2014.08.10 Sun
妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話「姑獲鳥の子どもたち -中編-」
三日後、立派な樹木と化したその枝には、大きな果実が実っていた。
朝日に透かされたその実には、羽を閉じた大きな鳥のような姿が写っている。
「もう…落ちるころじゃな?」
白陰が新たな少女を妖樹化したと聞き、嫦娥も様子を見に来ていた。
そう言った矢先、その実は枝から千切れ落ち、大地に転がる。
中から、コツ…!コツ…!と雛が卵の殻を突くような音が聞こえ、ついに実が真っ二つに割れた。
現れたのは、人間よりやや大きめの鳥。…と言ってもダチョウのような姿ではなく、ヤマドリに近い。
「アレは、姑獲鳥!? なぜ、そのような者が・・・?」
姑獲鳥(こかくちょう)、中国伝承上の鳥の妖怪。
幼児を攫い、時には人間すら襲う、鬼神の一種と呼ばれる妖怪である。
その姿を見た嫦娥は驚いた。 それもそのはず、今まで妖樹の種を飲んだ人間は、牙や長い爪を持った妖怪として生まれ変わっていたからだ。
ただし、過去一度だけ例外がある。
妖怪として生まれ変わった少女に、再度種を飲ませ・・・大蜘蛛の妖怪、例の蜘蛛女を作り出した時である。
「あの時と同じように、種を二つ飲ませてみた。ただし、今度は一度に二粒だがな・・・」
「な…なんじゃと!?」
「その結果、妖樹の種の秘密が、少し解った。」
白陰はそう言って、種の入った袋を取り出した。
「知っての通り、この種は妖木妃様の身体から産み出されている。言わば、妖木妃様の子種のようなものだ」
「うむ…」
「妖木妃様は、中国本土で多くの妖怪と戦ってきている。そして、打ち破ってきた妖怪共の血肉を食らってきている。 あの大蜘蛛妖怪も、姑獲鳥もだ・・・」
「それは、もしかして・・・」
「そうだ、食らってきた妖怪の血肉、つまり今の時代で言う遺伝子情報があの種に含まれているのだ」
白陰は袋の中身を朝日に照らす。
「一粒人間に飲ませれば、妖怪としての単純な妖力や術などが、その人間に移しこまれるだけだが、二粒飲ませれば、能力そしてその姿までの情報が移しこまれてしまう」
「つまり、元の妖怪の複製が出来上がるようなものじゃな?」
「そういうことだ」
「ならば、常に二粒の種を飲ませた方が強い妖怪が産まれ、我々にもよいのでないかの?」
嫦娥の言葉に白陰は首を振った。
「一つは、妖木妃様がそれ程大量に種を産み出す事ができない。もう一つは、あまりに強力な妖怪が産み出されても、制御できないかもしれないという問題が残る」
「どういう意味じゃ?」
「過去、妖木妃様が喰らって来た妖怪には、相当な強敵もいたかも知れぬ。もし、そんな者が再び産み出され、再度妖木妃様の敵になったとき・・・」
「なるほど、返り討ちを喰らう可能性もあるというわけじゃな?」
「妖木妃様はソレを避けるために、あえて一粒ずつしか人間に飲ませてこなかったのかも知れぬ」
「たしかに、可能性のある話じゃわい!」
嫦娥は、そう言って産まれたばかりの姑獲鳥に目をやった。
なんと、姑獲鳥は自身の羽や毛を、まるで衣服を脱ぐように剥ぎ落としていく。
そしてそこに現れたのは、あの涼果の姿であった。
「うむ……、あの時の『姫』と一緒じゃ!」
驚く嫦娥を他所に、白陰は三日前…涼果が落とした携帯を手渡す。
携帯を開き、中を確認する涼果。その画面には「休んでいるけど、死んだ?」「もう来なくていいよ」等の、琉奈を始めとする里美、そしてその他の女子から送られてくる、あのメールの文字が見える。
だが、涼果はそのメールを読んで、悲しむ素振りを見せるどころか、不敵に微笑む。その瞳はまるで血のように赤く光っていた。
その日の放課後。三年の教室では・・・
「ねぇ、琉奈・・・、涼果のヤツ、全然登校して来なくなったね」
里美が嬉しそうに話しかけてきた。
「うん、ホントにくたばっちゃったかな?」
そう言って、空席である涼果の席に目をやった。だが、その視線は、どことなく寂しそうである。
その時、
「ゴメンネ、まだ…くたばってなかったわ♪」
…と、小馬鹿にしたように、涼果が教室へ入ってきた。
涼果は自分の席に腰掛けると、琉奈を始めとする虐めのグループを見渡し、不敵に微笑む。
自信に満ち溢れた不敵な笑み、これがあの大人しい涼果なのか?
