「あ~ん! いいわねぇーっ、新しい女の子レコード♪」
ミンスーはそう言うと、金属製の円盤の上に乗っている、もう一枚の薄い円盤を拾い上げた。それは、上面は一人の少女の顔と肩などが模様のように描いてあり、その裏である下面は白い下着を中心に足らしきものが模様となっている。
そう、ここまで言えばお判りになる方も多いだろう。
それは一人の少女が、ミンスー得意の縦型円形平面の被害にあって出来上がった物。
では、今回の被害者は一体誰なのか?
まず、被害者である少女の乗っていた金属製の円盤の横に、山吹色のワンピースや特撮風のベルトやグローブ、ブーツが転がっている。
更に少し離れた場所に、同じようなワンピースやグローブ・ブーツを身に着けた眼鏡の少女が、怯えた魚のように目と口をぱちぱちさせながら尻込みをしている。
そう……。潰されて円盤になった少女も、そして尻込みしている少女も、レイカ式戦闘用強化服を着せられ、『パーピーガール』として働いた娘である。
ミンスーが手にしている円盤化した娘は、パーピーガール01…『天道遥』。
地元、尾門高校の二年生になったばかりで、学習塾の送迎バスごとミンスーに拉致された少女である。
そしてつい一~二時間程前、パーピーガールとしてターディグラダ・ガールやCCSと戦ったが、催眠装置を逆利用されてミンスーに歯向かい、その場でリタイヤする羽目となってしまった。
だが、ミンスーは歯向かったことを怒っているわけではない。むしろ、そういう状況になる前に、素敵な芸術品に変えてやれば良かったと、心底後悔しているのだ。
そこで、こうして退陣直後に、自身の手で円盤へと変えてやったわけだ。
「さぁ、この子はどんなメロディーを奏でてくれるのかしら♪」
ミンスーは円盤になった遥の裏面……つまり下着や足がある面を上に、蓄音機のターンテーブルに乗せた。
足の裏あたりにレコード針を落とし、ターンテーブルを回転させる。
「こちょ……こちょ……こちょばゆい~っ♪ くす…くす……くすぐったぁ~い♪」
それはまるで、つい最近ネット動画で大ヒットした、『これはリンゴです』みたいな短調かつポップなメロディー。だが、思いの他……リズムには乗っている。
「へぇーっ。この前の子と違って、結構上手ですわー!」
目を細め、嬉しそうに音楽を聞き入るミンスー。
更にレコード針が、ファンシーポップ柄の下着の上に乗ると、
「ダ、ダ、ダ、ダ、ダ……ダメ!ダメ! そこはーぁ、ダメ―ッ!♪」
と転調し、一気にテンポが速くなる。そして、そのまま中央部分をなぞり始めると、
「パ、パ、パ、パ、パ、パ、パォ―――――ッ♪」
象の雄叫びか? 高々と意味不明な声を醸し出し、そのまま息を潜めたように沈黙してしまった。
「あらま!? このレコードも中央がグッショリと濡れてしまっているわ!」
ミンスーは遥……いや、そのレコードを蓄音機から外すと、その中央部分に鼻を近づけ、ス~ッ!と大きく息を吸い込んだ。鼻孔を酸っぱいような、生臭いような、複雑な臭いが通り過ぎていく。
「処女ね……♪」
ポツリとそう呟くと、そのレコードを風通しの良い棚の上に立てかけた。
「さてと次は、蛍ちゃん?……だったわね。」
そう言ってミンスーが視線を向けたその先には、先ほど以上に身を丸め、ガタガタと震えている眼鏡のパーピーガール……03。その本名は、『稲森蛍』。
遥と同じ尾門高校で、同じ学習塾へ通っていたが、こちらは一年生。
眼鏡を掛けた理知的なその面立ちは、テンプレートな文学少女を思わせるが、同じ書籍好きでも……彼女が好きなのは『BL本』。いわゆる腐女子というやつだ。
彼女もパーピーガールとしてターディグラダ・ガールと対決したのだが、まともに運動もせず……BL本ばかり漁っている腐女子が、空手二段の現役警察官であるターディグラダ・ガールに勝てるはずもなく、対峙して即……瞬殺のように倒された。
「さてさて、貴女は見たところ歌よりも、本とかの方が好きそうね!」
さすがはミンスー。長年…少女狩りばかりをしているためか、その外見でその子の性質も見抜けるらしい。もっとも、その性根までは見抜けないようではあるが。
「だから貴女は、素敵な~素敵な、一枚の絵画にしてあげますわ~♪」
そう言ってミンスーが取り出したのは、人ひとりが横たわれそうな程の大きな大きな一枚のキャンパス。
「今から貴女をこのキャンパスと同化させ、素敵な絵画にしてあげます。」
ミンスーは怯える蛍の手を掴み、キャンパスまで強引に引っ張っていく。
その時!!
