2015.12.22 Tue
マニトウスワイヤー 第十三章 闇の女神
「フェアウェイ・・・、しっかりしなさい!!」
都は倒れているフェアウェイを抱え起こし、しきりに声を掛ける。
その声が耳に届いたのか、フェアウェイがピクリと反応した。
更に・・・
「バレン・・ティア・・・・」
と、言葉を返した。
「どうやら無事のようですわね・・・」
都は肩の荷を降ろしたように、ホッと溜息をついた。
「てんこぶ姫っ!! なんか・・おかしくない!?」
安心する都とは裏腹に動揺した凛の叫び超えが聞こえる。
凛の声に眉を潜めながら辺りを見回してみる。
「これは・・いったい!?」
エノルメミエドは凛と都で倒したはず。フェアウェイは元に戻っている・・・。
だが、すぐ目と鼻の先で、青い妖魔狩人と祢々は、エノルメミエドが召喚した精霊とまだ戦い続けたまま。
バックスクリーンのモニターに映し出される光景は今も変わらず、邪悪な精霊が蠢き人々を襲い続け、街は火の海と化している。
たしかに凛が驚くのも無理は無い。
「まさか・・・?」
驚きを隠せない二人。そんな二人の耳に・・・・
「ククク・・・ッ!」
低く、不気味な笑い声が聞こえてきた。
同時に、抱き起こされているフェアウェイの身体から、黒い靄のようなものが抜けだした。
黒い靄は、まるで蛇のようにクネクネと蠢きながら空中を移動すると、焼き焦がれたアンナ・フォンの死体の上で停止する。
すると、アンナ・フォンの口から気体のようで、また半液状のゼリー状の白い物体が浮き上がってきた。
「エクトプラズム・・・!?」
先程エノルメミエドの支配下に置かれ、都に糸で拘束された金鵄が元の口調で答えてきた。
「金鵄、正気に戻ったの!?」
凛が慌てて駆け寄る。
「うん、迷惑かけてすまなかった・・・。もう・・エノルメミエドの命令は僕には届いていない」
金鵄はそう言って、コクリと頷いた。
「で、エクトプラズムって・・?」
「エクトプラズムとは、霊体と肉体の中間に位置する幽体を作る素材のようなもの。誰の身体にも備わっているものだ」
そう言っている間に、アンナ・フォンの身体から抜き出したエクトプラズムを黒い靄はその中に取り込んでいった。
すると、黒い靄は次第に、人間の様な形に変化していく。
「サラマンダー、雪女郎・・。その力、その身体を余によこせ!!」
人型になった黒い靄はハッキリとそう叫んだ。
その言葉を聞いたサラマンダーと雪女郎は戦闘を中断し、黒い靄へ駆け寄る。
二人の身体はそのまま黒い靄に取り込まれていった。
「どういうことだ・・・!?」
戦いを中断された青い妖魔狩人も肩で息をしながら状況を見守る。
アンナ・フォンのエクトプラズム。サラマンダーと雪女郎の身体を取り込んだ黒い靄。
中途半端に形成された人型は更に細部に渡って形成され、やがて一人の美しい女性の姿へと変貌した。
それは、怪しく輝く・・長く真っ直ぐな髪。切れ長の目に、深い・・深い湖のように暗く蒼い瞳。長身で非の打ち所のない見事なプロポーション。
日本の卑弥呼とエジプトのクレオパトラを足して割ったような、見るからに女王の威厳を持った雰囲気。
「どうやら、アンナ・フォンと呼ばれる女のエクトプラズムをベースに他の二人の精霊を融合させ、一つの器となる肉体を形成し魂を取り憑かせたようだ・・・」
凛に糸を解かれた金鵄は、ゆっくりと羽ばたきながらそう答えた。
「危ない所だった。せっかく手に入れた天女の身体だったが・・・。だが、肉体を切り捨てなければ魂までもが浄化されてしまうところだった・・・」
先程以上に、重く冷たい言葉が新たな肉体から発せられる。
「一時的に新しい身体を形成したが、この肉体はそう長くは保たぬ。再び転生の儀式を施し、再度改めて天女の肉体に融合する日。それまでにまた・・・深き眠りにつき、幾年も魔力を貯めこまなくてはならない・・・。」
沈んだ面影でそう語るエノルメミエド。
「それだけに、この度・・永遠の命を手に入れるチャンスを邪魔してくれた貴様らに天罰を与えてくれようぞ!」
黒い、光を通さないオーラを纏わせ、エノルメミエドはゆっくりと左手を上げた。
その先が祢々に向いた瞬間・・・!!
螺旋状に舞う、無数の粉雪が祢々の身体を覆った。
「あぁぁぁっ!?」
瞬時に氷漬けに固められた祢々。
「祢々・・っ!!」
青い妖魔狩人が、直ぐ様治癒の術を使おうと右手を上げる。
だが、その青い妖魔狩人にも粉雪の舞いが襲いかかる。
なんと青い妖魔狩人も、そのまま凍らされてしまった。
「気をつけろ・・凛! 雪女郎の時より、はるかにレベルの高い吹雪の術だ!!」
金鵄の警告が響く!!
狙い撃ちされぬよう大きく二手に分かれる凛と都。
都はそのまま観客席に飛び入り、抱えていたフェアウェイを寝かしつけた。
「くらえっ!!」
凛の弓から、青白い閃光・・霊光矢が放たれる!!
エノルメミエドは慌てた様子もなく凛に向い吹雪を舞い起こすと、霊光矢を押し戻すように弾き返す。
一方都は、そんなエノルメミエドの背後に廻っており、その背に鋭い爪を突き立てた!!
