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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 公式外伝 03『その後のムッシュ』 作:MT様

いよいよ、妖怪たちの総攻撃が始まった。
それに対抗するように、妖魔狩人とその協力者も、その戦いに挑んでいった。
死闘は連日連夜続き、一つ、また一つと、命が失われていった。
妖怪も総大将が討ち取られ、幹部の妖怪も、ことごとく命を散らした。
しかし、最後の最後に、ずたぼろとなった妖魔狩人を捕えた妖怪がいた。
その妖怪は、妖魔狩人を果物と一緒に生地で包みこみ、サクサクに焼き上げて食べてしまった。
かくして、妖魔狩人と人類は敗北し、この国はその妖怪を筆頭に、支配されることとなった。
人間に生存権も人権もなく、妖怪たちの気のままに、思いのままにその命を散らし、その姿を奪われ、それが日常的な娯楽のようになっていた。
石造りの荘厳な宮殿は、西洋にかぶれた現在の妖怪の総大将の、趣味のままに建造された、彼のための居城である。
昇った朝日が照り付けて、その美しい光に、彼は目を覚ました。
パチッと起きて、目をこすり、すがすがしい朝を迎え、ベッドから出た。
顔を洗い、昨日の夜に食べた料理のことを、思い出していた。
西洋風カツレットの煮込みのライス乗せ~ミートソースを添えて~
何のことだかさっぱりだが、ようはカツ丼にミートソースをかけたものだった。
さくさくがわずかに残ったカツに、半熟とろとろの卵がかかり、その上からさらに特製ミートソースがかかっていた。バジルが添えられており、西洋感が出ていた。
とてもおいしかったものの、創作料理としては、いまいちひねりがなかった。
素材がいいとはいえ、まだまだ厳選素材があったのだろう。
料理の腕である程度はカバーができても、やはりいい素材があってこそ、いい料理ができるのかもしれない。
コック帽をかぶり、髭を整えて、彼は鏡でどこも変ではないか、確認をした。
「うむ!悪くない!」
ムッシュは、どかどかと歩き、宮殿から出て行った。
空は朝のはずなのに、赤みがかかっていた。妖怪の妖気が充満し、空気がよどんでしまっていた。しかし、妖怪にとっては、むしろ心地のいい空間だった。
宮殿の隣、石造りの牢屋には、何人もの女性が収容されており、みなぶるぶる震え、今日を生きられるか、明日を生きられるかを、案じていた。
がちゃっ
ムッシュが入ってきた。昨日も一昨日も、その前も、決まった時間にやってきて、人間を何人か持って行ってしまうのだ。
新鮮な人間は、手下がまた捕えてくるため、いくらでも増える算段なのだ。
10人捕えてくるよう命じても、7人しか連れてこないのが、問題だが。
縄を引っ張り、5人を引っ張り出して、その縄を手に、牢屋を後にした。
縄の先の人間たちは、みなワンワンキャーキャー喚いていたものの、彼にはどうでもいいことだった。
ムッシュの運営する牧場へとたどり着くと、人間はみな恐怖した。
牧場には巨大な化け物が何体もおり、そのどれもが、人間に対する恨みの塊みたいなものだった。
養鶏場にたどり着くと、ムッシュはまず一人、そこに放り投げた。
「きゃっ!」
どさっと、放り込まれた女性は倒れ込み、涙目ながらに顔を上げた。
「クエー!」
大きな大きな鶏は、もはや動物の域を超えて、化け物だった。
「いやっ 来ないで!」
女性は抵抗した。すでに何日も着ているスーツには、何の力もなかった。
赤い眼鏡の顔が、鶏にかぶりつかれてしまった。
ずるっずるっ
鶏は嘴と顎を大きく開けて、女性を丸呑みした。
やがて体内に入ると、光を空かして人の姿が見えた。しかし、その姿もみるみる見えなくなり、やがてポッコリしたお腹しか見えなくなった。
「クエー! クエー!」
鶏がお尻に力を入れると、思いっきり大きなものが、ごろんと飛び出してきた。
スーツのような模様に、真っ赤なメガネのようなデザインが付いた、生みたてほかほかの卵だった。
まだ毛やら粘膜やらで糸を引いているものの、卵は問題なさそうだった。
奇妙な模様をしてはいるものの、しっかりと中は詰まっていた。
「おお、よしよし ジョセフィーヌよ、こちらもお食べ」
さらにぽんっと、人間が二人放り込まれた。
若干痛んでいるものの、セーラー服とブレザーとわかる、種類の違う女子高生が放り込まれ、目の前の鶏に、卵に、恐怖した。
がたんと、扉を閉めて、ムッシュは残り二人を引き連れて、またどこかへと行ってしまった。
ムッシュのかわいい鶏、ジョセフィーヌは、卵がほしいときには、いつでも産んでくれる素晴らしい鶏だった。
