2014.05.26 Mon
妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話「妖怪食品工場 -前編-」
「ウチが・・妖怪・・・・・?」
「正確には、妖怪として転生した。じゃが・・・、あそこにいる黒い妖魔狩人と戦って、お前さんは敗れたんじゃ。」
「…………」
「そして黒い妖魔狩人は、お前さんが人間に戻るように浄化した・・・・んじゃが、どうやら完全ではなかったようじゃの?」
「なぜ……っ…ちゃ・・?」
「たまたま浄化の力が弱く及ばなかったか、もしくは・・・」
嫦娥はほくそ笑むように、その人差し指を千佳の鼻先に当てた。
「妖怪の力を失いたくないと・・・、お前さんの心のどこかに、強い気持ちがあったから。かもしれんのぉ~」
「妖怪の……力………」
「じゃが、問題はこれからじゃ。お前さん、今現状……人間と妖怪、丁度半々の半妖になってしまっておる」
「半妖・・・?」
「半妖自体は悪くないのじゃが、問題はその魂(エネルギー)の在り方じゃ。数学で言うんなら(+1)+(-1)といった状態じゃな」
「・・・・・・?」
「なんじゃ、これくらいの意味もわからんのか?」
中学1年になったばかりとは言え、本来ならこれくらいの意味はもう学校で習っている。
だが、千佳は勉強が大嫌いだ。したがって、その意味は理解できない。
「人間としてのプラスの魂と、妖怪としてのマイナスの魂がまるで同じ強さのため、お互いが打ち消し合って、消滅してしまう・・・て事じゃ」
「つまり、死ぬ・・・・って事・・・?」
「そうじゃ…」
さすがにこれは理解できた。
再び千佳の顔色が青ざめていく。
「助かるには、どちらかの魂の力を上げて、その比率を変えてやることじゃ。まぁ……完全な人間に戻る事、完全な妖怪になる事は難しいが、妖怪としての魂を強める事くらいなら、それほど難しいことではない」
「ウチは……結局、化け物にならなければ、生きていけない・・・」
ガックリと膝を落とす千佳。
「どうじゃ? 妖怪の魂を強めてみるか?」
千佳に返答を求める嫦娥。
しかし千佳は、そんな言葉がまるで耳に入らないほど、絶望感に押しつぶれていた。
「まぁ、今すぐ返事をせんでもいい。じゃが……早めに決めることじゃの。おそらくその生命、もってあと3日ってとこじゃ」
嫦娥はそう言い残すと、暗闇の中に消えていった。
同じ頃、千佳と嫦娥がそんなやり取りをしていたのをまるで知らない凛と優里。
帰路を急いている中、凛は今日学校であった千佳との会話を持ちだした。
千佳の浄化が不完全な事。そのせいで妖力が残っていること。
金鵄は事情を知っているだけに、その驚きを隠せなかった。
「優里お姉さん……、美咲おばさんはあれから何も変わっていない……?」
「えっ……?」
「そうだ、たしかに優里の母親も妖怪化して、凛に浄化された。もしかしたら・・・」
金鵄も付け加えて問いただす。
「うちのお母さんは、別に何も問題は見受けられないわよ。妖怪になる前と全然変わっていない」
きっぱり答える優里。
「そう……、それならいいんだけど……」
どこか不安を持ちながらも、とりあえず安心した。
「ん……っ!?」
「どうしたの金鵄?」
「いや、優里の母親が妖木妃に妖怪化されたのは、今から一ヶ月半以上前……」
「うん」
「凛が初めて妖魔狩人になった日、つまり僕と凛が出会った日に妖怪になって現れたよね?」
「うん、あの日の事は忘れない……」
「あの日僕は、この村では初めて妖木妃と対峙したんだ。」
「…………?」
「と言うことは、妖木妃はそれよりも前……、この村に来る前に優里の母親を妖怪にしている!」
「何が言いたいの……金鵄!?」
凛と優里の目は、金鵄に集中している。
「妖木妃は、どこで彼女を妖怪にしたんだ? 妖怪になったのは、彼女だけなのか……!?」
今まで考えてもみなかった事だった。
だが、よく考えてみれば大変重要な事だ。
もし、優里の母……美咲と一緒に、この村以外で妖怪にされた人間がいるのなら……。
「私、お母さんに聞いてみる。たしか取材に行くと言って出かけた日だったはず。」
さすがに優里も緊張を隠せない。
「お姉さん、わたしも一緒に行っていいですか?」
「凛ちゃん……も?」
「ハイ、一つだけ確認したい事もあるし」
「いいわよ」
一行は、優里の自宅に立ち寄る事にした。
「あら、凛ちゃん~いらっしゃい♪」
優里の母、美咲が暖かく迎えいれる。
「こんばんわ、おばさん」
相変わらず笑顔は苦手だが、それでもこの家では自然と笑顔になれるから不思議だ。
だが、今日だけは凛の目は笑っていなかった。
美咲の身体を隅々まで眺める。そして・・・
― うん、大丈夫……! ―
凛は、ホッと溜息をついた。
「どうしたの……凛ちゃん?」
優里が小声で尋ねた。
「いえ、浄化が不完全だと、妖気が赤い靄みたいに見えるんです」
「じゃあ、確認したいこと……って!?」
「大丈夫です! 完全に人間に戻っています!」
「そう、良かった……」
さすがに優里もホッと溜息をついた。
「ところでお母さん、一ヶ月半くらい前の事だけど・・・、どこか取材に行って、いきなり帰って来たことがあったわよね?」
優里がストレートに問いだした。
「一ヶ月半……前……?」
ローカルテレビ局に勤めている美咲にとって、取材は日常茶飯事。
まして一ヶ月半も前の事なんか、よく覚えていない。
「そう……たしか・・・、そう……5月1日!」
優里の言葉にスマートフォンを取り出し、スケジュールを確認する美咲。
「5月1日・・・、ああ……っ、この日は牛味(うみ)町の冷凍食品工場に取材に行った事になっているわね!」
「牛味町……冷凍食品工場……?」
「そう、ええっとね……、たしか大手冷凍食品販売会社の下請けで、異物混入騒動があったのよ。それで下請けを切られ、営業休止になるとか……ならないとか……」
「それで……?」
「それで……、あれ……!? あんまりよく覚えていないわ……? 工場に行った記憶はあるんだけど……」
それだ!
