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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話「姑獲鳥の子どもたち -中編-」

 三日後、立派な樹木と化したその枝には、大きな果実が実っていた。
 朝日に透かされたその実には、羽を閉じた大きな鳥のような姿が写っている。
「もう…落ちるころじゃな?」
 白陰が新たな少女を妖樹化したと聞き、嫦娥も様子を見に来ていた。
 そう言った矢先、その実は枝から千切れ落ち、大地に転がる。
 中から、コツ…!コツ…!と雛が卵の殻を突くような音が聞こえ、ついに実が真っ二つに割れた。
 現れたのは、人間よりやや大きめの鳥。…と言ってもダチョウのような姿ではなく、ヤマドリに近い。
「アレは、姑獲鳥!? なぜ、そのような者が・・・?」

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(4)

 姑獲鳥(こかくちょう)、中国伝承上の鳥の妖怪。
 幼児を攫い、時には人間すら襲う、鬼神の一種と呼ばれる妖怪である。
 その姿を見た嫦娥は驚いた。 それもそのはず、今まで妖樹の種を飲んだ人間は、牙や長い爪を持った妖怪として生まれ変わっていたからだ。
 ただし、過去一度だけ例外がある。
 妖怪として生まれ変わった少女に、再度種を飲ませ・・・大蜘蛛の妖怪、例の蜘蛛女を作り出した時である。
「あの時と同じように、種を二つ飲ませてみた。ただし、今度は一度に二粒だがな・・・」
「な…なんじゃと!?」
「その結果、妖樹の種の秘密が、少し解った。」
 白陰はそう言って、種の入った袋を取り出した。
「知っての通り、この種は妖木妃様の身体から産み出されている。言わば、妖木妃様の子種のようなものだ」
「うむ…」
「妖木妃様は、中国本土で多くの妖怪と戦ってきている。そして、打ち破ってきた妖怪共の血肉を食らってきている。 あの大蜘蛛妖怪も、姑獲鳥もだ・・・」
「それは、もしかして・・・」
「そうだ、食らってきた妖怪の血肉、つまり今の時代で言う遺伝子情報があの種に含まれているのだ」
 白陰は袋の中身を朝日に照らす。
「一粒人間に飲ませれば、妖怪としての単純な妖力や術などが、その人間に移しこまれるだけだが、二粒飲ませれば、能力そしてその姿までの情報が移しこまれてしまう」
「つまり、元の妖怪の複製が出来上がるようなものじゃな?」
「そういうことだ」
「ならば、常に二粒の種を飲ませた方が強い妖怪が産まれ、我々にもよいのでないかの?」
 嫦娥の言葉に白陰は首を振った。
「一つは、妖木妃様がそれ程大量に種を産み出す事ができない。もう一つは、あまりに強力な妖怪が産み出されても、制御できないかもしれないという問題が残る」
「どういう意味じゃ?」
「過去、妖木妃様が喰らって来た妖怪には、相当な強敵もいたかも知れぬ。もし、そんな者が再び産み出され、再度妖木妃様の敵になったとき・・・」
「なるほど、返り討ちを喰らう可能性もあるというわけじゃな?」
「妖木妃様はソレを避けるために、あえて一粒ずつしか人間に飲ませてこなかったのかも知れぬ」
「たしかに、可能性のある話じゃわい!」
 嫦娥は、そう言って産まれたばかりの姑獲鳥に目をやった。
 なんと、姑獲鳥は自身の羽や毛を、まるで衣服を脱ぐように剥ぎ落としていく。
 そしてそこに現れたのは、あの涼果の姿であった。
「うむ……、あの時の『姫』と一緒じゃ!」
 驚く嫦娥を他所に、白陰は三日前…涼果が落とした携帯を手渡す。
 携帯を開き、中を確認する涼果。その画面には「休んでいるけど、死んだ?」「もう来なくていいよ」等の、琉奈を始めとする里美、そしてその他の女子から送られてくる、あのメールの文字が見える。
 だが、涼果はそのメールを読んで、悲しむ素振りを見せるどころか、不敵に微笑む。その瞳はまるで血のように赤く光っていた。

 
 その日の放課後。三年の教室では・・・
「ねぇ、琉奈・・・、涼果のヤツ、全然登校して来なくなったね」
 里美が嬉しそうに話しかけてきた。
「うん、ホントにくたばっちゃったかな?」
 そう言って、空席である涼果の席に目をやった。だが、その視線は、どことなく寂しそうである。
 その時、
「ゴメンネ、まだ…くたばってなかったわ♪」
 …と、小馬鹿にしたように、涼果が教室へ入ってきた。
 涼果は自分の席に腰掛けると、琉奈を始めとする虐めのグループを見渡し、不敵に微笑む。
 自信に満ち溢れた不敵な笑み、これがあの大人しい涼果なのか?
 琉奈は夢でもみているような気分だ。
「ねぇ……、この『休んでいるけど、もう死んだ?』ってメール送ったのは、誰?」
 涼果は自身の携帯を開き、琉奈達に尋ねる。
「知らねぇーよ、バーカ!!」
 里美がおちょくるように返答した。
「あ、そう……! じゃあ、まず…アンタからでいいや♪」
 涼果はそう言うと、自分の髪の毛を3~4本抜き取り、ふぅ~っ…と、息を吹きかけた。
 宙に舞う、数本の髪の毛。
 それは徐々に膨れ上がり、真っ赤な子どもの姿に変わっていった。
 それは、妖怪『赤子』。真っ赤な全裸の子どもの身なりで、集団で現れると言われているが、それ以外は全く謎の妖怪である。
「きゃあああああっ!!」
「な…なんだ、あれっ!?」
 その異様な光景に、教室中に悲鳴が巻き起こる。
 赤子達は、里美に近寄り手足を押さえつけた。
「や、やめろっ! 離せっ!!」
 必死で跳ね除けようとする里美。だが、身なりは子どもでも赤子達の力は強く、ピクリともしない。
 そこへ一人の赤子が『哺乳瓶』を手にし、里美の眼前にやってきた。
 そして乳首の部分を口の中に押しこむ。
「…んぐっ・・んぐっ・・!」
 強引に乳のような液体を飲ませていくと・・・
「さ……里美……っ!?」
 その光景を見つめていた、琉奈を始めとする虐めグループに、驚愕の表情が浮かんだ!
 里美の手足が短くなり、頭部も一回り…二回りと小さくなり、更に胴もドンドン小さくなっていく!
 数分後には、ブカブカのセーラー服の中で泳ぐ、一人の小さな赤ん坊の姿が!!
「きゃああああああっ!!」
 再び、教室内に絶叫が走る。
 涼果は次々に髪の毛を妖怪赤子に変化させると、生徒たちへ向かわせた。
「に…逃げろっ!!」
 教室内に残っている、全ての生徒が廊下に飛び出す!
 更に、琉奈や残り3人の取り巻きも飛び出そうと扉へ駆け寄る。
 だが、それを阻むように、赤子達が立ちはだかった。
 教室の隅に追い込まれた虐めグループは、それぞれ赤子に取り押さえられ、哺乳瓶を口に突っ込まれる。
 唯一、琉奈だけは、涼果の前に引き渡された。
「涼果・・・なんなの、これ!? 貴方…本当に涼果なの?」
 ガタガタと怯える琉奈。
「あたし? そうよ…本物の涼果よ! ただ、神様に少しばかり力を授けてもらったけどね」
 そう言って微笑む涼果の瞳は、またも赤く光っている。
 更に涼果は、まるで品定めをするように、琉奈の顔……全身をマジマジと眺めると、
「やっぱり琉奈は、美人で可愛いよね。 あたしから見ても惚れ惚れするわ」
 と、優しく髪を撫ではじめる。
「小さい頃は大人しくて、とてもイイ子ちゃんだったのに・・・。今ではちょっと綺麗になったからって、あたしをゴミでも見るような目で眺めて・・・」
「ち…違うの……涼果! 私は……私は……」
「五月蝿いっ!!」
 涼果は一喝すると、いきなり自身の唇を、琉奈の唇に押し当てた。
「あ……」
「り~~~な~~~~♪ 今から、小さいころのような……イイ子ちゃんにしてあげるね!」
 涼果は、そう言って琉奈の頭部を抱え込み、哺乳瓶を口の中に押し込んだ!
「や……んぐっ、だ……んぐっ……」
 顔を背け、必死に抵抗する琉奈であったが、徐々に口の中に哺乳瓶の乳が流れ込む。
「んぐ……んぐ……」
 一口、二口と飲み続けていく度に、まるで幼いころ、母親に抱きかかえられているような気分になってきた。
ゴクッ…ゴクッ……!
 やがて抵抗する気もすっかり失せ、母乳を与えられている赤子のように、安らかな笑みが浮かぶ。
「琉奈ちゃん、イイ子になってきたわね!」
 微笑む涼果の腕の中で、琉奈の身体は徐々に、徐々に小さくなっていく!
「ま…ん…ま……」
 数分後には、琉奈もすっかり赤ん坊になっていた。
 涼果は赤ん坊になった琉奈を机の上に寝かせると、ダボついた制服を脱がせた。
 更にブカブカのブラジャーを外し、下半身に被さっているショーツに手を伸ばす。
「ハート模様のショーツ・・・。意外ね! 歳相応の可愛いのを履いていたんだ♪」
 そう言ってショーツを引き落とすと、お尻の下に白い布地を広げた。
― えっ……!? 私…いったい……?―
 夢から目覚めたように、琉奈は自分の置かれている状況を見つめなおした。
 そう、身体は赤ん坊になっているが、意識はまだ元のままのようだ。
「うん? 今…オシメを取り替えるところよ」
 見ると、琉奈の可愛い桃のようなお尻に、涼果が嬉しそうにベビーパウダーを塗っている。
― や……やめて……っ!?―
 あまりの恥ずかしさに、必死に声を上げようとする琉奈。
 だが、言葉を発声することができず、泣き声しか上がらない。
「ふふふ……♪ 綺麗で軟らかいモチ肌。 この産まれたままの姿を写真に撮ったら、琉奈のファンや、男子生徒はいくら位で買うかしら?」
― や…やだ、お願い! 絶対に…それだけは止めて!!―
 必死で泣き叫ぶ赤ん坊の琉奈。
「あらあら、さっきから泣き止まないわね。 もっとおっぱいが欲しいの?」
 涼果は新たな哺乳瓶を琉奈に咥えさせる。
― 違う、そうじゃない……! 元に戻して!!―
 心のなかでどんなに叫んでも、口から発するのは、ただの泣き声。
 しかも、哺乳瓶の乳を飲まされていくと、次第にそれすらできなくなり、頭の中が真っ白になっていく。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(5)

