルミが落ちていたそうよ」
 祢々は簡単に経緯を話した。

 香苗はピョコンと床に降りると凛の足元に歩み寄り

「貴方……、蜘蛛女と戦った妖魔狩人だよね?」

「えっ!? ええ・・そうですけど・・・?」

 香苗はそこまで言うと床に両手をつき額が擦れそうなくらい頭を下げ、すなわち深々と土下座をした。

「アイツの事は大っ嫌いだけど、今回だけは別・・・。 お願い! あの蜘蛛女を助けてやって・・・!」

 そのただならぬ決意に、凛たちは驚きを隠せなかった。

「いったい何があったの?」

 温和で軟らかい口調の優里が話しかけた。

 すると香苗は呆然とした顔で優里の顔を見つめ、

「アンタも・・・妖魔狩人だったんだ?」

 と小さく呟いた。


「えっ!?」


「い・・いや、こっちの事・・・。 それより・・えっと・・・。

 そうそう、奴ら・・マニトウスワイヤーって奴らがあたし達に襲いかかってきたんだ。 蜘蛛女はフェアウェイを守るために戦ったけど負けてしまって・・・。 あたしも蜘蛛女もさっきまで気を失っていたんだけど・・・・」

 ここまで言うと香苗の肩がワナワナと震えだした。

「アイツ、たった一人でフェアウェイを助けに行ったんだ!! ボロボロの身体のくせして・・!!」

「でもっ・・ちゃ・・・」
 今まで黙っていた千佳が問いかけた。

「その蜘蛛女・・。都市伝説では人を食べるような極悪な妖怪っちゃろ? そんなヤツが人間のために、そこまでするっちゃか!?」

 千佳の問いに香苗はしばらく黙っていたが

「アイツと一緒に過ごした時間はそれほど長くはないんだけど。たしかにあんたの言う通り、アイツは人を殺してその肉を喰う・・・。
 今回もフェアウェイと一緒にいたバレンティアっていう女性を食べた・・・」

 その言葉に凛も千佳も表情を曇らせる。

「でも・・その時バレンティアさんは瀕死の重症で、とても延命できる状態では無かった。
 そして食べた後にアイツ・・こう言ったんだ・・・・」

 この時ヌイグルミであるはずの香苗の目に、涙が溜まっていることに皆が気づいていた。

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「『貴方の意志とその想いは、差し出したその身と共にわたくしが全て引き継ぎました。 姫の冠にかけてこの生命に変えても、この子は無事に守りぬく事を約束しますわ』 ・・と」



 この場にいた誰もが言葉を失った。

「アイツは復讐代行なんて事を口実に気まぐれで人を殺したり食べたりもする最悪なヤツだけど・・・。でも・・約束だけは破ったことが無い」

 シンと鎮まり返った空気の中、凛がそっと口を開いた。


「てんこぶ姫を助けましょう!」

 その言葉に優里も千佳も黙って頷いた。

「ちょっと待ちなさい!」

 凛とした言葉が場の空気を遮った。

 その言葉を発したのは青い妖魔狩人・・・・。

「天女の子を手に入れた今、奴らはエノルメミエドの転生儀式をすぐにでも始めるはずだ。 かなりの魔力を使う為、早急に終わるような儀式では無いにしろ、おそらく明朝までには儀式は終えエノルメミエドが復活するだろう。 ・・となれば勝負は明朝まで。 もし復活を阻止できなければ我々に勝機は無い」

 緊迫した空気が辺りを包む。

「伊達香苗と言ったわね? 貴方、てんこぶ姫が何処へ向ったかわかる?」

「い・・いや・・・。アイツ、フェアウェイの匂いを辿っていくとか言って・・・」

 香苗の言葉に青い妖魔狩人は眉を潜めた。

「相当な魔力を使う儀式・・・、おそらく地の利の有効な場所で行うはず・・・。一体何処・・?」

「全員で手分けして探すしか・・ないっちゃないの?」

「それでは戦いになった時、圧倒的に不利・・・」

「みんな丘福市の地図よ!」

 祢々はそう言って市内地図をテーブルに広げた。


「魔力を上げるのに有効な地の利の条件と言うのは?」

 凛が金鵄に尋ねる。

「うん・・色々あるけど、古くから魔の儀式が行われていた場所とか・・・。もしくは魔力を上げる、六芒星の形を司る場所とか・・・だね。」


「六芒星・・・?」


 金鵄の助言を参考に目を皿のようにして地図を探る。

「これは・・・?」
 優里がある一箇所を指さした。

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「丘福ドームスタジアム・・!? それって神田川ボークスっていう、プロ野球チームのホームグラウンドじゃないっちゃか?」

「その辺は詳しく知らないけど。でも・・この形、殆ど六角形でしょう?」

「なるほど六芒星に当てはまる・・・。たしかにその可能性は高い」
 青い妖魔狩人も頷く。

「今日、そこではナイター試合が行われているはず」

「儀式で必要な生贄も充分事足りるわね」

「行きましょうドームスタジアムへ!!」
 凛がスクっと立ち上がった。










 地下鉄『東陣町』駅。

 神田川県が誇る施設の一つ、丘福ドームスタジアムの最寄りの駅である。


 地下鉄が急遽運行停止となっていたため、青い妖魔狩人の用意した車で到着した一行。

 もっとも一般公道も所々閉鎖されており、近辺に車両を停めて、警察等の目を掻い潜ってやっと辿り着いたのだが。
 駅に着いて、その原因がよくわかった。

 そこにはおびただしい数の負傷者や、死体が横たわっている。

 現場に駆けつけたであろう警官たちの姿もそこにあった。

 今現在、この地で二本の足で立って歩いているのは、パペット・マスターが操るマネキン人形化した者と、そしてこの地に憑依していたであろう霊魂や精霊が実体化した姿。

 おそらくこの者たちが、ここに倒れている人間たちを襲ったのであろう。

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「てんこぶ姫は、辿り着いているの?」

 凛は真っ先に都の姿を見つけようと、辺りを見回した。

「凛、先の方で何者かが戦っている気配がする!」

 上空から見渡す金鵄が、ドームスタジアムへ続く一本の道の先を見てそう叫んだ。

「先へ進もう!」



 凛たちはドームスタジアムを目指し、まっすぐ突き進んだ。

 途中十数体のマネキン人形たちが襲いかかってくるが、凛・優里・千佳・青い妖魔狩人・祢々。
 彼女たちは何度も妖怪と戦い続けた強者。

 次々と撃破し、さらに凛の浄化の矢や青い妖魔狩人の浄化の術で、マネキン人形を元の人間に戻していった。

「す・・凄いっ! これが・・妖魔狩人の実力なんだ・・・!?」

 金鵄にぶら下り上空から戦いを眺めていた香苗は、初めて見る妖魔狩人たちの戦いに驚きを隠せなかった。


「あそこだ!?」

 金鵄の声で辿り着いたその場所はドームスタジアム正面にある大階段。

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 そこへ続く大歩道の脇にある野外イベント用の敷地。

 凛たちの目に入ったのは、全身傷だらけで倒れ伏せている都とその前で佇むサンダーバードの姿。

「てんこぶ姫っ・・!?」

 すぐさま都の下へ駆けつける凛。

「あら・・、こんな場所でまた会うなんて・・。 野球観戦なら・・向こうの建物ですわよ・・・」

 軽口は叩いているものの、文字通り虫の息である。

「馬鹿なこと言っていないでっ!! 青い妖魔狩人さん・・・!」
 凛はそう言うと青い妖魔狩人を呼び寄せた。

「青い妖魔狩人さん。あなたの治癒の術でてんこぶ姫を回復させてください!」

 凛の言葉に青い妖魔狩人はチラリと都に目を向けたが、静かに首を横に振った。

「ワタクシにとって妖怪は敵。その敵の治癒なんてできないわね」

「今・・てんこぶ姫は天女の子を救い出すという共通の目的を持った、いわば仲間です! 治癒をお願いします!」

「できない」
 青い妖魔狩人はキッパリと答える。

 それを聞いていた優里、

「貴方と一緒に行動を共にしている祢々さん。彼女も妖怪ですよね?」
 と問い返した。

「祢々の一族は遥か昔からワタクシに仕えてきた。妖怪とはいえ信頼できる」

「なら、全ての妖怪が敵という考えは早計ではありませんか?」

「・・・・・・・」

「今回だけ目を瞑ることはできませんか?」
 珍しく食い下がる優里。

「わかった・・・」

 青い妖魔狩人は小さくため息をつくと、両手を高々と掲げる。
 水流の輪を作り静かに都の下に引き下ろすと、それは無数の水泡となって都を包み込んだ。

 凛自身も、そして以前も優里や千佳に行ったことのある、青い妖魔狩人の治癒の術。

「ありがとうございます・・・」
 凛は青い妖魔狩人に頭を下げた。




第九章 妖魔狩人VS闇の精霊へ続く。
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マニトウスワイヤー 第九章 妖魔狩人VS闇の精霊

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「ところで、あのケッタイな羽の生えた三つ首女は何だっちゃ!?」
 千佳がサンダーバードを睨みながら金鵄に尋ねた。

「気をつけるんだ! アイツが凛を倒したんだ・・・」

「あ!?」

 千佳のコメカミに血管が二~三本クッキリと浮き上がった。

「アイツが凛をあそこまでボロボロにした奴っちゃか?」

 見る見るうちに千佳の髪が真っ赤に逆立ち、右手は一回り二回り大きくなり灼熱の爪がモウモウと湯気を立ち上げる。

「だったら丁寧にお返ししてやらなくっちゃね!!」

 そう言った瞬間、まるで野生の獣のように一足飛びでサンダーバードの眼前まで飛び込んだ!