「な・・っ!?」
突き立てた爪はエノルメミエドの身体に触れることなく、黒い靄によって取り押さえられている。
黒い靄は強力なバネのように、そのまま都の身体を弾き飛ばした。
激しくグラウンドに叩きつけられる都。
「なんですの・・・。あの黒い靄は・・・?」
「闇の障壁・・・・・」
金鵄がポツリと呟く。
「闇の・・障壁・・・?」
「そうだ、青い妖魔狩人が言っていたよね。マニトウスワイヤーの属性は『闇』だと。その闇属性による強力な防御壁をヤツは身に纏っているんだ・・・」
そう語る金鵄の表情は硬い。
「凛の属性は僕と同じ・・風(大気)。そして、てんこぶ姫の属性は、おそらく・・土(大地)のはずだ。だが、マニトウスワイヤーのような強い闇属性の持ち主だと、風・土・火・水による自然の四大属性では打ち破ることが難しいかもしれない」
金鵄の悲痛の言葉に、凛の表情も更に硬くなる。
そんな凛たちにお構いなく、エノルメミエドは追い打ちを掛けるよう攻撃を続ける。
周り全てを焼きつくすような強力な炎の渦が、凛を・・・都に襲いかかる!!
「うあぁぁぁつ!!」
いくら強力な防御力を誇る戦闘服を着ていても、それを上回る攻撃を受ければダメージは必至だ!
「くそっ!!」
凛も霊光矢で必死に反撃を試みてみるが、炎や吹雪の術に阻まれてしまう。
また、それらを潜り抜けても、闇の障壁によってエノルメミエドの本体に矢が届く事はなかった。
「凛の霊光矢が命中さえすれば、浄化して倒す事も可能かもしれない・・・。だが、あの闇の障壁は今の僕等には打ち破る術がない・・・・」
今まで数々の助言で凛を支えてきた金鵄。しかし、その金鵄すら・・全てを諦めかけている。
そして、凛や都にも長時間の戦いによる激しい疲労やダメージの色が、ハッキリ表れている。
いや、むしろ立っている事自体が、奇跡なのかもしれない。
「さすがに打つ手無しといったところかしら? こんな事なら素直に家でも帰って、ドレスでも縫っているんでしたわ」
そんな状態なのに、相も変わらず都の軽口。
くすっ・・♪
凛は思わず吹き出してしまった。
「・・・?」
「ううん。てんこぶ姫って、あまりに人間っぽくて妖怪とは思えない」
凛は、そう微笑みながら答えた。
「フッ・・! そう言う貴女こそあまりにお人好しすぎて、あの中国妖怪共が恐れをなしている・・妖魔狩人とは思えないですわ!」
都もお返しとばかりに微笑みながら、そう答える。
「お人好し・・なのかな? でも・・・・」
「うん?」
「でも、諦めの悪い・・ひねくれた性格だと思うよ!」
真面目な凛にしては珍しく黒い発言。
その言葉に同調するように、不敵な笑みを浮かべる都。
「それは、わたくしもですわ!」
その言葉を合図に、二人はエノルメミエドに向って再び駈け出した。
「てんこぶ姫! わたしの浄化の力で強引に障壁に穴を開けてみせる。だから貴方はその時を狙って一気に貫いて!!」
そう叫びながら、凛は弓を構えた。
「心得ましたわ!」
都は一層爪を鋭く尖らせる。
シュッッ!!
風切音と共に霊光矢が放たれた。だが案の定・・それは闇の障壁に突き刺さるだけで、本体へは届かない。
だが凛は更に霊光矢を形成すると、そのまま逆手に握りしめ大きく振りかぶる。
そして障壁に突き刺さっている矢の筈を目掛けて、矢尻で押し込むように振りぬく・・・
いや、振りぬこうとした瞬間・・・
バキッッッ!!
逆に振りぬいたエノルメミエドの左腕が、凛の身体を弾き飛ばした!!
ガンッッッ!!
勢い良くすっ飛び、フェンスに直撃する凛!
フェンスは粉々に崩れ落ち、凛もグッタリとしたまま起き上がれない!
「黒い妖魔狩人!?」
慌てて駆け寄ろうとする都をエノルメミエドは吹雪で遮る。
そして右腕をあげ炎の渦を巻き上げると、狙いを凛に定めた。
「凛ーっ!!?」
金鵄の悲痛な叫び声が響き渡る!
その時・・・・
「サンダー・・ブレイクーっ!!」
真横一直線に飛び交う雷撃が、炎を纏うエノルメミエドの右腕を直撃した。
その威力は激しく、一瞬で纏っていた炎すらも消し飛んでしまった。
「うむ・・? まだ他にも余に歯向かおうとする奴がいるのか・・・?」
エノルメミエドは雷撃が飛んできた方角を睨みつける。
その方角から一つの人影がゆっくりと歩み寄る。都も金鵄も呆然としたまま人影を見守る。
人影はやがてグッタリと倒れている凛の側に寄ると、優しく右手を差し出した。
「だ・・・だれ・・・?」
虚ろな目で見つめる凛。
凛の目に映る・・その人物は。
小柄で10代前半か半ばくらいの凛々しい顔立ちの少年・・・・?
