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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話「千佳の覚醒 -後編-」

 ① 優里お姉さん、最後まで千佳と戦って・・・


「優里お姉さん、千佳と最後まで戦ってあげてください!」
 優里に向かってそう叫ぶと、
「千佳……! 最後まで諦めないで! 頑張れっ!!」
 今度は千佳に向かって、応援するように声を掛けた。
「凛・・・!?」
「凛ちゃん……?」
 金鵄も優里も驚いた。
 まさか、あの優しい凛が、こんな戦いを続行させようとするなんて。
「ほら……千佳、わたしの声聞こえるでしょ!? 最後まで…頑張れっ!」
「何を考えているのだ……、あの娘……?」
 白陰も不可思議な表情で眺める。
「凛………?」
 その言葉が届いたのか、肩で息をしていた千佳は、再び体勢を立て直し、優里を睨みつけた。
 そして・・・・

アアアアアアアアアアアアアアアアアアっ・・・・!!

 と、絶叫するように声を張り上げた!
 すると、どうしたことだろう?
 獣人化していた千佳の身体に異変が起き始める。
 全身を覆っていた体毛も、突き出た獣の口元も・・・全て退化するように消えていく。
 その代わり、右腕だけが小刻みに震えだし、やがて…一回り、二回りと大きく変貌していった。
 二回りほど大きくなった右腕は、その指自体も刃物のような爪と化し、まるで灼熱の炎のように赤い。
 いや、その爪先に止まろうとした一匹の蜻蛉が、一気に燃え尽きてしまった。
 そう……実際にその爪は、激しい高熱を放っている。
「なるほどのぉ、素早い動きに必要な分の妖力以外は、、全て右腕一本に集中させたのじゃな……」
 嫦娥のその言葉の通り、赤く逆立った髪はそのままだが、あとは大きく変貌し、武器と化した右腕以外、元の人間の姿に戻っていた。

 そう……体毛も無くなり、産まれたままの、スッポンポンの全裸で・・・・

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
 全裸になった千佳に気づき、凛は悲鳴を上げた。
 優里も思わず、目を覆う。
「うん!?」
 しばし呆然としていた千佳だが、自らのその状況を知り、身を隠すように草陰にうずくまった。
 それを見た嫦娥は、やれやれ・・・と立ち上がり、千佳に向かって歩みだした。
「一応、こんな事もあるかと思って、用意しておいたぞぃ!」
 そう言って、懐から一着の衣類を取り出した。
 出された衣服を、慌てて身につける千佳。
「その衣(ころも)は、火山に住む『火鼠』の毛で編んだもの。強度な防御力に、お前さんの灼熱の爪にも焼き焦がれない、耐久力を持つ」
 嫦娥がそう言い終える頃には、千佳は衣類を身にまとっていた。
 ノースリーブパーカーに、ボンテージパンツ、巻きスカート。配色は赤と黒が基準の、いわゆる人間界で『パンクルック』と呼ばれる類の服であった。
「この国の娘の戦闘服というのは、こういう物なんじゃろう?」
 嫦娥は極当たり前のように、素の表情で言い切る。
 それを聞いた凛は、
― 金鵄にしろ、いったいどこで、そういう誤った情報を仕入れてくるのよ!? ―
 と、ツッコミたいのを抑えていた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(2)

「まるで見てくれは、妖魔狩人・・・そのものだな」
 白陰が呆れたように呟いた。
「たしかに・・・・」
 ムッシュも頷く。

「それじゃ……続きを始めるっちゃよ!」
 武器化した右腕を、誇示するように構えると、千佳は優里を睨みつけた。
 それに応じるように、薙刀を構え直す優里。
 千佳は、大きく息を吐き……気持ちを集中させたかと思うと、一気に優里の懐に向かって飛び込んだ!
 素早い動きで薙刀を払う、優里。
 だが、先の戦いで優里のスピードを上回った千佳は、紙一重でソレをかわし、優里の胸元狙って、右腕を突き出した!!