琉奈は夢でもみているような気分だ。
「ねぇ……、この『休んでいるけど、もう死んだ?』ってメール送ったのは、誰?」
涼果は自身の携帯を開き、琉奈達に尋ねる。
「知らねぇーよ、バーカ!!」
里美がおちょくるように返答した。
「あ、そう……! じゃあ、まず…アンタからでいいや♪」
涼果はそう言うと、自分の髪の毛を3~4本抜き取り、ふぅ~っ…と、息を吹きかけた。
宙に舞う、数本の髪の毛。
それは徐々に膨れ上がり、真っ赤な子どもの姿に変わっていった。
それは、妖怪『赤子』。真っ赤な全裸の子どもの身なりで、集団で現れると言われているが、それ以外は全く謎の妖怪である。
「きゃあああああっ!!」
「な…なんだ、あれっ!?」
その異様な光景に、教室中に悲鳴が巻き起こる。
赤子達は、里美に近寄り手足を押さえつけた。
「や、やめろっ! 離せっ!!」
必死で跳ね除けようとする里美。だが、身なりは子どもでも赤子達の力は強く、ピクリともしない。
そこへ一人の赤子が『哺乳瓶』を手にし、里美の眼前にやってきた。
そして乳首の部分を口の中に押しこむ。
「…んぐっ・・んぐっ・・!」
強引に乳のような液体を飲ませていくと・・・
「さ……里美……っ!?」
その光景を見つめていた、琉奈を始めとする虐めグループに、驚愕の表情が浮かんだ!
里美の手足が短くなり、頭部も一回り…二回りと小さくなり、更に胴もドンドン小さくなっていく!
数分後には、ブカブカのセーラー服の中で泳ぐ、一人の小さな赤ん坊の姿が!!
「きゃああああああっ!!」
再び、教室内に絶叫が走る。
涼果は次々に髪の毛を妖怪赤子に変化させると、生徒たちへ向かわせた。
「に…逃げろっ!!」
教室内に残っている、全ての生徒が廊下に飛び出す!
更に、琉奈や残り3人の取り巻きも飛び出そうと扉へ駆け寄る。
だが、それを阻むように、赤子達が立ちはだかった。
教室の隅に追い込まれた虐めグループは、それぞれ赤子に取り押さえられ、哺乳瓶を口に突っ込まれる。
唯一、琉奈だけは、涼果の前に引き渡された。
「涼果・・・なんなの、これ!? 貴方…本当に涼果なの?」
ガタガタと怯える琉奈。
「あたし? そうよ…本物の涼果よ! ただ、神様に少しばかり力を授けてもらったけどね」
そう言って微笑む涼果の瞳は、またも赤く光っている。
更に涼果は、まるで品定めをするように、琉奈の顔……全身をマジマジと眺めると、
「やっぱり琉奈は、美人で可愛いよね。 あたしから見ても惚れ惚れするわ」
と、優しく髪を撫ではじめる。
「小さい頃は大人しくて、とてもイイ子ちゃんだったのに・・・。今ではちょっと綺麗になったからって、あたしをゴミでも見るような目で眺めて・・・」
「ち…違うの……涼果! 私は……私は……」
「五月蝿いっ!!」
涼果は一喝すると、いきなり自身の唇を、琉奈の唇に押し当てた。
「あ……」
「り~~~な~~~~♪ 今から、小さいころのような……イイ子ちゃんにしてあげるね!」
涼果は、そう言って琉奈の頭部を抱え込み、哺乳瓶を口の中に押し込んだ!
