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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話「妖怪食品工場 -前編-」

「ウチが・・妖怪・・・・・?」
「正確には、妖怪として転生した。じゃが・・・、あそこにいる黒い妖魔狩人と戦って、お前さんは敗れたんじゃ。」
「…………」
「そして黒い妖魔狩人は、お前さんが人間に戻るように浄化した・・・・んじゃが、どうやら完全ではなかったようじゃの?」
「なぜ……っ…ちゃ・・?」
「たまたま浄化の力が弱く及ばなかったか、もしくは・・・」
 嫦娥はほくそ笑むように、その人差し指を千佳の鼻先に当てた。
「妖怪の力を失いたくないと・・・、お前さんの心のどこかに、強い気持ちがあったから。かもしれんのぉ~」
「妖怪の……力………」
「じゃが、問題はこれからじゃ。お前さん、今現状……人間と妖怪、丁度半々の半妖になってしまっておる」
「半妖・・・?」
「半妖自体は悪くないのじゃが、問題はその魂(エネルギー)の在り方じゃ。数学で言うんなら(+1)+(-1)といった状態じゃな」
「・・・・・・?」
「なんじゃ、これくらいの意味もわからんのか?」
 中学1年になったばかりとは言え、本来ならこれくらいの意味はもう学校で習っている。
 だが、千佳は勉強が大嫌いだ。したがって、その意味は理解できない。
「人間としてのプラスの魂と、妖怪としてのマイナスの魂がまるで同じ強さのため、お互いが打ち消し合って、消滅してしまう・・・て事じゃ」
「つまり、死ぬ・・・・って事・・・?」
「そうじゃ…」
 さすがにこれは理解できた。
 再び千佳の顔色が青ざめていく。
「助かるには、どちらかの魂の力を上げて、その比率を変えてやることじゃ。まぁ……完全な人間に戻る事、完全な妖怪になる事は難しいが、妖怪としての魂を強める事くらいなら、それほど難しいことではない」
「ウチは……結局、化け物にならなければ、生きていけない・・・」
 ガックリと膝を落とす千佳。
「どうじゃ? 妖怪の魂を強めてみるか?」
 千佳に返答を求める嫦娥。
 しかし千佳は、そんな言葉がまるで耳に入らないほど、絶望感に押しつぶれていた。
「まぁ、今すぐ返事をせんでもいい。じゃが……早めに決めることじゃの。おそらくその生命、もってあと3日ってとこじゃ」
 嫦娥はそう言い残すと、暗闇の中に消えていった。


 同じ頃、千佳と嫦娥がそんなやり取りをしていたのをまるで知らない凛と優里。
 帰路を急いている中、凛は今日学校であった千佳との会話を持ちだした。
 千佳の浄化が不完全な事。そのせいで妖力が残っていること。
 金鵄は事情を知っているだけに、その驚きを隠せなかった。
「優里お姉さん……、美咲おばさんはあれから何も変わっていない……?」
「えっ……?」
「そうだ、たしかに優里の母親も妖怪化して、凛に浄化された。もしかしたら・・・」
 金鵄も付け加えて問いただす。
「うちのお母さんは、別に何も問題は見受けられないわよ。妖怪になる前と全然変わっていない」
 きっぱり答える優里。
「そう……、それならいいんだけど……」
 どこか不安を持ちながらも、とりあえず安心した。
「ん……っ!?」
「どうしたの金鵄?」
「いや、優里の母親が妖木妃に妖怪化されたのは、今から一ヶ月半以上前……」
「うん」
「凛が初めて妖魔狩人になった日、つまり僕と凛が出会った日に妖怪になって現れたよね?」
「うん、あの日の事は忘れない……」
「あの日僕は、この村では初めて妖木妃と対峙したんだ。」
「…………?」
「と言うことは、妖木妃はそれよりも前……、この村に来る前に優里の母親を妖怪にしている!」
「何が言いたいの……金鵄!?」
 凛と優里の目は、金鵄に集中している。
「妖木妃は、どこで彼女を妖怪にしたんだ? 妖怪になったのは、彼女だけなのか……!?」
 今まで考えてもみなかった事だった。
 だが、よく考えてみれば大変重要な事だ。
 もし、優里の母……美咲と一緒に、この村以外で妖怪にされた人間がいるのなら……。
「私、お母さんに聞いてみる。たしか取材に行くと言って出かけた日だったはず。」
 さすがに優里も緊張を隠せない。
「お姉さん、わたしも一緒に行っていいですか?」
「凛ちゃん……も?」
「ハイ、一つだけ確認したい事もあるし」
「いいわよ」
 一行は、優里の自宅に立ち寄る事にした。

「あら、凛ちゃん~いらっしゃい♪」
 優里の母、美咲が暖かく迎えいれる。
「こんばんわ、おばさん」
 相変わらず笑顔は苦手だが、それでもこの家では自然と笑顔になれるから不思議だ。
 だが、今日だけは凛の目は笑っていなかった。
 美咲の身体を隅々まで眺める。そして・・・
― うん、大丈夫……! ―
 凛は、ホッと溜息をついた。
「どうしたの……凛ちゃん?」
 優里が小声で尋ねた。
「いえ、浄化が不完全だと、妖気が赤い靄みたいに見えるんです」
「じゃあ、確認したいこと……って!?」
「大丈夫です! 完全に人間に戻っています!」
「そう、良かった……」
 さすがに優里もホッと溜息をついた。
「ところでお母さん、一ヶ月半くらい前の事だけど・・・、どこか取材に行って、いきなり帰って来たことがあったわよね?」
 優里がストレートに問いだした。
「一ヶ月半……前……?」
 ローカルテレビ局に勤めている美咲にとって、取材は日常茶飯事。
 まして一ヶ月半も前の事なんか、よく覚えていない。
「そう……たしか・・・、そう……5月1日!」
 優里の言葉にスマートフォンを取り出し、スケジュールを確認する美咲。
「5月1日・・・、ああ……っ、この日は牛味(うみ)町の冷凍食品工場に取材に行った事になっているわね!」
「牛味町……冷凍食品工場……?」
「そう、ええっとね……、たしか大手冷凍食品販売会社の下請けで、異物混入騒動があったのよ。それで下請けを切られ、営業休止になるとか……ならないとか……」
「それで……?」
「それで……、あれ……!? あんまりよく覚えていないわ……? 工場に行った記憶はあるんだけど……」
 それだ!
 おそらく取材先で妖木妃に会ったのだ。
 そこで妖樹化した。だから……記憶がそこで途切れていうんだ!
 ハッキリ言って、取材中なら他にも妖木妃に襲われた人がいる可能性が大きい。
 凛と優里は無言で頷きあった。


