2015.12.23 Wed
マニトウスワイヤー 第九章 妖魔狩人VS闇の精霊
「ところで、あのケッタイな羽の生えた三つ首女は何だっちゃ!?」
千佳がサンダーバードを睨みながら金鵄に尋ねた。
「気をつけるんだ! アイツが凛を倒したんだ・・・」
「あ!?」
千佳のコメカミに血管が二~三本クッキリと浮き上がった。
「アイツが凛をあそこまでボロボロにした奴っちゃか?」
見る見るうちに千佳の髪が真っ赤に逆立ち、右手は一回り二回り大きくなり灼熱の爪がモウモウと湯気を立ち上げる。
「だったら丁寧にお返ししてやらなくっちゃね!!」
そう言った瞬間、まるで野生の獣のように一足飛びでサンダーバードの眼前まで飛び込んだ!
だが、サンダーバードは慌てることなく指先を千佳へ向ける。
同時に上空から激しい雷鳴とともに、雷撃が千佳に襲いかかった。
バリッ!バリッ!バリッ!・・・
その衝撃の強さを物語るように千佳の身体は十数メートル吹き飛び、駐車してあった乗用車に頭から突っ込んでいった。
「千佳っ!?」
凛が慌てて駆け寄る。
「くらえ~~~っ!!」
その間、禰々子河童の祢々が金棒を振り上げサンダーバードに襲いかかる。
だが、それも左手一本で軽々と止めてしまった。
いや左手で止めたのでなく、左手と金棒の間に激しい電流の流れが見える。
そう、サンダーバードは電流のバリアで攻撃を封じたのだ。
そのまま電気の流れを強めると電磁石となり、金棒を持った祢々も軽々と吹き飛んでいった。
「なんて・・強さなの?」
冷静に戦況を見つめていた優里は、改めてサンダーバードの恐ろしさを実感する。
「この・・クソ野郎っ・・・!!」
崩れた乗用車の扉から全身傷だらけとなった千佳が這い出てきた。
「千佳・・、大丈夫・・・?」
「これがアイツの雷撃ってヤツっちゃか!? こんな痛いの・・凛は何発も受けたっちゃね?」
千佳の着用している戦闘用の服も火鼠の皮から作られているためある程度の高熱にも耐えることはできるが、それでも千佳の全身に火傷の跡が見える。
「凛が受けた痛み・・・。ウチが何倍にして返してやるっちゃっよ!!」
自身の痛みより凛の受けた屈辱ばかり気にする。それが千佳という少女。
「完全ではないが、動けるところまで治癒は終わった」
丁度・・都の治癒も終り、青い妖魔狩人の言葉に合わせて都も立ち上がる。
「どういうつもりか解りませんが、今回は素直に礼を申し上げておきますわ」
都はそう言って青い妖魔狩人に頭を下げた。
「このまま引き下がれるか!?」
祢々も立ち上がり、再びサンダーバードを睨みつける。
「四人の妖魔狩人に、蜘蛛女・・、そして河童の女性・・・。このメンバーで一斉にかかれば、あのトーテムポールを倒せるかも・・・」
上空で金鵄に摘み上げられた状態で様子をみていた香苗は、期待に胸を膨らませた。
「いえ、全員でかかるわけには行かないわね」
そんな香苗の言葉に反するかのように、優里が一歩前に出た。
「優里お姉さん・・・・?」
「金鵄さんからこの敵の事は聞きました。相手は北米最強の精霊。簡単には行かないでしょうが、全員でかかればなんとか倒すことも可能かもしれません」
「なら、問題ないっちゃないの!?」
千佳の言葉に首を振ると、
「問題は時間です。ここに到着してからもう40分以上が過ぎ、天女の子が拐われた時間も考慮すれば、これ以上の時間ロスは許されません!」
「一体何が言いたい?」
青い妖魔狩人の問いに優里は皆を見回すと、
「私一人で相手をします。皆さんは先を急いでください!」
と答え、薙刀を構えサンダーバードを見据えた。
「優里お姉さん無理です・・! みんなで戦ったほうが!?」
さすがの凛も簡単には同意できない。