いや、胸にはチューブトップ。そして・・ミニスカートを履いている・・・。
「お・・女・・の子・・・?」
凛がそう呟いた瞬間・・・
「遅れてごめんね! ボクの名は『神楽 巫緒』。
周りのみんなは・・『ミオ』って呼んでくれている」
そう言って、ニッコリと微笑んだ。
その頃、ドームスタジアム外の野外イベント場。
次から次へと湧き出るように現れる地霊や死人に、優里は大苦戦を強いられていた。
地霊や死人・・。いつもの優里なら『雑魚』と言っても過言ではない敵。
だが、強敵・・サンダーバードとの戦いで体力も・・そして霊力も使い果たし、立っているのさえ苦しい状態で、当然・・・薙刀を振るえるような力なんか残っていない。
「凛ちゃん・・・、今行くわ・・待っていて・・・」
それでも必死で立ち上がるのは、球場内の闇の力が更に増していったことを感じ取っていたから。
その中心で凛が戦っていると思うと、とても居ても立ってもいられない。
しかし、その気持とは裏腹に、足が一向に前に進まない。
「凛・・ちゃん・・・」
そんな優里に十数匹の地霊が襲いかかる。
必死で迎え撃とうとする優里・・・。だが、構えることすらままならない。
その時・・・!?
「ロック・ダイビング!」
何処からか呪文のような掛け声がかかったかと思うと、まるで豪雨のように無数の岩石が降り注いできた。
降り注ぐ岩石に次々に押し潰される地霊や死人。
「こ・・これは・・・!?」
驚く優里。そんな優里に・・
「そこの球場には、アンタにとって大切な子でもいるのかい?」
背後から、張りのある力強い口調の言葉が・・・。
それは、若草のような鮮やかな翠色の髪。艶やかな褐色の肌。誰もが羨むような、整ったプロポーション。
しかし、尖った耳・・。金色に光る瞳・・・。口元から覗く牙のような歯・・。
「あれは・・『魔族』の女性・・・!?」
物陰で様子を見ていたセコは新たに現れた人物を見て、思いがけない言葉を呟いた。
「そんな死にかけの身体のくせに、それでも向かおうとするなんて。アンタにとってよっぽどその子は大切なんだろうね~♪」
褐色の肌の女は、再び優里に問いかける。
「アタシにも、とっても美味し・・いや、大切な子がいてね! どうやら今回の事件の関係者の一人らしいんだけど」
女性はそう言って、目を細めると・・
「そろそろ…その子が、アンタの大切な子がいる場所に辿り着いているはずだよ!」
「関係者・・・? 貴女はいったい・・・?」
優里の問いに女は不敵な笑みを返した。
「アタシ・・? アタシは、ノーストル=シグーネ=アスタロト」
ここ、スタジアム内の飲食店が並ぶ通路で、千佳が這いずりながらグラウンドに向って進んでいた。
千佳も体力はまるで残っていない。
それに付け加え、唯一の武器である灼熱爪の右手は完全に粉砕している。
「凛・・・今・・行くっちゃ・・・」
それでもグラウンドから増強した邪悪な魔力を感じ取り、凛のために動かぬ身体を引きずっている。
そんな千佳にも死人や骨だけとなったアンデットモンスターが襲いかかる。
必死で払いのけながら前へ進む千佳だが、当然・・その抵抗にも限界がある。
あっと言う間に抑えこまれ、鋭い歯がその体に食い込もうとしていた。
「ウェポンアーム・・レーザーモード!!」
その時、若い女性の声が響き渡ったかと思うと、行く束の赤い閃光が駆け巡った。
赤い閃光は、千佳にのしかかっていた死人共を撃ち倒していく!!
更に・・・
「ウェポンアーム・・ヒートソードモード!!」
閃光のように走る人影が次々にアンデットを薙ぎ倒す。
「右手が・・銃になったり・・・、剣に・・なったり・・・?」
九死に一生を得た千佳が見たものは、剣化した右腕でモンスターたちを切り払う・・紫色の髪をした若い女性。
「もう心配ありませんよーっ♪」
突然、頭の上から・・甘い声が振りかけられる。
驚いて見上げると、そこには一人の少女が立っていた。
少女は十代半ば・・女子高校生くらいの年頃。
水色の長く透き通るようなストレートヘアに、海のように綺麗な瞳。
それは、優里に負けないくらいの美少女であった。
「酷い怪我をしちゃってますねぇ。特に右手がぁ・・・!?」
少女は千佳の身体を見て縦線が入るくらい顔をしかめる。
そして、右手で優しくその身体に触れると、
「全ての水の源・・その身体を癒やし給え。ヒーリング!!」
と呪文を唱えた。
光り輝く霧が千佳の身体を覆うと、見る見るうちに傷が癒えていく。
「青い妖魔狩人のような・・治癒の術なんね?」
「私のは魔法ですけどね。あとぉ・・その右手ですけど、それって妖力で変化した手ですよねぇ?」
少女の言葉に千佳は頷いた。
「なら、今すぐでは無理ですけど・・・、私と私の師である神官さんの二人でやれば、きっと治せると思います~ぅ!」
「マ・・・マジ・・ね・・!?」
「ハイ~っ♪」
そう微笑む少女の笑顔は、それだけで癒されるような心地良い笑顔だった。
「アンタ、一体・・何者っちゃね!?」
「あ・・っ、申し遅れました。私は~、水無月 聖魚(セイナ)。そっちの人は・・黒祥 紫亜(シア)さんっていいます!」
「神楽・・・巫緒・・・・?」
「噂で聞いた、光属性の・・奇跡の天女・・?」
その名を聞いて驚く都・・そして金鵄。
「貴女が、そのミオさん・・?」
凛の問いに、ミオは凛の手を握り引き起こしてやると・・
「本当はもっと早くボクがフェアウェイを預かる予定だったんだけど、ボク等の方にも彼奴(アイツ)等の邪魔が入ってね。それで遅れてしまった。本当にごめん!」
申し訳無さそうに微笑んだ。
「それにしてもキミは凄いね。いくら霊力が高いと言っても生身の普通の人間。なのに、ここまで頑張れるなんて! 初めて見たよ、キミのような凄い子!!
