2015.12.23 Wed
マニトウスワイヤー 第八章 丘福ドームスタジアム
「てんこぶ姫・・・。あの天女の子を無事に送り届けることができたかな・・・?」
ベッドの中でうっすらと目を開け、凛が独り言のように呟いた。
「凛っ! 気がついたっちゃね!?」
ギュゥゥゥゥゥッ!!
千佳が抱きしめ、スリスリと頬擦りをし始める。
「千佳、ウザイっ! 離れてっ!!」
凛は力いっぱい千佳を押し返した。 シクシクと涙する千佳。
「あっ!? 雷撃で受けた傷が殆ど回復している・・?」
「ワタクシが治癒の術を施したから。まだ若干のダメージは残っているかもしれないけど、とりあえず動けるようになったはず」
浄化だけでなく、治癒系の術も使える青い妖魔狩人。
凛は深々と頭を下げた。
「で、凛ちゃん。その・・てんこぶ姫というのは?」
優里が再び話を戻す。
凛は都と出会った事・・。そしてサンダーバードとの戦いまで、その経緯を話した。
「まだ、天女の子が無事に送り届けられたという情報は入っていない。この丘福市の何処かで上手く逃げ延びていてくれればいいが・・・」
青い妖魔狩人は部屋の窓から夜の街並みを眺めながら呟いていると
「ちょっといいですか?」
祢々が話しかけてきた。
青い妖魔狩人の耳元で、二言・・三言話す祢々。
そのうち青い妖魔狩人の目つきが険しくなっていった。
振り向きざま凛や優里、千佳、金鵄を見渡すと
「最悪の情報が入った。 天女の子がエノルメミエドの手の者に拉致されたらしい」
と語った。
場の空気が一気に冷える。
「詳しい事情を知っている者がここに到着する。話はそれからだ」
十数分後、凛や青い妖魔狩人の前に現れたのは七~八歳くらいの少年。
それは子どもの姿をした妖怪『セコ』。
普段、柚子村で凛たちのために情報収拾の役割をこなしている。
そしてそのセコが抱きかかえている物は・・・
「あなたは、てんこぶ姫たちと一緒にいた・・!?」
予想外の再会に目を丸くする凛と金鵄。
「あたしの名は伊達香苗。なんつーか・・・こんな形(なり)だけど、元は人間の付喪神妖怪・・? っていうものらしい」
香苗はそう言うとピョコっと頭を下げた。
「一時間程前、河端町の一角で人間離れした者同士の争いがあったと連絡があったの。手下に様子を見に行かせたら、荒れ果てた街の中にこの妖気を持ったヌイグルミが落ちていたそうよ」
祢々は簡単に経緯を話した。
香苗はピョコンと床に降りると凛の足元に歩み寄り
「貴方……、蜘蛛女と戦った妖魔狩人だよね?」
「えっ!? ええ・・そうですけど・・・?」
香苗はそこまで言うと床に両手をつき額が擦れそうなくらい頭を下げ、すなわち深々と土下座をした。
「アイツの事は大っ嫌いだけど、今回だけは別・・・。 お願い! あの蜘蛛女を助けてやって・・・!」
そのただならぬ決意に、凛たちは驚きを隠せなかった。
「いったい何があったの?」
温和で軟らかい口調の優里が話しかけた。
すると香苗は呆然とした顔で優里の顔を見つめ、
「アンタも・・・妖魔狩人だったんだ?」
と小さく呟いた。
「えっ!?」
「い・・いや、こっちの事・・・。 それより・・えっと・・・。
そうそう、奴ら・・マニトウスワイヤーって奴らがあたし達に襲いかかってきたんだ。 蜘蛛女はフェアウェイを守るために戦ったけど負けてしまって・・・。 あたしも蜘蛛女もさっきまで気を失っていたんだけど・・・・」
ここまで言うと香苗の肩がワナワナと震えだした。
「アイツ、たった一人でフェアウェイを助けに行ったんだ!! ボロボロの身体のくせして・・!!」
「でもっ・・ちゃ・・・」
今まで黙っていた千佳が問いかけた。
「その蜘蛛女・・。都市伝説では人を食べるような極悪な妖怪っちゃろ? そんなヤツが人間のために、そこまでするっちゃか!?」
千佳の問いに香苗はしばらく黙っていたが
「アイツと一緒に過ごした時間はそれほど長くはないんだけど。たしかにあんたの言う通り、アイツは人を殺してその肉を喰う・・・。
今回もフェアウェイと一緒にいたバレンティアっていう女性を食べた・・・」
その言葉に凛も千佳も表情を曇らせる。