ただ問題があるのは、微弱でも霊力がある人間だと、卵を孵化させようと隠してしまうことだ。孵化したらしたで、新たな鶏妖怪となって、ムッシュの手先として活躍するのだが、そのために料理ができないのは、困りものだった。
柵と野草の牧歌的な場所には、大きな白と黒の化け物、巨大な牛がいた。
かつては花子という名前の乳牛だったが、今では別の名前となっている。
いつでも新鮮なミルクを出すために、ムッシュにとってもありがたい存在だった。
ぽーんと、女子大生が放り込まれた。普段はのんきで穏やかな彼女も、この時ばかりは恐怖し、顔を青ざめていた。
「うもー!」
牛はどかどかとやってきて、女子大生の臭いを嗅ぐと、口を大きく開けて
ぱくっ
頭からかぶりついてしまった。頭に優しく歯を立てて、そのまま長い舌で、口の奥へ奥へと、引きずり込んでいった。
「んん~!」
やがて女子大生の姿は、完全に見えなくなった。大きな乳房の見えるお腹あたりが、あらかた膨らむくらいだった。
やがて牛のほうがそわそわしだして、ムッシュに懇願する目を向けた。
ムッシュは大きなボトルを置いて、牛の乳をマッサージし、搾乳を始めた。
「やはり、手で絞るに限りますな 新鮮なミルクが、間近で見られるので」
ぎゅっ ぎゅっ
牛の乳からは、ものすごい勢いで、ミルクが絞り出されていた。
どばどばと、ボトルに大量に降り注ぎ、溜まっていた。
濃厚すぎて、液体のぎりぎりまでどろどろとした真っ白なミルクは、とってもおいしそうだった。
ムッシュはグラスを一つ取り出し、ボトルに沈めた。そして一杯すくって、ぐびっとやった。
「うむ! 悪くない! このクリーミーさの中にある、きめ細かい優しいのど越し! 吾輩の見立ては正しかったですな! ありがとう、フランソワーズ!」
曇ったグラスを手にし、ムッシュは牛をなでた。牛の名前は、フランソワーズだった。
「さあ、こちらのも食べてしまいなさい」
もう一人、人間が放り込まれた。
小汚いものの、エプロンをつけた母親のようである。娘とは引き離されて、悲しみに暮れていた。その娘は、今ではムッシュのエプロンの一つになっていることを、彼女は知らなかった。
ぱくっ
牛が飲み込むのを確認すると、ムッシュはまたボトルを設置し、乳搾りを始めた。
先ほどのミルクに、新たにまたミルクが注がれて、混ぜ込んであった。
ミルク同士のミックスは、ただの白一色のはずなのに、異なる魅力を持っていた。
ボトルに蓋をして、ムッシュはフランソワーズに手を振って、帰っていった。
帰りに、また養鶏場へと寄った。
「…む? 二つだけですと? はて、どちらにも霊力はなかったはずだが…?」
カラフルでリボンが二つ付いたような模様の卵を見て、ムッシュは不思議そうな顔をした。
しかし、とりあえず朝食にしたかったので、卵二つを持って、ジョセフィーヌに手を振って出て行った。
今日の朝食のために、以前からストックされていた小麦粉が引き出された。
ムッシュが石臼で轢いた、純度100%のただの小麦粉だった。
小麦粉を巨大なボウルに広げ、そこに卵を一つ割った。
ぱきゃっ
黒っぽい殻が割れて、オレンジ色に近い大きな黄身が、透明で粘度の高い白身とともに、小麦粉の上に降り立った。
タンパク質豊富で、手で持ち上げられるくらいに肉厚の黄身だった。
さらにもう一つ、カラフルな卵を手に、割ってみた。
ばきゃっ
不思議なことに、一つの卵からは二つの黄身が飛び出した。白身もたっぷり2倍の量だった。
「おお、そうか、一つに押し込まれていたのか… いや、これは愉快!」
3つの肉厚な黄身の上から、今度は新鮮なミルクがたっぷりと注がれた。
ミルクをかけられても、黄身はしっかりと、その存在をあらわにしていた。
ムッシュは泡だて器を手に、それを思いっきり混ぜていった。
肉厚の黄身が、たっぷりのミルクが、ただの小麦粉と混ぜ込んでいって、最後には薄い黄色のどろっとしたものに、一つにまとまった。
巨大なフライパンを火にくべて、たっぷりの油を引いた。
その表面に、先ほどのものを少し、垂らした。
じゅ~
どろどろのそれは、きれいな円形でおさまると、火が通っていき、穴がふつふつと開きだした。
くっつかないように、一つ、また一つと円形が作られていき、みな穴が開いていった。
フライ返しで、それをひっくり返すと、きれいなきつね色の肌をした、パンケーキだった。混ぜ物がないためあまり膨らまなかったものの、しっかりと中身の詰まった、美味しさの塊だった。
ぽんぽんと、いくつものパンケーキが焼き上がり、皿の上にタワーのように積まれていった。
やがて調理器具を流しに映すと、ムッシュはパンケーキタワーを運び、食卓へと進んでいった。