ザクッ!!
 鈍い音が響く!
 優里の鎧は灼熱の爪に切り裂かれ、軟らかい肌からも鮮血が飛び散った!
 そう、ついに千佳の攻撃が、優里を捉えたのだ。
 胸元を抑え、一歩二歩と引き下がる優里。
「優里…お姉さん……」
 さすがの凛も驚きを隠せなかった。
 優里が血を流す姿も、引き下がる姿も、初めて見たからだ。
「こうなってくると、この勝負……逆転もあり得ますな」
 静観を決め込んでいたムッシュが、珍しく真剣な表情で呟いた。
 それを聞いた白陰、すかさず……
「たしかにスピードは千佳という娘が上回っているが、それだけで白い妖魔狩人を抑えられるとは思えんが……?」
 と、反論する。しかしムッシュは・・・
「仰るとおり戦闘経験、技……殆どは、白い妖魔狩人の方が上ですな。しかし、ポイントは…あの『間合い』にある。
 薙刀は、その長い獲物のお陰で間合いが広い。だが反面その長さゆえに、懐に入られると為す術がない。
 一方あの娘は、右腕の爪のみに絞ったため、間合いも狭いが、逆に懐に飛び込んでも、動きが鈍る事はない。
 そうなると、動きの速さが大きな決め手になるというわけですよ」
 と理論的に返した。
 そして、そのムッシュの言葉が正しいように、徐々に千佳が優里を押し始めていた。
 防戦一方の優里だが、千佳の動きは予想以上に速く、更に二撃目を喰らってしまった。
「凛ちゃん、ごめんなさい……」
 突然、優里が凛に語り始めた。
「あの千佳さんっていう子、かなり強いわ。こうなると、本気でやり合わないと、私も危ない……」
 優里の言葉を聞いた凛は、一瞬言葉に詰まったが、
「お姉さん……お願いします、本気でやってください」
と答えた。
 凛の言葉に無言で頷いた優里は、再び薙刀を構えた。
 それは切っ先が水平な状態で、一直線に千佳に向けられている。
「ほぅ……、一発逆転の大技でも繰り出すつもりですかな?」
 ムッシュが興味深そうに、視線を向けた。
 一方…千佳も、そんな気配を感じ取ったのか、まるで間合いを測るように、右腕をまっすぐ伸ばした。
 タイミングを測るように、ゆっくりリズムカルに息を吐く優里。
 そして、その息が止まった瞬間!
 最大限に突き出した薙刀で、千佳に向かって突進した!
 それは今まで以上の閃光のような速さ!
 さすがの千佳もかわすのは不可能と察したか、武器と化した右腕を盾のように突き出し、傷つくのを承知で、薙刀を弾き返した。
 宙に浮く、薙刀!
「もらったっちゃぁぁ!!」
 その瞬間を逃さず、千佳の鋭い灼熱の爪が、優里の喉元を狙った!
「優里っ!!?」
 見ていた金鵄が、悲鳴のような声を上げる。
 千佳の右手の爪は、優里の喉元を貫いて・・・・・
 貫いて・・・・・?
 いや、貫かれる寸前に、その爪を両手で挟み込み動きを封じていた。
 それは、武術で言う……『真剣白刃取り』と同じ形。
「ま…まさか……、アンタ…コレを狙って……!?」
 千佳が驚きの声を漏らす。
「そうよ! 広い間合いが不利ならば、いっそ獲物を捨て、間合いを縮めてしまえばいいだけ!」
 優里はそう言って、不敵に微笑んだ。
 だが、喜んでばかりはいられない。
 千佳の爪は、蜻蛉を一瞬で焼き払うほどの高熱を放っている。
 その爪を素手で押さえ込んでいる優里の手からは、肉の焼けるような匂いが立ち込める。
「くっ……!」
 優里の額に汗が滲む。
 だが優里は、その腕を捻るように身体を回転させると、その反動を利用し、千佳を倒れこませた。
 そして、両足で右腕の付け根を挟み込みながら、腕を引き伸ばす。
「あ・いてててててて・・・・・・っ!!」
 千佳が絶叫を上げた。
 それは、プロレスでもよく見られる、本来は柔術の技・・『腕ひしぎ十字固め』
 実戦型武術を習っていた優里は、獲物を失った時でも身を守れるように、ある程度の柔術の技も極めていた。
 一見、そんな技で・・・? と思われるだろうが、真に関節技を決められた時の痛みは相当なものである。
 妖怪と融合したことで筋力も上昇している、物理ダメージを軽減する戦闘服を着ていてる。
 それでも、関節を捻られる痛み……骨をへし折られるような痛みをやわらげる事はできない。
 優里のように武術の達人から決められたなら、一般人では二秒と我慢できないだろう。
「ぐぅっっ・・・」
 それでも千佳は必死に耐える。額には玉のような汗が吹き出していた。
「千佳・・・・」
 凛も静かに見守るしかない。
 既に二分程経過し、もう…痛みを通り越して、意識が遠のきそうになる。
「参った・・・・」
 ついに、千佳が負けを認めた。
 思わぬ幕切れに、呆然とする……白陰、ムッシュ。
「優里お姉さーん……千佳ーっ……!」
 凛が二人の元へ駆け寄ってきた。
「お姉さん…大丈夫!? 怪我は……!?」
「う……ん、ちょっと…手、火傷しちゃったみたい……」
 優里の両手は焼けただれ、所々…皮も剥げ、肉が見えている。
「わたしが……わたしが、大変な事をお願いしたばかりに……」
「気にしないで、凛ちゃん。これくらい本当に平気だから」
 そう言って微笑む優里だが、額には玉のような汗がいっぱいである。
「凛……ウチ……」
 そんな二人に千佳が割って入った。
 すると凛は、千佳の肩を優しく抱きしめ
「おかえり、千佳・・・」
 と微笑んだ。
「怒らないっちゃか…?」
「なんで怒るの? こうして千佳が無事に帰ってきてくれたじゃない」
「いや…だって、ウチは化け物になったし……、それに凛も、そして隣のお姉さんも、殺そうとしたったよ!?」
 そう言う千佳に、優里が反応した。
「でも、戦いの後半……、特に最後の手刀は本気でなかったでしょ?」
「え……!?」
「キレが甘かったから……。人間の心を取り戻して、手加減してくれたの、わかったわよ」
 優里の言葉に、千佳は素知らぬ顔で頷いた。
「千佳……!」
 そんな千佳に凛が声を掛けた。
「ん……?」
「これからも、ずっと一緒にいようね!」
 その言葉に千佳は、灼熱の髪に負けないくらい赤面し、しばし…目も合わせられなかったが、やがて恥ずかしそうに上目遣いで見つめると、こう返した。
「ありがとう・・・」
 その様子を見ていた金鵄は、内心驚きを隠せなかった。
― まさか凛……、君は彼女が人間の心を取り戻せると信じて、戦いを煽ったのかい……!? ―