「や……んぐっ、だ……んぐっ……」
顔を背け、必死に抵抗する琉奈であったが、徐々に口の中に哺乳瓶の乳が流れ込む。
「んぐ……んぐ……」
一口、二口と飲み続けていく度に、まるで幼いころ、母親に抱きかかえられているような気分になってきた。
ゴクッ…ゴクッ……!
やがて抵抗する気もすっかり失せ、母乳を与えられている赤子のように、安らかな笑みが浮かぶ。
「琉奈ちゃん、イイ子になってきたわね!」
微笑む涼果の腕の中で、琉奈の身体は徐々に、徐々に小さくなっていく!
「ま…ん…ま……」
数分後には、琉奈もすっかり赤ん坊になっていた。
涼果は赤ん坊になった琉奈を机の上に寝かせると、ダボついた制服を脱がせた。
更にブカブカのブラジャーを外し、下半身に被さっているショーツに手を伸ばす。
「ハート模様のショーツ・・・。意外ね! 歳相応の可愛いのを履いていたんだ♪」
そう言ってショーツを引き落とすと、お尻の下に白い布地を広げた。
― えっ……!? 私…いったい……?―
夢から目覚めたように、琉奈は自分の置かれている状況を見つめなおした。
そう、身体は赤ん坊になっているが、意識はまだ元のままのようだ。
「うん? 今…オシメを取り替えるところよ」
見ると、琉奈の可愛い桃のようなお尻に、涼果が嬉しそうにベビーパウダーを塗っている。
― や……やめて……っ!?―
あまりの恥ずかしさに、必死に声を上げようとする琉奈。
だが、言葉を発声することができず、泣き声しか上がらない。
「ふふふ……♪ 綺麗で軟らかいモチ肌。 この産まれたままの姿を写真に撮ったら、琉奈のファンや、男子生徒はいくら位で買うかしら?」
― や…やだ、お願い! 絶対に…それだけは止めて!!―
必死で泣き叫ぶ赤ん坊の琉奈。
「あらあら、さっきから泣き止まないわね。 もっとおっぱいが欲しいの?」
涼果は新たな哺乳瓶を琉奈に咥えさせる。
― 違う、そうじゃない……! 元に戻して!!―
心のなかでどんなに叫んでも、口から発するのは、ただの泣き声。
しかも、哺乳瓶の乳を飲まされていくと、次第にそれすらできなくなり、頭の中が真っ白になっていく。
「んにゃ……んにゃ……」
自分でもわかる。乳を飲まされていく度に、思考まで赤ん坊に遡っていくことを。
そこへ・・・
「そこまでよ、やめなさい!」
扉の前で、霊装し弓を手にした、凛が立っていた。
今からほんの数分前、凛は部活の件で心美のクラスを訪ねてきた。
そこで凛が目にしたものは、教室の前で逃げまとう生徒達。 それを追う…2~3匹の真っ赤な子どもの姿をした妖怪、赤子。
更に廊下に転がるように寝転んでいる数人の赤ん坊の姿。
中には制服以外のビジネススーツに包まれた赤ん坊もいた事から、事態を聞き、駆けつけた教師すら赤ん坊に変えられたと思われる。
ただならぬ事態と察した凛は、すぐに霊装し、赤子たちを葬っていく。
そして教室に飛び込むと、いつもより強めの妖気が漂っていた。
隅には三人の赤ん坊の姿が見える。虐めのグループの成れの果ての姿。
奥の机の上には、オシメに包まれた可愛らしい赤ん坊。
そして、その前に立ちふさがる…赤い妖気を発する、涼果。
「そこまでよ、やめなさい!」
凛は霊光矢を向ける。
涼果はしばらく、記憶を探るように凛を見つめていたが
「ああ……、トイレの時、止めに入ってくれた一年生ね。 …で、その弓はどういう意味?」
と冷めた眼差しで問い返す。
「凛っ!」
実体化した金鵄が、遅れて飛び込んできた。そして、現状を見渡し
「これは妖怪姑獲鳥の能力・・・! またも中国妖怪の仕業か!?」
と呟いた。
「先輩、おそらく虐めの仕返しだと思うけど、こんな事…人間がやるべき事じゃありません。直ぐ様、皆さんを元に戻し、解放してあげてください!」
「嫌・・・だと言ったら、その弓であたしを射るわけ?」
「はい。不本意だけど・・・・」
「そう……、トイレの時はあたしの味方だと思ったけど、やっぱり貴方も敵なわけね?」
パチンッ!