「でも・・その時バレンティアさんは瀕死の重症で、とても延命できる状態では無かった。
そして食べた後にアイツ・・こう言ったんだ・・・・」
この時ヌイグルミであるはずの香苗の目に、涙が溜まっていることに皆が気づいていた。
「『貴方の意志とその想いは、差し出したその身と共にわたくしが全て引き継ぎました。 姫の冠にかけてこの生命に変えても、この子は無事に守りぬく事を約束しますわ』 ・・と」
この場にいた誰もが言葉を失った。
「アイツは復讐代行なんて事を口実に気まぐれで人を殺したり食べたりもする最悪なヤツだけど・・・。でも・・約束だけは破ったことが無い」
シンと鎮まり返った空気の中、凛がそっと口を開いた。
「てんこぶ姫を助けましょう!」
その言葉に優里も千佳も黙って頷いた。
「ちょっと待ちなさい!」
凛とした言葉が場の空気を遮った。
その言葉を発したのは青い妖魔狩人・・・・。
「天女の子を手に入れた今、奴らはエノルメミエドの転生儀式をすぐにでも始めるはずだ。 かなりの魔力を使う為、早急に終わるような儀式では無いにしろ、おそらく明朝までには儀式は終えエノルメミエドが復活するだろう。 ・・となれば勝負は明朝まで。 もし復活を阻止できなければ我々に勝機は無い」
緊迫した空気が辺りを包む。
「伊達香苗と言ったわね? 貴方、てんこぶ姫が何処へ向ったかわかる?」
「い・・いや・・・。アイツ、フェアウェイの匂いを辿っていくとか言って・・・」
香苗の言葉に青い妖魔狩人は眉を潜めた。
「相当な魔力を使う儀式・・・、おそらく地の利の有効な場所で行うはず・・・。一体何処・・?」
「全員で手分けして探すしか・・ないっちゃないの?」
「それでは戦いになった時、圧倒的に不利・・・」
「みんな丘福市の地図よ!」
祢々はそう言って市内地図をテーブルに広げた。
「魔力を上げるのに有効な地の利の条件と言うのは?」
凛が金鵄に尋ねる。
「うん・・色々あるけど、古くから魔の儀式が行われていた場所とか・・・。もしくは魔力を上げる、六芒星の形を司る場所とか・・・だね。」
「六芒星・・・?」
金鵄の助言を参考に目を皿のようにして地図を探る。
「これは・・・?」
優里がある一箇所を指さした。
「丘福ドームスタジアム・・!? それって神田川ボークスっていう、プロ野球チームのホームグラウンドじゃないっちゃか?」
「その辺は詳しく知らないけど。でも・・この形、殆ど六角形でしょう?」
「なるほど六芒星に当てはまる・・・。たしかにその可能性は高い」
青い妖魔狩人も頷く。
「今日、そこではナイター試合が行われているはず」
「儀式で必要な生贄も充分事足りるわね」
「行きましょうドームスタジアムへ!!」
凛がスクっと立ち上がった。
地下鉄『東陣町』駅。
神田川県が誇る施設の一つ、丘福ドームスタジアムの最寄りの駅である。
地下鉄が急遽運行停止となっていたため、青い妖魔狩人の用意した車で到着した一行。
もっとも一般公道も所々閉鎖されており、近辺に車両を停めて、警察等の目を掻い潜ってやっと辿り着いたのだが。
駅に着いて、その原因がよくわかった。
そこにはおびただしい数の負傷者や、死体が横たわっている。
現場に駆けつけたであろう警官たちの姿もそこにあった。
今現在、この地で二本の足で立って歩いているのは、パペット・マスターが操るマネキン人形化した者と、そしてこの地に憑依していたであろう霊魂や精霊が実体化した姿。
おそらくこの者たちが、ここに倒れている人間たちを襲ったのであろう。
「てんこぶ姫は、辿り着いているの?」
凛は真っ先に都の姿を見つけようと、辺りを見回した。
「凛、先の方で何者かが戦っている気配がする!」
上空から見渡す金鵄が、ドームスタジアムへ続く一本の道の先を見てそう叫んだ。
「先へ進もう!」
凛たちはドームスタジアムを目指し、まっすぐ突き進んだ。
途中十数体のマネキン人形たちが襲いかかってくるが、凛・優里・千佳・青い妖魔狩人・祢々。
彼女たちは何度も妖怪と戦い続けた強者。
次々と撃破し、さらに凛の浄化の矢や青い妖魔狩人の浄化の術で、マネキン人形を元の人間に戻していった。