 翌朝、凛と優里はいつも通り学校へ向かった。
 しかし学校が終わり次第、柚子村と優里の高校のある丘福市の中間にある、志津香駅で待ち合わせすることにしていた。
 そこから乗り換え、20~30分先の牛味駅まで行き、工場へ向かうのだ。


 一方、千佳は・・・?
「あぁ……っ!!」
 昨夜は殆ど眠れず、布団の中で一晩中……震えながら夜を明かした。
 朝、顔を洗おうと両手で水を掬った時、ソレに気づいた。
 自分の手が、時折『半透明』になることを・・・!
 いや、おそらく手だけでは無いだろう。
 自分の身体全体が透け始めている。それはすなわち・・・
 自分の存在が消え始めている!!
 人間としての魂と、妖怪としての魂が互いに打ち消し合って・・・
 つまり千佳という存在が消滅する。
「凛……ウチ………」
 何も考えられなくなった千佳は着替えもせず、そのままフラフラと表へ出て行った。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(1)

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 今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。



| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 01:58 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話「妖怪食品工場 -中編-」

 時刻は過ぎ、制服姿のまま志津香駅で待ち合わせた凛と優里。
 ローカル線に乗り換え、牛味駅へ着いた頃は夕方五時を回っていた。
 ネットで調べた住所を頼りにタクシーで工場に辿り着いた。
 柚子村みたいに山々に囲まれ、殆ど民家も見当たらず、広い土地の中にポツリポツリとある、工場や倉庫の一つ。
 神田川第一工場・・・・
 門には社名の下にそう書かれてあった。
 営業休止になったと聞いていたが、間違いないだろう。
 駐車場や荷受場所には、車やトラックが一台も停まっていない。
 工場を見渡しても、シャッターは全て閉ざされており、灯りの一つも見当たらない。
 凛と優里は互いに頷くと、門の中へ足を踏み入れようとした。
 そこへ・・・
「あなた達……中学生? それとも高校生……?」
 と背後から声を掛けられた。
 振り返ると、40半ばくらいの肉付きのいい中年女性が立っていた。
「私達は柚子村にある、青葉メイトという……小学、中学、高校生によって結成された、県の社会事業を観察していく集まりなんです。今日はこの付近で工場見学ができる場所を調べにやって来ました」
 優里が笑顔で素早く答える。
 もちろん、全て『嘘』である!
 だが、あまりの頭の回転の早さに、凛は呆然と見つめるだけであった。
「まぁ、そうなの! でも……ここは止めたほうがいいわよ。この工場は一ヶ月前から営業が止まっているし、なにより・・・」
「……?」
「ここだけの話・・・!」
「はい……?」
「ここ最近、この付近……行方不明者が続出しているんだって!」
「行方不明者……?」
「もしかしたら、この辺で怪しい新興宗教団体でもいて、拉致でもしているのかもよ!?」
「こ…怖いですね……」
 中年女性はそう言うと、手にしたハンドバックから何やら取り出し
「はい、飴ちゃんあげるから、それを食べて帰った方がいいわよ!」
と、二人に1つずつキャンディーを手渡した。
 中年女性は言うだけ言うと、何事も無かったように立ち去っていった。

 ガチャッ!!
 不思議な事に、周りのシャッタ―は全て閉ざされているのに、玄関の鍵は閉じていない。
 ゆっくり扉を開け、玄関に足を踏み入れる。
 電気は止められているのか?
 当然、全ての照明機器は作動していないため、工場内は1~2m先すらよく見えない程の暗がりになっている。
「優里お姉さん……、あまりよくない気を感じます……」
「うん、凛ちゃん程で無いけど、私にもなんとなくわかる……」
 玄関から入ると、すぐ正面に二階へ上がる階段と、その脇を通る小さな廊下がある。
「どっちから行く?」
 優里が声を掛けた瞬間・・・・
ゴトッ!!
 上の方から物音が聞こえた。
 慌てて凛の顔を見て確かめる。どうやら凛にも聞こえたようだ。
「二階・・・?」
 二人はゆっくりと階段を登っていった。
 階段を登り二階へ上がると、すぐ脇に営業事務室の扉があった。
 優里が扉をゆっくり開け、中を覗きこむ。
 殆ど暗闇状態で、まるで中の様子がつかめない。
 しっかり手を繋ぎ、恐る恐る事務室の中へ入っていく。
「誰だっ!?」
 ギクッ!!!
 部屋の奥から、人の声が聞こえた?
「誰だ、何故…勝手に入り込んでいる?」
 間違いない、人の声だ。
 暗闇に目を凝らし、部屋の奥を見つめる。
 どうやら一人の男が近づいてくるようだ。
 ほんの目と鼻の先まで近寄ってこらえ、やっと中年男性だとわかる。
 角刈りのような頭に、無精髭。
 さほど身長は高くないが、中肉中背で極普通の中年男性。
「俺はここの工場長、お前ら…中学生か?」
 怪訝そうな目で二人を見渡す工場長。
 すかさず優里が、中年女性を対応した時と同じように返す。
「申し訳ありません、私達は柚子村にある・・・(以下、略…)」
「ふ~ん……、工場見学ねぇ~。見ての通り、この工場はしまえているよ」
 工場長はお手上げといった仕草。
「そのようですね、私達の勘違いでした。ここで失礼いたします・・・」
 そう言って優里が背を向けたその時・・・
「でも、お嬢ちゃん達なら……食品加工の現場を見せてやってもいいよぉ~♪」
 口調が違う!
「優里お姉さん、不味いです……」
 凛が呟いた。
 凛の目には、工場長から赤い靄のような物が噴出し始めたのが見える。
「この人・・・・妖怪です!」
 凛がそう言った瞬間、工場長の姿が異変した!
 角刈りは鋭くハリネズミのようになり、指先は刃のような長い爪。そして耳まで裂け、犬歯のような牙が並ぶ口。
 凛にとっても見慣れた姿・・・妖樹によって妖怪化した姿!
シャァァァァッ!!

