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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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ネザーワールドクィーン はじめに


 こんにちわ、スイーツ大好き(?)の… るりょうりに です! ヽ(`▽´)/

 さてさて、かなりお待たせいたしました。
 新作がやっと出来上がりました。

 でも……

 「ターディグラダ・ガールじゃ……ない?」

 はい。
 実は、作品でも気分転換がしたくなり、今回ターディグラダ・ガールはお休みさせていただきました。

 一応…第8話は途中まで執筆してあったんですよ。
 でも、なんか気に入らなくて。

 そんな時、ターディグラダ・ガールを始める前にもう一つ構想していた作品 『冥界王女(仮名)』が頭に浮かびまして。
 それを再設定し直して書き上げたのが、今回公開する……『ネザーワールドクィーン』です。

 そんな訳で、いつもなら「第〇話……いつ頃公開予定です!」と報告していたのに、前回の生存報告などでも、『次回作』と濁していたわけです。
 気づかれました? (;^_^A

 まぁ、前置きはこの辺にしておいて、その『ネザーワールドクィーン』について、いくつか注意事項を。

 今回の作品は、私にとって新たな試みをさせて頂いております。
 読んで頂ければわかりますが、物語が『主人公視点』となっています。

 したがって、かなり回りくどい進行になっていると感じられるかもしれません。

 ですので、そういう作風が苦手な方は、どんどん飛ばして読まれた方がいいかもしれませんね。

 もちろん、しっかり読んで頂いて、感想をお聞かせいただければ、一番嬉しいことですが。

 また、状態変化も有ることは…有りますが、ここ最近のターディグラダ・ガールに比べれば、内容は薄いかもしれません。
 それもあって、生存報告では「絶対に期待しないように!」と言い張っていたわけですが。(;^_^A

 とにかく、いつもと違う流れになっておりますので、予めご了承ください。

 では、後ほど…『あとがき』で! <(_ _)>


 


 

 

| ネザーワールドクィーン | 16:44 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ネザーワールドクィーン 「第1章」



「万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれるなり」
 ……と言うことで、季節(とき)は清明。
 もっとも、実際は二日ほど過ぎているため、今日は四月六日となる。
 そう、本日は高校二年生となる始業式の日なわけで。でも、二週間ちょっとも休みが続いた後の学校というのは、楽しみのような……面倒くさいような。
 正直言って、まだ布団の中で転がっていたいというのが本音だな。
 しかし、ここで休んでしまえば、また明日も学校を休むだろうな。俺は自分の性格を、嫌と言う程知っている。一度自堕落すると、そのままズルズル流されてしまうという情けない短所があるんだよ。
 だが、これを逆手に取って、まったく逆のスイッチを入れてしまえば、打って変ったように頑張れるという……長所にもなるんだな。
 そんな訳で、ちょっと気合を入れて布団を蹴っ飛ばし、勢いをつけて起き上がってみる。
 こうなればこっちのものだ。不思議と「学校へ行かなきゃ…」モードに入ってくれる。
 あくび混じりで制服に着替え部屋を出ていくと、廊下の真ん中にある階段を降りていく。
 まだ寝ている人もいるかも知れないので、慌てず急がず静かに降りていくと、四~五人が並んで使える洗面所が目に入る。
 ぼんやりと顔を洗って、その隣向いにある襖を開けると、そこは六~七人が余裕で座れる居間であり、食事はそこで食べる様になっているわけだ。
「おっ!? 倫人(りんと)ちゃん、きちんと起きれたようだね。偉いぞぉ~っ!」
 食事をテーブルに並べながら、まるで小学低学年の子どもを相手にするような言葉を掛けてきたのは、恵比寿様みたいな丸々とした女性。

