2015.12.23 Wed
マニトウスワイヤー 第六章 精霊の支配者(マニトウスワイヤー)
「少しですが、体力が回復いたしましたわ・・・」
籐で作られた長椅子に足まで伸ばして横になっていた都は、ゆっくり頭を持ち上げ起きざまにそう言った。
「驚いたわよ・・。 傷だらけの身体でいきなり入って来て、少しだけでいいから寝かせろと、いきなり爆睡しだすから。
・・で、特に重症だった足は大丈夫?」
うなじが美しい色白の和服美女はそう言って、お茶の入った四つの湯呑みをテーブルに並べた。
「おかげ様で。まだ傷口が塞がった程度ですが、とりあえず歩くくらいなら大丈夫そうですわ」
都はそう言ってスカートをまくり上げると、白い足を露わにした。
浄化による消滅を避けるため、霊光矢を自らの太腿の肉ごと抉り取った深い傷。
まだ痛々しさはあるものの、さすが妖怪の回復力。 傷口はある程度塞がり、出血も完全に止まっている。
ちなみに、ここは色とりどりの反物が並んでいる、丘福駅から少し離れた場所にある反物屋。
だがその場所は複雑怪奇で、まるで迷路のような路地裏を潜り抜けなければ辿り着くことができない。
「そっちの付喪神(ヌイグルミ)は霊力でお茶を飲むことができるでしょうけど、異国の女の子は煎茶は大丈夫かしら?」
そういって心配する和服の美女は、この反物屋の女将。
本名は誰も知らないし、また・・ここだけの話、この女将は人間では無い。
だがここでは女将で通るし、またそれ以上の詮索も必要はない。
なぜなら来てみればわかる。
この店は時間の流れ・・・、世の中の動きから全て隔離されたような空間のように感じるからだ。
「大丈夫です」
フェアウェイはそう言って湯呑みに口をつけた。
「ねぇ・・女将さん。ここミシンありますわよね? 借りてよろしいかしら?」
都はそう言うと、バッグから鮮やかな茶色の生地を取り出した。
「その生地は・・!?」
都が手にした生地を見て香苗は思わず声を上げた。
それはバレンティアの身体から精製された、明るい茶色の生地。
「あるけど、裁縫ならここでやらず自分の家でやったらいいじゃないの?」
「ここからわたくしのアパートまでかなりの距離がありますし、それに大至急・・仕上げたいのですわ」
都はまだ『借りて良い』という了承を得ていないのに、ミシンを漕ぎだした。
「相変わらず、自分のペースね・・・」
女将は呆れて、言うだけ無駄といった仕草をとった。
「ところで都さん。貴女を傷つけたというマニトウスワイヤーという一味。貴女が寝ている間に少し当たってみたわ」
都の生地を送る手が一瞬だけピタリと止まる。
「どうやら、とんでも無い化け物よ。できれば早急に手を引くことを、勧めるわね」
「マニトウスワイヤー・・・。マニトウとは先住民族たちの間で『精霊』を指す言葉。そしてスワイヤーとは支配者。 すなわち精霊の支配者ということ」
青い妖魔狩人は二人の少女の前でそう語った。
洋風で落ち着いた雰囲気のこの部屋は、丘福駅から少し離れた高級ホテル・・ニューオーニタの一室。
さすがにここでは例の戦闘用コスチュームでは違和感があるため、青い妖魔狩人は水色のブラウスに白いキュロットパンツ。
そしてポニーテールの髪型に白いマスクを覆っている。
同じ部屋にはベッドに横たわる凛。 それを見守る金鵄。
青い妖魔狩人を護衛するように寄り添っている祢々。
「精霊って、木や草や水なんかに居着く弱っちぃ・・霊の事っちゃろ? そんなのヤツらのボスだからって、何をビビる必要があるっちゃ?」
独特の方言で話すショートヘアで少しイタズラっ子のような風貌の小柄な少女。
歳の頃合いは凛と同じくらい?
「日本ではそういう霊の事を言うようですが、海外では妖怪や悪霊・・・。その他諸々の物の怪全般を指している地域もあるそうですわよ」
もう一人は落ち着いた十代後半といったところか?