「凛ちゃん。私達が優先することは敵を全滅させる事ではなく、天女の子を救い出しマニトウスワイヤーの転生を阻止すること。
だから、私はあの精霊を倒せなくてもいいの。みんなが先へ進む時間を稼げれば・・・!」
優里の言葉に誰も言い返す事はできなかった。
「たしかに高嶺優里の言う通りだ。ワタクシ達は先へ進んだ方がいい」
青い妖魔狩人は大きく頷くと、祢々を連れて真っ先に群を飛び出していった。
「そいつには借りがあるのですが、今はフェアウェイの連れ戻すことが先決!」
都も気持ちを切り替え、その後に続く。
そして・・・
「凛、ウチたちも行くっちゃっ!」
千佳が凛を催促する。
だが凛は、まだ不安そうな表情でその場をジッとして動かない。
そんな凛に対し優里はこう告げた。
「凛ちゃんは私のことを信用している?」
「えっ・・? 優里お姉さんのことを・・・・?」
「そう。私のこと・・・」
凛は少しうつむき加減で言葉を選ぶように考えていたが・・・
「信じています! 優里お姉さんの人柄も、優しさも・・・。そして強さも!」
「すごくいい答えだわ!」
優里はそう言ってニッコリと微笑んだ。
「だったら、この場も私を信じて!」
「・・・・・・!?」
「私は絶対に死なないわよ!」
いつも以上の優里の優しい微笑みに、凛はまるで一目惚れした男子のように釘付けになったが、やがて我に返ると、
「はいっ!!」
と、慢心の笑みで返事を返した。
そして何事も無かったかのようにその場を駆け出し
「千佳、早く行くよっ!!」
と逆に催促した。
「う・・・うん・・!?」
慌てて後を追う千佳。そんな千佳に、
「千佳さん!」
と、優里が声を掛けた。
足を止め振り返る千佳。
「凛ちゃんのこと・・・、任せたわよ!」
「!?」
予想もしない言葉に千佳は一瞬我を見失ったが、
「ああ・・、任せるっちゃ! 次に化け物が現れたらウチが相手をする!!」
と、いつものイタズラっ子のような不敵な笑みで返事を返した。
その返答に優里は満足そうな笑みを浮かべると、薙刀を構えサンダーバードを睨みつけた。
― 高嶺さん、また後で必ず会うっちゃよ! ―
千佳はそう呟くと速攻で凛の後を追っていった。
「別レワ、済ンダカ?」
今まで傍観していたサンダーバードが待ちわびたように声をかけた。
「別れ・・・? あの子たちとはまた後で会います。だから別れの挨拶など不要です」
「ホゥ・・!? ソレワ、ワタシ二勝ツ自信ガアル。ト・・イウコトカ? ソレトモ・・・?」
「できるなら戦いは好みません。 ですが、それが避けられないというのであれば、戦ってみればわかること!」
「フン、期待シテイルゾ!」
そう言ってサンダーバードは右腕を高々と上げた。
轟く雷雲・・・。
それを見た優里の脳裏に浮かぶ、その雷撃の破壊力・・・。 先の戦いで敗北した凛・・・。 到着時に倒れ伏せていたてんこぶ姫の姿。 つい今しがた・・・吹き飛ばされた千佳。
それらを見れば、どれほど恐ろしい攻撃力かがわかる。
だが、たしかにその破壊力は凄まじいが、先ほどの千佳と祢々による攻撃を見て気づいた事が一つある。
優里は、再度それを頭の中で整理するように一呼吸つく。
そして薙刀を握りしめ、サンダーバードに向かって一気に駈け出した!
向かってくる優里に対しサンダーバードは指先を向けた。
激しい稲光と共に雷撃が優里を襲う!
その瞬間優里は手にしていた物を、空中高く放り投げた。
それは先程千佳が吹き飛ばされ突っ込み、崩れた自動車の扉の一部。
バリッ! バリッ! バリッ!
サンダーバードの放った雷撃は優里ではなく、放り投げた金属の扉に直撃した!
「!?」
サンダーバードが虚を突いたその瞬間に一気に間合いを詰める優里!