「フン……! とんだ、茶番だ……」
 黙って様子を眺めていた白陰は、そう叫ぶと懐から瓢箪を取り出した。
「どうするおつもりですかな?」
 ムッシュが問い返す。
「一番手ごわい白い妖魔狩人が負傷している…今! 黙って見過ごす気は無い!」
 そう言って、瓢箪の栓を抜いた。
 立ち込める白煙の中から、十数の人影らしきものが見える。
 それは山精。中国河北省に伝わる妖怪。
 身長一尺ほどの一本足で、角が無い鬼の姿をしている。
「妖魔狩人を殺してこい!」
 白陰は、単刀直入に命じた。
 十数匹の山精が、凛や千佳たちに向かっていく。
 いち早く気づいた優里、直ぐ様迎え撃とうとするが・・・
「く…っ!!」
 酷い火傷の両手では、薙刀を握ることすら出来ない。
「その怪我はウチのせいっちゃ。 だから、ここはウチにまかせてや!」
 そう言って立ち上がった、千佳。
「私も一緒に戦うから、優里お姉さんは休んでいて!」
 凛もそう言って弓を構えた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(3)

 千佳は、襲い来る十数匹の山精の集団に、真正面から飛び込むと、一匹目の山精を、その鋭い右腕の爪で貫く!
 更に二匹目の攻撃をかわして、爪で横払いに切り裂いた。
「高嶺さんに比べれば、スピード、防御力……、てんで雑魚っちゃ!!」
 千佳は次々に山精を撃退していった。
 だが、一瞬の油断か!? 背後から迫る一匹の山精に気づかない。
「やばっ……!?」
 千佳が気づいた時には、山精の鋭い爪が眼前に迫っていた。
 その時、山精が青白い光の粒子と化して、蒸発するように消えてなくなる。
 振り返ると、矢を放った体勢の凛が、微笑んでいた。
「凛、ありがと!!」
「千佳、貴方の後ろは、わたしが守るよ!」
 凛はそう言って、次々に援護の矢を放つ。
「さすが、幼なじみ……、初めての共闘なのに、いい連携ね」
 優里は、安心しきった笑顔で呟いた。
 次々に山精を撃退していく、千佳と凛。
 もはや、凛と千佳の勝利は明らかであった。
「バカな……、山精の戦闘力は、妖怪化した人間より上なんだぞ……!?」
 白陰は、信じられないといった表情で眺めていた。
「あの二人の連携攻撃は、それを上回っている。簡単な数学ですな」
 ムッシュは鼻で笑うように答えてやった。
「ところで・・・・」
 いきなり口調と表情を変えると、囁くように嫦娥に話しかける。
「吾輩、レーヌ(女王)妖木妃とは、直にお会いしたことがないので事の真意はわかりませぬが、マダムは本当にレーヌに忠誠を誓っておられるのかな?」
「どういう意味じゃ?」
「いや…いや、深い意味は無い。ただ…何か思うことがあるのではないかと、思いましてな!」
「くだらん……」
 嫦娥はそれ以上、答えなかった。
 それで満足したのか? ムッシュは不敵に微笑むと、
「十分楽しませて頂いたので、吾輩……ここいらで失礼する。オ・ルヴォワール!」
 と言って去っていった。
「ちっ……、こちらも一旦引き上げよう……」
 全ての山精が倒されたのを見届けると、まるで苦虫を百匹程噛み砕いたような顔をして、白陰もその場を去った。
 嫦娥もそれに続いた。