そちらの妖怪さんも凄い方だね! ここまで人間に力を貸して戦ってくれるなんて!」
「フン・・、人間の為なんかではありませんわ。 ああいう輩が嫌いなだけですわ!」
「そっか♪」
ミオは、少年のような屈託のない笑顔で返す。
そして二人の前に出ると、今度は鋭い眼光でエノルメミエドを睨みつけ・・
「ヤツの属性は闇。その闇属性を破るには光属性が一番効果的・・。だから、ボクの光属性魔法で奴の障壁に風穴を開ける!」
そう言って振り返り凛を見つめた。
「そうしたら、キミの浄化の技でトドメを刺して欲しい!」
ミオの言葉に凛は強く頷く。
「妖怪さん、援護をお願いっ!!」
ミオはそう言って都に目で合図を送ると、エノルメミエド目掛けて駆け出していった。
エノルメミエドの腕がミオを狙う。
シュッッ!!
だが、同時に駆け出した都が糸を噴出し、その腕を縛り上げた。
一瞬、身動きを封じられたエノルメミエド。
その隙を逃さず・・
「ホーリー・ライトっ!!」
ミオの腕から眩い光の魔法が放出された!
七色に輝く光魔法はエノルメミエドを包む闇の障壁に直撃・・・!
「こ・・これは、光属性魔法・・・!?」
驚くエノルメミエドをよそに、それ程大きくは無いがその障壁にポッカリと風穴を開ける事ができた!!
「今だ、凛っ!」
金鵄の掛け声に合わせ凛が弦を離す!
青白い閃光が一直線にエノルメミエドへ突き進む!
ズサッッ!!
鈍い音と共に霊光矢は障壁を通りぬけ、エノルメミエドの胸のど真ん中に突き刺さった!!
「やった!」
ミオが小さくガッツポーズを取る。
突き刺さった傷口から、青白い粒子が徐々に・・徐々に、蝕むように広がっていく。
「バ・・バカな・・、余が・・浄化なんか・・・されるはずが・・無い・・・」
苦し紛れの言葉か・・。
いや、たしかにエノルメミエドを包む黒い魔力は霊光矢の刺さった傷を包囲し、浄化の進行を食い止めようとしているようにも見える。
「嘘だろう? 今まで矢が刺さった身体の一部をもぎ落として浄化を食い止めたヤツはいたけど、自身の魔力や妖力で、凛の浄化を止めた奴はいない・・」
そのあまりの魔力の強さに、金鵄はただ・・ただ・・呆然としている。
「彼女(凛)の浄化の力よりマニトウスワイヤーの魔力の方が上回っているのか・・? 予想以上の魔力だね・・・」
予想外の出来事に、さすがのミオも驚きを隠せない。
「だったら黒い妖魔狩人の霊力に、わたくし達が手助けをしてやればいいだけの事ですわ!」
そう言って都は凛の背後にまわり、その肩を抱き抱えた。
そしてそのまま右手から糸を噴出し、エノルメミエドに突き刺さっている矢に巻きつける。
「なぜだ・・? てんこぶ姫の糸が凛の霊光矢に触れても浄化されない・・?」
夕時の戦いでは、都の妖力で形成されている蜘蛛の糸は凛の霊光矢に触れると消滅していたはず。
一体、何がどうなっているのか?
「今わたくしは自分の妖力の波長を、黒い妖魔狩人の霊力の波長に合わせていますの。だから糸が消えないのですわ・・・」
不敵な笑みを浮かべる都。
しかし、その身体からシュウ・・シュウ・・と蒸気のようなものが吹き出している。
よく見ると・・都の肌の表面はグツグツと煮えたぎるように泡立っており、誰の目から見てもこのままでは焼き崩れるのは明らかだ。
「てんこぶ姫・・・、貴女・・?」
都の異変を感じ取り、思わず声をあげる凛。
「妖怪が浄化の波長に妖力を合わせるなんて、それって自殺行為じゃないか! なんでそんな事を!?」
ミオも驚いて問い返す。
「今はそんな事はどうでもいいのです! それよりも黒い妖魔狩人。 わたくしの身体と糸を使って、貴女の霊力をもっとアイツに送り込みなさい・・・。そうしなければアイツを倒す事はできません!」
そう、都は凛の浄化の力で追撃できるように、自らの身体をパイプラインとしたのだ。
当然そんなことをすれば、妖怪である都の身体もただでは済まない。
「てんこぶ姫・・・」
唇を噛み締める凛。
全ての思いを霊力に変えたかのように、青白い光が都の身体を……蜘蛛の糸を伝わって、エノルメミエドに突き進んでいく!!
「ぐわぁぁぁ!!」
次々の送り込まれる凛の霊力。さすがのエノルメミエドも悲鳴を上げ始めた!
「くたばらん・・・、これくらいではくたばらんぞ・・!」
それでも、必死の抵抗を続けるエノルメミエド。
「妖怪さん・・ごめん! ボクの力も使わせてもらうよ・・・」
ミオはそう言って反対側から凛の肩を抱きしめた。
すると、ミオの身体からも光属性の魔力が糸を伝わってエノルメミエドの身体に流れ込んでいく!
凛の浄化の霊力と、ミオの光属性の魔力・・。
二つの闇と妖魔を消し去る力が重なりあって、ついにエノルメミエドの全身に亀裂が入る。
亀裂はまるで蜘蛛の糸のように細かく全身に広がり・・・
「バカなぁぁぁぁっ! 余は・・余は・・・余わぁぁぁぁぁぁっ!!」
ギャァァァァァァァッ!!!!!!
