2ntブログ

自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第17話「瀬織の選択 -後編-」

① 鎌鼬を信じて契約し、霊力を分け与える。

「いいだろう! 今回だけお前を信じて、契約してやろう」
 瀬織はそう言って、鎌鼬の手を握った。
「我・・汝と力の契約を結ぶ。汝は肉を・・我は血を・・、互いに分け与えると誓う」
 その瞬間、瀬織の身体から、白い光が鎌鼬に流れ込む。
 すると、今まで弱々しかった顔色が、少しだけ良くなり、琉奈の手から離れ、立ち上がる事もできた。
「思ったとおり、上質な霊力だ!」
 ニヤリと笑う、鎌鼬。
「あばよ~っ! そんじゃ、頑張って持ちこたえるんだな」
 そう叫びと一気に飛び上がり、真空の鎌で美術館の天井を切り刻むと、月明かりの夜空へ飛び出して行った。
「やはり裏切って、自分だけ逃げ出したか・・・」
 大きなため息をついた瀬織。
 その表情は悔しさよりも、己に対する不甲斐なさが表れていた。
ガッシャァァァン!!
 入り口から大きな破壊音が聞こえると、ドタドタと駆け込んでくる音が聞こえる。
「結局、信じられるのは、己の力だけだ。お前たちも死にたくなければ、必死に抵抗しろ」
 瀬織はそう言いながら、両手で水流輪を編み出す。
 涼果も髪の毛を引き抜き、妖怪赤子を生み出した。
「獲物・・・見つけた・・・♪」
 一体のグールが部屋に侵入し、ニタリと笑う。
 同時に、他二体のグールも駆け込んできた。
「やれっ!!」
 瀬織の合図で、水流輪が放たれ、赤子も飛びかかる。
 一体に水流輪が命中。一体に数匹の赤子が飛びかかって押さえつける。
 突破してきたもう一体は瀬織に接近。鋭い爪先で斬りつけてきた。
 瀬織は数歩、身を引いて、再び水流輪を放つ。
 見事に命中して、このグールは浄化。
 だが入り口からは、他のグールが数体入り込んでいた。
 壁を背にし盾とすることで、前方からの敵だけに集中すればいいが、それでも瀬織たちの防衛力より、グールの突破力の方が高い。
 間髪入れず攻撃しても、敵との間合いはどんどん縮まっていく。
 室内には数体のグールが蠢き、もはや逃げ場も無くなった。
 全てを諦め、ただ怯えている琉奈と涼果。
 肩で息をしている瀬織は、術すら満足に放てなくなってきている。
 最後列から中を覗いていたグーラは、勝利を確信したかのように不気味に微笑むと、顎で再攻撃を促した。
シャアァァァァッ!!
 一体、そしてまた一体と、グールが飛びかかる!
「もはや、これまでか?」
 瀬織も諦めかけた瞬間。
シュッッッ!!
 青白い閃光が、一体のグールを貫いた!!
 更に、
シュッッッ!!
 驚きふためく、もう一体のグールにも、閃光が貫く!!
「れ・・・霊光矢・・・? 若三毛凛か!?」
 そう、それは邪なるものを浄化する、霊力の矢。
「どこだ・・? 若三毛凛は、何処から撃っている!?」
 辺りを見渡す瀬織。
「あ・・あそこ!?」
 涼果が指差したのは、鎌鼬が切り裂いた天井。
 そこには天井に足を引っ掛け、逆さ吊り状態で、亀裂から身を乗り出した凛の姿が。
「瀬織さん、大丈夫ですか!?」
 そう言いながら、一回転して瀬織の元に飛び降りる。
「若三毛凛、助かった。でも、どうしてここに?」
「鎌鼬だよ。鎌鼬が、凛に救援を求めてきたんだ!」
 返答と共に、金鵄も現れる。
 金鵄は、気を失ってグッタリとしている鎌鼬を、足で掴んでいた。
「瀕死の身体のまま、キミから受け継いだ霊力を全て使って、凛を探し廻っていたようだ」
 金鵄はそう言って、鎌鼬の身体を琉奈に預けた。
「逃げたのでは、なかったのか?」
 更に、
「黒い妖魔狩人だけじゃ、ないよ!」
 瀬織が耳にしたことのない声が聞こえると、新たに天井から二人の人影が飛び降りてきた。
「なんか、やばそうな気がしたので、あたし達も付いてきた!」
 それは、雪女郎とサラマンダーの二人。
「ついでだから、あたし達とも契約しない? いい仕事するよ♪」
 そう言ってニッコリ微笑む、雪女郎。
 先の戦いで、雪女郎・・サラマンダーとは、直接相まみえている。実力は充分承知だ。
「いくら黒い妖魔狩人でも、あれだけの数のグールを相手にするのはキツイ。あたし達と契約しろ!」
「そうだ・・・。ワタシ・・たちなら・・・、グールにも・・・負けない・・・」
 サラマンダーも一緒に問い詰めてくる。
 その間、凛はたった一人でグールを相手にしている。
 たしかに、この中では一番戦闘力のある凛だが、弓使いである凛は、遠距離攻撃型。
 こういう室内では、その力は半減する。
 それに比べ、中距離ながらも、広範囲の攻撃術を持っている、雪女郎やサラマンダーの方が、この場は有利だろう。
 それは、瀬織もよくわかる。
 だが、瀬織は妖怪を・・・・・
 そんな心を読んだかのように、雪女郎はこう付け加えた。
「あんたは鎌鼬を信じたんだろう? そして鎌鼬はそれに応えた。あたし達も同じだ!」
― た・・たしかに、そうだ・・! 鎌鼬を信じたことで、黒い妖魔狩人が駆けつけてくれた。―
 その言葉に、瀬織は心を決めた!
「手を貸せ! 疲れて消耗しているが、残っている霊力を、お前たちに分け与える!」
 そういって、雪女郎とサラマンダーの手を握った。
 白い光が、二人の身体に流れ込む・・・
 みるみるうちに、力が復活していくのがわかる!
 小さく、ガッツポーズをとる二人。
「契約完了! それじゃ~っ、早速給料分働くよ!」
 そう言った雪女郎は、凛の前に出た。

妖魔狩人若三毛凛 17話06


 片手を上げ、ゆっくり回転させると、周囲にチラホラと雪が舞いだした。
 そのまま上げた手を、グールに向ける!
 すると雪は、激しい吹雪となってグールに襲いかかった!!
 サラマンダーは、天井の穴から外へ飛び出すと、入り口付近に集まっているグールたちの背後に周り、大きな炎の渦を放った!!
 炎の渦で、複数のグールが一気に倒れる。
 雪女郎、サラマンダー。
 たった二人の精霊の加入で、戦況は一気に逆転!
 倒れていく同族の姿を見て、他のグールたちは次々に逃げ始めた!
 そんなグール達に・・
「逃げるな! 最後まで戦えっ!!」
 と命令し続ける、グーラ。
 そのグーラの左腕に、青白い閃光が突き刺さる!!
 もちろんそれは、凛の霊光矢。
 それが何を意味しているか!?
 理解しているグーラは左肩に己の爪を突き刺し、肩口から力任せに腕を引きちぎった。
 肩口から、大量の血をたれ流しながら、凛を睨みつけるグーラ。
「この傷、絶対に忘れない。いずれ、必ず貴様を喰らってやる!!」
 そう吐き捨てると、他のグールに紛れて、その場を去っていった。

「た・・助かった・・・」
 安堵の溜息をつきながら、琉奈と涼果は腰を抜かす。
「若三毛凛・・、雪女郎・・、サラマンダー。お前たちが来てくれなかったら、ワタクシ達は確実に敗れていた。本当にありがとう」
 瀬織も深々と頭を下げる。
「違いますよ、瀬織さん。わたし達は鎌鼬さんの必死の呼びかけに応じただけ。本当にお礼を言ってあげてほしいのは、鎌鼬さんにです」
 凛の言葉に、瀬織は静かに頷き
「そうだったな・・・」
 と、琉奈に抱かれている鎌鼬に、頭を下げた。
「いいんだ・・・、あんた達が助かって・・くれれば・・・」
 もはや鎌鼬は、虫の息であった。
「この子・・・、なんとか助けてあげられないの?」
 琉奈が瀬織に懇願する。
 しかし、瀬織は首を振ると、
「さっきも言ったが、生きているのが不思議なくらいの重体なのだ。もはや、治癒の術を掛けても効果は無いし、受け付けるだけの気力も残っていないだろう」
「わかって・・いる・・。」
 鎌鼬は、静かに頷いた。
「一つだけ、聞きたいことがある」
 瀬織は振り返り、雪女郎やサラマンダーを見ると、
「なぜ、ワタクシと従僕の契約を結ぼうとした? 探せばワタクシ以外にも、多少の霊力を分け与えられる人間が、他にもいるはずだ。とても偶然や成り行きとは思えない」
 と問いかけた。
 その問いに、雪女郎たちはニッコリと笑みを浮かべると
「妖怪はさ~ぁ、結構義理堅いんだよ!」
「・・・?」
「あんた達妖魔狩人は、あたしらをマニトウスワイヤーから開放してくれた。 だから、その恩返しをしたかったんだ!」
「それで・・、わたし達に・・?」
 凛も、初耳といった表情で、問い返した。
「特に、あたしとサラマンダーは、融合までされちゃったからね。 こうして元の身体に戻る事ができたのも、みんな・・あんた達のお陰だよ!」
「ワタシたちの・・力で・・、貴女たちに・・・恩を返したかった・・・」
 雪女郎とサラマンダーの、嘘偽りの無い眩しい笑顔が、そこにあった。
「妖怪が、義理を重んじるなんて・・・」
 複雑な心境の瀬織。
 その時、
「かまいたちーっ!?」
 琉奈の泣き声にも似た叫び声が、響き渡った。
「どうしたんですか?」
「鎌鼬が・・・、鎌鼬が・・・、死んでしまった・・・・」
 琉奈の言葉に、金鵄が鎌鼬に触れる。
 心音を探るかのように、静かに診ていたが、
「駄目だ。息を引き取っている」
 と首を振った。
「鎌鼬・・・」
 瀬織もそっと手を触れ、亡骸を見つめた。
 まるで、全てに満足したかのように、安らかな表情だった。