食卓に積まれたパンケーキの周りに、たくさんのお皿が置かれていた。
冷蔵施設からは、以前新鮮なミルクで作ったバターやサワークリーム、果実からしっかりと作ったジャムやケチャップ、新鮮な卵で作られたマヨネーズなど、いろいろな調味料などが置かれた。
やがておいしそうな匂いを感じ取り、いろいろな妖怪たちが集まってきた。
ムッシュは役得と言わんばかりに、もうパンケーキにかじりついていた。
「うむ! 素晴らしい卵とミルクでありましたからな! このサワークリームにバターも、マヨネーズも相変わらず素晴らしい! 最高の贅沢ですな!」
がつがつと、パンケーキを一切れ、また一切れと食べてしまった。
「せめて、彼らも生きておりましたらよかったものを… 残念でしたな…」
ムッシュは、丘の上の石碑を思い出していた。
石碑には、憎いとはいえ最後まで誇らしく戦った妖魔狩人の名前と、命を落とした妖怪たちの名前があった。かつての妖怪の総大将や、親しかった妖怪たちの名前もあった。
「あら、ちょうどご飯でしたのね…」
久しぶりにやってきた妖怪たちの一団の、そのうちの一体が、笑顔で話しかけてきた。
「おお、そなたは…」
楽しい朝食の時間は、もう少しだけ続きそうだった。

「…というのが、吾輩の考える理想ですな 人間牧場と人間果樹園、素晴らしい光景ではありませんか!」
ムッシュは高らかに、理想を語っていた。
「のう、ムッシュよ…」
嫦娥が、怪訝な顔で話しかけた。
「その理想とやらに、身共たちの居場所はおろか、姿もないのだが…?」
白陰が気が付いて、問い詰めていった。
「…ささ、食事といたしましょう! そこらの雑草やらとはいえ、吾輩の腕なら素晴らしい料理となるでしょう!」
ムッシュが笑って、ごまかしながらどこかに消えてしまった。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if 外伝 | 11:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 公式外伝 02『凛、激怒する ―前編―』 作:MT様

「はあ…」
自室に帰ってきて、まず最初に出るのは、ため息だった。
普段は女子生徒として学校に通い、学業に精を出す。
しかし、もう一つの顔があるのだ。
妖魔狩人として、漆黒の衣装に身を包み、妖怪を退治する、それが彼女の、凛の日常だった。
毎日妖怪が出るということは、もちろんない。異変が起きるということも、事件が起きるということも、まずない。
しかし、それは気が付かない、明るみに出ないだけであって、実際には毎日、毎時間、毎秒起きているのだろう。近くでも、遠くでも。
凛はここの所、気が休まることがなかった。悪しき妖怪に加えて、今度は付喪神までもが、活性化してしまったのだ。彼女の周りには、異変だらけだった。
付喪神に関しては、彼女は少々トラウマになっていた。最初の最初に戦った付喪神が、凛にぬぐい難いトラウマを与えてしまったのだ。死傷者が出ず、無事に解決しただけでも儲けものかもしれないが、小さな胸の乙女の心に、結構なひびが入っていた。
もう何が起きてもいいようにと、凛は霊力を薄く、広範囲にまで張り巡らして、霊力の流れ、妖力の流れを感知しようとしていた。そのために、連日くたくたになっていた。
着替えようと、服に手をかけたところ、自分の部屋に違和感を覚え、きっとタンスをにらんだ。
いつもの制服から、別の衣装へと変わっていった。漆黒の衣装に弓を持つ、妖魔狩人としての凛だった。
弓を手に、恐る恐るタンスに近づき、思いっきりタンスを開けた。
「…あれ?」
タンスの中には、人形が一体、凛の荷物を足場にして、立っていた。
「お久しぶり!」
人形はにこにことしていた。凛は、その人形の顔を、衣装を見て、記憶を思い出していた。
かつて幼いころに、友達がプレゼントにと、くれたものだった。
「凛とそっくりちゃね♪」
当時は珍しかった、ゴシックロリータの衣装の人形は、凛にとっては物珍しいものだった。しかし、時がたち、整理のためにタンスに入れたまま、いずれ溜まった荷物に埋もれて、忘れ去られてしまっていた。
「あなた… 付喪神よね?」
弓を構えるのをやめて、凛は尋ねた。
「よくわかんない… でもね、私、あなたに会いたかったの!」
人形はぴょんと跳ねて、床へと降りた。見れば見るほど、懐かしい人形だった。
フリフリのついた帽子は、真っ赤な花のパーツが取れたので、ボンドで取り付けたのを、思い出していた。
「な、なんで私の部屋の、私の人形が、付喪神に…?」