断末魔の叫びと共に、ついにエノルメミエドの身体は粉々に砕け散っていった。
エピローグへつづく・・・。
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都は倒れているフェアウェイを抱え起こし、しきりに声を掛ける。
その声が耳に届いたのか、フェアウェイがピクリと反応した。
更に・・・
「バレン・・ティア・・・・」
と、言葉を返した。
「どうやら無事のようですわね・・・」
都は肩の荷を降ろしたように、ホッと溜息をついた。
「てんこぶ姫っ!! なんか・・おかしくない!?」
安心する都とは裏腹に動揺した凛の叫び超えが聞こえる。
凛の声に眉を潜めながら辺りを見回してみる。
「これは・・いったい!?」
エノルメミエドは凛と都で倒したはず。フェアウェイは元に戻っている・・・。
だが、すぐ目と鼻の先で、青い妖魔狩人と祢々は、エノルメミエドが召喚した精霊とまだ戦い続けたまま。
バックスクリーンのモニターに映し出される光景は今も変わらず、邪悪な精霊が蠢き人々を襲い続け、街は火の海と化している。
たしかに凛が驚くのも無理は無い。
「まさか・・・?」
驚きを隠せない二人。そんな二人の耳に・・・・
「ククク・・・ッ!」
低く、不気味な笑い声が聞こえてきた。
同時に、抱き起こされているフェアウェイの身体から、黒い靄のようなものが抜けだした。
黒い靄は、まるで蛇のようにクネクネと蠢きながら空中を移動すると、焼き焦がれたアンナ・フォンの死体の上で停止する。
すると、アンナ・フォンの口から気体のようで、また半液状のゼリー状の白い物体が浮き上がってきた。
「エクトプラズム・・・!?」
先程エノルメミエドの支配下に置かれ、都に糸で拘束された金鵄が元の口調で答えてきた。
「金鵄、正気に戻ったの!?」
凛が慌てて駆け寄る。
「うん、迷惑かけてすまなかった・・・。もう・・エノルメミエドの命令は僕には届いていない」
金鵄はそう言って、コクリと頷いた。
「で、エクトプラズムって・・?」
「エクトプラズムとは、霊体と肉体の中間に位置する幽体を作る素材のようなもの。誰の身体にも備わっているものだ」
そう言っている間に、アンナ・フォンの身体から抜き出したエクトプラズムを黒い靄はその中に取り込んでいった。
すると、黒い靄は次第に、人間の様な形に変化していく。
「サラマンダー、雪女郎・・。その力、その身体を余によこせ!!」
人型になった黒い靄はハッキリとそう叫んだ。
その言葉を聞いたサラマンダーと雪女郎は戦闘を中断し、黒い靄へ駆け寄る。
二人の身体はそのまま黒い靄に取り込まれていった。
「どういうことだ・・・!?」
戦いを中断された青い妖魔狩人も肩で息をしながら状況を見守る。
アンナ・フォンのエクトプラズム。サラマンダーと雪女郎の身体を取り込んだ黒い靄。
中途半端に形成された人型は更に細部に渡って形成され、やがて一人の美しい女性の姿へと変貌した。
それは、怪しく輝く・・長く真っ直ぐな髪。切れ長の目に、深い・・深い湖のように暗く蒼い瞳。長身で非の打ち所のない見事なプロポーション。
日本の卑弥呼とエジプトのクレオパトラを足して割ったような、見るからに女王の威厳を持った雰囲気。
「どうやら、アンナ・フォンと呼ばれる女のエクトプラズムをベースに他の二人の精霊を融合させ、一つの器となる肉体を形成し魂を取り憑かせたようだ・・・」
凛に糸を解かれた金鵄は、ゆっくりと羽ばたきながらそう答えた。
「危ない所だった。せっかく手に入れた天女の身体だったが・・・。だが、肉体を切り捨てなければ魂までもが浄化されてしまうところだった・・・」
先程以上に、重く冷たい言葉が新たな肉体から発せられる。
「一時的に新しい身体を形成したが、この肉体はそう長くは保たぬ。再び転生の儀式を施し、再度改めて天女の肉体に融合する日。それまでにまた・・・深き眠りにつき、幾年も魔力を貯めこまなくてはならない・・・。」
沈んだ面影でそう語るエノルメミエド。
「それだけに、この度・・永遠の命を手に入れるチャンスを邪魔してくれた貴様らに天罰を与えてくれようぞ!」
黒い、光を通さないオーラを纏わせ、エノルメミエドはゆっくりと左手を上げた。
その先が祢々に向いた瞬間・・・!!
螺旋状に舞う、無数の粉雪が祢々の身体を覆った。
「あぁぁぁっ!?」
瞬時に氷漬けに固められた祢々。
「祢々・・っ!!」
青い妖魔狩人が、直ぐ様治癒の術を使おうと右手を上げる。
だが、その青い妖魔狩人にも粉雪の舞いが襲いかかる。
なんと青い妖魔狩人も、そのまま凍らされてしまった。
「気をつけろ・・凛! 雪女郎の時より、はるかにレベルの高い吹雪の術だ!!」
金鵄の警告が響く!!
狙い撃ちされぬよう大きく二手に分かれる凛と都。
都はそのまま観客席に飛び入り、抱えていたフェアウェイを寝かしつけた。
「くらえっ!!」
凛の弓から、青白い閃光・・霊光矢が放たれる!!
エノルメミエドは慌てた様子もなく凛に向い吹雪を舞い起こすと、霊光矢を押し戻すように弾き返す。
一方都は、そんなエノルメミエドの背後に廻っており、その背に鋭い爪を突き立てた!!