 その頃、柚子村・・犬乙山麓の洞窟。
 白陰と嫦娥の二人が話し合っていると、
「な・・なんなのであるか? この大きな、闇の波動は!?」
 大声で、ムッシュ・怨獣鬼が駆け込んできた。
「一週間ほど前にも、丘福市の方向から大きな闇を感じたが、今回のは、それに劣らない波動。 それも、この柚子村からであるぞ!」
 いつになく険しい表情のムッシュ。
 そんなムッシュに、冷ややかな笑いを見せる白陰。
「そうか、ムッシュは知らないのだな。 この波動の持ち主を・・・」
「!?」
「やっと、お目覚めのようじゃな」
 嫦娥も白陰同様・・・冷めた笑みを浮かべる。
「お目覚め・・? まさか・・・!?」
 呆然とするムッシュに、二人は揃ってこう言った。
「妖木妃様が、ついに目覚められる!」


 第18話につづく(正規ルート)


----------------------------------------------------------------

②は 》続きを読むをクリックしてください。

≫ 続きを読む

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 17:32 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -前編-」

 柚子中学校の生徒赤ん坊化事件は、妖怪獏によって一部を覗いた殆どの者が、その記憶をすっかり食いつくされていた。
 あの日、なぜ警察や消防署まで出動したのか、誰も覚えていない。
 
 話は少し飛ぶが、柚子駅から徒歩五分程に、柚子村商店街がある。
 かなり古くから立ち並ぶ商店街だが、最近では郊外に大型量販スーパーが完成し、客足はすっかりそちらに流れ、今では一部の年配者が通うだけの寂れた町並みになってしまった。
 そんなある夜、ムッシュ怨獣鬼はその商店街を彷徨っていた。
 まだ宵の口だというのに、不思議なくらい物音や光の無い空間。
 すっかり時代から取り残され、亡霊のように佇む町並み。
「この柚子村というのは、平成という時間軸にある、落とし穴のような空間であるな」
 哲学ぶった言葉を並べるムッシュ。
 なぜなら彼は『酔っている』のだ。
 珍しく丘福市まで足を伸ばし、都会の美女を数人・・・カクテルにして飲み干してきたのだ。
「久しぶりに、優雅な気分を味わったものだ」
 人間のフリをしてJRに乗り込み、今先程・・・駅から降り、今ここにいるのである。
 元々褐色の肌を更に赤くし、千鳥足で商店街を彷徨う。
「うむ・・・? なにやら…念のようなものを感じる」
 それは商店街をくぐり抜けた先から感じられる。
 フラフラと足を運ばせるムッシュ。
「うむ、念はここから感じ取れるな・・・」
 そこには、古ぼけた平屋のような建物があった。
 元々、店舗だったかのように、表側はシャッターを下ろしてある。
 強引にぶち破れば入れないことはないが、あまり激しい物音をたてるのは、好みではない。 
 シャッターの上には、大きな看板が掛けてあったが、今はそんな事はどうでもいい。
 裏からでも入れないか? そう思い裏口へ回ってみた。
 裏口にも施錠してあるが、シャッターをぶち破るよりは簡単で静かだ。
 ムッシュは取っ手を掴むと、強引に捩じ切るように回し、扉を開けた。
 中に入ると、そこは外以上に暗闇の空間。
 もっとも、闇の世界で生きるムッシュにとって、むしろ心地よい明るさだ。
 内部をゆっくり歩いてみる。 ムッシュにとっては見たことの無い機器が並んでいた。
「ん・・・?」
 一台の機器の前で足を止める。 なんとも言えない、気のようなものを感じ取れた。
「お前さんか・・・。 うむ、悪くない・・・!」
 そう呟くと、自らの指を切りつけ、滴る血を機器に擦り付けた。


 それから数日が経ち、柚子中学校も夏休みに入っていた。
「うわっ、田中電器店…って、もしかして個人商店ってやつ!? 小さいお店!」
「こっちなんか…もっと凄いよ! 八百屋さんっていうの!? 初めて見た~っ!」
 カンカンと照らす日差しの中、商店街の中を制服を着た五人の女子生徒らしき少女たちが、まるで動物園にでも来たかのように、はしゃぎながら歩いていた。
 制服は白地のブラウスに大きめの襟にネクタイ。そしてプリーツスカート。
 襟とネクタイ、スカートは、水色地に白のチェック柄に統一されている。
 爽やかで都会的は雰囲気を持つこの制服は、やはり柚子村内の学校ではない。
 神田川県内でも、一二を争う高い偏差値を誇る、私立來愛(くるめ)女子大学附属高等学校の制服である。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(1)

 この学校の天文学部は、夜空が澄んでいて綺麗だという理由で、毎年夏休み柚子村で一週間程の合宿を行っている。
 生徒達は、夜の天体観測の合間に食べるお菓子や、その後行う花火などを買い出しに、商店街へ来ていたのだ。
 今の十代はスーパーやコンビニでしか、こういった買い物をしたことが無い。そのため、個人商店が並ぶ商店街など、動物園や水族館に生息する希少生物と殆ど代わりがないのだ。
 彼女たちは買い物を殆ど終え、物珍しげに辺りを見まわっていた。
「そう言えば、瀬織(せおり)の姿が見当たらないけど・・・?」
「瀬織なら、他に寄る所があるから、後から来るって!」
「あ…そう!」
「ねぇ、アレ・・・何かな!?」
 一人が商店街から外れにある、古ぼけた平屋の建物を指さした。
 正面のガラス張りの上に、大きな看板が見える。
「ゲー・・・ム・・セ・・ンター・・・」
「ゲームセンターっ! ゲーセン!!?」
「こんな田舎でもゲーセンがあるの!?」
「行ってみよう!!」
 新たな獲物を発見した狩人のように、女子高生たちは一目散に走っていった。
 建物の前面は総ガラス張りで、見たことの無いようなゲームのポスターが貼りまくってある。
 よく見ると、そのうちの一箇所は引き戸になっており、どうやらここが入り口らしい。
 ガラガラ~と引き戸を開け、中に入る五人の女子高生たち。
 店内は極普通の蛍光灯で照らされており、暗くはないが、これといった綺羅びやかさも無い。
 十数台の筐体などが並んでおり、それぞれ独特のBGMらしきものが流れていることから、可動しているのはわかる。
 だが、人の気配はまるで無い。
「誰もいないのかな?」
「でも、機械は動いているんだから、やっていいんじゃない?」
「ねぇ、プリクラどこ!?」
 探索するように、それぞれ店内を廻る。
「プリクラどころか、見たことのないゲームばかり・・・」
「てか、これ・・・全部、昔の機械じゃないの?」
 彼女たちが言うとおり、店内にある筐体は、どうみても最近のものでは無い。
 昭和・・・・、それも1970年代に流行った筐体ばかりであった。
 もちろん彼女たちには、そこまでの知識はないが。

「ハン・・ティング・・・ゲーム・・? モンハンみたいなゲームかな!?」
 一人の女子高生、宮本 伊世(いよ)が、一台のゲーム筐体の前で、もの珍しげに説明書きを読んでいた。
「一回10円だって! やってみよっ!!」
 まるで見たことのないゲームで、しかも料金が安いことから、伊世は早速プレイを開始した。
 ハンティングゲーム。 
 筐体のデザインは、ライフル銃が備え付けられた、今でもよく見る狙撃(シューティング)ゲームぽい。
 銃を構え正面を眺めると、そこにはテレビモニターなどあるわけもなく、すっぽりと薄暗い空間があり、よく見ると両端からレールのような物を渡らせてある。
 ライトアップされたレールの上を、左右から交互にベニヤ版から切り抜かれた動物の絵札が移動してくる。
 引き金を引くと、銃(の下)から電光が走って行き、電光の直線上に動物の絵札があれば、命中というわけである。
 命中すると、動物の泣き声らしき音と赤く点滅で記される。
 今の時代なら、小学生でも作れそうなアナログな仕掛けだが、当時の子どもは結構ハマっていたようだ。
 伊世は命中するたびに、キャッ♪ キャッ♪ …とはしゃぎながらゲームを楽しむ。
 すると、奥の方に二つ並ぶ赤い光が現れた。 
 それはまるで赤く光る『目』に睨まれているようにも見える。
「なんだろう?」
 そう思った瞬間、伊世の目の前が真っ白になった。
「きゃ・・・」
「ん……!?」
 女子高生の一人、千葉 操(みさお)は伊世の声に振り向いたが、そこには伊世の姿は無く、ただクリアされていないBGMだけが、鳴り響いていた。
「??????」
 不信に思った操は、ハンティングゲームに歩み寄る。
― 今の今まで、ここに伊世が居たよね・・・?―
 操は銃を構え、ライトアップされたレールの上を覗く。
 普通に動物の絵が左右に移動している。
「ふむ・・・・」
 何気なく、引き金を引く操。
 動物の悲鳴音と赤い光が点滅する。
 すると、絵で描かれた動物が一瞬で本物の動物並みに大きくなり、操に襲いかかった。
「あ……!?」
 声も上げる間も無く、操はゲーム機の中に引き摺り込まれていった。

