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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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マニトウスワイヤー 「プロローグ」

 ここは北アメリカ。

 地平線の彼方まで見渡せるのではないかと思えるような広大な大地に覆われた、ニューメキシコ州の小さな村。
 普段なら農業と狩猟による時代の流れを感じさせない民族が住む平和な土地だが、今・・・この場限りではそうではなかった。

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「フェアウェイ、頑張って!! 奴らに追いつかれる!」

 小麦色の肌。オカッパのような黒髪に、いかにもネイティブ・アメリカン的な軽装の若い女性が、同じような服装で緑色の髪をした幼い少女の手を引いて必死の形相で駆け抜けていく。

「バレンティア、もう走れない・・・!」

 フェアウェイと呼ばれた緑色の髪の幼い少女は今にも号泣しそうに目に一杯の涙を貯め、バレンティアという名の女性の手をしっかり握りしめ後を追ってくる。

 乾いた大地、二人の飛び散る汗が一瞬で吸い込まれる。

「はぁ・・はぁ・・。ねぇ、バレンティア・・・もう大丈夫なんじゃないの・・?」

 手を離し、その場に座り込むフェアウェイ。
 バレンティアも足を止め、辺りを覗きこむように目を凝らす。
 広大な大地には小動物一匹の姿すら目にはいらない。

 だが・・・

 遥か後方から地響きを上げながら、まるで爆煙のような砂煙がこちらに向かってくるのがわかる。
 まるで温度計が下がっていくかのように、見る見るうちにフェアウェイの顔色が青ざめていく。

「バレンティア! フェアウェイ!」
 前方から大きな呼びかけと共に、三頭の馬が駆け寄ってきた。

「大丈夫!?」
 それぞれの馬から三人の若い女性が飛び降りる。

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「ルゥ、どうしてここに!?」
 バレンティアは、自身より少し若く小柄で長髪の女性に話しかけた。

「酋長が何があっても貴女達を守りなさいと、わたし達をよこしたの」
「酋長が・・・?」
「そう、酋長が言っていたわ。もしフェアウェイが奴らの手に渡ったら、この大地の全てが終わると・・・」
 ルゥという女性の言葉に他の二人の女性も頷いた。

「さぁ、この馬に乗って早く逃げて!」

 同様に長髪で凛々しい面立ちの女性、サラはそう言って馬の手綱を引き寄せる。
 靭やかな足でバレンティアは一気に馬に飛び乗ると、フェアウェイの身体を引きずり上げた。

「これを・・・」

 三人目の女性、露出度の高い服に長身金髪のソランジュが、封筒と二枚の紙切れを手渡す。

「日本行きの航空券と目的地を記したものよ」
 ソランジュの言葉にバレンティアは無言で頷く。

「無事に逃げ延びてね・・・」
「ありがとう、みんなも絶対に無理をしないで! 酋長にもよろしく・・・」

 交わす言葉には、それぞれの覚悟を決めた心意気が伝わってくる。

「ハイヤーっ!!」

 膝元にフェアウェイを乗せ、バレンティアは涙を拭うと一気に馬を走らせて行った。

 二人を見届けると、ルゥたちは馬に積んであった各々の武器を手に取り近寄ってくる砂煙を睨みつける。

 間近に迫った砂煙の中から現れたのは一本の『タイヤ』。 

え・・っ!? タイヤって、あのゴムで出来た自動車やバスなどに付いている車輪のこと?

 それ、見間違えじゃないの!?

 いや、そうではない。
 たしかに全高3.3メートルと一般ではお目にかかれない程の大きなものだが、それはどう見てもゴムで作らえれた一本のタイヤである。

 更にそのタイヤのすぐ後から、一台の馬車が着いて来ている。
 馬車から降りてきたのは小柄な中年女性。
 しかし、その大げさとも思えるような猫背に瘤のようなしこりがある。
 今の時代では禁句になっているらしいが、いわゆる『せむし女』と呼ばれる姿だ。

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 その後に降りてきたのは、同じく中年女性?
 見た目は体重100キログラムは楽々超えているだろうとわかる程の丸々太った巨体。
 だが、問題はその顔だ。まるで表情がわからない。

 それもそのはず。その顔は素顔ではないからだ。

 おそらく、動物の皮で作ったのではないかと思える面を被っている。

 そしてその後に続いたのは、ヒョロリとした長身の年配男性。
 手にベーコンか何か肉の塊のようなものを握りしめ、クチャクチャ噛み締めている。

 一見、人の良さそうな中高年に見えるが、さすがにこのメンバーの中にいると異様な雰囲気が醸し出ている。

 最後は、頭から全身までマントのような布で覆われた性別不明の人物。
 体格的にも、男なのか女性なのかわからない。

 馬車から降りてきたのは全部で四人だ。

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「子ども・・・。天女の子どもは、どこへやった?」
 小柄なせむし女が口を開いた。

「見てのとおりここにはいない。そして・・・」
 ルゥはそう答える。

 その言葉に反応したかのようにサラが大きな剣を。ソランジュがライフル銃を構えた。

「何処へ行ったか、お前たちに教える筋合いも無い」

「まさか、極普通の人間であるお前たちが、アタクシ達を抑えられるとでも思っているのかい?」
 せむし女は目を細め、口端は耳にでも届きそうなくらい引き上げクククと笑う。

「R-51、この獲物・・・まずはお前に与えるよ」
 せむし女の言葉に、巨大なタイヤ・・・R-51がゆっくりと動き出す。

 R-51はそのまま回れ右をし、後方に向かって走りだす。だが再び旋回すると、加速を付け猛スピードで迫ってきた!

「くっ!!」

 ソランジュがライフルを二発・三発と発射する。
 しかし高速回転しているR-51は屁でもないように弾き返し、そのまま突進してきた。

ガンッ!!

 ライフルを構えたまま避けそこねたソランジュは悲鳴を上げる間もなく弾き飛ばされた。

「ソランジュ!?」

 ルゥとサラは剣を掲げ救助に向かって走りだした。

 その前に立ちはだかったのは、皮膚で作られた仮面を被る丸々太った中年女。
 その手には、轟音を上げながら勢い良く回転するチェーンソーを握りしめている。

「こいつが・・・ミス・ブッチャーマン(女屠殺人)と呼ばれるクエロマスカラ!?」

 クエロマスカラ。テキサス州近辺に出没する殺人鬼。
 チェーンソーを片手に数百人の人命を殺害したと言われている、極悪非道の女屠殺人。
 顔につけている皮膚製の仮面は、殺した女性の皮膚で作られていると言われている。

 巨体から繰り出す怪力で、右へ左へ軽々とチェーンソーを振り回す。

 下手に剣で受けようとするならば、腕ごとねじ切られるかもしれない。

 ルゥもサラも攻撃を避けながら左右二手に別れ、致命傷を負わせる隙を狙う。
 そんなルゥとサラを目で追えなくなり、一瞬躊躇するクエロマスカラ。

「今だっ!!」

 ルゥが剣ごと体当たりするようにクエロマスカラにぶつかって行った。 クエロマスカラの脇腹にルゥの刃が深々と突き刺さっている。
 更に「たぁぁぁぁっ!!」サラも刃を突き立て体当たり。 左右から、二本の剣が突き刺さる。

「・・・!?」

 何が起きたか、まるでわからないかのように目を丸くしたクエロマスカラ。 だが、ゆっくりとその巨体は傾き、地響きを立ててその身を横たわらせた。

 一方、弾き飛ばされたソランジュは、倒れたその身にR-51が踏み潰すように伸し掛かっていた。

「ぎゃぁぁぁぁっ!」

 高さ3メートル以上ある巨大なタイヤは、たとえゴムタイヤとは言えその重さは1トン以上ある。
 そんな物が乗っかっているのだ。その激痛は想像を超え激しい悲鳴は当然だ。

「早く、ソランジュを助けなければ!」
 直ぐ様ルゥが駈け出し、サラもその後を追おうとした。

 だが・・・足が前に進まない!