「んにゃ……んにゃ……」
 自分でもわかる。乳を飲まされていく度に、思考まで赤ん坊に遡っていくことを。
 そこへ・・・
「そこまでよ、やめなさい!」
 扉の前で、霊装し弓を手にした、凛が立っていた。


 今からほんの数分前、凛は部活の件で心美のクラスを訪ねてきた。
 そこで凛が目にしたものは、教室の前で逃げまとう生徒達。 それを追う…2~3匹の真っ赤な子どもの姿をした妖怪、赤子。
 更に廊下に転がるように寝転んでいる数人の赤ん坊の姿。
 中には制服以外のビジネススーツに包まれた赤ん坊もいた事から、事態を聞き、駆けつけた教師すら赤ん坊に変えられたと思われる。
 ただならぬ事態と察した凛は、すぐに霊装し、赤子たちを葬っていく。
 そして教室に飛び込むと、いつもより強めの妖気が漂っていた。
 隅には三人の赤ん坊の姿が見える。虐めのグループの成れの果ての姿。
 奥の机の上には、オシメに包まれた可愛らしい赤ん坊。
 そして、その前に立ちふさがる…赤い妖気を発する、涼果。
「そこまでよ、やめなさい!」
 凛は霊光矢を向ける。
 涼果はしばらく、記憶を探るように凛を見つめていたが
「ああ……、トイレの時、止めに入ってくれた一年生ね。 …で、その弓はどういう意味?」
 と冷めた眼差しで問い返す。
「凛っ!」
 実体化した金鵄が、遅れて飛び込んできた。そして、現状を見渡し
「これは妖怪姑獲鳥の能力・・・! またも中国妖怪の仕業か!?」
 と呟いた。
「先輩、おそらく虐めの仕返しだと思うけど、こんな事…人間がやるべき事じゃありません。直ぐ様、皆さんを元に戻し、解放してあげてください!」
「嫌・・・だと言ったら、その弓であたしを射るわけ?」
「はい。不本意だけど・・・・」
「そう……、トイレの時はあたしの味方だと思ったけど、やっぱり貴方も敵なわけね?」
パチンッ!
 まるで合図を送るように、指を鳴らした涼果。
 その音に反応した赤子達が、一斉に凛に襲いかかる。
 間合いを開け、一匹一匹射止める凛。
 だが、狭い上に、数多くの机や椅子等の障害物がある教室内。
 凛の動ける範囲は予想外に狭く、また一斉に襲いかかってくる赤子に対し、複数の敵に適していない弓では、あまりに不利だった。
 瞬く間に凛は取り押さえられ、涼果の前に跪かされた。
 凛の顎を掴み、その顔をマジマジと眺める涼果。
「ふ~ん……、十人並みだと思ったけど、こうして見ると、意外に可愛い顔立ちなのね」
 涼果はそう言って口元を緩ませると、手にした哺乳瓶を凛の口の中に押し込んだ。
「凛っ!?」
 大慌てで、その場を飛び去る金鵄。
 優里がいればいいのだが、今すぐには無理だ!
 となれば、彼女に助けを求めるしかない!
 帰宅途中の千佳を見つけ、教室に舞い戻ったのは、それから十分以上経っていた。

 
 金鵄と千佳が教室に入ると、相も変わらぬ異様な光景。
 だが、千佳はそれを見ても、眉一つ動かさない。
 極自然に、受け入れている。
― ただ単に冷静なわけではない。おそらく惨劇を好む妖怪の血が、何とも思わなくしているんだろう―
 金鵄は、そう感じ取った。
 涼果は、教室に入ってきた千佳に気づくと、微笑みながら話しかける。
「貴方もトイレの時、助けに入ってくれた一年生ね」
「うん・・あの時の先輩……? そっか、これは先輩の仕業っちゃね!?」
「そうよ。 貴方もあたしに説教するつもり?」
 涼果の問いに、千佳は首を振ると
「んにゃ。ウチ…見てわかると思うけど、身体…平均よりうんと小さいっちゃよ。小学低学年の頃、それで結構虐められたっちゃね。 だから、先輩の気持ち……、ようわかる! ウチでも仕返しするかもしれんね」
 そう言って、ニッコリ微笑んだ。
「それにウチ、何が正しいとか……何が悪いとか、ようわからん。 そういうの、その時その場で、凛から教えてもらっているから」
 千佳の言葉に涼果は今までにない笑顔を見せ、
「理解してもらえて嬉しいわ。 貴方には以前にも助けられたし、だから…貴方は赤ん坊に変えないでいてあげる!」
 そう答えた。
「それは、ありがと! ところで先輩、凛はどこ行ったか知らん? 先に来たと思うっちゃけど」
「凛……? ああ、あのサイドテールの一年生? それなら・・・」
 涼果はそう言うと、とある机と机の間を指さした。
 そこには、小さな赤ん坊の姿が。
「その子よ・・・」
 それを見た、千佳の目つきが変わった。
 そして、涼果にこう尋ねた。

① なんで、凛に手を出したっちゃ!?
② あの子、ウチ…貰うていいか?

