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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 番外 if

   ● 新・食品工場物語 ●


 ゴゴゴゴゴッ!と唸るような機械音が鳴り響き、なんと……凛のいる部屋の鉄製の壁が、少しずつ押し出されるように狭まってきた。
 正確には左右の壁の一部と、前面の壁の一部。そして繰り抜いたような、天井の一部であった鉄板だ。
「な…なにを、する気っ!?」
 痺れのせいでマトモに立ち上がることもできず、背面の壁に保たれたまま逃げ場を失う凛。
「な~んにも怖がることはないの。ただ……柔らか~いお子ちゃまのお肉を、更に柔らかくなるように、押し潰すだけ!」
 内部カメラから状況を覗いているオーナー妹は、嬉しそうに声を掛けた。

 もはや、絶体絶命のピンチに見舞われた凛。
 どうして、こんな状況に陥ったのか……?




 事のきっかけは、友人……千佳とのさりげない会話からだった。



「結局、丘福市で騒がれた都市伝説の数々って、妖木妃絡みだったちゃね!?」
「えっ?」
「だって、そうっちゃろ!? 人喰い蜘蛛女は、妖樹の木から転生した『てんこぶ姫』だったし、羽の生えた巨大蛇、踊る招き猫、はたまた……猫女とか猫耳忍者。聞くところによると、みんな発端は妖木妃絡みっちゃね?」
「もう、済んだことだからいいじゃない。それより中間テスト、来週だよ。前日になって、わたしの所に駆け込まないでよ?」
 凛はそう言って、千佳からの振りを適当にかわした。

 妖木妃との最終決戦から一ヶ月。
 あれから柚子村は、何事もなく平和な日々を過ごしている。妖木妃を倒し、ムッシュ・怨獣鬼も倒した今、人々が妖怪に襲われたり食べられたりすることはないんだ。
 静かに思いに耽っていると、再び千佳が話を振ってきた。
「でも、牛味町だったかな?なんか……あっちの方じゃ、妖怪作業員とか言う化け物が、今でも出るとか噂になってるみちゃっちゃよ!」
「妖怪作業員……?」
「うん、作業服着たゾンビみたいな化け物らしいっちゃ!まぁ……ウチもネットで見た話だから、あんまりアテにならんけど、踊る招き猫に匹敵する都市伝説っちゃね!」
 千佳はそう言ってニタリと笑う。だが、凛の思いつめたような真剣な表情を見ると、「心配ないちゃよ。妖木妃も死んだし、奴らが活動した柚子村や丘福市でもないやん!ただの都市伝説っちゃよ!」そう言って、慰めるように凛の肩に抱きついた。

 そっか、千佳は知らないんだった。妖怪化人間が巣食った……牛味町の食品工場のことは。


 次の日曜日、千佳の話が気になった凛は、単身牛味駅に降り立った。タクシーで約15分。山々に囲まれた、幾つかの倉庫や工場。
 そのうちの一つ、今では営業休止となった大手冷凍食品会社の神田川第一工場の前に足を運んだ。
 あの時は優里お姉さんと二人で来たんだった。そう思いながら、工場敷地内に足を踏み入れる。工場はあの時のままで、人影はまるでない。
 さらに裏へ回り、非常口と書かれた扉から中を覗いてみる。
 うん、妖怪や人影どころか、小動物の姿すら感じられない。
 そうだよ。妖木妃が死んだ今、妖怪化人間が生まれてくる事も無いもんね。やはり、千佳の言っていたとおり、ただの噂だったんだ!
 安心した凛は、さっさと家に帰ろうと踵を返した。その瞬間……!
ガンッ!! 
 振り向いた顔面に強い衝撃を感じ、そのまま仰け反るようにひっくり返ってしまった。黒一色の世界に、無数の星がチカチカと瞬く。
 更に、何があったのか考える間も無く、何者かに身体の上に覆い被さるように乗っかられ、強い力で顎を挟みつけられた。そして、開かれた口の中に小さな錠剤のようなものを放り込まれると、それを強引に呑み込まされたのだ。
「な……なんなの!?」
 身体から重みが消え、顔を擦りながらゆっくりと瞼を開くと、目の前に一人の中年女性が立っていた。
「うふふふっ♪ 珍しいこともあるもんだね。こんな美味しそうな子鹿ちゃんが、わざわざ……アタシ等の巣に入り込んでくるなんて!」
 そう言ってニヤリと微笑む中年女だが、な…なんと、その口端はまるで耳まで届きそうなくらいに裂けている。
 その笑顔を見た凛の脳裏に、あの夜の事が思い出された。

妖怪工場オーナー

「あ…貴方は、この工場のオーナー!?」
 そう、妖怪化した作業員を束ねていた、この工場のオーナーであり、同様の妖怪化人間。
「で…でも、まさか……。貴方はわたしが浄化したはず……」
「へぇ~っ!?アンタ、アタシの姉の事を知っているの?」驚きの表情を浮かべる中年女。「そうか。そう言えば……アンタ、今……浄化って言っていたわね。なるほど、姉を人間に戻したのは、アンタね。アタシは、その姉の双子の妹さ!」
 ニタリと笑うその口には、牙のような歯が。そして両手の爪は刃物のように鋭く伸びている。

 更に、今までどこに潜んでいたのか? 四人の作業員たちが姿を現した。しかも、同じように鋭い爪と牙。どうやら、この者たちも妖怪化人間のようだ。
「どうして、これだけの妖怪化人間が……?」
 その疑問に答えるようにオーナー妹は、「アンタがアタシの姉たちと戦ったとき。アタシたちは食料となる人間たちを調達に、トラックで街中へ赴いていたのさ!」そう言って、食品配送用のトラックを指差した。
「ところが戻ってきたら、ただ一人だけ隠れて逃げ延びた作業員がいただけで、他は皆……人間に戻されたと聞いてね、驚いたわよ。」
「やっぱり、生き残りがいたんだ……」 凛はそう呟くと、「霊装っ!!」戦闘準備を整えた。
「ほぉ!たった一人でアタシたちを相手にする気かい!?」
「妖怪化人間なんて、今のわたしなら一人で十分です!」気後れすることもなく、凛とした口調で弓を構える。
 しかし、その姿勢は長くは続かなかった。急にビリリリッ…と、電流が走るような痺れが脚や腰、下半身に襲いかかってきたのだ。
「…なっ!?」それは痛みというより、感覚が麻痺するような痺れ。そして徐々に体全体に回り、ついに凛は、腰を抜かしたようにその場に尻もちをついた。
「さっき飲ませた薬、やっと効いてきたようね!」
 そう言って、不敵な笑みを浮かべるオーナー妹。「以前、アタシと姉で作った、毒キノコを元にした痺れ薬。アンタに飲ませたのは、それの即効性タイプだったんだけど、効くまで少し時間がかかったようね」
 オーナー妹は、そう言いながら凛のサイドテールを摘み上げ、そのまま髪から胸元まで、くんくんと匂いを嗅いだ。
「うんうん。ちょっと土臭いけど、なかなか美味しそうな……お子ちゃまね! 元工場長お気に入りのプレスローラーでペチャンコに潰してから頂こうかしら?」
 その言葉に反応したかのように、一人の作業員が歩み寄り、凛の二の腕や太腿に触れた。
「オーナー妹さん。コイツ……逆に、お子ちゃまなだけあって肉が凄く柔らかい。スルメみたいにするのはもったい無いんで、ステーキにしませんか?」
「そぉ~ね~、たしかに言われてみれば……。」
 そこまで言うと、突然何かに閃いたように顔を上げ、「元工場長が特注した、もう一つの機械。アレ、使ってみましょう!!」と、満面の笑みを浮かべた。


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| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 23:05 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 終結~戦いの終わり~ -前編-」