「えっ!?」

 サラはその細い足首を掴まれ、そのまま一気に宙吊りにされた。

「サラ!?」

 ルゥが振り返ると、倒したはずのクエロマスカラがサラの両足首を掴み、逆さ吊りにしている。

「くそっ! 放せ、この・・デブ!!」

 逆さ吊りの状態で、喚きながら剣を振り回すサラ。 振り回した剣は、何太刀かクエロマスカラを切りつけている。

 だが、クエロマスカラが反応したのはそこではなかった。

「デブって、イウナ!」

 まるで地の底から搾り出されたような、重く掠れた声を出すと、
ガツンっ!! ガツンッ!! と、サラを頭から大地に叩きつける。

「ぐ・・・ぐ・・ぅ・・」

 三度、四度と叩きつけられると、頭を強く打ったせいかサラの意識は朦朧としていた。

 クエロマスカラはグッタリしたサラを地面に横たわらせると、まるで小麦粉でも捏ねるように手足を折りたたんでは力を込めて押し潰す。

 丸く押しつぶすと二~三回大地に叩きつけ、またまた捏ねるように押しつぶす。

 そんな作業を五~六回繰り返したら、サラの姿はどこが頭でどこが手足で、どこが胴なのか? まるでわからない・・・楕円形の大きな肉の塊になっていた。

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 クエロマスカラは肉の塊となったサラを持ち上げると、人の良さそうな長身の中高年男性の元へ持っていく。

「パパ、ハンバーグ・・焼イテ」
 その言葉にニヤリと微笑む、中高年男性・・・ドレイトン。
 馬車から大きな鉄板と薪を下ろすと、料理の準備を始めだした。

 為す術もなく呆然と見つめていたルゥ。
 そんなルゥは大きな悲鳴で我に返った。

「た・・たすけて! ルゥ!!」
 それは巨大なタイヤであるR-51に踏み潰され、姿すら見えないソランジュの声だ。
 ルゥが駆けつけると、踏み潰されているソランジュの身体が徐々に・・・徐々に薄くなっていくように見える。

 それはまるで、空気が抜けた風船人形が萎んでペチャンコになっていくように。

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「R-51は、ああして踏みつぶして絞り出た人間の体液を吸い尽くしていくのさ」

 いつの間にかすぐ背後にせむし女・・・アンナ・フォンが近寄り、そっと囁いた。
 振り返り剣を構えるルゥ。
「警戒する必要はないさ。アタクシ自身はアンタをどうこうする気はないよ」
 アンナ・フォンはそう言うと、厚さ1センチ程になったソランジュを摘み上げるクンクンと匂いを嗅ぎ、嬉しそうに馬車に積み込んだ。

「ただ・・・、パペット・マスターはアンタに興味があるみたいだね」

 あまりに異様な者達ばかりでルゥはすっかり戦意を喪失し、ただ・・ただ、呆然と立ち尽くすのみだ。

 そんな彼女の肩に手をかけたのは、全身マントの人物・・パペット・マスター。
 ルゥは、逆らう気も無かった。




 それから数時間後。
 メキシコ・シティ空港から一機の国際線航空機が飛びだって行った。

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 その機内には、バレンティア、フェアウェイの姿が見える。

 相当疲れたのであろう。フェアウェイは座席の中でスヤスヤと小さな寝息を立てていた。

 その姿を見てバレンティアは静かに微笑むと、ポケットから封筒を取り出し中身を確認した。
「日本・・・神田川県、丘福シティー。ここに行けば・・・・・」



 そして、空港の側で飛び去る飛行機を眺めるアンナ・フォン。 クエロマスカラ。 ドレイトン。 パペット・マスター。 R-51。

「全ては、マニトウスワイヤー復活のために・・・」
「全ては、マニトウスワイヤー復活のために・・・」



第一章 蜘蛛のお姫様へ続く。
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マニトウスワイヤー 第一章 蜘蛛のお姫様

 高々と登った、眩い陽射しが、コンクリートジャングルを一斉に照らす。

 ちょっと田舎へ行けばミンミンと蝉の声が辺り一面に響き渡るのであろうが、ここ神田川県丘福市では年中変わらず車のエンジン音が鳴り響く。

 そのジャングルの一角、様々な会社の袖看板が一列に並ぶビルの一つ。
 『手作りアクセサリー・銀の首飾りFC本部』と小さく書かれたオフィスに、今・・・尋常では考えられない出来事が起こっていた。


 中に居るのは一人の中年男性、矢澤孝一。
 株式会社銀の首飾りの代表取締役社長。

 高そうなスーツに身を固めた、まだ20代前半の女性は館脇琴実(ことみ)。
 同社、取締役専務。

 そして靭やかな長い黒髪、静かな湖のように蒼い瞳、高校生・・いや大学生? とにかく小柄な若い少女が一人。その手は真っ赤に血塗られていた。

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 いやいや、よく見ると、その三人だけではない。
 少女の足元には、三~四人の若い会社員らしき男が全身血だらけで横たわっている。

「ま・・待ってくれ! お・・俺は、何もやっていない。俺は社長と言っても便宜上の飾りみたいなもので、全てはそこの女・・館脇専務が動かしていたんだ!」

 矢澤は少女の動向を抑えようと、必死で弁解している。

「うふふ・・・。言い訳しなくても、貴方が小物だということはとうにお見通しですわ」

 少女はそう言って、一輪の花のような愛くるしい笑顔を見せた。

「それにわたくし・・。殿方の肉はどうしても好きになれないし、生地にしても目が粗くてとても使い物になりませんもの・・・」

― な・・なに言ってんだ・・・こいつ!?―

 矢澤は時間でも止まったかのように、ポカンと聞いている。

「だから貴方は・・・」
 少女はそこまで言うと、男性に手の平を向けた。

 シュッ!! 

 と細い霧のような物が、矢澤に吹きかけられる。

 それは一瞬で矢澤の首に巻きつき、少女と一本の線で結ぶ。
 キラキラと輝く一本の細い線。それは…紛れも無く、一本の『糸』。蜘蛛の糸だ。

 少女は身体とは似つかないような力で糸を引き、一気に矢澤との間合いを詰めると、鋭い右手を腹部に突き刺した。

「ぐふぅ!?」

 矢澤の口から泡のような血がブクブクと吹き溢れる。

「もう・・・黙っていなさいな♪」
 まるで羽音の五月蝿い『蚊』でも叩き潰したかのように、軽い仕草であった。


 それまでの経緯を逃げもせず、黙って静観していた若い女専務、琴実。

 逃げなかったのではなく、逃げたくても逃げられない・・・。
 絶対捕食者の前で全ての抵抗を諦めた小動物のように、全身の動きが麻痺していたのだ。

「さて、最後に貴女ですわ!」

 少女はそう言って琴実の顎を掴み、その顔をマジマジと眺めた。

「お・・お願い・・、お金なら返す・・・。だから・・助けて・・・」

 部屋の外は汗すら蒸発するんじゃないかと思えるくらいクソ暑い天気だが、一人だけ冷凍庫の中にいるかのように顔は青ざめガタガタと震えている。

「わたくし、そんな物に興味は無いし。それに貴女を恨んでいる人も、今更そんな物を返してもらっても嬉しくとも何とも思わないと思いますわよ?」

 少女はそこまで言うと、琴実の細い首筋に愛くるしい口を近づけた。

 その瞬間、碧い瞳は一転して真紅に光り、少女の上顎から鋭い鎌のような牙が飛び出す。
 ゆっくりと深々に、それを細い首に突き刺した。

「ああ・・・!?」

 短い悲鳴を上げるのも束の間、体内に冷たい何かが入ってくる。
 身体の隅々まで何かが行き渡ると、心地良い痺れとともに身体が麻痺していくのがわかる。
 その後、今まで味わったことも無い、まるで天にも舞い上がるような……身体がフワフワと軽くなっていく感覚に覆われる。