― 凛、不思議な子だ。彼女の本当の強さは、霊力とかでなく……、友や知人を思いやる心にあるのでは……? ―
 いくつか訪ねたい事もあるが、あえてこの場は、抑えていた。

 三人と一匹と一羽になった平原。
 そこから少し離れた森の中から、一つの人影が潜んでいた。
「これで、『赤い妖魔狩人』も加わったわけね・・・・」
 そう言って、踵を返したその後姿は、『青い衣』を身につけていた。


 第15話に続く

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② 千佳、もう勝ち目はないよ。諦めて・・・!


「千佳、もう十分だよ……。これ以上は千佳が傷つくだけだから、もう止めよう・・」
 攻撃しても、ダメージを与えらないのなら、どう考えても勝ち目は無い。
 やれば……やるだけ、傷つくのは目に見えている。
 凛は、優しく悟らせるように伝えた。
「結局…ウチは、凛にとってお荷物以外……何者でも無いって事やね・・・」
 やはりそうだ!
 千佳は人間としての、意識を取り戻しつつある。
「ええよ、もう……。化け物になろうが……、消えて無くなろうが……、もうどっちでもええよ……」
 だが…千佳は、力無く膝をつき、そのまま項垂れてしまった。
「ち…違う、千佳っ!! そんな意味じゃない!」
 慌てて取り繕う、凛。
 その時・・・
「ほぅ、いい感じで負の感情に溢れておりますな。 うむ、悪くない!」
 いつの間にか、ムッシュが千佳に寄り添っていた。
「絶望感や孤独感といった負の感情は、怨念と同様の負のエネルギー」
 そう言ってムッシュは、手にした包丁で自らの指を傷つけると、その血を千佳の口の中に滴り落とした。
「う…うぐっ……おぇ……」
 強烈な吐き気を催す千佳。
「な……、千佳に何をしたの!?」
「まぁ、黙ってご覧なさい。今から面白いモノが見れますぞ!」
 …と、ムッシュは苦しむ千佳に視線を送る。
 すると、どうしたことか・・・千佳の身体がムクムクと膨れ上がるように、変貌していく。
「あの姿は、怨獣鬼・・・!?」
 嫦娥が驚きの声を上げた!
 そう、千佳は……あのムッシュになる前の、怨念の化身であった、元の怨獣鬼そっくりの姿に変わっていった。
「ち…千佳………」
 人間としての面影すら残っていない、その悍ましい姿に、凛は腰を抜かしてしまった。
「ムッシュ!!」
 珍しく激怒した優里が、爆発したようにムッシュに飛びかかった。
 優里の薙刀と、ムッシュの包丁が激しく火花と散らす。
「身共も忘れるでないぞ!」
 二人の激突に、白陰も加わった。
 その間、悪夢から目が覚めず、呆けたままの凛に、化け物と化した千佳が、鋭い牙を向けていた。
グォォォォォォ・・・・・!!
 ところが、再び千佳が悶え苦しみだした。
 それどころか、そのその悍ましい姿は、まるで水滴が垂れるように、ボタボタと朽ち果てていく。
「な…なんなの……!?」
 様子を見ながら戦っていた優里は、思わず気を取られてしまう。
 その隙を逃さなかったムッシュと白陰。
 一気に優里を抑えこんでしまった。
 全ての肉体が崩れ落ち、水たまりのように液状化した千佳。
「あ…………?」
 凛も、ただ呆然と見つめるしかなかった。
 すると、再びムクムクと液体が膨れ上がっていく。
 そして、徐々に徐々に・・それは人の姿を形成していった。
「いったい、何が起こっておるのじゃ……?」
 さすがに嫦娥にも意味がわからない。
 優里を取り押さえた、ムッシュも白陰も、無言で眺めている。
 