凛は、考えていた。その原因を探ろうと、考えていた。
「ねえ、お願いがあるの…?」
人形が恐る恐る、顔をあげて、凛を見上げながら訪ねてきた。
「お外に出てみたいの… お願い!」
凛は悩んだ。この間のこともあったので、付喪神に対して及び腰になっていた。
だが、これではいつまでも解決しない。

凛は考えた。

①外に出す
②外に出さない

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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if 外伝 | 12:08 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 公式外伝 02『凛、激怒する ―後編―』 作:MT様


「いいわ、外に出してあげる」
凛は笑顔で、人形に語りかけた。
「ごめんね、しまいっぱなしで、忘れちゃって…」
凛はしゃがみこんで、人形の頭をなでた。
「本当!? ありがとう!」
ぴょこんと、人形は凛に抱き着いた。
「あ、あれ… 力が抜ける…?」
凛はへたり込み、そのまま意識が抜けていった。
だんだん広くなる天井と、大きくなっていく人形を目にし、凛は気絶した。
とことこと、道を歩く姿があった。
ゴシックロリータの衣装に帽子で、田園風景には不釣り合いの、謎の少女だった。
ロングスカートをふらふらさせて、喜びながら歩いていた。
「凛の気配が消えるなんて…! どこいったの!?」
横を、別の少女が走っていった。いつもは凛々しいのだろうけれど、血相を変えて走り去っているようだった。
ぴょこんと、少女の持つカバンから、人形が顔を出した。
「まさか、人形になっちゃうなんて…」
人形は妖魔狩人の格好をして、妖魔狩人の顔と形を、しっかりと模っていた。
まだわずかながらに霊力が残っているおかげで、自分の意思で動くことができて、しゃべることができた。
しかし、霊力の大半は、カバンを持った少女に吸収されてしまい、今ではその少女の妖力へと変換されてしまっている。
強大な妖力を持っていても気が付かれないのは、それを発散していないからである。
もしも発散していたなら、今頃残りの妖魔狩人に袋叩きにされているか、はたまた妖怪にスカウトされているだろう。
少女は歩き、自然を、街を、人をじっくりと眺めた。
目に入るものすべてが新鮮で、美しいものだった。
小学校の前にたどり着いて、少女は面白そうなので、入っていった。
もう下校時間を過ぎて、生徒は全くいなかった。
「せんせー さようならー」
女の子が二人、ぺこりとして玄関から出て行った。
学校の水槽などの飼育をする委員会に入っており、当番だったのだ。
「あ、かわいい~!」
少女は手を開き、その女の子二人に向けた。
ぱっ
女の子二人が、消えてしまった。
地面には、その代りに人形が二つ落ちており、笑顔を見せていた。
「ちょっと! なにしてるのよ!?」
凛人形が怒ったものの、何の解決にもならなかった。
人形二つはふわふわと浮きながら、少女の手元へとやってきた。
「いやあ、かわいいから、つい…?」
人形二つを頬ずりすると、カバンへ突っ込んでしまった。
カバンから上半身を出した凛人形は、ぽこぽこ脇腹を叩いて訴え、さらに突っ込まれた人形を、カバンから落ちないようにと位置を変えていた。
校舎から、メガネの女性が出てきて、ゴシックロリータの不審者に気が付いた。
しかし、その不審者が、記憶にある子供そのものだったので、思わず駆け寄っていった。
「あら~ 凛さん! お久しぶりね~」
ぱっ
そんな女性も、もうすでにいなかった。
代わりにあった人形は、メガネのパーツが特徴的だった。
それはふわーっと、やってきて、頬ずりされた後に、カバンに突っ込まれた。
「先生… ごめんなさい…」
凛は、メガネの女性のことを、よく覚えていた。去年までお世話になった教師の一人だったのだ。
新たな人形3つは、霊力がないためにしゃべることも動くことも、なかった。代わりに少女の妖力が、少しずつ体内に残留していることを、今の凛人形は見抜けなかった。
その後、異変を察知した音楽教師が飛び出てきたものの、今ではよく似た人形が、カバンの中に入ることになる。
それからは、道行く人を見定めて、かわいいかどうかを確認していた。
かわいければ、姿を消して、かわいくなければ、そのままだった。
いたるところに妖力の痕跡を残したために、異変を察知した妖魔狩人の片割れがいたるところに駆け付けるものの、一向に発見できず、へとへとになっていた。
やがて夜になり、少女は元いた家に、凛の家にやってきた。