まるで合図を送るように、指を鳴らした涼果。
その音に反応した赤子達が、一斉に凛に襲いかかる。
間合いを開け、一匹一匹射止める凛。
だが、狭い上に、数多くの机や椅子等の障害物がある教室内。
凛の動ける範囲は予想外に狭く、また一斉に襲いかかってくる赤子に対し、複数の敵に適していない弓では、あまりに不利だった。
瞬く間に凛は取り押さえられ、涼果の前に跪かされた。
凛の顎を掴み、その顔をマジマジと眺める涼果。
「ふ~ん……、十人並みだと思ったけど、こうして見ると、意外に可愛い顔立ちなのね」
涼果はそう言って口元を緩ませると、手にした哺乳瓶を凛の口の中に押し込んだ。
「凛っ!?」
大慌てで、その場を飛び去る金鵄。
優里がいればいいのだが、今すぐには無理だ!
となれば、彼女に助けを求めるしかない!
帰宅途中の千佳を見つけ、教室に舞い戻ったのは、それから十分以上経っていた。
金鵄と千佳が教室に入ると、相も変わらぬ異様な光景。
だが、千佳はそれを見ても、眉一つ動かさない。
極自然に、受け入れている。
― ただ単に冷静なわけではない。おそらく惨劇を好む妖怪の血が、何とも思わなくしているんだろう―
金鵄は、そう感じ取った。
涼果は、教室に入ってきた千佳に気づくと、微笑みながら話しかける。
「貴方もトイレの時、助けに入ってくれた一年生ね」
「うん・・あの時の先輩……? そっか、これは先輩の仕業っちゃね!?」
「そうよ。 貴方もあたしに説教するつもり?」
涼果の問いに、千佳は首を振ると
「んにゃ。ウチ…見てわかると思うけど、身体…平均よりうんと小さいっちゃよ。小学低学年の頃、それで結構虐められたっちゃね。 だから、先輩の気持ち……、ようわかる! ウチでも仕返しするかもしれんね」
そう言って、ニッコリ微笑んだ。
「それにウチ、何が正しいとか……何が悪いとか、ようわからん。 そういうの、その時その場で、凛から教えてもらっているから」
千佳の言葉に涼果は今までにない笑顔を見せ、
「理解してもらえて嬉しいわ。 貴方には以前にも助けられたし、だから…貴方は赤ん坊に変えないでいてあげる!」
そう答えた。
「それは、ありがと! ところで先輩、凛はどこ行ったか知らん? 先に来たと思うっちゃけど」
「凛……? ああ、あのサイドテールの一年生? それなら・・・」
涼果はそう言うと、とある机と机の間を指さした。
そこには、小さな赤ん坊の姿が。
「その子よ・・・」
それを見た、千佳の目つきが変わった。
そして、涼果にこう尋ねた。
① なんで、凛に手を出したっちゃ!?