山吹色の長いストレートヘアーに黄色いカチューシャ。整った鼻筋にパッチリした目。
芸能界でも充分に通るほどの美少女である。
「さすがは『高嶺 優里』。教養が高いので話が早くて助かる」
青い妖魔狩人は一応褒めているのだろうと思われる。だが、いつもながら淡々と話すため、聞く方は素直に喜べない感もあるが。
「それって、ウチがまるで馬鹿のように聞こえるんやけど!?」
「誤解を生じているみたいだな『斎藤 千佳』。 貴女は馬鹿のようなのではなく、真の馬鹿だから気にする必要は無い」
そう言われた千佳という名の少女。
「あ・・!?」
思いっきり青い妖魔狩人を睨みつけると、怒髪天突くように髪を真っ赤し逆立てた。
それは過大表現ではなく、本当に髪が真っ赤になり逆立っているのである。
それを見て青い妖魔狩人を守るように間に入る祢々。
「千佳さん、今は争っている場合ではありません。早く経緯を聞いて、どうして凛ちゃんがあんな大怪我をしたのか? その真意を確かめないと」
優里も千佳の間に入り千佳の怒りを制した。
「わかったっちゃよ!」
髪を元に戻しベッドに腰掛けると、静かな寝息を立てている凛の顔を覗きこむ。
― ホント・・可愛いなぁ~凛~♪ それにしても、誰がウチの凛をこんな目に合わせたっちゃ!? 絶対にぶち殺したるっちゃよ!―
「話を本題に戻す・・・」
青い妖魔狩人は淡々と言葉を続けた。
「マニトウスワイヤー、その正体は『エノルメミエド』という名の遥か古代の神族の一人」
「神族・・・?」
「そう・・。唯一神派が多数である今の時代ではピンと来ないかもしれないが、元々神というものは一人ではなく大多数存在している。
日本の古事記、ギリシア神話、ゲルマン神話、ヒンドゥー教、エジプト神話など。
国同士の交流のなかった時代なのに、多少の違いはあってもその中身は割りと類似している。
その理由は神というのは一族のようなものであり、その一族の生活や行動が神話となって伝わっているのだ。
それが証拠にギリシア神話のゼウスとインド神話のインドラ。
日本神話のイザナギとギリシア神話でのオルフェウス。
これらは一例だが、名こそは違っているものの同一人物だ」
「つまり、同じ人物の行いが、その国・・その国の言葉に合うように変化して伝わっていたということね」
「そういう事だ。
彼ら神族は人間よりも遥かに高い知能と力を備え持っている。まぁ、人間の上位機種版みたいなものと考えれば、わかりやすいかもしれん」
「スマホとガラケーの違いみたいなものっちゃね?」
「能力的な違いはそんなものかもしれん」
「その一族の中にエノルメミエドという女がいた。彼女は操作系の能力に卓越しており、中でも強力な精霊操作の力を持っていた」
「ここで言う精霊というのは、先程・・高嶺優里が言っていたようにアタシのような妖怪。霊魂、妖精・・・全ての亜種生命体、生物の事だと思ってもらいたいわ」
祢々が付け加えるように言った。
「精霊の中には大地や天候など強力な力を持った者もいる。それらを全て自分の意のままに操ることができれば・・・・」
「世界中に大災害を起こし、世の中の動きを変えることができる・・・」
「そう。その力を恐れた他の神族は、彼女から神族の生態の一つである数千年の寿命を消し去り、人間の寿命に替え人間界に追放した。
人間としての寿命は僅か数十年。エノルメミエドはすぐに歳を取り死を迎える事になった。 そこで彼女は自らに転生の術を施し、数百年の眠りを得て転生を繰り返した」
「では、もう何度もこの世界に蘇っているということ?」
「そうだ。その度に彼女は自らの野望を抱くため、その力を見せしめに使っている。 過去、世界各国であった大災害の殆どは、エノルメミエドの仕業だ・・・」
「でも・・・そんだけのヤツが蘇って、よく今まで世界は無事で住んでいるっちゃね?」
「彼女の属性は『闇』。闇属性は『光』属性に弱い・・・。光属性は天界の一部の者か、もしくは心清らかな一部の人間でしか操る事のできない属性。
その度に天界は人間と協力し、光属性の力でエノルメミエドの野望を抑えてきた」
「なるほど・・・。まるっきり手段が無いわけでは無いのですね?」
「そう・・・。だからヤツはその光属性にも耐えゆる不死の肉体を手に入れる事にしたのだ」
「不死の肉体・・・・?」
「そうだ。人間・・神族、そして天界の住人。その中で限りなく不死に近い肉体を持つ種族がいる」
「・・・・・?」
「それは『天女族』・・・」
「天女族・・・?」
「見た目は人間の女性とあまり変わらないが、『緑色に輝く髪』と再生能力を持った不死の肉体を持つ天界の住人」
「緑色の髪の毛って・・・・・・!?」
女将の話を聞いていた香苗はとっさにフェアウェイを見た!