 その姿は、全裸の一人の少女・・・。 
 そう、獣人化……怨獣鬼の姿に変わる前の、千佳の姿であった。
 だが、その肌は褐色で、瞳は緑色に光っていた。
 完全に少女の姿に形成されると、千佳(?)は、何かを求めるように辺りを見渡した。
 そして、ムッシュに目をつけると、
「ねぇ、アンタのその服……ええやね。 ウチにも分けてくれへん?」
 と問いかけた。
「ほぅ、なかなか目の付け所がいいですな。よろしい、分け与えましょう!」
 ムッシュはそう言って、懐からもう一着の、厨房用の服を取り出した。
「お…おぬし、なんでそんな物、持ち歩いておるんじゃ!?」
 思わず、嫦娥がツッコむ。
「吾輩、身だしなみに気を使うのでな」
 ムッシュから渡された厨房用の服を着こなすと、千佳はマジマジとその姿を眺めた。
 そして、満足したような笑みを浮かべると、
「うん、ええ感じやね♪」
 人差し指で軽く唇に触れ、投げキッスのような仕草をした。
「どこかで似たような輩を見かけたな・・・・」
 白陰がしかめっ面で、ツッコむように呟く。
「ね…ねぇ……、貴方…千佳……よね?」
 腰を抜かし、呆然と眺めていた凛が呟くように問いただした。

「ウチか・・? ウチは………
 そう! ウチの名は、パティシエール……。パティシエール・サイトーと呼んでな!」
 
妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(4)

 千佳……いや、パティシエールは、満面の笑みでそう答えた。
「いったい、何がどうなっておるのじゃ?」
 そう呟く嫦娥に、
「あの千佳という娘は短期間で、妖樹化・果実化・妖怪化・妖怪との融合・そしてムッシュの血を入れ、怨獣鬼と化した。
 だが、あまりに短期間で多くの変化をしたために、細胞が耐え切れず崩壊してしまった。
 にも関わらず、最も強く残った想いが、その肉体を一からを蘇生させた。としか思えん」
― 長く妖怪として生きているが、こんな事は初めてだ…… ―
 白陰も、目を丸くして語るしかなかった。
「凛……、ウチの大好きな、凛……」
 パティシエールは、優しく凛の頬を撫で回す。
「おっと、その娘もこちらの白い妖魔狩人同様、吾輩が美味しく頂く予定にしておる」
 ムッシュが横から釘を差した。
「美味しく頂く……? アンタが凛を……?」
 パティシエールがムッシュに問い返した。
 その目は、完全に座っている。
「誰に向かって言うとんねん!? ウチはパティシエール……、菓子作りの職人や! そして、アンタごときに凛を料理されるくらいなら、ウチが美味しい菓子にしてやんよ!」
 パティシエールは、そう言って凛を抱きしめた。
「なぁ…凛。 凛もウチに菓子にされて食べられた方がええやろ?」
「わ……わたしは、誰にも…食べられたく…ない……」
「カワエエわ! ホンマ、カワエエわ……。食べちゃいたいくらいって言葉が、ホンマ…ピッタシやな!」
「わたしの話を聞いて・・・」
 凛は完全に困惑している。
「オッサンはオッサンらしく、そっちのオバハンを調理したらええねん! ま…、たいした料理はでけへんやろけどな!」
「オバハン…って、私の事!? 私はこれでも十七歳……」
 優里が自ら置かれた立場を忘れて、突っ込んだ!
「ふむ……? それはもしかして、吾輩に喧嘩を売っておられるのかな?」
 ムッシュの目も段々座ってきた。
「まぁ、そう受け取ってもらっても結構やけど、言っとくけどウチは強いよ♪」
 不敵に笑うパティシエール、その全身から赤い妖気が溢れるように立ち込めている。
「し…信じられん、あのパティシエールという娘。妖気から推測すると、その戦闘力はムッシュと殆ど互角・・・!?」
 白陰が驚愕している。
 それを聞いた嫦娥の顔も青ざめる。
「そ……そうじゃ! お前さん達、二人共料理が得意なんじゃろ? だったら料理で勝負したらどうじゃ?」
 嫦娥が事を収めるように提案した。
「料理で対決……? うむ、悪くない!」
「じゃろ? そうじゃ…ムッシュも菓子を作れるじゃろ? 菓子対決はどうじゃ!?」
「ウチはええよ♪ でも、そっちのオッサンには不利やない? 変更してやろか?」
 相変わらず挑発気味のパティシエール。
「ふん、吾輩…この頭に、壱万ほどのレシピを記憶させておる。菓子の一つや二つ、まるで問題ない!」
 対してムッシュは、ドヤ顔で返した。
「それでは勝負は明日深夜。材料は今、各々が手にしている妖魔狩人でどうじゃ!?」
「ええよ♪」
「異存ない!」
「ま…まって、私たちが、食べられるの……?」
「嘘だよね……。千佳…嘘だと言って……」
 各々の思惑を他所に、今ここで、菓子対決の火蓋が切って落とされた。