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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 17:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話「姑獲鳥の子どもたち -後編-」

① なんで、凛に手を出したっちゃ!?

「なんで、凛に手を出したっちゃ!? 凛も前・・・トイレで先輩を助けたっちゃよ?」
 千佳の問いに、涼果はヤレヤレと言わんばかりに手を広げると
「この子はね、あたしに説教しながら弓を向けたの」
 思い出すように語りだした。

 千佳が来る十分以上前、赤子に囚われた凛は、涼果に哺乳瓶を咥えさせられた。
「先輩、それは邪悪な妖怪の力! 妖怪に心を支配されては駄目です!!」
 凛は、必死に抵抗しながら、そう叫ぶ。
「五月蝿いわね、もうあたしは虐められるのは沢山! この力を使って、あたしに歯向かう者は、みんな赤ん坊に変えてやる!」
「だ…駄目っ!!」
「さぁ、貴方も赤ん坊になりなさい!」
 そう言って、涼果は強引に哺乳瓶の乳首を凛に吸わせる。
「んぐっ……んぐっ……」
 凛の喉に、乳が流れこむ。
― あ……、なんか…懐かしい気分……―
 凛がそう感じ始めると、身体が徐々に小さくなっていった。
 手も、足も。 ドンドン縮んでいき、頭の身体も小さくなっていく。
 霊力も衰えたのか? 霊装で身につけた戦闘服も自然消滅し、数分後には元のセーラー服に包まれた、赤ん坊の姿に変わっていた。
 制服の中から赤ん坊の凛を引き上げると、ブカブカの下着が足に絡みついていた。
「まぁ~っ、イチゴのプリント下着。可愛いわね♪」
 涼果は下着を剥ぎ取ると、ベビーパウダーを塗り、オシメに付け替えた。

「ちょっとええね?」
 涼果の語りに水を指すように、千佳が口を挟んだ。
 その千佳の腕の中には、白いオシメに包まれた凛が抱かれている。
「ウチ、どうしても納得できんわ!」
― 千佳、頑張って! そして、みんなを・・・わたしを元に戻して!―
 凛も意識は元のままだ。
 その為、赤ん坊の姿になっても、その強い眼差しは、そう語っていた。
「アンタ・・誰の許可得て、凛のパンツ下ろして、お尻見たっちゃ!?」
― はい~っ・・・?!―
「凛のパンツ下ろすのも、お尻触るのも・・・舐めるのも! それをやっていいのは、この世でウチだけなんよ!!」
― そこなの!? てか、アンタでも下ろしたり、触ったり……まして最後のは、絶対に駄目ーっ!!―
 凛はその小さな拳を握りしめていた。
 もし、腕を動かすことができたなら、その拳は千佳の顔面に入っていただろう。
 千佳は涼果を指さし、こう告げた。
「そんな理由で先輩……。 アンタ、ウチの敵や!」
「そういう理由で~っ!?」
 黙って聞いていた金鵄も、思わず突っ込んだ!
「…………」
 涼果は、しばらく無言で千佳を睨みつけていたが、
「そう……。貴方はあたしを理解してくれたから、いい友だちになれると思ったんだけど・・・」
 そう言って、十数匹の赤子を生み出した。
「言ったやろ。ウチ、正しいとか、悪いとか…ようわからんって」
 そう言っている千佳の髪が、炎のように逆立ち、真っ赤に染まっていく。
「けど、一つだけ断言できる・・・」
 更に、右手が一回り……二回り大きくなり、その爪は鋭く、高熱を帯び始め、
「凛に手を出したヤツは、全て・・・敵っちゃ!」
 黒と赤のパンク風戦闘服に身を包み、不敵な笑みを浮かべた。
パチンッ! 
 涼果が指を鳴らす。それは戦闘開始の合図。
 一斉に十数匹の赤子が、千佳に襲いかかった。
「金鵄、凛を頼むっちゃよ!」
 凛を金鵄に預け、千佳は赤子の群れに飛び込んでいく。
 一匹、二匹と右手の灼熱の爪は、赤子を切り裂いていく。
 しかし、いくら小回りのきく右手の爪でも、一度にソレ以上の敵を攻撃できるわけではない。
 まして、動きを制限される狭い教室内。
 だが、凛を・・・金鵄を驚愕させたのは、これからだ。
 二匹撃退すると、千佳は後方に飛び退け、机と机の間に身を隠す。
 そして、その間を潜り抜けたかと思うと、予期せぬ場所から飛び出し、一気に1~2匹を仕留める。
 それでも深追いはしない。
 敵が気づくと、またもや机の間に身を隠す。
 森や草原で、木や草に身を隠しながら忍び寄り、素早い動きで一気に飛びかかる。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(6)

 それは、ネコ科動物の『狩り』の仕方。
 千佳は、この狭い教室も、自分に有利な狩場にしてしまったのだ。
― す……凄い……―
 予想外の戦闘力に、凛も息を飲むだけだった。
「この戦い方は、凛や優里のように人間としての戦闘技術ではない。獣・・・、そう……融合された獣妖怪、火山猫の野生の本能に任せた戦い方だ・・・」
 金鵄は、改めて千佳の半妖としての能力に驚かされた。
 そして数分後、凛ですら倒しきれなかった十数匹の赤子を、全て撃退してしまったのだ。
「ふぅ……」
 衣類についた埃を叩き落としながら、千佳は一息ついた。
 その瞬間!
 頭上から、涼果が飛びかかる。
「油断したわね!」
 あっと言う間に、千佳の右手を押さえつけると、手にした哺乳瓶を千佳の口の中に押し込もうとする。
― 千佳っ、それを飲んだら駄目ーっ!!―
 声が出ない事を承知で叫ぶ凛。
「さぁ、これを飲んで、イイ子ちゃんになりなさい!」
 強い力で、哺乳瓶の乳首を千佳の口内に入れた瞬間・・・
ガブッ!! 
 なんと、千佳は鋭い牙で、乳首を噛み千切った!
 そして驚いた涼果を、そのまま押し払う。
「肉食獣の顎の強さを、舐めたら駄目だっちゃ!」
 千佳はそう言って、口の中の乳首を吐き出す。

「なんでよ・・・。なんで、あたしばかりが虐げられるの・・・・」
 目に一杯の涙を貯め、涼果はそう漏らすと・・・
ガチャーン!!
 窓ガラスを突き破り、中庭に逃げ出して行った。
「待つっちゃっ!!」
 直ぐ様、千佳も後を追う。
― 千佳っ、待って!!―
 凛もすぐに後を追いたい。 だが、指先すら自由に動かせない赤ん坊の姿では無理というものだ。
― 金鵄、聞こえる?―
 凛は、金鵄に思念を送った。
 凛と金鵄は過去に一度、魂を共有している。
 そのため、近距離ならば、思念で会話することができるのだ。
― わたしを掴んで、千佳を追って!―
「だけど、今の君では追っても何もできないよ」
― わかっている。だけど……千佳には浄化の技が無い。このままでは先輩を殺してしまう! 行って、千佳を止めなきゃ!!―
「凛、今の君は霊力すら操る事ができない。つまり、君でも浄化できないよ」
― だからと言って、放っておけない!!―
 赤ん坊の姿でありながら、その金鵄を見つめるその眼差しは、いつもの凛のものだった。
「わかったよ。いざとなったら、僕の残り全ての霊力を君に授けよう」
 金鵄は根負けし、凛の両脇を抱え上げると、千佳の後を追って飛び出していった。
 その様子を校舎の影から、一人の人物が眺めていたことを、凛も金鵄も気づかなかった。