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(2)

 鋭い爪が二人に向かって振り下ろされる。
 慌てて避ける凛と優里! そこにあった机が真っ二つに切り裂かれた!
「霊装っ!!」
 黒と白の戦闘服を身に纏い、弓と薙刀を構える凛と優里。
 だが、ただでさえ狭い事務室、更に机や事務用品が並んでいるため身動き一つするにも、ままならない。
 まして優里の薙刀なんかその長さゆえに、机や棚に突っ掛かって自在に操る事もできない。
「凛ちゃん、ここじゃ戦えないわ。一旦…工場の外へ出ましょう!!」
「はい!」
 二人はそう言って事務室から飛び出した!
 早く下へ降り、外へ出なければ・・・
 しかし!!
 上がってきた時に使った階段が・・無い!?
「まさか・・・!?」
 二人は我を疑った。
 いや、階段が無くなったわけではない。
 階段の前に防火用のシャッターが降ろされており、完全に閉ざされているのだ。
シャァァァァァァッ!!
 すぐ背後で、鋭い爪が空を斬った!
 優里が薙刀を構え応戦する。
 だが、ここも狭く、更に素早く動く敵に技が振るえない。
「お姉さん、こっち!」
 凛が階段の脇に奥へ進む細い廊下を見つけた。
 突っ走る二人!
 奥に扉が見える。
 蹴り破るように扉を開け、中へ飛び込むと、勢い良く扉を閉め鍵を掛けた。
― ふぅ… ―
 これで少しは時間が稼げる。
「ここは?」
 真っ暗な室内を手探りで探っていくと、部屋の両脇に十数個のロッカーが並んでいるのがわかった。
 どうやら飛び込んだ場所は、更衣室のようだ。
 外へ出る方法はないか? 
 部屋の中を見渡す二人。
 外からの薄明りでロッカーの上に排煙用の窓が見えたが、あまりに小さく、いくら小柄な凛でも通り抜けられそうにない。
 更に室内を探索すると、別の部屋に繋がる扉を見つけた。
 扉を開け、中の気配を探る。
 そこは更に小さく狭い部屋? どうやら、妖怪の気配はない。
 ゆっくりと先へ進む二人。
 暗闇のため二人は気づいていないが、ここは調理場へ入る前の消毒用のエアシャワールームであったらしい。
 部屋の左脇にあった引き戸型の扉を開けると、大きな厨房へ繋がった。
 排煙用の窓が並んでいるため、外からの薄明りが差し、今までの部屋より僅かだが室内の様子がわかる。
 中央には調理台が並んでおり、部屋の壁側にはフライヤーや鉄板など加熱機器が並んでいる。
 ゆっくりと歩を進めていくと、部屋の隅で何かが蠢いている気配を感じる。
 近づきながら目を凝らして様子を見る。
「キャッ…」
 凛が小さな悲鳴を上げた。
 床には数人分の白骨が散らばっていた。
 更にその先で、ガツガツと何かを食い漁っている4~5人の姿が。
「そこにいるのは誰っ!?」
 優里が凛とした声を掛ける。
 声に反応し振り向く4~5人。
 各々がその手、その口で、人間の腕や、動物の足などを食い漁っている。
 それは、人間や野良犬などを食い漁っている・・・妖怪化した元人間達。
ううううぅ・・・
 奴らは新たな獲物を見つけた肉食獣のように、食していた肉片を放り捨てると、ゆっくり凛と優里に向かって歩き出した。
 武器を構える二人。
「ソイツらは、食うという本能だけが残って、下等妖怪に成り果てた・・・ここの作業員達だ」
 背後から工場長が現れる。
「この俺は、誰よりも優れた加工食品を作りたいという願望があったため、知識も記憶も残したまま、上級の妖怪に生まれ変わったのだ!」
― たしかに・・・ ―
 凛は思い当たった。
 妖怪化した千佳は、凛に対する『想い』をしっかり残していた。
 同様に妖怪化した青年(春人)は、人形を集めたいという欲望が、能力として加わっていた。
うぅぅぅぅぅぅぅ・・・・
 そんな凛の思考を中断するかのように、うめき声が聞こえる。
 前方からは五人の妖怪化した作業員。後方は妖怪化した工場長。
 先程までよりは多少広くはなっているが、それでも室内。更に1メートル先さえ見えない暗闇。
 まともに戦える状況ではない。
 いや、優里自身は……本心を言えば、実はこの不利な状況でも、敵を倒す自信はあった。
 しかし、この状況下での戦いとなれば、敵に対して手加減などができず、それどころか相手を殺してしまう可能性が高い。
 相手は、いくら妖怪化しても元は人間。凛の浄化の力を使えば、人間に戻すことができる。
 そう・・・優里の母、美咲のように。
 凛によって妖怪化した美咲を元の人間に戻してもらった喜びは、優里には痛いほどわかる。
 この作業員たちも、もしかしたら……家族がその帰りを待っているかもしれない。
 だから、無闇矢鱈に戦うことで、その生命を奪うわけにはいかない!
「優里お姉さん・・・!?」
 凛の心配そうな声。
 だが、優里にとっての最優先は凛だ。
 どんな事になってもこの子だけは守らなければ!
 最悪、この手を汚してでも・・・・
 優里がそう決意した時。
「こっちよ!」
 右の方向から声が聞こえた。
 見ると、右方向の壁に扉があり、その扉の先には門の前で出会った中年女性の姿があった!
「あの人は・・・!?」
「お姉さん!」
 凛の顔が少し明るくなり、目で合図を送る。

 優里は・・・・・どう動く?