② あの子、ウチ…貰うていいか?
----------------------------------------------------------------
『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
朝日に透かされたその実には、羽を閉じた大きな鳥のような姿が写っている。
「もう…落ちるころじゃな?」
白陰が新たな少女を妖樹化したと聞き、嫦娥も様子を見に来ていた。
そう言った矢先、その実は枝から千切れ落ち、大地に転がる。
中から、コツ…!コツ…!と雛が卵の殻を突くような音が聞こえ、ついに実が真っ二つに割れた。
現れたのは、人間よりやや大きめの鳥。…と言ってもダチョウのような姿ではなく、ヤマドリに近い。
「アレは、姑獲鳥!? なぜ、そのような者が・・・?」
姑獲鳥(こかくちょう)、中国伝承上の鳥の妖怪。
幼児を攫い、時には人間すら襲う、鬼神の一種と呼ばれる妖怪である。
その姿を見た嫦娥は驚いた。 それもそのはず、今まで妖樹の種を飲んだ人間は、牙や長い爪を持った妖怪として生まれ変わっていたからだ。
ただし、過去一度だけ例外がある。
妖怪として生まれ変わった少女に、再度種を飲ませ・・・大蜘蛛の妖怪、例の蜘蛛女を作り出した時である。
「あの時と同じように、種を二つ飲ませてみた。ただし、今度は一度に二粒だがな・・・」
「な…なんじゃと!?」
「その結果、妖樹の種の秘密が、少し解った。」
白陰はそう言って、種の入った袋を取り出した。
「知っての通り、この種は妖木妃様の身体から産み出されている。言わば、妖木妃様の子種のようなものだ」
「うむ…」
「妖木妃様は、中国本土で多くの妖怪と戦ってきている。そして、打ち破ってきた妖怪共の血肉を食らってきている。 あの大蜘蛛妖怪も、姑獲鳥もだ・・・」
「それは、もしかして・・・」
「そうだ、食らってきた妖怪の血肉、つまり今の時代で言う遺伝子情報があの種に含まれているのだ」
白陰は袋の中身を朝日に照らす。
「一粒人間に飲ませれば、妖怪としての単純な妖力や術などが、その人間に移しこまれるだけだが、二粒飲ませれば、能力そしてその姿までの情報が移しこまれてしまう」
「つまり、元の妖怪の複製が出来上がるようなものじゃな?」
「そういうことだ」
「ならば、常に二粒の種を飲ませた方が強い妖怪が産まれ、我々にもよいのでないかの?」
嫦娥の言葉に白陰は首を振った。
「一つは、妖木妃様がそれ程大量に種を産み出す事ができない。もう一つは、あまりに強力な妖怪が産み出されても、制御できないかもしれないという問題が残る」
「どういう意味じゃ?」
「過去、妖木妃様が喰らって来た妖怪には、相当な強敵もいたかも知れぬ。もし、そんな者が再び産み出され、再度妖木妃様の敵になったとき・・・」
「なるほど、返り討ちを喰らう可能性もあるというわけじゃな?」
「妖木妃様はソレを避けるために、あえて一粒ずつしか人間に飲ませてこなかったのかも知れぬ」
「たしかに、可能性のある話じゃわい!」
嫦娥は、そう言って産まれたばかりの姑獲鳥に目をやった。
なんと、姑獲鳥は自身の羽や毛を、まるで衣服を脱ぐように剥ぎ落としていく。
そしてそこに現れたのは、あの涼果の姿であった。
「うむ……、あの時の『姫』と一緒じゃ!」
驚く嫦娥を他所に、白陰は三日前…涼果が落とした携帯を手渡す。
携帯を開き、中を確認する涼果。その画面には「休んでいるけど、死んだ?」「もう来なくていいよ」等の、琉奈を始めとする里美、そしてその他の女子から送られてくる、あのメールの文字が見える。
だが、涼果はそのメールを読んで、悲しむ素振りを見せるどころか、不敵に微笑む。その瞳はまるで血のように赤く光っていた。
その日の放課後。三年の教室では・・・
「ねぇ、琉奈・・・、涼果のヤツ、全然登校して来なくなったね」
里美が嬉しそうに話しかけてきた。
「うん、ホントにくたばっちゃったかな?」
そう言って、空席である涼果の席に目をやった。だが、その視線は、どことなく寂しそうである。
その時、
「ゴメンネ、まだ…くたばってなかったわ♪」
…と、小馬鹿にしたように、涼果が教室へ入ってきた。
涼果は自分の席に腰掛けると、琉奈を始めとする虐めのグループを見渡し、不敵に微笑む。
自信に満ち溢れた不敵な笑み、これがあの大人しい涼果なのか?