― 雷撃による短時間内の連続攻撃は不能!―
それが優里の出した攻撃の糸口。
サンダーバードはすぐに冷静さを取り戻し、電流による電磁石バリアを張って防御に入る。
だが優里は薙刀を逆手に持つと、柄の端・・すなわち石突を突き立て一気に貫いた!
ズボッ!!
優里が放った薙刀の石突は電磁石の網をいとも簡単に突き抜け、サンダーバードの鳩尾辺りに食い込んでいる。
一見無表情なサンダーバードだが、微かに眉間にシワが寄る。
「私の薙刀は今は亡き麒麟の角から作られています。このセラミックに近い物質の柄は、いかなる電流も磁石も通じません」
そう言って優里は手応えのあった柄をゆっくりと引き抜く。
自身の鳩尾に手を当て優里を睨みつけるサンダーバードだが・・・
「ククク・・・・・」
小さく、それでいて高いトーンで笑い出した。
「ナルホド。コノ小サナ島国ニワ、『侍』ト呼バレル戦士ガイルト聞イテイタ。ドウヤラ貴様ワ女デワアルガ、ソノ侍ト呼バレル戦士ノヨウダナ」
サンダーバードは背中の翼を羽ばたかせると、優里との間合いを再び十数メートル開けた。
そして、またも天高く右腕を上げ雷雲を轟かせる。
「また、雷撃・・・?」
優里がそう思った瞬間!
振り下ろした右腕と共に、激しい稲光が『サンダーバード』の身体を覆いこんだ!?
「な・・なにっ・・!?」
自らに雷撃を食らわせたサンダーバード。
青白い火花を散らしながら仁王立ちしたその姿は、不気味な微笑みをはなっている。
「相手ガ侍ガールナラ、コノワタシモ『サンダーバード(雷鳥)』ノ名ガ、伊達デナイ事ヲ見セテヤロウ」
そう言って指先を優里に向けた。
ピカッ!!っと、目がくらむような光を放った瞬間、鋭い突き刺すような痛みが優里の身体を貫いた。
「ああっ!!?」
更に間を開けず立て続けに光が放たれる。
二撃、三撃・・・と、次々に鋭い痛みが襲いかかってくる。
たまらず膝をつく優里。
「まさか・・・。雷撃のエネルギーを自分の身体に蓄電し、それをレーザーのように撃ち放っているというの・・・?」
「ソノ通リ。雷ヲ自由自在二使イコナス。ダカラコソ・・・サンダーバードト呼バレル所以ダ」
一撃一撃の威力は天空からの雷撃より若干落ちるが、間を開けず放ってくるためまるでかわしようが無い。
次々に放たれる光電により、ついに優里はその場に倒れた。
― 速い・・・。落雷と違って・・攻撃が速すぎる・・。レーザー・・、まさしく光のように・・・。―
そこまで思った瞬間、何かが引っかかった。
―光・・・? いや・・・違う。この突き刺すような痛みはまさに感電によるもの・・・。光線攻撃に似ているけど、これは紛れも無く電撃攻撃・・・!―
そう呟き辺りを見渡す。
そして優里の目に止まったのは、その付近に設置されている数々の照明や配線機器。
「これなら・・・!」
その頃、ドームスタジアムに辿り着いた一行。
正面ゲート(入口)をくぐり抜けると、そこはグッズショップやファーストフード、ドリンクコーナーなどが並ぶ、娯楽施設であった。
通路を駆け抜ける一行の目に入るのは、マニトウスワイヤー一味に襲われたとみられる数多くの犠牲者たちの姿。
「野球観戦を楽しみに来たはずなのに・・・」
凛の心は切り裂かれるような痛みが走る。
「むっ!?」
先頭を走っていた青い妖魔狩人が、ピタリと足を止めた。
見ると通路の先に一人の長身の男が立ちふさがっている。
「ほほーぅ。 人形たちから侵入者があったと知らせがありましたが、貴方達の事ですか?」
長身の男・・・ドレイトンは、肉の塊のような物を頬張りながら不敵な笑みを浮かべた。
ガシャーンっ!!