「そう、フェアウェイ・・。その子が天女族の限りなく不死に近い子ども」
女将はそう言うと飲み干した湯呑みを見て、ポットに手をかけた。
「それでその精霊の支配者様はフェアウェイをどうしようというのかしら? まさか、お茶飲み友達にしたい・・ってわけでもないでしょう?」
黙々とミシンを漕ぎながら言葉だけ返す都。
「エノルメミエドの目的は唯一つ! それは自身の『魂』を天女族の身体に融合させ、不死の身体として転生を完成させること・・・」
辺りがシーンと静まり返った。
強力な力を持つ者が唯一の弱点を克服するために不死の肉体を手に入れようとしている。
その意味を理解すれば、それがどれだけ恐ろしい事かを・・・。
「その情報。 そして、天女の子とエノルメミエドの手下がこの丘福市へ来ることを知ったワタクシは、黒い妖魔狩人・・若三毛凛にこの事を話し天女の子を確保に向ってもらったわけだ」
「じゃあ! 凛がこんなにボロボロになったのは青い妖魔狩人・・・。てめぇのせいだと言うわけちゃね!?」
千佳が右手をワナワナと震わさせる。その爪先は灼熱のように赤くなり微かだが湯気まで立ち上がっていた。
「千佳さん、怒りの矛先が違うわよ。こんな話・・凛ちゃんが聞いたら動かない理由がないし、それに傷つけたのはエノルメミエドの手先・・・」
物腰は軟らかいが、明らかに優里の表情にも怒りが見える。
更に・・
「それよりも何故・・天女の子は、この丘福市へ逃げてきたのかしら?」
と、青い妖魔狩人に問い返した。
「都さん。その答えは貴女が戴いた手紙の中に記されているはずよ」
何もかもお見通しのように女将が答えた。
作業の手を止め、バレンティアから引き継いた封筒を取り出しその中身を見る・・・
日本、神田川県、丘福市・・・と地名が続き、私立聖心女子大学附属聖心女子高等学校の名の次に・・・
「神楽 巫緒(かぐら みお)!?」
「その名の人物が、この世界で唯一マニトウスワイヤーの野望からフェアウェイを守りきれるそうよ」
「まるで聞いたことがありませんわ。 一体どなたですの?」
「私も会った事はないけど、風の噂によると・・・・」
「どいつも・・コイツも、風の噂話が好きですわね」
「天界・・・いえ、全世界でも唯一人。光属性の力を持つ・・奇跡の天女!」
第七章 闇からの襲撃へ続く。
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籐で作られた長椅子に足まで伸ばして横になっていた都は、ゆっくり頭を持ち上げ起きざまにそう言った。
「驚いたわよ・・。 傷だらけの身体でいきなり入って来て、少しだけでいいから寝かせろと、いきなり爆睡しだすから。
・・で、特に重症だった足は大丈夫?」
うなじが美しい色白の和服美女はそう言って、お茶の入った四つの湯呑みをテーブルに並べた。
「おかげ様で。まだ傷口が塞がった程度ですが、とりあえず歩くくらいなら大丈夫そうですわ」
都はそう言ってスカートをまくり上げると、白い足を露わにした。
浄化による消滅を避けるため、霊光矢を自らの太腿の肉ごと抉り取った深い傷。
まだ痛々しさはあるものの、さすが妖怪の回復力。 傷口はある程度塞がり、出血も完全に止まっている。
ちなみに、ここは色とりどりの反物が並んでいる、丘福駅から少し離れた場所にある反物屋。
だがその場所は複雑怪奇で、まるで迷路のような路地裏を潜り抜けなければ辿り着くことができない。
「そっちの付喪神(ヌイグルミ)は霊力でお茶を飲むことができるでしょうけど、異国の女の子は煎茶は大丈夫かしら?」
そういって心配する和服の美女は、この反物屋の女将。
本名は誰も知らないし、また・・ここだけの話、この女将は人間では無い。
だがここでは女将で通るし、またそれ以上の詮索も必要はない。
なぜなら来てみればわかる。
この店は時間の流れ・・・、世の中の動きから全て隔離されたような空間のように感じるからだ。
「大丈夫です」
フェアウェイはそう言って湯呑みに口をつけた。
「ねぇ・・女将さん。ここミシンありますわよね? 借りてよろしいかしら?」
都はそう言うと、バッグから鮮やかな茶色の生地を取り出した。
「その生地は・・!?」
都が手にした生地を見て香苗は思わず声を上げた。
それはバレンティアの身体から精製された、明るい茶色の生地。
「あるけど、裁縫ならここでやらず自分の家でやったらいいじゃないの?」