 ここは、いつもの由子村に隣接する犬乙山、麓の洞窟。
 洞窟の隅には、縛られた優里が横たわっていた。
 優里は、霊力を封じ込むことができる、妖怪人参を煎じた粉を飲まされ、反撃の糸口すら掴めない状態であった。
 ムッシュは、人一人入るような大鍋を火に掛け、調理台の上には、大きな肉叩きハンマーを準備していた。
「いったい、どんなお菓子を作るんだ?」
 白陰が興味深そうに、ムッシュに問いかけた。
「ブラン・マンジェ…。白い食べ物と呼ばれ、白い妖魔狩人を材料にするなら、まさに最適の菓子。
 古くは、フランス上流貴族だけが口にすることができた、由緒ある物ですな」
 手際よく準備を済ませると、調理台の上に優里を横たわらせた。
「うぐ……うぐ……っ」
 猿轡をはめられ、一切声を出すことができない優里。
 ムッシュを凛と睨みつけるその瞳の中に、恐怖と怯えも見え隠れしていた。
「では・・!」
 ムッシュが肉叩きハンマーで、優里の腹を叩いた。
「うぐっ……」
 痛みで、思わず仰け反る優里。
 ムッシュはお構いなく、手足、胸…腰、まんべんなく叩いていく。
 ひっくり返しては叩き、ひっくり返しては叩き。
 肉も骨も、ぐにゃぐにゃになるまで叩き尽くすと、そのまま煮えたぎる大鍋の中に、優里を放り込んだ。
 グツグツと煮こまれ、大口を開け、ダラリと垂らした舌。
「このままブイヨン、アーモンドミルクと一緒に、まる一日煮込み続ける。それによって旨味はもちろん、皮に含まれるゼラチン質が、プヨプヨとした食感を作りあげるわけですな」
 ムッシュは大鍋を見つめ、自慢気にほくそ笑んだ。

 一方その頃パティシエールは、人間だった頃の自宅に戻り、全裸の凛を連れて浴場にいた。
 豪邸ならではの大きめな湯船に温めの湯を張り、その中で凛の身体を優しく揉みほぐしていた。
 それは、まるでガラス細工を取り扱う様に、ゆっくりと優しく丁寧に、凛の全身を揉みほぐしていく。
 かれこれ、小一時間程この状態だったため、凛はすっかりのぼせ上がっていた。
 パティシエールは時折、虚ろな凛の唇に自らの唇を重ねたり、舌を入れながら、「かわええ~♪」と、無邪気に喜んでいた。
 ある程度すると、洗い場にバスマットを敷き、その上で更に凛の身体を揉みほぐしていく。
 パティシエールの指先は、どこかの某殺人拳のように経絡秘孔を刺激し、その影響か?
 凛の身体は骨も肉も、まるで粘土のように軟らかくなっていく。
「あ……っ あぁぁ………」
 なのに凛は、恍惚とした表情で、甘い溜息を繰り返していた。
 パティシエールは、そんなグニャグニャの凛を、今度は肉団子の様に捏ね回しながら丸めていく。
 捏ねては丸めて・・・。
 やがて凛は、軟らかな球状になっていた。
「後は、グラス一杯のミルクを飲ませ、一晩寝かせれば美味しい生地になるで!」
 パティシエールは、ひと通りの作業を終えると、軽く凛にキスをし、大きな冷蔵庫に収納した。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(5)

 翌日、ムッシュは一晩煮込み続けた、鍋の様子を見ていた。
 大きな木のヘラを手にすると、鍋の中の優里に突き刺すように差し込んだ。
 するとヘラは、何の抵抗もなく優里の身体を突き抜ける。そのまま、何度も割るように優里の身体を裂いていく。
 そう、グニャグニャに軟らかくなるまで叩かれ、一晩煮こまれ続けた優里の肉体はドロドロの液状化しており、鍋の中で簡単に掻き回すことができた。
 元々、色白の優里の肌。アーモンドミルクも一緒に煮込んでいた為、それは具の無いクリームシチューのような状態になっていた。
 ムッシュは状態を確認するように、スプーンで一口分掬い、口に入れた。
 女子高生の独特の甘みが、鼻腺を通り抜ける。
「うむ、悪くない!」
 ムッシュは更に、ラム酒、レモンの汁、ヘーゼルナッツなどを入れて、味を整えた。
「これで器に盛り、後は冷やすのみだ!」
 