「お待たせ、凛ちゃん。そして……みんな」
 ムッシュとの死闘を終え、傷だらけの優里はニコリと微笑みながら戻ってきた。
 だが、「!?」優里は糸の切れた操り人形のように、その場にバタリと倒れこんだ。
「優里お姉さん!?」慌てて駆け寄る凛とその一行。
「気を失ってはいるが、まだ息はある。だが、かなりの重症だ。このままでは危ないかもしれない」と瀬織はすぐさま優里の具合を確かめる。
「瀬織さん、優里お姉さんの回復をお願いいたします」凛はそう言うと弓を手に立ち上がった。
「もちろんそうするが。若三毛凛、お前……どうするつもりだ!?」
「わたしは妖木妃と戦います!」凛はそう言うと、千佳に向かって振り返った。「千佳、お願い……手を貸して!?」
「当たり前っちゃ! ウチだって、そのためにここへ来たっちゃからね!」そう言ってニヤリと微笑む千佳。
「ありがとう。でも最初にもう一度だけ言っておく。わたしのゲイの弓は、おそらく一発しか射ることができない。だから援護は一切できない。貴方一人で妖木妃の隙を作り出してほしいの。かなり危険だけど……」
「だったら、一つ条件があるっちゃけど!?」凛の言葉に千佳は速攻でそう返した。
「条件……?」
「たいしたことじゃない。今晩……ウチと同じベッドで一緒に寝てくれる!っちゅうのを聞いてほしいだけっちゃ?」
「な・な・・な・・・なんて馬鹿な事を!? そんなのわたしが……」
「ええやん。もしかしたら、ウチ……ここで死ぬかもしれへんっちゃろ? だったら、少しでも生き延びようとする活力っちゅうのが、欲しいやん? ここ一発のモチベーションって、大事やと思うっちゃけどな!?」
「う……っ、たしかに、そうかもしれないけど……」千佳のもっともらしい言葉に、返す言葉がない凛。「わかった。だ…だけど、同じベッドで寝るだけだからね!? 触ったり、変なことをするのは無しだからね!?」今は、こう返すしかない。
「ええよ! 千里の道も一歩から。今日はそれだけで我慢しとくっちゃ! まぁ、それだけでも、十分やる気が出るってもんやけどな!」そう答えた千佳は、赤い逆毛を更に逆立て、右手の灼熱爪はモウモウと熱気を放っている。
「そんじゃ、しっかりウチの戦い、見とくっちゃよ!!」拳を振り上げ、妖木妃に向かって一気に駈け出していった。
「赤い妖魔狩人? お前一人でワシと戦うつもりか?」一瞬呆然とした妖木妃だが、すぐに不敵に微笑むと「どれだけ身の程知らずか、思い知らせてやろうぞ」と右手を振りかざす。黒い炎の塊が手の平に凝縮され、一気に砲弾のように撃ち放った。黒い炎の砲弾……、それが妖木妃の攻撃術、黒炎弾。
「千佳、それに当たったらダメっ!!」一度は凛の命すら奪った術。だからこそ、その恐ろしさは誰よりも知っている。凛はまるで絶叫のような声で、千佳に注意を促す。
「わかってるっちゃっ!!」それはまさしく野生の動き。迫り来る黒炎弾を紙一重で避けると、すかさず妖木妃の懐へ入り込む。
「喰らえっ!!」千佳の鋭い一撃が、敵の脇腹に突き刺さる・・・。そう、いつもなら。だが、相手は妖木妃。その爪は、わずか数ミリメートルほど届いてはいない。それどころか、肉食プランクトンのような花粉が、右手に纏わりついてくる。そのまま放っておくと、文字通り右手は食いつくされる。「ちっ!」千佳は慌てて数歩後ろへ退いた。
 そんな千佳を見て、嬉しそうに笑みを浮かべる妖木妃。
「おそらく獣系の妖怪と融合したのじゃろうが、それにしてはなかなかの戦いっぷりじゃ。相当有意義な戦闘経験を積んだようじゃの。どうじゃ、ワシに仕えてみるか?」
「ああ~ん!? たしかにウチは半妖。だからといって人間の味方ってわけでもないし、まして妖怪なんぞに仕える気なんかも、全然ねぇーっちゃ!」
「ほぅ……?」
「ウチが戦うのは、自分のため。そして……凛のため! そんだけっちゃよ!!」
「そうか。ならば、今日ここで死ね!」妖木妃はそう言って右手の平を千佳へ向ける。爆発音のような轟音と共に、再び黒炎弾が撃ちだされる。
 千佳は、身を低くし寸前でそれをかわすと、一気に妖木妃の足元に近寄り、上昇気流のように跳ね上がりながら、爪を引き上げる!! これも、いつもなら大ダメージを与える攻撃だ。だが、やはり妖木妃にはかすり傷一つ負わせられない。
「残念だな!」
 妖木妃は、右腕、身体を伸ばして跳ね上がった千佳の腹部に手の平を当てると、超至近距離からの黒炎弾。
「ぐあぁは!!」
 黒炎弾は、千佳をそのまま押し飛ばしながら、森の木々に炸裂。黒煙と黒い炎が、他の木々にも燃え広がる。
 一方、黒炎弾を至近距離から直撃された千佳。木々程ではないが、その身体からも激しい黒煙が舞い上がっている。
「なかなかの戦いっぷりじゃったが、もう終わりか……?」倒れた千佳を見つめ、冷ややかな笑みを浮かべる妖木妃。
「く……くそったれ!ウチを……、ウチを舐めるんじゃ……ないっちゃよ……」息絶え絶えながらも、鋭い眼光を発し千佳は立ち上がった。
「ほぅ……?」妖木妃はそれを見て、さらに嬉しそうに白い歯を見せる。「いいのぅ! こんな小さな島国で、お前たちのような獲物に会えるなんて!」そう言うと、再び黒炎弾を連発する。
 先ほどのダメージで足元が覚束ない千佳。一発目はなんとか避けることができたが、二発目でまたもや直撃。小柄な身体は大きく宙を舞い、放物線を描くように大地に叩きつけられた。
「ち……千佳ーっ!!?」弦を引く手を緩め、凛は張り裂けんばかりの声を上げながら、千佳に駆け寄ろうとした。だが・・・「心配するな……っちゃ……」顔は青ざめ、身体は今にも崩れそうにガクガク震えながらも、再び千佳は立ち上がったのだ。
「千佳……」あまりの出来事に取り乱した凛は、一旦は千佳の元へ歩み寄ったが、彼女の言葉に気を取り直し、その場で足を止めた。そして「ごめん……千佳、もう少し頑張って。妖木妃は絶対防御の髪飾りの力を確信している。どんな攻撃でも、甘んじて受け入れるはず。わたしたちが付け入る隙はそこしかない。だから……」と呟くように話した。
「わかっているよ、ウチを信じろっちゃ!」
「わ……わたくしは、見余っていた……!?」優里の回復をしながらも、その様子を見つめていた瀬織。一度ならず二度も立ち上がった千佳の姿を見て、内心驚きの色を隠せなかった。「妖木妃の黒炎弾の威力は、炎と雷の違いはあってもサンダーバードの雷撃と変わらぬ、いや……それ以上のはず。なのに……?」
 立ち上がった千佳は、己の拳で両足を叩き、痛みで震えを麻痺させる。そして灼熱爪を振り上げ、三度妖木妃に襲いかかる。自慢のスピードは半減し、妖木妃の放つ黒炎弾を完璧にかわすこともできず、何度か身体を弾かれ、それでもなお立ち上がり向かっていく。
 もはや驚愕すら通り越したように呆然と見つめる瀬織。そして、その光景を見ながら、彼女は一つの仮説を立てていた。
 赤い妖魔狩人こと斎藤千佳。彼女は不完全な浄化による消滅の危険から、他の妖怪と融合し半妖になることで、その生命を生き長らえることができた。
 融合した妖怪は火山猫。その名の通り、中国火山地帯に生息しており、まるで火種のように灼熱の息を吐く火属性の妖怪だ。
 そして、彼女の身を包む戦闘服。火鼠という火山猫同様、火山に生息する妖怪の毛皮で編まれているという。そのため、炎などの高熱に対して高い防御力を誇る。
 もし、嫦娥がこういった戦いの展開を予想し、そのために斎藤千佳を赤い妖魔狩人に仕立てあげたのなら、この光景は納得できるものがある。
 いや、それだけではない。斎藤千佳という少女は、元から若三毛凛の事になると、異様なほど高い執念を見せる。そもそも不完全な浄化も、それが原因だったと聞く。
 わたくしは見余っていた。妖木妃との戦いにおいて、斎藤千佳こそが最大のキーポイントだったのだ。彼女無くして、この戦いに勝利はない。
(おかしい……?)千佳と対戦しながら、妖木妃は一つの疑問を感じていた。何発かの黒炎弾を喰らいながらも立ち上がってくる赤い妖魔狩人。この者は火属性の妖怪との半妖らしいので、それはそれで納得できる。おかしいのは、黒い妖魔狩人だ。この場に来てから、一発も霊力の矢を放っていない。
 千佳と闘いながら、慎重に凛の様子を探る。(ま……まさか!?)妖木妃がそう思った瞬間、千佳は自らの身体を倒し、足を交差させながら妖木妃の足元を挟むように絡みつかせた。突きや斬撃が通用しないのならば、直接の絡み技。千佳が優里の戦いから学んだ戦法だ。
 絶対防御の髪飾りによる花粉も、絡んだ千佳の足に纏わりつくことはできても、妖木妃の重心まで支えることまではできない。「!?」バランスを崩した妖木妃は、その場に尻もちをつくように倒れた。
「今だっ!!」
 千佳が作った妖木妃の隙。凛はこの時を逃しまいと、ゲイの弓から霊光矢を放った。いつもの青白い閃光ではなく、日差しのような山吹色に近い閃光。一直線に飛んだ閃光は妖木妃に直撃すると、太陽のような眩い輝きを放った。
 凛も瀬織も、あまりの眩さに目を覆う。そして、静かにその輝きが消えてゆき、辺りが見渡せるようになると、今度はその目を疑った。
 妖木妃に直撃したと思っていた凛の霊光矢。だがそれは妖木妃ではなく、千佳の右胸に突き刺さっていた。そう、一瞬の出来事ではあったが、凛が矢を放った瞬間、妖木妃は側に倒れている千佳の頭部を掴み、そのまま千佳の身体を盾にしたのだ。
「な…なぜだ……!? 絶対防御に自信を持っている妖木妃が、盾など使うはずが……?」優里への回復も忘れて、呆然とする瀬織。
「危なかった。まさかとは思ったが、やはりゲイの弓を所持していたか」妖木妃は額に流れる汗を拭いながら、そう微笑んだ。
「き…気づいていたの……?」凛も呆然と目を丸くし、独り言のように呟いた。
「うむ、お前が一発も矢を放たないのでな。お前たちの構成であれば、近接戦闘の赤い妖魔狩人。介護支援の青い妖魔狩人。そして、後方からの援護射撃が黒い妖魔狩人、お前の役割のはずじゃ。にも関わらず、お前は一発も援護をしておらぬ。そこで有りと有らゆる可能性を考えた」妖木妃はここまで言うと、不敵に目を細めた。「絶対防御の髪飾りを攻撃できる唯一の武器……ゲイの弓。やはり、嫦娥より授かっておったな。だから、あえて隙を作り、矢を射らせたのじゃ」
「く……くそ、もう一度……」焦る凛は再び弦に指を掛けた。「あ……!?」だが、その弦にはまるで手応えが無い。最初に危惧していたとおり、弦はぷっつりと途切れてしまっていた。
「古き時代から、幾千もの戦いを経てきたゲイの弓。とうに寿命は過ぎておる。一発放てただけでも、奇跡みたいなもの。だが、それももう……終わりじゃ」
 恐れる物が無くなった妖木妃。その表情は滅多に見ることができないほどの、歓喜の笑みに溢れている。
 それを悟ってか、凛もその場にガックリと膝をついた。


 その頃、百を超える数の妖怪たちの足止めをしていた風花とシュナ。だが、さすがに妖力も尽き始め、それによる吹雪の力も、大きく下がっていた。そして、それを見計らったかのように、再び中国の雪女、雪妖が姿を見せる。ここでもすぐにシュナが牽制の炎の渦を放った。
 だが、今度は先程と異なる展開を見せた!なんと、その炎の渦を一本の槍で受け止め、それどころかその炎を吸収してしまった者がいた。
「な…なんだ、あいつは!?」驚く風花とシュナ。
 そんな風花とシュナをあざ笑うかのように、不敵な笑みを浮かべるその男。いや……男というより、少年というべき年頃だ。オカッパ頭で赤みを帯びた肌。つり上がった目に燃えるような赤い瞳。手には、先ほどシュナの炎の渦を受け止めた、長さ約六メートルはあろうかという長い槍を持っている。
 彼の名は、紅孩児。かの昔、天竺へ旅する玄奘三蔵とその一行を苦しめた、牛魔王とその妻、羅刹女の間に生まれた子。彼もまた、三蔵の一番弟子、斉天大聖孫悟空を退けたことのある実力者である。

妖魔狩人若三毛凛if第20話01

「アンタが西洋で有名な、炎の代名詞とも言われる精霊、サラマンダーか? 一度その力を見てみてぇーと思っていたが、噂ほど大したことねぇーんだな?」紅孩児はそう言って、己の実力を誇示するかのように、長い槍をグルグルと回転させた。
 逆に牽制とはいえ、自分の得意技であるフランメヴィアベル(炎の渦)をいとも簡単に防がれ、シュナは自信喪失のようにガタガタと震えている。
 吹雪の力も弱まり、シュナの牽制も通用しなくなったと知ると、今まで鳴りを潜めていた他の妖怪たちは、二人を取り囲むように動き出した。
 青ざめる風花。その風花の顎をしゃくるように持ち上げ、嫌らしい笑みを浮かべる一匹の妖怪。
(もう……ダメだな)いつも、割りと軽く考える風花だが、さすがにこの状況ではどうにもならないことを悟った。全てを諦め、為すがままになろうとした、その時!
「ギャァァァァつ!!」「グワッ!!」二人を取り囲んだ先の方から、妖怪の悲鳴らしき声が聞こえた。それだけでなく、悲鳴に紛れて打撃音や斬撃音のような衝撃音も聞こえる。そしてそれらは、少しずつ広がり近寄ってくるのがわかる。
「なんだ? 何が起こっている?」風花の顎をしゃくっていた妖怪も、何事かと辺りを見回し始める。すると、バギッッ!! 鈍い音と共に、その顔面に何かが落下してきた。それは細く長い脚。無論、脚だけでなく、それに応じた胴も頭も付いている。
 落下物はそのまま綺麗に着地すると、間髪入れず、その長い脚を振り回し、先ほどの妖怪の延髄目掛けて、回し蹴り! 再び鈍い音が鳴り響き、妖怪は数メートル先まで吹っ飛んで、そのまま起き上がることはなかった。
 落下物。それはそういう状況下だったので、そう表現したまでで、当然『物』ではなく、人間によく似た姿をしていた。琉奈や祢々に負けない程の長身で、ただ二人より更に『長く』『細い』手足を持つモデル体型。面立ちも細く、ひと目で女性だとわかる。
 更に鋭角的なボブヘアー(オカッパ)で、前髪のすぐ下には、細く鋭い眼差し。そして、それに見合った細い眼鏡を着用。服装は白いブラウスにブルーデニム。白いスニーカーにソックス。そして、なぜかはわからぬが、紺色の家庭用エプロンを纏っている。
「あんたは……!?」突如目の前に現れ、眼前の敵を蹴り倒した女性に、風花は唖然としたまま問いかけた。
「初めまして、雪女郎さん。私は、人間の世界では『片節』という名で通している者。勘の良い貴女ならお気づきでしょうが、ガラッパという種族の水棲妖怪です」こう答えたこの女性に、別の妖怪が鋭い爪を振りかざして襲い掛かる。だが、片節は一向に慌てず、軽くのけ反ることで攻撃を回避。そしてその反動を生かし、体重を乗せた肘鉄を妖怪の顔面にブチ喰らわせた。フラフラとよろめく妖怪に、長い脚に遠心力を加えた強烈な廻し蹴り。こいつも先ほど同様、数メートルほど吹っ飛び、そのまま気絶してしまった。
 よく見ると、片節は両手に二十~三十センチメートル程の木製の棒のような物を隠し持っている。「それは?」風花の問いに片節は目をキラリと輝かせ、「トンファー。琉球から伝わる、格闘術用の武器です」と答えた。なるほど、先ほどのはただの肘鉄ではなく、この武器の硬度をも加えた威力か。風花は深く納得した。
 そもそもガラッパとは、鹿児島県薩摩に生息する河童に似た水棲妖怪。大きな特徴として手足が長く、どうやらこの片節は、その特徴を生かした打撃系格闘術を身につけているようだ。

妖魔狩人若三毛凛if第20話02

 次々に襲い来る妖怪たちを、トンファーや拳。そして強烈な蹴りで撃退している。身のこなし、そして見るからに知的で、その美しい容姿。誰が見ても『できる女』と言わざる得ないだろう。もっとも風花は、腰に巻かれたエプロンの紐が縦結びになっていること。履いている靴下が左右別々の物であることなど、『隠れたポンコツっぷり』を見抜いてしまったが。
「救援に来たのは、私だけではありませんよ!」戦いながら、片節はそう付けくわえた。見ると、さらに五十人は超えているだろうと思われる軍勢が、雄たけびを上げながら駆け寄ってくる。ガラッパのような水棲妖怪もいれば、烏天狗、唐傘、ぬりカベや一反木綿など、名高い妖怪たちの姿も見える。
「銀髪の頭領が、日本中を駆け巡って声をかけたんですよ」
「銀髪の頭領……?」
「ええ、貴女も戦ったことがあるでしょう? 禰々子河童の祢々さんを……」
 風花はその言葉で思い出した。たしかにマニトウスワイヤーの時、青い妖魔狩人こと棚機瀬織や禰々子河童と戦ったことを。
 ここしばらくの間、祢々の姿が見えず、地元へ戻っていると聞いてはいたが、実は彼女は、地元関東から東日本。そして戻りながら西日本の妖怪たちに、今日に備えて声掛けを行っていたのだ。そして、水無月家のフェリーにその妖怪たちを引き連れて、本日丘福港に到着したのだ。「あのセコとか言う子ども妖怪が、瀬織津姫に囁いていた朗報とは、このことだったんだ!」風花の表情に、活き活きとした赤みが戻ってきた。

「まさか、日本の妖怪たちが集結するとはね」日中両国の妖怪たちが入り乱れて戦う状況を見て、雪妖は呆れたようにため息をついた。
「いいじゃねぇーか!」そう返したのは、紅孩児。長い槍を肩に担ぎ「おかげで俺は、一度心ゆくまで戦ってみたいと思っていた相手と、ゆっくりやり合えそうだ」とシュナに視線を向けた。
 その言葉に、シュナは震えながらも紅孩児を睨み、槍を構える。
「へぇ、さすがは炎の精霊。体はビビッても、気持ちだけは負けねぇーってとこか? まぁ、いい。さっき、アンタの技を見せて貰ったからな。一応、俺の技も見せておくか!?」紅孩児はそう言うと、大きく胸を膨らませ、「ふぅ~~~っ!!」と勢い良く息を吹きかける。いや、ただの息ではない、それは火炎の息。一気に森の木々が激しい炎に飲み込まれた。
「わ…私の炎より・・・熱量が・・高い・・・!?」その光景を見て、思わず一歩身を引いてしまったシュナ。
「こう見えても俺は、三昧真火という火炎に特化した術を極めている。数百年前から、炎の精霊と呼ばれるサラマンダーと、どちらの炎の技が上か? 勝負してぇーと思っていた。もちろん受けてくれるよな?」
 明らかに自分より高い熱量の炎を操る紅孩児。それを見たシュナの心は、勝てる気持ちがまったく無かった。でも炎の勝負を挑まれて戦わずに逃げる。それはサラマンダーという種族において、許されることではない。たとえ負けるとわかっていても・・・だ。「受ける・・・」ただ一言、シュナはそう答えた。その答えに、紅孩児はニヤリと笑みを浮かべる。
「だったらその勝負、あたしも混ざっていい?」今までそのやり取りを黙って見ていた風花が、見計らったように割って入る。
「炎の使い手同士の戦いだぜ。雪妖怪が混ざってどうするんだ?」呆れたように言い返す、紅孩児。
「だからさ、こっちはあたしとシュナ。そっちはアンタと、そこで小馬鹿にしたように見ている、あたしと同じ雪妖怪とのタッグ戦っていうのは、どお……?」風花の視線の先には、冷ややかな目でこちらを見ている雪妖の姿が。
「こんな小さな島国の、レベルの低い雪女郎とかいう妖怪が、妖怪の本場……中国出身の、この雪妖を相手に勝負を挑むっていうの? ふっ、頭がおかしいのかしら?」冷ややかな目が、更に細く冷たくなる。
「受けるの? 受けないの?」強気で押す風花。
「いいわ、受けて立ちましょう。いいわね、紅孩児?」
「ああ、俺はサラマンダーと勝負できるなら、それで構わないぜ!」
 雪妖も紅孩児も、自信満々の表情で答えた。
「風花……? こんなことに・・・なって、大丈夫・・なの?」逆に心細さが態度に出ているシュナは、風花にそう問いかける。
「大丈夫!って言いたいけどさ、ぶっちゃけ……あたしもシュナも、術そのもののマトモな勝負では、アイツらには勝てないと思うんだ?」「うん・・・」「だったら、マトモじゃない勝負に持っていくしか、あたしたちには勝ち目がない!」風花はキッパリと、そう言い切る。それに対しシュナは、何も言い返せず頷くしかなかった。
 二百人近くの妖怪軍勢が争いあう戦場から少し離れた平地へ、風花、シュナ、雪妖、紅孩児の四人は、戦いの場所を移した。


「な…なによ、こいつ!? 凄くキモイんですけどぉ!!」
 空を飛ぶ妖怪たちを引きつける役目を負っていた琉奈と涼果。そして、その誘いに乗ってきたのが、飛虎人とカコクという二匹の妖怪。順調に柚子神社上空から引き離していたと思っていた矢先、その二匹の背後に現れた一匹、いや一羽の妖怪。
 見た目のイメージでは、翼長三メートル以上の巨大なミミズクによく似た鳥だと思えばいい。だが、大きな違いは、一つの身体に九つの頭部を持っていることである。正確には、元々十個あった頭部のうち、一つは千切られたように失っており、残り九つの頭部を持っていると言った方がいいだろう。
 コイツは二匹の背後に現れた瞬間、九つの口から赤い粘液状の物質を吐き出した。その粘液を浴びた二匹から白い球型の気体らしきものが飛び出すと、それを二つの口で一気に飲み込む。同時に二匹の妖怪は、まるで大穴の開いた気球のように、真っ逆さまに落下していった。
 それを見届けると、十八の目は次はお前たちの番だと言わんばかりに、琉奈と涼香を睨みつけた。
「妖怪鬼車(きしゃ)……別名、九頭鳥。中国でも上位に入る、危険な妖怪だよ」琉奈の問いに、涼香は淡々と答え始めた。「アイツの恐ろしいところは、さっき見た赤い粘液っぽいもの。アレを浴びると身体から魂が抜け出てしまうの。アイツはその魂を捕食するわ」
「とんでもない化け物だな……! てか、涼香、なんでそんなことを知っているんだ!?」
「これを言うと琉奈から気味悪がられると思って今まで黙っていたんだけど、アタシね……妖鳥姑獲鳥の記憶が、少しだけ残っているの」
「記憶……が?」
「うん。だから、あの鬼車のことも覚えているんだ。しかも、人間の赤ん坊を育てる姑獲鳥と、人間の魂を捕食する鬼車。完全に正反対の二羽でしょ? 相当、仲が悪かったみたい」
「マジ……!?」
「おそらく、アイツの狙いは姑獲鳥が転生したアタシ。……なので、琉奈。アタシだけ地上に降ろして。そうすればアイツはあなたを襲わない」
 いつもは弱気な面が多い涼香だが、睨みつけてくる鬼車に対し、ここだけは譲れないという強い気迫を込めた視線を返している。それを見た琉奈は軽く、それでいてどことなく優しいため息をつくと、「さっきも言ったろう? 涼香の敵は、私の敵……だって! それに姑獲鳥の能力を殆ど失い、空も飛べない状態じゃ、負け戦もいいところだ!」と言い返した。
「琉奈……?」
「私が涼香の翼になるよ! だから、一緒に戦おう!!」

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 終結~戦いの終わり~ -中編-」

「凛、諦めるのは早い。まだ、一つだけ方法が残っている」
 膝をつき、悲壮感漂う凛の耳元で、霊体化した金鵄がそっと囁いた。
「一つだけ方法……って?」「しっ! 声を出さないで。妖木妃に悟られては不味い、霊波で会話しよう」凛と金鵄は至近距離であれば、霊波で会話ができる。会話を続けていくことに、凛の目に輝きが戻ってきた。「本当に、そんなことができるの?」「ああ、充分に可能だよ。だが、重要な点が二つ。一つはチャンスは一度切り、絶対に妖木妃に知られてはならない。もう一つは、そのチャンスが訪れるまで、もうしばらく千佳たちに頑張ってもらわなければならない」
 金鵄の言葉に、凛は二人の様子を伺った。瀬織は今も優里の回復を行っているが、その視線は宙を舞い、絶望感に溢れている。もう一方千佳は、勝ち誇ったように佇む妖木妃の足元で大の字に倒れており、胸には霊光矢が突き刺さったままだ。
(千佳……、瀬織さん……)改めて二人に強い視線を送る。その視線に気づいたのか、二人は同時に凛の目を見返した。凛からの強い視線、それは言葉は無くとも、まだ何かあるという思いを察するに充分な合図だった。
「なんか知らんけど、もう少しだけ頑張らなきゃ、ならんみたいっちゃね!」千佳はそう言って上半身を起こすと、胸に刺さった霊光矢を両手で掴み「うんにゃぁぁぁぁぁぁっ!!」と絶叫を上げながら引き抜こうと試みる。突き刺さった物を引き抜く時は、突き刺さる時の数倍の痛みを生じる。千佳の額には玉のような脂汗が滝のように流れ、その痛みは尋常で無いことがよくわかる。だが・・・、ズボッ!!という音と共に、突き刺さった矢を見事に引きぬいたのだ!
 激しく肩で息をする千佳。「斎藤千佳、こっちへ来い!」同時に瀬織が声をかけた。「な…なんや?」「いいから、わたくしの前に胸を出せ!」
 千佳は言われるままに、傷ついた胸を瀬織の前に突き出す。瀬織は優里を治癒している手とは逆の手を千佳の胸に当て、ビーチボール程の水泡を浸透させていった。
「簡単な治癒の術を施した。それで傷口は塞がり、痛みも半減できるはず」「ホントやん! だいぶ痛みがなくなったっちゃ!」
「とはいっても、体力回復はまるで補えていない。したがって、立ち上がるだけでも辛いはずだ」瀬織は申し訳なさそうに言い出した。
「ええよ!痛みがないだけでも、かなり動ける。それにウチのエネルギー源は、凛だっちゃ!凛がウチを信じてくれている限り、いくらでも動けるっちゃよ!」千佳はそう言って立ち上がった。髪は燃え上がるように逆立ち、右手の灼熱爪は再び熱気を発する。
「ほぅ? まだ、ワシと戦うつもりなのか?もはや、お前たちに勝ち目が無いことは、ハッキリしたであろうに?」妖木妃は、そんな千佳に対して不思議そうに問いかける。
「うるせ! ここで寝っ転がっていても、お前に歯向かっても、どっちにしろ殺されるんやったら、身体引き摺ってでも歯向かった方が、まだウチらしいっちゃよ!」千佳は叫ぶようにそう言い放つと、文字通り足を引き摺るように突進して行った。
「見苦しい……」妖木妃は呆れたように手のひらを向ける。手の平に黒い炎の塊が浮かび上がる。
「そうはさせん!」それを遮るように、無数の小さく碧い水泡が、妖木妃の周りを覆い尽くした。
「水泡? だが、ただの水泡ではあるまい。なんらかの術が施してあるはずだ」そう言って妖木妃は自身を覆う水泡を、一つ一つ確認するように見渡していく。「もっとも、仮に術が施してあっても、ワシの絶対防御の前では、何の役にも立ちはしないがな」そう、ニヤリと笑った。
「だったら、そのまま……ボォ~っと、突っ立っておくっちゃね!!」千佳は灼熱爪で水泡を弾き割っていった。一撃、二撃。水泡は灼熱爪が動く度にその熱気で弾け、蒸発し霧に変わる。そうしていくうちに、ものの五分としないうちに、辺りは碧い霧で覆い尽くされた。
「なるほど、これが狙いか? おそらくこの霧の中に、動きを封じる毒系の術でも施してあったのだろう。この中にいるだけでも、触ばまれるようにな。だが、残念だったな!髪飾りの花粉は、それすらも阻むのだ。むしろダメージを受けるのは、赤い妖魔狩人のほうよ!」
 たしかに言うとおり、空気中を漂う碧い霧は、数ミリメートル単位で妖木妃には届いていない。逆に千佳の頬や、そして全身に水滴となって付着しているのがわかる。
「そんなことは、百も承知っちゃ! だから、これは毒じゃねぇーっ!」
「なに!?」
「それは、わたくしの回復の術の応用。大きな効力はないが、その中にいるだけで徐々に体力回復を行うことができる。だが、今現在の目的はそれでは無い!」
 瀬織がそう言った瞬間、千佳の姿が妖木妃の視界から消え失せた。「これは!?」妖木妃が気付いた時には、辺りは完全に碧一色となり、目と鼻の先すら視界では確認することができない。
「そうか、目眩ましか。たしかにこれでは、お前たちの姿を捉えることができぬ。だが、それはお前たちも同じこと」
「そうでもないっちゃ!!」千佳の声が頭上で聞こえたと思った瞬間、両肩に一気に重みが加わった。なんと千佳は、妖木妃の両肩に肩車の状態で乗っかったのだ。
「クソガキが。どこまでワシを愚弄するつもりだ?」妖木妃はそう言って千佳に手の平を向ける。
「おっと、それは通用しないっちゃ!!」千佳は更に、妖木妃の頭部に覆い被さるようにしがみついた。「これで今、ウチの身体はお前の頭と一体になっている。つまり、お前の花粉とやらが、その黒炎弾から守ってくれるというわけっちゃ!」
「バカはバカなりに考えたというわけか。だが、それからどうするつもりじゃ? 一生ワシの肩に乗っているつもりか?」呆れてモノが言えない。そんなため息混じりの口調で、千佳に問いかける。
「もちろん、お前を攻撃してぶっ倒す!!」千佳はそう言って、灼熱爪を髪飾りに押し付け、突き刺そうとした。
「無駄だ。ワシの髪飾りは絶対防御。何度言えば理解できるのだ?」
「いや、そうとは……言えないっちゃ!」
「!?」
「凛から聞いたっちゃ。以前、凛の霊光矢は絶対防御を突き破って、お前に傷をつけたことがあるって。それってつまり、お前の髪飾りの防御力を超える攻撃力があれば、突き破ることが可能ってことじゃね!?」
 その言葉に妖木妃は、忌々しい黒歴史を思い出す。「クソガキが!お前も同じことができると申すのか!?」
「だから、やってみるっちゃよ!!」千佳はそう言い、灼熱爪に力を込める。
「ふん、黒い妖魔狩人の高い霊力ならいざ知らず、お前ごとき半妖の妖力程度が、絶対防御を突き破れるはずがない!」
「うるせぇぇぇっ!!」更に千佳は、全妖力を右手の灼熱爪に集中させる。赤い爪がまるでマグマのように赤く輝きを増していく。
「無駄だ!無駄だ!無駄だ!」妖木妃は高揚したように、高笑いさえ上げている。「無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄・・・・・・・・・!?」
 時間が止まった。いや、実際には止まったわけではないが、そう感じられるように、妖木妃の高揚も高笑いも。目は焦点を失い、口は半開きのまま。辺りの風の動きすら止まってしまったように感じられた。
「な…な……なんだ……これは……!?」妖木妃がようやく発した言葉がそれだ。「いつの間に、こんな物が髪飾りに……?」
 初めて見せる、妖木妃の虚ろな表情。それもそのはず。今まで数百年間、絶対的な信頼を置いていたあの髪飾りに、一本の異物が突き刺さっているのだ。その異物は、日差しのような明るい山吹色に輝いた凛の霊光矢。それは、花の髪飾りの真上に重ねてあった、千佳の右手も一緒に貫いていた。

妖魔狩人若三毛凛if第20話02b

「やったな……凛……」突き刺さった霊光矢を引き抜き、そのまま雪崩落ちる千佳。
 同時に髪飾りも、砂で作った飾り物のように流れ落ち、消滅していった。
「ごめんなさい、千佳ーっ!!」凛の泣き叫ぶような声が響き渡る。
「心配するな、若三毛凛!!」そう叫びながら瀬織は、倒れた千佳を担ぎ上げ、優里の側に運びこむ。そして、間髪入れず治癒の水泡で包み込んだ。
 茫然自失としている妖木妃。「なぜ……? いや……いつ、どうやって……こんな物で射抜いたのだ……?」
「当然、髪飾りを破壊できる、ゲイの弓を使ったのだ」妖木妃の問いに、瀬織が返答した。
「ゲイの弓は弦が切れ、使えなくなったはずだ……」
「いいえ」そう言って凛は、ゲイの弓を見せた。見ると、切れかかってはいるが、一本の弦が弓に結びついている。
「バカな! ゲイの弓は神族の武器。人間の作ったものでは代用できない……」
「そう、この弦はわたしたち人間の手で作られたものではないわ。これは一人……いえ、一羽の霊魂が姿を変えたもの」
「ま…まさか……!?」
「そう、僕だよ……妖木妃」いきなり弦が口を聞いたかと思うと、それは徐々に金色の鳥の姿に変わっていった。
「霊鳥金鵄、お前が……?」
「神族の道具は、強い霊力や神通力を使った材料で組み立てられている。そして僕の身体は霊体、霊力の塊だ。その身体は自在に変化させることもできる。現に凛の戦闘服も、僕の羽を変化させ編んだもの。だから今度は僕自身が姿を変え、弦になったんだ」
「なるほど、そんなカラクリか!? だが、いつ射った!? 黒い妖魔狩人の姿は・・・」
「当然見えなかっただろう。そのために碧い霧を散漫させたのだからな。アレは斎藤千佳の姿を隠すものではなく、若三毛凛をお前の視界から外すことが目的だったのだ」
「だが、逆に黒い妖魔狩人の視界からも、ワシの姿は捉えることができなかったはずだ!」
「だから千佳はあなたの肩に乗り、目印になってくれたの」
「…?」
「わたしは幼い頃から、霊気や妖気を色として識別できる。それは多少視界が悪くても、感知することができるわ。千佳の妖気の色は赤。だから千佳は髪飾りの上で灼熱爪に妖気を集中させ、自らの右手を目印としてくれたの」そう語る凛の目からは、涙が溢れ出ていた。
「もう、あなたの負けよ、大人しく降参して。たとえ敵でも、むやみに命を奪いたくはない」
 そう言う凛に対し、妖木妃は項垂れたまま、何一つ言葉を返すことができなかった。
「ひ・ひ・ひ・ひ・ひっ……!」そして突然、気でも違ったかのように、不気味な笑い声を放ち始める。「ワシの負けか……。たしかにこんな屈辱は、生まれて初めてじゃわ! だが、まだワシの負けではない」
「ふん、負け惜しみか!?」鼻で笑う瀬織。「いえ、瀬織さん、そうじゃないっ!!」凛はそう叫び、新たに自分自身の弓を持ち直した。「妖木妃の身体の中の妖力が、膨れ上がるように高まるのがわかる!!」
 その言葉を裏付けるように、妖木妃の身体に、目で見てもわかる変化が始まっていた。華やかな貴族の衣装は引き裂かれ、体自体も膨れ上がるように巨大化していった。
「こ…これが、妖木妃の真の姿か……!?」
 驚くのも無理はない。今、凛や瀬織の前に立ちはだかるのは、明らかに異形の生命体。全長四~五メートルはあろうかと思える大きさ。両腕の無い全裸の女体に、大きな蔦や葉が覆うように巻き付いている。足元は数十本の根のようなものが這いずり回り、そのうちの数本が触手のように立ち上がり、その先端はトカゲかワニのような大きな口が開いていた。頭部は人間の面影はまるでなく、それは禍々しい巨大な花。そう……ラフレシアによく似た花が開いている。その花の中央には、大きな単眼がギロリ。こちらを睨みつける。
 もはや、妖怪というより、怪獣といっても過言ではない異様な化物であった。
立ち上がった数本の触手は、その大きな口を凛や瀬織に向けると、黒い炎の塊を吐き出した。
「黒炎弾!?」必死に飛び避ける二人。変身前よりも強力な黒炎弾。それを数本の触手が連発で放ってくる。まるで反撃する機会が作れない二人。だが・・・
 一筋の白い閃光が宙を横切ると、一本の触手を真っ二つに切断した。その閃光の正体は……「優里お姉さんっ!!」凛の喜びの声でわかる。それは薙刀を手にした優里だった。
「大丈夫か、高嶺優里?」「ええ、お陰でほぼ完璧に回復できました」そう言って優里は二人の顔を微笑みながら見渡した。そして最後に倒れている千佳の姿を見て「お疲れ様、千佳さん。選手交代よ、前衛は私が務めるわ!」と頼もしく語った。


 激しい轟音と共に、炎の渦が飛び交う。そしてその反対方向から激しい炎が吹き出し、渦と激突した。炎の渦の出元は槍を構えたシュナ。そして反対の炎は、紅孩児が口から吹き出している。
 一見互角に見える。だが……、紅孩児は更に鼻の穴からも炎を吹き出し、追撃するように瞳からも熱線を発した。これが紅孩児が極めた三昧真火という術。その激しい威力はシュナの炎の渦を押し返していく。そしてついに、その力を抑えきれなくなったシュナは、逆流した自らの豪火に、その身を包まれてしまった。
「炎の精霊とは言っても、所詮は使い魔程度の存在。てんで、話にならねぇーな!」鼻で笑う紅孩児。
「シュナ!!」返された炎を吹雪で抑えこむ風花。「だ…大丈夫・・・」シュナはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
「あたしもさっき、あの雪妖とかいうやつに押し負けたよ。やはり、あたしたちの力は、残念だけどアイツ等には及ばない」風花はそう言って、向こうでニヤついている紅孩児と雪妖の二人を睨みつける。「……となれば、作戦Bプランに行くしかないね!」「でも・・・、本当に・・・上手く・・いくか・・・どうか?」気乗りしない表情をみせるシュナ。
「一か八かの勝負だけど、やってみる価値はあるよ!」「う・・ん・・・」額にかかる縦線が、さらに濃くなる。
「シュナ、自信を持って! 日本最強の雪の妖怪(自称)と、世界に名高い炎の精霊のコンビなんだよ。大丈夫、あたしたち二人なら、やれる!!」風花はそう言うと、ニカッ!と微笑んだ。
「いつもながら・・風花は、軽い・・よね」
「えーっ!?」
「だけど・・・、いつも・・不安な・・・私を、安心・・させて・・くれる!」そう言って、滅多に見せないほどの明るい笑顔で返すと、「やるよ・・・風花。私たちの・・・強さ、見せて・・・やろう!」力強く、風花の眼差しを見つめた。
「まだ、やる気? 力の差が理解できないのも、悲しいものよね?」そう嘲笑う雪妖。だが風花は「力の差!? あはは!解っていないのはアンタたちでしょう? だ・か・ら……今から本当の差っていうのを、見せてあげるよ~♪」と更に小馬鹿にしたように返した。
「ほぅ? 何を根拠にそんなこと言ってんのかわかんねぇーが、再戦を挑んできているのだけは、わかった。だったら、二度とそんなことが言えないように、遠慮なくぶっ潰してやるぜ!」
「どうぞ! ただし・・私たちは・・二人同時でいく・・・。受けて立つ気・・・があるなら、そっちも・・二人同時で・・向かってきて・・・」
「おもしろい!」
 それぞれ、互いに並んで術の構えをとる。
「はっ!!」そして先に術を放ったのは、雪妖・紅孩児組であった。
 激しい熱気を伴う炎と、痛みすら通り越すような冷気。それらが真っ直ぐ風花たちへ襲いかかる。
「いくよ、シュナ!!」「うん!!」一呼吸遅れて、風花とシュナも冷気と炎の渦を放つ。
「なんだと!?」すかさず雪妖が疑問の声を上げた。なぜなら、それは雪妖や紅孩児が予想していた対決とは、微妙に違っていたからだ。彼女たちの予想は、冷気対冷気。炎対炎。各々、同じ術と術の対決であろうと。だが、風花たちの攻撃は、その逆であった。
 雪妖の冷気に対し、シュナの炎の渦。紅孩児の炎に対して、風花の冷気。二組の中央で、それぞれ相対する術がぶつかり合う。
「なにが、狙いなの!?」
「ふふ~ん! すぐにわかるわよ!」風花の言うとおり、それは文字通り『雲行きが怪しくなる』ことで、すぐに理解する羽目になる。
 ぶつかりあった熱気と冷気。それは激しい上昇気流を巻き起こした。それにより、まるで塔のように高く厚い『雲』が覆い始め、辺りを暗い景色へと一変させた。
「な……なんだ、この雲は……!?」急激な変化に、戸惑いを隠せない雪妖たち。
「何、アンタたち!? そんなことも知らないの? あれは、『せきせき雲』と言って……」「違う・・『積乱雲』。それに・・、雲の名前が・・・わからないんじゃ・・ないと思う・・」
 シュナのツッコミに一瞬たじろいだ風花だが、再度気を取り直し「つまり、あれは別名『雷雲』ってヤツだ! そこまで言えば何が言いたいのか、わかるだろ!?」とドヤ顔。
「雷系の術は、本来……風(大気)属性の者が扱えるもの。お前たちは二人は、水(氷)と火属性。なのに、なぜそんなもの(雷雲)を生み出せる?」そう問う雪妖に対し、風花とシュナは不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 時間は遡り、決戦場へ向かう直前、猪豚蛇の古民家。
「ええっと、雪女郎……?さんと、サラマンダー……さんでしたっけ?」
 支度を整えた風花とシュナに話しかけてきたのは、復帰したばかりの優里。
「うん、そうだよ。ちなみに呼び名は、風花とシュナってさっき決まったから、それでいいよ! アンタは白い妖魔狩人だよね?」そう返す風花に優里はニコリと微笑み、「高嶺優里といいます。先日(グールの一件)、凛ちゃんを助けてくれたそうですね? だから、一度お礼を言いたくて」と頭を下げた。
「別にいいよ! あたしたちだって、アンタたちのお陰でマニトウスワイヤーから開放されたからね。お互い様じゃん! ところで、マニトウスワイヤーと言えば、アンタ……サンダーバードを倒したんだって? 精霊の間じゃ、有名だよ~っ!」
「サンダーバードは強敵ではありましたが、尊敬できる敵でもありました。できれば、他の形で出会いたかった」
「ひとつ・・・聞いていい・・?」今まで黙って聞いていたシュナが、ポツリと口を開いた。「貴女は、どうして・・そんなに強い・・の? 人間なのに・・妖怪や、精霊と・・・戦うことが、怖く・・ないの?」
 シュナの問いに優里はしばし考えこむように目を閉じ、間を置いた。そして、ゆっくりと……「怖いですよ。少なくともサンダーバードと戦ったときは、敗北も覚悟しました」と答えた。「ですが、守りたいもののために何としてでも勝たなければならない。その一心が、私を勝利に導いてくれました」
「気持ち・・だけで、勝てる・・・ものなの? 明らかに・・自分よりも、上回った・・力をもった・・・相手でも・・? ワタシは・・それがわからない・・・」
「もちろん、ただ……気持ちだけでは勝てません。大事なのは、追い込まれた状態から、どれだけ知恵や勇気を振り絞れるか……。だと思います」
「知恵・・や、勇気・・・?」
「はい。もし、自分の力だけでは不足を感じるようであれば、相手の力を利用するのも手です!」
「相手の力を利用? それは、あたしも考えたことがなかったな……」
「相手というのは、敵でも味方でも構いません。たとえば、風花さんとシュナさんは、互いに正反対の能力を持っておられますよね? コレ、上手く利用すれば、まるっきり異なった力を呼び出すことができますよ!」
 優里はそう言って風花とシュナ、二人の手と繋ぐように軽く握った。
「凛ちゃんを助けてくれたお礼です。私の強敵(しんゆう)の力、貴女方にもお分けいたしますね」そう言うと、優里の白い霊力が繋いだ手を通って、二人の身体に伝わっていった。

「喰らえーっ、雷撃~~っ!!」風花の腕の振りに合わせ、激しい雷鳴と共に、稲光が炸裂する! それは雪妖と紅孩児、二人から数メートル離れた場所に火柱を打ち上げた。驚きのあまり、瞬きすら忘れた二人。

妖魔狩人若三毛凛if第20話04

「あちゃーっ。やっぱ……初めての術は、上手くいかないね!」戯けたように、ペロっと舌を出す風花。
「し……信じられねぇ……。火・水・大気・大地……。それぞれ元素の力は、精霊……もしくは、それに通じた者から術を受け継ぐことでしか、使えねぇーはず。なのに、何故だ……!?」
「もちろん、雷撃そのものはサンダーバードの術を分けてもらったからだけど、雷雲を呼び起こせたのは、自然科学という……人間の知識だ! いやーっ、人間も凄いもんだよね!」嬉々として語る風花。
「人間の知識……? サンダーバードの術……? なんで、てめぇらみてぇーな妖怪が、そんなもん持ってんだ!!?」そう叫びながら、まるで自棄になったように炎を吹き出す紅孩児。
 その炎の中心を、真っ直ぐ貫くように突き進む一筋の光。それはシュナが放った、収縮された電撃によるもの。眩い光を発しながら、それは紅孩児を直撃した。「あぐっっ!?」声にならない悲鳴を上げ、強烈な力で弾かれたように吹っ飛ぶ紅孩児。十数メートル程転げまわったが、ピクピクと痙攣し呻き声を上げていることから、命に別状は無さそうだ。ただ、完全に白目を剥いており、起き上がれる状態で無いことはハッキリわかる。
 それを確認したシュナは、「その答えは・・、貴方たち・・のように、自分の・・力だけを追求する・・者には、わからない・・と思う」と静かに告げた。
 そして、もう一方では見事に雷撃を決め、雪妖を撃退した風花が、得意満面の笑みでサムズアップを決めていた。もっとも、気絶している雪妖の周りには、いくつもの雷撃の跡が残っており、雷撃の術の難しさと、アンド……風花の意外な不器用さも物語ってはいたが。


 辺りを木々で覆い尽くした森の中・・・。
「う……嘘だろ? 私たち、勝っちゃった……の?」そう呟くのは、琉奈と涼果の二人。
 ここだけを聞くと、一体何があったのか? とても気になる所だろう。そこで、話を数十分ほど前に遡らせる。
 九頭の妖怪、鬼車に襲われた二人。鬼車は妖怪としてのレベルが高く、素早い動きで翻弄し、口から吐き出す脱魂の粘液で、近寄ることすらままならない。
「空中では、不慣れな私達が不利だ。地上に降りるよ、涼果」琉奈はそう言うと、森の中へ降り立つ。そしてふたりとも、木陰に身を隠した。
 後を追って森の中に降り立った鬼車。十八の目で二人の姿を探し始める。ミミズクのような丸く大きな目で探されては、とても長い時間、隠れていられそうにない。

妖魔狩人若三毛凛if第20話03

「涼果、アイツを追い払う方法……、弱点みたいなものはないの!?」鬼車に気づかれないように、蚊の鳴くような声で囁く琉奈。
「姑獲鳥の記憶では、アイツとマトモに戦ったことはないみたい。だって……アイツの方が強いから、大抵追い払われていたみたいだよ」と、却って不安を煽る言葉が返ってきた。「あ、でも……」突然思い出したように声を発すると「アイツの失った頭部についての逸話は、聞いたことがある!」と語り始めた。
「逸話……?」「うん、アイツは元々……十の頭を持っていたらしいの。そのうちの一つを、ある動物に喰いちぎられたとか……」「ある動物……って?」
「犬!!」
「犬~~っ!? あんな化物に喰いつくなんて、どんだけ獰猛な犬だったんだ!?」予想もつかない答えに、琉奈は思わず大声でツッコミそうになってしまった。
「そのへんの経緯はよく知らないけど、とにかくアイツは、今でも犬だけは嫌っているらしいの」涼香はそこまで言うと、改めて鬼車の様子を伺った。執拗に辺りを見渡しながら、森を彷徨う鬼車。
「なぁ……?」フトっ、思いついたように琉奈が声を掛けた。「涼果の出す……赤子って妖怪。あいつら、言葉を話すことはできるの?」
「言葉……? アタシの手足となって動くだけの妖怪だから、会話とか……多分ムリだと思うけど?」
「会話とかじゃなく、単純な一つの単語を声にするだけでいいんだ……?」
「それなら、多分できると思う」涼果がそう答えると、「ヨシッ!!」と琉奈は拳を握りしめた。
「上手くいくか……どうかは、わからないけど、ここで見つかるのを待つよりはマシだ!」琉奈はそう言って、一つの提案を涼果に持ちかけた。
「わかった!」涼果はそう頷くと、自身の髪の毛を数本引き抜く。それに息を吹きかけることで、赤い肌の幼子姿の妖怪、赤子が誕生する。
 数人の赤子たちは、各々森の中を駆け込んでいった。そして、鬼車を包囲するように散らばっていく。それを確認した琉奈。「今だっ!」と涼果に合図を送った。
「ワンッ!」
「ワンッ!]
 鬼車を取り囲んだ赤子たちは、それぞれ一斉に犬の鳴き声のような声を上げる。
「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」
 森の中を響き渡る、犬の鳴き声(の真似)の大合唱! それまで無表情に涼果たちを探しまわっていた鬼車に、明らかに『怯え』の表情が浮かんだ。
「やっぱりだ! 首を喰いちぎられたアイツにとって、犬はトラウマなんだ!!」琉奈の言葉を象徴するように、打って変わって豹変する鬼車。九つの頭は統率が取れず、威嚇のような声を発するもの。辺り構わず粘液を吹きかけるもの。頭だけでも、その場から飛び立とうとするものなど、滑稽ともとれる取り乱しようだ。
「ここが勝負どころ!!」今まで身を隠していた琉奈。空かさず立ち上がり、渾身の真空切断! 一直線に進んだそれは、鬼車の一本の首を通り過ぎる。
 つい数日前まで、極普通の女生徒だった琉奈。大した妖力のない彼女が放った妖術など、たかが知れている。当然、鬼車の首を通り過ぎた攻撃は、妖怪には掠り傷に毛の生えた程度の浅いものだった。だが、鬼車にとって、犬から受けた恐怖心を呼び起こすには、充分過ぎるものであった。
「キェェ……シャァ……フェェ……!!」何を言っているのか、まるでわからない叫び声を上げ、まるで宇宙へ向けて飛びだつロケットのように、凄まじい勢いで上空へと飛び立ち、そのままどこかへ消え失せてしまった。
「う……嘘だろ? 私たち、勝っちゃった……の?」
 それを見た琉奈と涼果は、呆然と見送りながら呟いた。


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≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 終結~戦いの終わり~ -後編-」

「凛ちゃんは、もっと離れた位置から頭部の花を狙って! 瀬織さんは、神経毒の水泡で、触手の動きを鈍らせて!!」
 指示を繰り出しながら、次々と襲いかかる触手や黒炎弾を避けては懐に飛び込み、斬撃を繰り返す優里。
「わかりました!」「承知っ!」優里の指示に従い、支援に徹する凛と瀬織。
 よく考えてみれば、このメンバーが組んで一匹の敵を相手にするのは、今回が初めてなのだ。だが、一番戦い慣れている優里が前衛に入り指示することで、まるで初めてとは思えない連携を見せている。
 それが証拠に、妖木妃の身体には無数の斬撃の跡がある。並の敵ならば、とっくに仕留めていただろう。
 だが、想像以上の怪物となった妖木妃には、まだ決め手となる一撃が加えられていない。そして、当然優里もそれに気づいている。
「この巨体……。私の斬撃も、瀬織さんの術も、そして凛ちゃんの霊光矢も、その表面の浅い箇所を傷つけるのが精一杯。今のままでは倒すどころか、先に私たちのほうが力尽きてしまう」
 そう心配するのも当然だ。霊力を使った術や攻撃は、精神的負担だけでなく、体力すらも消耗させる。ここへ来て最大の敵との長時間の戦い。その疲労は極限まで達しているだろう。
(おそらく、妖木妃の弱点は頭部の花の中央にある、単眼の奥。きっと、そこが妖木妃の核にあたる部分。だから、他の箇所はどれだけ攻撃を受けても、そこだけは完璧に守り通している。そこを凛ちゃんの霊光矢で浄化できれば……)
 だが、肝心な頭部は四~五メートルもの高さに位置する。しかも、花の中央を狙うには上空……真上から狙うしかないが、それができぬとなれば、この巨体を倒すなり体勢を崩させ、単眼を狙える位置に向けさせるしかない。だが、どうやって体勢を崩させる?
(いえ、一つだけ方法はある! でも、こう連続で攻撃を受けていては、それを避けるだけで精一杯……)
 止まらぬ触手と黒炎弾の攻撃。これだけの執拗な攻撃の中、今……その前衛を努められるのは、運動能力と洞察力に長けた優里しかいない。
「高嶺優里の考えはわかっている。なんとか妖木妃の隙を突いて体勢を崩し、弱点と思われる単眼に若三毛凛の一撃を加えることができれば……。しかし、わたくしでは高嶺優里の代わりを務めることはできない」
 毒の水泡による援護、そして回復術での支援。だが、それしか役に立てない自分を、瀬織は嘆いていた。
「……んなことでへこんでいる暇があったら、さっさとウチを回復させろっちゃ!」そんな瀬織を叱咤するように、背後からあの彼女の声が聞こえた。
「し……しまった!?」激しい連続攻撃を避け続けている優里。その疲労は彼女の足を鈍らせる。足がもつれて、その場に腰をついてしまった。そこへ触手の先端、ワニのような大きな口が襲う。
 グザッ!! 肉を貫くような鈍い音。
 優里の眼前には、触手の口を赤く鋭い爪で貫いた、千佳の姿が!!
「千佳さん!?」「千佳っ!?」優里と凛が、歓喜の声を上げる。
「高嶺さん、ツンデレ姫(瀬織)から話は聞いた。なんか、あの怪物をひっくり返すような攻撃をせないかんちゃろ? だったら、攻撃の惹きつけ役は、ウチにまかせろっちゃ!」牙のような八重歯を剥き出し、ニヤリと笑う千佳。
「ありがたいわ。でも、千佳さん。貴女……まだ身体は回復しきっていないんじゃ?」
「ラーメンを作るくらいの時間なら、まだ全速力で動けるっちゃよ!」
「ふふっ!三分ってとこね。それだけあれば、十分だわ」優里はそう言うと、薙刀を水平に構え、その柄をゆっくりと引く。
「ツンデレ姫、ウチが全力で動けるように、あの回復の碧い霧を、ぶち撒けろ~~ッ!!」千佳はそう叫ぶと、右手の灼熱爪を振り上げ、妖木妃に突進して行った。

妖魔狩人若三毛凛if第20話05

 それは、四人の妖魔狩人が、気持ちを一つにした瞬間であった。
「任せろっ!!」瀬織はそれに応えるように、千佳の周りに碧い水泡を散りばめる。水泡が弾けるたびに、わずかだが千佳の体力が回復していく。
 千佳は、誰にも真似できないような素早い動きで妖木妃の攻撃を避け、時折灼熱爪で攻撃を加える。
 その間、優里は薙刀の先端に、自身の白い霊力を集中させる。
 凛も渾身の霊力を込めた霊光矢を形成し、その時に備える。
「千佳さん、敵の注意を左側に惹きつけて!!」
「了解~っ!!」優里の指示に千佳は、妖木妃の身体を引き裂きながら左へ回った。全ての触手が千佳を狙う。同時に優里が、その反対側を狙って薙刀を突き出し、突進を始めた!
「今日、二発目の……!?」思わず身を乗り出す、凛と瀬織。「北真華鳥流奥技! 不撓穿通!!」
 白い光の刃が、妖木妃の下半身……右半分を、バッサリと刳り落とした!!
「グォォォォォッ!!」地獄の亡者のような悲鳴を上げ、重心を崩した妖木妃は、地響きを上げながら身体を傾ける。
「狙うは、一撃っ!!」凛は、一撃で花の中央を狙えるように、拝殿の屋根へ駆け上った。慌てず冷静に、ゆっくりと弦を引く。
「今だっ!!」指を離した瞬間、過去一番の眩い光を放ちながら、青白い閃光は一直線に突き進む!!
 閃光は、カッと見開いた単眼を、真っ直ぐ貫いていった!!
 優里や瀬織の読みは正解だった。その単眼の奥に妖木妃の核があったのだ。巨大な花の中心から、青白い粒子がウィルスのように全身を覆いはじめ、やがて少しずつ花が散るように崩れていく。
「お……おのれ、黒い妖魔狩人……」そんな中、重く低い声が辺りを包んだ。
 すると、何を血迷ったのか、全ての触手の口を自分の全身に向け、一斉に黒炎弾を繰り出した。
 ゴォォォォォッ!! 激しい黒い炎が全身を覆う。
「お前が……、お前が全ての……元凶だ。お前さえ……いなければ、ワシは……ワシは……」呪いの呻き声を上げながら、潰れた単眼は凛の姿を捉える。そして、炎に包まれたその身体を引き摺り、凛に向かって突進していった。
「ワシと……一緒に、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「凛ちゃん!」「凛ーっ、逃げろっちゃ!!」
 優里、千佳。二人の声に頷き、慌てて拝殿の屋根から飛び去ろうとする凛。だが……、ここへ来て疲労が彼女を襲った。
 もつれた足を滑らせ、拝殿から真っ逆さまに落下したのだ!!
 ガンッ!! 激しく大地に叩きつけられ、鈍重な痛みが全身を襲う。しかも、当たりどころが悪かったのか、その場からなかなか起きあげれそうにない。
 優里、千佳、瀬織が凛を助けようと走りだすが、火塗れの妖木妃は凛の直前まで来ていた!!
「若三毛凛~~~っ!!」
 もはや、これまでか!? と誰もが思った瞬間!!
 身動き取れないはずの凛が、まるで重力に逆らうように宙に浮き、風のように飛び去っていったのだ!!?
「な……なんだとっ!?」突進を止められない妖木妃は、そのまま拝殿に激突!
 アッという間に黒い炎は拝殿にも飛び火し、妖木妃諸共……空を焦がすような、高い火柱となった。
 不可思議にも、妖木妃の突進を避けることのできた凛。そのまま優里たちの足元に、滑り降りるように辿り着いた。
「いったい、どういう事だ? 若三毛凛!?」狐につままれたような顔で、話しかける三人。
「わ……わからない……」凛も、呆然としたまま自身の身体を見つめなおす。
「あっ!?」そして、身体に纏わりついている何かを見つけた。それは目を凝らして見ないと判らない程の、細い、細い一本の糸。触ると、ベタベタと粘着力がある。
「まるで、蜘蛛の糸のようね……」優里がそう呟いた瞬間、「ま……まさか、彼女が……!?」凛の表情が、パァ~ッと明るくなった。
 慌てて辺りを見渡す。すると森の一本の木から、何者かが飛び去る気配が……。
(ありがとう……、てんこぶ姫!)凛は、嬉しそうに目を細めた。


「ま、まさか……妖木妃様が倒されるとは!?」
 はぁ…はぁ…と、息を切らしながら森の中を駆け抜けていく長髪の男、白陰。日本妖怪の援軍により戦況が怪しくなったことを報告に来た彼は、そこで妖木妃の最後を目の当たりにした。よもやここまでと、ただ一人……日本離脱しようと走り去る。
「いや、待て! 妖木妃がくたばったことは、身共にとって好都合かもしれぬ。妖魔狩人たちは勝利を確信し、油断しておるだろう。そこへ、新たに本国から数百の妖怪を引き連れ襲いかかれば、完全に形勢は逆転され、この地で身共は妖怪の王となることができる!!」そう発想の転換をしていくうちに、自然と笑いがこみ上げてきた。
「一刻も早く新たな軍勢を組み直し、再攻撃を仕掛けなければ~ぁ! さぁ、更に忙しくなるぞぉーっ!!」よほど嬉しさが抑えきれなかったのだろう。もはや心の声は、完全にダダ漏れ。あまりの声の大きさに、戦いを中断し、振り返る妖怪たちもいたほどだ。
「楽しそうなところをスマンが、お前を本国(くに)へ帰すわけにはいかん」
 そう言って白陰の前に立ち塞がる、一人の女性の姿が。180センチメートルはあろうかと思える長身で、グラマラスな身体つき。露出度の高い服装。そして何より特徴的なのは、さらりと広がりを見せる……銀色のボブヘアー。
「何者だ?」立ち止まり、鋭い目つきで見返す白陰。
「お前と顔を合わせるのは初めてだったな。アタシは禰々子河童の祢々。妖怪仲間には『銀髪の頭領』とか呼ばれているが、そうだな……、それならいっそ……『銀の妖魔狩人』って通名にでもしておこうか!?」
「銀の妖魔狩人!? フッ…、所詮は河童とか言う水辺で暮らす下等な妖怪種族か。 …で、その河童が身共に何のようだ?」
「先程も言っただろう? お前を本国(くに)へ帰すわけにはいかないと。大人しく拘束されるならば、良し。さもなければ……」祢々はそう言うと、手にした金棒を白陰に向けた。
「ふんっ!河童ごときが、身共に戦いを挑むか? 愚かな」白陰はそう答え、腰に備えた剣を引き抜く。そして、間髪入れず祢々を斬りつけた!
 キンッ!! 高い金属音が鳴り響く。白陰の剣と祢々の金棒が、ぶつかり合う音。受けた剣を横に流し、そのまま白陰の胴を払うように金棒を振る祢々。一歩身を引き、寸前で金棒を避ける。そして剣で突き刺すように、再び飛び込む。
 祢々と白陰の攻防。それは互いにひけを取らない武術と武術の戦い。
(ま…まさか、こんな下等妖怪が、身共と互角に渡り合えるとは……!?)
(さすがは、幹部妖怪。少しも気が抜けない!)
 長いような……、それでいて短いような時が流れ、疲れが見え始めた二人。そのためか、白陰が体勢を崩し、大きく尻もちを着くように倒れこんだ。「今だっ!!」その隙を見逃さない祢々。金棒を大きく振りかぶり、そのまま白陰目掛けて叩きつける!
「!?」祢々が違和感を感じると同時に、ニヤリと口元を緩ませる白陰。
 地に倒れこんだ白陰の左腕は長く伸びる白蛇へと変化し、祢々の足元から背後へ回ると、そのまま背中を突き刺していた。
「油断したな……、河童女!」冷やかな目と不敵な笑み。
「そう言えば、お前はあの嫦娥に対しても、背後から狙い撃ちしたらしいな……」逆に怒りの篭った目で睨み返す祢々。
「ふん! 勝負はな、勝てばいいのだよ……勝てば!!」更に嬉しそうに、口の緩みが大きくなる白陰。
「そうか、それを聞いて安心したよ……」
「うん!?」
「いくら下衆なクソ野郎でも、同じ妖怪をブチのめすのは、少々抵抗があったからな。でも、これで心置きなく、てめぇーをブチのめすことができる!!」
 祢々はそう言うと、背中に突き刺さった白蛇を掴み、そのまま白陰諸共振り回すと、大きな弧を描いて大地に叩きつけた。「ゲボッ!!」その強烈なダメージに、激しく吐血する白陰。
「な……なんて、バカ力なんだ……。いや、それより……背を貫いたのに、なぜ……平気なんだ!?」
 その言葉に祢々は振り返り背を向けると、「アタシたち河童族の背中には、甲羅っつうもんがあってね。アンタが貫いたのは甲羅の一部で、身体内部まで届いていなかったのさ!」くり抜かれたように穴の開いた甲羅を見せた。
「河童……。たかが、河童のくせにぃぃぃぃぃぃぃっ!!」悔しそうに、金切り声を上げる白陰。
「その河童の手にかかり、くたばりな…クソ野郎!!」祢々はそう言って垂直に上げた金棒を、そのまま真っ直ぐ白陰の腹部目掛けて、突き落とした!
「あ…ぐぐ……っ」突き刺さりはしないものの、それでも内臓の一つは叩き潰されたような吐血。だが、まだ……わずかに息をしており、死に至ることはなかったようだ。


 その頃、ムッシュの言っていた犬乙山の麓の洞窟から、女児三人と女性警察官である百合を救出したセコと猪豚蛇。四人とも、あまりに衰弱した身体だったため、柚子村内ではなく、丘福市の病院へ搬送された。もっともこれは、妖怪料理の下ごしらえという、普通ではあり得ない症状であるため、内密に瀬織の息のかかった病院へ運ばれたというのが真相だ。
 また、首謀者の妖木妃。そして、その幹部が全滅したと聞くと、中国妖怪たちは日本妖怪との決着をかなぐり捨て、足早に本国へ逃げ帰ったそうだ。

 こうして凛たち妖魔狩人は、半年に渡って続いた中国妖怪の侵略を、見事食い止めたのだ。
 それは暑い日々が過ぎ、涼しく爽やかな風に切り替わる、秋の始まりでもあった。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 終結~戦いの終わり~ -終章-」

エピローグ


 妖木妃との戦いが終わって一週間後。霊獣麒麟が眠る祠の前で、凛は一人、手を合わせていた。よく見ると、祠の前には、金色に塗った小さな鳥の像が立てかけてある。
「あれから一週間。何事もなく平穏な日々が続いているよ。日笠先輩と初芽先輩は、受験勉強に専念。風花さんとシュナさんは、瀬織さんから霊力を貰いながら、まだ柚子村に滞在している。優里お姉さんは、大学受験に備えて予備校に通いだしたし。千佳は相変わらず、ワガママ言い放題! 一緒に寝てあげたら、荒い息しながら触ってくるし!!」少しずつ口調が荒ぶる凛。だが、フトっ……我に返ったように軽く溜息をつくと、「だから、麒麟さんと一緒に、安心して眠ってね……。金鵄!」そう告げた。
 そして、少しだけ。本当に気づくか……気づかないか、わからない程度の微笑みを見せた。
「でも……、やっぱり、もっと早く言ってほしかったな。僅かな命しか残されていなかったことを……」
(もし言っていたら、君は僕にあの最後の戦いをさせたかい?)
 フトっ、金鵄の声が聞こえた気がした。凛は軽く首を振った。

 あの妖木妃たちとの戦いが終わった直後。凛の足元に舞い降りた金鵄は、そのままバタリと倒れ伏せてしまったのだ。
「どうしたの…、金鵄……っ!?」慌てて金鵄の身体を手に取る凛。だが、その身体は今にも消えそうに、半透明と化している。
「どう……やら、ここで……お別れのようだよ、凛……」
「どうしたの!? なんで、消えかかっているの!?」
「知っているだろう……? 僕は本当は……実体の無い、霊力の……塊。だけど……その霊力は、もう……全て使い果たしてしまった……んだ」
「そ…そんな!? 今朝はまだ、大丈夫そうだったじゃない!? なのに、そんな……急激に霊力を消耗するなんて……」ここまで言うと、凛はハッと何かを思い出した。
「弦……、ゲイの弓の弦になったとき……?」
「そう……。まぁ、ここ数日前から……危ないことは気づいていたけど……、一気に消耗したのは……、やっぱり弦かな……」金鵄はそう言うと、照れ隠しのように目を細めた。
「なんでよ!? なんで、そんな大事なことを言わないの!? それがわかっていれば、わたしは……」そう叫ぼうとする凛の口を、金鵄は消えかかった翼で覆い隠した。「その先を……言っちゃだめだよ、凛……。こうなることも、僕の……使命だったんだ」
「金鵄……」
「でも、君と……出会えた、この半年間……。僕は……本当に幸運だった。日本を……守れた。そういう……ことだけでなく、個人的にも……ね!」
 金鵄はここまで言うと、側で見守っている優里たちに視線を送った。
「優里……。これからも……凛を守って……くれ」金鵄の言葉に優里は無言で頷く。その目には涙が零れている。
「千佳……。凛の……心の支えになれるのは、君だ……。頼む……よ」「任せておくっちゃ!身も心も支えたるちゃっよ!」千佳はそう返しながら、ニカっと笑った。
「瀬織……。君の知識が凛には……必要だ。これからも……知恵を貸してやってくれ……」「承知!」瀬織は、そう一言だけ返した。
 そこまで聞き取ると、金鵄は嬉しそうに微笑み……、そして静かに消えていった。
「き……金鵄……?」それ以上、言葉が出ない凛。代わりに出てくるのは、溢れるような大粒の涙。
 やがて、その感情が一気に高まると、腰を抜かしたようにその場に座り込み、頭を抱え込んで泣き崩れた。
 それは、普段あまり感情を表にしない凛の、初めて見せた慟哭だった。

「わたしね、今でも金鵄と会えて良かったと思っている。出会う前のわたしは、日々……流されるように日常を過ごし、霊が見えるという能力も、内心では恨めしく思っていた。でも、その能力のお陰で金鵄と出会えたし、みんなと一緒に村を……、日本を守ることができた。あの出会いが、わたしを一転させてくれたんだ」
 凛はそう言うと、辺りを見渡すように振り返った。木々の深い緑色。見上げるような高い青い空。今、その景色を感じ取れる。それがどれほど……嬉しいことか。
「また来るね、金鵄。今度来る時は、優里お姉さんも千佳も瀬織さんも……。みんな連れて来るからね」
 そう言って優しく微笑む凛。それは、まだあどけない、十三歳の少女の笑顔であった。


妖魔狩人若三毛凛if第20話E01



 妖魔狩人 若三毛凛 if  終わり

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