「あ~っ! あ~っ! ただいまぁぁぁ……マイクのテスト中~ぅ♪」
間の抜けた緩~~~いテンポの声が、室内に響き渡る。
「ミンスー、帰って来ているんでしょ~ぉ!?」
その独特の間延びした声は、言わずと知れたパーピーヤスの首領(マスター)、茶和麗華の声。
「ちょおぉぉぉぉっと…お話があるからぁ、今すぐマスター室までぇ来てちょぉ~だい!」
その言葉は、一気にミンスーのテンションを引き下げた。
呼ばれる理由は解っている。先程の戦いで敗れたことだ。きっと嫌味な説教が待っているのだろう? いや、説教だけで済めばいいが、もしかしたら酷い体罰が待っているかもしれない。
「……と、言いたいところだけどぉーっ、」
「えっ!?」
「アタシ……今日は忙しいからぁ、明日夕方にでもぉ、マスター室へ来てちょーだいねぇ~~っ!」
そう言って院内放送は、ピタリと終わった。
「良かったですわ……」
安堵の溜息が零れるミンスー。
「それじゃ、さっきの続きにいきますわー!」
そう言って、蛍の身体をキャンパスの上に押し倒した。そして手にした刷毛に、不気味な色の液体を振りかけると、それを蛍の身体に塗りつけようとする。
……が、何故か!? ミンスーの動きは、その場で固まったように動かなくなった。
10秒? それとも30秒……1分?
しばらくそのままピクリともしなかったミンスーだが、
「フーッ……」
と大きく溜息をつき、手にしている刷毛をキャンパスの上に放り投げた。
「ダメですわ。テンションが完全に下がってしまって、とても芸術品を作成できる気分ではありませんわ……」
ミンスーはそう呟き立ち上がると、キャンパスの上で倒れている蛍の身体を引き起こした。そして部屋の隅にある、魔力で作った檻まで引っ張っていく。
檻の中には、まだ数名の少女たちが残っている。ミンスーは、そんな檻の一部分を開け広げると、蛍の身体を押し込むように放り込んだ。
「貴女たちはアタクシにとって、大切な芸術の素材たち。アタクシのモチベーションが完全に持ち直したら、そのときこそ素敵な芸術品に変えてさしあげますわ。
その時までゆっくりと、身体を休めなさいな!」
ミンスーはそう言って、檻の中に饅頭のような物を数十個ほど差し入れると、
「気分転換に、その辺まで少女狩りにでも、行ってくるとしますか?」
と、肩を落としたまま部屋を出ていった。
科捜研……。正式名称は、科学捜査研究所。
日本の警視庁及び道府県警察本部の刑事部に設置される、研究機関のことである。
その内容は、研究員と呼ばれる技術職員が、それぞれの専門知識・技術を応用して、犯罪現場から採取された資料などの鑑定を行っている。
また鑑定技術向上のための『研究開発』なども行っている。
各県警本部内に設置されているが、研究員は警察官ではない。その正式な身分は、地方公務員研究職職員となる。
したがって、捜査権などは持っていない。
瑞鳥川(みどりかわ)弘子。神田川県警本部、警備部警備課未確認生物対策係……通称CCSに出入りしているが、彼女も本来は科捜研の研究員である。
その専門は物理学(工学)分野で、研究開発員も兼ねて業務していた。
したがって、彼女が科捜研所内で何らかの研究を行っていても、一向に不思議ではない。ていうか、当たり前なのだ。
「それにしても……このボンベーガールという強化服、調べれば調べるほど驚かされることばかりだぜ……。」
CCSが、ミンスーやハイパーオークたちと戦った、その翌日。
瑞鳥川はそう言いながら、手にしたマグカップのコーヒーを口に含むと、大きく溜息をついた。
「特に驚くのは、この右腕の籠手部分。ヘルメット内にある脳波感知器と連動してナノマシンが起動。籠手自体を火炎放射器やガス噴出器に変化させる。そしてそのシステムは、特定の人物の脳波でないと、起動しないようにできている。