 ① 「待って!」凛を制した。
 ② 凛の手を握り、扉へ向かって走った。
 
 

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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 01:57 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話「妖怪食品工場 -後編-」

 ① 「待って!」凛を制した。

 「待って!」優里は凛を制した。
 耳を澄まし、中年女性の部屋の気配を探る。
 複数の何者かが、うごめく気配がする。
 おそらく、この厨房にいた作業員と同じ、妖怪化した人間がいても不思議ではない。
 そんな中を、一般人である女性が辿り着けるはずがない。
「凛ちゃん、あの女性・・・なにか感じない?」
 優里の慎重な言葉に、目を凝らし女性を見つめた。
 赤い陽炎のような靄が、女性を覆っている!
「あ…あの人も、妖怪・・・!?」
「やはり・・・」
「あら、バレたようね!!」
 扉の向こうで中年女性は、そう言って微笑んだ。
「アタシは、この工場のオーナー。アタシも食べることが何より好きなんだけど、でも本能のまま食い散らかすなんてごめん! しっかり調理された文化的な料理を食べるのが好きなの」
― そういった理由でも、自我が残るものなのね… ―
 改めて、人間の執念……欲望の深さを知る。
「アタシの今の役目は、工場の外で美味しそうな獲物を見つけ、工場内へ誘い込む事・・・。後は、そこの工場長が美味しく加工した料理を頂くこと・・・」
「オーナー、もうしばらくお待ちください。 すぐにこの娘たちと料理してお持ちいたしましょう」
 厨房内には、妖怪化した工場長及び、作業員たち。
 隣の部屋には、同じように妖怪化したオーナーや、作業員が待ち構えている。
「まるで、ゾンビの館ね・・・・」
 10年に一度の出来事ではないだろうか?
 あの優里が、アメリカン・ジョークのようなものを口にして嘲笑している。
 それに対し
「笑えないです・・・・」
 と凛は引きつったままである。

 来た方向は、防火シャッターによって階段が閉ざされているので、下に降りることはできない。
 だが、工場の外にいたオーナーが上にあがってこれたと言うことは、あの扉の先が下の階に繋がっているはずである。
 進路は決まった。
「凛ちゃん、何日か前……霊光矢を投網のように変化させたわよね。あれ……ここでもできる?」
 優里は凛に問いかけた。
「投網のように・・・? ああ…、卵化した人たちを元に戻す時に使った・・・?」
「そう。できるのなら、工場長やこの部屋にいる作業員に向けて放ってほしいの!」
 凛には優里の言っている意味が理解できた。
「変化は多分できます。でも……あの時と違って広範囲になるので、きちんと網の形になるかわからないし、なっても霊力がかなり分散するので、浄化まで…できないと思います」
「形はどうでもいいし、浄化できなくてもいい。ただ……少しの時間でいいから、彼らの動きを足止めできればいいの!」
「わかりました、やってみます!」
 一歩前に出た凛は、弓を構える。
シュュュッ・・・・・!
 放たれた青白い光は、まるで花火のように瞬時に四方八方へ分散。
 分散した光の全てに、細い光の糸が繋がっている。
 それは妖怪たちの前に、壁の様に立ちふさがった光の網。
「凛ちゃん、ついてきて!」
 優里はオーナーのいる扉に向かって駈け出した。
 握りしめた薙刀の、刃先とは逆の柄の先……石突と呼ばれる部分を突き出し、オーナーの腹部に突き当てる!
 そのまま捻るように押し払うと、オーナーは反対の壁まで吹き飛んだ!
 直ぐ様、部屋の中へ飛び込むと、凛は扉を閉め鍵を掛けた。
 この部屋は厨房ほど広くはないが、逆に作業台や調理機器などが一切置いていない。
 どうやら、商品を梱包する部屋のようである。 
ううううううぅぅっ!
 この部屋にいた、5~6人の妖怪化した作業員が一斉に襲いかかってきた。
 だが、この部屋なら狭いながらも、なんとか薙刀を振るうくらいは出来そうだ。
「凛ちゃん、作業員は私に任せて、下に降りる階段をみつけて!」

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(3)