「ねぇねぇ・・・見てっ! ドライブゲームだって! しょぼくない!?」
 こちらでは藤井 千鶴(ちづる)、杉本 七瀬(ななせ)。
 二人の女子高生が別の筐体の前にいた。
 ドライブゲームと銘打たれた筐体は、奥行きの深い筐体で、上面はガラス張りになっている。
 ガラス面から中を覗くと、ベルトコンベアに描かれた道があり、その上に玩具のオープンカーが乗っていた。
 オープンカーの後部には一本の棒が取り付けられており、その棒が筐体前面にあるハンドルに繋がっていて、ハンドルを回すことで車が左右に動く仕組みになっている。
「どのくらいショボイか? やってみようよ~♪」
 そう言って七瀬が硬貨を入れた。
 BGMが流れだすと同時に、ベルトコンベアも動き出す。
 要は道なりに車を左右に動かして、いかにもドライブしている気分を味わうゲームであるが、道からはみ出したり、途中ある障害物や川(絵で描いてあるだけ)に当たると、車がグルグル回転し、事故を起こしたという設定のようだ。
 最終的には時間内にどれだけの距離を進んだかで、点数が決められる。
 七瀬はBGMを鼻歌で合わせながら、右に左に、匠にハンドルを操っている。
 そばで見ている千鶴も「右~右~っ!」「左~左~!」「あっ、左に池がある! 避けてっ!!」と、一緒になってはしゃいでいる。
「任せなさい! Driveclubで鍛えた七瀬には、こんなレトロゲーム・・・。ベビーカーを押すより簡単よ!!」
 七瀬も得意満面の笑みで、ハンドルを回す。
 しばらくすると、ベルトコンベアに描かれた道が真っ赤になり、その質感はまるで動物の舌の上のようである。
「なにこれ!? こんなルートもあるの?」
「…て言うか、コレ・・・ずっと回転し続ける一本のベルトコンベアよね? いつの間に入れ替わったの?」
 さすがに薄気味悪くなってきた、七瀬と千鶴の二人。
 そう思った瞬間!!
 車の目の前に、怪物のような巨大な頭が姿を見せた!
 そしてソレは、大きな口を広げると、車だけでなく・・・ハンドルを握っていた七瀬。そして、その隣にいた千鶴まで一瞬で飲み込んだ!
「ん・・・?」
 最後の一人、松井 若菜(わかな)が気づいた時には、軽妙なBGMだけが流れており、七瀬と千鶴の姿は見当たらなかった。

 若菜はクレーンゲームの前にいた。
 クレーンゲームは今の時代のゲームセンターにも設置されているが、今とは構造も景品も違う。
 現代のタイプは、80年代から登場した『UFOキャッチャー』と呼ばれる、空飛ぶ円盤の下部に、二本もしくは三本の爪がついており、前後左右に移動させ、縫いぐるみやカプセルに入った景品を掴んで取るものが派生したものだ。
 しかし、当時のクレーンゲームは、ガラス張りの円筒の中で、それこそ重機のクレーン機のような腕が回転し、吊り下がった『クラムシェル』と呼ばれる二枚貝のように開閉するバケットで、底に並べてあるラムネ菓子(四~五錠をセロハンに包んだもの)を掬うものである。
 正直、技術よりも運に左右されるようなゲームである。
 若菜は話の種に程度の軽い気持ちで、硬貨を投入した。
 ガクガクと震えながらクレーンが移動し、ゆっくりと降下するバケットでラムネ菓子を拾う。
 運良く? 二包のラムネ菓子がポケットに落ちてきた。
「ま、10円だから・・・こんなものか!」
 苦笑いしながら、包を開けラムネを口に放り込む。
 甘酸っぱい香りが、口の中に広がった。
「そう言えば、ここに入っているお菓子まで、昭和のままって事は無いよね?」
 ちょっと怖い想像をしながら、残りのラムネも口に放り込んだ。
 その時・・・
ガタン!
 店舗が軽く振動する程度の音が鳴り響いた。
 更に、ガチャガチャと鎖がこすれ合うような音が聞こえる。
「なにかしら?」
 辺りを見渡しても、鎖らしきものが動いている様子は無い。
ガチャ…ガチャ…
 しかし、明らかに鎖がこすれ合う音が響く。
「ま……まさか……!?」
 若菜は頭上を見上げた。
 そこには、まるで恐竜が大口を開けたように、クラムシェルのバケットが開いていた。
 数分後、クレーンゲーム機の中に、水色地に白のチェック柄のセロハンに包まれた、肌色のラムネ菓子が一つ、転がっていた。


-------------------------------------------------------------------


 今回もかなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -中編-」

「ホント、暑いわね・・・」
 商店街の並びにある小さな書店から、二人の少女が姿を現した。
 手にした袋から「受験に出る数学問題集」と書かれた本が見える。
「涼果(すずか)は、どこの高校を狙っているんだっけ?」
 そう話しかけたのは、長く靭やかな黒髪で、170センチ台の長身の美少女。
 日笠 琉奈(りな)である。
「あたしは、琉奈と違ってあんまり成績良くないから・・・、樫井でも行けたらいいかな?」
 そう言って苦笑したのは、両髪をおさげに結んだ少し幼い顔立ちの、初芽 涼果(すずか)。
「樫井なら公立だし、そう悪くないじゃない?!」
「琉奈は、どこに行くつもりなの?」
「私はできれば、大生堀高校かな?」
「あそこ・・・レベル高いよね! 凄いなぁ~、琉奈は!」
 つい数週間前、学校中を大事件に巻き込んだ二人だが、以来すっかり元の親友同士に戻り、普通の受験生らしい生活を送っている。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(2)

「あれ・・・!?」
 商店街を抜け終わろうとしたその時、琉奈が急に立ち止まった。
「どうしたの……琉奈?」
「いや、あそこ・・・」
 琉奈はそう言って、商店街の外れを指した。
 そこには、平屋の建物が見える。
「あそこはたしか・・・ゲームセンターだったよね? それがどうかしたの?」
「そうだけど、涼果……シャッターが開いているように見えない?」
 琉奈の言葉に、涼果は目を凝らしてみる。
「あ、たしかにシャッターが開いてるよね? でも……あそこは……?」
「うん、たしか…お爺さんお婆さんがやっていたんだけど、二~三年前、二人共亡くなったんで、それからずっと閉まっていたはず・・・」
「新しい経営者さんが来たのかな・・・・?」
「そうかもしれない。 でも……私達、受験生だから、ゲームとかしている時間……無いよね?」
「うん、そんな時間があったら、勉強しなきゃ・・・・」
「だよね・・・」
「うん・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ちょっと気分転換で、見るだけみてみない?」
「そうだね、気持ちの切り替えって大事だよね!」
 二人はそう意気投合すると、足早にゲームセンターへ向かっていった。

 引き戸を開け、中を覗きこむ二人。
 店内からは、機械音や軽妙なBGMが流れている。
「やっぱり、開店したんだ!?」
 琉奈はそう言って、足を踏み入れた。涼果も後に続く。
 中に入ると、BGMは一層大きく聞こえる。だが・・・人の話し声はまるで無い。
 店内には、琉奈と涼果以外、客の姿も・・・店員の姿も無いのだ。
「やっていいのかな?」
 涼果が恐る恐る、琉奈に尋ねた。
「どう見ても開店しているようにしか見えないから、遊んでいいんじゃない?」
 琉奈はそう言って、品定めするように店内を歩いた。
「それにしても、ここには小学生の頃来た以来だけど、置いてあるゲームはあの時のままじゃない! こんなんで、お客さんが集まるの?」
 琉奈はそうボヤきながら、エアホッケー台の前に立った。
 エアホッケー。
 卓球台程の大きさの台で、同様に二手に別れてパックという円盤を打ち合うゲーム。
 ただし、台面上には無数の小さな穴が開いており、そこから空気を放出しているので、円盤が微妙に浮き上がり、台面との摩擦を減らすことで、相当なスピードになる。
 そのため気の抜けない、緊迫した対戦ゲームとなっている。
「ねぇ・・涼果、エアホッケーでもやらない?」
 琉奈はそう言って、硬貨を投入した。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・?」
 硬貨を入れたが、いつまで経ってもパックが出てこない。
「なにこれ、壊れているの!?」
コツン!!
 少しムッときた琉奈は、台を軽く足で小突いた。
 すると・・・
「すぐに、新しいパックを用意する・・・・?」
 琉奈の頭の中に、機械音のような声が聞こえた。
「えっ? ええっ!?」 
 辺りを見まわる琉奈。その瞬間!
 頭上から、巨大な両手が現れ、琉奈の身体を掴みあげた!
「ちょ……、なにっ!? なにっ!?」
 両手はそのまま琉奈を握り締めると、まるで団子でも握るように、ギュッ!ギュッ!と琉奈の身体を丸めていく。
「いた……いたいっ!」
 更にある程度丸くなった琉奈を床の上に置くと、手の平でグルグルと転がすように回転させ、均等に球体化させていく。
「ひぇぇぇぇぇっ!!」
 激しい回転に、目を回す琉奈。
「り・・琉奈っ・・!?」
 それまで、呆然と眺めていた涼果だが、我に帰ると、ボコっボコッと巨大な両手を叩き始めた。
「琉奈を離せーっ!!」 
 懸命に巨大な両手を叩く涼果。
 そんな涼果の背後にも、もう一対の巨大な両手が現れ、涼果の身体をも握りしめた。
「な…なによ……これ? もしかして…妖怪……?」
 自身が妖怪になった記憶は残されているため、この不可思議現象が妖怪の仕業だと気がついた涼果。
プチッ!!
 涼果は、自分の髪を一本引き抜くと・・・
「お願い……、誰か助けを呼んできて……」
 と、息を吹きかけた。
 髪の毛は、まるで意思でも持っているかのように、フワフワと宙を漂いながら、ゲームセンターの外へと飛んでいく。
 無事に髪の毛が飛んでいったことに安心するのも束の間、
「きゃあああっ!!」
 涼果も両手で、ギュッ! ギュッ!と丸め込まれていった。
 一方、綺麗な球体と化した琉奈に、両手はそれに相応しい大きなハンマーのような物を手に取ると、琉奈目掛けて一気に振り下ろした!
バンッ!!
 大音量と共に、激しい振動が建物全体に響き渡る。
「あひぃぃぃ……」
 そこには、綺麗な円盤・・・パックと化した、琉奈の姿があった。
 手は、パックになった琉奈を摘み上げると、エアホッケー台に放り投げた。
 そして、左右の手でマレットと呼ばれるエアホッケー用のラケットを持つと、交互に打ち始めた。
 その頃涼果の、綺麗に丸め込まれ球体と化していた。
 手は球体になった涼果を摘み上げ、ピンボールの台の中へ放り込んだ。
 台の中で小さな球と化した涼果。
 そこはプランジャーという、最初に球を発射するスプリングの部分。
「ここは・・・・!?」
 そう思った瞬間、背後から凄まじい勢いで、一気に弾かれた!
「ひぇぇぇぇぇぇ!!」
 高速回転しながら、レーンを猛スピードで突っ走る涼果。
 軽いループを通り過ぎると、バンパーと呼ばれるキノコ型のスプリングに弾かれる。
 更にスポットターゲット、スリングショットなどで何度も弾かれる。
「目が……目が…回る……」
 そんな涼果の目の前に映ったのは、フリッパーという名の、球を打ち返すハンドル。
 フリッパーに弾かれ、またまた台の中央まで転がると、先程同様にバンパーやターゲットにアチコチ、弾きまくられる。
「ほぇぇぇぇ……」
 あまりの出来事と衝撃に、涼果の脳内は、暗闇と飛び回る星しかなかった。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(3)


