2012.10.22 Mon
妖魔狩人 若三毛凛 if 第03話「妖木妃との対決!-前編-」
「ごちそうさま~。」
朝食を終え、タンタンと階段を登り自分の部屋へ。
今日はゴールデンウィーク最終日。
凛は机に座ると、小さく息を漏らした。
昨日は色々あったわね。
まさに予想もしない出来事ばかりだった。
森で見た『妖木妃』という名の中国妖怪と『金鵄』との戦い。
思わず飛び込んでしまったが為に、肉体的には一度死んだ…このわたし。
帰宅後に起きた、隣に住む美咲おばさんの妖怪化。
そして、妖魔狩人として、初めての妖怪との戦い。
わたしがこの手で射った矢が、村に害をなす妖怪を仕留めた。
まだこの手に、弦を引いた感触、矢を放った感触が残っている。
妖怪とはいえ、わたしは一つの生命を奪ったのだ。
ふぅ…
まだ、こんな事が続くのだろうか?
そう思うと、少し気が重い。
「ねぇ…金鵄、妖木妃はなぜこの村へ来たの? いったいこの村をどうするつもりなの?」
机の本棚で羽繕いをしている、金色に輝く鳶の霊鳥…金鵄に話を振ってみる。
「まず一つ目の質問に対する答え。昨日も言ったと思うけど、ヤツはこの国を侵略しに来たんだ。
そこで、拠点として人目につかない、小さなこの村を選んだ。
もう一つの答えは、ヤツは人間を喰らう。基本的にこの村の人間はヤツの食料になると考えていい。
そして、何らかの資質のある人間を妖怪化して、自分の手下にする。」
「何らかの資質…?」
「そう、それは色々なケースがあるね。たとえば霊力が常人より優っているとか、何か深い欲望や怨念を抱いているとか…。」
「おばさんは、どうして妖怪にされたの?」
「あの美咲って女性は、わずかだが常人より霊力が高かった。おそらくそれを狙われたのだと思う。」
「霊力が…?知らなかった…。」
「まぁ、ヤツが付け入る隙があれば、どんな人間でも可能性はあるね。」
「もし…この村が、そして日本が、妖木妃に支配されたら・・・?」
「当然、利用できる人間は妖怪化し手下にされ、それ以外の人間は…」
「人間は…?」
「全て、食い尽くされる。」
「・・・・・・・・・。」
思わず生唾を飲み込んだ。
現に美咲おばさんは妖怪になり、娘である優里お姉さんですら襲われた。
この村が、日本中が、そんな恐ろしい事になるの?
そうだ!
こうしてはいられない、早く村中の人達にこの事実を知らせ、対抗手段を整えなければ!
いや、ダメだ…。
きっと誰も信じてくれない。
幼い頃から霊感の強いわたしは、色々な体験を村の人達に話した。
でも、全て幻覚や幻聴で片付けられてきた。
今回も、きっと誰も聞く耳を持たないと思う。
やはり、わたしが村を守るしかないのね…。
「ねぇ金鵄、妖木妃はこの村のどの辺りに潜んでいるのかしら?」
「ハッキリとした居場所は特定できない。ヤツは妖力を消し、僕ら霊獣に居場所を突き止められないようにしているからね。
だけど……」
「?」
「ある程度なら仮説を立てられると思うよ。」
「本当!?」
「ああ、先程も言ったけど、ヤツはこの国を侵略しに来ている。だから自分に敵対する者をまず封じるはずだ。この僕を襲ったようにね。」
「敵対する…者?」
「うん、僕のような霊鳥や霊獣、更に日本妖怪。そして…」
「この国で神として奉られている存在!」
「神…?」
「そうさ、この国は多数神派だ。その地…その地に様々な神が存在する。動物や植物…色々な神が存在する。
僕もそういった意味では、神として扱われる事もある。」
「うん…?」
「ヤツにとって、たとえ微弱でもそういった存在は邪魔なんだ。だからまず、その地で神と崇められる者を封じる。」
「つまり…?」
「凛、この村に神社や祠はあるかい?」
「うーん…、祠はわからないけど、神社なら村はずれの森の近くに、小さな神社があるわ。」
「この村を守る神…、その神社を封じている可能性は高いね。」
幸い今日まで休日。探索する時間は十分にある。
「行ってみましょう。次の被害者が出る前に!」
あ…っ!?
そう言えば、今日なにか用事があったような…?
なんだっけ…?