 優里は、薙刀の刃の逆……刀背の部分を使って、襲いかかる作業員をなぎ払う。
 いわゆる、刀背打ち(みねうち)というやつだ。
 殆ど暗黒と言っても過言ではない……暗闇の中。
 実力的に劣る相手とは言え、気配だけを頼りに複数の相手から身を守るのは容易ではない。
 しかも、相手を殺さずに応戦しているのだから、殆ど神業と言いいてもいい。
「あった!」
 凛が非常口と兼用になっている、野外階段を見つけた。
 おそらく妖怪オーナーはここから上がってきたのだろう。
ガチャ・・ガチャ・・!
 ノブを回そうとするが、回らない。
 よく見ると、鍵が壊されており、ノブが回らないようになっていた。
 おそらくオーナーが念の為に壊していたのだろう。
「そんな……」
 大きく溜息が零れた。だが、ここでしょげている暇はない。
 優里が頑張っているうちに、他の手段を見つけないと!
 凛は諦めず、壁という壁・・床という床を手探りで弄る。
「!?」
 真っ暗で気付かなかったが、床の一部が落とし穴のように抜けている箇所がある。
 手探りで抜け穴に手を伸ばしてみる。
― ベルト・・コンベア・・・!? ―
 そう、そこはベルトコンベアを使って、直接下の階に荷を降ろせるように開けられた穴であった。
 抜け穴は極端に大きくはないが、それでも一人ずつなら十分に降りられる幅がある。
「優里お姉さん、下へ降りられます!!」
 凛は大声で叫んだ!
「ありがとう、凛ちゃん! 後から行くわ・・・先に降りていて!」
 優里は丁度、オーナーと応戦していた。
 凛は抜け穴に足を入れ、後ろ向きでコンベアを伝って降りていく。
 オーナーを払いのけた優里も後に続く。
 1階に辿り着くと、辺りを見渡す。
 閉じられた搬入用のシャッターの脇に、非常口と記された扉があり、駆け寄る二人。
 コンベア用の抜け穴から、次々に飛び降りてくる作業員。
 その中には、オーナーと工場長の姿もあった。
「開いたっ!!」
 扉を開け、勢い良く外へ飛び出す二人。
 外は日も暮れ、月夜の光だけが唯一の灯りだった。
 トラックレーンの中央まで駆けぬいた二人は、追っ手を迎え撃つため武器を構えた。
 十分な広さに、月明かりのお陰で、ある程度視界がきく。
 だが、工場長もオーナーも・・・そして作業員たちも、工場から出てくる気配は無かった。
 もしかしたら、あの妖怪たちもわかっているのかもしれない。
 工場内が自分たちの縄張りであり、ホームグラウンドであること・・・。
 工場の外で行動することが、どれだけ自分たちにとって不利であるかを。
 本能に忠実な妖怪ならではなのかもしれない。
 月明かりに照らされた工場は、そのもの自体がまるで生き物のように、ひっそりと息を潜めて辺りを伺っているようにも見えた。
「優里お姉さん、妖怪たち追って来ませんが、どうしますか?」
 さすがに優里も、これは予想外であった。
 どうする? 自分に問いかけるように、大きく息を吸う。
「今日は一旦戻りましょう。そして明日……準備を整えて、もう一度来ましょう。凛ちゃんも、このまま放っておけないでしょう?」
「はい」
― たしかに今戻っても、あの暗闇の中では戦えない。気がかりだけど、ここは体勢を整えなおしてからの方が良さそう。
 それにしても、もし……これが、わたしと金鵄の二人だけの時だったら、また飛び込んでいったかも知れない・・・。やっぱり優里お姉さんがいて、良かった! ―
 凛はそう考えていたら、自然と口元がほころんでいた。


 翌日、凛と優里は学校を終えてすぐに、再び工場を訪れた。
 今度は二人だけでなく、金鵄、セコ、猪豚蛇、そしてセコを通じて火や光属性の精霊たちも呼び出した。
 精霊たちで工場内を照らし、金鵄・セコ・猪豚蛇が囮となって誘い出す。
 誘い出された妖怪たちを、優里が前に出て盾となり、後方から一匹ずつ確実に凛が浄化の矢で仕留めていく。
 もっとも猪豚蛇だけは、怖がって凛の背にしがみつき、何の役にも・・・いや、却って足手まといだったが。
 すべての作業員、工場長・・・オーナーは浄化され、静かに横たわっている。
 意識が戻れば、各々元の居場所へ帰るだろう。
 その様子を眺めていた優里は、もの悲しげに声を漏らした。
「私のお母さんは、本能しか無かったのかしら……」
「はい……?」
「ごめんなさい・・・気にしないで」
 優里は慌てて、言葉を濁した。
「君の母が、人を襲う本能だけの妖怪に変わった事を、気にしているのかい?」
 金鵄がストレートに問い返した。
「ここの工場長、凛ちゃんの友達や……私の高校の先輩みたいに、想いとか願望とか無かったのかな?って。なんか……フト、悔しいやら……悲しいやら、そんな馬鹿げた考えが浮かんで・・・」
 優里はそう言うと、自分自身を嘲笑うように、大きく溜息をついた。
「うん……、よほど強い念のようなものが無いと、妖怪の本能に負けてしまうのだろうね」
 金鵄がまとめるように呟いた。すると、
「わたしは、美咲おばさんに、強い想いが無かったとは思いません!」
 それまで黙っていた凛が口を開いた。
「ここから柚子村のおばさんの家まで、電車を使っても一時間近く掛かりますよね?
 それなのに、なぜそんな遠い道のりを歩いて戻っていったんでしょうか?
 もし、人間を襲う妖怪の本能だけになっていたのなら、おばさんも他の作業員さんと一緒に、この工場に残っていたんじゃないかと思うんです」
「それって……!?」
「きっと、潜在意識の中にある、優里お姉さん……家族への想いが、本能を上回っていたんじゃないかなと。だから……ガムシャラに家に戻ることしか頭になかったんじゃないでしょうか?」
「でも……、お母さんは私の事がわからず、襲ってきたし・・・・」
「考えてみれば、優里の母は家に辿り着くまで、誰も襲った形跡はない。もしかしたら、家に辿り着いた喜びや安心感が、一気に想いを和らげてしまい、その瞬間……本能が上回ったのかもしれないね」
「じゃ…じゃあ……、お母さんは……私の事を……」
「忘れてなんかいなかったんですよ!」
 凛の優しい微笑みが、優里の心を強く打った。
― ありがとう……凛ちゃん。また……貴方に助けられちゃったね。 ―
 


「や…やっと見つけた…ちゃ……」
 同じ頃、村外れ犬乙山の麓近辺で、千佳が嫦娥と接触していた。
「ウ…ウチの身体が……消えかかっている……。これ…って!?」
「ふむ、かなり魂(エネルギー)同士が、打ち消し合ってきたようじゃの」
「ウチ、まだ…死にたくない……」
「確実に助かりたいなら、方法はある!」
 嫦娥はそう言うと、懐から瓢箪を取り出し、その蓋を外した。
 気が重くなるような赤い靄が広がると、一匹の動物のような影が現れた。
 体長は中型の犬くらい。だが…体つきは猫そっくりで、燃え盛るような…真っ赤な逆立つ毛が全身を覆っていた。
「中国妖怪、火山猫。お前さん……こいつと融合するんじゃ!」