― あ・・恍惚・・・ ―

 もっとも、実際体内の物は殆どドロドロした液状の物質に変えられ、それを少女が全て飲み干しているのだから身体が軽くなっているのも当然だが。

 体内の物が全て飲み干され、ペラペラの等身大切り抜きポスターのようになった琴実の口内に、少女は手首まで突っ込んだ。

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 手の平からまたも粘着力のある糸のような物質を放出し、皮だけの琴実に流し込む。

 その皮を伸ばしたり丸めたり縮めたり繰り返すと、やがてそれは眩い光り輝く金色の一枚の布地に変化していた。

「金色を象徴する言葉は、『ステイタス・輝き・豪華・才能・成功』。実質、会社を操り、大勢の人を騙し、営利を貪っていた貴女には、これ程当てはまる色はないですわね」

 少女はそう呟くと布地を端から丸め、自身のバッグにしまい込もうとした。

 その時・・・・


ひょこっ!!

「この…妖怪・蜘蛛女! 相変わらずグロい事してるわね!?」

 なんと、バッグから小さな頭のような物が現れると、開口一番そう語った。

 少女は一気に目を座らせると、その小さな物体を抱え上げホッペタらしき箇所を思いっきりつねる。

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「蜘蛛女・・・ではなく、わたくしの名は『八夜葵(はやき)都(みやこ)』。いい加減・・都と呼ぶか、もしくは・・・」
 そこまで言うと、少女・・都は見るからに上から目線になり・・・
「『てんこぶ姫』と呼びなさい」
 と不気味な笑みを浮かべた。


「いたたたた・・・・! わかった・・わかったから、ホッペをつねらないで!!」
 小さな物体はそう叫びながら手足をバタバタと振り回す。

 あまりに暴れまくったせいか、それとも都の意図的なのか?
 とにかく小さな物体はスルリと都の手からすり抜け、地べたにストンと落っこちた。


 それは一目でわかる、人間の女の子っぽいヌイグルミ。
 やや茶色がかった黒いポニーテールに、ファンタジー系の魔法戦士のコスチューム。
 三頭身の愛くるしいボディーにつぶらな瞳。

 ヌイグルミは落ちた拍子に打ちつけた腰をさすりながら、

「あたしだって、『伊達香苗(だて かなえ)』という名前があるのに、アンタ・・一度も名前で呼んだことないじゃないの!?」

「あら!? そうでしたっけ?」

「ほぉ~~ら!! 一介の剣道少女だったあたしがこんな姿になった経緯にしたって!自分に都合の悪いことはな~んにも覚えてない!」

「では、今回はお互い様ということで。それにわたくし、貴女とお喋りしているほど暇ではないので」

 都はそう言って、香苗を再びバッグの中に入れようとした。

「なに、急いでいるの!?」
「今からこの生地を持って、恨みを連ねていた方の元へ行かなくては」


 その言葉に香苗はピンと来た!


「いつもみたいに、その人まで食べる気!?」

 その言葉に都は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに微笑むと

「それは行ってみて・・・、話してみてから決めますわ」
「アンタ、絶対にロクな死に方しないわよ! そうね・・・言うなれば、噂の妖魔狩人に仕留められるっていうのはどう~?」


 妖魔狩人・・・。


 それは今年になって多くの妖怪を浄化してきた、その名の通り妖怪を退治する狩人。
 当然都の耳にも、その噂は入っている。


「あの者たちは、ここ丘福市から離れた柚子村で活動をしています。 ですから、そちらさえ行かなければ、この広い丘福市で出会う可能性は何万分の一ですわ」

 そこまで言うと都は一旦口を閉じた。


「でも・・・・・」

「!?」

「一度手合わせしてみるのも、面白いかもしれませんわね♪」

 その笑顔はめったに見ることのない、黒く・・・それでいて心から楽しみにしているような、そんな希少な笑顔だった。



 ビルから大通りに出てJR丘福駅に向かってしばらく歩くと、遠くから何やら悲鳴やら叫び声などが聞こえてくる。

「なにごとかしら?」

 どうやらそれは、道路を挟んだ反対側の歩道から聞こえてきていた。



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「フェアウェイ、こっちよ!!」

 バレンティアはフェアウェイの手をしっかり掴み、人波を掻き分けながら慣れない街を懸命に走っていた。

 東京を経由し、無事に神田川空港に降り立ったバレンティアとフェアウェイ。
 空港からそのまま地下鉄に乗り丘福駅まで辿り着いたが、その場で大勢の黒マントを着た集団に出くわした。
 ニューメキシコでも感じ取れたアンナ・フォンが率いてきた一味の強い殺気。
 同様の殺気を感じ取ったバレンティアは強引に集団を突破し、逆に人集りを利用し駅の外へ飛び出したのだ。

― まさか、こんなにも早く奴らの追っ手がついて来ていたなんて・・・―

 右も左も解らぬ異国の地だが、とにかく今は奴らの目を誤魔化せる場所へ逃げこむしかない。
 バレンティアはそう考え、あえて人集りが多そうな一つの百貨店の入り口をくぐり抜けた。 

 七階建ての百貨店。
 入ってすぐのエントランスホールには最上階までの吹き抜けと、それに連なったエスカレーターがある。

「フェアウェイ、急いで!!」
 フェアウェイの手を引きエスカレーターに駆け込もうとするバレンティア。

 その時・・・・

「バレンティア!」

 背後から聞き覚えのある声が彼女の足を止めた。
 振り返ると数人の黒マント姿が立っており、そのうちの一人が顔を覆っているフードを外した。

「ル・・ルゥ・・・!?」

 そこには、ニューメキシコを抜け出るときに手を貸してくれた仲間・・・ルゥの姿が。

「バレンティア、話しを聞いて・・・。私は貴女を助けたいの・・・」
 ルゥはそう言ってゆっくり近寄ってくる。

「ルゥ・・・・」
 バレンティアの目には涙が零れていた。
 まさか、もう二度と会えないかもしれないと思った仲間が・・・。
 この数日間、寝る間も無く追ってくる敵だらけの毎日。
 必死で逃げまわり疲れ果てた心に、その心を許せる仲間の姿を目にして・・・。

「バレンティア、騙されちゃだめ!」

 フェアウェイが戒めるように強く手を引いた。

「!?」

 フトッ・・我に返り、改めてルゥを見直す。
 よく見ると、不自然にツヤのある肌・・・。ぎこちない足取り・・・・。 そして、バレンティアを見つめるその黒い瞳は、まるでビー玉のように生気が無い。

「マネキン人形・・・? パペット・マスター!?」

 噂には聞いたことがある。
 生きた人間の魂を抜き取り、その身体を妖術で人形化し自在に操る呪術師の噂を。
 いつの間にか前後左右・・・黒マントの集団に囲まれ、逃げ場を失っていた。

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 すると・・・

シュッッ!!