「い……行き止まり!?」
 体育館裏の金網に行く手を遮られ、辺りを見回す涼果。
「もう逃げられないっちゃ・・・。観念しいや!」
 そこに千佳が姿をみせる。
 そして、灼熱の右手を突き出し、一歩・・また一歩と間を縮める。
「やだ・・・、助けて・・・・」
「待つんだ、千佳っ! 殺しては駄目だ!!」
 間髪入れず、凛を抱えた金鵄が追いついた。
「なんでね? 敵は息の根を止める・・・。当然やろ?」
 千佳はまったく聞く耳を持たず、一歩一歩、涼果に向かっていく。
「どんなに怒っても、わたしの知っている千佳は、必要以上に相手を傷つけたりしなかったよ!」
 金鵄が、大声で叫ぶ。
「はぁ……?」
 思わず振り返る千佳。
「今のは、凛から送られてきた思念だ。 そして今から言うのも、全て凛の言葉だ」
 金鵄はそう告げ、
「千佳はいつでもわたしを第一に想ってくれた。本当に嬉しい・・・。そして、わたしにとっても、千佳は一番大事な友達。だから、千佳に人殺しになってもらいたくない!」
 と続けた。
「凛・・・?」
 千佳は、金鵄に担がれている赤ん坊の凛を見つめた。
 凛の力強い眼差しが、語るように、一直線に千佳に向けられている。
「ふぅ……」
 千佳は溜息をついた。
「ホント、凛には……いつもいつも、教えられるっちゃね」
 そう言って苦笑する千佳。
 それを見た凛は、ニッコリ微笑む。
「けど、どうするっちゃ? このまま、放っておくわけには、いかんやろ?」
 千佳の問いに、凛も金鵄も返す言葉が思い浮かばなかった。
 その時・・・
「貴方も、黒い妖魔狩人も、本当に甘い性格なのね!」
 金鵄と凛の背後から、一人の人物が姿を現した。
 全身を『青い衣』で包んだ、その人物。
 おそらく女性と思わせる、その体型。
 だが、顔は忍者のように頭巾で覆われており、まるでわからない。
 ただ、後頭部の布地の切れ目から、ポニーテールのように長い髪が下がっていた。
「アンタ、誰だっちゃ!?」
 千佳が、凛たちを庇うように前へ出た。
 青い衣の人物は、そんな千佳を無視するように、右腕をまっすぐ頭上に上げた。
 そして円を描くようにゆっくり回す。
 すると、頭上に渦潮のように回転する、水流の輪が浮かび上がった。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(7)

「な…なんだ……!?」
 驚く一行を他所に、青い衣の人物は、その水流の輪を、涼果に向けて投げ放った。
 水流の輪は、まるで輪投げのようにスポッと涼果の身体を潜ると、風船のような水泡を吹き出し、涼果の身体を包み込んだ。
「あああっ!!」
 水泡の中で、悶え苦しむ涼果。
「な、なにをしているんだっ!?」
 金鵄が慌てて止めようとする。
「黙って見ていなさい」
 青い衣の人物は、冷たい口調で言い返す。
 数十秒後、風船が割れるように水泡が弾け消えると、涼果はその場にバタリと倒れ伏せた。
「重っ・・!?」
 見ると、同時に金鵄に担ぎ上げられていた凛も、元の中学生の身体に戻っている。
 ただし、全裸だが・・・・
「きゃあああああっ~~!」
 思わず両手で胸を隠し、その場に座り込む凛。
 もちろん…そんな凛を、涎を垂らし・・・悶々とした眼差しで、千佳が凝視していたのは、言うまでもない。
「霊装っ!!」
 慌てて霊装し、ゴスロリ戦闘服に身を包んだ凛。
「これはいったい、どういう事だ?」
 理由も分からず驚く金鵄。
 凛は倒れ伏せている涼果に近づき、全身を見渡した。
「妖気が・・・消えている?」
「まさか、浄化の術!?」
「それで、凛も元の姿に戻ったっちゃか?」
 驚く一行を前に、青い衣の人物は更に付け加える。
「驚くのは早いわ。これで他の生徒や教師たちも、元の姿に戻ったはずよ」
 その言葉に凛は、喜悦の表情を浮かべた。
「君は一体、何者なんだ?」
 金鵄はそう問いかけると
「わたくしが誰であろうと、今はどうでもいい事。ただ一つ言わせてもらうわ」
 青い衣の人物は、そう言って凛たちを指さすと
「今回は貴女たちの戦い方に合わせてみただけ。でも、こんな戦い方では、妖怪たちを滅ぼす事はできない!」
 と、言い放つ。
「わたしたちは、妖怪を滅ぼすために戦っているのではありません!」
 だが凛は、そっくりそのまま言い返した。
「…………」
 無言で凛を睨みつける、青い衣の人物。
 しかし、そのまま何も言わずに踵を返すと、金網を飛び越え、姿を消した。


 教室へ戻ると、青い衣の人物が言っていた通り、赤ん坊に変えられた人達は、全て元の姿に戻っていた。
 金鵄は大急ぎで、セコや精霊達に呼びかけ、霊獣『獏』を使って、関係した人物のこの時の記憶を消し去っていく。
 ただし、涼果と琉奈の記憶だけは残しておいた。
 事件のきっかけになった、虐めについて考えてもらいたいからだ。
 もちろん、凛や千佳の正体に関してだけは、記憶を消し去っているが。

 後からわかった事だが、琉奈が涼果に対して虐めを始めるきっかけになったのは、モデルの仕事を涼果が見学に来た時のことだった。
 琉奈が読者モデルの仕事を始めたのは、己の美貌に自信を持っていたこともあるが、それ以上にその事務所で働く、男子高校生の読者モデル、萩原桐人に心を惹かれていたからであった。
 琉奈は桐人に会うたび少しずつ話しかけ、親しい仲になっていると思っていた。
 そんな頃、涼果が琉奈の仕事を見学に来た。
 楽しく過ごしたその日、涼果が帰った後、桐人が話しかけてきた。
「今の子、友達なの? 同じ中学生?」
 実は桐人は『妹属性』と呼ばれる嗜好の持ち主で、歳相応より大人びて見える琉奈には、あまり興味は持っておらず、むしろ幼く見える・・涼果に興味を示した。
 その日から桐人からの話題は、涼果に対する質問ばかりだった。
 小学生高学年から美しい容貌を持ち、誰からもチヤホヤされてきた琉奈。
 だが本気に想っている人の対象は、自分ではなく、幼なじみでそこそこ可愛い程度の涼果であった。
 プライドも傷つき、涼果に対し、激しい『嫉妬』が芽生えた。
 そう、全てにおいて涼果より優っていると思っていたが上の、敗北。
 それが、涼果への虐めのきっかけだった。

 元の姿に戻ったその日、涼果と琉奈の二人は、ゆっくり話しあった。
 
 涼果に対しての、琉奈の嫉妬。
 逆に全てにおいて自分より優れている琉奈に対しての、涼果の密かな妬み。
 どちらも完全ではない、不完全な中学生・・・。いや、人間であることをわかち合った。
 元の仲良しまで戻れるかは、わからない。
 でも、お互いの心境を理解することは、できたはずだ。