 第14話へつづく(正規ルート)



 エピローグ②
『もう一つの始まり』

 ここは神田川県丘福市中央区に位置する、私立聖心女子大学。
 ティールームと表示された全面ガラス張りの一室のテーブルで、一人の女学生が読書をしていた。
 昔話のお姫様のように、長く、しなやかな黒髪。
 まだ女子高生で通るのではないかと思えるような、可愛らしく…それでいて上品な面影。
 このままジッと座っていれば、実物大の人形だと言っても信じてしまうだろう。
 本の表紙には『人形ニナの手作り服』と記載されている。
 どうやら手作り着せ替え人形と、その服の作り方が記された手芸本のようだ。
 キラキラ輝くその瞳を見れば、この女学生がどれ程関心をもっているかがわかる。
 そこへ
「姫~っ、探したわよ!」
 湯気の沸いた紙コップを両手に、短髪の女学生が話しかけてきた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(e-2)

 短髪の女学生は、姫と呼んだお姫様風の女学生と、自分のテーブル上に紙コップを置くと、自身も椅子を引き隣に腰掛ける。
「ありがとうございます、希美さん。でも…姫と呼ぶのはやめていただけませんか?」
 姫と呼ばれた女学生は、気恥ずかしそうに微笑んだ。
「いいじゃん! あんた…この大学の有名人だからね!」
 希美は紙コップに入ったミルクティーを一口、口に含むと、
「八夜葵 都(はやき みやこ)、私立聖心女子大学教育学部一年生!
 あの日本十大流派とも言われている、八夜葵流の令嬢で、一説では武将島津の血を引くとか引かないとか・・・。
 柔らかで優雅な振る舞いに、美しく愛らしい佇まい。
 わが校だけでなく他校からも、お姫様みたい~~っ♪って言われているくらい、あんた・・超人気者なのよ!」
 と、少し大げさかなとも思えるくらい、囃し立てた。
「そ…そんなこと……ないです……」
 姫こと・・都は、ただ…ただ…赤面するしかなかった。
「ところで姫、週末のサークル強化合宿。参加するんだよね?」
「はい、初めての合宿なので、大変楽しみにしております。ただ・・・・」
「ただ・・・・?」
 都の言葉に、希美は首を傾げた。
「いえ、ハンドメイド(手作り)サークルでの強化合宿って、どういった事をするのでしょう?」
 ある意味で、素朴な疑問だった。
「わからん!」
 希美も頭をかく。
「まぁ、先輩たちの話によると、合宿っていう名目の、親睦会みたいなものって話だよ」
「そうですか。私……そういった会も経験がないので、皆様のご迷惑にならなければいいのですが……」
 不安そうに頬を赤らめる都。
 やっぱ、こいつ…お姫様みたいで、マジ可愛い!! そう思う希美だった。

 週末の土曜日、ハンドメイドサークルは、都と希美を含む二十数人のサークル部員を乗せた貸し切りバスで、柚子村という小さな村を経由して伊塚市へ向かった。
 途中、山道を通るが、実質二時間程の道のりである。
 しかし道中、予想もしない大事故が発生した。
 柚子村を通り過ぎた辺りの山中で、バスが横転……崖から落ちるという大事故だった。
 バスの前面は、まるで落石か、もしくは熊のような大型動物に衝突したかのように、大きくへこんでいたらしい。
 バスの内部には、2~3人の女学生の死体があったが、他の学生の行方がわからない。
 大規模な捜索活動が行われたが、依然として行方不明のままだった。

 姫こと八夜葵都と、その友人…希美の行方も・・・・・・・・。


 もう一つの始まり  完




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| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 01:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話「対決!独楽勝負 -前編-」

 ムッシュ・怨獣鬼が妖魔狩人と初対決したその翌日。
「どうであった、妖魔狩人と戦ってみた感想は?」
 いつもの犬乙山、麓の洞窟に白陰、嫦娥、ムッシュは顔を合わせていた。
「うむ、なかなか美味そうな素材でしたな。悪くない・・・」
「強さや能力でなく、そう見方をしておったのか? ふざけたヤツじゃ」
「ふざけてなんかおりませんよ。吾輩にとって人間・・・それも若い娘は食材としての価値しかない。それにそこそこは強い娘だったが、恐れる程のものでもないですな」
「汝(うぬ)にとって、どんな人間も家畜としての対象でしかないということだな」
「さよう・・・」
 ここまで話すとムッシュは紅茶を口に含み、その香りと味を噛みしめる。
 妖怪であっても、このひと時がたまらない。
「ところでムッシュよ、もう一つ聞きたい事があるんじゃが?」
 嫦娥の問いに、せっかくのティータイムを邪魔するなと言わんばかりの目をしたムッシュ。
「なにかね?」
「お主の血は、どんな生き物でも妖怪に変化させることができるのかの?」
 更なる問いに、残りの紅茶を全て飲み干し、天を仰ぐように目を閉じた。
「吾輩の血は怨念の血。したがって、恨みや復讐・・・そんな強い念を持った者にしか効き目はない」
「手当たり次第に飲ませても、意味はないというわけじゃの?」
「そういう事ですな」
 ムッシュはそう言うと、ティーポットに湯を入れる。
 茶葉が広がるまでの、ゆったりとした時間。
 一見無駄なように感じられるが、この無駄がいいのだ。
 その無駄を楽しみ、再度カップに入れた紅茶を口に含む。
 十分に香りを楽しむと思い立ったように、
「そう言えば、この村の人間の生活状況を把握しておりませんでしたな。 ゆっくり見てみたい。どちらか案内してもらえませんかね?」
 ムッシュの問いに、白陰と嫦娥は顔を見合わせたが
「良いじゃろう、あたしも色々気になることがある。案内してやろうて」
と、嫦娥が立ち上がった。
「ありがとう、マダム!」