 まるでスプレーでも吹きつけられたような微かな風切音が耳に入ると、どうしたことか!?
 その身体が一気に宙に舞い上がったのだ!
 バレンティアだけでなく、フェアウェイも同様に宙に浮かび上がっている。

「い・・糸っ!?」

 胴体には細い糸が幾重にも巻き付かれ、その糸の先から宙高く引き上げられているのだ!
 まるで瞬間移動でもしたかのように一気に吹き抜けを飛び越え、最上階まで引き上げられた二人。

「怪我はないかしら?」
 甘く、それでいて澄んだ声・・・。

 そこには一人の少女・・・・都の姿があった。

「貴女・・は・・!?」

「わたくしの名はてんこぶ姫。ですが、今はお話をしている時間ではありませんわ。早く逃げますわよ」
 都はそう言って先頭を切って駈け出した。

 敵か味方かわからないが今は信じるしかない。
 バレンティアはフェアウェイの手を引くと、一目散に後を追った。
 最上階にある子供向け室内遊技場。 その展望用の大窓の前で都は待っていた。

 都はバレンティア達が駆けつけるのを見計らうと、側にあったテーブルで大窓のガラスを叩き割る。
 そして自ら外に出ると、手を差し伸べた。

「さぁ、わたくしの手に捕まって」

 手に捕まってって言っても、ここは七階・・・。高さにして約30メートル程である。
 躊躇しても不思議ではない。

 それを悟ってか都は手の平から糸を噴出すると、バレンティアとフェアウェイの身体をグルグルに巻きつけた。
 そして自らの身体に縛り付けると、反対側の手から糸を噴出し向いのビルに貼り付ける。
 勢い良く蹴りだすと、まるで振り子のようにビルとビルの間を大きく飛び交った。

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 大絶叫を上げるバレンティアとフェアウェイ。
 向かい側のビルに着くと更に別のビルに・・・。
 こうして一気に三つ四つのビルを飛び交って敵の追っ手を振り払うと、ゆっくりと歩道に着地した。

 連続バンジージャンプ並の恐怖に目を回すバレンティアとフェアウェイ。
 そして、なぜか・・・・香苗も。

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 そこへ、丁度いいタイミングで路線バスが到着した。

「さぁ、これに乗って行ける所まで行きますわよ」
 三人(香苗はバッグの中)は、他の乗客に紛れてバスに乗り込んだ。




第二章 てんこぶ姫 対 R-51へ続く。
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マニトウスワイヤー 第二章 てんこぶ姫 対 R-51

「私立聖心女子大学附属聖心女子高校・・・」

 バスの中で封筒の中身を確かめながら、バレンティアはそう語った。

「聖心女子大・・・って、わたくしの通う大学ですわね。 その附属高校・・・。どこだったかしら?」
「とにかく私達は、そこへ一刻も早く行きたいのです!」

「うーん・・・、聖心女子高…。一度剣道の対抗試合で行ったことはあるんだけど、たしか・・・中央区だったかな?」

 話を聞いていた香苗はバッグから顔を出し、つい呟いてしまった。

 それを見たフェアウェイ。

「わぁぁぁぁつ!! ヌイグルミさんが喋ってる!?」
 と声を張り上げてしまった。

 一斉に他の乗客から視線を浴びる一行。

「貴女が余計なことをすると目立つから、口を挟まないでくれませんか?」
 氷より冷たい視線で、香苗を睨みつける都。
 慌てて口を噤む香苗。

 だが、フェアウェイの好奇心という名の視線は香苗に鋭く刺さったままである。

「仕方ないですわ。少しの間だけですが存分に弄んでくださいな♪」
 都はそう言って、香苗をフェアウェイに手渡した。

「ヌイグルミさ~ん♪」
 フェアウェイは香苗をしつこく頬擦りしたり、アバラが折れそうな位、抱きしめたり。
 もっとも、ヌイグルミである香苗にアバラは無いが・・・。

「それにしても中央区ですか・・・。途中で一回乗り換えれば、それほど遠い距離でもありませんわね」
 都は無邪気に香苗で遊ぶフェアウェイを横目で見つめ、仕方無さそうに微笑み

「いいでしょう。わたくしたちがそこまでご案内いたしますわ」
 と、言った。

「ありがとうございます!」
 バレンティアは満面の笑みで喜んだ。

「・・で、貴女たちを追っていたあの人形どもは一体何ですの? そして・・・、貴女たちが狙われている理由は?」
「それは・・・・」

 バレンティアが重そうな口を開こうとしたその時!

ガガァァァァン!!

 重い衝撃音と激しい振動がバスを襲った!
 急停車しようとしたが、ハンドルを取られそのまま横流れに歩道に乗り上げると、バランスを崩し一気に横転してしまった。

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 一瞬で地獄絵図と化した車内。うめき声と泣き声が交錯する。

「なにがあったんですの!?」

 体勢を立て直し、辺りを見回す都。

 その都の目に映ったのは、バスの外で蠢く巨大で黒い物体。
 その大きさはバスの全高が約3.3メートル。それと殆ど変わらない。

 もっと・・もっと・・小さければ、それは日常で極自然に目に触れている丸い物体。

「あ・・R-51・・・」

 バレンティアがその物体を見て口に漏らした。

 そう、ニューメキシコでバレンティアたちに襲いかかった・・・。
 ソランジュを踏み潰し、ペチャンコにした・・・黒い巨大なタイヤ。

「R-51・・!? まさか、あのタイヤ・・・、生きているのですか!?」
「生きている・・・と言えば生きているのかも知れません。でも、まさか・・アイツまで、この国にやって来るとは・・・・」
 蒼白となったバレンティアは、ただ・・ただ・・呆然と見つめるだけだ。

「とにかくまずはここから出て、逃げるしかありませんわね!」
 都はそう言ってバスの窓ガラスを蹴り破る。
 バスから飛び出し歩道を駆け出す都たち。

 R-51はそれに気づくと、メキメキとバスを踏み潰しながら都たちの後を追い始めた。

「こっちです!」
 都は強固な建物の多い飲食店街に向かって走り続ける。

 しかし、いくら駆け足とは言え二足歩行の人間より回転して突き進むタイヤの方が移動速度は圧倒的に速い。
 見る見るうちにR-51は都たちに追い付いてきた。

 都はオフィスビルに飛びつくと、そのまま猛スピードでビルの壁をよじ登った。
 それはまさしく『蜘蛛』の動き。

 5階に辿り着くと手の平から糸を放出し、下にいるバレンティアとフェアウェイの身体に巻き付け、グイッと一気に引き上げた。

 窓を蹴り破り二人を室内に誘導し
「さすがに、この高さまでよじ登ることはできないでしょう」
 と、一息ついた。

 だが・・・

ガンッ!! ガンッ!!

 たしかにR-51は壁をよじ登ることはできないが、一歩引いては突進。一歩引いては突進を繰り返し、ビルの壁を叩き壊しに掛かる。

「まっ!? このビルごとダルマ落としでもして、わたくしたちを引きずり降ろそうって思っているの!? なんて・・脳筋なのかしら!?」

ヒュゥゥン! 