取り分けコイツは、あの……『結城暁』とかいう女生徒の脳波でしか反応しない。
こんな物を二週間かそこらで作り上げるとは、やはり茶和麗華は天才を通り越して、一種の化け物だぜ……。」
瑞鳥川はそう言うと、事務椅子の背もたれに深々と身体を預け、大きく天を仰いだ。
そこへ、ガチャッ!!と勢いよく部屋の扉が開くと同時に、
「よぉーっ、瑞鳥川さんは……居るかぁ~っ!?」
と、辺りかまわぬ大きな声が部屋全体に響き渡った。
声の主は20代後半と思える一人の男性。
それは長身で広い肩幅、鋭い目つきでラフに着こなしたスーツが割と良く似合う……その男は、
「相変わらず無駄に声がでけぇーな……『荒木』くんは?」
瑞鳥川がそう返した通り、彼の名は荒木繁。刑事部捜査一課の若手刑事、身分は巡査部長である。
「はん? 地声だからしょうがねぇ。あんま……気にしないでくれ。」
「いや、気にする……しない以前に迷惑なんだよ。それより、アタシに何か用~っ?」
椅子にもたれ掛かったまま、面倒くさそうに問い返す瑞鳥川。
「アンタに客が来ている。若い女が二人だ。なんでも警備課の和係長ってヤツの紹介らしい。とりあえず小会議室で待たせているが……?」
「和くんの? 誰だろう……? まぁ、いいや!ありがとーっ♪」
瑞鳥川はそう言って、ボンベーガール型強化服を自身のキャリーバッグに手早く詰め込め、部屋を出ようとした。すると……
「瑞鳥川さん、ちょっと……聞いていいか?」
そんな瑞鳥川を引きとめ、荒木が歯切れが悪そうに問い掛けて来た。
「ん……? なに……?」
「アンタが出入りしている警備課に、橘巡査って子がいるだろ?」
「橘巡査……? ああ~っ、橘ちゃん!? いるけど~?」
その返答に荒木は溜息混じりに言葉を詰まらせ、間が悪そうに髪を掻き上げると、
「あの子も、その……未確認生物と対峙したり、戦ったり。……するんだろ? だ、大丈夫……なのか?」
「大丈夫……?」
「いや……あの子、今どき珍しいくらい真面目で真っすぐな子だろ? あんま……戦いとか向いてなさそうに見えるし……」
それはまるで喉に何かつまっているような、普段率直な彼にしては珍しいほど言いにくそうであった。
「あ~っ!なるほど~ぉ、そういうことか~っ!?」
瑞鳥川はそう言いながら、笑いそうになるのを口の中を奥歯で噛むようにし堪える。
「は!?」
「つまり…荒木くんは、アタシのライバル!ってことだ~♪」
「いや、ワケ解んねぇーよ!?」
「またまた~っ、しらばっくれてーぇ!! この…男ツンデレ~~っ♪」
「いや、なにそれ!?」
そんな訳のわからぬ問答が続いて、とどめは瑞鳥川の、
「大丈夫だよ。橘ちゃんは、アタシが責任持って幸せにするから!」
と、ニッコリ…サムズアップ!!
そんな瑞鳥川に、荒木は一瞬……絶句したように言葉を失ったが、
「アンタ、なんか勘違いしているようだけど、俺……そういうんじゃ無いから!」
そう言って、「やれやれ」といった顔で瑞鳥川の頭を軽く…ポンッ!と叩き、
「もう……いいや! さっさと行けよ……」
と、彼女を強引に部屋の外へ押し出した。
部屋から押し出された瑞鳥川は、しばらく中の様子を伺うように扉の前で立っていたが、やがて……
「絶対に橘ちゃんは、渡さないもんね~っ!」
とお道化ながら、小会議室へと向かって歩き出した。
「お待たせーっ!」
調子っぱずれの口調で、小会議室の扉を開けた瑞鳥川。
中を覗くと、長テーブルには二人の人影が。パイプ椅子に腰かけているその二人は、なるほど……たしかに若い女性だ。しかも結構美人だし~! 見たところ20歳(はたち)前くらいと言ったところか?
一人は長い黒髪に、高級そうな濃紺のビジネススーツを身に纏った女性。もう一人の女性も、同じように腰まで延びた長い髪だが、その色は真夏の海を思わせる、鮮やかな青色。
彼女たちは瑞鳥川が部屋に入ると、反射的に立ち上がり深々と頭を下げた。
「ああ~!アタシなんかに堅苦しい挨拶はしなくていいから。……で、誰?」
それにしても、ぶれないというか…常識知らずというか、誰に対しても態度の変わらない瑞鳥川。
「初めまして。私はMermaid Sea Company(マーメイド・シー・カンパニー)神田川支店、秘書室から参りました、紫崎芽衣(めい)と申します。そして、こちらは……」
濃紺のビジネススーツを着た女性…メイがそう言って軽く会釈すると、もう一人の青色の髪の女性の方へ視線を移した。
「わ、私は……、水無月特殊医療診療所のオーナーをしている……、み…水無月…聖魚(せいな)と言います。」
青色の髪の女性…セイナは、声と表情を強張らせながら、そう答えた。
それを聞いた瑞鳥川。
「ああ~っ!? あの、すげぇーっ治癒魔法を使うっていう、噂のお嬢様♪ 和くんから話は聞いているよぉ!」
と満面の笑みを浮かべる。
「あ、あの……瑞鳥川様。あまり大声で…その話はちょっと……。」
スーツの女性メイが、慌てて瑞鳥川を制しようとする。
「ごめん!ごめん! まぁ、とにかく座って~!」
まるでこたえていない素振りの瑞鳥川。目の前の二人に席に着くように促しながら、自身も能天気に席に着いた。
「うむ……? で、アタシに用って何…?」
その言葉にメイは平静を取り戻すと、真剣な眼差しで問い始めた。
「ハイ。では率直にお尋ねしますが、未確認生物と呼ばれる邪精や怪物。そして茶和麗華が製造したマシンレム……、そのロボット対策には、瑞鳥川様が開発された武器や防具が使用されていらっしゃるのですよね?」
そう問うメイに対し、瑞鳥川は少し考えた後、僅かに首を傾げ……
「う~ん……、世間でも話題になっている『ターディグラダ・ガール』自体はそうだけど、彼女や他の警察官が使う拳銃やライフル、他に銃弾も含めた銃火器類は、本部から支給されている物を使っているよ。」
と答える。
「それは、おかしな言い方ですが、銃火器類に関してはノーマル(規格品)であると……?」
「うん、まったくのノーマル。極普通の対人用(笑)。」
「それで効果はいかがですか?」
「最初はそれなりに効果があったよ。でも、予想外の怪物が現れたり、それまでのヤツ等も、最近…パワーも能力も強力になってきていて、ちょっと厳しくなってきているっていうのが、現状かな?」
「そうみたいですね。先日のハイパーオークとの闘いでも、相当苦戦されていたようでしたし……。」
そんなメイの言葉に瑞鳥川は少し顔を上げ、彼女の瞳を覗き込むように見つめると、
「その情報(ネタ)……一般人は知らないはずなのに、もう手に入れているんだ!? 和くんの言っていた通り、凄いもんだね!」
やや呆れたように返した。
「お褒めいただき、ありがとうございます。」
一方のメイも、まるで堪えた様子もなく、極普通に笑顔で答えた。
ただ、隣に座っているセイナは、きょときょとと…まるで挙動不審の小鳥のように、二人の会話について行けない様子である。
「それで? そんな話を振ってくるってことは、なんか面白い物があるわけ? たとえば、対人用ではなく…『対怪物用』の武器とか、『対魔法用』の道具……とか?」
「さすがはCCSの頭脳……瑞鳥川さんですね! そうです。私たちは今、未知の能力を持った怪物や、魔力を持った相手に対する武器や道具を開発している最中なんです。」
「開発の最中……? まだ、完成しているわけじゃ~っないんだ!?」
そんな瑞鳥川の言葉にメイは、
「今日はそのことで、瑞鳥川さんをお尋ねしました。」
恐縮したように…やや俯き加減で答えると、しばらく言葉を選ぶように黙り込む。
すると、そんなメイに代わって立ち上がったのが、今まで黙って聞いていたセイナ。
「み…瑞鳥川さん! わ、わ、私たちに……力を貸してください!!」
オドオドしてはいるものの、顔を紅潮させ力強く問い掛けてきた!