琉奈は夢でもみているような気分だ。
「ねぇ……、この『休んでいるけど、もう死んだ?』ってメール送ったのは、誰?」
涼果は自身の携帯を開き、琉奈達に尋ねる。
「知らねぇーよ、バーカ!!」
里美がおちょくるように返答した。
「あ、そう……! じゃあ、まず…アンタからでいいや♪」
涼果はそう言うと、自分の髪の毛を3~4本抜き取り、ふぅ~っ…と、息を吹きかけた。
宙に舞う、数本の髪の毛。
それは徐々に膨れ上がり、真っ赤な子どもの姿に変わっていった。
それは、妖怪『赤子』。真っ赤な全裸の子どもの身なりで、集団で現れると言われているが、それ以外は全く謎の妖怪である。
「きゃあああああっ!!」
「な…なんだ、あれっ!?」
その異様な光景に、教室中に悲鳴が巻き起こる。
赤子達は、里美に近寄り手足を押さえつけた。
「や、やめろっ! 離せっ!!」
必死で跳ね除けようとする里美。だが、身なりは子どもでも赤子達の力は強く、ピクリともしない。
そこへ一人の赤子が『哺乳瓶』を手にし、里美の眼前にやってきた。
そして乳首の部分を口の中に押しこむ。
「…んぐっ・・んぐっ・・!」
強引に乳のような液体を飲ませていくと・・・
「さ……里美……っ!?」
その光景を見つめていた、琉奈を始めとする虐めグループに、驚愕の表情が浮かんだ!
里美の手足が短くなり、頭部も一回り…二回りと小さくなり、更に胴もドンドン小さくなっていく!
数分後には、ブカブカのセーラー服の中で泳ぐ、一人の小さな赤ん坊の姿が!!
「きゃああああああっ!!」
再び、教室内に絶叫が走る。
涼果は次々に髪の毛を妖怪赤子に変化させると、生徒たちへ向かわせた。
「に…逃げろっ!!」
教室内に残っている、全ての生徒が廊下に飛び出す!
更に、琉奈や残り3人の取り巻きも飛び出そうと扉へ駆け寄る。
だが、それを阻むように、赤子達が立ちはだかった。
教室の隅に追い込まれた虐めグループは、それぞれ赤子に取り押さえられ、哺乳瓶を口に突っ込まれる。
唯一、琉奈だけは、涼果の前に引き渡された。
「涼果・・・なんなの、これ!? 貴方…本当に涼果なの?」
ガタガタと怯える琉奈。
「あたし? そうよ…本物の涼果よ! ただ、神様に少しばかり力を授けてもらったけどね」
そう言って微笑む涼果の瞳は、またも赤く光っている。
更に涼果は、まるで品定めをするように、琉奈の顔……全身をマジマジと眺めると、
「やっぱり琉奈は、美人で可愛いよね。 あたしから見ても惚れ惚れするわ」
と、優しく髪を撫ではじめる。
「小さい頃は大人しくて、とてもイイ子ちゃんだったのに・・・。今ではちょっと綺麗になったからって、あたしをゴミでも見るような目で眺めて・・・」
「ち…違うの……涼果! 私は……私は……」
「五月蝿いっ!!」
涼果は一喝すると、いきなり自身の唇を、琉奈の唇に押し当てた。
「あ……」
「り~~~な~~~~♪ 今から、小さいころのような……イイ子ちゃんにしてあげるね!」
涼果は、そう言って琉奈の頭部を抱え込み、哺乳瓶を口の中に押し込んだ!