おそらく取材先で妖木妃に会ったのだ。
そこで妖樹化した。だから……記憶がそこで途切れていうんだ!
ハッキリ言って、取材中なら他にも妖木妃に襲われた人がいる可能性が大きい。
凛と優里は無言で頷きあった。
翌朝、凛と優里はいつも通り学校へ向かった。
しかし学校が終わり次第、柚子村と優里の高校のある丘福市の中間にある、志津香駅で待ち合わせすることにしていた。
そこから乗り換え、20~30分先の牛味駅まで行き、工場へ向かうのだ。
一方、千佳は・・・?
「あぁ……っ!!」
昨夜は殆ど眠れず、布団の中で一晩中……震えながら夜を明かした。
朝、顔を洗おうと両手で水を掬った時、ソレに気づいた。
自分の手が、時折『半透明』になることを・・・!
いや、おそらく手だけでは無いだろう。
自分の身体全体が透け始めている。それはすなわち・・・
自分の存在が消え始めている!!
人間としての魂と、妖怪としての魂が互いに打ち消し合って・・・
つまり千佳という存在が消滅する。
「凛……ウチ………」
何も考えられなくなった千佳は着替えもせず、そのままフラフラと表へ出て行った。
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今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。
「正確には、妖怪として転生した。じゃが・・・、あそこにいる黒い妖魔狩人と戦って、お前さんは敗れたんじゃ。」
「…………」
「そして黒い妖魔狩人は、お前さんが人間に戻るように浄化した・・・・んじゃが、どうやら完全ではなかったようじゃの?」
「なぜ……っ…ちゃ・・?」
「たまたま浄化の力が弱く及ばなかったか、もしくは・・・」
嫦娥はほくそ笑むように、その人差し指を千佳の鼻先に当てた。
「妖怪の力を失いたくないと・・・、お前さんの心のどこかに、強い気持ちがあったから。かもしれんのぉ~」
「妖怪の……力………」
「じゃが、問題はこれからじゃ。お前さん、今現状……人間と妖怪、丁度半々の半妖になってしまっておる」
「半妖・・・?」
「半妖自体は悪くないのじゃが、問題はその魂(エネルギー)の在り方じゃ。数学で言うんなら(+1)+(-1)といった状態じゃな」
「・・・・・・?」
「なんじゃ、これくらいの意味もわからんのか?」
中学1年になったばかりとは言え、本来ならこれくらいの意味はもう学校で習っている。
だが、千佳は勉強が大嫌いだ。したがって、その意味は理解できない。
「人間としてのプラスの魂と、妖怪としてのマイナスの魂がまるで同じ強さのため、お互いが打ち消し合って、消滅してしまう・・・て事じゃ」
「つまり、死ぬ・・・・って事・・・?」
「そうじゃ…」
さすがにこれは理解できた。
再び千佳の顔色が青ざめていく。
「助かるには、どちらかの魂の力を上げて、その比率を変えてやることじゃ。まぁ……完全な人間に戻る事、完全な妖怪になる事は難しいが、妖怪としての魂を強める事くらいなら、それほど難しいことではない」
「ウチは……結局、化け物にならなければ、生きていけない・・・」
ガックリと膝を落とす千佳。
「どうじゃ? 妖怪の魂を強めてみるか?」
千佳に返答を求める嫦娥。
しかし千佳は、そんな言葉がまるで耳に入らないほど、絶望感に押しつぶれていた。
「まぁ、今すぐ返事をせんでもいい。じゃが……早めに決めることじゃの。おそらくその生命、もってあと3日ってとこじゃ」
嫦娥はそう言い残すと、暗闇の中に消えていった。
同じ頃、千佳と嫦娥がそんなやり取りをしていたのをまるで知らない凛と優里。
帰路を急いている中、凛は今日学校であった千佳との会話を持ちだした。
千佳の浄化が不完全な事。そのせいで妖力が残っていること。
金鵄は事情を知っているだけに、その驚きを隠せなかった。
「優里お姉さん……、美咲おばさんはあれから何も変わっていない……?」
「えっ……?」
「そうだ、たしかに優里の母親も妖怪化して、凛に浄化された。もしかしたら・・・」
金鵄も付け加えて問いただす。
「うちのお母さんは、別に何も問題は見受けられないわよ。妖怪になる前と全然変わっていない」
きっぱり答える優里。
「そう……、それならいいんだけど……」
どこか不安を持ちながらも、とりあえず安心した。
「ん……っ!?」