 昔から農業を育んできた、柚子村。
 しかし、今では農業を続ける若者も減り、また農業だけでは生活も苦しいため、職を求めて丘福市へ移転する家族も少なくない。
 数軒の民家が並んではいるが、長年空き家になっている家も珍しくはないのだ。
 そんな中、ムッシュと嫦娥は一軒の古民家へ入った。
 雨戸を締め切り陽も入らぬ室内、溜まりに溜まった埃。
 ここも長年人が暮らしている気配は無い。
「どうやら、この付近はこの国の年号で言う『昭和』で、時間が止まっているようじゃのう・・・」
 嫦娥は残された家具や衣類を見て、呟いた。
 たしかに・・・。
 当時の人々の生活を思い浮かべながら、家内を眺めるムッシュ。
 フト、部屋の隅に置いてある、数々の道具が目に入った。
 その内の一つを手に取る。
「マダム、ここにあるのは何かわかるかね?」
「ん・・・?」
 ムッシュの問いに、手にした物に目を向ける。
 それは、手の平くらいの大きさで、木製の円錐型、中央に一本の芯棒が通っているものだった。
「ああ・・・、それはこの国の子どもが遊ぶ、玩具じゃろう?」
「玩具?」
「そうじゃ……。今、お前さんが手にしているのは、たしか……独楽という物じゃの!」
「ほほぅ~」
「中国の独楽とは、形も遊び方も違うが、今どき珍しいのぉ」
「たしかに年代を感じるが・・・、うむ……悪くない!」
 ムッシュはそう言って、独楽を隅々まで眺める。
「おや、お前さん……指をどうかしたのか? 血が流れているぞ」
 嫦娥の言葉にムッシュは、自身の両手に目をやった。
 右手の人指し指から、僅かだが血が流れている。
「おお……、これか! これは先日、鶏を妖怪化するために自ら傷つけたもの。 アレコレ触っているうちに、傷口が開いだのだろう」
 ムッシュはそう言って、人差し指をしゃぶりだした。
「ま、すぐの止まるはずだ」
 ムッシュは手にした独楽を放り投げると、そのまま民家から出て行った。
 見ていた嫦娥も苦笑いしながら、後に続く。
 実はこの時、ムッシュが手にした独楽に血が付着していたことを、二人は知るよしも無かった。


 それから数時間が経ち、ここは柚子村立中学校。
 丁度授業が終わり、各教室清掃時間になっていた。
 一年二組の教室で窓ふきをしている凛。
 そこへ一人の少女が近づいてきた。
 丸顔でショートヘア。身長は凛よりもまだ小柄で、その分……身軽そうな体つき。
 アンダーリムの眼鏡を掛けたその少女は・・・・
「んっ、千佳……なんか用?」
 そう、凛の幼なじみで最も親しい同級生、斎藤千佳。
 だが、いつもはイタズラっ子のような口元が、なぜか真一文字に結ばれている。
「凛、ウチ……凛と戦った事があるとよね?」
「えっ!? 戦う・・・って?」
「死闘・・・。文字通り、殺し合いの戦い……ちゃ」
「なんの話? そんなわけないじゃない……」
「覚えているっちゃよ、うちの家で戦った事。うちの気持ちを打ち明けた事……」
「お……覚えて……いる……?」
― そんなはずは無い。 
 わたしの霊光矢は、確実に千佳を浄化し、その悪しき記憶も消したはず…… ―
 その時・・・・
(凛、聞こえるかい?)
 頭の中に、金鵄の声が聞こえた?
― き……金鵄……? ―
(ここだよ、外を見て!)
 凛の思ったことに返答するかのように、新たな声が頭の中へ入ってくる。
 声の通り窓の外に目をやると、目と鼻の先ほどの距離に金鵄が飛んでいた。
(ちょ…ちょっと、人に見られたら……!?)
(大丈夫、今の僕は霊体だ。普通の人間には見えない)
(あなたの声が聞こえるのは……?)
(出会った頃、僕と君は魂を共有しただろう。だから霊波動が協調しやすく、こういった至近距離なら、直接発声しなくても霊力で会話ができるんだ)
(そういうことは早く言ってよ。いらない心配をするじゃない!)
(ごめん、僕もつい最近気がついたんだ)
「ねぇ……凛、もしかして……その金色の鳥と話しをしているの?」
 唐突に千佳が話しに加わってきた。
「えっ、千佳……わたしたちの会話が聞こえるの? ていうか……金鵄が見えるの!?」
「会話? そんなのは分からんけど、鳥は見えるっちゃよ」
― 今の金鵄は霊体。だから霊力の高い人間でないと、見えないはず…… ―
 驚きを隠せない凛は、思わず千佳の姿をマジマジと見つめた。
 すると千佳の体から、薄っすらと赤い煙のようなものが見える。
 霊気・・・いや、これは……妖気・・・!?
― まさか……、千佳はまだ……!? ―
(それよりも凛、大変なんだ!!)
 凛の不安をよそに、再び金鵄が頭の中へ話しかける。
(この村の小学校が、妖怪に襲われたらしい!)
(村の小学校が・・・!? 中国妖怪の仕業・・・?)
(セコからの情報だから僕もまだ見ていないからわからないけど、そうではないみたい。だけど、どちらにしろ子供たちが被害に遭っている!)
(優里お姉さんは?)
(セコが、他の精霊を使って連絡した。直接向かうだろう)
(わかった! わたしたちもすぐに向かいましょう!)
 凛はすぐに清掃用具を片付け始める。
「ねぇ……凛、どうかしたん?」
 そうだった、千佳の事もあるんだ・・・。
 でも、今は小学校の子供たちの身が危ない・・・
「ごめん千佳! わたし、急用ができたから帰るね!」
 軽く謝ると、凛はダッシュで教室を飛び出していった。


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 今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 22:07 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話「対決!独楽勝負 -中編-」