しばらく考えたが、よく思い出せない。
きっと大した用事じゃなかったんだろう。
「お母さん、ちょっと出かけてくるからね。」
凛は、そう告げると玄関から出て行った。
「はーい、いってらっしゃい。」
母…【日和(ひより)】が台所から声を返す。
ジリリリリン~ッ
凛が出かけて5分もしない頃、電話が鳴り出した。
台所から大急ぎで駆けつけ、電話に出る日和。
電話先は、凛のクラスメート千佳の母親からであった。
「えっ…、千佳ちゃんですか? いえ、うちには来ておりませんが…。朝から姿が見えない? そうですか…。
はい…、はい…、ええ、もしうちへ来たら、すぐにお宅へご連絡させます。はい、失礼いたします。」
出発してから自転車で約30分、もうそろそろ神社に着く頃。
「どうやら僕らの予想は当たったようだね、おそらくヤツはその神社にいるよ。」
「そんな事がわかるの?」
「生き物の気配が無いんだ。妖木妃が神社を占拠したため、その付近の生物達が皆逃げ出したんだと思う。」
もし、神社に妖木妃がいれば戦闘になるかも知れない。
凛の心に緊張感が走った。
神社の鳥居前に自転車を停め、凛は辺りの様子を伺った。
空気が重い。しかも澱んだ雰囲気すら感じられる。
鳥居をくぐり抜け、ゆっくり先へ進む。
小さな神社だ、ほんの十数メートルも歩けば拝殿にたどり着く。
ここまで誰一人見当たらない。それどころか、金鵄の言うとおり、生き物の気配すら感じられない。
空気も冷たく、まるで真冬のようだ。
拝殿を前に、全神経を集中させる。
いる…
たしかに、微かだが拝殿の中から邪悪な妖気を感じる。
慎重に拝殿の階段を登り始めると、
「そこにいるのは、誰じゃ?」
中から、聞き覚えのある悍ましい声がした。
直ぐ様、拝殿から離れる凛。同時にとてつもない邪悪な波動が立ち込める。
拝殿の奥から現れたのは、禍々しい大きな花の髪飾りを付けた、妖艶な美女。
今、ゆっくりと階段を下り、その姿をあらわにした。
「妖木妃!!」
凛も、金鵄もその姿を忘れない。
「うん? お前はたしか金鵄。そうか…まだ生きておったのか。」
「たしかに僕はお前に殺されかけた。だが…そこにいる凛のお蔭で、生き延びられる事が出来た。」
「凛…? ほほぅ…そこの小娘が?」
凛を見下ろすように視線を投げかける。
「なるほど、高い霊力を備えているようじゃのぅ。
で、いったいワシに何用じゃ? まさか戦いに来たというつもりか?」
妖木妃はそう言って、不敵に笑った。
ブルッ…ブルッ…
体の内から、なんとも言いようのない震えが走る。
森の中で傍観していた時と違い、こうして相まみえてみると、その圧倒的な威圧感が身体を襲う。
「霊装!!」
凛の全身が一瞬青白く輝く。
瞬く間に戦闘服(ゴスロリ服)を身に付け、手には弓を握っていた。
戦闘準備をする事で、少しは威圧感に耐える事ができたが、それでも震えは止まらない。
「よ…妖木妃、わたしの質問に答えて! 貴女はこの村で何をするつもりなの?」
「そこにいる金鵄は知っておると思うが、よかろう…教えてやろう。
ワシはこの村を拠点にし、この国を我が物にする。
そしてこの国の人間どもは、妖怪となりワシの配下に収まるか、それとも中国妖怪どもの餌となるか? この二択しか残されないのだ。」
ククク… その笑みが、より一層妖木妃の冷酷さを物語る。
「できれば戦いたくは無かったけど・・・・」
そう言うと、凛は弓を構えた。
蒼白い光の矢、霊光矢が具現化し妖木妃を狙う。
「貴女を倒さなければ、この村も…この国も地獄になる。」
「射ってみるがよい。」
不敵な笑みを浮かべ、無防備に佇む妖木妃。
一瞬躊躇した凛だが、気を取り直し弓を射った。
蒼白い光の緒を引きながら、霊光矢は真っ直ぐ妖木妃の胸を目掛けて飛んでいく。
だが、妖木妃に当たる寸前に、まるで金粉が舞うように、霊光矢は消えていった。
!?
凛はすかさず、二発…三発と霊光矢を放つ。
しかし、一発目同様、妖木妃に当たる寸前で消え散ってしまうのだ。
「無駄じゃ。」
妖木妃の口端が緩む。
「何故だ…、何故、凛の攻撃が当たらないんだ?」
金鵄は、必死で原因を探ろうとする。
「凛、もう一度矢を射つんだ!」
「わかったわ!」
金鵄の言葉に、凛は再度霊光矢を放った。
目を皿のようにして、矢を見張る金鵄。
すると先程まで気がつかなかったが、妖木妃の周りに白い粉のような物が舞っているのが見える。
粉は妖木妃に矢が当たる寸前にまとわりつき、矢を食い尽くすように散らせていく。
「あの粉は…どこから?」
金鵄は白い粉の出処を探す。
「花だ!あの花の髪飾りから出る粉が、妖木妃を守っている!!」
金鵄の叫びに、凛は妖木妃の花飾りに目をやった。
たしかによく見ないと判らないが、妖木妃の花飾りから白い粉状の物が吹き出ている。
「よく見破ったな。その通り、ワシの髪飾りは生きており、その花粉はどんな攻撃も防御する。
物理攻撃も、そして…霊力による攻撃も、一切通じはせぬ。」
「それなら、まず花飾りを破壊する。」
凛は花飾りに狙いを定め、矢を射った。だが…
「無駄じゃと言っておるだろう。」
花飾りから吹き出す花粉が、霊光矢を蝕み散らしていった。
「金鵄、どうしたらいいの!?」
「ダメだ…、ヤツの言うとおり、僕らの攻撃は一切通用しない…」
「諦めがついたか? ならば、ワシの黒炎弾で焼き焦がれるがいい。」
そう言う妖木妃の手のひらには、あの黒い炎の塊が。
「死ね。」
妖木妃が黒炎弾と呼ばれる、炎の塊を放つ。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
その威力に吹き飛ばされる凛。
「ほぉ…、人間のくせに高い防御力を備えておるな。」
妖木妃は更に黒炎弾を連発してきた。
弾幕のように飛び交う黒炎弾の中を数発喰らいながらも、必死でかわす凛と金鵄。
「凛、今の僕らではヤツに勝てない! ここは一旦撤退しよう!!」
どうする!?
①妖木妃をこのまま放っておけない! 凛は最後まで諦めなかった。
②うん、このままじゃ殺される。 凛と金鵄はその場から逃げ出した。
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『-後編-』へ続く。
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