「これは・・・?」
 琉奈と涼果がゲーム機に取り込まれた同じ頃、商店街から少しはなれた村道を歩いていた妖怪セコは、不自然に宙を漂う髪の毛を発見した。


「だから、分配法則っていうのは、このカッコの前にある3を、カッコの中にあるxと-5に掛けて、カッコを外した式に作り直すのよ!」
 ここは若三毛宅、凛の部屋。
 夏休みの宿題ワークを開いて、解き方を教える凛と、シャーペンを咥えて呆然と眺めている千佳。
 夏休みになると相変わらず遊び呆けて、始業式前日に慌てて宿題を写させてと懇願してくるであろうと見通して、先にある程度済まさせてしまおうと、千佳を自宅に招いたのである。
「そうすると、3x-15になるというわけ! わかった!?」
「うん、わかったっちゃ!!」
「ホント!?」
「ああ、凛って髪は黒々しているのに、腕の産毛は割りと薄いっちゃね~~と!」
「アンタは、人が一生懸命教えているのに、産毛なんか眺めていたわけ!!?」
「ウチは、凛の全てが知りたいだけとよ!」
「その前に、数学の解き方を覚えなさい!!」
 お約束通り、痴話喧嘩(?)をしている二人の元に、大慌てで金鵄が飛んできた。
「凛、コレを見てくれないか?」
 金鵄はそう言ってテーブルの上に乗ると、口に銜えていた物を落とした。
「ただの髪の毛じゃなかとね?」
 そう言って千佳が一本の髪の毛を摘み上げる。
「セコから預かったんだけど、凛……何か感じないかい?」
 金鵄の言葉に、凛は千佳から髪の毛を受け取り、ジッと見つめた。
「霊気・・・いえ、妖気を感じる・・・・・。しかも・・・・」
 凛はそこまで言うと、カッと目を見開いた。
「これは、この間……姑獲鳥になった先輩の妖気・・!?」
「やはり、そう感じるかい?」
「ああ? あの……凛を赤ん坊にした、あの先輩ね!?」
「待って! 他に何か感じる・・・・・」
 凛はそう言って、精神を集中させる。
「た・・す・・け・・・て・・・・。 ……たすけて!?」
「どういう事だい、凛っ!?」
「わからない・・・。でも、これは救いを求めている波動・・・! 先輩に何かあったんじゃ!?」
 凛はそう言って立ち上がった!
「でも、あの先輩……、青い衣の女に浄化されて人間に戻ったっちゃよね? なんで、そげんこつ…できると!?」
「それはわからないけど、でも放っておけない! 先輩はどこにいるの!?」
「それは今、セコが霊気を追って、大体の場所を特定している」
「じゃあ、わたしたちも行きましょう!!」


 セコとの連絡で、ゲームセンターの前に来た凛と千佳。
 辺りはすっかり薄暗くなっており、ただでさえ人の姿が疎らな商店街が、猫の子一匹見当たらないほど、静まり返っている。
「優里には連絡を入れておいた。もう少ししたら到着するらしいけど、どうする…凛? 優里が来るまで待っているかい?」
 真剣な表情で佇む凛に、金鵄はそう尋ねた。
「ううん・・・。一分一秒遅れることで、先輩にもしもの事があったら大変だから、すぐに中に入るわ!」
 凛は首を振ると、静かに引き戸を開けた。
 店内は明るい照明と、軽妙なBGMが流れている。
 しかし、今に限ってはそれが逆に不気味な雰囲気を醸し出している。
 一歩足を踏み入れた凛は、圧迫されるような重い妖気を感じ取った。
「思ったより、強い妖気ね・・・。 念の為に霊装しておいた方がいいかも」
 凛の言葉に千佳も静かに頷き、二人共・・いつでも戦闘できるように霊装した。
 店内は思った通り、凛と千佳以外……まるで人の気配が無い。
「とりあえず、なんかゲームでもやってみん?」
 千佳はそう言うと、目の前にあったハンティングゲームの猟銃を握りしめる。
「千佳、今はそんな状況じゃないだろ!」
 金鵄はすぐに咎めようとしたが、
「いえ、敵の出方がわからない以上、こっちから動くしかないみたい・・・」
 と、凛がフォローを入れた。
「さすが凛! 愛してるっちゃ♪」
 軽口を叩き、銃の照準を測る千佳。
 右から左から、交互に動物の絵札が流れてくる。
 最初は外していたが、二~三回撃つことでコツを掴んできた。以後は次々に命中させていく。
 連続して四~五頭の動物を倒すと、次に現れたのはなんと、人間の少女らしき絵札だ。
 それは襟の大きいブラウスに水色地に白いチェック柄のネクタイ、プリーツスカート。
 いかにも都会風な制服を着た少女を、三頭身くらいにデフォルメしてから平面化したような、そんな滑稽な姿だった。
 千佳は不思議に思いながらも、銃を撃ち命中させる。
 ×目になり、パタンと倒れる少女の絵札。
 赤い点滅と叫び声が聞こえるが、先程までとは違い、動物の声ではなく、少女の声で「たすけて!」と聞こえる。
 次に現れたのも、同じ制服を来た少女の絵札だ。
 しかもこちらは初めから、涙を流しているように見える。
「あんま、いい気分じゃ…なかよね」
 千佳はそう呟き、銃口を下げた。
 凛は、ドライブゲームの前にいた。
 ガラス越しに中を覗くと、ベルトコンベアに描かれた道の上に玩具のオープンカーが乗っており、さらにその車には一人の少女らしき人形が乗っていた。
 ゲームそのものは昭和っぽいのに、乗っている人形はデフォルメされてはいるものの、髪型も、そして制服らしき身なりで、それも水色地に白いチェック柄のネクタイ・スカートと、今風のデザインである。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(4)

「凛、こっちへ来てくれ!」
 金鵄の呼び声に振り向いた。
 そこにはエアホッケー台があり、金鵄はその上を飛び回っている。
 台の上を見ると、パックがポツンと乗っている。
 だが、そのパックには人間の顔のような模様があった。
 そして、その顔は・・・・
「日笠・・・先輩・・・!?」
 それはどう見ても、目を回して気を失っている、琉奈の表情だ!
「凛、先輩・・・見つけたっちゃよ!」
 千佳の声が聞こえ、凛は駆け寄った。
 それはピンボールの筐体。
 千佳は、ガラス面の一部を指さしている。
 それは球を弾き出すプランジャーの位置で、一個の球が準備されている。
 そして、その球には紛れも無く、涼果の表情が浮かんでいた。
「どうやら、このゲームセンターに立ち寄った人は、みんなゲーム機に取り込まれてしまったようね!」
 まとめるような言葉を口にしながら、薙刀を手にした優里が入り口に立っていた。
「優里お姉さん!!」
 凛の顔が、パァ~ッと明るくなる。
「話はセコさんから聞いたわ」
 優里は店内に入り、辺りを見渡す。
「でも問題が一つ・・・。それは妖怪の本体が、どれか・・・!? って事よね」
 優里の言葉に、凛は静かに頷くと・・・

① 妖怪の本体は、この中のどれか一つの機械だと思う。
② この建物自体が、妖怪の本体だと思います。
 
 ----------------------------------------------------------------

『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:55 | comments:8 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -後編-」