「ここからわたくしのアパートまでかなりの距離がありますし、それに大至急・・仕上げたいのですわ」
都はまだ『借りて良い』という了承を得ていないのに、ミシンを漕ぎだした。
「相変わらず、自分のペースね・・・」
女将は呆れて、言うだけ無駄といった仕草をとった。
「ところで都さん。貴女を傷つけたというマニトウスワイヤーという一味。貴女が寝ている間に少し当たってみたわ」
都の生地を送る手が一瞬だけピタリと止まる。
「どうやら、とんでも無い化け物よ。できれば早急に手を引くことを、勧めるわね」
「マニトウスワイヤー・・・。マニトウとは先住民族たちの間で『精霊』を指す言葉。そしてスワイヤーとは支配者。 すなわち精霊の支配者ということ」
青い妖魔狩人は二人の少女の前でそう語った。
洋風で落ち着いた雰囲気のこの部屋は、丘福駅から少し離れた高級ホテル・・ニューオーニタの一室。
さすがにここでは例の戦闘用コスチュームでは違和感があるため、青い妖魔狩人は水色のブラウスに白いキュロットパンツ。
そしてポニーテールの髪型に白いマスクを覆っている。
同じ部屋にはベッドに横たわる凛。 それを見守る金鵄。
青い妖魔狩人を護衛するように寄り添っている祢々。
「精霊って、木や草や水なんかに居着く弱っちぃ・・霊の事っちゃろ? そんなのヤツらのボスだからって、何をビビる必要があるっちゃ?」
独特の方言で話すショートヘアで少しイタズラっ子のような風貌の小柄な少女。
歳の頃合いは凛と同じくらい?
「日本ではそういう霊の事を言うようですが、海外では妖怪や悪霊・・・。その他諸々の物の怪全般を指している地域もあるそうですわよ」
もう一人は落ち着いた十代後半といったところか?
山吹色の長いストレートヘアーに黄色いカチューシャ。整った鼻筋にパッチリした目。
芸能界でも充分に通るほどの美少女である。
「さすがは『高嶺 優里』。教養が高いので話が早くて助かる」
青い妖魔狩人は一応褒めているのだろうと思われる。だが、いつもながら淡々と話すため、聞く方は素直に喜べない感もあるが。
「それって、ウチがまるで馬鹿のように聞こえるんやけど!?」
「誤解を生じているみたいだな『斎藤 千佳』。 貴女は馬鹿のようなのではなく、真の馬鹿だから気にする必要は無い」
そう言われた千佳という名の少女。
「あ・・!?」
思いっきり青い妖魔狩人を睨みつけると、怒髪天突くように髪を真っ赤し逆立てた。
それは過大表現ではなく、本当に髪が真っ赤になり逆立っているのである。
それを見て青い妖魔狩人を守るように間に入る祢々。
「千佳さん、今は争っている場合ではありません。早く経緯を聞いて、どうして凛ちゃんがあんな大怪我をしたのか? その真意を確かめないと」
優里も千佳の間に入り千佳の怒りを制した。
「わかったっちゃよ!」
髪を元に戻しベッドに腰掛けると、静かな寝息を立てている凛の顔を覗きこむ。
― ホント・・可愛いなぁ~凛~♪ それにしても、誰がウチの凛をこんな目に合わせたっちゃ!? 絶対にぶち殺したるっちゃよ!―
「話を本題に戻す・・・」
青い妖魔狩人は淡々と言葉を続けた。
「マニトウスワイヤー、その正体は『エノルメミエド』という名の遥か古代の神族の一人」
「神族・・・?」
「そう・・。唯一神派が多数である今の時代ではピンと来ないかもしれないが、元々神というものは一人ではなく大多数存在している。
日本の古事記、ギリシア神話、ゲルマン神話、ヒンドゥー教、エジプト神話など。
国同士の交流のなかった時代なのに、多少の違いはあってもその中身は割りと類似している。
その理由は神というのは一族のようなものであり、その一族の生活や行動が神話となって伝わっているのだ。
それが証拠にギリシア神話のゼウスとインド神話のインドラ。
日本神話のイザナギとギリシア神話でのオルフェウス。
これらは一例だが、名こそは違っているものの同一人物だ」
「つまり、同じ人物の行いが、その国・・その国の言葉に合うように変化して伝わっていたということね」
「そういう事だ。
彼ら神族は人間よりも遥かに高い知能と力を備え持っている。まぁ、人間の上位機種版みたいなものと考えれば、わかりやすいかもしれん」
「スマホとガラケーの違いみたいなものっちゃね?」
「能力的な違いはそんなものかもしれん」
「その一族の中にエノルメミエドという女がいた。彼女は操作系の能力に卓越しており、中でも強力な精霊操作の力を持っていた」