ネザーワールドクィーン 一話01

 いやいや、違うぞ! この人は俺のお袋(母親)ではない。俺のお袋は今頃親父と二人で、地球の反対側あたりに居るだろうよ!
 この人は『多々良紀子(たたらのりこ)』さんと言って、この『下宿屋多々良』の女主人で、俺の叔母に当たる人だ。
 俺の両親は考古学者をやっていて、俺が幼い頃から世界中を飛び回っている。そのせいでしばらく日本を離れるときは、こうして叔母さんが経営する…この下宿屋に俺を預けていくのが定番となっている。
 それもあってか、叔母さんは今でも俺を小さいころと同じように扱ってくるわけだ。
 まぁ、俺にとってはもう一つの実家みたいなものだが、それでも下宿代だけはしっかり受け取っているというから、叔母さんも抜け目がない。
「あら、たしかに受け取ってはいるけど、でも……今どき三食付きで、月五万円なんて下宿代。こんな低価格で良心的な下宿屋、滅多にないわよ!」
 たしかにもっともだ。俺が言うのもなんだが、叔母さんはちょっとお節介なところもあるが、たしかに人当たりが良くて面倒見が良い。
「ところで倫人ちゃん。『王女ちゃん』は、まだおやすみしているの?」
 勢いよく朝食をかっ食らうこの俺に、もう一人分の食事を並べるべきか…否か、悩みながら叔母さんはそう問いかけてきた。
「ああ……? あの人はまだ寝ているみたいだ。まぁ、自由気ままにやる人だから、放っておいていいんじゃないか?」
「うん……。でも、いくら学校とか行っていないと言っても、まだ『小さい』んだから、あまり不規則な生活はさせない方がいいと思うのよね~っ。」
 叔母さんの言うことはたしかに一理ある。しかし、俺はあえて…それ以上は何も言わないようにしている。なぜなら、あの人(王女)は俺ら人間とは、若干と言うか……かなりと言うか、まぁ違うところがあるからな。
 そう思っている俺が口を閉ざしたためか、この話はここで終わり。
 そのあと、残りの飯を丸飲みするように口の中へ放り込むと、そそくさと席を立ち、出かける準備を始めた。 
「それじゃ叔母さん、行ってくるよ!」
 久しぶりの通学。今まで通り玄関口を開けると、これまた今まで通り…よく知る人物が、表で待ち構えていた。
「おはよう倫人! 今日もいい天気だね! でも、相変わらずのんびりしすぎ。もう少し急がないと、遅刻するよ!?」
 まるで少年マンガか、恋愛シミュレーションゲームかと思うような…テンプレートな言葉を掛けてくるのは、これまたテンプレートな幼馴染と言っても過言ではない、一人の少女。
「あ~っ…『麻奈美(まなみ)』。お前こそ、毎回言う事が変わらねぇーなーっ!」
「言われたくなかったら、もう少し早く起きなさい♪」
 そう言って、ニヤリと白い歯を見せる麻奈美。意外にも、この笑顔にコロリといった野郎の数は、俺の知っているだけで両手の指だけでは足りない程いるのだ。
 そんな俺自身も、彼女のことは嫌いなタイプではない。いや本音を言えば、少し好意を持っている。
 中学時代は陸上をやっていたと聞いているが、たしかに健康的で均整の取れた身体つき。明るい笑顔にふんわりそよぐポニーテール。そして、遠すぎも無く…近すぎでもない、ちょうど良い距離感で話しかけてくる言葉遣い。
 そんな子と、もし…つき合う事ができたなら? 
 そう考えるのは、健全な男子高校生であれば、決しておかしくないことである。うん!