① 妖怪の本体は、この中のどれか一つの機械だと思う。

「でも問題が一つ・・・。それは妖怪の本体が、どれか・・・!? って事よね」
 優里の問いに、凛は静かに頷くと、
「おそらく本体は、この中にあるゲーム機のどれか一つだと思います」
 と答えた。
「でも、このゲーセンに入った人・・・全部が被害に合っているっちゃろ? だったら、この建物自体が、本体じゃなかとね?」
「もしそうだとしたら、ここは妖怪のお腹の中ってことでしょ? 普通の人間ならともかく、敵意の霊力を持ったわたし達を、簡単には体内には入れないと思うの」
「たしかに・・・お腹の中を突かれたら、反撃できんもんね」
「おそらく凛ちゃんの言う通り、本体はこの中のどれかよ! 先程から鋭い視線のようなものを感じるわ!」
 優里はそう言って身構える。
「凛、これは以前戦った独楽妖怪と同じタイプ、付喪神型妖怪の一種だ。だから、妖怪本体を浄化すれば、ゲームに取り込まれた人たちは、元に戻るはずだ」
 金鵄の言葉に、凛はコクッと頷く。
 凛は静かに目を閉じ、妖気の出処を探る。
 この中で、一番強い霊感を持っているのは凛だ。凛が探しきれなければ、誰にも本体を見つける事は不可能だろう。
 赤い、糸のような細い妖気が、店内中に張り巡らされている。 
 おそらく、その妖気の糸でそれぞれの機械を操っているのだ。
 一本一本・・・妖気の糸の出処を手繰ってみる。
「ここだ!」
 凛が辿り着いた所は、涼果が球にされている、ピンボールゲームの筐体だった。
「このゲーム機が、本体っちゃね!? ならば・・・」
 千佳はそう言って、灼熱を帯びた右手を振りかざした。
「おらぁぁぁぁぁぁっ!!」
 千佳の鋭い爪が、ピンボール機に突き刺さる・・・・・
 いや、筐体に届く数㎜先で、爪が止まっている。
「こ・・・攻撃が、届かんちゃ!?」
「なんか、見えない壁のようなものがある・・・」
 凛がまるでパントマイムのような手つきで、筐体の周りを触れる。
「これは結界・・・。このゲーム機械の中に別次元の世界を築き上げ、現実世界と妖力の壁で遮っているんだ」
 金鵄は見えない壁を嘴で突付きながら、答えた。
「凛の推測は当たっている。妖怪本体は間違いなくこの中にいる! でも……中に入るには、結界を破らなければならない」
 金鵄の助言を聞くと、今度は優里が薙刀で鋭い一撃を与えた。
 だが、筐体に当たる直前で、その刃はピタリと止まる!
「私や麒麟の霊力を備えた…この薙刀でも破る事はできない。 つまり単純な攻撃力だけでなく、他の力でなければ破れないかもしれない・・・」
「他の力って、なんね?」
「例えば、浄化の力・・・・」
 優里の言葉に、千佳が凛を見つめる!
「浄化の力なら、凛の霊光矢があるっちゃ!!」
 よっしゃっ!!とばかり、ドヤ顔の千佳の言葉に、凛は首を振った。
「この結界は相当強い。わたしだけの浄化力では、多分通用しない・・・・」
 凛の言葉に、一同言葉を失う。
 その時!
ガガガーンッ!! ガガガーンッ!!
 激しい振動が、ゲームセンターを襲った。
 天井に吊るされている蛍光灯は大きく揺れ、壁には亀裂が入っている。
「なにがあったの!?」
 優里を先頭に、全員が建物の外に飛び出した。
 そこには二人の人影が・・・・!
 そのうちの一人は、優里以外…見覚えがある姿。
 青い衣、そして青い頭巾で顔を隠した、姑獲鳥……涼果を浄化した女性。
 そしてもう一人は、長身で恐ろしくグラマーな、ボブカットヘアの大人の女性。
 だが、大きな金棒を手にし、凄まじい勢いで建物を叩きまくっている。
 どうやら激しい振動は、彼女の攻撃によるものらしい。
「あなた達は、どなたですか!? 一体何をしているのです!?」
 優里が鋭い目で睨みつける。
 攻撃の手を止め、同じく鋭い目で睨み返しながら、
「貴女こそ誰なの……お嬢さん?」
 と、問い返す・・・グラマーな女性。
「待ちなさい…祢々(ねね)。 ここは私(わたくし)に任せなさい」
 青い衣の女性が、それを制した。
 それを見た凛も、優里の前に出ると、
「この間はありがとうございます。お陰で助かりました。 でも、これはどういう事ですか?」
 と問いた。
「見ての通り、この妖怪建物を破壊する」
 青い衣の女性は、当然と言わんばかりの口調で答える。
「妖怪はこの建物ではありません。 中にあるゲーム機の一つに潜んでいます!」
 普段は大人しい凛も、この青い衣の女性に対しては、少々…口調が強くなる。
「そんな事は解っている。 手っ取り早く、建物ごと破壊してしまった方が間違いないから、そうしているだけ」
「内部のゲーム機の中に、多くの人たちが捕らわれているんです! こんな乱暴なやり方では、その人たちまで助からないかもしれません」
「最優先は、妖怪の駆除。 人命は二の次」
 青い衣の女性はそう言い放つと、グラマラスな女性に作業を続行するように、目で合図を送った。
 金棒を振りかぶった女性の目の前に、優里が薙刀をかざす。
「お嬢さん……、なんの真似?」
 薙刀の刃に映る優里の姿を睨みつけながら、グラマ-な女性が問い返す。
「破壊するの、もう少し待ってもらえないかしら?」
 そんなやり取りをしている二人を確認すると、凛は再び青い衣の女性に問いかける。
「あなたは浄化の術が使えますよね? 力を貸して頂けませんか!?」
「力を・・・貸す?」
「どのゲーム機に潜んでいるかは、目星が付いているんです。 ただ・・結界が張ってあって、中に入れないんです」
「それで・・・?」
「あなたと、わたしの浄化の力を合わせれば、結界は解けると思うんです。 そうすれば、妖怪本体を浄化し、捕らわれた人々を元に戻す事ができます!」
「・・・・・・・」
 凛の力の篭った訴えに、青い衣の女性は何も言わず、凛を見つめる。
「もし、貴女の申し入れを断ったら・・・?」
「そん時は、ウチらが力づくで言う事利かせるだけっちゃ!」
 千佳がドヤ顔で、凛と青い女性の間を割って入った。
「千佳・・・」
 苦笑する凛。
 あちらでは、優里も便乗して微笑む。
 それらを見た青い衣の女性。
「力づく・・・? 貴女方にそれができるとは思えないが、ここで争うのも時間の無駄。 よろしい、貴女の望みを優先しよう」
 お互いが顔を見合わせあい、店内へ戻っていった。
「なるほど。 この結界なら、私(わたくし)と貴女が協力すれば、侵入することは可能」
 結界を確認し、そう告げる青い衣の女性。
「手を繋いで。 私の浄化の力と、貴女の浄化の力を螺旋状にねじり合わせ、結界の一点に集中して穴を開ける」
「わかりました!」
 ピンボール筐体の前に立った凛と青い衣の女性。
 お互いに手を結び、反対の手を筐体にかざす。
 光輝くエネルギーが混じり合うと、ドリルの刃のように回転する。
 ジリジリと結界の表面が揺らぎ、まるで水面の波紋のように、徐々に・・徐々に、穴が広がっていった。
「す……すごい……ちゃ……」
 周りが驚く中、ついに穴は人一人が入れるくらいの大きさになった。
「凛ちゃん、千佳さん、行くわよ!」
 優里が先頭揃って、結界を潜り抜ける。千佳もすぐ後に続いた。
「貴方は?」
 後に続こうとした凛は、青い衣の女性に尋ねた。
「私(わたくし)と、祢々は、ここに残る。 万一貴女方が失敗した時、有無言わずこの機械を破壊する」
 青い衣の女性は、グラマラスな女性を目で指しながら、そう答えた。
「そうですね、よろしくお願いいたします」
 凛はそう言うと、結界を潜り抜け、筐体内部の世界に侵入した。

 結界を潜り抜け、三人が辿り着いた場所は、ピンボール機のゲーム盤上であった。
 それはボールサイズまで縮小した身体で、ピンボール盤上という町並みを歩くようなものだった。
「凛、ここからどっちへ行けば、よかとね?」
 千佳が辺りを見渡しながら、尋ねる。
 凛は静かに目を閉じ、精神を集中させた。
「前方・・・。 このまま北上した方向に、強い妖気を感じる」
「おっけ! じゃ…早速向かうとするっちゃ!」
 そういった矢先、ゴロゴロゴロと転がるような音と、振動が襲いかかる。
 見ると、前方から無数の球が転がってくる。
「早速、攻撃を仕掛けてきたわね!」
 優里が薙刀を構えた。
「優里お姉さん、待って!!」
 凛はそう叫ぶと、球に向かって飛び出し、身体を張って一つの球を止めた!
「凛、何してるっちゃっ!?」
「球を見て・・・・」
 凛の言葉で、止めた球を見る二人。
 球には、目を回した少女の顔が浮かんでいる。
「これは!?」
「もしやと思ったけど、やはり…そう! これは、妖怪にピンボールの球にされた、被害者たちです」
「つまり、迂闊に攻撃すっと、捕らわれた人たちに危害を加えてしまう……ってことっちゃか?」
 そう悩んでいる間にも、球は次々に襲ってくる。
「要は、球に傷を与えず、跳ね除けていけばいいわけよね?」
 優里はそう言うと、薙刀の柄の部分を使って球を突付き、一つまた一つと進路方向を変えてやる。
 一見簡単そうだが、凄まじい勢いで転がってくる球を、傷つけることなく速やかに方向を変えるのは、優里ならではの技術だ。
 一方、凛や千佳にはそんな技術は無い。
 だが千佳は、にへら~と微笑むと、
「凛、ウチにおぶされ! ウチは、ウチの武器を見せてやるっちゃ!」
 と腰を下ろした。
 言われるままに、千佳におぶさる凛。
「いくぜぇーっ!!」
 凛をおぶった千佳は、無数に転がってくる球に向かって突進!
 当たりそうになる寸前で、右へ左へ・・・飛びかわしていく!
 それは、獣系妖怪と融合し強力な脚力を持つ、千佳だからできる芸当!