 こちらはパティシエール。
 冷蔵庫で一晩寝かされた凛は、見事に発酵しており、少し膨れ上がっていた。
 指で突くと、綿のように軟らかい。
 パティシエールは、素手で引き伸ばしながら、凛の身体を平らにしていった。
 優しく…優しく、手の平で撫でるように平らにしていく。
 すっかり円盤状まで平らになった凛を、指先でちょっとだけ摘み上げると、そのまま口に入れた。
 甘酸っぱい思春期の味が、脳に突き刺さる。
「やっぱ……ええわぁ~♪」
 思わず安堵の溜息が出た。
 最後に隠し味程度に、砂糖をひとつまみだけ振りかけてやった。
「あとは、オーブンで焼きあげるだけやね♪」

 その夜、対決は斎藤家、リビングで行われた。
 ちなみに、両親…使用人は、全て前日にパティシエールが殺害している。
 審査員は、白陰、嫦娥、そして拉致され無理やりこの席に付けさせられた、金鵄とセコ。
「それでは今から、ムッシュ・怨獣鬼対パティシエール・サイトーによる、お菓子対決を始めるわい」
 進行は嫦娥が行うことにした。
「まずは、ムッシュからじゃ!」
 嫦娥の合図で、ムッシュがワゴンを押して入ってきた。
 一つ一つ、各自のテーブル上に、ガラス製のデザートカップを並べる。
「これが、吾輩の用意した菓子、ブラン・マンジェである」
「ほぉーっ!」
 白陰が、感心したように驚きの声を漏らした。
 デザートカップの中には、まるで『ババロア』によく似た、白いゼリー状の物体が盛りつけられていた。
 白陰、嫦娥、スプーンを差し込み一口分掬ってみる。見た目はババロアのように綺麗な乳白色だが、ババロアよりもゼリーのように、プルプルと震える。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(6)

 口元へ持って行くとラム酒の香りがほのかに鼻をくすぐる。
「どれどれ……?」
 二人は口に入れてみた。
「おっ!? プルプル感が口の粘膜にまとわり付くくせに、それでいてベタベタした感触が無い!」
「おおっ! チーズのようなコクと、甘みが口の中に広がったわい! これが、白い妖魔狩人の味……!?」
「更にレモンの酸味、ナッツの風味が続いてくる! これは凄い…!」
「まさに、デザートの管弦楽団じゃ…!」
 絶賛しながら、ブラン・マンジェを味わう二人。
「そっちの二人もどうかね?」
 ムッシュが、金鵄とセコの二人にも薦めた。
「冗談じゃない! 僕達が優里で作ったお菓子なんか、食べられるものか!?」
 猛烈に反発する金鵄。
「もし食べぬなら、今すぐこの村の住民を、全員抹殺してくるが・・それでも良いかね?」
 ムッシュが、すました表情で脅してくる。
 だが、コイツはやると言ったら、やる。
 金鵄もセコもそれがわかっている。
 仕方なく、カップの菓子に口を付けた・・・・。
― 旨い……、悲しいことに、とろけるような甘さとコクが、全神経を電流が走るように刺激する… ―
 一度口にしたら、あまりの美味さに、二人共止まらなくなっていた。
「君もどうかね?」
 ムッシュは、隅で眺めていたパティシエールにも薦めた。
 軽く頷いたパティシエールは、カップを受け取り、一口味わった。
「なるほど~、でかい口叩くだけあって、たしかにええ味やわ!」

「次はパティシエールの番じゃ」
 嫦娥がパティシエールに声を掛けた。
 パティシエールは大皿をテーブルの中央に置いた。
「ほぅ!? もしかして、それは『ガレット・ペルージェンヌ』かね?」
 ムッシュが、大皿に盛られた、大きな円盤状の焼き菓子を見て話した。
「どういう菓子じゃ?」
 嫦娥が問い返す。
「なに…、フランスの田舎に伝わる、郷土料理ですな」
 ムッシュはそう答え、パティシエールに向かうと…
「こんな田舎菓子で、吾輩のブラン・マンジェに張り合う気かね?」
 とせせら笑った。
「ふん、戯言は食べてから言いや!」
 パティシエールも負けていない。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第14話(7)