カバンは人形がいっぱい入っており、いろいろな格好をしていた。
詰め込まれたおかげで、身動きが取れなくなった凛人形は、カバンにしがみついているだけだった。まるでアクセサリーのようだった。
凛の部屋について、カバンを置き、凛人形を取った。
「本当はね、着せ替えたりして遊んであげたかったの… でもね、他にお洋服ないから、我慢する」
少女は少々物足りないながらに、それなりに満たされたようだった。
「楽しかったよ! ありがとう!」
少女は光を放ち、みるみると縮んでいった。それに対応するかのように、凛人形は大きくなっていった。
ぽとっ
人形が一体、落ちていた。それだけだった。
人形から抜けきった妖力は、凛の部屋から飛び出して、いたるところへと散って行った。
それに合わせて、人形たちはみな元の姿に戻っていった。
「ちょ、ちょっと! どうするのこれ!?」
凛の部屋は、数十人が雑魚寝しており、ぎゅうぎゅうになっていた。
その後、ようやくそろった妖魔狩人二人で、人間たちを街へと放流することとなった。
今回のことで、凛が周囲に張っていた霊力が、付喪神から発せられた妖力が、新たな悲劇と事件を生むことになることを、そして被害者を始め、街の人間たちに妖力が残留していたり、霊力が宿っていたりすることに気が付くようになるのは、また別のことなのだ。
凛は、棚の上に人形を飾り、今日も元気に登校していった。

Good End

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| 妖魔狩人 若三毛凛 if 外伝 | 11:10 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 公式外伝 『魔のものの暗躍』 作:MT様

「ふむ…」
夕焼けの明かりが闇に染まりつつある中で、遠い山々を、じっと見つめる姿があった。
彼の名は白陰、一見美しい男性のようでもあるが、その実態は妖怪でもある。
沈みゆく夕焼けを、訪れる夜の闇を、じっと見つめていた。
「こうして雌伏の時、楽しみは日の浮き沈みのみ、か…」
やがて身を翻し、元の住処へと、歩みを進めた。
広く殺風景な空間で、白陰以外にももう一つ、姿があった。
嫦娥という名前の妖怪である。年老いた老婆のような姿を、のそっと動かし、じっと彼を見つめていた。
「日を見ようが何をしようが、根本的な解決にはなりゃせんぞ」
彼ら魔性の者たちにとって、相当の難題が、ぶち当たっていた。
妖魔狩人という、悪しきを滅する存在が現れてしまったのだ。悪しきを滅して人を助ける、妖怪からしたら、天敵以外の何物でもなかった。
かつて未熟な腕の子娘一人だった。もしもそいつ一人だけだったとしたら、いかようにも始末することはできた。が、新たに現れた、腕の立つ妖魔狩人は、相当手ごわかった。いくら妖怪とはいえ、その力には引き下がるほかなかった。
「うむ、身共もそれはわかっている とはいえ、対抗する手立てがないのも、事実だ…」
少し力を抜いて、楽な姿勢を取った。とはいえ、語る口は、難題の解決にはならない言葉しか、出てこなかった。
「妖怪どもを傘下に加えているとはいえ、所詮は烏合の衆よ… アタシだけでは、さすがに手が足らぬ…」
はあっと、ため息が二つこぼれた。至福の時に、もう何度も妖魔狩人を、酒に漬け込んだり焼いたりして食べた、という夢ばかりを見てしまっていた。
がたんっ
どかどかと、たくましく黒光りする巨漢が、入ってきた。
手には縄が握られており、その先には何人もの少女が、つながれていた。みなボロボロであり、涙を流す気力もなかった。
「ムッシュ、それは?」
白陰は、自信満々で入ってきたその男に、むっとしながらも尋ねてみた。
妖怪だけの神聖な空間に、低俗な人間を連れ込んだのが、許せなかったのだ。
「鉄の箱に乗っていては、肉の質が落ちてしまうでしょう やはり、ある程度は運動をさせなくてはなりませんな…」
左手で髭をなでて、ムッシュ・怨獣鬼は答えた。
「雌伏の時と申したのに、また材料収集とは、熱心なことで…」
やれやれと、嫦娥はあきれながらにつぶやいた。
あまり目立つようなことが続けば、妖魔狩人に発見されてしまうかもしれない。いくら数の上で有利とはいえ、攻め込まれてしまっては、もしかしたらということもあるのだ。
「遠くから調達しましたゆえ、大丈夫でしょう 吾輩特製の牢屋にでも、ぶち込んでおきますゆえ」
ムッシュは、囚われた少女たちを見せびらかすように、前に放り出した。
「…む?」
白陰は、何かに気が付いて、少女の一人、黒髪の長髪の少女に手をかけた。