ネザーワールドクィーン 一話02

 そんな悶々としたことを考えながら歩き、いつの間にか校門前にたどり着くと、今度は背後から声を掛けてくる人物が。
「おっは~っ…麻奈美~♪」
 この子は、たしか……麻奈美の同級生で、後藤……絵里子って言ったっけ?
「さん!を付けなさい。絵里子…さん!ってね。そういうアンタは、フロン……リントだっけ?」
 お前も呼び捨てしてんじゃねぇーか!? てか、フロンって何だ? ガスか…俺は!?
「古鵡(ふるむ)倫人だ!」
「そうそう~古鵡倫人だったね。うん、おっは~っ…倫人♪」
 長めの髪を振り乱しながら、大袈裟に腕を上げ挨拶をし直す彼女。
 まぁ、見た目は割と可愛い……。いや、割とどころか、おそらく校内でも1~2を争う美少女といっても過言では無いだろう。噂では去年一年間だけでも、二桁の男子から告白を受けたと聞いている。

ネザーワールドクィーン 一話03

 だが当の彼女は、大人びた見た目と違って男女の恋愛にはあまり興味を持っていないらしい。麻奈美が聞いたところによると、そういったのは高確率で面倒くさい事案に発展するため、あえて避けているとのことだ。
 実際に彼女を見ていると、その日…その日のノリだけで生きているようなところも見受けられる。そういった性格には、男女関係というのはたしかに面倒くさいのかも知れないな。
「ところで、今日クラス替えじゃん? また、麻奈美と同じクラスだといいね~♪ あと、ついでに…倫人も!」
 ああ…そうかい。俺は『ついで』かい!? まぁ、いいけどな。
 そう、新学年を迎える今日は、恒例のクラス替えの日でもある。
 去年…俺と麻奈美は別のクラスだったが、今度は出来れば同じクラスがいい。俺はそう心の中で、手を合わせる。
 そんな俺の願いを神様は聞いてくださったのか? 
「あっ!? 私と倫人……、同じクラスだね!! あら、絵里子は別かぁー。」
「な、なんですとーぉ!? アタシと麻奈美は離れ離れですとーぉ!? 神よ、なんという仕打ちを与える……!」
 人間のささいな幸せは、神様の気まぐれで大きく変わる。今回の気まぐれは、俺のほうに傾いたらしい。この片宗(かたむね)市には全国的に有名な片宗大社があるが、今度の休みにでも、お礼がてら参拝に行っておくか!
 そんな片宗市。今言った割と有名な大社がある他は、まったく平凡な街である。むしろ田畑が多く、また海にも面しているため漁業も盛んで、少し離れた丘福市とはまるっきり対照的なイメージだな。
 この高校……私立片宗高校も偏差値は平均的で、部活動なども突出したところがあるわけでもないし、かと言ってレベルが低すぎるわけでも無い。
 全てにおいて狙ったように平均的で、むしろそれだけ平均的だと…逆に珍しくないか?と言いたくなるくらいである。
 そんな学校だからか? 校内においても、皆の話題は平凡である。
 クラスが変わったばかりであっても、馴染みの者同士が集まり、自分たちの生活にあまり支障の無いような、どうでもいい話題で盛り上がるのが常である。
 ちなみに今日の話題は、最近片宗市の周りの町で起き始めているという、『不可解事件』というものだ。
 なんでも、人が神隠しにあったように忽然といなくなるとか……。要は行方不明事件が二~三件起きているらしい。
 たしかに不可解と言えば…不可解だが、ぶっちゃけ言って……そういった事故や事件は全国でも結構あるだろう。俺個人としては、そこまで気にするほどでもないんだが。
「でも、何の前触れもなくいなくなるって、やっぱり不思議っていうか、怪しいよね?」
 傍で一緒に耳を傾けていた麻奈美は、そう言って眉をひそめていた。