 だが、サンダーバードは慌てることなく指先を千佳へ向ける。
 同時に上空から激しい雷鳴とともに、雷撃が千佳に襲いかかった。


バリッ!バリッ!バリッ!・・・


 その衝撃の強さを物語るように千佳の身体は十数メートル吹き飛び、駐車してあった乗用車に頭から突っ込んでいった。

「千佳っ!?」
 凛が慌てて駆け寄る。

「くらえ~~~っ!!」
 その間、禰々子河童の祢々が金棒を振り上げサンダーバードに襲いかかる。

 だが、それも左手一本で軽々と止めてしまった。

 いや左手で止めたのでなく、左手と金棒の間に激しい電流の流れが見える。
 そう、サンダーバードは電流のバリアで攻撃を封じたのだ。

 そのまま電気の流れを強めると電磁石となり、金棒を持った祢々も軽々と吹き飛んでいった。

「なんて・・強さなの?」
 冷静に戦況を見つめていた優里は、改めてサンダーバードの恐ろしさを実感する。

「この・・クソ野郎っ・・・!!」
 崩れた乗用車の扉から全身傷だらけとなった千佳が這い出てきた。

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「千佳・・、大丈夫・・・?」

「これがアイツの雷撃ってヤツっちゃか!? こんな痛いの・・凛は何発も受けたっちゃね?」

 千佳の着用している戦闘用の服も火鼠の皮から作られているためある程度の高熱にも耐えることはできるが、それでも千佳の全身に火傷の跡が見える。

「凛が受けた痛み・・・。ウチが何倍にして返してやるっちゃっよ!!」
 自身の痛みより凛の受けた屈辱ばかり気にする。それが千佳という少女。

「完全ではないが、動けるところまで治癒は終わった」

 丁度・・都の治癒も終り、青い妖魔狩人の言葉に合わせて都も立ち上がる。

「どういうつもりか解りませんが、今回は素直に礼を申し上げておきますわ」
 都はそう言って青い妖魔狩人に頭を下げた。

「このまま引き下がれるか!?」
 祢々も立ち上がり、再びサンダーバードを睨みつける。


「四人の妖魔狩人に、蜘蛛女・・、そして河童の女性・・・。このメンバーで一斉にかかれば、あのトーテムポールを倒せるかも・・・」

 上空で金鵄に摘み上げられた状態で様子をみていた香苗は、期待に胸を膨らませた。



「いえ、全員でかかるわけには行かないわね」


 そんな香苗の言葉に反するかのように、優里が一歩前に出た。


「優里お姉さん・・・・?」

「金鵄さんからこの敵の事は聞きました。相手は北米最強の精霊。簡単には行かないでしょうが、全員でかかればなんとか倒すことも可能かもしれません」

「なら、問題ないっちゃないの!?」
 千佳の言葉に首を振ると、

「問題は時間です。ここに到着してからもう40分以上が過ぎ、天女の子が拐われた時間も考慮すれば、これ以上の時間ロスは許されません!」

「一体何が言いたい?」

 青い妖魔狩人の問いに優里は皆を見回すと、

「私一人で相手をします。皆さんは先を急いでください!」
 と答え、薙刀を構えサンダーバードを見据えた。

「優里お姉さん無理です・・! みんなで戦ったほうが!?」

 さすがの凛も簡単には同意できない。

「凛ちゃん。私達が優先することは敵を全滅させる事ではなく、天女の子を救い出しマニトウスワイヤーの転生を阻止すること。
 だから、私はあの精霊を倒せなくてもいいの。みんなが先へ進む時間を稼げれば・・・!」

 優里の言葉に誰も言い返す事はできなかった。

「たしかに高嶺優里の言う通りだ。ワタクシ達は先へ進んだ方がいい」
 青い妖魔狩人は大きく頷くと、祢々を連れて真っ先に群を飛び出していった。

「そいつには借りがあるのですが、今はフェアウェイの連れ戻すことが先決!」
 都も気持ちを切り替え、その後に続く。

 そして・・・

「凛、ウチたちも行くっちゃっ!」
 千佳が凛を催促する。

 だが凛は、まだ不安そうな表情でその場をジッとして動かない。

 そんな凛に対し優里はこう告げた。

「凛ちゃんは私のことを信用している?」

「えっ・・? 優里お姉さんのことを・・・・?」

「そう。私のこと・・・」

 凛は少しうつむき加減で言葉を選ぶように考えていたが・・・

「信じています! 優里お姉さんの人柄も、優しさも・・・。そして強さも!」

「すごくいい答えだわ!」
 優里はそう言ってニッコリと微笑んだ。

「だったら、この場も私を信じて!」

「・・・・・・!?」

「私は絶対に死なないわよ!」

 いつも以上の優里の優しい微笑みに、凛はまるで一目惚れした男子のように釘付けになったが、やがて我に返ると、

「はいっ!!」

 と、慢心の笑みで返事を返した。

 そして何事も無かったかのようにその場を駆け出し

「千佳、早く行くよっ!!」
 と逆に催促した。

「う・・・うん・・!?」
 慌てて後を追う千佳。そんな千佳に、

「千佳さん!」

 と、優里が声を掛けた。

 足を止め振り返る千佳。


「凛ちゃんのこと・・・、任せたわよ!」

「!?」


 予想もしない言葉に千佳は一瞬我を見失ったが、

「ああ・・、任せるっちゃ! 次に化け物が現れたらウチが相手をする!!」
 と、いつものイタズラっ子のような不敵な笑みで返事を返した。

 その返答に優里は満足そうな笑みを浮かべると、薙刀を構えサンダーバードを睨みつけた。


 ― 高嶺さん、また後で必ず会うっちゃよ! ―


 千佳はそう呟くと速攻で凛の後を追っていった。

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「別レワ、済ンダカ?」

 今まで傍観していたサンダーバードが待ちわびたように声をかけた。

「別れ・・・? あの子たちとはまた後で会います。だから別れの挨拶など不要です」

 「ホゥ・・!? ソレワ、ワタシ二勝ツ自信ガアル。ト・・イウコトカ? ソレトモ・・・?」

「できるなら戦いは好みません。 ですが、それが避けられないというのであれば、戦ってみればわかること!」

「フン、期待シテイルゾ!」

 そう言ってサンダーバードは右腕を高々と上げた。

 轟く雷雲・・・。

 それを見た優里の脳裏に浮かぶ、その雷撃の破壊力・・・。 先の戦いで敗北した凛・・・。 到着時に倒れ伏せていたてんこぶ姫の姿。 つい今しがた・・・吹き飛ばされた千佳。

 それらを見れば、どれほど恐ろしい攻撃力かがわかる。

 だが、たしかにその破壊力は凄まじいが、先ほどの千佳と祢々による攻撃を見て気づいた事が一つある。

 優里は、再度それを頭の中で整理するように一呼吸つく。
 そして薙刀を握りしめ、サンダーバードに向かって一気に駈け出した!

 向かってくる優里に対しサンダーバードは指先を向けた。
 激しい稲光と共に雷撃が優里を襲う!

 その瞬間優里は手にしていた物を、空中高く放り投げた。

 それは先程千佳が吹き飛ばされ突っ込み、崩れた自動車の扉の一部。


バリッ! バリッ! バリッ!


 サンダーバードの放った雷撃は優里ではなく、放り投げた金属の扉に直撃した!

「!?」

 サンダーバードが虚を突いたその瞬間に一気に間合いを詰める優里!

― 雷撃による短時間内の連続攻撃は不能!―

 それが優里の出した攻撃の糸口。

 サンダーバードはすぐに冷静さを取り戻し、電流による電磁石バリアを張って防御に入る。

 だが優里は薙刀を逆手に持つと、柄の端・・すなわち石突を突き立て一気に貫いた!


ズボッ!!


 優里が放った薙刀の石突は電磁石の網をいとも簡単に突き抜け、サンダーバードの鳩尾辺りに食い込んでいる。
 一見無表情なサンダーバードだが、微かに眉間にシワが寄る。

「私の薙刀は今は亡き麒麟の角から作られています。このセラミックに近い物質の柄は、いかなる電流も磁石も通じません」
 そう言って優里は手応えのあった柄をゆっくりと引き抜く。

 自身の鳩尾に手を当て優里を睨みつけるサンダーバードだが・・・

「ククク・・・・・」

 小さく、それでいて高いトーンで笑い出した。

「ナルホド。コノ小サナ島国ニワ、『侍』ト呼バレル戦士ガイルト聞イテイタ。ドウヤラ貴様ワ女デワアルガ、ソノ侍ト呼バレル戦士ノヨウダナ」

 サンダーバードは背中の翼を羽ばたかせると、優里との間合いを再び十数メートル開けた。
 そして、またも天高く右腕を上げ雷雲を轟かせる。

「また、雷撃・・・?」
 優里がそう思った瞬間!

 振り下ろした右腕と共に、激しい稲光が『サンダーバード』の身体を覆いこんだ!?

「な・・なにっ・・!?」

 自らに雷撃を食らわせたサンダーバード。
 青白い火花を散らしながら仁王立ちしたその姿は、不気味な微笑みをはなっている。

「相手ガ侍ガールナラ、コノワタシモ『サンダーバード(雷鳥)』ノ名ガ、伊達デナイ事ヲ見セテヤロウ」

 そう言って指先を優里に向けた。

 ピカッ!!っと、目がくらむような光を放った瞬間、鋭い突き刺すような痛みが優里の身体を貫いた。

「ああっ!!?」

 更に間を開けず立て続けに光が放たれる。
 二撃、三撃・・・と、次々に鋭い痛みが襲いかかってくる。

 たまらず膝をつく優里。

「まさか・・・。雷撃のエネルギーを自分の身体に蓄電し、それをレーザーのように撃ち放っているというの・・・?」

「ソノ通リ。雷ヲ自由自在二使イコナス。ダカラコソ・・・サンダーバードト呼バレル所以ダ」

 一撃一撃の威力は天空からの雷撃より若干落ちるが、間を開けず放ってくるためまるでかわしようが無い。
 次々に放たれる光電により、ついに優里はその場に倒れた。

― 速い・・・。落雷と違って・・攻撃が速すぎる・・。レーザー・・、まさしく光のように・・・。―

 そこまで思った瞬間、何かが引っかかった。

―光・・・? いや・・・違う。この突き刺すような痛みはまさに感電によるもの・・・。光線攻撃に似ているけど、これは紛れも無く電撃攻撃・・・!―

 そう呟き辺りを見渡す。

 そして優里の目に止まったのは、その付近に設置されている数々の照明や配線機器。

「これなら・・・!」















 その頃、ドームスタジアムに辿り着いた一行。

 正面ゲート(入口)をくぐり抜けると、そこはグッズショップやファーストフード、ドリンクコーナーなどが並ぶ、娯楽施設であった。

 通路を駆け抜ける一行の目に入るのは、マニトウスワイヤー一味に襲われたとみられる数多くの犠牲者たちの姿。

「野球観戦を楽しみに来たはずなのに・・・」
 凛の心は切り裂かれるような痛みが走る。

「むっ!?」

 先頭を走っていた青い妖魔狩人が、ピタリと足を止めた。

 見ると通路の先に一人の長身の男が立ちふさがっている。

「ほほーぅ。 人形たちから侵入者があったと知らせがありましたが、貴方達の事ですか?」
 長身の男・・・ドレイトンは、肉の塊のような物を頬張りながら不敵な笑みを浮かべた。


ガシャーンっ!!