「や……んぐっ、だ……んぐっ……」
顔を背け、必死に抵抗する琉奈であったが、徐々に口の中に哺乳瓶の乳が流れ込む。
「んぐ……んぐ……」
一口、二口と飲み続けていく度に、まるで幼いころ、母親に抱きかかえられているような気分になってきた。
ゴクッ…ゴクッ……!
やがて抵抗する気もすっかり失せ、母乳を与えられている赤子のように、安らかな笑みが浮かぶ。
「琉奈ちゃん、イイ子になってきたわね!」
微笑む涼果の腕の中で、琉奈の身体は徐々に、徐々に小さくなっていく!
「ま…ん…ま……」
数分後には、琉奈もすっかり赤ん坊になっていた。
涼果は赤ん坊になった琉奈を机の上に寝かせると、ダボついた制服を脱がせた。
更にブカブカのブラジャーを外し、下半身に被さっているショーツに手を伸ばす。
「ハート模様のショーツ・・・。意外ね! 歳相応の可愛いのを履いていたんだ♪」
そう言ってショーツを引き落とすと、お尻の下に白い布地を広げた。
― えっ……!? 私…いったい……?―
夢から目覚めたように、琉奈は自分の置かれている状況を見つめなおした。
そう、身体は赤ん坊になっているが、意識はまだ元のままのようだ。
「うん? 今…オシメを取り替えるところよ」
見ると、琉奈の可愛い桃のようなお尻に、涼果が嬉しそうにベビーパウダーを塗っている。
― や……やめて……っ!?―
あまりの恥ずかしさに、必死に声を上げようとする琉奈。
だが、言葉を発声することができず、泣き声しか上がらない。
「ふふふ……♪ 綺麗で軟らかいモチ肌。 この産まれたままの姿を写真に撮ったら、琉奈のファンや、男子生徒はいくら位で買うかしら?」
― や…やだ、お願い! 絶対に…それだけは止めて!!―
必死で泣き叫ぶ赤ん坊の琉奈。
「あらあら、さっきから泣き止まないわね。 もっとおっぱいが欲しいの?」
涼果は新たな哺乳瓶を琉奈に咥えさせる。
― 違う、そうじゃない……! 元に戻して!!―
心のなかでどんなに叫んでも、口から発するのは、ただの泣き声。
しかも、哺乳瓶の乳を飲まされていくと、次第にそれすらできなくなり、頭の中が真っ白になっていく。
「んにゃ……んにゃ……」
自分でもわかる。乳を飲まされていく度に、思考まで赤ん坊に遡っていくことを。
そこへ・・・
「そこまでよ、やめなさい!」
扉の前で、霊装し弓を手にした、凛が立っていた。
今からほんの数分前、凛は部活の件で心美のクラスを訪ねてきた。
そこで凛が目にしたものは、教室の前で逃げまとう生徒達。 それを追う…2~3匹の真っ赤な子どもの姿をした妖怪、赤子。
更に廊下に転がるように寝転んでいる数人の赤ん坊の姿。
中には制服以外のビジネススーツに包まれた赤ん坊もいた事から、事態を聞き、駆けつけた教師すら赤ん坊に変えられたと思われる。
ただならぬ事態と察した凛は、すぐに霊装し、赤子たちを葬っていく。
そして教室に飛び込むと、いつもより強めの妖気が漂っていた。
隅には三人の赤ん坊の姿が見える。虐めのグループの成れの果ての姿。
奥の机の上には、オシメに包まれた可愛らしい赤ん坊。
そして、その前に立ちふさがる…赤い妖気を発する、涼果。
「そこまでよ、やめなさい!」
凛は霊光矢を向ける。
涼果はしばらく、記憶を探るように凛を見つめていたが
「ああ……、トイレの時、止めに入ってくれた一年生ね。 …で、その弓はどういう意味?」
と冷めた眼差しで問い返す。
「凛っ!」
実体化した金鵄が、遅れて飛び込んできた。そして、現状を見渡し
「これは妖怪姑獲鳥の能力・・・! またも中国妖怪の仕業か!?」
と呟いた。
「先輩、おそらく虐めの仕返しだと思うけど、こんな事…人間がやるべき事じゃありません。直ぐ様、皆さんを元に戻し、解放してあげてください!」
「嫌・・・だと言ったら、その弓であたしを射るわけ?」
「はい。不本意だけど・・・・」
「そう……、トイレの時はあたしの味方だと思ったけど、やっぱり貴方も敵なわけね?」
パチンッ!