「ほう… こやつからは、微弱ながらに霊力を感じるな…」
少女はおびえた目で、視線を逸らした。その様子を、横の少女たちはみな、恐怖していた。「妖樹化の種を使おう よろしいな、ムッシュ?」
白陰の突然の言葉に、ムッシュは少し、ぴくっときた。
「いやいや、何を言う… 吾輩が調達したものですぞ? それにそれは、吾輩も狙っておったというのに…!」
いつもと打って変わって、少しむきになっていた。
「まあまあ、両名待たれよ」
その様子に、嫦娥は止めに入った。
「たしかに、捕えてきたムッシュのものではあるがの… ただムッシュよ、これで何度目だ? おとなしく潜んで待つことが出来ぬと、おぬしの悲願も夢のまた夢よ?」
真っ向から正論をぶつけ、なんとかしてこの場を収めようとした。
「…いいでしょう それは差し上げましょう しかし、吾輩は吾輩の好きにやらせてもらいますぞ? よろしいな?」
禍々しいほどの覇気が、周囲に広がっていた。足元の何人かの少女は、失神してしまっていた。
やがて、ぷんぷんしながら少女の一人の縄を引きちぎり、解放した。残りの少女は、ずるずると引きずって行ってしまった。
「ふむ… なかなかのものだな…」
白陰は、何度か体に指を這わせて、少女をなでた。少女は、これから起きることが予想できずに、ただ目に涙を浮かべることしかできなかった。
妖樹化の種を一つ取り出し、少女を抑え込んだ。そして、外へと少女を連れ出し、さっそく始める気でいた。その後ろ姿を、嫦娥はじっと見つめていた。
「なんじゃい、あんな細いひょろひょろの人間… アタシが若いころは…」
誰にも聞こえない愚痴を、始めていた。
「ああ、やだ… ぐっ がっ ぎゃああああああああああああああ」
外では、絹を引き裂いてすりつぶしたような、痛々しい悲鳴が広がっていた。彼方の山々にこだまして、遅れてまたこちらに帰ってきた。
「終わったぞ おそらくは、うまくいくだろう」
ふーっと、少しすっきりした顔で、彼は帰ってきた。
やがて、夜も深くなり、外には風に揺れる木々の音が聞こえていた。
「ふむ? 外のあれが、先ほどのですな?」
ムッシュが、大皿をいくつか持って、やってきた。
「ムッシュ、今度は何を作ったのだ?」
いい香りがする物体を目に、白陰は尋ねた。
「これは、肉まんというものですな あなた方も、一度は目にしていると思ったのですがな」
かぱっと蓋を取れば、巨大な白い塊が3つも出てきた。
「いい材料でしたので、一つにつき一体、使いました 全身を柔らかくたたき、新鮮な野菜とよく混ぜたあの感触は、たまりませんな」
ふかふかふわふわの真っ白な肌は、中においしいものが詰まっているようだった。
「しかし、肉しかないのでは、レパートリーに困りますな… やはりまた卵と、果樹園もほしいところですな」
「ムッシュよ、そういうのは、人目につかないように、な…」
嫦娥が、とりあえず注意をしておいた。こういっておかなければ、村一つを壊滅させて、まるまる牧場やら畑やら、果樹園にしかねないのだ。それだけの力があるのだ。
「ささ、お熱いうちに食べなくては、料理がかわいそうですぞ」
ムッシュに催促されて、ささやかな食事が始まった。先ほどまであんなにも衝突寸前とはいえ、ムッシュはプロの自覚があった。料理はしっかりと作り、しっかりとふるまうのだ。
巨大な肉まんは、皮が厚いにも関わらず、中のたくさん詰まった具材のいい匂いが、もう漏れていた。
さっそくムッシュは右手でつかみ、熱いそのままに表面に一気にかぶりついた。何度も何度もかじり、ようやく中にまで達した。
中からは、あふれんばかりの肉汁が出ていた。開いた穴から、垂れてしまいそうなくらいだった。
「うむ! 悪くない! この柔らかな肉質は、メガネとかいうのをかけていたやつでしたかな」
むしゃむしゃと、ムッシュはかじりつき、己の料理に自画自賛した。
「ほう? こっちのはずいぶん油が多いんだがの… 無駄にでかい乳でもしておったのか?」
肉まんをじろりと眺め、嫦娥が中の肉に向けて、不満を言っていた。結構当たっているのかもしれない。
「このわがままな歯ごたえ、素晴らしいぞ、ムッシュよ」
白陰もまた、料理の味に舌鼓を打った。賞賛の言葉は、ムッシュへと投げかけられた。
「ふむ、初めてにしてはなかなかうまくできましたな? 材料がいいからでしょう また食べたければ、いつでも作りますぞ? 材料があればですがな!」
すでに肉まんの半分以上を食べて、彼は力強く笑った。すべてが腹に収まるまで、もうすぐだろう。
やがてみな、にっくき妖魔狩人のことを思いながらに、眠りこけてしまっていた。夢の中では、妖魔狩人を二つ混ぜ合わせた特性巨大肉まんに、かぶりついていた。