 
「移動クレープ屋…マーチ?」
 授業が全て終わった放課後。俺と麻奈美が帰路につこうとすると、絵里子がそんな話を持ち掛けてきた。
「うん。ふみっちが言うには、西九秋市で人気ある移動クレープ屋さんで、今週一時から四時の間、西郷公園でも営業しているんだって!」
「ふみっち……?」
「あ~っ!? 今日からアタシと同じクラスになった子! で、ふみっちは他の子と先に公園に向かったけど、麻奈美……どうせ帰り道じゃん! 今から一緒に行こぉ~よっ!?」
 絵里子はそう言って麻奈美の手を取ると、目をキラキラと輝かせて問い掛けた。
 だけど、当の麻奈美は…というと、奥歯に物が挟まったように苦々しい顔をしている。
「ごめん! 今日は帰り道とは反対方向にある……和菓子屋さん『さくや』に寄って行かなきゃいけないんだ。」
「和菓子…? 麻奈美、和菓子……好きだっけ?」
「うん、好きだよ! でも、今日のは私が食べる物じゃなくて、親からお土産用で買ってくるように頼まれているの。」
「そっか……残念! じゃあ~っ、悪いけどアタシ。すぐひとっ走りして、ふみっちたちの後を追うよ。麻奈美。明日か…明後日、一緒に行こ♪」
 恵里子はそう言うと陸上部顔負けの全速力で、校門を駆け抜けていった。ホント、元気なヤツだ。
 そんな絵里子を見送った後、俺たちも『さくや』を目指して歩き始めた。
「えっ!? 倫人もさくやに寄っていくの? 私一人でも大丈夫だよ?」
「どうせ、お前とはお隣さん同士だし、すぐに帰っても暇だからな。とりあえず付き合うぜ。それに……」
「それに……?」
「うちには、その手の物が大好きな人もいることだしな。ついでに買って帰るわ。」
「和菓子が大好きな人…? 倫人のいる下宿屋さんに? ああ~~~っ、『王女様』!?」
「ああ。 あの人、以前…お前が持って行ったイチゴ大福。大絶賛していたぞ!!」
「『キラリン大福』でしょ! あれも…さくやの人気商品だよ♪ そっか、王女様……お菓子大好きだもんね!」
「ああ。特に和菓子は、こっちへ来て初めて食べたと言っていたからな。偉いお気に入りだ!」
 そう話しながら歩いていると、お目当ての和菓子屋さくやへたどり着いた。
「これが、その……キラリン大福ってヤツか?」
 キラリン大福っていうのは、一言で言えば大福の中に一粒のイチゴが丸ごと入っているイチゴ大福である。
 ただ、他のイチゴ大福と違うところは、餅生地の中にもイチゴ果汁が混ざっており、綺麗なピンク色であること。
 そして材料であるイチゴは、片宗市の名産ともいうべき、全国的に人気の『あまあま王』を使っているということ。
 これによって他所のイチゴ大福よりも、桁違いに美味しいと言われているらしい。 
 ちなみにネーミングの『キラリン』というのは、ここ片宗市(兼…片宗大社)の『ゆるキャラ』……『キラリン姫』から取っているらしい! てか、なんだ……そのキラリン姫っていうのは?
 俺はキラリン大福6個入り1箱を購入。麻奈美は、今の季節にピッタリの桜餅を、土産用に包んでもらっていた。
 ほぉ! それも結構旨そうだな。王女が喜びそうだぜ。
 買い物を終え、帰りは再び引き返す形で高校の脇を通る。そのまま家に向かって歩き続ければ、例の西郷公園の傍を通り過ぎるわけだが。 
 フトッ、公園の方を見ると、明るい山吹色に音符のマークが描き込まれた一台のワゴン車が目に入った。車体や傍に立て掛けてある幟には、移動クレープ屋さんマーチと書かれている。
 だが、その光景に何か違和感を感じた俺は、スマホを取り出し時刻を確認してみた。
 もう、とっくに5時を過ぎている。
「あれ? 絵里子はたしか……4時までって言っていなかったっけ?」
 俺がそう呟くように言うと、
「ホントだ。予想以上に好評で、営業時間を延期したのかな?」
 それを見た麻奈美も、同様に不思議そうな顔でそう返した。
 だが、その割にはお客さんらしき人影は目に入らない。まるで無人のように見える。
 しいて言うならば、少しだけ離れた場所に、もう一台トラックが停めてあり、二~三人が男女が、肌色の段ボール箱のような物を積み込んでいた。
 それにしても、その段ボール箱。なんとも不思議な模様が描かれている。
 大きさ的には、週刊少年雑誌を10冊ほど積み重ねた位のサイズで、全体的に肌色がベースなのだが、一つの面には『人間の顔』の……、もっと細かく言うと『女性の顔』のような模様になっていた。
 それがあまりにリアル過ぎて、正直……俺の目には、悪趣味にしか見えない。
 隣にいる麻奈美も同じように思ったんだろうな。思いっきり疎ましい表情をしている。
 ま、今の時代……何が流行るか、判らないしな。あんなデザインでも、需要があるところでは、あるんだろう。
 俺は、それ以上考えないようにした。