更に通路脇のファミレスの窓を突き破り、丸々とした物体も姿を現す。
鳴り響くエンジン音・・・。 パンパンと弾けそうなデニム生地のオーバーオール。 不気味な皮で作られた面・・・。
その姿を見て真っ先に反応したのは都。
「あら!? お久しぶりですわ、おデブさん体型の方・・・♪」
・・・と、チェーンソーを片手に現れたクエロマスカラを見て挑発する。
「デ・・デブ・・・、デブって言うなぁ・・・・!!」
マスク越しでわからぬが、きっとその下は顔中血管が浮きまくっている事だろう。
そんなクエロマスカラを宥めるように押さえ込むドレイトン。
「先程の蜘蛛女さんですな。エイダから完全に殺したと聞いていたのですが、なかなかどうしてしぶとい方ですね」
「ふん! またお会いできるなんて光栄の至りですわ。ちなみにわたくしが今、何を考えているか当然おわかりですわよね?」
そう言う都の瞳は鮮血のように赤く輝き・・・
「貴方たちをぶち殺して、先程の借りを返して差し上げますわ!!」
言葉が終わらぬうちにドレイトンたちに飛び掛った。
ドレイトンの前に立ち、チェーンソーを振り上げるクエロマスカラ。
だが・・・。
「ちょっと、待つっちゃあ!!」
横から一陣の風のように、都に飛びかかった人物がいた。
激しく転げまわる二人。
都に飛び掛った人物。それはなんと千佳であった。
「な・・何をするんですのっ!?」
「それは、ウチのセリフっちゃっ!! アンタこそ、なにしとるん!?」
「わたくしはこの者たちへ復讐、リベンジをするところですわ!」
「今、そないな事しとる場合っちゃっろ!?」
「えっ!?」
千佳は大きく息を吸い込むと・・・
「アンタが今せないかん事は、フェアウェイっていう子どもを助けることじゃ・・ないっちゃね!?」
と一気に怒鳴り上げた。
「あ・・・・・」
我に返ったように言葉に詰まる都。
「こいつらの相手はウチがする! アンタは凛たちと先へ進むっちゃよ!」
「ほぅ・・!? この中で一番バカな斉藤千佳にしては、賢明な判断だ」
まるでアラスカの白い大地で二足歩行をするアフリカ象を見つけたような。そんなあり得もしない物を見たかのように、青い妖魔狩人は驚嘆していた。
「てめぇ・・・、後から絶対コロス!」
「千佳・・・あなた?」
さすがの凛も心配そうに駆け寄った。
「心配ないっちゃ。こいつらをチョチョ~ンとぶっ倒して、すぐに後を追うっちゃよ!」
「で・・でも・・・?」
「それに・・・」
「・・・?」
「高嶺さんと約束したっちゃ。 次に化け物が出たらウチが相手をするって」
「優里お姉さんと・・・・?」
「ウチは絶対に負けへん! だから安心して先に行くっちゃよ!」
千佳はそう言って、最高の笑みを浮かべた。
絶対に負けない!
以前にも千佳が放った言葉だ。
そしてその言葉の通り、その時も千佳は無事に戻ってきてくれた。
千佳の態度に少し驚きを隠せない凛だったが、
「わかった。ここは千佳に任せる!」
と、お返しとばかりに最高の笑みを浮かべた。
「やば・・・っ、やっぱ可愛い・・・」
「えっ!?」
「い・・いや、何でもない。さっさと行くっちゃっよ!」
「うん!」
千佳に後押しされ凛は都の元へ行くと
「ここは千佳に任せて先へ急ぎましょう!」
と声を掛けた。
「しかたありません・・・」
都はそう溜息をつくと、
「そこの半妖、ここは貴方に譲ります。しっかり役目を果たしなさいな」
と悪し様に言い放つ。
「あ!? あんだ、その態度は・・・?」
そう返す千佳をなぜかじっと見つめる都。そして・・・
「ありがとう・・・・」
ポツリと呟くと、脱兎のごとく駆け出していった。
そんな都に続けとばかりに青い妖魔狩人、祢々、そして凛が後を追う。
「ありがとう・・・? あの蜘蛛女が・・?」
千佳はそう呟くと、口元が自然に緩んだ。
「さて、化け物退治を始めるやん!!」
そして赤々と熱気を放つ右腕を、大きく振り上げた。
第十章 妖魔狩人たちの苦戦へ続く。
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