 都は唯一人ビルから飛び降りると、鋭い手の爪を剥き出し、

ズザザッ・・

 R-51を切り裂きにかかった。

「!!?」

 だが、分厚いゴム製のR-51。
 爪先が僅かに喰いこみはするものの、その弾力性で爪が抑えこまれ、引き裂くことすらままならない。

「あらあら、わたくしの爪がまるで役に立たないとは・・・。こんな事なら毎朝コーンフレークを食べて、カルシュウムをしっかり取っておくべきでしたわね」
 都がそう呟いた時・・・

「下等な虫ケラ妖怪ごときが、アタクシたちに歯向かうつもりなの?」

 黒マントの人形たちを引き連れて、路上を悠々と歩む一人のせむし女。

「アンナ・フォン!?」
 オフィスビルの窓越しでバレンティアが声を上げた。

「そ・・その手にした物は・・!?」

 それは、アンナ・フォンが両手で抱えている反物のような物体。
 桜色で所々…香ばしく焼け焦げた跡があるその物体は、人の姿を型どったペラペラの薄べったい物。

「ああ…、これかい?」

 アンナ・フォンはそれを高々と持ち上げると、

「これはアンタたちを逃がそうとした、ソランジュとかいう娘を燻って作ったベーコンさ!」

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 アンナ・フォンはそう言って太腿の辺りに齧りつくと、美味そうにその肉を頬張った。

「ドレイトンが作ったのだけど・・・この娘の程よい甘さを活かした絶妙な塩加減にチップの香り。一度食べたら止まらない美味しさよ。 彼の作るベーコンは口コミで大人気。最近ではネットからの注文が殺到しているらしいわ!」

「そんな事より虫ケラ妖怪・・ごとき・・とは、聞き捨てなりませんわね。 貴女こそどなたですの?」
 都が間に割って入る様に、冷ややかな眼差しで問いかけた。

「アタクシの名はアンナ・フォン。 偉大なる『マニトウスワイヤー』の第一の下僕」

「マニトウスワイヤー・・・? 聞いたことありませんわね。何者ですの?」

「アンタごときではその名を口にするのも恐れ多い、偉大な支配者様よ!」

 アンナ・フォンはそう言って指先でR-51に合図を送る。
 それを理解したかのように、R-51は目標を都に定め猛回転で突進して来た!

 持ち前の身の軽さで楽々と避ける都。

 アンナ・フォンは、その間・・人形たちにバレンティアたちがいるオフィスビルに向かうように指示。
 それに気づいた都はビルに戻ろうとするが・・・

グォン!!

 予想以上に素早い動きで突進してくるR-51に阻まれ、思うように身動きが取れない。

「本当に、邪魔なタイヤですわね!」

 都は糸を噴出し近くのビルに貼り付けると、糸を手繰るように飛び上がった!
 飛びながら更に糸を噴出、手繰りながら空中移動を繰り返す・・都。

 だが、R-51はその場で2~3回弾むように跳ねると、その反動を利用し都目掛けて大きく飛び上がった!

バシッッッッ!!

 空中でR-51はそのまま都に体当たり!

 体勢を崩し、為す術もなく落下する都。

ガッシャーン!!

 飲食店街一角の天ぷらチェーン店の大窓に、真っ逆さまに突っ込んでしまった。

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「うぅぅぅ・・・」

 過去、多くの人間を手にかけてきたが、自分と同等・・・もしくはそれ以上の化け物と戦ったのは初めてである。

 全身は血まみれ。初めて味わう『殺されるかもしれない』という恐怖感。

「あんた、大丈夫か・・・!?」
 客や店員が駆け寄り、心配そうに都に問いかけた。

「ご心配には及びませんわ・・・。わたくしは・・姫。蜘蛛妖怪の姫・・・。こんな傷・・屁でもありません」
 よろめきながらも立ち上がり、身体を引き摺るように店の外へ・・・

 そこへ、大きく跳ね上がったR-51が全体重を乗せて都目掛けて落下!!

ズシィィィン!!

 震度5を思わせるような大きな揺れ。

「所詮は虫けら妖怪・・・呆気無いものだ。ペチャンコに潰れてR-51に吸収されるがいい」
 離れて様子を見ていたアンナ・フォンは「クククッ」と嘲笑った。




 激しい戦いとなっている飲食店街を、少し離れた場所から見物する多くの通行人たち。

「化け物が暴れているそうだぞ!」
「空中を飛び回る女の姿もあったそうだ!!」
「それって、都市伝説にもなっている・・『蜘蛛女』じゃね!?」

 そしてここ、一番近い地下鉄乗り場『五福街駅』でも、多くの人集りが出来ていた。

 その中に髪を長めのサイドテールに結んだ、小学校か・・中学校の生徒らしき一人の少女の姿が・・・。
 その少女の頭上では金色に輝く・・・鳩ほどの大きさの鳥が一羽、飛び回っている。

「どうやら事態は予想以上に深刻のようだね。 先を急ごう!!」

 なんと金色の鳥はサイドテールの少女に、そう話しかけていた。
 その言葉に少女は黙って頷くと、駆け足で飲食店街に向かった。

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 都を踏みつぶして勝利を確信したR-51。

 だが、いつもなら吸収できる体液が、なぜか一滴も吸い取ることが出来ない。

 よく見ると、タイヤであるR-51のトレッドパターン。いわゆるタイヤの溝の隙間から、それに沿って黒い液体が溢れている。

 いや、液体では無い!

 小さな・・小さな・・・。小指の爪先にも満たない小さな物体が無数、行列を作って流れるように移動しているのだ。
 それは、小さな小さな『蜘蛛』の行列。

 「蜘蛛の子を散らす」そんなことわざのように、無数の蜘蛛が這いずり回っているのだ。

 溝から抜けだした蜘蛛たちは一箇所に集まると、小山を作るように積み重なっていく。
 そしてそれはやがて人の形になり、ついには都の姿になった。

 なんと都はR-51に踏み潰される瞬間、姿を無数の小蜘蛛に変え、トレッドパターンの隙間に入り込んでいたのだ。

「この術はとてつもなく妖力を消耗するから頻繁には使えませんけどね・・・」

 都は、そう荒々しく息を吐いている。
 R-51もそんな都の姿を見てワナワナと震えている・・・ように感じられる。

 おそらく彼が人の姿をしていたならば、こめかみ辺りに血管が浮き出ていたことだろう。
 それが証拠にR-51は助走をつけると、まるで怒りをぶつけるかのように激しく都に向かって突進してきた!

 都は残る力を振り絞ぼり必死で体勢を立て直すと、左右に立ち並ぶビルを2往復・・3往復と飛び交った。

 そして、張り巡らせた糸で、大きな・・大きな『網』を仕掛けた。

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 蜘蛛の糸の強度は恐ろしく高く、直径1センチ程の太さで網を張れば、大型旅客機ですら蜻蛉のように捕らえることができるという。

 さすがに都の出す糸はそこまで太くはないが、それでもR-51の突進を抑えるには充分の太さである。

「くたばりなさい!!」

 しかもその網はまるでゴムのように大きくしなると、勢い良くR-51を弾き返した。
 弾き返された先には、先程・・都が突っ込んだ『天ぷらチェーン店』が!!

ガシャァァァァン!!

 大勢の客を回転させる為に設置された大型のフライヤー(揚げ物調理機器)。それらがひっくり返り、熱くなった大量の油がR-51に降り注ぐ。
 それだけではない!
 ひっくり返ったフライヤーの火は床に流れる油に移り、導火線を伝わるかの如くR-51へ向かっていく。

ゴォォォォォォッッ!!

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 激しい火の粉を撒き散らし、ゴム製のR-51は瞬く間に炎に覆われた!

 まさに『火車』となって、言葉通り転げまわるR-51。

 だが、それも長くは続かない。

 やがてゴムがドロドロに溶け、ついには黒いコールタール状の物体となって沈黙した。

 都はR-51の死を確認すると、肩で息をしながらバレンティアたちの居るビルへ向かった。



第三章 バレンティアとの別れへ続く。
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マニトウスワイヤー 第三章 バレンティアとの別れ

 一方オフィスビルの5階、とある商事会社の事務室に逃げ込んだバレンティア、フェアウェイ、そして香苗の三人。

 だが、それも束の間。
 その事務室も、数人のマネキン人形に囲まれてしまっている。

 今、この事務室にいるのは、バレンティア、フェアウェイ、香苗。

 そして、この会社の事務員だろうか?
 若い・・・そう、10代後半くらいの一人の女子社員。

 以上、四人。

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 マネキンたちは各々短剣を持ちあわせており、事務室にいた他の会社員、事態を察知した警備員たちを刺し殺している。

 そして、なぜか・・・倒れている会社員の間に、二つ・・三つの人の姿をしたヌイグルミが。
 バレンティアは警備員が手放した警棒を手にマネキン人形たちと対峙しているが、元々仲間であったルゥの姿をしたマネキンもおり、それがどうしても戦いづらかった。

 そのルゥは、一人だけ真っ赤な蒸気のような靄を発する短剣を所持している。

「も・・・もう・・いや・・・」

 足元の倒れている警備員や社員。そしてヌイグルミを凝視していた女子社員。
 そう呟くと、箍(たが)が外れたように出口に向って走りだした!

 そんな彼女にルゥは即座に反応する。

「や・・・やめなさいっ!!」
 バレンティアの制止も聞かず、ルゥは逃げる女子社員の背中を真っ赤な短剣で突き刺した。

「あ・・・あぅ・・・!?」

 瞬時に女子社員の動きが止まる。

 同時に見る見るうちに彼女の身体は縮んでいき、ルゥの足元に一つの物体が転がり落ちた。

 それは、あの女子社員そっくりのヌイグルミ。

 そう・・・。

 ルゥの持つ短剣には彼女を操るパペット・マスターの呪術がかけられており、これに刺された者は皆・・・ヌイグルミに変化してしまうのであった。

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「くそぉ! あたしが元の姿で木刀でも持っていれば、なんとか突破できそうなのに!」
 フェアウェイの手の中で、歯ぎしりをする香苗。

「ルゥ……。お願い意識を戻して・・・・」

 警棒を構えながら懇願するバレンティア。
 だがルゥはお構いなくバレンティアに刃を振るう。
 必死でかわそうとするバレンティア。だが、その拍子に警棒を落としてしまった。

「危ないっ!!」

 咄嗟に香苗がフェアウェイの手の中から飛び出すと、一気に駆け込み・・ルゥとの間合いを詰める。
 この辺は腐っても剣道少女! ルゥの反応より、一も二も上だった。

 飛び上がり、ルゥの顔面目掛けて拳を打つこむ!

ピョコ!

 だが・・・・。

 悲しいかな。綿詰めのヌイグルミの拳では、大したダメージを与えることは出来なかった。

 ルゥが香苗目掛けて短剣を貫く。

サクッ!!

 必死で身を捻った香苗だが、脇腹あたりをザックリ刺されてしまった。

「いたたたたっ!! ・・・・・って、それほど痛くはない? それに元からヌイグルミだから、変化もない!!」

 香苗はそう呟くと、自身を突き刺した短剣をしっかり握りしめ、
「おりゃぁぁぁっ!」
 なんと、ルゥから短剣を奪いとった!

 真っ赤な短剣を自身の腕の中にしっかり抱きかかえ、ほくそ笑みながら・・
「これで他の人も人形化はできないだろ。ざまぁみろ!」

 マネキン化しているため表情は変わりないように見えるが、内心は立腹したのだろう。
 ルゥはすかさず他のマネキンから短剣を奪い取ると、照準を香苗に合わせた。

「ヌイグルミさんっ!!」

 危険を察知したフェアウェイは、すぐさま飛び出し両腕で香苗を抱きかかえるると、自らを盾にして覆い被さった。

「お・・おい! フェアウェイ!?」

 逆に香苗が困惑し、フェアウェイの身を案じる。

 だが、ルゥはお構いなく、フェアウェイ諸とも香苗を突き刺す気だ!

「だ、だめっ!!」
 そんなフェアウェイの前に立ちふさがる・・バレンティア。

グザっ・・!

 無残にもルゥの刃が、バレンティアの胸部に突き刺さった!

「あ・・あっ・・・」

 ルゥが無造作に短剣を抜き取ると、傷口から大量の血液が潮を噴くように溢れ出る。

 バレンティアは見開いた目線を胸に移し、これ以上・・血が溢れ出さないように両手で傷口を抑えこむと、二歩…三歩後ずさりし、そのままストンと腰を落とした。

 その動きは、まるでスローモーションのVTRでも見ているようだ。

 押さえ込んだ手の平から、情け容赦無く血は溢れだす。
 胸から溢れ出る血と比例するように、バレンティアの表情からは血の気が失せていく。

「バ・・バレンティア・・・」

 その姿を見たフェアウェイは、そのまま気を失って倒れてしまった。

「く・・くるし・・・い・」

 フェアウェイに気絶され、ギュウギュウに抱きしめられたまま身動きできない香苗。

 そんな香苗の目に、無数のマネキンの手が差し向けられる。

 その時・・・・

 まるで、フェアウェイが瞬間移動でもしたかのように、宙に浮き場所を移動した。
 はぁ・・はぁ・・と、苦しそうな息を吐いているバレンティアも同様だった。

「蜘蛛女っ!?」

 香苗が声を上げた。

 そこには肩で息をしたまま、ようやく事務室に辿り着いた都の姿。
 そして糸を噴出し、二人の身体に巻き付けると、一気に引き戻したのだ。

 都は更に二人の身体を自分の身体と密着するように巻きつけ、再び窓の外に糸を噴出し、振り子のように・・次のビル、次のビルへと空中移動をしていった。

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 いくつものビルの谷間を通りぬけ、数百メートル先にある雑居ビルの狭い路地裏に着地した都。

 自身の体力も限界に来ている。
 辺りも薄暗くなってきていることから、闇に紛れる日没までそのまま路地裏で身を休める事にした。

 気絶しているフェアウェイと大量出血で荒い息をいているバレンティアを横にすると、自らも膝をつき天を仰ぐように息を整え始める。

「ごめんなさいね・・・。あなたまで、巻き込んで・・・・」

 止まらない大量出血。
 すっかり血の気が失せた蒼白の顔面に、途切れ途切れの言葉。
 もはや口を開く力も残っていないだろうに、それでもバレンティアは申し訳なさそうに都に声をかけた。

「別に・・・。この件はわたくしが自分の判断で飛び込んだこと。 貴女に謝られる筋合いはありませんわ・・」

 都の返事に、バレンティアはニッコリと微笑んだ。

「迷惑ついでに最後のお願いを言っていいかな・・・? フェアウェイを・・・。フェアウェイを・・この場所まで送り届けて欲しいの・・・・」
 バレンティアはそう言って、一通の封筒を手渡した。

 中身は日本、神田川県、丘福市、そして聖心女子高等学校という名と、一人の人名が書かれた紙が一枚。

「わたくしなんかに頼らず貴女が自分で連れて行ってあげればいいですわ。こう見えても、わたくしは蜘蛛妖怪の姫。人間ごときの頼みなど、聞き入れる気なんかありませんの!」
 都は嘲笑うように言い返した。

 それでもバレンティアは目を細めると・・・
「一緒にいた数時間・・・、あなたがどれだけ誇り高いかもわかっているわ。だけど、それを承知でお願いさせてくれる?」
 と答える。

「・・・・・・・・」

「フェアウェイはこの世でも数少ない・・天女族の子。 そして、あの子を狙っているのはあなたもわかっている通り、闇の世界の住人。普通の人間ではあの子を守りきれない・・・」

「条件がありますわ! わたくし、人喰いなので貴女の肉を喰らいますわよ! それでもよろしくて?」

「どうせ、すぐにも散りゆくこの身。 それで・・あなたのお役に立てるなら構わないわ・・」

 バレンティア自身、もう自分が助からないことは充分にわかっているのだ

「・・・・・・・・。」

 もはや都にも、それ以上・・言葉は無かった。

 横たわるバレンティアの上に覆い被さると、その首に鋭い鎌状の牙を突き刺した。
 静かに音も立てず、溶解したバレンティアの体内を吸い込む都。

 やがてペラペラとした皮だけが残ると、都は口内に糸を噴出し生地作りを始める。

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 丸めたり・・縮めたり・・・伸ばしたり。

 それは、一枚の軟らかい輝きを放つライトブラウンの生地へと変化した。

「茶色を象徴する言葉は、『温もり、安らぎ、保守、大地、力強さ』。小さな子どもを守り通す為だけに全てを捧げた貴方に、ピッタリの色ですわ」

 都はそう言って、新たに手に入れた美しい茶色の生地をゆっくりと丸めていく。

 更に・・・

「・・・・、・・・・・。 ・・・・、・・・・・・」

 二言、三言・・付け加えるように呟いた。

 周りの雑音でよく聞き取れない程の声量だったが、そばで見ていた香苗の耳にはハッキリ聞き取る事ができた。
「蜘蛛女・・・、お前・・・・・?」
 そして、その言葉の意味に、香苗は耳を疑うかのように呆然と立ち尽くしていた。

 生地をバッグにしまい込んだ時には辺りはすっかり日が暮れていた。

「さぁ、そろそろ移動しますわよ。 そちらのフェアウェイを起こしてくださいな」
 都の言葉に香苗はフェアウェイの身体を揺さぶった。
 目を擦りながら身を起こすと、辺りを見渡すフェアウェイ。
「バレンティア・・・は!?」
 フェアウェイの問いに香苗は何も答えられず、目を逸らしてしまう。

「バレンティアは先に行きましたわよ。しばらくはわたくしが導きますわ」
「先に・・・て、どこ!?」
「いずれわかります。さぁ・・先を急ぎますわよ」

 都はフェアウェイの手を取ると、ゆっくり踵を上げた。

 その時・・・










シュッ・・!





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 風切音と共に、足元に何かが突き刺さった。





第四章 黒い妖魔狩人へ続く。
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マニトウスワイヤー 第四章 黒い妖魔狩人

シュッ・・!!

 都の足元に突き刺さったそれは、薄っすらと青白く輝く一本の矢。
 それは普通の矢とは全く異なる、まるでホログラム(立体映像)のような青白い『光の矢』だった。

「何者ですの・・!?」

 鋭い目つきで前方を見定める。

 路地裏で逆光の為、顔や身なりはまるでわからない。
 シルエットで映るその影は弓を構えた一人の人物。

 だが、まるでタイミングを測ったかのように雑居ビルの看板が点灯すると、その光がその人物を照らしだした。

 黒く靭やかなその髪は左側をサイドテールで結んでおり、ゆらゆらと風に揺られている。
 身なりも真っ黒で、まるでゴスロリと魔法少女系アニメを合わせたようなコスチューム。  
 小柄な体つきでミニスカートから生える細い足。

 それは紛れも無く、11~12歳くらいの一人の少女の姿であった。

 しかし、手にした弓には新たな青白い光の矢が備えられている。

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 少女は静かに口を開くと、
「あなたの連れているその子は、天女の子よね・・・?」
 と問いかけてきた。

 その子とは明らかにフェアウェイを指しているようだ。

 さらに彼女は手にした弓を構えると、こう付け加えた。

「命が惜しければ、今すぐその子を放しなさい!」

「ふっ・・!」
 都は鼻で笑うと、
「何を言うかと思えばくだらない。この子はわたくしの連れ。どこの小娘か知りませんが、あまりこちらの世界に立ち入らない方が、身のためですよ」
 と言い返した。

シュッ!! 

 青白い閃光と風切音が都の耳元を通り過ぎる。都の目に自身の自慢の黒髪が二~三本。粒子分解するかの如く、消滅していくのが見えた。

「生憎だけど、妖怪の世界なんて今まで何度も見てきた。あなたこそ素直に立ち去ったほうが身のためよ。妖怪・蜘蛛女!」

 少女はそう言うと手の平をかざし、新たな光の矢を形成すると再び弓に備え付ける。

「あら、わたくしを知っているような口振りですわね? どこかでお茶でもしたかしら?」

「さっき、あなたがビルの間を飛び交っているのを見て確信したわ。 最近・・都市伝説になっている人喰い妖怪蜘蛛女。あなたのことでしょう?」

「蜘蛛女・・・ね?」

 その言葉に都は上から目線で少女を睨みつけると、

「その呼び方、好きくありませんわ。わたくしを呼ぶなら・・・姫。 そう、てんこぶ姫とお呼びなさいな」
 と不敵な笑みを浮かべた。

「てんこぶ・・姫?」

「わたくしも貴女の正体が見えてきましたわ。青白く光る・・霊力の矢。そして・・全身、黒い出で立ち」

 都はそう言って髪をかき上げ満面の笑みを浮かべると、一礼しながらこう告げた。


「初めまして。黒い妖魔狩人・・・若三毛凛!」

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 これに一番驚いたのは誰であろう・・・香苗であった!

「よ・・妖魔狩人って、女・・・? それも・・子どもなの!?」

 なにしろ香苗は今の今まで、妖魔狩人は『イケメン』で『マッチョ』な『若い男性』と思い込んでいたのだ。
 そのショックは計り知れない。

「凛っ! 大丈夫かい!?」
 更に声と共に空中から一羽の金色に輝く鳥が舞い降りてきた。

「大丈夫よ、金鵄!」
 少女・・・凛は、金鵄という名の鳥に言葉を返す。

「な・・なんで、鳥が喋っているの!?」

「えっ? ヌイグルミが言葉を話している!?」

 金鵄と香苗が驚いたのも、ほぼ同時であった。

「黒い妖魔狩人。貴女のことは柚子村の中国妖怪に何度か聞いていましたわ」
「中国妖怪の手下なの?」
「手下・・・? 冗談じゃありませんわ! わたくしは姫。あの者たちとは敵対しているわけではありませんが、わたくしを束縛できる間柄でもありませんの」

「ふーん・・・。それで最初の質問だけど、その女の子を解放してくれる?」

「お断りしたら・・・?」

「あなたを撃ちます!」

 一瞬、弦を引く凛の指先に、力が入った。

 ニヤッ!
 都の口端が、僅かに緩んだ。

 その瞬間、凛の目の前に広がる・・・霧のような白い靄。
 いや、それは靄ではなく、散りばめられた糸の屑。

 その隙をついて都はフェアウェイの手を引き、一目散に駈け出した!

「待ちなさい!!」

 すぐ後を追う・・凛。

「アンタ、フェアウェイと一緒にどこか・・その辺に隠れていてくださらない?」
 走りながら都は、香苗にそう話しかける。

「それはいいけど・・・って、悪人は蜘蛛女。アンタ一人だろ!? どうしてアタシたちまで一緒に逃げる必要があるんだ!?」
「ここまで来たら一蓮托生ですわ!」

 都はそう言うと、わざと凛の目につくように雑居ビルの壁を這い登っていった。

「凛、あっちだ!」

 それを見つけた金鵄が凛に呼びかける。
 頷いた凛は、周りにある塀やエアコンの室外機を足場に駆け上がるように後を追う。

 妖魔狩人である凛は、たしかに人並み外れた強力な霊力を持ち合わせている。
 だが、その肉体は極普通の中学校に通う女子生徒であって、超人的な体力を持っているわけでは無い。
 しかし、金鵄の羽毛で編み出した戦闘服を身につけることによって、通常の6倍近くの運動能力を引き出すことができる。
 その為、こういった超人的な動きも可能なのだ。


 4階建ての雑居ビルの屋上、都はそこで凛を待ち構えていた。

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シュッ!シュッ!

 交互に振りかざす都の手の平から蜘蛛の糸が凛に降り掛かる。

 だが、凛の放つ霊力の矢・・・霊光矢は、その糸を瞬時に消し去ってしまう。
 それどころか、その威力は掠っただけで都の身体をも消し去りそうな力を秘めている。

― 驚きましたわ。 話には聞いていたけど、まさか・・ここまで強く高い霊力の持ち主だったなんて・・・。―

 改めて都は、凛が自分より強い相手だと気がついた。

「まったく・・・。 どうして今日はこんなに強敵ばかり出会うのかしら!? 朝のテレビ占いでは、何事もない穏やかな一日って言っていたのに・・・」

 そう呟き両手を地につけ四つん這いになると、蜘蛛そのものの素早い動きで凛に突進していった。

 地を這って向かって来る都に霊光矢を放つ凛。
 だが、あまりに狙いが低すぎる事と、予想以上の素早い動きに当てる事すらままならない。

 あっ!という間に、都は凛の足元近くまで這い寄って来た。

 即座に足元に照準を合わせる。

 だが、その瞬間、都の姿が視界から消えてしまった。


「き・・消えた・・・!?」


 慌てて辺りを見渡すが都の姿が見当たらない。

 それは、地面スレスレという低い視線の位置で急速接近し、視界を狭くさせた瞬間身を翻すことで、あたかも消えたかのように見せるという都の頭脳と本能の合わせ技。

 今まで凛が戦ってきた妖怪たちは、どちらかと言えば力技で強引に押してくるタイプが殆どであった。

 しかし、暗殺的でトリッキーな戦法が主である都のようなタイプは、過去戦った経験がないためまるで動きが掴めない。

 少しずつ後退しながら都の気配を探る凛。

 右から来るか? 左から来るか? それとも・・またも低い視点から来るか?

 全神経を周辺に張り巡らせながら、二歩・・三歩と後退していく。

コツン!

 後退していった凛の背に、固く冷たい感触が伝わった。

 太い鉄骨で組み立てられた架台、その上に大きなタンクが乗っている。
 それは高置水槽・・・、いわゆる貯水タンクというやつだ。

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 それにしても、てんこぶ姫・・・都は、いったい何処に消えたのだろうか?

 金鵄も空高く舞い上がり辺りを見渡す。

「あっ!?」

 金鵄の目に微かに動く物体が目に入った。

「凛っ!! 後ろだ・・・後ろの貯水タンクだ!!」

「えっ!?」

 凛は振り返りタンクを見上げた。

 そこには闇に紛れて、貯水タンクに逆さに張り付いている都の姿が!
 闇の中で真っ赤に光る二つの瞳が、獲物である凛を狙いを定めるように見下ろしている。


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 咄嗟に弓を構えるが、同時に都はタンクを蹴り凛に飛びかかった!

 二人は絡み合うように組み合い、二転・・三転と転げまわる。

カラン・・・

 弾みで、大切な武器・・弓を落としてしまった凛。

 動きが止まると、都が凛に馬乗りになっていた。

シャァァァァッ!!

 鎌状の牙を突き出し咆哮をあげ、しきりに凛の首筋に噛み付こうとする都!

「凛、絶対に噛まれるな! 蜘蛛妖怪に噛まれたら、あっと言う間に身体の中身を食いつくされる!!」

 妖怪の習性に詳しい金鵄の助言。
 ごめん。今は遊著にそんな言葉を聞いている暇は無い!!

 必死で都の額を押上げ、そうはさせずと抵抗する凛。

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「絶対に・・・やられるものか・・・・」

 凛は僅かな隙をつき、右手に霊力を集中させる。
 すると、一本の青白い光の矢・・霊光矢を形成させた。

 それを逆手に握り、都のこめかみを狙って一気に振りぬく!!

ヒュンッ!!

 都の視線に入った霊光矢!

 防御技とか、敵の動きを読むとか、そんな思考によるものではない。

 本能。

 紛れも無く野生の妖怪の防衛本能が、瞬間的に都の身体をのけぞらせた。

 自分の目と鼻の先を青白い閃光が通り過ぎる。
 喰らっていたら、間違いなく・・即死だ。

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 だが、それだけでは終わらない。

 凛は十代前半の少女とはいえ、多くの妖怪と死闘を繰り広げてきた妖魔狩人。

 直ぐ様、腕を切り返すと、

ズブッッッ!! 

 霊光矢を都の太腿に突き刺した!!

「あ・・ぐぅ・・・っ!!」

 声にならない悲鳴を上げる都。

 すぐに凛の身体から飛び退き太腿に目をやる。

 太腿から青白い霊力の光が、ウィルスのように侵蝕しはじめている。
 全身に広がったら浄化され消滅してしまう・・・・!

 都は鋭い爪を立てると、

グザッッ!!

 自身の太腿に突き刺した!

「くっ!」

 そして、そのまま太腿の肉ごと刳り取るように霊光矢を強引に抜き取ったのだ。

「な・・なんてヤツだ・・・。これほどの執念は並みの妖怪じゃない・・・」
 都の凄まじい気迫に、逆に恐怖を感じた金鵄。

 しかし、形成は完全に逆転していた。
 弓を拾い正確に霊光矢の矢尻を都に定める、凛。

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「もう終わりよ・・てんこぶ姫。 大人しくあの女の子を引き渡してくれれば、今日のところは見逃すわ」
 凛の言葉に真っ赤な瞳で真っ直ぐ睨み返す都。

「冗談はおよしなさいな。 姫であるわたくしが、敵を恐れて手の平を返すとでも思ってるのかしら?」

 そう返したその時・・・・

「蜘蛛女ぁぁぁぁっ!!」

 雑居ビルの下、路地裏から香苗の叫び声が聞こえた!

「なにごとっ!?」

 都は脇目もふらず助走をつけると、ヒュンと・・屋上から飛び降りた。
 驚くことに、片足を負傷しているとは思えない程の素早い動きで、路地裏に駆け込んでいった。

「ま・・待ちなさいっ!」

 いくら運動能力が向上しているとはいえ、生身の人間である凛が4階建てビルの屋上から飛び降りることはできない。

 すぐに階段を駆け下り後を追う。

「しかし、今回の事件に都市伝説の人喰い蜘蛛女が絡んでいるとはね・・」
 まるで苦虫を噛み潰したような顔で金鵄が呟く。

「うん、たしかに予想外だった。でも・・・・」

「ん・・!?」

「あの・・てんこぶ姫。そこまで凶悪な妖怪なのかな・・・?」
 金鵄の耳に入るか、入らないかくらいの小さな声で、凛はそう呟いた。





第五章 最強の精霊へ続く。
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