「どうしたの金鵄?」
「いや、優里の母親が妖木妃に妖怪化されたのは、今から一ヶ月半以上前……」
「うん」
「凛が初めて妖魔狩人になった日、つまり僕と凛が出会った日に妖怪になって現れたよね?」
「うん、あの日の事は忘れない……」
「あの日僕は、この村では初めて妖木妃と対峙したんだ。」
「…………?」
「と言うことは、妖木妃はそれよりも前……、この村に来る前に優里の母親を妖怪にしている!」
「何が言いたいの……金鵄!?」
凛と優里の目は、金鵄に集中している。
「妖木妃は、どこで彼女を妖怪にしたんだ? 妖怪になったのは、彼女だけなのか……!?」
今まで考えてもみなかった事だった。
だが、よく考えてみれば大変重要な事だ。
もし、優里の母……美咲と一緒に、この村以外で妖怪にされた人間がいるのなら……。
「私、お母さんに聞いてみる。たしか取材に行くと言って出かけた日だったはず。」
さすがに優里も緊張を隠せない。
「お姉さん、わたしも一緒に行っていいですか?」
「凛ちゃん……も?」
「ハイ、一つだけ確認したい事もあるし」
「いいわよ」
一行は、優里の自宅に立ち寄る事にした。
「あら、凛ちゃん~いらっしゃい♪」
優里の母、美咲が暖かく迎えいれる。
「こんばんわ、おばさん」
相変わらず笑顔は苦手だが、それでもこの家では自然と笑顔になれるから不思議だ。
だが、今日だけは凛の目は笑っていなかった。
美咲の身体を隅々まで眺める。そして・・・
― うん、大丈夫……! ―
凛は、ホッと溜息をついた。
「どうしたの……凛ちゃん?」
優里が小声で尋ねた。
「いえ、浄化が不完全だと、妖気が赤い靄みたいに見えるんです」
「じゃあ、確認したいこと……って!?」
「大丈夫です! 完全に人間に戻っています!」
「そう、良かった……」
さすがに優里もホッと溜息をついた。
「ところでお母さん、一ヶ月半くらい前の事だけど・・・、どこか取材に行って、いきなり帰って来たことがあったわよね?」
優里がストレートに問いだした。
「一ヶ月半……前……?」
ローカルテレビ局に勤めている美咲にとって、取材は日常茶飯事。
まして一ヶ月半も前の事なんか、よく覚えていない。
「そう……たしか・・・、そう……5月1日!」
優里の言葉にスマートフォンを取り出し、スケジュールを確認する美咲。
「5月1日・・・、ああ……っ、この日は牛味(うみ)町の冷凍食品工場に取材に行った事になっているわね!」
「牛味町……冷凍食品工場……?」
「そう、ええっとね……、たしか大手冷凍食品販売会社の下請けで、異物混入騒動があったのよ。それで下請けを切られ、営業休止になるとか……ならないとか……」
「それで……?」
「それで……、あれ……!? あんまりよく覚えていないわ……? 工場に行った記憶はあるんだけど……」
それだ!
おそらく取材先で妖木妃に会ったのだ。
そこで妖樹化した。だから……記憶がそこで途切れていうんだ!
ハッキリ言って、取材中なら他にも妖木妃に襲われた人がいる可能性が大きい。
凛と優里は無言で頷きあった。
翌朝、凛と優里はいつも通り学校へ向かった。
しかし学校が終わり次第、柚子村と優里の高校のある丘福市の中間にある、志津香駅で待ち合わせすることにしていた。
そこから乗り換え、20~30分先の牛味駅まで行き、工場へ向かうのだ。
一方、千佳は・・・?
「あぁ……っ!!」
昨夜は殆ど眠れず、布団の中で一晩中……震えながら夜を明かした。
朝、顔を洗おうと両手で水を掬った時、ソレに気づいた。
自分の手が、時折『半透明』になることを・・・!
いや、おそらく手だけでは無いだろう。
自分の身体全体が透け始めている。それはすなわち・・・
自分の存在が消え始めている!!
人間としての魂と、妖怪としての魂が互いに打ち消し合って・・・
つまり千佳という存在が消滅する。
「凛……ウチ………」
何も考えられなくなった千佳は着替えもせず、そのままフラフラと表へ出て行った。
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今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。
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