| ネザーワールドクィーン | 16:40 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ネザーワールドクィーン 「第2章」



「ただいま。叔母さん、帰りにイチゴ大福を買って来た。」
 玄関に入って早々、俺は台所に向かってそう声を掛けた。
 すると、台所から恵比寿様が……いや、叔母さんが顔を出し、こちらに歩み寄ってくる。
「お帰り、倫人ちゃん! なに? お菓子買って来たの? それならお茶を用意しておくから、一旦着替えてきなさい。」
 そう言ってイチゴ大福を受け取り、台所へ戻って行ったが、再び…ひょこっと顔を出し、
「それと……王女ちゃん。部屋にいるみたいだから、声を掛けておいで~♪」
 そう言うと、ニコリと微笑んだ。
 俺は部屋に戻って、長袖Tシャツと綿パン、カーディガンと簡単な私服に着替えると、二つ向う隣の部屋の襖の前に立った。
「王女、土産買って来たけど…一緒に喰いませんか?」
 そう声を掛け、返事を待つ。
 しかし、一向に返事が無いので再び声を掛けるが、やはり返事が無い。
「王女、入りますよ!?」
 俺はそう言って、襖を開いた。
 この下宿屋は、借り部屋全てが八畳の和室で、この部屋も例外ではない。
 なのに、どうやって押し込んだんだろうね? 中には豪華なダブルベットに、革張りのL コーナーソファセット。
 俺の中で、「こんな御大層な物が必要なら、下宿屋じゃなくて高級ホテルとかで寝泊まりしろよ!!」とツッコミが入る。
 そのソファセットのテーブルの上に、何やら雑誌のような物を広げて、食い入るように眺めている一人の少女の姿が目に入った。
 どれだけ集中して眺めているのか? 俺が部屋に入ってきたことすら気づいていない?
「いや、当然…気づいているぞ。」
 まるで俺の心を読み取ったかのようなタイミングで、返答してくる少女。だがその声は、まだ声変わりしていないかのように幼い。
「だったら、最初から返事してくださいよ……。」
 やれやれ…といった口調で溜息をつく俺に、彼女は更にこう付け加える。
「それよりも倫人。やはりこの国は凄いな! 古今東西……色々な国のスイーツが揃っている。なのに……なぜ、此方(こなた)はもっと早くから、この国を訪れなかったのだろう?」
 どうやら眺めている雑誌には、ケーキやらプリンやら、スイーツ特集が大きく取り上げられているようだ。
 それを見て、まるで自問自答するように、大きく頷いたり首を振ったりしている。
 ちなみに『此方』というのは、私とか俺とかと同じ『一人称』だ。二人称で『其方(そなた)』っていうのは、よく聞くだろう? それと同じ時代の言葉だ。
「で、何の用だ?」
 そう言って、邪魔をするなと言わんばかりに振り向いた彼女の顔は、声同様に幼い。

ネザーワールドクィーン 一話04

「お土産買って来たんで、下で一緒に喰いませんか?」
「お土産……?」
「王女が以前絶賛していた、キラリン大福ってヤツですよ。」
 この言葉には、アドレナリンでも抽出させる効力が含まれているのかね? 
 彼女は、いきなり目をキラキラと星のように輝かせると、まるで昔あったゲーム…『黒ひ●危機一髪』のように、一気に飛び跳ねる。