「す・・凄いっ! これが・・妖魔狩人の実力なんだ・・・!?」
金鵄にぶら下り上空から戦いを眺めていた香苗は、初めて見る妖魔狩人たちの戦いに驚きを隠せなかった。
「あそこだ!?」
金鵄の声で辿り着いたその場所はドームスタジアム正面にある大階段。
そこへ続く大歩道の脇にある野外イベント用の敷地。
凛たちの目に入ったのは、全身傷だらけで倒れ伏せている都とその前で佇むサンダーバードの姿。
「てんこぶ姫っ・・!?」
すぐさま都の下へ駆けつける凛。
「あら・・、こんな場所でまた会うなんて・・。 野球観戦なら・・向こうの建物ですわよ・・・」
軽口は叩いているものの、文字通り虫の息である。
「馬鹿なこと言っていないでっ!! 青い妖魔狩人さん・・・!」
凛はそう言うと青い妖魔狩人を呼び寄せた。
「青い妖魔狩人さん。あなたの治癒の術でてんこぶ姫を回復させてください!」
凛の言葉に青い妖魔狩人はチラリと都に目を向けたが、静かに首を横に振った。
「ワタクシにとって妖怪は敵。その敵の治癒なんてできないわね」
「今・・てんこぶ姫は天女の子を救い出すという共通の目的を持った、いわば仲間です! 治癒をお願いします!」
「できない」
青い妖魔狩人はキッパリと答える。
それを聞いていた優里、
「貴方と一緒に行動を共にしている祢々さん。彼女も妖怪ですよね?」
と問い返した。
「祢々の一族は遥か昔からワタクシに仕えてきた。妖怪とはいえ信頼できる」
「なら、全ての妖怪が敵という考えは早計ではありませんか?」
「・・・・・・・」
「今回だけ目を瞑ることはできませんか?」
珍しく食い下がる優里。
「わかった・・・」
青い妖魔狩人は小さくため息をつくと、両手を高々と掲げる。
水流の輪を作り静かに都の下に引き下ろすと、それは無数の水泡となって都を包み込んだ。
凛自身も、そして以前も優里や千佳に行ったことのある、青い妖魔狩人の治癒の術。
「ありがとうございます・・・」
凛は青い妖魔狩人に頭を下げた。
第九章 妖魔狩人VS闇の精霊へ続く。
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ベッドの中でうっすらと目を開け、凛が独り言のように呟いた。
「凛っ! 気がついたっちゃね!?」
ギュゥゥゥゥゥッ!!
千佳が抱きしめ、スリスリと頬擦りをし始める。
「千佳、ウザイっ! 離れてっ!!」
凛は力いっぱい千佳を押し返した。 シクシクと涙する千佳。
「あっ!? 雷撃で受けた傷が殆ど回復している・・?」
「ワタクシが治癒の術を施したから。まだ若干のダメージは残っているかもしれないけど、とりあえず動けるようになったはず」
浄化だけでなく、治癒系の術も使える青い妖魔狩人。
凛は深々と頭を下げた。
「で、凛ちゃん。その・・てんこぶ姫というのは?」
優里が再び話を戻す。
凛は都と出会った事・・。そしてサンダーバードとの戦いまで、その経緯を話した。
「まだ、天女の子が無事に送り届けられたという情報は入っていない。この丘福市の何処かで上手く逃げ延びていてくれればいいが・・・」
青い妖魔狩人は部屋の窓から夜の街並みを眺めながら呟いていると
「ちょっといいですか?」
祢々が話しかけてきた。
青い妖魔狩人の耳元で、二言・・三言話す祢々。
そのうち青い妖魔狩人の目つきが険しくなっていった。
振り向きざま凛や優里、千佳、金鵄を見渡すと
「最悪の情報が入った。 天女の子がエノルメミエドの手の者に拉致されたらしい」
と語った。
場の空気が一気に冷える。
「詳しい事情を知っている者がここに到着する。話はそれからだ」
十数分後、凛や青い妖魔狩人の前に現れたのは七~八歳くらいの少年。
それは子どもの姿をした妖怪『セコ』。
普段、柚子村で凛たちのために情報収拾の役割をこなしている。
そしてそのセコが抱きかかえている物は・・・
「あなたは、てんこぶ姫たちと一緒にいた・・!?」
予想外の再会に目を丸くする凛と金鵄。
「あたしの名は伊達香苗。なんつーか・・・こんな形(なり)だけど、元は人間の付喪神妖怪・・? っていうものらしい」
香苗はそう言うとピョコっと頭を下げた。