 更に通路脇のファミレスの窓を突き破り、丸々とした物体も姿を現す。

 鳴り響くエンジン音・・・。 パンパンと弾けそうなデニム生地のオーバーオール。 不気味な皮で作られた面・・・。

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 その姿を見て真っ先に反応したのは都。

「あら!? お久しぶりですわ、おデブさん体型の方・・・♪」
 ・・・と、チェーンソーを片手に現れたクエロマスカラを見て挑発する。


「デ・・デブ・・・、デブって言うなぁ・・・・!!」


 マスク越しでわからぬが、きっとその下は顔中血管が浮きまくっている事だろう。

 そんなクエロマスカラを宥めるように押さえ込むドレイトン。

「先程の蜘蛛女さんですな。エイダから完全に殺したと聞いていたのですが、なかなかどうしてしぶとい方ですね」

「ふん! またお会いできるなんて光栄の至りですわ。ちなみにわたくしが今、何を考えているか当然おわかりですわよね?」

 そう言う都の瞳は鮮血のように赤く輝き・・・
「貴方たちをぶち殺して、先程の借りを返して差し上げますわ!!」

 言葉が終わらぬうちにドレイトンたちに飛び掛った。

 ドレイトンの前に立ち、チェーンソーを振り上げるクエロマスカラ。

 だが・・・。


「ちょっと、待つっちゃあ!!」

 横から一陣の風のように、都に飛びかかった人物がいた。

 激しく転げまわる二人。

 都に飛び掛った人物。それはなんと千佳であった。

「な・・何をするんですのっ!?」

「それは、ウチのセリフっちゃっ!! アンタこそ、なにしとるん!?」

「わたくしはこの者たちへ復讐、リベンジをするところですわ!」

「今、そないな事しとる場合っちゃっろ!?」

「えっ!?」

 千佳は大きく息を吸い込むと・・・


「アンタが今せないかん事は、フェアウェイっていう子どもを助けることじゃ・・ないっちゃね!?」

 と一気に怒鳴り上げた。


「あ・・・・・」


 我に返ったように言葉に詰まる都。

「こいつらの相手はウチがする! アンタは凛たちと先へ進むっちゃよ!」

「ほぅ・・!? この中で一番バカな斉藤千佳にしては、賢明な判断だ」
 まるでアラスカの白い大地で二足歩行をするアフリカ象を見つけたような。そんなあり得もしない物を見たかのように、青い妖魔狩人は驚嘆していた。

「てめぇ・・・、後から絶対コロス!」

「千佳・・・あなた?」
 さすがの凛も心配そうに駆け寄った。

「心配ないっちゃ。こいつらをチョチョ~ンとぶっ倒して、すぐに後を追うっちゃよ!」

「で・・でも・・・?」

「それに・・・」

「・・・?」

「高嶺さんと約束したっちゃ。 次に化け物が出たらウチが相手をするって」

「優里お姉さんと・・・・?」

「ウチは絶対に負けへん! だから安心して先に行くっちゃよ!」
 千佳はそう言って、最高の笑みを浮かべた。


 絶対に負けない!


 以前にも千佳が放った言葉だ。

 そしてその言葉の通り、その時も千佳は無事に戻ってきてくれた。

 千佳の態度に少し驚きを隠せない凛だったが、

「わかった。ここは千佳に任せる!」
 と、お返しとばかりに最高の笑みを浮かべた。

「やば・・・っ、やっぱ可愛い・・・」

「えっ!?」

「い・・いや、何でもない。さっさと行くっちゃっよ!」

「うん!」
 千佳に後押しされ凛は都の元へ行くと

「ここは千佳に任せて先へ急ぎましょう!」
 と声を掛けた。

「しかたありません・・・」

 都はそう溜息をつくと、

「そこの半妖、ここは貴方に譲ります。しっかり役目を果たしなさいな」
 と悪し様に言い放つ。

「あ!? あんだ、その態度は・・・?」

 そう返す千佳をなぜかじっと見つめる都。そして・・・


「ありがとう・・・・」


 ポツリと呟くと、脱兎のごとく駆け出していった。

 そんな都に続けとばかりに青い妖魔狩人、祢々、そして凛が後を追う。


「ありがとう・・・? あの蜘蛛女が・・?」
 千佳はそう呟くと、口元が自然に緩んだ。

「さて、化け物退治を始めるやん!!」
 そして赤々と熱気を放つ右腕を、大きく振り上げた。




第十章 妖魔狩人たちの苦戦へ続く。
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| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 18:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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マニトウスワイヤー 第十章 妖魔狩人たちの苦戦

「しかし今更ながら、高嶺優里と斉藤千佳の二人だけを残し、先へ進んで大丈夫なのでしょうか?」
 銀髪長身、禰々子河童一族の二代目である祢々は心配そうに漏らした。

「大丈夫。あの二人は凛が信用している強い仲間。それに、セコに様子を見てもらっている。いざとなったらすぐに連絡してくれるはずだ」
 凛の頭上を飛びながら一緒について来る金鵄は自信を持って答えた。

「仮にあの二人が倒れても、ワタクシ達がエノルメミエドの復活を阻止すればいいだけの事。余計な心配は無用」
 先頭を走る青い妖魔狩人も坦々と返した。

 グランドへ向かう通路に入ると、そこはもう外野席に繋がっていた。

 外野席に足を踏み入れグランド内を眺める。
 ピッチャーマウンド辺りに二つの人影があった。


「フェアウェイっ!!?」

 思わず都が叫び声を上げた。


 そこには仰向けに寝かされているフェアウェイの姿と、アンナ・フォンの姿が。

 それを見て駆け出そうとする一行に、

「おやおや。ここから先は、部外者は立ち入り禁止ですよ!」
 と、外野席に腰掛けている一つの影が囁いた。

 それは、頭までスッポリとマントで覆い隠した黒い影。
 そう・・言わずと知れた、パペット・マスター!

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 ゆらりと陽炎のように立ち上がると、同時に数十のマネキン人形が凛たち一行を包囲した。
 子どもから主婦……会社員まで。

 そして、あのチアガールたちの姿も見える。

 おそらく、この球場に来た人々全てをマネキンに変えているのだろう。

「この人たちを元に戻して!!」

 これにはさすがの凛も憤りを隠せなかった。

「人形は私の大事なコレクション。 『戻して』と言われて『ハイそうですか!』と、すんなり戻す気はないわ」
 パペット・マスターはそう言ってニヤリと笑う。

「どうしても元に戻したいのなら、私の息の根を止めることね。そうすれば私からの魔力供給が無くなり、こいつらは人間に戻るわ」

「なるほど、お前を殺せばいいだけの事か。簡単な事だな」
 そう言って青い妖魔狩人と祢々が一歩前に出た。

「青い妖魔狩人さん!?」

「先へ急げ若三毛凛。見境無く命を大切に考えるお前では、たとえ化け物相手でも簡単には殺す気にはなれないだろう?」
 青い妖魔狩人の予想外の言葉に凛は言葉を失った。

「わたくしは敵の命などなんとも思っておりませんが、そんな人形の出来損ないより、今はフェアウェイの方が先決! 先へ進ませていただきますわよ」
 都は何のためらいもなく手の平から糸を噴出し天井にある照明に貼り付け飛び上がると、マネキン人形たちを一気に飛び越え、グラウンド内に降り立った。

 そんな都を横目に青い妖魔狩人は話を続ける。

「そして儀式を妨害し、エノルメミエドの復活を阻止するのだ。それくらいならお前でもできるだろう?」

「ハイ、必ず復活を止めてみせます!」

 凛は大きく頷くと座席に飛び乗り、強化された跳躍力でマネキン人形たちを飛び越えていく。

「頼む、若三毛凛・・・」

 凛の後姿を見送りながらそう呟くと、パペット・マスターと対峙した。

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 その頃、クエロマスカラたちと戦う為にショッピング通路に残った千佳。

 妖怪火山猫と融合し、半妖となった彼女の得意な戦法は一言で言えば『狩り』。

 今、千佳はファミレス店内に侵入し、テーブルや椅子を森の草木に見立て気配を消している。
 更にクエロマスカラが手にしているチェーンソーの大きなエンジン音が、逆に・・その効果を高めていた。
 気配を完全に消し静かに近寄り間合いに入ると・・・・。

 一気に飛び掛り、その右腕の鋭い灼熱の爪で喉元を切り裂くっ!!


ザクッッッ!!


「うぎゃあああああっ!!」


 断末魔の叫びを上げ、血飛沫を撒き散らしながらクエロマスカラの大きな身体は、地響きを立てその場に沈んだ!

「よしっ! ちょろいもんやね!!」
 ドヤ顔で倒れた『死体』を見下ろす。

「さて、あとはあのオッサンやけど・・・・?」
 そう言って店内を見渡すと、ドレイトンは厨房のコンロでハンバーグを焼いていた。

「なんだっちゃ、あのオッサンは!?」
 思いもよらないその姿に大きな溜息をつくと。
「ま・・・あんなオッサンなら無理して倒す必要はねぇっちゃね!」
 と、その場を後にしようとした。


 その背後に、チェーンソーを振り上げた大きな身体が立ち上がっている事も気づかずに。









バリッ・・! バリッ・・! バリッ・・!


 眩い光と音が響き渡る。

 巨大な雷撃のエネルギーを自らの身体に蓄積し、それをレーザーのように凝縮し連続攻撃を繰り返すサンダーバード。
 だが、その攻撃は全て優里の薙刀に防がれていた。

 いくらレーザーのような攻撃であっても、その根本は電流であると見抜いた優里は、野外イベント用の照明機器に繋がっている配線。すなわち『銅線』を薙刀に巻き、片方を金属製の電柱に結びつけアースにし電気伝導線を作り上げたのだ。
 これにより、薙刀で受けた電撃は銅線を伝わって電柱へ流れていく。

「電線に止まっているスズメが感電しない理屈ね」

 幾重もの攻撃を防がれ、さすがのサンダーバードも困惑の色が見え始める。

「ナルホド。オマエワ雷・・・。イヤ、電撃ニツイテ、アル程度ノ知識ヲ持ッテイルヨウダ」
 攻撃を止め、サンダーバードは優里に話しかけた。

「ダガ見タトコロ、ソノ仕組ワ、攻撃ヲ防グ事ワ出来テモ、自分カラ攻撃ヲ仕掛ケル事ワ、出来ナイヨウニ見エル」

「・・・!」

「ズット、タダ攻撃ヲ、防ギ続ケル”ダケ”ノツモリナノカ?」
 サンダーバードの予期しない問いに、優里は少し躊躇いを見せたが

「ええ。私がここに残った一番の目的は貴女を倒すことでなく・・・、仲間がマニトウスワイヤーの復活を阻止する時間を稼ぐこと」
 そう言い返した。

 その返事にしばらく沈黙を守ったサンダーバードだが


「ツマラン!!」


 そうキッパリと吐き捨てた。

「ワタシガ、ナゼ貴様一人ヲ、ココニ残ス事ヲ許シタト思ウ?」

「?」

「ワタシワ空ヲ飛ブ事ガデキル。ソノ気二ナレバ、スグ二貴様ノ仲間ノ後ヲ、追ウ事モ出来タ。ダガ、ソレヲシナカッタノワ、貴様ガ『一番強ソウ』ダッタカラ」

「!?」

「貴様トノ、一対一ノ戦イノ方ガ、面白ソウダッタカラ。ダカラ・・アエテ残ッタノダ」

 思わぬサンダーバードの言葉に優里は身震いをした。
 それは恐怖による震えではなく、一人の武術者としての武者震いに近いもの。

「ダガ、貴様ワ時間稼ギナドト、我々ノ戦イヲ侮辱シタ。トンダ・・侍ガールダッタ」
 心の底から失望したように、大きな溜息をつくサンダーバード。

「・・・・・・・」

「モウ貴様トノ戦イワ、ココマデダ。ワタシワ球場ヘ行キ、マニトウスワイヤー復活ノ援護ヲスル」
 サンダーバードはそう言うと、背中の翼を大きく広げた。

「それは許しません!!」
 今まで何も言い返せなかった優里だが、これだけはキッパリ言い返した。

「・・・?」

「たしかに私は武術者として貴女を・・・この戦いを侮辱したかも知れない。その非礼はお詫びします。でも・・・」

 そこまで言うと、優里は鋭い目つきでサンダーバードを睨みつける。

「でも・・・貴女が球場へ行けば、また凛ちゃんと戦う事になる。それだけは何があっても許しません!!」
 優里はそう叫び、薙刀に巻きつけていた銅線を全て解き捨てた。

「いいでしょう! 北真華鳥流の奥技を持って貴女をこの大地に倒し伏せてみせます!!」

 爛々と瞳を輝かせ、優里は薙刀を水平に構えた。

「ククク・・・! オモシロイ!」

 サンダーバードは満身の笑みを浮かべると、背中の翼をたたみ大地にしっかり足を降ろした。










「でやぁぁぁぁっ!!」

 長い金棒を振り回し、襲い掛かるマネキン人形たちを次々に薙ぎ倒す祢々。

 河童の一族と馬鹿にしてはいけない。
 禰々子河童は全ての水棲妖怪の頂点に立った一族。 そしてその怪力は地獄の鬼にも、全く引けをとらない。

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「ふ~ん・・・。妖怪とはいえ戦う女の姿は美しい。私のいいコレクションになりそうね♪」
 パペット・マスターは激しい戦いをする祢々を見つめ、不敵に微笑んだ。

 そんなパペット・マスターに一輪の水流の輪が襲い掛かった!