 大皿のガレット・ペルージェンヌをピザのように切り分けると、一枚一枚小皿に取り、それぞれの前に並べた。
「たしかに見た目は、先程の方が高級感もあり美味そうだったが・・・」
 白陰は一枚手にとると、口の中に入れた。
 嫦娥も後に続いて、口に入れる。
「な…なにっ!?」
 白陰は思わず声を上げた!
 だが…その後、白陰も嫦娥も、まるで言葉を忘れたかのように、黙々と真剣にガレット・ペルージェンヌを食している。
 強引に食べさせられた金鵄もセコも、それが元は凛であったこと忘れたかのように、ひたすら食べ続けている。
「うむ……? 皆…どうしたというのだ!?」
 さすがに異様な雰囲気と感じ取ったムッシュ。
「この菓子に、いったい何があったのいうのだ?」
 ムッシュはそう言って、ガレット・ペルージェンヌを一枚手に取り口に入れた。
「こ……これは……!?」
 驚きのあまり、手にしたガレットを落としそうになる。
「表面はサクサクとした感触、だが…中はまるで生クリームのように、ふんわり軟らかい……!!
 しかも…ミルキーで、それでいて酸っぱさと甘さの調和がとれており、素材である黒い妖魔狩人の味を、100%…完全に引き出している。
 それは菓子というより、まるで大自然に育てられた、最高の果実を食しているような、そんな錯覚に陥ってしまう」
 呆然とした表情のムッシュ・・・
「吾輩のブラン・マンジェとはレベルが違う・・・。この差はいったいどこから・・?」
「一つは、素材の引き出し方や……!」
 パティシエールは、ムッシュの悩みに答えるように語りかけた。
「オッサンの調理知識や技術はたしかに凄い。ぶっちゃけ…超一流や! だけど、十代の女の子を調理するにあたっては、それがネックになったんやな!」
「知識や技術がネックに・・・?」
「せや! どんな十代の女の子が可愛いか…、よう考えてみ!? ごっつ化粧して着飾った子が可愛いと思うか?」
「た…たしかに! 十代女子はむしろ、素っぴんで自然のままの子の方が逆に可愛く見える!」
「料理も一緒や! 十代女の子を材料にするなら、アレコレ入れまくったらアカン。出来る限り、素材の味だけで勝負した方がいいんや!」
 ムッシュは言葉が返せなかった。
「そして、もう一つや! これが一番大事……。料理は愛情や!!」
「愛情……? そんなくだらん物が、何の役に立つというのですかな?」
「一つ質問や。 オッサン……下ごしらえで肉軟らかくすんの、どうやった?」
「それはもちろん、肉叩きハンマーで叩いて軟らかくしたが・・・?」
「そんな事したら、女の子の肌の繊維も肉も、ボロボロになってしまうやろ? そしたら、舌触りも落ちるやんか!」
「う……!?」
「それだけやない。 肉体的にも精神的にも苦痛を与えると、β―エンドルフィン…つう、脳内物質を出すんや。 コレ…鎮痛剤みたいなもんでな、肉質を麻痺させるようなもんやから、当然味も落ちるに決まってるやろ!」
「では貴殿はどうやって?」
「ウチは徹底して、愛情タップリのマッサージした。
 優しく優しく・・・凛がウットリするくらい、ええ気持ちになるように…な!
 だから肉も繊維も傷つかん。
 そして人間…気持ちええとな、ドーパミンつうホルモンを出すんや。 これによって更に快楽も高まって肉質も向上し、より美味くなるっつうわけや!」
 ムッシュは言葉が無かった・・・
 皆は、二人のやりとりを黙って見つめていた。
「それじゃ、勝敗は・・・」
 嫦娥がそう切りだすと
「いや、吾輩の完敗だ・・・・・」
 初めて見せる、ムッシュの項垂れた姿。
 常に自信に満ちあふれているムッシュを見てきた白陰や、嫦娥にとっては、『レア』な瞬間であった。
 パティシエールは、まるで武士の情けと言わんばかりに、その場を立ち去ろうとした。
 その時・・・
「待った! もし…貴殿さえ良ければ、また吾輩と勝負をしてもらえんだろうか? 吾輩…貴殿のような強者と出会い、久しぶりに気分が高揚した」
 ムッシュが目を爛々と輝かせながら、声を掛けた。
 その言葉にパティシエールは、無言で首を振った。
「な…なんですと!? もはや吾輩では、相手にならないというのですかな?」
「せやない……」
 パティシエールは振り返り、ニッコリ微笑むと・・
「ウチ、女の子は凛しか興味ないねん。 凛を調理し終えた今……、他の女の子を料理する気なんて、サラサラ無いわ!」
 そう言って、ガハハッ・・と笑い出した。


 その後、妖魔狩人のいなくなった柚子村も、そして日本も、中国妖怪やムッシュの手に落ちていった。
 ムッシュは相変わらず、人間を家畜化し、ソレの料理を極める毎日を送っていた。

 だがパティシエール・サイトーの噂は、以来……、一切聞こえる事はなかった。

バッド・エンド

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