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(5)

「すっごい~~~ぃ、千佳ーっ!!」
 凛は、子どものように無邪気に喜ぶ。
 千佳も、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ・・・なぜか、涎まで垂らしている。
「千佳・・・・?」
 怪しい笑顔の千佳に、凛が問いかける。
 その瞬間・・・
「きゃ…っ!?」
 凛は小さな悲鳴を上げた!
 お尻に、ムズムズと不快な感触が走る!
「うへへ・・・♪」
 凛をおぶっている千佳の手は、モミ~っモミ~っモミ~っと、凛の尻をリズムカルに揉みほぐしている。
「凛のお尻・・・うへへへ~~っ♪」
ガンッ!!
 凛の激しい鉄槌が、千佳の頭上に喰らわされた!
「二度とやったら、このまま首をへし折るよ!」
「イェッサー!」
 そうこうしているうちに、無数の球の突進をかわした三人。
 そんな三人の左手に、緩やかな上り坂が見える。
「なぁ、あの坂を登っていかん? 下を進むと、また球の突進があるかもしれないっちゃ!?」
「そうだね、方向的にはこのまま真っ直ぐだし、そっちの方が安全かも・・・?」
 三人は、そう言って緩やかな坂道を登っていった。
 坂を登り終えると、そこは人一人幅の鉄橋のようになっていた。
 凛を先頭に、千佳、優里と一列に並び、ゆっくりと先へ進む。
 すると・・・
ガタン!
 何かのスイッチが入ったような音と振動がすると、路面が前に進みだした。
 わかりやすく言えば、その鉄橋は動く歩道のようなもの。
 歩を進めず、自動的に前へ前へ進んでいく。
「これは楽っちゃ!」
 そう喜ぶのも束の間。 鉄橋の先はループ橋のようにカーブしており、どうやらまた元の場所に戻りそうな気配だ!
「引き返しましょう!」
 凛がそう叫ぶと、それがまたスイッチのように、歩道は更に速度を上げ、猛スピードで先へ進む。
 進んだ先は下り坂。
 先頭の凛が、勢い良く滑り下りる!
 更に加速度を上げ、滑り降りたその先に待っているのは、フリッパーと呼ばれる、プレイヤー操作で球を打ち返すバットのようなパーツ!!
 ボールを待ち構えるバッターのように、二~三素振りをすると、まずは凛を思いっきり打ち返した!!
「ひぇぇぇぇっ!」
 猛回転で転がる凛は、高速回転するスピニングディスクに弾かれ、更にバンパー、ターゲット等にアチコチ弾き返される。
「あか~~んっ!!」
 続いて滑り降りた千佳も、同様にフリッパーに打ち返され、アチラコチラ弾き返されていく。
「凛ちゃん! 千佳さん!?」
 最後に滑り降りる優里。
 彼女は、刃を立てた状態で薙刀を水平に構えた。
 そして滑り降りる加速度を利用し、フリッパーを真っ二つに切り裂く!!
「二人とも・・大丈夫っ!?」
 優里が駆け寄った時には、二人とも此処彼処転げまわり、目を回して倒れていた。

 スタート地点に戻され、無数の球の襲われ、それから数十分後にやっと妖気の出処に辿り着いた三人。
 高い壁に覆われた一本道の先に、大口を開けたモンスターのような模様のスピナー(球が当たると回転する板状)が待ち構えていた。
「アレが、妖怪の本体!?」
 優里が凛に問いかける。
「ハイ、妖気の出処はあそこです。 アレを霊光矢で射抜けば浄化できるはずです!」
 凛はそう言うと、ゆっくりと弓を引いた。
シュッッッ!!
 風切音と共に、青白い閃光が真っ直ぐスピナーに向かって、突き進んでいく!
「よしっ!!」
 千佳が勝利を確信した瞬間!!
 スピナーの直前に、光り輝く円筒・・・バンパーが現れた!
 霊光矢の直撃を喰らうバンパー。
 だが、更に光り輝くと、ビュン!という高音と共に、真っ直ぐ霊光矢を弾き返した!!
 撃った凛を狙って打ち返された、青白い閃光!
「危ないっ!!」
 凛を押しのけるように、優里が割って入る!!
「くっ・・・!!」
 優里はそのまま胸を抑えこんで倒れた!
「優里お姉さんっ!!?」
「高嶺さん!?」
 仰向けに倒れ伏せている優里の胸には、青白く光る…霊光矢が突き刺さっている。
「いやあああああっ!!」
 凛はそのまま跪くと、「死んじゃ…嫌だぁぁぁ、お姉さんっ!!」と泣き叫んだ!
 すると、泣き叫ぶ凛を、優里は震える手で制する。
「だ…大丈夫よ……凛ちゃん。 この…霊光矢は……浄化の矢……。 私には……邪悪…な……妖気が無い…から、このまま……消滅…することは……ない…わ…」
「で…でも……、血が……血が流れて……」
「だいじょ…う…ぶ……。 逆に……綺麗に…刺さっている分……、大きな……出血…は…ないわ……。 それよりも……」
 優里はそう言って、光り輝くバンパーを指さした。
「本体の…直線上にある……あのバンパー……。まずはアレを……消さなければ…本体は…狙えない……」
「でも、アレはわたしの攻撃をいとも簡単に跳ね返しました……」
 凛の返答に優里は、静かに首を振る。
「大丈夫……私は…見たわ…。 たしかに……凛ちゃんの…霊光矢を……跳ね返した…けど…、あのバンパー……も、一度…消滅したところを……」
「それって……!?」
「そう……。 ダメージを受けて……消滅した後に、また……再出現……しているの……」
「つまり、大ダメージを与えてやれば、アレは一瞬だけ消えるってことっちゃか?」
 千佳の確認に、優里は頷いた。
 凛も優里の言葉の意味を理解し、涙を拭った。
 そして、バンパーに向けて弓を構える。
「アレを射抜いた後、間髪入れず……二撃目を放つ!」
 凛の額に脂汗が流れる。
「待ったっ!!」
 それを千佳が制した。
「バンパーを消し去るのは、ウチがやるっちゃっ!」
「でも…千佳……?」
「いくら一瞬消滅するとは言え、それでも攻撃を跳ね返すんやろ? そしたら凛は、二撃目を撃てんやん!?」
「・・・・・・」
「だから、まずウチがヤツを消滅させ、跳ね返りも喰らっちゃる! 凛は、その後すぐ本体を撃つっちゃよ!」
「それじゃ、千佳が大怪我をする……」
 凛の言葉に千佳は首を大きく振った。
「凛がたった一人で妖怪と戦っていた頃、ウチは盾にもなってやれんで、ごっつ…悔しい思いをした。 でも、今は身体を張って盾になってやれるっちゃ! むしろ、本望っちゃよ!」
 千佳はそう言うと、自らの左手で右腕を握りしめ、全ての妖力を右手に集中させる。
 千佳の灼熱の爪が、更に赤く燃え盛るように輝く。
 そして大きく息を吐き、気持ちを整えると
「そんじゃ~凛。 あとは頼んだっちゃ!!」
 とバンパーに向かって突進した。
 赤く輝く右手を大きく振りかぶり、そのまま垂直に切り裂くように下ろす!!
ザグッ!!
 鈍い引き裂き音と共に、激しく吹き飛ぶ……千佳!!
 そして、今・・・
 凛の目の前は、本体であるスピナーとの直線上、何も障害物は無い!!

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(6)

 めいいっぱい引き締めていた弦を、ゆっくり離す!
 青白い閃光は真っ直ぐ飛んでいき・・・
グサッッ!!
 妖怪スピナーのど真ん中に突き刺さった!!
ピカッ! ピカッ! と、赤く点滅するピンボール空間。
 透明な水入れ中に、一滴の絵の具を垂らしたかのように、辺りがゆっくりと染まっていく。
 再び、周りの景色がハッキリ見えるようになった時、そこは元のゲームセンターの店内だった。
 弓を構えたまま、辺りを見回す凛。
 その傍らで、苦しそうに胸を抑えて蹲る優里と千佳。
 千佳の胸も、自らの爪で大きく切り裂いたかのような、傷跡が残っている。
「やったね・・凛っ!!」
 金鵄が嬉しそうに飛び寄ってきた。
「ほら、見てごらん。 浄化は成功だ! 皆・・元に戻っている!」
 金鵄の言うとおり、店内には來愛女子大付属の生徒。 涼果と琉奈の姿・・・。そして、他にも犠牲になったと思われる、一般人の姿が倒れ伏せている。
 全員気絶しているが、大きな怪我らしいものも無く、命に別状は無さそうだ。
 だが・・・
「優里お姉さん・・・、千佳っ・・・!?」
 凛は蹲って倒れている二人の方が心配だった。
「ううっっ・・・」
 二人とも苦しそうではあるが、まだ微かに息はある。
 しかし、このままではその僅かな命すら、危険である。
「金鵄、どうしたら・・・!?」
 涙を流す凛のもとに、
「そこをどきなさい・・・」
 と頭上から声を掛けられた。
 見上げると、青い衣の女性が両手を上げ、水流の輪を二つ掲げている。
「はっ!」
 青い衣の女性は、二つの水流の輪を、それぞれ優里と千佳の身体に引き下ろした。
 水流から無数の水泡が現れ、二人を包み込む。
 徐々に水泡が弾け飛び、全ての水泡が消え去った時には、優里も千佳も安らかな表情で、静かな吐息を漏らしていた。
「こ……これは、治癒の術……!? しかし、人間はもちろん、霊獣や妖怪ですら……これだけの術を使いこなせる者は、そうはいない・・・!?」
 金鵄は呆然と、青い衣の女性を眺めた。
「二人とも高い生命力が幸いしている。 あと一時間もすれば傷も癒え、目を覚ますだろう」
「本当にありがとうございます!」
 凛は深々と頭を下げる。
「礼を言われる筋合いは無い。 結果的に貴女達が妖怪を倒してくれたのだから」
 頭巾で表情はわからないが、僅かに見える目元や眉ですら、ピクリとも動いている様子は無い。
「これで貴方に助けて頂いたのは、三度です。 せめて名前だけでも聞かせてください」
 凛はやや控えめに尋ねた。
「…………………」
 青い衣の女性はしばらく黙っていたが、
「妖怪どもが貴女達の事を呼んでいる言い方をすれば、『青い妖魔狩人』。 とりあえず、そう呼ぶがいい」
 とだけ言った。 そして・・・
「祢々、行くぞ・・・」
 と、グラマラスな女生とその場を後にした。


 その遊技場は、今以上に娯楽の少ない昭和・・1970年台。
 子どもや大人までもが、熱中した遊び場の一つであった。
 そこには、勝負に掛ける熱い魂などが充満していた空間でもあった。
 だが、時代が進み、デジタルゲームが当たり前の時代となった今、誰もプレイする者はいなくなり、更に経営していた老夫婦が他界したことから、そのエネルギーは行く宛の無い無念のエネルギーとなった。
 ムッシュが引かれた念はおそらくそれであり、そのエネルギーがムッシュの血に作用し、付喪神妖怪化したのだろう。