まるで合図を送るように、指を鳴らした涼果。
その音に反応した赤子達が、一斉に凛に襲いかかる。
間合いを開け、一匹一匹射止める凛。
だが、狭い上に、数多くの机や椅子等の障害物がある教室内。
凛の動ける範囲は予想外に狭く、また一斉に襲いかかってくる赤子に対し、複数の敵に適していない弓では、あまりに不利だった。
瞬く間に凛は取り押さえられ、涼果の前に跪かされた。
凛の顎を掴み、その顔をマジマジと眺める涼果。
「ふ~ん……、十人並みだと思ったけど、こうして見ると、意外に可愛い顔立ちなのね」
涼果はそう言って口元を緩ませると、手にした哺乳瓶を凛の口の中に押し込んだ。
「凛っ!?」
大慌てで、その場を飛び去る金鵄。
優里がいればいいのだが、今すぐには無理だ!
となれば、彼女に助けを求めるしかない!
帰宅途中の千佳を見つけ、教室に舞い戻ったのは、それから十分以上経っていた。
金鵄と千佳が教室に入ると、相も変わらぬ異様な光景。
だが、千佳はそれを見ても、眉一つ動かさない。
極自然に、受け入れている。
― ただ単に冷静なわけではない。おそらく惨劇を好む妖怪の血が、何とも思わなくしているんだろう―
金鵄は、そう感じ取った。
涼果は、教室に入ってきた千佳に気づくと、微笑みながら話しかける。
「貴方もトイレの時、助けに入ってくれた一年生ね」
「うん・・あの時の先輩……? そっか、これは先輩の仕業っちゃね!?」
「そうよ。 貴方もあたしに説教するつもり?」
涼果の問いに、千佳は首を振ると
「んにゃ。ウチ…見てわかると思うけど、身体…平均よりうんと小さいっちゃよ。小学低学年の頃、それで結構虐められたっちゃね。 だから、先輩の気持ち……、ようわかる! ウチでも仕返しするかもしれんね」
そう言って、ニッコリ微笑んだ。
「それにウチ、何が正しいとか……何が悪いとか、ようわからん。 そういうの、その時その場で、凛から教えてもらっているから」
千佳の言葉に涼果は今までにない笑顔を見せ、
「理解してもらえて嬉しいわ。 貴方には以前にも助けられたし、だから…貴方は赤ん坊に変えないでいてあげる!」
そう答えた。
「それは、ありがと! ところで先輩、凛はどこ行ったか知らん? 先に来たと思うっちゃけど」
「凛……? ああ、あのサイドテールの一年生? それなら・・・」
涼果はそう言うと、とある机と机の間を指さした。
そこには、小さな赤ん坊の姿が。
「その子よ・・・」
それを見た、千佳の目つきが変わった。
そして、涼果にこう尋ねた。
① なんで、凛に手を出したっちゃ!?
② あの子、ウチ…貰うていいか?
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『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
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