朝日が差し込め、また沈み、そしてまた朝日が昇る頃、異形な木に実った、異形な実が、ふらふらと揺れていた。その様子を、ムッシュ以外のものが見つめていた。
ぼとん
実が落ち、中身が出てきた。
長い黒髪を纏ってはいるものの、鋭い爪が生えた手足や、鋭い牙が映えた口、そして長く伸びた耳は、妖怪そのものであった。
「があああああああああっ あっ?」
ぽいっと、生まれたての妖怪の口に、何かが投げ込まれた。
妖樹化の種がまた投入されて、妖怪は再び苦しみ、もがきだした。
「よろしいのか、白陰?」
すでに体の形が変わりつつある目の前のそれを、涼しい目で嫦娥が見つめていた。
「うむ、前回の事例もあることだ… 妖怪化した人間にまた妖樹化の種を使えば、きっと強力な妖怪が誕生するかもしれん」
少し楽しそうな彼だが、その横の嫦娥は、やれやれとあきれていた。
「あんな滴程度の霊力で、強力なのが生まれるわけがなかろう… それに、仮に生まれたとしても、どうやって手なずけるのじゃ? かやつのこともあるしな…」
あっと、彼は指摘されたことに気が付いてしまった。とはいうものの、また冷静な顔に戻り、木の成長を見つめていた。
また少し日がたち、木には巨大な実が出来上がっていた。夕日にすかされた中身は、まるで蜘蛛のような、禍々しい姿が見えた。
「外のあれは、そろそろ生まれそうですな? 生まれてから、あの時食べておけばと思うかもしれませんぞ…」
ムッシュは、一人の少女を引きずって、床に降ろしていた。しばらく狩猟に行っていなかったので、ムッシュの手持ちの材料は、もうこれだけだった。といっても毎日人数分の肉まん、ハンバーグ、ステーキ、カツレツとやっては、すぐに材料が尽きるのも、納得だった。
「また、材料でも集めなくてはな… よかろう?」
「もう、好きにせい 今は、外のあれが気になるでな」
外の木の、巨大な実を、3体の妖怪と一人の少女が、見つめていた。
ずどん
ついに、実が取れて、地面へと降り立った。
ぎちぎちぎちっ
中からは、大きな蜘蛛が出てきた。人の何倍もの大きさの、巨大な蜘蛛だった。
「ほう? おいしくはなさそうですな」
ムッシュは髭をなでて、その様子を眺めていた。
足元に転がっている少女は、弱ってはいたものの、弱弱しいながらに悲鳴を上げた。が、向こうの山にまで届かなかった。
蜘蛛は、するすると縮んでいった。足や腹が収納されていき、別の姿になりつつあった。
やがてすべておさまると、蜘蛛がいたその場所には、少女が一人立っていた。
全身がきれいな肌色で、長くて黒い髪は、妖美に風に揺れていた。唯一残念なのは、妖怪ですら服を着ているというのに、全裸ということだった。
「ふふふ…」
少女は、目の前の妖怪に向けて笑みを浮かべると、頭を下げた。
「お前の名前は… なんにしようかの?」
嫦娥は、光景のあまりに言葉を失い、呆然としていた。というのは実は嘘で、ただ単に若い娘のような目の前のそれに、名前を付けるのが鬱陶しかった。
「あら、ではまた今度の機会にでも、考えておきますわ…」
彼女は、くるくると体を回し、あたりに裸体を晒していた。ちょっと別のことに目覚めてしまったのだろうか。
「とりあえず、その恰好をなんとかしてもらおうか…」
耐えかねて、白陰は言葉をかけた。相手が人間なら、裸でもなんにも感じはしないものの、同じ妖怪の、なまめかしくも美しい妖怪の素肌なのだ。山々や自然に拝ませるのさえ、もったいなく感じた。
「あら、ではそこのを頂戴いたしますわね…」
地面に転がる少女にむけて、彼女は手から糸を飛び出させた。糸に絡まれて、少女は無理やり立ち上がらされた。
少女の目に映る彼女は、かつて見覚えがあるその顔だった。しかし、その冷たい笑みは、体温は、彼女が人間ではなくなってしまったことを知るには、十分だった。
かぷっ
少女の首に、彼女の歯が付きたてられた。そして、彼女は何かを、体内へと注いでいた。
「ああ… なんで…」
少女は、体がみるみると力が抜けていった。それに合わせて、体の内側の、肉の部分がみるみるなくなっていくのを感じた。
「ああ、せっかくの夕飯の材料が… 今日は、生け作りにでもしようと思ったものを…」
ムッシュが、悔しがった。それはつまり、妖怪たちの今日の夕食がないということも意味しているのだが、その部分が伝わることはなかった。
「ふふ… ごちそうさま…」
ぺらりと、少女の顔があらぬ方へと向いた。すでに中身はなく、ただのぺらぺらとした、布きれのような物体だった。
「… …」
それでもどうやら、意識があるようだった。それでいてなお、生きているのかもしれなかった。
それの口に彼女は手を突っ込んで、中に糸を放った。