 その後、このゲームセンターは、老夫婦の遠い親戚が管理するようになり、殆どの筐体を売り払われ、そろばん塾として経営されることになった。

 第17話につづく(正規ルート)

----------------------------------------------------------------

②は 》続きを読むをクリックしてください。

≫ 続きを読む

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:50 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話「姑獲鳥の子どもたち -前編-」

 優里と千佳の激しい戦いの末、千佳は人間の頃の心を取り戻し、新たに得た力で妖魔狩人の仲間入りをした。
 全て無事に済んだと喜んで帰宅した一行。
 若三毛家、凛の部屋で金鵄は一つの疑問を尋ねた。
「優里と千佳の戦い。攻撃が通用しない・・・すなわち、勝てる見込みのない千佳に、戦いを続行させたのは何故なんだい?」
 そう、獣人だった千佳の爪が通用しなかったあの時、勝敗は決まっていたはずだ。
 なのに凛は優里にも、千佳にも戦いを続行させた。
「千佳が、諦めないと言ったから・・・」
 凛は優しい微笑みで、そう答えた。
「千佳ってね、基本的にヘタレなの。 勉強も運動も・・・。殆ど面倒臭がって、あまりやり通そうとはしないんだけど……」
「凛の親友らしくは、ないなぁ……」
「でも、ここ一番って時。 特にわたしが虐められていた時とか、なにかあった時・・・。その時はね、何があっても最後まで諦めないの。たとえ…不可能とわかっていても」
「意外だ……」
「あの時の千佳の『諦めない』って言葉・・・。アレはそういう時の口調だった。だから・・・」
「だから・・・?」
「きっと、元の千佳に戻ってくれると信じた!」
 やはりそうだ! 凛の一番の力は、霊力でも……まして戦闘能力でもない。
 信じる心……。
 友や仲間、そして身の回りの人を信じる心だ。
 優里にしても、千佳にしても・・・・
 そして、以前……強敵銅角との戦いの時、力を貸してくれた中国妖怪『小白』にしても。
 凛が信じる事で、数々の困難を突破している。
 金鵄は改めて、凛という少女に驚かされるだけだった。


 あれから一週間、妖怪たちも姿を見せる事もなく、平穏な日々が続いていた。
 強いて変わった事と言えば・・・
「一週間もしたら、眼鏡無しの千佳にもだいぶ慣れてきたね」
 平穏な通学路。
 朝、学校へ向かう道で、偶然一緒になった凛と千佳。
「なんか妖怪と融合してから、五感が鋭くなったちゃよ! 特に視力は両目とも1.5……。 汗かいても曇ったりしないし、ホント助かるやん」
 トレードマークであった(?)赤いアンダーリムの眼鏡。
 今では外した姿が当たり前になっている。
 ちなみに、赤い燃えるような逆毛も、優里を苦しめた鋭い右手も・・・。
 戦いを終えてから、元の人間だったころの状態に戻っていた。
「家で試してみたけど、妖力を込めて『戦(や)ったろうか~っ!?』って気持ちになると、あの姿になるみたいやね」
 一週間前とは別人のように、ご機嫌の千佳である。
「そう言えば戦うで思い出したけど、高嶺……さん? ウチとの戦いで火傷したようだけど、あれからどうね?」
「うん、思ったよりは軽かったみたい。 どうやら霊力で保護されていたみたい」
「おおっ、それは良かった!」
「でも、完治するまで三週間はかかるって。 それまでお箸も握れない状態」
「そっか……、ホント悪いことしたっちゃ……」
「でも、千佳が仲間になってくれたから……って、喜んでくれたよ」
「ええ人やん~~! ウチ、マジで頑張らなあかんね! …ところで・・・」
「うん……?」
「凛って、浄化の能力・・・つまり癒やしの力があるわけやろ? それって、火傷や怪我を治したりとかできんと?」
「わたしの力は邪悪な妖力とかを消し去る力。治癒の能力は備わっていないの」
「そっか……、そんな力があると、戦いももっと楽やと思うんだけどなぁ~」
 千佳がそう呟いた、その時・・・
「何っ? 何っ!? 治癒……? もしかして、ゲームの話~~っ?」
 …と、ポニーテールをなびかせ、嬉しそうに入り込んできた人物がいた。
「田中先輩、おはようございます♪」
 凛が丁寧に挨拶する。
「おはよう若三毛さん! それと……え…あ……っ………誰…だっけ?」
 弓道部部長、田中心美はそう言って頭を掻いた。
「斎藤です、斎藤千佳。おはようございます!先輩」
 苦笑気味で挨拶する千佳。
「あっ、斎藤さんね~! 思い出した♪ 前、仮入部したことがあったよね?」
「ああ、凛が入部したって聞いて、どんな部か、行ったっちゃ……いや、です」
「どう? 今からでも入部しない?」
「すいません、ウチ……ああいう、スローモーな動きは苦手で!」
「千佳っ!?」
 千佳の返事に、慌てて凛が間に入る。
「すみません先輩、この子…悪気は無いんです!」
「別に気にしないよぉ~~♪」
 心美はケラケラ笑った。
「アタシさ、ネットゲしてるじゃん! 色んな人からタメ口で話しかけられるから、そういうの…気にしないのよ」
 本当に気さくな先輩だ。 凛は嬉しくなってきた。
 三人で話ながら歩いていると、校門の側で一人の少女が目に入った。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(1)

 少女は携帯電話の画面を眺め、憂鬱な顔をしている。
「涼果・・・・?」
 心美が呟いた。
「先輩、知っているんですか?」
「うん、アタシと同じクラスの子」
 心美は、なぜか深刻そうな表情だ。
 両髪をおさげに結んだ、少し幼い顔立ちの少女……初芽涼果(はつめすずか)。
 彼女の見る携帯の画面には、「キモイ」「学校に来るな」といった文字が浮かんでいた。
 「涼果……」
 心美がそっと声を掛けると、涼果は悲しそうな目で振り返ったが、そのまま逃げるように校門の中へ走っていった。

 
 上履きに履き替え、教室に入った涼果。
 自分の席を見て、動きが固まる。
 机上には、「キモイ」「シネ」「ウザイ」等の落書き。
 椅子の上には、糊がベッタリと塗られてある。
 三年生になった頃は、普通に接してもらえたのに・・・・
 一ヶ月前から毎日こんな状態。 なぜ……!?
 次第に涙で机が滲んで見える。
 後から教室に入った心美も、そんな涼果を目にして、表情が固くなった。
 その時・・・
「おはよう、涼果!」
 四人の取り巻き(クラスメート)を引き連れるように、一人の少女が声を掛けた。
「どうしたの? 早く席に座りなさいよ!」
 少女はそう言って、顎で指図する。
 その言葉に涼果は悲しそうに少女を見つめると・・・
「ねぇ…琉奈、なんで毎日…こんなことをするの?」
 蚊の泣くような声で問い返した。
 日笠琉奈(ひかさりな)、 長く靭やかな黒髪で、170センチ台の長身。
 全体的に発育も良く大人びた表情といい、どう見ても中学生には見えず、高校二~三年生に間違えられる程の美少女である。
 それ程の美少女、本人もその美しさを自覚しており、今年から月に一度、丘福市に出向き、読者モデルの仕事も始めている。
 涼果の問いに琉奈は、
「ちょっと待って! なぜ私がやったと決め付けるの? 私がやった所を見たの?」
 と大声で言い返す。
「ねぇ…誰か見た? 私が涼果の机に糊を塗る所……誰か見た!?」
「いいや! 琉奈はずっとわたしたちと話をしていたよね~~♪」
 取り巻きの一人の少女、里美が琉奈に乗るように加わる。
「聞いた? 勝手な言いがかりをつけないでね!」
 琉奈はそう言って、涼果を睨みつける。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(2)

「………………」
 何も言い返せない涼果・・・
「ちょっっと……」
 様子を見ていた心美が口を挟もうとした瞬間、
「ホラ、チャイムなったぞ! みんな席に着け!」
 と教壇から担任教師の声が聞こえた。
「は~い!」
 琉奈も、取り巻き連中も、打って変わったように席につく。
「おい、初芽も早く席に着かんか」
 椅子の前で黙って立っている涼果に、教師は注意を促した。
「あ…あの……」
 涼果が教師に言葉を返そうとすると、琉奈を始め、一斉に周りの視線が涼果に集まる。
 その視線は、明らかに脅迫めいた視線。
「いえ……なんでもありません……」
 涼果は黙って、椅子に腰掛ける。
 ヌチャっと、冷たいような、ヌルヌルしたような感触が尻に伝わる。
 結局、授業は何事もなかったようにそのまま進んだ。


「凛、どこに行くっちゃ?」
 休み時間、教室から出ていこうとする凛に、千佳が呼びかけた。
「ちょっと部活の事で、田中先輩の所に・・・」
「田中先輩……? ああ、朝のあの先輩ね~。 よっし、ウチも付いて行くっちゃ!」
「え……!? なんで…?」
 その問いに千佳は・・・
「ボディーガード!」
 と、自身の胸をポンと叩いた。
 わたし、殴り込みにいくわけじゃないんだけど・・・
 そうツッコミたい凛であったが、言うだけ無駄かな…?と思いながら、小さく溜息をついた。
 