 ここで、この少女……彼女(王女)のことを簡潔に説明しておこうか。
 名は『ヘル』。
 うん? ヘルって、地獄という意味じゃ…? そう、その解釈で間違っていない。
 改めて言おう。彼女の名はヘル。本当にそれだけしかない。
 しかし、この『人間界』では、それだけだと怪しまれたり、色々都合が悪かったりするので、ヘル・レジーナというフルネームにしているらしい。
 祖国は『ニブルヘイム』。その場所は、俺の口からは説明しずらいな。まぁ、暗くて寒くて氷だらけの国だ。
 彼女は、そのニブルヘイム(国)を統括支配する主だ。
 うん、本来…そういう地位のことを、『王』。女性なら『女王』と呼ぶよな。なのに、なぜ彼女のことを『王女』と呼んでいるか?
 俺も詳しくは知らないのだが、国で彼女に仕えている『執事』から、そう呼んでくれと聞かされたんだ。
 なんでも理由は、「女王だと、老けて見られる。それは気に入らん! だから王女と呼べ!」という、本人からの命令らしい。
 それが本当なら、まったくもって…しょうもない理由だ。
 それともう一つ。今現在だと更に当てはまるのだが、何も知らない第三者の目から見たら、その姿は女王よりも王女の方が、理解してもらいやすいらしい。
 まぁ、そうだろうな。今のその姿と言えば、細い手足に丸みの少ない直線的な体つき。そう10歳ちょっと、小学高学年といったくらいだろう。
 たしかに、女王と言われてもピンとこない。王女の方が、しっくりくるな。
 やや長めの髪は、青白磁色というべきか? 言うなれば、白に近い……薄く淡い青緑色。後ろ髪は一括りにしているが、長い前髪は左目から頬まで完全に隠している。
 本日の恰好は今風の少女らしい、ちょっとロック風のシャツやミニスカート姿。ただ、そのミニスカートから伸びる細い脚は、左足だけニーハイソックスを履き、前髪同様にあえて左肌の露出を避けている。
 そんな幼い姿ではあるが、俺は知っている。この人は、本当はもっと大人で美しい女神のような姿であったことを! ただし……その『女神』の上に、『死の』という単語が付くのだが。
 そして、この人がこんなこんな幼い姿になってしまった原因は、実は俺にある!
 俺の自己満足で軽率な行動のせいで、彼女はこんな姿になってしまったのだ。
 だが王女(彼女)は、そのことを責めたり、咎めたりはしない。むしろ、「自分が望んで行った結果だから、気にする必要はない。」と言ってくれる。
 しかし、俺の心の中には、今でもその罪悪感が残っているのだ。

「キラリン大福だと!? それを早く言わないかーっ! ほら…倫人、早く下へ降りるぞ♪」
 嬉しそうに俺の背を押し、階段を駆け下りようとする王女。
 その嬉しそうな姿は、誰の目から見ても、無邪気なJSにしか見えないだろうな。
 
「おおっ!! これだ!キラリン大福~っ♪ 初めてこれを麻奈美から食べさせてもらった時は、心の底から感動したぞぉーっ!!」
 嬉しそうに大福を手に取ると、大口を開けてパクリ!と頬張る王女。モグモグと噛みしめるその顔は、どれだけの幸福感も噛みしめているのだろう。
 その可愛らしさに、思わず俺の頬も緩むってもんだ。
 おっと、一つ言っておくぞ! 俺は決して「ロリ●ン」ではない! 普通に同年代。もしくは、それ以上の年齢の女性が好みだ。早まって通報なんかするんじゃないぞ!
「ところで、その麻奈美は今日は来ていないのか?」
 早くも一つの大福を平らげ、二つ目を口にする王女。
「今日…麻奈美は学習塾らしくて、帰宅早々出かけて行きましたよ。」
「そうか。麻奈美は色々美味しいスイーツを教えてくれるからな! 此方にとってこの国においては、最重要人物の一人と言って過言では無い。」
 アンタにとって重要人物の基準とは、スイーツを紹介するか…どうかで決まるのか!?
 ていうか、もう三つ目を口に入れているのか!? おいおい。嬉しいのはわかるが、あまり慌てて食べるなよ。一応…餅なんだから、喉に詰まらせるかもしんねぇーからな。
 