 凛が小学校へ到着したとき、そこはまるで無人のように、人の気配が無かった。
 いや、微かだが人間の気・・・霊力を感じる。それも数多くだ・・・。
 そう思って凛は校内へ入った。
 校庭には、無数の小さな丸い物体が転がり落ちている。
「なに・・・これ?」
 凛は小さな物体を手に取った。
 円錐型で中央に芯棒が通っている。凛には見たこともない物体。
「それは昔の玩具・・・、独楽というものみたい」
 背後から声と同時に、優里が姿を見せた。
「でも・・・、この玩具から僅かだけど、人の気を感じるんです」
 凛は信じられない表情で独楽を見つめている。
「さすがですね……凛さん。その独楽は、この小学校の子供たちが姿を変えられた物です」
 優里の影からセコも姿を見せる。
「なんて事・・・! それで子供を独楽に変えた妖怪っていうのは!?」
 独楽を持つ凛の肩は、怒りからかワナワナと震えている。
「あれがそうね・・・?」
 優里が薙刀の尖先を向けた先に、若い女性を引き摺るように歩いてくる人影が見える。
 子供とも、年老いた男性とも見える、その異様な姿。
 体つきは小柄。頭はまるで河童のように、おかっぱだが天辺だけが禿げ上がっている。
 キョロキョロした子供のような大きな目に、薄っすらと髭のようなものが見える口元。
 そして右手に大きめの独楽、左手に市松模様の紐を手にしている。
 そんな異様な男に、自分より大きい若い女性がしがみついたまま、こちらへ歩いてくる。
「子供たちを・・・子供たちを、元に戻してっ!!」
 男にしがみついた女性は、そう叫び続けている。
「あ…あれは、音羽(おとは)先生っ!!?」
 凛は女性を見て驚きの声を上げた!
 そうだ。考えてみれば、凛は去年まで、この小学校の児童だったのだ。
「高橋音羽先生、二年前に赴任してきた音楽の先生です!」
「ええっ~い、邪魔ばい……女!!」
 男はそう叫ぶと、持っていた紐を音羽に巻きつけた。
「あっ・・!」
 音羽が短い悲鳴をあげたのもつかの間。
 ポンッ!!という音と共に白煙が立ち込めると、そこには音羽の姿は無く、校庭に転がっている独楽より、少しだけ大きな独楽が落ちていた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話(1)

「あっ……音羽先生ーっ!!?」
「やはり、あの男が子供を独楽にした、妖怪のようですね!」
 凛と優里は、音羽を独楽にした男・・いや、妖怪の前に立ち塞がった。
「なんだ、お前たちは・・・・?」
 そんな二人を怪訝そうに見る妖怪。
「私たちは妖魔狩人。どこの妖怪か知りませんが、今すぐ独楽に変えた子供たちや先生を元に戻しなさい!」
 優里が薙刀の尖先を妖怪の眉間に向けた。
「妖魔…狩人……? なんばいね、それは?
 おいどんの名は、ネンカチ。 ここのガキ共は、おいどんとの独楽勝負から逃げたから罰として独楽にしてやったばい!」
 ネンカチと名乗る妖怪は、そう言って自慢げに持っている独楽を見せ付けた。
「独楽……勝負……?」
「そうばい、喧嘩独楽勝負ばいっ!!」
 ドヤ顔のネンカチに対し、凛は・・・・
「金鵄、喧嘩独楽勝負……って?」
「い…いや、僕もわからない……」
「回転する独楽と独楽をぶつけ合い、先に倒れた独楽が負けという、結構昔の子供の遊びです」
 永遠の子供妖怪・・・セコがフォローしてくれた。
「意気地の無いガキ共ばかりで、話にならんからお仕置きをしてやっただけたいよ」
 ネンカチは鼻で笑う。
「意気地なくて勝負を避けたのではなく、今の子供たちは独楽なんて遊ばないですから。
だから勝負しなかっただけと思いますよ」
 という優里の言葉に、
「そう! だからみんなを元に戻して!」
 と、凛が付け加えた。
「そんな事は知らん。それより元に戻す方法は、おいどんが勝負に負けた時だけばい!」
 ネンカチはそう言うと、持っていた独楽を凛たちに突きつけるように見せ、
「どうばい? おいどんと独楽勝負をせんか・・・? もし、お前たちが勝ったら、ガキも教師も元に戻してやるばい!!」
 と言って口元を緩ませた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話(2)

「独楽勝負? わたしたち・・・独楽なんかした事が無いし、第一……独楽も持っていない・・・」
「独楽なら、その辺に沢山転がっているばい!」
「それは、姿を変えられた子供たちでしょう! 使えるわけがないじゃない!!」
 凛が当然のように拒むと、
「だったら、お前が独楽になって、もう一人の女がお前を回せばいい」
 とネンカチが凛を指差した。
「えっ・・・!?」
 驚きのあまり、顔を見合わせる凛と優里。
「知ってのとおり、おいどんならお前を独楽に変えてやる事ができるばい」
 ネンカチはまだら模様の紐を振り回す。
 言葉に詰まった凛。
 ネンカチと手にした独楽を見つめ、さらに校庭に散らばった独楽を見渡し、再度ネンカチと独楽を見つめなおした。
 そして決心したように
「わかった、わたしを独楽にして・・・」
 と、ネンカチに返答した。
「凛ちゃん・・・落ち着いて! 冷静に考えて他の手を・・・!!」
 優里が慌てて止めに入る。
「そうだ凛、何かの罠かもしれない! 君と優里なら、普通に戦ってもアイツに勝てるはずだ!」
 いつも黙っている金鵄も、さすがに反対する。
 しかし凛は静かに首を振り、
「なんか……勘みたいなものだけど、この方法が一番いいような気がするの」
 と付け加えた。
「凛ちゃん・・・・・」

 普段はあまり我を通さない凛、優里はそれをよく知っている。
 だが、あまりに不利な勝負である事も否めない。
 金鵄の言うとおり、自分たちの戦い方に持ち込んだ方がいいのか?


 
どうする?

① 優里は凛を信じ、独楽勝負に挑む
② いや、自分たちの戦いをしよう!


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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 22:06 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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