中でぐにぐにと、糸が広がり、詰まっていた。
それを今度は、横や縦へと押し広げた。そして、その出来栄えを確認すると
じゃきんっ
鋭い爪で、細切れに引き裂いてしまった。中の糸のおかげで、四散することはないものの、少女の形や面影は、全くなくなっていた。
それに、今度は表面に糸を垂らして、するすると糸を縫い込んだ。針もないのに、器用に縫っていった。
出来上がった、不格好な布きれに、彼女は軽く口づけをし、口から何かを染み込ませた。
口づけした部分から、みるみると色が変わっていき、緑を基調とした布になっていった。
「あらあら… こんな色なのね…」
みな、唖然として見つめていた。それもそのはず、今まで生きてきた中で、これだけ美しい布は、見たことがなかった。
彼女は、再び爪で切って加工して、糸で縫いつけた。
出来上がった緑の洋服に感動し、さっそく袖を通した。
ぴったりのサイズに、彼女はくるくると嬉しそうだった。
「よもや、そのようなものにしてしまうとは…」
白陰がようやく、見とれていたのから立ち直り、言葉を放った。
「人間とは不思議なもので、本能に勝る欲望というものがある… それは食べる以外のものに、魅力を感じるということなのだろう もちろん、人間にも、食べることの欲望が強いものはいるがな」
嫦娥は続けた。
「つくづく、人間とは珍妙な生き物よの… といっても、すでに妖怪だがの 直接の力は、我らには遠く及ばぬようだが、なかなかに興味深いな…」
彼女のお披露目会が終わり、みなぞろぞろと、住処へと帰っていった。
今日の夕飯は、なかった。
「そなたは、元いた場所へと戻り、向こうで好きにせい それがもっとも、奴らを悩ませるだろう」
若干空腹ながらに、嫦娥は言葉を放った。朝ごはんもなさそうだった。
「ええ… お任せください、おばあ様…」
ぺこりとして、彼女は出て行ってしまった。緑の洋服の裾を揺らしながら。
「たまに、帰ってもいいぞ もちろん、土産を持ってな」
嫦娥の言葉に、彼女は振り返って、にこっと笑顔を向けた。
遠くの街の、とある私立大学は、悲しみに包まれていた。
合宿へ行く途中のサークルを乗せたバスが事故に会い、サークル生のほとんどが死亡または行方不明だった。バスの残骸から、クマのような大型の動物に衝突し、横転したとみられていた。
いまだ捜索活動が行われているものの、現場の惨状から見て、生存者は絶望視されていた。
死亡が確認された生徒だけでも、大学を挙げて葬儀が執り行われていた。
その模様を、笑顔で見つめる影があった。
午後7時を回り、大学も閉校が近づいていた。サークルやらゼミナールやら、はたまたお遊びやらで残る生徒は多かったものの、みな蜘蛛の子を散らすように、散り散りと帰っていった。
校内に残っていた一人が、ようやく帰宅へと動いた。
友達の安否がわからぬために不安が募るものの、かといって学業をおろそかにするわけにはいかなかった。
「ふふふ… こんばんは…」
真っ暗な廊下の奥で、真っ赤なものが二つ動き、近づいてきていた。
「な、なに…?」
恐怖のあまりに、足がすくんでしまった。

魔のものの暗躍

窓から差し込むわずかな明かりに照らされたのは、茶髪に春物の衣服の女性と、黒い長い髪に緑の洋服の彼女だけだった。
「えーと、どこかで会ったかしら―」
かぷっ
言い終わる前に、首元に、思いっきり噛みつかれていた。そして、体内に何かが流し込まれていた。
「あ… あれ…?」
「うふふ… ごちそうさま…」
ぺらぺらとなった物体に、彼女はあいさつをした。
ぽかんとした口の中に手を突っ込み、中に糸を放った。糸は体中にどんどん広がっていた。
糸が詰め込まれたら、それの全身をぐにぐにと揉んで、なじませていった。
「はい、できあがり… 素敵よ…」
糸が絡み合って、綿へと変わっていた。彼女が手にしているのは、3頭身くらいにデフォルメされた、笑顔のぬいぐるみだった。
「今度は何を作ろうかしら… お洋服? スカート? ぬいぐるみ? 和服も捨てがたいわ…」
やがて大学を中心に、行方不明者が数多く出没し、警備が厳重へとなった。
しかし、それをあざ笑うかのように、行方不明事件は増えていった。
都会での神隠しは、いまだに進展すらしていなかった。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if 外伝 | 14:15 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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