「ねぇ……、倫人ちゃんって、西郷公園の傍を通って学校へ通っているわよね?」
 その声と共に叔母さんが、自分の分のお茶を手にして居間へ入って来た。そして、席に着く前にテレビのスイッチを入れる。
「その西郷公園で、なんかあったみたいよ?」
「西郷公園……?」
 俺は意味がよく分からないまま生返事をし、テレビ画面に目を向けてみた。
 放送しているのはニュース番組で、丁度西郷公園の事を取り上げている。どうやら今日、西郷公園で失踪らしき事件が起こったようだ?
 行方が掴めないのは、現場に残された所持品などで、判っているだけで約5名。
 その詳細を見ていて、自分の顔が青ざめていくのがハッキリ判る。
 なぜなら、その行方不明者の中に……後藤絵里子の名があったからだ。
 それだけではない。他に『中川文恵』という名があるが、もしかして……この子は、絵里子が言っていた『ふみっち』ではないだろうか?
 そして更に、俺の背に冷たい氷の塊を押し付けたような、鋭い痛みを伴う衝撃が走る。
 行方不明者の一人で、移動クレープショップの販売員である、『山口亜希奈(あきな)』という名の若い女性。その彼女の写真が公開されているが、その顔は……
「あ、あの……段ボール箱の、模様の顔……!?」

ネザーワールドクィーン 一話05

 偶然なのか? それとも関係があるのか? 俺は、ただ……ただ、茫然と画面から目が離せなかった。

 その時……、けたたましい電子音が辺りに鳴り響く。それは、俺のポケットに入っているスマホの着信音だ。
 慌てて画面に映る差出人の名を確認する。
 ま…麻奈美!?
 なぜ、今頃……? アイツは塾へ行ってるんじゃなかったのか!? 
 あんな事件の放送を見た後だからか? 微かな不安が過る。 
「もしもし……麻奈美か。今、塾じゃないのか?」
「り、倫人!? た…助けて!!」
「助けて……!? どうした!? なにがあった!?」
「授業中、絵里子が塾へ駈け込んで来たの。変な奴らに…ふみっちが潰されたって。自分も潰されそうになったから、だから…逃げて来たんだって!」
 潰される? 何を言っている!?
「そうしたら、変な人たちが入ってきて……。友達も…先生も、みんな…連れ出されて……、そして潰されちゃった……。だから、私たちは……すぐに逃げて……」
「どこだ? 今、どこにいるんだ?」
「トイレ。隣のコンビニのトイレに…。でも……奴らはまだ探し回っていて……」
「奴らって、どんな奴らなんだ? 何人いるんだ?」
 俺がそう聞いた瞬間、電話から別の女性の声が聞こえた。
「麻奈美ーっ! コンビニの人も……、お客もみんな…連れ出された!!」
 絵里子だ。絵里子の叫び声が聞こえているんだ!
「助けて……倫人!」
「麻奈美、逃げろ! 今すぐ逃げろ!!」
 俺の指示が聞こえているのか、いないのか? 電話は、それっきり通じなくなっている。
 こうしちゃいられない! すぐに助けに行かないと……!
「叔母さん! 警察に連絡して、すぐに麻奈美の塾に行くように言って! 俺、今すぐ……そこへ向かうから!」
「警察って、何があったの……!?」
「いいから、すぐに連絡して!!」
 事情を説明している暇はない! 俺は何もかも忘れて、下宿屋を飛び出して行った!


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ネザーワールドクィーン 「第3章」

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ネザーワールドクィーン 「第4章」

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