 余談だが、桐人は新たに、妹っぽい女性を見つけ、交際を始めたらしい。
 だが、実はその女性、とうに成人を迎えており、幼く見える容貌を利用して、桐人に声をかけたようだ。
 妹どころか、自分より年上と知って、桐人は死人同然となり、しばらく立ち直れなかったらしい。
 もちろん、その話は琉奈の耳にも入り、あまりの情けなさに百年の恋も冷めたと聞く。


 それから数日後・・・
「そう言えばあの時、田中先輩は教室にいなかったっちゃよね?」
 千佳が思い出したように問いかけた。
「うん、あの日・・・・」
 千佳の問いに凛は、事件翌日の心美の言葉を思い出した。
「いや~~っ。 前日の夜、アイス食べながらゲームしていたせいか、お腹壊しちゃったみたいで。 それで、ずっとトイレに篭っていた」
 と屈託のない笑顔で話していたそうだ。


第16話へつづく


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妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話「千佳の覚醒 -前編-」

「中国妖怪、火山猫。お前さん……こいつと融合するんじゃ!」
 ここは、柚子村から外れにある、犬乙山の麓。
 緑色の肌をした中国妖怪の老婆、嫦娥は、中型犬サイズの燃えるような赤い逆毛の動物を召喚し、千佳に向かってそう告げた。
「ウ……ウチが…、妖怪……と……融合……!?」
「そうじゃ、お主…もう身体が消えかかっているじゃろ? それは人間と妖怪の魂……いわゆる生体エネルギーが互いに打ち消し合っているからに他ならぬ。
 もし、生き残りたければ、エネルギーバランスを崩すしか方法は無い」
 千佳にとっては何とも冷酷な宣告だった。
 だが、嫦娥の目つきを見るからに、とても虚言とは思えない。
「も…もし……、その妖怪と融合したら……、ウチの姿……やっぱり化け物に、なるっちゃか……?」
 呼び名の通り、猫のような姿をした動物型妖怪ではあるが、当然…人間とは似ても似つかない。
「それは、結果次第じゃ……。この妖怪の支配力が強ければ、人間にとって醜い化け物の姿になるじゃろう。
 じゃが、お前さんの支配力が優れば、もしかしたら…それなりの外見を残す事はできるかも知れぬ」
「それじゃ生き延びても、凛と一緒にいることは、できなくなるかもしれない…ちゃ……」
 想像するだけで身の毛もよだつような思いに、千佳はガタガタと震えていた。



 翌日、いつも通り学校へ通った凛。
 しかし、二日連続で休んでいる千佳・・・。
 担任の教師からは、風邪で休んでいると知らされた。
 だが、それは約二ヶ月前のあの時と同じ。
 あの時・・・、千佳が妖木妃によって妖怪になり、多くの人々を襲ったあの事件。
 あの事件は、妖怪獏の力によって、関係者の記憶を消している。
 完全に浄化されず、妖気と事件の記憶が残っていた千佳は、きっと今悩んでいるに違いない。
 学校に出てこれないのも、そのせいだろう。
 凛は放課後、千佳の見舞いと称し、様子を見に行くことに決めた。
 集落から少し離れた山沿いにある、別名『斎藤御殿』。
 ここへ来るのも二ヶ月ぶりだ。
 あの日、凛はここで妖怪化した千佳と戦った。
 そして、千佳が凛に対し、友情以上の想いを持っていることも知った。
 まるで昨日の事のように思い出される、あの戦い。
 凛は複雑な思いで、インターホンのボタンに指を触れようとした。
 その時・・・
「この家の娘に用があるんかい……?」
 背後から聞き覚えの無い、年老いた声が聞こえた。
 振り返ると、そこには一人の老婆が立っていた。
 まるで草のような緑色の肌、その肌は多くの吹き出物で覆われている。
 ギョロリとした大きな目、そうまるで蛙のような老婆である。
「あなたは……?」
「儂の名は嫦娥。お前さんが敵対している妖木妃様の幹部の一人じゃよ。のぉ……黒い妖魔狩人!」
 その言葉に凛は、すぐさま霊装し、弓を向けた。
「思ったより気の短い娘っ子じゃの……。それよりお前さん、この家の娘に用があるんじゃろ?」
「千佳をどうしたの!?」
「この先でお前さんを待っておるよ。 もし儂とここで戦わず付いて来るなら、案内してやるがの?」
 嫦娥はそう言って、不気味に微笑んだ。
「わかったわ、案内して!」
 凛はそう頷くと、弓を下ろした。
 それを見た嫦娥は踵を返し、裏山にある森に向かって歩き出した。
 後を追う凛。
 その様子を、子どもの姿をした妖怪セコが、偶然目撃していた。

 森を抜けると、そこは野原のような広い平地であった。
 周りに古びた柵らしきものがあることから、以前は牛の放牧地として使われていたに違いない。
 草に覆われた平地の中央あたりで、嫦娥は足を止め振り返った。
 少し離れて凛も足を止める。
「千佳は、どこにいるの?」
 凛の言葉に、嫦娥は不敵に微笑むと
「ホレ……、すぐそこにおるじゃろ!?」
 と、凛のすぐ脇を指さした。
 目を向けると草陰の中で、人らしきものがうずくまって寝ているように見える。
「ち……千佳……?」
 凛が声を掛けてみた。
 すると、その声に反応したのか? 
 うずくまったその物体が、ゆっくりと起き上がる。
 その瞬間、まるで灼熱のような熱気が、凛に降りかかった。
 それは全身毛で覆われ、その毛は真っ赤な炎のように逆立っている。
 背丈は凛と同じくらいだが、両手に生えた鋭い爪・・・・。
 少し前に突き出た、肉食獣特有の口元に、鋭い牙・・・・。
 猫のように縦長の瞳孔・・・・。
 その姿は、真っ赤な獣……いや、まさしく真っ赤な獣人!!
「り……凛……?」
 なんと! 驚いた事に獣が言葉を話した。
 それも、聞き覚えのある声で・・・!?
「ち…千佳……なの?」
 恐る恐る、声を返す凛。だが・・・・
シャアアアアアア!!

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(1)