「一時間程前、河端町の一角で人間離れした者同士の争いがあったと連絡があったの。手下に様子を見に行かせたら、荒れ果てた街の中にこの妖気を持ったヌイグルミが落ちていたそうよ」
祢々は簡単に経緯を話した。
香苗はピョコンと床に降りると凛の足元に歩み寄り
「貴方……、蜘蛛女と戦った妖魔狩人だよね?」
「えっ!? ええ・・そうですけど・・・?」
香苗はそこまで言うと床に両手をつき額が擦れそうなくらい頭を下げ、すなわち深々と土下座をした。
「アイツの事は大っ嫌いだけど、今回だけは別・・・。 お願い! あの蜘蛛女を助けてやって・・・!」
そのただならぬ決意に、凛たちは驚きを隠せなかった。
「いったい何があったの?」
温和で軟らかい口調の優里が話しかけた。
すると香苗は呆然とした顔で優里の顔を見つめ、
「アンタも・・・妖魔狩人だったんだ?」
と小さく呟いた。
「えっ!?」
「い・・いや、こっちの事・・・。 それより・・えっと・・・。
そうそう、奴ら・・マニトウスワイヤーって奴らがあたし達に襲いかかってきたんだ。 蜘蛛女はフェアウェイを守るために戦ったけど負けてしまって・・・。 あたしも蜘蛛女もさっきまで気を失っていたんだけど・・・・」
ここまで言うと香苗の肩がワナワナと震えだした。
「アイツ、たった一人でフェアウェイを助けに行ったんだ!! ボロボロの身体のくせして・・!!」
「でもっ・・ちゃ・・・」
今まで黙っていた千佳が問いかけた。
「その蜘蛛女・・。都市伝説では人を食べるような極悪な妖怪っちゃろ? そんなヤツが人間のために、そこまでするっちゃか!?」
千佳の問いに香苗はしばらく黙っていたが
「アイツと一緒に過ごした時間はそれほど長くはないんだけど。たしかにあんたの言う通り、アイツは人を殺してその肉を喰う・・・。
今回もフェアウェイと一緒にいたバレンティアっていう女性を食べた・・・」
その言葉に凛も千佳も表情を曇らせる。
「でも・・その時バレンティアさんは瀕死の重症で、とても延命できる状態では無かった。
そして食べた後にアイツ・・こう言ったんだ・・・・」
この時ヌイグルミであるはずの香苗の目に、涙が溜まっていることに皆が気づいていた。
「『貴方の意志とその想いは、差し出したその身と共にわたくしが全て引き継ぎました。 姫の冠にかけてこの生命に変えても、この子は無事に守りぬく事を約束しますわ』 ・・と」
この場にいた誰もが言葉を失った。
「アイツは復讐代行なんて事を口実に気まぐれで人を殺したり食べたりもする最悪なヤツだけど・・・。でも・・約束だけは破ったことが無い」
シンと鎮まり返った空気の中、凛がそっと口を開いた。
「てんこぶ姫を助けましょう!」
その言葉に優里も千佳も黙って頷いた。
「ちょっと待ちなさい!」
凛とした言葉が場の空気を遮った。
その言葉を発したのは青い妖魔狩人・・・・。
「天女の子を手に入れた今、奴らはエノルメミエドの転生儀式をすぐにでも始めるはずだ。 かなりの魔力を使う為、早急に終わるような儀式では無いにしろ、おそらく明朝までには儀式は終えエノルメミエドが復活するだろう。 ・・となれば勝負は明朝まで。 もし復活を阻止できなければ我々に勝機は無い」
緊迫した空気が辺りを包む。
「伊達香苗と言ったわね? 貴方、てんこぶ姫が何処へ向ったかわかる?」
「い・・いや・・・。アイツ、フェアウェイの匂いを辿っていくとか言って・・・」
香苗の言葉に青い妖魔狩人は眉を潜めた。
「相当な魔力を使う儀式・・・、おそらく地の利の有効な場所で行うはず・・・。一体何処・・?」
「全員で手分けして探すしか・・ないっちゃないの?」
「それでは戦いになった時、圧倒的に不利・・・」
「みんな丘福市の地図よ!」
祢々はそう言って市内地図をテーブルに広げた。
「魔力を上げるのに有効な地の利の条件と言うのは?」
凛が金鵄に尋ねる。
「うん・・色々あるけど、古くから魔の儀式が行われていた場所とか・・・。もしくは魔力を上げる、六芒星の形を司る場所とか・・・だね。」
「六芒星・・・?」
金鵄の助言を参考に目を皿のようにして地図を探る。