「な・・っ!?」
突き立てた爪はエノルメミエドの身体に触れることなく、黒い靄によって取り押さえられている。
黒い靄は強力なバネのように、そのまま都の身体を弾き飛ばした。
激しくグラウンドに叩きつけられる都。
「なんですの・・・。あの黒い靄は・・・?」
「闇の障壁・・・・・」
金鵄がポツリと呟く。
「闇の・・障壁・・・?」
「そうだ、青い妖魔狩人が言っていたよね。マニトウスワイヤーの属性は『闇』だと。その闇属性による強力な防御壁をヤツは身に纏っているんだ・・・」
そう語る金鵄の表情は硬い。
「凛の属性は僕と同じ・・風(大気)。そして、てんこぶ姫の属性は、おそらく・・土(大地)のはずだ。だが、マニトウスワイヤーのような強い闇属性の持ち主だと、風・土・火・水による自然の四大属性では打ち破ることが難しいかもしれない」
金鵄の悲痛の言葉に、凛の表情も更に硬くなる。
そんな凛たちにお構いなく、エノルメミエドは追い打ちを掛けるよう攻撃を続ける。
周り全てを焼きつくすような強力な炎の渦が、凛を・・・都に襲いかかる!!
「うあぁぁぁつ!!」
いくら強力な防御力を誇る戦闘服を着ていても、それを上回る攻撃を受ければダメージは必至だ!
「くそっ!!」
凛も霊光矢で必死に反撃を試みてみるが、炎や吹雪の術に阻まれてしまう。
また、それらを潜り抜けても、闇の障壁によってエノルメミエドの本体に矢が届く事はなかった。
「凛の霊光矢が命中さえすれば、浄化して倒す事も可能かもしれない・・・。だが、あの闇の障壁は今の僕等には打ち破る術がない・・・・」
今まで数々の助言で凛を支えてきた金鵄。しかし、その金鵄すら・・全てを諦めかけている。
そして、凛や都にも長時間の戦いによる激しい疲労やダメージの色が、ハッキリ表れている。
いや、むしろ立っている事自体が、奇跡なのかもしれない。
「さすがに打つ手無しといったところかしら? こんな事なら素直に家でも帰って、ドレスでも縫っているんでしたわ」
そんな状態なのに、相も変わらず都の軽口。
くすっ・・♪
凛は思わず吹き出してしまった。
「・・・?」
「ううん。てんこぶ姫って、あまりに人間っぽくて妖怪とは思えない」
凛は、そう微笑みながら答えた。
「フッ・・! そう言う貴女こそあまりにお人好しすぎて、あの中国妖怪共が恐れをなしている・・妖魔狩人とは思えないですわ!」
都もお返しとばかりに微笑みながら、そう答える。
「お人好し・・なのかな? でも・・・・」
「うん?」
「でも、諦めの悪い・・ひねくれた性格だと思うよ!」
真面目な凛にしては珍しく黒い発言。
その言葉に同調するように、不敵な笑みを浮かべる都。
「それは、わたくしもですわ!」
その言葉を合図に、二人はエノルメミエドに向って再び駈け出した。
「てんこぶ姫! わたしの浄化の力で強引に障壁に穴を開けてみせる。だから貴方はその時を狙って一気に貫いて!!」
そう叫びながら、凛は弓を構えた。
「心得ましたわ!」
都は一層爪を鋭く尖らせる。
シュッッ!!
風切音と共に霊光矢が放たれた。だが案の定・・それは闇の障壁に突き刺さるだけで、本体へは届かない。
だが凛は更に霊光矢を形成すると、そのまま逆手に握りしめ大きく振りかぶる。
そして障壁に突き刺さっている矢の筈を目掛けて、矢尻で押し込むように振りぬく・・・
いや、振りぬこうとした瞬間・・・
バキッッッ!!
逆に振りぬいたエノルメミエドの左腕が、凛の身体を弾き飛ばした!!
ガンッッッ!!
勢い良くすっ飛び、フェンスに直撃する凛!
フェンスは粉々に崩れ落ち、凛もグッタリとしたまま起き上がれない!
「黒い妖魔狩人!?」
慌てて駆け寄ろうとする都をエノルメミエドは吹雪で遮る。
そして右腕をあげ炎の渦を巻き上げると、狙いを凛に定めた。
「凛ーっ!!?」
金鵄の悲痛な叫び声が響き渡る!
その時・・・・
「サンダー・・ブレイクーっ!!」
真横一直線に飛び交う雷撃が、炎を纏うエノルメミエドの右腕を直撃した。
その威力は激しく、一瞬で纏っていた炎すらも消し飛んでしまった。
「うむ・・? まだ他にも余に歯向かおうとする奴がいるのか・・・?」
エノルメミエドは雷撃が飛んできた方角を睨みつける。
その方角から一つの人影がゆっくりと歩み寄る。都も金鵄も呆然としたまま人影を見守る。
人影はやがてグッタリと倒れている凛の側に寄ると、優しく右手を差し出した。
「だ・・・だれ・・・?」
虚ろな目で見つめる凛。
凛の目に映る・・その人物は。
小柄で10代前半か半ばくらいの凛々しい顔立ちの少年・・・・?
いや、胸にはチューブトップ。そして・・ミニスカートを履いている・・・。
「お・・女・・の子・・・?」
凛がそう呟いた瞬間・・・
「遅れてごめんね! ボクの名は『神楽 巫緒』。
周りのみんなは・・『ミオ』って呼んでくれている」
そう言って、ニッコリと微笑んだ。
その頃、ドームスタジアム外の野外イベント場。
次から次へと湧き出るように現れる地霊や死人に、優里は大苦戦を強いられていた。
地霊や死人・・。いつもの優里なら『雑魚』と言っても過言ではない敵。
だが、強敵・・サンダーバードとの戦いで体力も・・そして霊力も使い果たし、立っているのさえ苦しい状態で、当然・・・薙刀を振るえるような力なんか残っていない。
「凛ちゃん・・・、今行くわ・・待っていて・・・」
それでも必死で立ち上がるのは、球場内の闇の力が更に増していったことを感じ取っていたから。
その中心で凛が戦っていると思うと、とても居ても立ってもいられない。
しかし、その気持とは裏腹に、足が一向に前に進まない。
「凛・・ちゃん・・・」
そんな優里に十数匹の地霊が襲いかかる。
必死で迎え撃とうとする優里・・・。だが、構えることすらままならない。
その時・・・!?
「ロック・ダイビング!」
何処からか呪文のような掛け声がかかったかと思うと、まるで豪雨のように無数の岩石が降り注いできた。
降り注ぐ岩石に次々に押し潰される地霊や死人。
「こ・・これは・・・!?」
驚く優里。そんな優里に・・
「そこの球場には、アンタにとって大切な子でもいるのかい?」
背後から、張りのある力強い口調の言葉が・・・。
それは、若草のような鮮やかな翠色の髪。艶やかな褐色の肌。誰もが羨むような、整ったプロポーション。
しかし、尖った耳・・。金色に光る瞳・・・。口元から覗く牙のような歯・・。
「あれは・・『魔族』の女性・・・!?」
物陰で様子を見ていたセコは新たに現れた人物を見て、思いがけない言葉を呟いた。
「そんな死にかけの身体のくせに、それでも向かおうとするなんて。アンタにとってよっぽどその子は大切なんだろうね~♪」
褐色の肌の女は、再び優里に問いかける。
「アタシにも、とっても美味し・・いや、大切な子がいてね! どうやら今回の事件の関係者の一人らしいんだけど」
女性はそう言って、目を細めると・・
「そろそろ…その子が、アンタの大切な子がいる場所に辿り着いているはずだよ!」
「関係者・・・? 貴女はいったい・・・?」
優里の問いに女は不敵な笑みを返した。
「アタシ・・? アタシは、ノーストル=シグーネ=アスタロト」
ここ、スタジアム内の飲食店が並ぶ通路で、千佳が這いずりながらグラウンドに向って進んでいた。
千佳も体力はまるで残っていない。
それに付け加え、唯一の武器である灼熱爪の右手は完全に粉砕している。
「凛・・・今・・行くっちゃ・・・」
それでもグラウンドから増強した邪悪な魔力を感じ取り、凛のために動かぬ身体を引きずっている。
そんな千佳にも死人や骨だけとなったアンデットモンスターが襲いかかる。
必死で払いのけながら前へ進む千佳だが、当然・・その抵抗にも限界がある。
あっと言う間に抑えこまれ、鋭い歯がその体に食い込もうとしていた。
「ウェポンアーム・・レーザーモード!!」
その時、若い女性の声が響き渡ったかと思うと、行く束の赤い閃光が駆け巡った。
赤い閃光は、千佳にのしかかっていた死人共を撃ち倒していく!!
更に・・・
「ウェポンアーム・・ヒートソードモード!!」
閃光のように走る人影が次々にアンデットを薙ぎ倒す。
「右手が・・銃になったり・・・、剣に・・なったり・・・?」
九死に一生を得た千佳が見たものは、剣化した右腕でモンスターたちを切り払う・・紫色の髪をした若い女性。
「もう心配ありませんよーっ♪」
突然、頭の上から・・甘い声が振りかけられる。
驚いて見上げると、そこには一人の少女が立っていた。
少女は十代半ば・・女子高校生くらいの年頃。
水色の長く透き通るようなストレートヘアに、海のように綺麗な瞳。
それは、優里に負けないくらいの美少女であった。
「酷い怪我をしちゃってますねぇ。特に右手がぁ・・・!?」
少女は千佳の身体を見て縦線が入るくらい顔をしかめる。
そして、右手で優しくその身体に触れると、
「全ての水の源・・その身体を癒やし給え。ヒーリング!!」
と呪文を唱えた。
光り輝く霧が千佳の身体を覆うと、見る見るうちに傷が癒えていく。
「青い妖魔狩人のような・・治癒の術なんね?」
「私のは魔法ですけどね。あとぉ・・その右手ですけど、それって妖力で変化した手ですよねぇ?」
少女の言葉に千佳は頷いた。
「なら、今すぐでは無理ですけど・・・、私と私の師である神官さんの二人でやれば、きっと治せると思います~ぅ!」
「マ・・・マジ・・ね・・!?」
「ハイ~っ♪」
そう微笑む少女の笑顔は、それだけで癒されるような心地良い笑顔だった。
「アンタ、一体・・何者っちゃね!?」
「あ・・っ、申し遅れました。私は~、水無月 聖魚(セイナ)。そっちの人は・・黒祥 紫亜(シア)さんっていいます!」
「神楽・・・巫緒・・・・?」
「噂で聞いた、光属性の・・奇跡の天女・・?」
その名を聞いて驚く都・・そして金鵄。
「貴女が、そのミオさん・・?」
凛の問いに、ミオは凛の手を握り引き起こしてやると・・
「本当はもっと早くボクがフェアウェイを預かる予定だったんだけど、ボク等の方にも彼奴(アイツ)等の邪魔が入ってね。それで遅れてしまった。本当にごめん!」
申し訳無さそうに微笑んだ。
「それにしてもキミは凄いね。いくら霊力が高いと言っても生身の普通の人間。なのに、ここまで頑張れるなんて! 初めて見たよ、キミのような凄い子!!
そちらの妖怪さんも凄い方だね! ここまで人間に力を貸して戦ってくれるなんて!」
「フン・・、人間の為なんかではありませんわ。 ああいう輩が嫌いなだけですわ!」
「そっか♪」
ミオは、少年のような屈託のない笑顔で返す。
そして二人の前に出ると、今度は鋭い眼光でエノルメミエドを睨みつけ・・
「ヤツの属性は闇。その闇属性を破るには光属性が一番効果的・・。だから、ボクの光属性魔法で奴の障壁に風穴を開ける!」
そう言って振り返り凛を見つめた。
「そうしたら、キミの浄化の技でトドメを刺して欲しい!」
ミオの言葉に凛は強く頷く。
「妖怪さん、援護をお願いっ!!」
ミオはそう言って都に目で合図を送ると、エノルメミエド目掛けて駆け出していった。
エノルメミエドの腕がミオを狙う。
シュッッ!!
だが、同時に駆け出した都が糸を噴出し、その腕を縛り上げた。
一瞬、身動きを封じられたエノルメミエド。
その隙を逃さず・・
「ホーリー・ライトっ!!」
ミオの腕から眩い光の魔法が放出された!
七色に輝く光魔法はエノルメミエドを包む闇の障壁に直撃・・・!
「こ・・これは、光属性魔法・・・!?」
驚くエノルメミエドをよそに、それ程大きくは無いがその障壁にポッカリと風穴を開ける事ができた!!
「今だ、凛っ!」
金鵄の掛け声に合わせ凛が弦を離す!
青白い閃光が一直線にエノルメミエドへ突き進む!
ズサッッ!!
鈍い音と共に霊光矢は障壁を通りぬけ、エノルメミエドの胸のど真ん中に突き刺さった!!
「やった!」
ミオが小さくガッツポーズを取る。
突き刺さった傷口から、青白い粒子が徐々に・・徐々に、蝕むように広がっていく。
「バ・・バカな・・、余が・・浄化なんか・・・されるはずが・・無い・・・」
苦し紛れの言葉か・・。
いや、たしかにエノルメミエドを包む黒い魔力は霊光矢の刺さった傷を包囲し、浄化の進行を食い止めようとしているようにも見える。
「嘘だろう? 今まで矢が刺さった身体の一部をもぎ落として浄化を食い止めたヤツはいたけど、自身の魔力や妖力で、凛の浄化を止めた奴はいない・・」
そのあまりの魔力の強さに、金鵄はただ・・ただ・・呆然としている。
「彼女(凛)の浄化の力よりマニトウスワイヤーの魔力の方が上回っているのか・・? 予想以上の魔力だね・・・」
予想外の出来事に、さすがのミオも驚きを隠せない。
「だったら黒い妖魔狩人の霊力に、わたくし達が手助けをしてやればいいだけの事ですわ!」
そう言って都は凛の背後にまわり、その肩を抱き抱えた。
そしてそのまま右手から糸を噴出し、エノルメミエドに突き刺さっている矢に巻きつける。
「なぜだ・・? てんこぶ姫の糸が凛の霊光矢に触れても浄化されない・・?」
夕時の戦いでは、都の妖力で形成されている蜘蛛の糸は凛の霊光矢に触れると消滅していたはず。
一体、何がどうなっているのか?
「今わたくしは自分の妖力の波長を、黒い妖魔狩人の霊力の波長に合わせていますの。だから糸が消えないのですわ・・・」
不敵な笑みを浮かべる都。
しかし、その身体からシュウ・・シュウ・・と蒸気のようなものが吹き出している。
よく見ると・・都の肌の表面はグツグツと煮えたぎるように泡立っており、誰の目から見てもこのままでは焼き崩れるのは明らかだ。
「てんこぶ姫・・・、貴女・・?」
都の異変を感じ取り、思わず声をあげる凛。
「妖怪が浄化の波長に妖力を合わせるなんて、それって自殺行為じゃないか! なんでそんな事を!?」
ミオも驚いて問い返す。
「今はそんな事はどうでもいいのです! それよりも黒い妖魔狩人。 わたくしの身体と糸を使って、貴女の霊力をもっとアイツに送り込みなさい・・・。そうしなければアイツを倒す事はできません!」
そう、都は凛の浄化の力で追撃できるように、自らの身体をパイプラインとしたのだ。
当然そんなことをすれば、妖怪である都の身体もただでは済まない。
「てんこぶ姫・・・」
唇を噛み締める凛。
全ての思いを霊力に変えたかのように、青白い光が都の身体を……蜘蛛の糸を伝わって、エノルメミエドに突き進んでいく!!
「ぐわぁぁぁ!!」
次々の送り込まれる凛の霊力。さすがのエノルメミエドも悲鳴を上げ始めた!
「くたばらん・・・、これくらいではくたばらんぞ・・!」
それでも、必死の抵抗を続けるエノルメミエド。
「妖怪さん・・ごめん! ボクの力も使わせてもらうよ・・・」
ミオはそう言って反対側から凛の肩を抱きしめた。
すると、ミオの身体からも光属性の魔力が糸を伝わってエノルメミエドの身体に流れ込んでいく!
凛の浄化の霊力と、ミオの光属性の魔力・・。
二つの闇と妖魔を消し去る力が重なりあって、ついにエノルメミエドの全身に亀裂が入る。
亀裂はまるで蜘蛛の糸のように細かく全身に広がり・・・
「バカなぁぁぁぁっ! 余は・・余は・・・余わぁぁぁぁぁぁっ!!」
ギャァァァァァァァッ!!!!!!
断末魔の叫びと共に、ついにエノルメミエドの身体は粉々に砕け散っていった。
エピローグへつづく・・・。
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| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 21:06 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