 千佳は獣特有の甲高い声を上げると、その鋭い爪を凛に向かって振りかざした。
 咄嗟にかわす凛。
「千佳っ! わたしがわからない!?」
 凛は再度、呼びかけてみた。
 だが、獣人と化している千佳は、まるで耳に入らないように、再び凛に向かって襲いかかる。
「無駄じゃよ、その娘は完全に妖怪に心も身体も支配された。何を言っても届きはせんわい!」
 嫦娥は、高みの見物と洒落こんでいる。
「いったい…千佳に何をしたのよっ!?」
 凛は千佳からの攻撃を避けながら、少しずつ距離を開ける。
「千佳・・・今、元に戻してあげるからね!」
 そして一定の距離を取り、弓を構え弦を引いた。
「言っておくが、それは止めておいたほうがいいぞ!」
 凛がそう来るだろうと、待ち構えていたように、嫦娥が口を開いた。
「その娘……妖樹から妖怪化したのと違って、妖怪との融合によってその姿になっておる」
「……?」
「結論から言うと、お前さんの矢が当たったその時、その娘の身体は消滅する」
「どういうこと……?」
「今までの戦い、覚えておらんか? たしかに妖樹から妖怪化した者は、浄化によって元の人間に戻ることができた。
 だが、元から妖怪だった者は、心身共に浄化され、地上から消滅していったことを・・・」
 た…たしかに……!!
「妖樹を通しての妖怪への転生は、実際には本当に生まれ変わっておるわけではないのじゃ。
 人間の身体という器に、妖怪の魂や妖力を継ぎ足したものだと思えばよい。
 その影響によって、身体や性格、習性、凶暴性が変化しただけのもの。
 だから、お前さんの浄化によって、妖怪の魂や妖力だけを消し去って、元の人間に戻る事ができたのじゃ」
「そういうこと……」
「だが、最初から妖怪として産まれた者は、細胞の隅々まで妖怪としての妖力が染み渡っている。
 よって、お前さんの矢は、その細胞まで浄化し消滅させてしまう」
「じゃ…まさか……」
「千佳という娘は、妖怪火山猫と細胞レベルで融合されておる。つまり、その娘の肉体は、生まれながらの妖怪と殆ど変わりないんじゃ!」
「なんで、そんな酷いことを・・・!?」
「その娘が望んだのじゃ・・・!」
「!?」
「説明すると長くなるので省くが、その娘……不完全な浄化のせいで、肉体が消え去ろうとしておった。助かるには、妖怪と融合することで、身体と魂そのものを変化させるしかなかった」
「や…やっぱり……わたしの浄化のせいで……」
「消えたくない。
 生き延びて、これからもお前さんと一緒に生きていたい・・・、そう望んだんじゃ!」
 嫦娥の言葉に、凛はガックリと膝をついた。
「わたしが……、千佳の人生を狂わせた……」
 凛はそう呟き、顔を上げ千佳を見つめた。
 荒々しく息を吐き、人間らしさが残っていない、獣と化した千佳の姿を・・・・
「憎いでしょ……わたしが。 いいよ……その爪で、わたしを殺して……」
 全てを諦め、身を投げ出す凛。
 千佳は、そんな凛に容赦なく襲い掛かろうとしていた・・・
「それは、私が許しません!」
 凛とした声と共に、一筋の白い風が間に割って入った。
「お前さんは……!?」
 それは、もう一人の白い妖魔狩人、優里の姿だった。

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 今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話「千佳の覚醒 -中編-」

「大丈夫かい、凛……!?」
 すぐ後を、金鵄も飛び寄ってきた。
「優里お姉さん……、金鵄……、どうしてここが……?」
「セコが精霊を使って、僕に伝えたんだ。そして僕が優里を連れてきた!」
 金鵄の言葉に、セコが草陰から姿を現す。
「話はある程度、把握いたしました。たしかに千佳さんには同情いたします。でも……だからと言って、凛ちゃん貴方を殺させはいたしません!」
 優里は眼光鋭く、千佳と嫦娥を睨みつける。
「でも……千佳はわたしのせいで……」
「凛ちゃん!」
 優里はそう言う凛を制すると
「貴方の最大の弱点は、その優しさです。 その優しさがある限り、奴らはずっとそこに付け込むでしょう」
 冷静に言い放った。
「・・・・・・」
 凛は黙って項垂れる。
 そんな凛を見て、優里は密やかだが、優しく微笑んだ。
― でも、そんな優しい凛ちゃんだから、私も金鵄さんも、全力で守りたいと思うんだけど…… ―
 優里は再び目線を千佳に戻すと、薙刀を構え、千佳との間合いを測る。
「千佳さんとは、私が戦います!!」
 一気に千佳の間合いへ飛び込んだ!
 獣妖怪としての本能か? 優里の一閃を紙一重でかわし、間合いを開ける千佳。
 そして、口から炎の玉を吐き出した!
 咄嗟に薙刀で炎の玉を切り裂く優里。
 それでも次々に炎の玉を吐き出す、千佳。
 飛び交う炎の玉を、負けじと撃ち落としていく優里。
 そして、隙を見て、一足飛びで間合いを詰めると、薙刀を横払いした。
 微かだが、手応えはあった!
 千佳の胸元に、かすり傷であるものの、明らかに一筋の血が流れている。
 千佳の息が更に荒くなった。
 そして……
「もっと…速く・・・、もっと…速く動かないと・・・・」
 微かだが、そんな呟くような声が聞こえた。
「あ……、千佳の足がさっきより赤く光って……?」
「え? どういう事だい凛……?」
「う…うん、よくわからないけど……、千佳の足の力が増したような……」
 凛が言葉を終える前に、今度は千佳が爪を振りかざし、攻撃を仕掛けた。
 優里に負けない速度で、間合いに入り込む千佳。
 その鋭い爪を振り下ろすが、優里が薙刀で弾き返す。
 それでも、二振り…三振りと、腕を振り回す。
 さすがの優里もその勢いに、数歩引き下がった。
― 少し……動きが速くなった……? ―
 優里は冷静に見定める。
「もっと…っちゃ……。もっと速く動かないと……、攻撃が当たらない…ちゃ……」
 先程よりも、ハッキリとした声が聞こえた。
「更に、千佳の足の力が増している!!?」
 追うように、凛が叫んだ!
「ほぅ……、様子が変わってきているようじゃの……?」
 様子を見ていた嫦娥がそう呟いた時・・・
「コソコソと何をしているのかと思って来てみれば、こういう事か……」
 背後から声が聞こえた。
 そこには、色白で長髪の青年と、褐色で大柄な髭男の姿が。
「白陰……、ムッシュ……! なぜ…お前さんたちがここに!?」
「吾輩が案内したのですよ。どうも最近……マダムの様子が可怪しいのでね」
 ムッシュがそう言いながら、自慢のカイゼル髭を摘み上げる。
「あの娘、妖怪と融合したのか……? 融合の術は条件が揃わなければ成功しない、相当高度な術。 そんな手間隙掛けて、なぜこんな事を……?」
 そう問いかける白陰に対し、嫦娥は目線を千佳たちに戻すと、
「あの娘、消滅して消え去る運命じゃった。だったら…最後に使い道は無いかと、試してみただけじゃよ……」
 そう言い捨てた。
「なるほど、もっともですな!」
 まるで嘲笑うように、ムッシュはまたも、髭を摘み上げた。
 すると・・・・
「懐に入ったぁぁぁぁぁっ!!」
 同時に、嫦娥が叫び声を上げた!!
 見ると、優里の振り払った一撃を避け、その胸元に千佳の鋭い右腕が入り込んでいる!!
 そのまま右腕を突き上げ、優里の胸を貫くっっっ!!?

キンッッッ・・!!
 
 まるで金属が弾けるような音が聞こえた。
 それは、突き上げた鋭い爪・・・右腕は、優里の胸を貫くどころか……、その胸に備え付けられている『鎧』に弾き返されていた。
「す……すごい……」
 凛が、思わず溜息を漏らす。
 優里の戦闘服や鎧。 それらは霊獣麒麟が寿命でこの世を去る前に、自らの霊毛を使って仕立てあげた物。
 一見、軽装だが、その防御力は凛のソレを上回り、特に胸元の鎧部分は、銃弾すら弾き返す強度がある。
「危なかったわ……。 でも、これで勝負あったわね!」
 優里がそう言い放った。
「参ったのぉ……、こりゃ…決まりじゃわい!」
 嫦娥もそう呟いた。
 たしかに、獣化した千佳の動きは、最終的に優里の速さを上回った。
 だが、肝心な攻撃力が通じない。
 すなわち、優里を倒すことはできないということだ。
 それを理解したのか、千佳も肩で息をしながら、攻撃の手を止めた。
「千佳………」
 凛も心配そうに見守る。
「負けない……ちゃ・・」
「えっ!?」
「ウチは絶対に……負けないっちゃ! 絶対にアンタを倒すっ!!」
 誰もが耳を疑った。
 獣人化した千佳が、ハッキリと言葉を・・・、自分の気持ちを言葉で現した!
 見ると、たしかに姿形は獣化したままだが、その瞳は獣の瞳でなく、光を持った人間の瞳・・・。
「優里お姉さん・・・、千佳・・・・」
 なにやら考え事をしていた凛だが、一大決心をしたように口を開いた。


凛の言葉は・・・・・・・?
 ① 優里お姉さん、最後まで千佳と戦って・・・
 ② 千佳、もう勝ち目はないよ。諦めて・・・!