「これは・・・?」
優里がある一箇所を指さした。
「丘福ドームスタジアム・・!? それって神田川ボークスっていう、プロ野球チームのホームグラウンドじゃないっちゃか?」
「その辺は詳しく知らないけど。でも・・この形、殆ど六角形でしょう?」
「なるほど六芒星に当てはまる・・・。たしかにその可能性は高い」
青い妖魔狩人も頷く。
「今日、そこではナイター試合が行われているはず」
「儀式で必要な生贄も充分事足りるわね」
「行きましょうドームスタジアムへ!!」
凛がスクっと立ち上がった。
地下鉄『東陣町』駅。
神田川県が誇る施設の一つ、丘福ドームスタジアムの最寄りの駅である。
地下鉄が急遽運行停止となっていたため、青い妖魔狩人の用意した車で到着した一行。
もっとも一般公道も所々閉鎖されており、近辺に車両を停めて、警察等の目を掻い潜ってやっと辿り着いたのだが。
駅に着いて、その原因がよくわかった。
そこにはおびただしい数の負傷者や、死体が横たわっている。
現場に駆けつけたであろう警官たちの姿もそこにあった。
今現在、この地で二本の足で立って歩いているのは、パペット・マスターが操るマネキン人形化した者と、そしてこの地に憑依していたであろう霊魂や精霊が実体化した姿。
おそらくこの者たちが、ここに倒れている人間たちを襲ったのであろう。
「てんこぶ姫は、辿り着いているの?」
凛は真っ先に都の姿を見つけようと、辺りを見回した。
「凛、先の方で何者かが戦っている気配がする!」
上空から見渡す金鵄が、ドームスタジアムへ続く一本の道の先を見てそう叫んだ。
「先へ進もう!」
凛たちはドームスタジアムを目指し、まっすぐ突き進んだ。
途中十数体のマネキン人形たちが襲いかかってくるが、凛・優里・千佳・青い妖魔狩人・祢々。
彼女たちは何度も妖怪と戦い続けた強者。
次々と撃破し、さらに凛の浄化の矢や青い妖魔狩人の浄化の術で、マネキン人形を元の人間に戻していった。
「す・・凄いっ! これが・・妖魔狩人の実力なんだ・・・!?」
金鵄にぶら下り上空から戦いを眺めていた香苗は、初めて見る妖魔狩人たちの戦いに驚きを隠せなかった。
「あそこだ!?」
金鵄の声で辿り着いたその場所はドームスタジアム正面にある大階段。
そこへ続く大歩道の脇にある野外イベント用の敷地。
凛たちの目に入ったのは、全身傷だらけで倒れ伏せている都とその前で佇むサンダーバードの姿。
「てんこぶ姫っ・・!?」
すぐさま都の下へ駆けつける凛。
「あら・・、こんな場所でまた会うなんて・・。 野球観戦なら・・向こうの建物ですわよ・・・」
軽口は叩いているものの、文字通り虫の息である。
「馬鹿なこと言っていないでっ!! 青い妖魔狩人さん・・・!」
凛はそう言うと青い妖魔狩人を呼び寄せた。
「青い妖魔狩人さん。あなたの治癒の術でてんこぶ姫を回復させてください!」
凛の言葉に青い妖魔狩人はチラリと都に目を向けたが、静かに首を横に振った。
「ワタクシにとって妖怪は敵。その敵の治癒なんてできないわね」
「今・・てんこぶ姫は天女の子を救い出すという共通の目的を持った、いわば仲間です! 治癒をお願いします!」
「できない」
青い妖魔狩人はキッパリと答える。
それを聞いていた優里、
「貴方と一緒に行動を共にしている祢々さん。彼女も妖怪ですよね?」
と問い返した。
「祢々の一族は遥か昔からワタクシに仕えてきた。妖怪とはいえ信頼できる」
「なら、全ての妖怪が敵という考えは早計ではありませんか?」
「・・・・・・・」
「今回だけ目を瞑ることはできませんか?」
珍しく食い下がる優里。
「わかった・・・」
青い妖魔狩人は小さくため息をつくと、両手を高々と掲げる。
水流の輪を作り静かに都の下に引き下ろすと、それは無数の水泡となって都を包み込んだ。
凛自身も、そして以前も優里や千佳に行ったことのある、青い妖魔狩人の治癒の術。
「ありがとうございます・・・」
凛は青い妖魔狩人に頭を下げた。
第九章 妖魔狩人VS闇の精霊へ続く。
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