それを聞いた瑞鳥川。しばらく…キョトン!として、目の前の二人を見つめていたが、やがて…『にへら~っ♪』と微笑むと、
「あ~っ!話はわかった!! このアタシに、奴等相手の武器や道具を開発しろ!!…って、ことだな?」
と不敵に言い返した。その言葉に……
「は、はい。単刀直入に言うと……そうです。ぜひ、私たちと一緒に……。」
メイがそう言うと、
「いいよ!! ……ていうか、本来ならそれはアタシたち科捜研や、警察がやらなきゃいけない事。まぁ、ターディグラダ・ガールの開発や、移動用の各車両、特殊銃火器。それらでせいで、開発予算が火の車~っ!つうのが、こちらの台所事情らしくてね。」
瑞鳥川は、まるで悪戯っ子のような屈託の無い笑顔で答えた。
「ありがとうございます! 茶和麗華の組織……パーピーヤスを何としても止めないと、間違いなくこの国や世界……、いえ地上界そのものが、魔族や怪物のものになってしまいます。私たちは戦う力はありませんが、こうして警察などに協力して、彼らの野望を止めたいのです!」
「話は解ったけど、大きな問題がある!」
「それは、先ほど仰っていた予算の問題ですか? それなら、我がMermaid Sea Companyの方で用意いたしますが……」
「まぁ……それもあるけど、魔法だ。魔法の知識や仕組みがアタシには解らない。だから、どういう物を構想すればいいのか? それすらイメージできない。」
瑞鳥川のその言葉にメイは軽く頷くと、テーブルの上に、レギュラーサイズの缶ジュースのような容器を並べた。
「これは?」
「その中には、それぞれ…ある魔法を、液状に変換したものを入れております。」
「魔法を液状に……? へぇ、そんな事……可能なんだ!?」
すると、それに答えるようにセイナが再び口を開く。
「元々、私や診療所に居るミリアさんは人魚族で、使える魔法は水属性。ならば、逆に魔法を液状化できるのでは……と、研究し続けていたのです。そして今…ここにあるのが、それです。一つは、ステータス異常を回復を早める魔法。もう一つは、魔力を一時的に封じる魔法です。」
セイナがそう話すと、それに続くようにメイが口を開く。
「なんとか液状化に成功したので、魔力の無い者でも直接塗布したり、注射器のような物で注入することで、同じ効力を発揮させることが可能となりました。ですが……その方法だけだと、離れた相手に使用することができません。」
「小さなカプセルか何かに入れて、鉛の代わりに……銃弾として発射するのは?」
「それは試してみました。その為には当たった瞬間…簡単に砕けるカプセルでないといけません。しかし、それだと発射の威力でカプセルが破裂したり、発射時の火薬による高熱で、中身が変質してしまうことが解りました。」
「なるほど、通常の銃火器と併用するのは難しいってことか。」
瑞鳥川はそう言って二本の容器を手に取った。
「だが……これは、まさしく『とある魔法と科学の融合(フュージョン)』ってとこだな! おもしれぇー♪」
そして、スクッ!と席を立ちあがると、
「いいよ! コイツはアタシが預かった。色々…考えてみるよ!」
再び悪戯っ子のような笑顔で、そう答えた。
「ありがとうございます。私たちも他に方法が無いか……、色々考えてみます。」
対したセイナとメイも席を立ち、深々と頭を下げる。
瑞鳥川は、県警本部のエントランスホールで二人を見送りながら、
「あのセイナとかいうお嬢様、回復魔法を使うって言っていたな。RPGで言えば、差し詰め…僧侶か、回復支援系魔法使いってトコかぁ~!? そう言えば、うちのCCSには……攻撃支援(狙撃手)は居ても、ソレ系は居なかったなぁ~?」
なんてことを呟いていた。
「ま! そんなのは後でいいとして、とりあえず武器開発の構想でも練ってみるか?」
そう言って踵を返した、その時……!!
「こんにちわーっ! 瑞鳥川さん!!」
元気で、若々しい声が掛けられた。