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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:30 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話「千佳の覚醒 -後編-」

 ① 優里お姉さん、最後まで千佳と戦って・・・


「優里お姉さん、千佳と最後まで戦ってあげてください!」
 優里に向かってそう叫ぶと、
「千佳……! 最後まで諦めないで! 頑張れっ!!」
 今度は千佳に向かって、応援するように声を掛けた。
「凛・・・!?」
「凛ちゃん……?」
 金鵄も優里も驚いた。
 まさか、あの優しい凛が、こんな戦いを続行させようとするなんて。
「ほら……千佳、わたしの声聞こえるでしょ!? 最後まで…頑張れっ!」
「何を考えているのだ……、あの娘……?」
 白陰も不可思議な表情で眺める。
「凛………?」
 その言葉が届いたのか、肩で息をしていた千佳は、再び体勢を立て直し、優里を睨みつけた。
 そして・・・・

アアアアアアアアアアアアアアアアアアっ・・・・!!

 と、絶叫するように声を張り上げた!
 すると、どうしたことだろう?
 獣人化していた千佳の身体に異変が起き始める。
 全身を覆っていた体毛も、突き出た獣の口元も・・・全て退化するように消えていく。
 その代わり、右腕だけが小刻みに震えだし、やがて…一回り、二回りと大きく変貌していった。
 二回りほど大きくなった右腕は、その指自体も刃物のような爪と化し、まるで灼熱の炎のように赤い。
 いや、その爪先に止まろうとした一匹の蜻蛉が、一気に燃え尽きてしまった。
 そう……実際にその爪は、激しい高熱を放っている。
「なるほどのぉ、素早い動きに必要な分の妖力以外は、、全て右腕一本に集中させたのじゃな……」
 嫦娥のその言葉の通り、赤く逆立った髪はそのままだが、あとは大きく変貌し、武器と化した右腕以外、元の人間の姿に戻っていた。

 そう……体毛も無くなり、産まれたままの、スッポンポンの全裸で・・・・

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
 全裸になった千佳に気づき、凛は悲鳴を上げた。
 優里も思わず、目を覆う。
「うん!?」
 しばし呆然としていた千佳だが、自らのその状況を知り、身を隠すように草陰にうずくまった。
 それを見た嫦娥は、やれやれ・・・と立ち上がり、千佳に向かって歩みだした。
「一応、こんな事もあるかと思って、用意しておいたぞぃ!」
 そう言って、懐から一着の衣類を取り出した。
 出された衣服を、慌てて身につける千佳。
「その衣(ころも)は、火山に住む『火鼠』の毛で編んだもの。強度な防御力に、お前さんの灼熱の爪にも焼き焦がれない、耐久力を持つ」
 嫦娥がそう言い終える頃には、千佳は衣類を身にまとっていた。
 ノースリーブパーカーに、ボンテージパンツ、巻きスカート。配色は赤と黒が基準の、いわゆる人間界で『パンクルック』と呼ばれる類の服であった。
「この国の娘の戦闘服というのは、こういう物なんじゃろう?」
 嫦娥は極当たり前のように、素の表情で言い切る。
 それを聞いた凛は、
― 金鵄にしろ、いったいどこで、そういう誤った情報を仕入れてくるのよ!? ―
 と、ツッコミたいのを抑えていた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(2)

「まるで見てくれは、妖魔狩人・・・そのものだな」
 白陰が呆れたように呟いた。
「たしかに・・・・」
 ムッシュも頷く。

「それじゃ……続きを始めるっちゃよ!」
 武器化した右腕を、誇示するように構えると、千佳は優里を睨みつけた。
 それに応じるように、薙刀を構え直す優里。
 千佳は、大きく息を吐き……気持ちを集中させたかと思うと、一気に優里の懐に向かって飛び込んだ!
 素早い動きで薙刀を払う、優里。
 だが、先の戦いで優里のスピードを上回った千佳は、紙一重でソレをかわし、優里の胸元狙って、右腕を突き出した!!