「ここで言う精霊というのは、先程・・高嶺優里が言っていたようにアタシのような妖怪。霊魂、妖精・・・全ての亜種生命体、生物の事だと思ってもらいたいわ」
祢々が付け加えるように言った。
「精霊の中には大地や天候など強力な力を持った者もいる。それらを全て自分の意のままに操ることができれば・・・・」
「世界中に大災害を起こし、世の中の動きを変えることができる・・・」
「そう。その力を恐れた他の神族は、彼女から神族の生態の一つである数千年の寿命を消し去り、人間の寿命に替え人間界に追放した。
人間としての寿命は僅か数十年。エノルメミエドはすぐに歳を取り死を迎える事になった。 そこで彼女は自らに転生の術を施し、数百年の眠りを得て転生を繰り返した」
「では、もう何度もこの世界に蘇っているということ?」
「そうだ。その度に彼女は自らの野望を抱くため、その力を見せしめに使っている。 過去、世界各国であった大災害の殆どは、エノルメミエドの仕業だ・・・」
「でも・・・そんだけのヤツが蘇って、よく今まで世界は無事で住んでいるっちゃね?」
「彼女の属性は『闇』。闇属性は『光』属性に弱い・・・。光属性は天界の一部の者か、もしくは心清らかな一部の人間でしか操る事のできない属性。
その度に天界は人間と協力し、光属性の力でエノルメミエドの野望を抑えてきた」
「なるほど・・・。まるっきり手段が無いわけでは無いのですね?」
「そう・・・。だからヤツはその光属性にも耐えゆる不死の肉体を手に入れる事にしたのだ」
「不死の肉体・・・・?」
「そうだ。人間・・神族、そして天界の住人。その中で限りなく不死に近い肉体を持つ種族がいる」
「・・・・・?」
「それは『天女族』・・・」
「天女族・・・?」
「見た目は人間の女性とあまり変わらないが、『緑色に輝く髪』と再生能力を持った不死の肉体を持つ天界の住人」
「緑色の髪の毛って・・・・・・!?」
女将の話を聞いていた香苗はとっさにフェアウェイを見た!
「そう、フェアウェイ・・。その子が天女族の限りなく不死に近い子ども」
女将はそう言うと飲み干した湯呑みを見て、ポットに手をかけた。
「それでその精霊の支配者様はフェアウェイをどうしようというのかしら? まさか、お茶飲み友達にしたい・・ってわけでもないでしょう?」
黙々とミシンを漕ぎながら言葉だけ返す都。
「エノルメミエドの目的は唯一つ! それは自身の『魂』を天女族の身体に融合させ、不死の身体として転生を完成させること・・・」
辺りがシーンと静まり返った。
強力な力を持つ者が唯一の弱点を克服するために不死の肉体を手に入れようとしている。
その意味を理解すれば、それがどれだけ恐ろしい事かを・・・。
「その情報。 そして、天女の子とエノルメミエドの手下がこの丘福市へ来ることを知ったワタクシは、黒い妖魔狩人・・若三毛凛にこの事を話し天女の子を確保に向ってもらったわけだ」
「じゃあ! 凛がこんなにボロボロになったのは青い妖魔狩人・・・。てめぇのせいだと言うわけちゃね!?」
千佳が右手をワナワナと震わさせる。その爪先は灼熱のように赤くなり微かだが湯気まで立ち上がっていた。
「千佳さん、怒りの矛先が違うわよ。こんな話・・凛ちゃんが聞いたら動かない理由がないし、それに傷つけたのはエノルメミエドの手先・・・」
物腰は軟らかいが、明らかに優里の表情にも怒りが見える。
更に・・
「それよりも何故・・天女の子は、この丘福市へ逃げてきたのかしら?」
と、青い妖魔狩人に問い返した。
「都さん。その答えは貴女が戴いた手紙の中に記されているはずよ」
何もかもお見通しのように女将が答えた。
作業の手を止め、バレンティアから引き継いた封筒を取り出しその中身を見る・・・
日本、神田川県、丘福市・・・と地名が続き、私立聖心女子大学附属聖心女子高等学校の名の次に・・・
「神楽 巫緒(かぐら みお)!?」
「その名の人物が、この世界で唯一マニトウスワイヤーの野望からフェアウェイを守りきれるそうよ」
「まるで聞いたことがありませんわ。 一体どなたですの?」
「私も会った事はないけど、風の噂によると・・・・」
「どいつも・・コイツも、風の噂話が好きですわね」
「天界・・・いえ、全世界でも唯一人。光属性の力を持つ・・奇跡の天女!」
第七章 闇からの襲撃へ続く。
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