 寸前に気づき、そばに居たマネキン人形を盾にしてそれを防ぐ。

「ほぅ・・・? こんな不意打ちみたいな攻撃をしてくる奴もいるとは・・?」
 攻撃を仕掛けた青い妖魔狩人を見つけると嬉しそうに笑う。

「水流輪っ!!」
 それでも次々に攻撃を仕掛ける青い妖魔狩人。


バサッ!!


 身に着けていたマントを振り払い、水流輪を弾き落とす。

「見縊られたものね。この程度の霊術で私がやられるわけが無いじゃない!?」
 パペット・マスターは鼻で笑った。

 だが……そんなパペット・マスターも、足元に少しずつ迫っている『水溜り』には、気がついてはいない。

 狙ったように青い妖魔狩人は指先をクィっと上げる。
 すると水溜りは一気に壁のように跳ね上がり、パペット・マスターを覆い囲んだ!

「な・・・なにっ!?」

 仰天したパペット・マスターを、水の壁は包み込むように被さっていく。

「ワタクシも水流輪でお前を倒せるとは思っていない。この術から注意を逸らすための目くらましにすぎない」

 大きな青い水疱の中でもがき苦しむパペット・マスターを見つめながら、青い妖魔狩人は勝利を確信していた。
 数十秒が経ち水泡が静かになった事を知ると、青い妖魔狩人は術を解いた。
 流れ落ちる水の中から現れたのは・・・・

「な・・!?」

 そこには、五~六人の若い女性が倒れている・・・!?

「ど・・どういう・・事だ!?」

 思いもしない出来事に、その場に固まったように立ち尽くす青い妖魔狩人。

「それは、私が持ち歩いていた、フィギュア人形が元の姿に戻ったもの」
 倒れていた女性たちを跳ね除け、その下からパペット・マスターが立ち上がった。

「私は人間を好きな人形に変える事ができる。それがマネキンだろうと・・ヌイグルミであろうと。そして・・・フィギュアであろうと!」
 ドヤ顔で語るパペット・マスターに呆然とする青い妖魔狩人。

「貴方の術が相手を傷つける為の攻撃魔法ではなく、浄化する為の霊術だということは最初の水流で気がついていた」

「・・・・・・・」

「だから水泡の中で持ち歩いていたフィギュアをばら撒いたわけ。案の定・・・貴方の浄化の術は、私の呪術で人形になった者たちを優先して浄化し、私の浄化まで及ばなかったという事」

「く・・・・っ」

「私を殺すとか言っていたけど、貴方は水属性の術者。浄化や治癒の術は得意そうだけど、たいした殺傷能力は持っていない。だからあんな戦闘力の高い河童なんか連れ歩いているわけね」

 おそらく、凛や金鵄ですら気づいていない青い妖魔狩人の特性を、パペット・マスターは次々に言い当てた。

「フッ・・!」

「?」

「たしかにワタクシは物理的威力を発揮する術は持ち合わせていない。だが、それだけでワタクシの全てを解ったつもりになってもらっては困る」

 青い妖魔狩人はそう言うと、周囲に無数の小さな水泡を漂わせた。

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「なに・・これ?」

 パペット・マスターは、シャボン玉のように漂う水泡の一つを指先で弾いた。


パツン!


 水泡が弾け散ると同時に緑色の半透明の液体が指先に付着する。

「これは・・・毒っ!?」

「そう。たとえどんな妖怪でもその動きを封じ込める事のできる・・神経性の猛毒! お前を直接殺すことは出来なくとも、その動きを封じる事はできる」

 ただでさえ頭巾越しで表情のつかめない青い妖魔狩人だが、今回ばかりは目の動きだけで笑みを浮かべていることが容易につかめた。

「ククク・・・・・♪」

「!?」

「たしかに頭巾越しで表情は掴みにくいけど、どれだけ平静を失っているかは容易につかめるわ!」
 パペット・マスターは口端が耳まで届きそうなくらい大口を開けて笑い始めた。

「仰るとおり私が生物である妖怪ならば、この毒は大きな効力を発揮したでしょう。だが・・私のこの肉体は血も肉も・・・、まして神経など全く無いただのマネキン人形。したがって毒などまるで通用しない!! そこまで頭が回らないとは、どれだけ平静を失っているのやら」

 そう言って一足飛びで間合いに入ると、青い妖魔狩人の首筋を鷲掴みした。

「まずは、その頭巾の下の顔を拝見させてもらいましょうか?」
 パペット・マスターは青い妖魔狩人の頭巾に手をかける。

「ま・・待てっ、貴様ぁぁっ!!」
 その様子が目に入った祢々は、加勢に向かおうとマネキン人形たちに背を向けた。


グサッッ!!


「!?」


 その瞬間、わき腹に何かが突き刺さる感触が・・・。 それは、真っ赤な蒸気のような靄を発する短剣。

「あ・・あ・・・・」

 祢々は呆然としたまま二~三歩進んだが、その長身でグラマラスな身体は消滅したかのように姿を消し、代わりのその場所に、小さなヌイグルミが転げ落ちていた

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 それは祢々にそっくりなヌイグルミ。
 例の赤い短剣で、祢々はヌイグルミに変えられてしまったのだ!

「祢々・・・!?」

 目を皿のように丸くする青い妖魔狩人。

「驚くことはないわ。貴方もその素顔を拝見したあと、可愛いお人形に変えてあげる♪」
 パペット・マスターはそう言って青い妖魔狩人の頭巾を剥ぎ取った!












「な・・・なんだっちゃ・・、あいつは・・!?」

 最初に戦いを開始したファミレスから離れ、別の店に駆け込み・・カウンターの下に身を潜める千佳。

「なんで・・。なんで……あいつは死なないっちゃ・・?」


 一番最初にクエロマスカラの喉元を灼熱爪で切り裂いた千佳。

 だが、ヤツは再び起き上がり千佳に襲い掛かってきた。

 それでも千佳は自分の戦法を守り、二度目はクエロマスカラの胸を貫き・・・。

 三度目はその腹を引き裂いた。

 どちらも間違いなく致命傷だった・・・・。

 にも関わらず、ヤツは三度立ち上がってきた。まるで何事もなかったかのように。

 ついに千佳は戦いから背を向け、逃げ出したのだ。
 倒しても・・・・、倒しても・・・起き上がってくる恐るべき敵から。


 エンジン音が通路に鳴り響く。 ヤツが行ったり来たりしているのがわかる。

「探している・・・・。あいつがウチを・・探している・・・。」

 身体の震えが止まらない。 心の奥底から来る、心臓を握りつぶされるかのような震え。

「怖い・・・・怖い・・・・」

 いつも強気な千佳が初めて恐れをなしている。
 人間が持つ『恐怖』という感情に付け加え、『勝てない敵』に対する妖怪としての本能から来る脅え。
 芯から味わう絶望感。

「見ヅけた・・・・・」

 頭上から声が聞こえた。
 見上げると、カウンター越しにクエロマスカラの皮膚マスクが目に入る。

「あぁ・・あ・・・」


ガガガガガ・・ッ!!


 クエロマスカラのチェーンソーが、容赦なくカウンターを切り裂いた。


「うあぁぁぁぁっ!!」


 悲鳴を上げ、尻込みしたまま逃げまとう千佳。
 彼女が逃げ込んだ先は、最初の戦いの場・・・。 ファミレスだった。




第十一章 妖魔狩人の反撃へ続く。
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≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第十一章 妖魔狩人の反撃

 千佳が逃げ込んだファミレスの厨房で、ドレイトンは焼き上げたハンバーグを美味しそうに頬張っている。

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 ドレイトンは逃げ込んだ千佳に気づき、
「まだ、生き延びていたのか? 思ったよりしぶといですね!」
 と嬉しそうに微笑んだ。

 人間なのに人間とは思えない・・不気味な笑顔。

「ここに、いたか・・・」
 更に背後にクエロマスカラが追いついてきた。

「エイダ、いつまで遊んでいるんです? 早く捕まえて、その娘も美味しいハンバーグにしてしまいなさい♪」

「うーん。でも・・・・パパ。コイツ人間じゃなくて獣のような匂いがする。きっと・・美味しくない」

「相変わらずエイダは好き嫌いが多いですね。そんな事だから大きくなれないんですよ?」
 ドレイトンの言葉に千佳は唖然とした。

 大きくなれない・・・だって? 十分・・デカイっちゃ!

 それよりアンタの方がずっと食べ続けていて、よく太らないもんだっちゃ!?  きっと栄養がどっかに飛んでるんじゃないっちゃね?

 千佳は頭の中でそう突っ込んでいた。

 ん・・っ!? 栄養がどっかに飛んで・・・?

 何かが頭に引っかかる。

「ねぇ・・パパ。アタシこんな獣より、さっき見た黒い子どもの肉が食べたい」

「黒い子ども・・? ああ、先へ進んだ、黒い衣服に身を包んだ少女の事ですか?」

「ウン、あの子・・・♪ 霊力も高そうですごく美味しそう!」

 霊力が高くて黒い衣服の少女・・・・?

「凛の事・・ちゃかぁぁっ!?」

 千佳は思わず叫び声を上げた。

「凛・・? ほぅ、あの少女・・凛という名ですか? 良い名ですね。たしかにあの子は小柄で肉付きはたいした事はなさそうでしたが、身質は良さそうでした。きっと美味しいだろうね♪」
 そう語るドレイトンの口元には涎が垂れている。

「ふざけんなぁぁぁっ!!」
 凛を食べると聞いて、千佳の顔に血の気が戻ってきた。

「てめえ等なんかに、絶対に凛は喰わせねぇっちゃよ!」

 逆立った髪も更に炎上するかのように赤みを増し、灼熱爪もモクモクと蒸気を放っている。
 そう、誰よりも凛を大事に・・・。いや、凛を愛しているといっても過言ではない千佳の想いが、一気に彼女を立ち直らせた。

「んっ、凛・・・?」

 と同時に何かが頭の中で繋がり始めた。

 そう言えば、以前ウチが記憶を取り戻し始めた時に見た凛が戦っていた相手・・・・。
 それは、土人形を操る・・・独楽(こま)の妖怪・・・!!

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 喰っても太らないオッサンと、好き嫌いの多いデブ。 一見まるで繋がりのない、点と点。

 もしかして、あのデブと・・あのオッサンは・・・!?

 何かを掴んだ・・千佳。灼熱爪の右腕を振り上げ飛びかかった先は・・・

「な・・なんですとーっ!?」

 まさかの突撃に必死に身を避けるドレイトン。

 振り払う灼熱爪。

「ぎゃぁぁぁっ!!」

 血飛沫と共にドレイトンの胸元に大きな爪痕が残る!

 悲鳴は背後からも聞こえた。

 なんと、背後から襲いかかろうとしていたクエロマスカラの胸元にも、ドレイトンと同じ・・大きな爪痕が!!

「やっぱりそうっちゃ!」 
 千佳は二人に付いた同じ爪痕に確信を感じた。

「詳しい理屈はわからんけど、このデブの本体は・・・オッサン!! だから、このデブは死なないっちゃね・・・?」

 千佳の推測通り、クエロマスカラはドレイトンの思念が生み出した魂の無い・・もう一つの肉体のようなもの。

 十数年前、ドレイトンは事故で実娘エイダを喪った。
 その頃のドレイトンはある宗教を信仰していた。
 それは動物も人間も同じ命。だから、差別なく同様に殺しても食べても良いものだという教え。
 そのせいか、いつの頃からか・・闇の魔力を身につけ、ついにはその力でエイダを実体型思念体として蘇らせた。
 実体型思念体の為、蘇ったその身体は生命体本来の『命』というものは持ち合わせていない。
 だから、どんなに致命傷を負っても何事もなかったように動き続けられるのだ。

「カラクリはわかったっちゃ。一気に決着(ケリ)をつけて、凛を喰いたいなんて言ったこと後悔させてやんよ!!」

 再び千佳は、灼熱の右腕振り上げドレイトンに向かう。

「パパを・・虐めるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そんな千佳にクエロマスカラが立ちはだかる。

 轟音と共に振り下ろされるチェーンソー。

 闇の魔力が篭ったチェーンソー。その攻撃力は防御力の高い戦闘服を着ていても、並みのダメージでは済まない。

「ちっ! 鬱陶しい回転ノコギリっちゃね! せやけど・・、まずはアレをぶっ壊さないとあのオッサンを攻撃できそうにないし・・・」

 そう呟くと、千佳は自らの右腕・・・灼熱爪に目をやった。

「いくらウチにとって最強の灼熱爪でも、あんなノコギリとまともにぶつかりあったらズタズタになるやろね・・・」

 当然の躊躇いだ。
 だが、またも頭の中で凛の顔が浮かぶ。

「絶対に負けないって、約束したっちゃね・・・」

 そう呟き決心したようにニコリと微笑む。

 迷いが吹っ切れた千佳。
 それは精神的だけでなく、半妖としての能力すら高めていた。

 頭部には燃えたぎるような髪の中に猫のような三角耳が立っており、鋭く睨みつける瞳は瞳孔が縦長になっていた。

「ぶっ壊してやるちゃ! 後悔すんなよ、この・・デブぅ~っ!!」

「・・んだと!? このクソチビがぁぁっ!!」
 一目でわかる弩級の怒り!

 チェーンソーを振り上げ千佳に襲い掛かるクエロマスカラ。


「うっせぇぇぇぇぇぇっ!!」


 その高速回転している刃に向けて、千佳は右腕の灼熱爪を突き出した!

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ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!


 耳障りな音が鳴り響く!


バギッッッ!!!


 クエロマスカラのチェーンの刃が・・・・・。

 そして千佳の右腕の中指、薬指、小指・・三本の爪が・・・。


 鈍い音と共に砕け散った!!


「うぎゃぁぁぁぁぁつ!! アタシの・・アタシの・・・チェーンソーがぁぁぁぁ!!?」

 狂ったように慌てふためくクエロマスカラ。

 今、この時をおいてドレイトンを討つ間は無い。
 千佳は激しい痛みを堪えながら、一気にドレイトンに詰め寄ると・・


ズブッ!!


「ひぃぃぃぃっ!!」

 千佳は残った人差し指の爪でドレイトンの胸を貫いた!

 突き刺さった爪から灼熱の炎が流れこむ。 同時にその体内のアチコチから炎が吹き出し、


ゴォォォォォッ!!


 激しい火の粉を撒き散らしながら、ドレイトンは全身火達磨となった。

「ぎゃぁぁぁぁぁつ!!」

「パ・・パパ・・!?」

 火達磨となり、のたうち回るドレイトン。
 慌てて駆け寄ろうとしたクエロマスカラだが・・・・

「あぎゃぁぁぁぁぁっっ!!」

 ドレイトンの身体とリンクしているクエロマスカラも、身体のアチコチから炎が吹き出す。
 瞬く間に二体の火達磨が蠢く店内。

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「エイダ・・・」

「パパ・・・」

 手と手を触れ合う事もできず、闇が生んだ狂気の親子は文字通り地獄の業火に包まれ焼け落ちていった。

「やったよ・・凛・・」
 激しく肩で息をしながら千佳はその場に座り込んだ。

 そして砕け散った右手を満足そうに・・。それでいて少し悲しげな表情で見つめると、そのまま眠るように気を失った。











「凄い!! 優里さんの霊力が尖先に凝縮されている・・・? その力は雷撃の威力に匹敵するかもしれない・・・!?」

 薙刀を水平に構える優里。
 薙刀の尖先に白い光のようなものが浮かび上がり徐々に大きくなっていく。

 それだけでは無い。

 それに釣られるように優里の周囲は大気が陽炎のように歪み、地響きのような振動すら感じられる。

 物陰に隠れて様子を見ていたセコは初めて見る優里の奥技に・・。 そして、その『気』の大きさに驚きを隠せない。

「確カニ、貴様ガ繰リ出ソウトシテイル技ワ、ワタシノ雷撃ト同レベルノ威力ガアリソウダ。ナラバ、ワタシワソレ以上ノ最強ノ術ヲ繰リ出ソウ!」

 サンダーバードはそう言うと右腕を高々と上げる。
 激しい雷鳴が轟く。


バリッ!バリッ!バリッ!


 大きな落雷がサンダーバード自身を襲った!!
 だが、サンダーバードは更に右腕を高々と上げる。

 漂う雷雲から、再び大きな落雷が爆音と共にサンダーバードを襲った。


バリッ!バリッ!バリッ!・・・


 二発の雷撃を受け、そのエネルギーを蓄積したサンダーバード。

 さすがに少しダメージを受けたのか? 足元がやや・・ふらついている。 

 サンダーバードはそのあと左右の手から片方ずつ、青白い火花を放つ二つの球体を繰り出した。
 その二つのエネルギー球を強引に一つに組み合わせ凝縮し、一つの大きなプラズマエネルギー球に変えた。

「な・・・なんて、凄まじいエネルギーの球体!? 雷、二発分の威力を持った術なんて、そんな術は見るのも聞くのも初めてだ・・・」

 セコの言うとおり、それは雷二発分の威力を持ったプラズマエネルギーの凝縮体。
 おそらく半径数百メートルは一瞬で焼け野原になるだろう。

 一方、薙刀を構えたまま霊力を尖先一点に集中し技を仕掛ける準備をしていた優里。
 白色の大きな霊力の塊を刃に備え、水平の構えのまま右腕を引き左手で刀身を軽く支える。

 妖魔狩人と北米の精霊。

 最強同士の二人が、意地と底力を掛けてぶつかり合う瞬間!!

「プラズマトワイス・・・」

 先に仕掛けたのはサンダーバード。
 大きく腕を振りかぶり、火花散る大きなプラズマエネルギーの球体を爆音と共に撃ち放った!!

 火花と暴風を放ちながら突き進むプラズマトワイス。

 その球体が通り過ぎたあとは、アスファルトもタイルもボロボロに焼き崩れ、大地がむき出しになっている。

 それに対し優里は一呼吸・・間を置おくと、見極めたように一気に駈け出した!


「北真華鳥流奥技! 不撓穿通(ふとうせんつう)!!」


 霊力の塊を纏った薙刀を突き出しながら、優里自身が白色の閃光となり高速で突進していく。

 本来は闘気を一点に纏い、自らを刃と化し突進するのが北真華鳥流不撓穿通。
 だが優里の不撓穿通は、闘気どころか生まれ持った強力な霊力をも纏っている。
 その威力は本家不撓穿通の十倍以上。

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ズザザザァァァン!!


 中央でぶつかり合う、プラズマエネルギー球体と白色の閃光!!
 一見互角に見えるぶつかり合いだが、徐々に・・・徐々に・・に、プラズマトワイスが不撓穿通を押しのけていく。

 それは、サンダーバードの操る通常の雷撃エネルギーを仮に『3』という数値で表すと、優里の不撓穿通の威力はほぼ同格くらいである。

 それを察知したサンダーバードは二つの雷撃エネルギーを足し合わせ二倍の威力にした。

 したがって現状のままではプラズマトワイスが不撓穿通を跳ね除け、優里が吹き飛ばされるのは目に見えている。

「このままでは、優里さんが・・・・!」
 徐々に後退する白色の閃光を見つめながら、セコは焦りと恐怖を隠せない。

「たしかに・・・凄い術です! でも・・・」
 押し返されないように歯を食いしばりながら踏ん張っていた優里。

 だが・・ここでフトっ、口元を緩ませると、

「乗っ!!」

 そう叫び、手首をグルっと捻りこむ。。
 その途端、薙刀に纏っていた白色の霊力が大きな螺旋状に回転し始めた。

 激しい地響きと軌道上の大地・・。
 アスファルトや石が土砂が・・・。そしてまわりの電柱や樹木ですらも、回転で抉られるように舞い上がっていく。
 その激しい回転に合わせ突進する優里は、いわば白色のスクリュー。

 威力を増した不撓穿通は、逆にプラズマトワイスを押し返していく!

「ナ・・・ナンダ、コノ・・威力ワ・・・ッ!? 何故、私ノ術ヲ上回ル・・威力ニナッテイル!?」

「見誤っていましたね。今の私は高嶺優里という一人の武術者ではなく、白い妖魔狩人というある意味・・別の存在であるということを・・・!」

 揺るぎない自信を秘めたその表情。

「私は白い妖魔狩人という存在になったその時から、霊獣…麒麟の力も受け継いでいるのです!」

「そうか! 地響きを上げている螺旋状の術は麒麟の霊力によるもの・・・!?」
 セコが思い出したように呟く。

「貴方が見定めた不撓穿通の威力『3』というのは高嶺優里個人の力。ですが・・この技・・『不撓穿通・乗』は、白い妖魔狩人になったことで二乗化された威力になっているのです!」

「ツマリ、私ノ術ヨリモ、大キク上回ル!!?」

 サンダーバードが全てを諦めたように大きく溜息をつく。

 その瞬間、不撓穿通に押し返されたプラズマトワイスは大きく四散し、そのまま白色のスクリューがサンダーバードを貫いた!!


バキッ・・バキッ・・バキッ・・!!


 激しい閃光がサンダーバードの覆い隠す。

「やったぁぁっ!! 優里さんの勝利です!」
 大喜びで駆け寄るセコ。

 そんなセコに優里はニコリと微笑むと・・・
「うう・・・っ」
 その場に跪いてしまった。

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「優里さん、大丈夫ですか!?」
 心配そうにその身体を擦るセコ。

「ええ・・大丈夫。あの技は文字通り・・私の全身全霊の力を振り絞らないと使えない技」

「今まで使わなかったのは、そのためですか?」

「そう。先程までの私は後の事を考え、力を温存しておこうと本気で勝ちにいきませんでした。でも・・それは一対一の戦いにおいて最大の侮辱」
 優里はそう言って己の手のひらを見つめる。そこには・・わずかに残った霊力が漂っていた。

「だから全霊力を・・、全身体能力をも・・出しきりました。そうしないと勝てない相手だったから・・・・」
 優里は跪き、フラつきながらもそう微笑んだ。

「アリガトウ・・・」

 閃光が消えると、仰向けに倒れたサンダーバードがそう話しかけてきた。

「素晴ラシイ技ダッタ。アレニ敗レタノナラ、納得ガイク・・・」
 そう言うサンダーバードの全身はズタズタで激しい出血をしており、もはや虫の息だ。

「全力デ戦ウ。ソレワ相手ニトッテ、最高ノ敬意。ソノ敬意ヲ表シテクレタ侍ガールニ、私モ礼ヲシタイ・・・」
 サンダーバードはそう言って右手を突き上げた。

 手の平から青白い火花が散っている小さなエネルギーの球体が浮かび上がる。
 それはゆっくりと宙を漂いながら優里の薙刀へ辿り着くと、その中へ消えていった。

「こ・・これは・・・?」

「僅カダガ、私ノ力モ引キ継イデモラッタ・・・」

「サンダーバードっ!?」

 サンダーバードは初めて安らかな笑顔を浮かべると

「goodbye・・・」

 そのまま粒子となり、そして静かに消えて無くなった。












「フーン。偉そうな口を叩くから、どんだけふてぶてしい顔かと思いきや、結構可愛らしいじゃない♪」

 青い妖魔狩人の首筋を鷲掴みにしたまま頭巾を剥ぎ取ったパペット・マスターは、大きく口端を上げた。

 初めてその素顔を見せた・・青い妖魔狩人。
 その素顔は十代半ばくらいの愛くるしい美少女のものだった。

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「その可愛らしさは、マネキン・・・よりも、フィギュアの方がいいわね! うん、決めた! フィギュアにして、私の部屋に飾ってあげるわ♪」
 そう言って、不気味な笑顔を近寄せるパペット・マスター。

 青い妖魔狩人はパペット・マスターの手を外し逃れようとしたが、逆に取り囲んでいるマネキンたちに両腕両足を取り押さえられてしまった。
 一気に青褪める・・青い妖魔狩人。

「恐れなくていいわ。すぐに気持ちよくさせてやるから・・・」

 パペット・マスターはそう言って青い妖魔狩人の胸に手を触れた。
 そして優しく擦ってやる。それはまるで、産まれたての雛を触るように優しく丁寧に・・・。

「うっ・・・」

 まるで現実から逃避するかのように、思わず顔を背ける青い妖魔狩人。

 胸を擦るパペット・マスターの動きが少しずつ速くなり、時折揉みほぐしたり指先で胸の先端をクリクリと摘んだりする。
 それに伴い、青ざめていた青い妖魔狩人の頬もほのかに赤身を帯びてくる。

「フフ・・・」
 それを確認すると、パペット・マスターのもう片方の手は青い妖魔狩人のスカートの中へ忍んでいった。
 柔らかい内腿をなぞり、そして・・その付け根にある薄く白い布地に触れる。

「あ・・・っ!?」

 思わず声を漏らす青い妖魔狩人。
 パペット・マスターの指先は、そのまま白い布地を行ったり来たりと撫ででいく。

「だ・・・ダメっ!!」

 硬直したように、大きく仰け反る青い妖魔狩人。

「ウフッ! やはりまだ、そういう経験はないのね♪」
 ハァ・・ハァ・・と息を荒げながら、暖炉のように火照った青い妖魔狩人の表情を楽しむパペット・マスター。
 小さな口端から一筋の涎が垂れているのを見ると、ペロリと舌ですくい取った。

「甘く、上品な味・・・♪」
 更に白い布地の上で踊るように動きまわる指の動きに、もはや青い妖魔狩人は狂ったように仰け反るのみであった。

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「いいわね! その昂った魂・・・そろそろ頂くとするわ!」

 そう言ってパペット・マスターは青い妖魔狩人の唇に、強引に己の唇を押し当てた!
 舌で口内を舐めまわしその味を堪能すると、パペット・マスターは大きく息を吸い込む。

「う・・ぐっ・・・」

 小刻みに身体を震わせる・・青い妖魔狩人。

 どんなに弄ばれてもキリリと切り上げていた眉尻は、やがて力が抜けたように垂れ下がり、全身もグッタリし始める。

「ごちそうさま、過去・・1~2を争う程、美味しい魂だったわ♪」
 そう言ってパペット・マスターが唇を離すと、虚ろな表情の青い妖魔狩人は徐々にその身が縮んでいた。

コトンっ!!

 数秒後には、パペット・マスターの足元に小さな人形が転がっていた。
 嬉しそうに人形を拾い上げるパペット・マスター。
 それは、青い妖魔狩人をそのまま縮小したような高さ十数センチのフィギュア人形であった。

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「うん、予想以上に可愛い人形が出来上がったわ!」

 パペット・マスターは自身の目線より高めの位置に人形を持ち上げ、スカートの中を覗きこむ。

 本当に不思議な事だが、なぜかこの手のフィギュア人形というのはスカートの中を覗き込みたくなる傾向がある。
 それは、その手の人形を手にした人の九割はそうだろう。
 もちろんパペット・マスターもそうであった。スカートの奥から白い三角形が目に入り、ホッコリと表情を緩ませる。

「私の人形は見た目だけでなく、匂いなどもそのまま反映される。あとでじっくり楽しませてもらうわ!」
 パペット・マスターはそう言うと、青い妖魔狩人のフィギュアを座席の上に置いた。

 だが、その途端・・・・

「うぐぅ・・・っ・・!?」

 突然、パペット・マスターが胸を押さえ苦しみだした。
 その苦しみは尋常ではなく、辺りに設置された座席を蹴散らしながら右へ左へとのたうち回る。

「な・・・なんだ・・・この苦しみは・・・・」
 苦しみの中心となっている胸に目をやると、その胸を押さえている手が少しずつ消えかかっているのに気がついた。

「ま・・・まさか・・・!?」

 そう思った瞬間、

「そう、お前は今・・・浄化されつつある」
 と胸の中から声が響いた。

「まさか・・さっき吸い込んだ・・・魂・・。それか・・・!?」

「そうだ。お前が相手の魂を吸い込み、人形に変えるというのを知っていた。だから・・ワタクシは自身の魂に浄化の霊力を蓄えて、お前に吸い込ませたのだ」

「で・・では、平静を失い・・取り押さえられたのも・・、演技だったのね・・?」

「お前の言う通り、ワタクシは物理的な力でお前を倒す術がない。だから、お前がワタクシの魂を吸い込む・・・、そこにイチかバチか掛けてみた!」

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 青い妖魔狩人の言葉が進むにつれ全身に行き渡った浄化の力は、パペット・マスターの両手両足を消し去っていった。

「フフフ・・・ッ。やはり可愛い顔していても、性格はふてぶてしかったのね・・」

 パペット・マスターは何かに満足したようにニッコリと微笑むと、静かにこの世から消え去っていった。

 パペット・マスターが消え去るのと同時に座席に立てかけていたフィギュアがカタカタと揺れだし、そのままポトリと落ちる。
 落ちたフィギュアは拡大するかのように大きくなり、やがて苦しそうに佇む青い妖魔狩人の姿になった。

「恐ろしい敵だった・・・」
 そう呟くと、ドシンと腰を落とす。

 相当の疲労感を漂わせながら辺りを見渡す。

 そこには、ヌイグルミから元の姿に戻った祢々。
 同様にマネキンから人間の姿に戻った一般人の姿。
 皆、気を失っているが命には別状はなさそうだ。

 それだけ確認すると、青い妖魔狩人はその場に眠るように横たわった。




第十二章 蘇るマニトウスワイヤーへ続く。
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マニトウスワイヤー 第十二章 蘇るマニトウスワイヤー

 少しだけ時間を遡り妖魔狩人たちがそれぞれの敵と戦っているころ、凛と都はフェアウェイとアンナ・フォンがいるグランドに侵入し、マウンドへ向った。

 ピッチャーマウンドに仰向けに寝かされているフェアウェイ。

r-vs-m_1301.jpg

 その周りには魔法陣らしきものが描かれ、その脇にパソコンが置かれているのが気になる。

「何の御用?」
 凛と都に気づいたアンナ・フォンは無愛想な表情で問いかけてきた。

「決まっていますわ、その子を返して頂きに参りました。素直に返せば良し。さもなくば・・・」

 相変わらず口調は丁寧だが赤い瞳を輝かせ、妖気と殺気を振りまいている都。

「フン。たかが虫ケラ妖怪の分際でデカイ口を叩いて。バカなの?」

 アンナ・フォンはそう言うと、何やら呪文を唱えながら両手を上げる。

 すると、その周囲に無数の小さな物体が、ブーン・・ブーン・・と羽音を立てながら飛び回り始めた。

 それはイナゴ。
 バッタによく似た虫・・・、無数のイナゴの大群。

r-vs-m_1302.jpg

 アンナ・フォンはニヤリと微笑み合図を送ると、イナゴの大群は凛と都を目掛けて一斉に襲い掛かり始めた。

 一瞬にしてイナゴの大群に覆い尽くされた凛と都。


ガリッ・・ガリッ・・


 イナゴ達が無数の口で噛み砕くような音が聞こえる。

「無様ね・・・。弱小妖怪や人間なんて、所詮は無力な存在なのよ!」
 勝ち誇ったように笑みを浮かべるアンナ・フォン。

 再び手を上げイナゴたちに撤退を指示する。

 半分近くのイナゴは空中高く舞い上がり待機するが、残り半数近くはそのまま凛と都に纏わりついている。

「何をしているのっ!? 早くそこをどいてガキ共の死体を見せなさい!!」
 甲高いアンナ・フォンの叫び声が響く。

「死体・・・? たかがイナゴごときが捕食虫である『蜘蛛』を食い殺せると思っているのかしら? バカはそちらですわね!」

 あざ笑うような口調と共に、多くのイナゴたちが吊るし上げられる。

 それは、大きな蜘蛛の巣に張り付き身動きがとれないイナゴの姿。
 その後ろから姿を見せる凛と都。

「昔から飢饉の背景には食物を食い荒らすイナゴの大群があったと聞きます。そしてそれを操る悪魔と呼ばれる呪術使いが存在したことも・・・。どうやら貴女は、その力を受け継いでいるようですわね」

 空中で待機する残りのイナゴを見渡しながら、都は口元の牙を覗かせた。

「フン。だったら・・何だと言うの? 下等な妖怪がその程度の事を知ったくらいで、勝ち誇るんじゃないわよ!」

 そう強がるアンナ・フォン。
 だが、明らかに・・・焦りの色が表情に浮かんでいる。

「このお馬鹿さんの相手はわたくしがしますわ。黒い妖魔狩人・・・、貴方は今のうちにフェアウェイを・・・」

「わかった!」
 都の言葉に凛は倒れているフェアウェイに駆け寄った。

 フェアウェイの顔の周りを飛び交う金鵄。

「凛、呼吸音が聞こえる。どうやら無事のようだ!」

 金鵄の言葉にフェアウェイを抱き起こす凛。

「フェアウェイ。しっかりしろ、フェアウェイ・・!」
 同じようにフェアウェイに駆け寄った香苗も必死で声を掛ける。

 その言葉が耳に届いたのか? フェアウェイは薄っすらと瞼を開ける。

「フェアウェイっ!?」

 高まる安堵感!

 やがてパッチリと目を開いたフェアウェイは、状況を把握するかのように辺りを見渡す。

 そして、自らの両足でマウンドに立ち上がった。

「よかった・・・、もう・・大丈夫だぞフェアウェイ!!」

 嬉しさのあまり香苗はフェアウェイに飛びついた。


「・・・・・・・・・・」


 だが、そんな香苗を見る目は冷たい。

 それどころか・・・


バシッッ!!


 思いっきり逆手で香苗の身体を吹き飛ばした!!

「どういう事ですの? あれ程・・あのヌイグルミを気に入っていたのに・・・?」

 フェアウェイの異変に、都も目を疑った。

「下等生命体が気軽に余に触れるでない!」

 低く重い言葉が、フェアウェイの口から発せられた。

「凛っ・・気をつけろ!! 強い魔力が子どもから吹き出している!!」
 直ぐ様・・空高く退避した金鵄は、慌てて凛に注意を促した!

 数歩身を引いて弓を構える凛!

 フェアウェイは黒い靄のような魔力を身に纏いながら、ゆっくりと宙に浮かびだした。


「ま・・・まさか・・・!?」


 誰もが何が起きているのか・・。まったく理解できなかった。
 それどころか今の今まで、アンナ・フォンの背中の瘤が無くなっている事に気づく者もいなかった。

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「我が名は、エノルメミエド。全ての精霊を支配する者・・・」




 フェアウェイの口から発せられる、低く重い言葉。

「バカな!? もう・・・転生の儀式は終わっているというのか? こんな短時間で!?」
 驚きの声を上げる金鵄。

「ククク・・・! たしかに一昔前ならもう数時間はかかったであろう。だが今の時代はコンピューターという便利な機器がある。これを魔法陣に接続し魔力経路を増幅することによって、短時間での儀式を可能にしたのだ!」

 ドヤ顔どころか、大口開けて欣喜雀躍するアンナ・フォン。

「う・・嘘だろ・・・フェアウェイ・・。嘘だと・・言ってくれ・・・!」
 大粒の涙を流しながら泣き叫ぶ香苗。

 そんな香苗を鬱陶しそうに見つめるフェアウェイ・・・いや、エノルメミエド。
 静かに人差し指を香苗に向ける。

「あ・・・危ないっ!?」

 咄嗟に飛び出す金鵄!

 金鵄の足が香苗を掴み空中高く舞い上がったのと、エノルメミエドの指から発せられた炎の塊がグラウンドを焼き焦がすのは、ほぼ同時であった。

「バカめ! もう・・そのガキは今までの天女のガキではないのよ。マニトウスワイヤー様なのよ!!」

 相変わらず歓喜に酔いしれるアンナ・フォン。

「さぁ・・マニトウスワイヤー様! 一気に他のガキ共も焼き殺してくださいな♪」
 いつの間にかエノルメミエドの前に立ち、凛や都を指さした。


「誰に命令している?」


 低い声がアンナ・フォンの頭上にのしかかった。


「・・・・・!?」


 恐る恐る・・振り返るアンナ・フォン。

 そこには宙に浮かんだまま、冷たく見下ろすエノルメミエドの視線が・・・。

「わ・・わたし・・は・・、命令して・・いるわけで・・なく、ただ・・マニトウスワイヤー様の・・・お力で・・・・・」
 まるで氷の塊を押し付けられたかのようにガタガタと震えるアンナ・フォン。

「お前は余が転生するまでの乳母車のような存在。だが・・もう、役目は終わった」

 何の感情も無く、淡々と話すエノルメミエド。

 そしてブツブツと二言・・・三言呟くと、その背後に炎に覆われた大きな爬虫類の様な生命体が姿を現した。

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「サラマンダー・・!? 西洋の・・炎の精霊・・・!?」
 金鵄が呆然としたように呟いた。

「冗談でしょう? ファンタジーゲームでも高ランクの四大精霊の一人じゃないの!?」

 香苗の着る魔法戦士のコスチュームを作るくらい、ファンタジーゲームにも精通している都。
 当然妖怪としてのその本能は、その強さが嘘で無いことを見抜いていた。

 サラマンダーは何も言わずアンナ・フォンに襲いかかると、一瞬でその身体を焼き焦がした。
 悲鳴を上げる間もなく沈黙したアンナ・フォン。

 思いもしない出来事に固まったように動きが止まる・・凛と都。

 サラマンダーは次は都に狙いを定めると、一気に襲いかかった。

「くっ!?」

 さすがに都はアンナ・フォンとは違う。

 瞬時に天井に設置されている照明器に糸を吹き付けると、そのまま飛び上がり攻撃をかわした。

 だがサラマンダーも方向転換し、再び襲い掛かる。

「てんこぶ姫っ!!」

 都を援護するように凛が二発の霊光矢を放った。

 サラマンダーは危機を察知し、口から炎の塊を吐き出し霊光矢を撃墜する。

 その瞬間を都は見逃さない。

 逆に跳びかかり、鋭い爪でサラマンダーを引き裂く!!
 致命傷にはならなかったが、ある程度のダメージを与える事に成功。

 更に凛の霊光矢が追い打ちを掛ける。

 一発がサラマンダーの腕に突き刺さり、浄化の力でその腕を消し去った。

「一気にトドメを刺しますわよ!」

 サラマンダーに向って駈け出す都。霊光矢で援護射撃をする凛。

「蜘蛛女、危ないっっ!!」

 佳苗の叫び声で、理由も分からず糸で天井に回避した都。

 なんと都が駆け出していた数十メートルが、アイスリンクのように凍りついていた。

「凛、向こうだっ!!」
 金鵄の言葉で振り返る凛。

 そこには白い着物に身を包んだ、色白の女性が立っていた。

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「雪女郎・・・。日本の妖怪までも自在に召喚し、操ることができるのか・・?」

 同じ日本の妖怪として驚きを隠せない金鵄。


「うむ・・・。少しずつだが身体のコントロールがつかめて来た」

 エノルメミエドはそう呟くと、サラマンダーにドームの屋根を炎で熱するように命じた。

 高温で真っ赤になった屋根を、なんと今度は雪女郎が吹雪で凍らせていく。 それは温度変化による金属劣化。
 エノルメミエドは軽い衝撃波を放つと、屋根は砂の城のようにボロボロと崩れ落ちた。

 そのまま高く飛び上がり真夜中の丘福市を見渡す。

 深夜でも明るい街並みに、車のヘッドライトやテールランプが帯のように流れる。
 アジアでも有数の美しい夜景。

 エノルメミエドは丘福市を見下ろしながら、呪文を唱え始めた。

 するとまるで大地震のように、街全体が大きく揺るぎ始める。

 アチコチで地割れが起き、中から地霊や死人が湧き出てくる。

 大気中には妖精と呼ばれる・・虫のように小さく羽の生えた小人達。そして人間と鳥が合成したような醜い鳥妖怪たちが羽ばたく。

 彼らは一斉に人や街を襲いだした。

 地霊は大地を揺るがし、風の精は突風や竜巻を巻き起こし、そびえ立つ建物を破壊。
 路面を走る車は次々に衝突して炎上。

 町中を群れをなして歩く死人は手当たり次第・・人々に食らいつく。

 海からは水霊や海獣が波を荒立て、今にも巨大な津波が街に襲いかかりそうである。


 もはや、あっという間に丘福市は地獄絵図と化していった。

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 スタジアム内のテレビと連動していたバックスクリーンの電光掲示板にその光景が映し出され、そのおぞましさに凛や香苗の表情は青褪めていく。

「わたくしのテリトリーを弄くり回すのは止めていただけるかしら!?」

 空中高く飛び上がった都は、次々に糸を吹き出し呪文を唱え続けるエノルメミエドを縛り付けた。

「ふんっ!!」
 都にしては珍しく掛け声を上げると、一気に糸を手繰り寄せエノルメミエドをグラウンドに叩きつけようとする。

 しかしサラマンダーも飛び上がり火球で糸を焼き切ると、エノルメミエドは身を翻し綺麗にグラウンドに着地する。
 再びエノルメミエドを守るように、前に立ちはだかるサラマンダーと雪女郎。

「・・ったく、精霊の支配者という通り名は伊達じゃありませんわね。ここまで事態が悪化するとは・・・」

 凛の元に飛び降りた都は眉間に皺を寄せて呟く。

「このままマニトウスワイヤーを放っておくと、本当に日本はおろか世界は崩壊する!」
 金鵄も電光掲示板に映しだされた街の様子を見ながら表情を歪ませる。

「もう・・、もう・・・フェアウェイを殺すしか手は無いのか・・?」
 そう言ったのは香苗。

「仕方ありませんわね・・・。アレはもう・・フェアウェイでなく、ただの化け物なのですから・・」
 そう返答しながら都は唇を噛みしめる。

「ううん・・・。まだ方法はある・・・」
 今まで黙っていた凛が静かに口を開いた。

「!?」

「わたしには霊気とか・・妖気を読み取る力があるの。あのマニトウスワイヤー。おそらく・・まだ完全には、その霊体がフェアウェイの肉体と融合しきっていない」

「本当なのか・・・凛!?」

「うん。フェアウェイの魂が必死で融合に抵抗し続けている。だったら私の霊光矢で急所を撃ち抜けば、マニトウスワイヤーの霊体だけを浄化できるかもしれない。」

 凛の言葉に誰もが顔を見合わせた。

「問題は一撃で急所、すなわち霊体が宿る・・心臓を撃ちぬかなければいけないこと。身体の他の部分に当たったら、浄化する前にその部分を切り落とされる。そうしたら二度目のチャンスは無い!」

「たった一度だけのチャンス・・・」
 金鵄が溜息混じりで漏らす。

「上等ですわ! その一度きりのチャンスはわたくしが作ります! だから貴女は弓を構えたまま・・突っ立っておけばいいですわ!」

 微笑みながらも都の力強い眼差しが、凛を眼(まなこ)を貫く。

 その眼差しに答えるように、凛もニコリと微笑むと無言で頷く。

「いける!! 妖魔狩人と蜘蛛女の二人なら、フェアウェイを助けられる!!」
 香苗はそんな二人に、確かな手応えのようなものを感じた。

 それは、当の二人が一番・・感じ取っていたのかもしれない。
 その信頼感は半日前に命のやり取りをした者同士とは思えない。
 いや、逆に命のやり取りをしたことが、二人の信頼感を強めたのかもしれない。

「でも・・凛、てんこぶ姫。マニトウスワイヤーが召喚した精霊が当然邪魔をしてくるはずだ。それにはどう対応する?」
 金鵄はサラマンダー、雪女郎を眺めながら問いかける。

「そいつらならワタクシたちが抑える!」

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 そう言って傷ついた身体を引き摺るように現れた、青い妖魔狩人と祢々の二人。

「青い妖魔狩人・・・? その素顔は・・・まさか・・・!?」
 金鵄はそう返そうとした。

「ワタクシの正体なんか後でいい。それより今は奴らの殲滅が先だ」
 青い妖魔狩人の言葉に金鵄は黙って頷いた。

「それじゃ・・行きますけど、精霊共は本当に任せていいのですね?」

「いらぬ心配だ。それより・・お前こそ途中で逃げ出すんじゃないぞ。妖怪は信用できないからな」

 青い妖魔狩人の言葉に、都は赤い瞳を爛々と輝かせ、

「わたくしも姫の冠は伊達では無いことを証明してみせますわ!」
 と不敵に笑い真っ先に駆け出していった。

 すぐ後に続く青い妖魔狩人と祢々。

 都たちの反撃に反応したサラマンダーと雪女郎。

 左右から、炎と吹雪の攻撃を繰り出してくる。

「氷を操れるのは、お前達だけではない!」
 青い妖魔狩人はそう言って都とサラマンダーの間に入る。

「氷塊盾!!」
 両手を前に掲げ氷の塊による盾を作り、サラマンダーの炎を遮った。

 一方・・祢々は雪女郎との間に入り、金棒を風車のように回転させ吹雪を払いのける。

「さすがですわ!」

 その間に都は一直線に突っ走っていく。

 そんな都を冷ややかな眼差しで迎え撃つエノルメミエド。
 エノルメミエドの指先から小さな火球が次々に放出される。

 負けじと手のひらから糸を噴出する都。

 エノルメミエドの両手両足を絡みつかせ、一気に拘束しようと立て続けに糸を噴出する。


 だが・・・


「うぐっ・・・!?」

 攻め押していた都が、いきなり頭を抱えて苦しみだした。


「あぁぁぁぁっ!!」


 その苦しみ様は並大抵ではない!

「どうしたんだ!?」

 慌てて飛び寄る金鵄。しかし・・その金鵄も、


「うわぁぁっ!!」


 いきなり苦しみ藻掻いて、その場に落下した。

「どうしたの・・・?」

 構えていた弓を降ろし、状況を把握しようと見守る凛。

「命令だ・・・・。頭の中に・・マニトウスワイヤーの・・命令が、押し付けられる・・・・」
 金鵄が苦しそうに呟いた。

「支配!? てんこぶ姫も金鵄も精霊と同じ・・亜種生命体。だから、他の精霊と同じように支配できるのだ・・・!?」
 サラマンダーと対峙しながら、状況を見ていた青い妖魔狩人はそう答えた。

「り・・・凛・・・・」
 苦しそうに声を漏らす金鵄。

 その瞬間、金鵄の目は真っ赤に輝き空中高く舞い上がると、嘴を突き出し・・凛目掛けて急降下。


グザァツ!!


 鋭い嘴が凛の戦闘服を切り裂く。

 ついに金鵄がマニトウスワイヤーの支配下に置かれ、凛を攻撃しだしたのだ。

 凛の戦闘服は金鵄の霊力が篭った羽で編まれ、鋼の鎧に匹敵する防御力を持つ。
 だが、攻撃相手が同じ霊力の持ち主である金鵄だと、その力は相殺され普通の衣類と変わらない。

「金鵄・・・・」

 繰り返し襲いかかる金鵄に凛は一切抵抗できず、全身のアチコチに切り裂かれた傷が増えていく。

「金鵄、貴方とは戦えない・・・」
 繰り返される攻撃に凛はついに跪いてしまった。

「このまま・・妖魔狩人が倒されたら・・・」
 為す術もなく青い顔で見守る香苗。


「蜘蛛女・・・・」

 香苗は都に視線を送る。相変わらず頭を抱え苦しみ悶える姿が。

 そんな都の下に香苗は一目散に駆け寄ると・・・

「頼む・・・蜘蛛女、負けないでくれ・・・。お前が負けたら、全てが・・・。妖魔狩人もフェアウェイも街中も・・・。みんなが倒れてしまう・・・」

 涙ながらに訴えた。

「うぐっ・・・ぐっ・・・」

 言葉が届いているのか、いないのか・・。
 都は右に左に転げまわる。

 その状況を見つめていたエノルメミエド。

 新たに風の妖怪・・カマイタチを召喚すると、必死に都に呼びかける香苗に対して攻撃の指示を出した。


ズバッッ!!


 カマイタチから『真空魔法』が繰り出され、香苗の身体が切り裂かれる!


「ううっ!!?」


 いくらヌイグルミの身体とは言え痛みは感じる。
 切り裂かれた傷から綿がこぼれ落ち、その痛みは尋常でないはずだ。

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 それでも香苗は呼びかける。必死に・・何度も何度も・・・。

 香苗の身体もアチコチ切り裂かれ、意識も朦朧としてきた。


「た・・頼む・・よ、蜘蛛女・・・。い・・や・・・、てんこぶ・・ひ・・・・」

 そこまで言うと、香苗はついに力尽きて倒れてしまった。

 それを確認したかのように、カマイタチは止めの一撃を繰り出そうとしている。


シュッッッ!!


 そんなカマイタチの身体を、白く光る細い糸が幾重にも幾重にも・・巻き付いていった。

「・・ったく。姫と名乗るわたくしが下々の訴えに耳も貸さずに朽ち果てるなんて、許される事じゃないのですよ。まして、敵の支配下に陥るなんてことは死にも値する事ですわ!」

 真っ青な顔色だが赤い瞳を輝かせ、都は一気に糸を手繰った。
 そして、その勢いでカマイタチの胸を手刀で貫いた!!

 更にそのまま振り返り、金鵄にも糸を巻きつけその動きを封じこめた。

「てんこぶ姫・・・」

 凛が言葉を掛けるが、都は何も言わず気を失った香苗を担ぎあげると、グラウンドの隅に寝かしつけた。


「ありがとう・・・」


 それは側にいても聞こえにくい、小さな・・小さな呟き。


「マニトウスワイヤー・・。過去・・・貴女ほど本気で殺したいと思った相手はいませんでしたわ」

 怒りを噛みしめるように、ゆっくりと歩み寄る都。

 凛は再び弓を構え、いつでも攻撃できるように気を引き締める。

 スイッチが入ったように駈け出した都は、またもエノルメミエド目掛けて糸を吹き付ける。


「こんな子ども騙しの術が、本気で通用すると思っているのか?」

 降り注ぐ糸を真空を纏わせた手刀で切り裂いていくエノルメミエド。

「もちろん通用するとは思っていませんわ。これは貴女の注意を惹きつけるだけのもの・・・」

 都はそう言うと、一気に飛び上がりエノルメミエドの背後についた。
 そして、そのまま羽交い締めで抑えこむ。

「黒い妖魔狩人……今です!! 今すぐに、撃ち込みなさい!!」

 身動きとれないように更に力を込め、凛に向って叫んだ!


「てんこぶ姫・・・!?」

 弦を引く凛。

 だが、なかなかその矢を放つ事ができない。

 もし霊光矢が貫通し、その後ろにいる都にも刺さったら。
 都も妖怪。間違いなく浄化で消滅するだろう。それは先の戦いで証明されている。

 その間も必死で都を振りほどこうとするエノルメミエド。

 しかし、全ての妖力を込めてエノルメミエドを抑えこむ都。

「早くしなさい! たった一度のチャンスをわたくしは作ったのですよ!!」

 都の言葉にチラリと電光掲示板に目をやる凛。
 相も変わらず邪悪な精霊に襲われている街並みが映し出されている。


「ごめん・・・。てんこぶ姫・・・」


 そう呟くと、凛は弦を持つ手を緩め霊光矢を撃ち放った。

 青白い閃光が向かってくる。それを見てニコリと微笑む都。


 その時!!?


 エノルメミエド・・・いや、フェアウェイが身につけていたライトブラウンのポンチョがまるで意思をもったかのように・・大きく翻った!


「な・・・!?」


 予期せぬ事と・・、そのあまりの力に都の手が振りほどかれる。

「こ・・こんなことが・・!?」
 宙を舞う木の葉のようにエノルメミエドから離れていく都。


 その都の耳に・・・


― ありがとう・・てんこぶ姫。あとは私にまかせて・・・―

 静かで暖かな口調の女性の声が入ってきた!?


「そ・・その声は・・・?」

 聞き覚えのある声に驚愕する都。

 都の身体を振りほどいたポンチョは、今度はエノルメミエドの手足を拘束するようにギュッッッッ!!・・と締め付けた。

「ま・・まさか、あなた・・・・、バレンティア・・・ですの!?」

 必死で暴れ狂うエノルメミエドを更に力強く締め付ける・・・ライトブラウンのポンチョ!!


ズブッッッッ!!


 ついに、身動きできないエノルメミエドの胸に霊光矢が命中したっ!!


「ぐあっっっっ・・・!!」


 吹き飛ぶように倒れこんだエノルメミエド。

 突き刺さった胸を中心に青白い粒子が全身に行き渡っていく。

 必死で矢を抜こうともがき苦しむエノルメミエドだったが、やがて徐々にその動きが鈍くなり、ついには力尽きたように横たわった。


 すぐに駆け寄り、エノルメミエドの意識の確認をする凛と都。

 エノルメミエドはピクリとも動かない。
 都の視線は穴の開いたポンチョに移る。

 先程とは違い、倒れているフェアウェイの身体をゆったりと包んでいる。

「バレンティア・・・。貴女は最後の最後までフェアウェイを・・・。それどころか、わたくしまで助けてくださるなんて・・・。」
 都はそう呟きながら目を細めた。





第十三章 闇の女神へ続く。
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