ザクッ!!
 鈍い音が響く!
 優里の鎧は灼熱の爪に切り裂かれ、軟らかい肌からも鮮血が飛び散った!
 そう、ついに千佳の攻撃が、優里を捉えたのだ。
 胸元を抑え、一歩二歩と引き下がる優里。
「優里…お姉さん……」
 さすがの凛も驚きを隠せなかった。
 優里が血を流す姿も、引き下がる姿も、初めて見たからだ。
「こうなってくると、この勝負……逆転もあり得ますな」
 静観を決め込んでいたムッシュが、珍しく真剣な表情で呟いた。
 それを聞いた白陰、すかさず……
「たしかにスピードは千佳という娘が上回っているが、それだけで白い妖魔狩人を抑えられるとは思えんが……?」
 と、反論する。しかしムッシュは・・・
「仰るとおり戦闘経験、技……殆どは、白い妖魔狩人の方が上ですな。しかし、ポイントは…あの『間合い』にある。
 薙刀は、その長い獲物のお陰で間合いが広い。だが反面その長さゆえに、懐に入られると為す術がない。
 一方あの娘は、右腕の爪のみに絞ったため、間合いも狭いが、逆に懐に飛び込んでも、動きが鈍る事はない。
 そうなると、動きの速さが大きな決め手になるというわけですよ」
 と理論的に返した。
 そして、そのムッシュの言葉が正しいように、徐々に千佳が優里を押し始めていた。
 防戦一方の優里だが、千佳の動きは予想以上に速く、更に二撃目を喰らってしまった。
「凛ちゃん、ごめんなさい……」
 突然、優里が凛に語り始めた。
「あの千佳さんっていう子、かなり強いわ。こうなると、本気でやり合わないと、私も危ない……」
 優里の言葉を聞いた凛は、一瞬言葉に詰まったが、
「お姉さん……お願いします、本気でやってください」
と答えた。
 凛の言葉に無言で頷いた優里は、再び薙刀を構えた。
 それは切っ先が水平な状態で、一直線に千佳に向けられている。
「ほぅ……、一発逆転の大技でも繰り出すつもりですかな?」
 ムッシュが興味深そうに、視線を向けた。
 一方…千佳も、そんな気配を感じ取ったのか、まるで間合いを測るように、右腕をまっすぐ伸ばした。
 タイミングを測るように、ゆっくりリズムカルに息を吐く優里。
 そして、その息が止まった瞬間!
 最大限に突き出した薙刀で、千佳に向かって突進した!
 それは今まで以上の閃光のような速さ!
 さすがの千佳もかわすのは不可能と察したか、武器と化した右腕を盾のように突き出し、傷つくのを承知で、薙刀を弾き返した。
 宙に浮く、薙刀!
「もらったっちゃぁぁ!!」
 その瞬間を逃さず、千佳の鋭い灼熱の爪が、優里の喉元を狙った!
「優里っ!!?」
 見ていた金鵄が、悲鳴のような声を上げる。
 千佳の右手の爪は、優里の喉元を貫いて・・・・・
 貫いて・・・・・?
 いや、貫かれる寸前に、その爪を両手で挟み込み動きを封じていた。
 それは、武術で言う……『真剣白刃取り』と同じ形。
「ま…まさか……、アンタ…コレを狙って……!?」
 千佳が驚きの声を漏らす。
「そうよ! 広い間合いが不利ならば、いっそ獲物を捨て、間合いを縮めてしまえばいいだけ!」
 優里はそう言って、不敵に微笑んだ。
 だが、喜んでばかりはいられない。
 千佳の爪は、蜻蛉を一瞬で焼き払うほどの高熱を放っている。
 その爪を素手で押さえ込んでいる優里の手からは、肉の焼けるような匂いが立ち込める。
「くっ……!」
 優里の額に汗が滲む。
 だが優里は、その腕を捻るように身体を回転させると、その反動を利用し、千佳を倒れこませた。
 そして、両足で右腕の付け根を挟み込みながら、腕を引き伸ばす。
「あ・いてててててて・・・・・・っ!!」
 千佳が絶叫を上げた。
 それは、プロレスでもよく見られる、本来は柔術の技・・『腕ひしぎ十字固め』
 実戦型武術を習っていた優里は、獲物を失った時でも身を守れるように、ある程度の柔術の技も極めていた。
 一見、そんな技で・・・? と思われるだろうが、真に関節技を決められた時の痛みは相当なものである。
 妖怪と融合したことで筋力も上昇している、物理ダメージを軽減する戦闘服を着ていてる。
 それでも、関節を捻られる痛み……骨をへし折られるような痛みをやわらげる事はできない。
 優里のように武術の達人から決められたなら、一般人では二秒と我慢できないだろう。
「ぐぅっっ・・・」
 それでも千佳は必死に耐える。額には玉のような汗が吹き出していた。
「千佳・・・・」
 凛も静かに見守るしかない。
 既に二分程経過し、もう…痛みを通り越して、意識が遠のきそうになる。
「参った・・・・」
 ついに、千佳が負けを認めた。
 思わぬ幕切れに、呆然とする……白陰、ムッシュ。
「優里お姉さーん……千佳ーっ……!」
 凛が二人の元へ駆け寄ってきた。
「お姉さん…大丈夫!? 怪我は……!?」
「う……ん、ちょっと…手、火傷しちゃったみたい……」
 優里の両手は焼けただれ、所々…皮も剥げ、肉が見えている。
「わたしが……わたしが、大変な事をお願いしたばかりに……」
「気にしないで、凛ちゃん。これくらい本当に平気だから」
 そう言って微笑む優里だが、額には玉のような汗がいっぱいである。
「凛……ウチ……」
 そんな二人に千佳が割って入った。
 すると凛は、千佳の肩を優しく抱きしめ
「おかえり、千佳・・・」
 と微笑んだ。
「怒らないっちゃか…?」
「なんで怒るの? こうして千佳が無事に帰ってきてくれたじゃない」
「いや…だって、ウチは化け物になったし……、それに凛も、そして隣のお姉さんも、殺そうとしたったよ!?」
 そう言う千佳に、優里が反応した。
「でも、戦いの後半……、特に最後の手刀は本気でなかったでしょ?」
「え……!?」
「キレが甘かったから……。人間の心を取り戻して、手加減してくれたの、わかったわよ」
 優里の言葉に、千佳は素知らぬ顔で頷いた。
「千佳……!」
 そんな千佳に凛が声を掛けた。
「ん……?」
「これからも、ずっと一緒にいようね!」
 その言葉に千佳は、灼熱の髪に負けないくらい赤面し、しばし…目も合わせられなかったが、やがて恥ずかしそうに上目遣いで見つめると、こう返した。
「ありがとう・・・」
 その様子を見ていた金鵄は、内心驚きを隠せなかった。
― まさか凛……、君は彼女が人間の心を取り戻せると信じて、戦いを煽ったのかい……!? ―

「フン……! とんだ、茶番だ……」
 黙って様子を眺めていた白陰は、そう叫ぶと懐から瓢箪を取り出した。
「どうするおつもりですかな?」
 ムッシュが問い返す。
「一番手ごわい白い妖魔狩人が負傷している…今! 黙って見過ごす気は無い!」
 そう言って、瓢箪の栓を抜いた。
 立ち込める白煙の中から、十数の人影らしきものが見える。
 それは山精。中国河北省に伝わる妖怪。
 身長一尺ほどの一本足で、角が無い鬼の姿をしている。
「妖魔狩人を殺してこい!」
 白陰は、単刀直入に命じた。
 十数匹の山精が、凛や千佳たちに向かっていく。
 いち早く気づいた優里、直ぐ様迎え撃とうとするが・・・
「く…っ!!」
 酷い火傷の両手では、薙刀を握ることすら出来ない。
「その怪我はウチのせいっちゃ。 だから、ここはウチにまかせてや!」
 そう言って立ち上がった、千佳。
「私も一緒に戦うから、優里お姉さんは休んでいて!」
 凛もそう言って弓を構えた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(3)

 千佳は、襲い来る十数匹の山精の集団に、真正面から飛び込むと、一匹目の山精を、その鋭い右腕の爪で貫く!
 更に二匹目の攻撃をかわして、爪で横払いに切り裂いた。
「高嶺さんに比べれば、スピード、防御力……、てんで雑魚っちゃ!!」
 千佳は次々に山精を撃退していった。
 だが、一瞬の油断か!? 背後から迫る一匹の山精に気づかない。
「やばっ……!?」
 千佳が気づいた時には、山精の鋭い爪が眼前に迫っていた。
 その時、山精が青白い光の粒子と化して、蒸発するように消えてなくなる。
 振り返ると、矢を放った体勢の凛が、微笑んでいた。
「凛、ありがと!!」
「千佳、貴方の後ろは、わたしが守るよ!」
 凛はそう言って、次々に援護の矢を放つ。
「さすが、幼なじみ……、初めての共闘なのに、いい連携ね」
 優里は、安心しきった笑顔で呟いた。
 次々に山精を撃退していく、千佳と凛。
 もはや、凛と千佳の勝利は明らかであった。
「バカな……、山精の戦闘力は、妖怪化した人間より上なんだぞ……!?」
 白陰は、信じられないといった表情で眺めていた。
「あの二人の連携攻撃は、それを上回っている。簡単な数学ですな」
 ムッシュは鼻で笑うように答えてやった。
「ところで・・・・」
 いきなり口調と表情を変えると、囁くように嫦娥に話しかける。
「吾輩、レーヌ(女王)妖木妃とは、直にお会いしたことがないので事の真意はわかりませぬが、マダムは本当にレーヌに忠誠を誓っておられるのかな?」
「どういう意味じゃ?」
「いや…いや、深い意味は無い。ただ…何か思うことがあるのではないかと、思いましてな!」
「くだらん……」
 嫦娥はそれ以上、答えなかった。
 それで満足したのか? ムッシュは不敵に微笑むと、
「十分楽しませて頂いたので、吾輩……ここいらで失礼する。オ・ルヴォワール!」
 と言って去っていった。
「ちっ……、こちらも一旦引き上げよう……」
 全ての山精が倒されたのを見届けると、まるで苦虫を百匹程噛み砕いたような顔をして、白陰もその場を去った。
 嫦娥もそれに続いた。

― 凛、不思議な子だ。彼女の本当の強さは、霊力とかでなく……、友や知人を思いやる心にあるのでは……? ―
 いくつか訪ねたい事もあるが、あえてこの場は、抑えていた。

 三人と一匹と一羽になった平原。
 そこから少し離れた森の中から、一つの人影が潜んでいた。
「これで、『赤い妖魔狩人』も加わったわけね・・・・」
 そう言って、踵を返したその後姿は、『青い衣』を身につけていた。


 第15話に続く

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