 同じ頃、三年教室そばにある女子トイレの洗面台で、涼果がスカートにこびりついた糊を、ハンカチで拭きとっていた。
 すっかり乾いてパリパリになってはいるものの、普通の糊だったお陰で思ったより簡単に拭き取る事ができる。
 悲しいけど、それが唯一の救いのように、丁寧に拭き落としていく涼果。
 そこへ、またも琉奈とその一行が入ってきた。
「あら、学校で洗濯? 苦労が絶えないね……涼果」
 小馬鹿にしたように、冷ややかな笑いを見せる琉奈。
「ねぇ……琉奈、私達も手伝ってあげようか?」
 誰かが笑いながら、そう付け加えた。
「いいわね、それ! よし…みんな、涼果の洗濯を手伝ってあげましょう!」
 琉奈がそう合図を送ると、一斉に涼果のスカートを引きずり落としにかかる。
「や…やめてよ!!」
 抵抗する涼果。
「履いたままじゃ、スカート洗濯できないでしょ? いいから任せなよ!」
 ファスナーを開け、強引にスカートを膝下まで引きずり落とす。
 幸い、下には体育用の短パンを履いているから下着は見えないものの、それでも恥ずかしい事には変わりない。
「やだ! やめてって!!」
 必死に拒む、涼果。
 その声はトイレの外、廊下まで響き渡っているが、誰も止めに入ろうとしない。
 それどころか、中を覗いてクスクス笑っている者すらいる。
 その時・・・
「やめてあげてください!」
 凛とした声と共に、一人の少女が入ってきた。
 一斉に声の主に焦点を合わせる。
 どう見ても年下、サイドテールのその少女は・・・
「凛! どこに行ったかと思ったら、こんなところで何してるっちゃ?」
 後ろから、素っ頓狂な千佳の声が聞こえる。
「誰、あなた……? 関係ないでしょ?」
 琉奈は凛に向かって問いかけた。
「先輩、貴方のやっていることは、一種の暴力です。やめてあげてください!」
 凛は再度、琉奈達の行動を押しとどめた。
 そんな凛の態度が気に入らないかのように、取り巻き少女の一人、里美が間に入る。
「お前…一年生? いい子ぶっていると、アンタのスカートも洗濯しちゃうよ?」
 そう言って、凛のスカートに手を掛けた。
 だが、その手を更に上から掴み、妨げる人物がいた。
「凛のスカートに手を触れていいのは、世界中で唯一人・・・、ウチだけっちゃよ!」
 言わずとしれた、千佳である。
― 誰が決めた? そんな事・・・―
「アンタも一年生? あんまり出しゃばると、不幸な目に会うよ!?」
 里美はそう言って、千佳にガンをつける。
プチン!
「あ!?」
 千佳のコメカミ辺りで、何かが切れる音がした。 
「なぁ……先輩、不幸な目ってなんや? 教えてくれん?」
 ギラギラした目に、歯をむき出した挑発的な笑顔で、里美の顔を覗きこむ。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第15話(3)

「だ…だから、不幸な目だよ! たとえば、ミンナからシカトされるとか……、予期しない怪我をするとか……」
「へぇ~、不幸な目って、そんなんや? 凄いねぇ~! じゃあ・・先輩も不幸な目に合わんとええな。 たとえば……予期せぬ、『死っ!!』…とか」
 そう言う千佳の右手…爪先が、ピクリと動く。
「千佳っ!」
 明らかに、異様な殺気を千佳から感じ取った凛は、慌てて千佳を諌めた。
「里美も、一年生相手にムキにならないで!」
 琉奈も里美を引き止める。
 いつしか、トイレの周りには大勢の人集りができ、あまりの騒ぎに数分後には、教師まで駆けつける羽目になった。
 もっとも、教師が駆けつける頃には、当事者本人たちは、騒ぎに便乗してその場から立ち去っていたが。

 

「やっぱり、おかしい……」
 授業、部活を終え、自宅に戻った凛は自室に優里を招き、金鵄と三人で今日の出来事を話し始めた。
「千佳さんって、元々気が短い方なの?」
「ええ…まぁ、たしかに短気な方で、小学生の頃から男子と喧嘩するとか、よくありました。でも・・・・」
「明らかに様子が可怪しい……と?」
「はい、嫌悪感とか、その場限りの怒りとか、そういうのとは明らかに違う・・・本気の殺意のような」
 凛はそう言いながら、あの挑発的な笑顔、そして……嬉しそうに動いていた右手の様子を思い出した。
「よく自分が大きな力を持つと、気が大きくなって性格も変わるって話を聞くわよね?」
 そんな優里の言葉に・・
「いや、もしかしたら・・・妖怪の血のせいかも知れない」
 と、金鵄が呟いた。
「妖怪の血・・・のせい?」
「うん、千佳は妖怪火山猫と細胞レベルで融合したんだよね? …という事は、彼女の身体に流れるその血は、半分は妖怪の血。 本能と弱肉強食の中で生きるぬく血・・・」
「じゃあ、あの時の千佳は、半妖になったせいで本物の殺意があった・・・という事?」
「たぶんね。 普段は人間の知性や理性が身体を支配しているけど、もし本能や感情が理性を上回ったら、彼女の身体にも異変が起きるかもしれない」
「単純に強い仲間を得た・・・と、喜んでいるだけではいけないって事ね」
 優里は深刻な表情で呟いた。
「ねぇ…金鵄、千佳は元の人間に戻れないのかな?」
 悲しそうな目で凛が問いかける。
「これは僕の想像であり仮説だが、最初に千佳が妖怪化した時、凛の浄化で元の人間に戻りきれなかったのは、彼女の潜在意識に残る『想い』や『悔い』じゃないかな?」
「想いや……悔い……?」
「そう、彼女は妖怪と戦っている凛を、助けてあげたいという気持ちを、妖木妃につけ込まれ妖怪化した。 強い力を得たという意味では、妖怪化した事は彼女にとって本望だったのかもしれない。 だが、凛を助ける事なく浄化され、その力を失う・・・。その想いや悔いが、浄化を不完全なものにした」
「じゃあ……千佳があの時の記憶を思い出したのも、すべてわたしを守りたいという気持ちが残っていたから・・・?」
「うん。だから、今……半妖となって妖魔狩人の仲間入りしたのは、彼女にとってこの上ない喜びなのかもしれない。 その気持が強ければ強いほど・・・人間に戻るのは難しい」



 同じ時刻、涼果は村外れに向かって歩いていた。
 本来なら今日は学校の近所にある、塾へ通う日。受験まであと半年近くしかない。
 だが、塾へ行けば、そこでも琉奈に出会う。
 元々琉奈を塾へ誘ったのも、涼果だった。
 涼果と琉奈は家が近所同士の幼なじみ。
 今では想像もつかないが、幼いころ涼果は活発な女の子で、琉奈は病気がちな大人しい女の子だった。
 そんな事もあり、あの頃は涼果が琉奈を引っ張って、色々な遊びに誘っていた。
 病気がちで同級生から虐められても、涼果が守っていた。
 だが、小学校に上がり高学年になって、琉奈は身体も丈夫になり、身長も学力も運動神経も・・・そして容姿も、全て涼果を上回った。
 中学校に上がると、琉奈は大人びた容姿で男子生徒から注目を浴び出した。
 学力も高くクラス委員長になり、運動力でも陸上部やバレー部から誘いも受けていた。
 でも琉奈は、何をするにも涼果を基準で考えた。
 一緒に部活をやろうと涼果を誘っても、涼果が無理そうだと答えると、自身も誘いを断っていた程だ。
 塾に通いたいけど、一人で通うのは心細いと涼果が言えば、琉奈も一緒に通うと言ってくれた。
 そう、二人は大の仲良しだったのだ。

 なのに一ヶ月前から、琉奈は変わった・・・・。
 敵意丸出しの眼差しで睨みつけ、手の平を返したように涼果を虐めの対象にした。
 理由を聞いても「ウザイ」「シネ」としか返ってこない。
~~~~~♪
 携帯からお気に入りの着信音が鳴り響く。
 見るとメールが来ており、そこにも見慣れた「早く逝け」「死んだ?」等の嫌がらせが。
「もう……辛い……」
 涼果は独り言を呟いた。
 何気なくそのまま携帯を弄っていると、都市伝説の書き込みが目に入った。
 最近、隣町……丘福市で話題になっている『蜘蛛女』の都市伝説。
 一部では、嫌がらせを受けた女性の、復讐を代行したという説が流れている。
「復讐代行する、蜘蛛女・・・。いいな……この村にも現れないかな?」
 そう呟いていると・・・
「なにか、悩み事かな?」
 いきなり背後から、声を掛けられた。
 そこには、色白で長身長髪の袴姿の男が立っていた。
「身共は、その先にある社で宮司をしている者。 なにやら、復讐とか、蜘蛛女がどうとか耳に入ったが、話を聞かせてもらえぬか?」
「い…いえ……、神主さんに聞いて頂くほどのことでも・・・」
 涼果がそう断ると、宮司・・いや、白陰は涼果の持つ携帯に目をやった。
「なるほど、最近有名な都市伝説のことだな? 実はその伝説と似たような話が、うちの社にも伝えられておる」
「えっ!? そうなんですか?」
「うむ。 元は普通の人間の女性だったのだが、ある事件より神に力を与えられ、大蜘蛛の力を得た・・・」
 白陰はそう言うと、懐から小さな袋を取り出し、中から二粒の小さな種を差し出した。
「この種は、我が社に伝わる神の種。 この種を飲むことで、神に選ばれた力を得ることができる。その蜘蛛女のようにな・・・」
 涼果は白陰の言葉に不信感を抱きながらも、二粒の種を受け取った。
「もし、汝が今の自分・・今の生活を変えたいと思うのであれば、ここでソレを飲みこむがいい」
 蛇のような冷たい眼差しに、氷のような笑み。明らかに怪しいのは目に見えている。
 だが、何もしなければ…何も変わらない。
 明日も、同じように琉奈の嫌がらせは続くだろう。それは死にたい程辛い。
 涼果は、そんな生活より死ぬことを選んだ方がマシとすら思っていた。
 ならば・・・・
 一気に二粒の種を飲み込んだ!
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
 激しい痛みが全身を襲った!
 足から根が生え、両腕は枝の様に伸び始める。見る見るうちに涼果の身体は、一本の樹木と化していった。
 根本には、先程まで涼果が手にしていた携帯が落ちている。
 白陰はソレを拾うと、中身をチラリと見、懐に閉まった。

-------------------------------------------------------------------


 今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 17:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT