2015.09.27 Sun
妖魔狩人 若三毛凛 if 第17話「瀬織の選択 -後編-」
① 鎌鼬を信じて契約し、霊力を分け与える。
「いいだろう! 今回だけお前を信じて、契約してやろう」
瀬織はそう言って、鎌鼬の手を握った。
「我・・汝と力の契約を結ぶ。汝は肉を・・我は血を・・、互いに分け与えると誓う」
その瞬間、瀬織の身体から、白い光が鎌鼬に流れ込む。
すると、今まで弱々しかった顔色が、少しだけ良くなり、琉奈の手から離れ、立ち上がる事もできた。
「思ったとおり、上質な霊力だ!」
ニヤリと笑う、鎌鼬。
「あばよ~っ! そんじゃ、頑張って持ちこたえるんだな」
そう叫びと一気に飛び上がり、真空の鎌で美術館の天井を切り刻むと、月明かりの夜空へ飛び出して行った。
「やはり裏切って、自分だけ逃げ出したか・・・」
大きなため息をついた瀬織。
その表情は悔しさよりも、己に対する不甲斐なさが表れていた。
ガッシャァァァン!!
入り口から大きな破壊音が聞こえると、ドタドタと駆け込んでくる音が聞こえる。
「結局、信じられるのは、己の力だけだ。お前たちも死にたくなければ、必死に抵抗しろ」
瀬織はそう言いながら、両手で水流輪を編み出す。
涼果も髪の毛を引き抜き、妖怪赤子を生み出した。
「獲物・・・見つけた・・・♪」
一体のグールが部屋に侵入し、ニタリと笑う。
同時に、他二体のグールも駆け込んできた。
「やれっ!!」
瀬織の合図で、水流輪が放たれ、赤子も飛びかかる。
一体に水流輪が命中。一体に数匹の赤子が飛びかかって押さえつける。
突破してきたもう一体は瀬織に接近。鋭い爪先で斬りつけてきた。
瀬織は数歩、身を引いて、再び水流輪を放つ。
見事に命中して、このグールは浄化。
だが入り口からは、他のグールが数体入り込んでいた。
壁を背にし盾とすることで、前方からの敵だけに集中すればいいが、それでも瀬織たちの防衛力より、グールの突破力の方が高い。
間髪入れず攻撃しても、敵との間合いはどんどん縮まっていく。
室内には数体のグールが蠢き、もはや逃げ場も無くなった。
全てを諦め、ただ怯えている琉奈と涼果。
肩で息をしている瀬織は、術すら満足に放てなくなってきている。
最後列から中を覗いていたグーラは、勝利を確信したかのように不気味に微笑むと、顎で再攻撃を促した。
シャアァァァァッ!!
一体、そしてまた一体と、グールが飛びかかる!
「もはや、これまでか?」
瀬織も諦めかけた瞬間。
シュッッッ!!
青白い閃光が、一体のグールを貫いた!!
更に、
シュッッッ!!
驚きふためく、もう一体のグールにも、閃光が貫く!!
「れ・・・霊光矢・・・? 若三毛凛か!?」
そう、それは邪なるものを浄化する、霊力の矢。
「どこだ・・? 若三毛凛は、何処から撃っている!?」
辺りを見渡す瀬織。
「あ・・あそこ!?」
涼果が指差したのは、鎌鼬が切り裂いた天井。
そこには天井に足を引っ掛け、逆さ吊り状態で、亀裂から身を乗り出した凛の姿が。
「瀬織さん、大丈夫ですか!?」
そう言いながら、一回転して瀬織の元に飛び降りる。
「若三毛凛、助かった。でも、どうしてここに?」
「鎌鼬だよ。鎌鼬が、凛に救援を求めてきたんだ!」
返答と共に、金鵄も現れる。
金鵄は、気を失ってグッタリとしている鎌鼬を、足で掴んでいた。
「瀕死の身体のまま、キミから受け継いだ霊力を全て使って、凛を探し廻っていたようだ」
金鵄はそう言って、鎌鼬の身体を琉奈に預けた。
「逃げたのでは、なかったのか?」
更に、
「黒い妖魔狩人だけじゃ、ないよ!」
瀬織が耳にしたことのない声が聞こえると、新たに天井から二人の人影が飛び降りてきた。
「なんか、やばそうな気がしたので、あたし達も付いてきた!」
それは、雪女郎とサラマンダーの二人。
「ついでだから、あたし達とも契約しない? いい仕事するよ♪」
そう言ってニッコリ微笑む、雪女郎。
先の戦いで、雪女郎・・サラマンダーとは、直接相まみえている。実力は充分承知だ。
「いくら黒い妖魔狩人でも、あれだけの数のグールを相手にするのはキツイ。あたし達と契約しろ!」
「そうだ・・・。ワタシ・・たちなら・・・、グールにも・・・負けない・・・」
サラマンダーも一緒に問い詰めてくる。
その間、凛はたった一人でグールを相手にしている。
たしかに、この中では一番戦闘力のある凛だが、弓使いである凛は、遠距離攻撃型。
こういう室内では、その力は半減する。
それに比べ、中距離ながらも、広範囲の攻撃術を持っている、雪女郎やサラマンダーの方が、この場は有利だろう。
それは、瀬織もよくわかる。
だが、瀬織は妖怪を・・・・・
そんな心を読んだかのように、雪女郎はこう付け加えた。
「あんたは鎌鼬を信じたんだろう? そして鎌鼬はそれに応えた。あたし達も同じだ!」
― た・・たしかに、そうだ・・! 鎌鼬を信じたことで、黒い妖魔狩人が駆けつけてくれた。―
その言葉に、瀬織は心を決めた!
「手を貸せ! 疲れて消耗しているが、残っている霊力を、お前たちに分け与える!」
そういって、雪女郎とサラマンダーの手を握った。
白い光が、二人の身体に流れ込む・・・
みるみるうちに、力が復活していくのがわかる!
小さく、ガッツポーズをとる二人。
「契約完了! それじゃ~っ、早速給料分働くよ!」
そう言った雪女郎は、凛の前に出た。
片手を上げ、ゆっくり回転させると、周囲にチラホラと雪が舞いだした。
そのまま上げた手を、グールに向ける!
すると雪は、激しい吹雪となってグールに襲いかかった!!
サラマンダーは、天井の穴から外へ飛び出すと、入り口付近に集まっているグールたちの背後に周り、大きな炎の渦を放った!!
炎の渦で、複数のグールが一気に倒れる。
雪女郎、サラマンダー。
たった二人の精霊の加入で、戦況は一気に逆転!
倒れていく同族の姿を見て、他のグールたちは次々に逃げ始めた!
そんなグール達に・・
「逃げるな! 最後まで戦えっ!!」
と命令し続ける、グーラ。
そのグーラの左腕に、青白い閃光が突き刺さる!!
もちろんそれは、凛の霊光矢。
それが何を意味しているか!?
理解しているグーラは左肩に己の爪を突き刺し、肩口から力任せに腕を引きちぎった。
肩口から、大量の血をたれ流しながら、凛を睨みつけるグーラ。
「この傷、絶対に忘れない。いずれ、必ず貴様を喰らってやる!!」
そう吐き捨てると、他のグールに紛れて、その場を去っていった。
「た・・助かった・・・」
安堵の溜息をつきながら、琉奈と涼果は腰を抜かす。
「若三毛凛・・、雪女郎・・、サラマンダー。お前たちが来てくれなかったら、ワタクシ達は確実に敗れていた。本当にありがとう」
瀬織も深々と頭を下げる。
「違いますよ、瀬織さん。わたし達は鎌鼬さんの必死の呼びかけに応じただけ。本当にお礼を言ってあげてほしいのは、鎌鼬さんにです」
凛の言葉に、瀬織は静かに頷き
「そうだったな・・・」
と、琉奈に抱かれている鎌鼬に、頭を下げた。
「いいんだ・・・、あんた達が助かって・・くれれば・・・」
もはや鎌鼬は、虫の息であった。
「この子・・・、なんとか助けてあげられないの?」
琉奈が瀬織に懇願する。
しかし、瀬織は首を振ると、
「さっきも言ったが、生きているのが不思議なくらいの重体なのだ。もはや、治癒の術を掛けても効果は無いし、受け付けるだけの気力も残っていないだろう」
「わかって・・いる・・。」
鎌鼬は、静かに頷いた。
「一つだけ、聞きたいことがある」
瀬織は振り返り、雪女郎やサラマンダーを見ると、
「なぜ、ワタクシと従僕の契約を結ぼうとした? 探せばワタクシ以外にも、多少の霊力を分け与えられる人間が、他にもいるはずだ。とても偶然や成り行きとは思えない」
と問いかけた。
その問いに、雪女郎たちはニッコリと笑みを浮かべると
「妖怪はさ~ぁ、結構義理堅いんだよ!」
「・・・?」
「あんた達妖魔狩人は、あたしらをマニトウスワイヤーから開放してくれた。 だから、その恩返しをしたかったんだ!」
「それで・・、わたし達に・・?」
凛も、初耳といった表情で、問い返した。
「特に、あたしとサラマンダーは、融合までされちゃったからね。 こうして元の身体に戻る事ができたのも、みんな・・あんた達のお陰だよ!」
「ワタシたちの・・力で・・、貴女たちに・・・恩を返したかった・・・」
雪女郎とサラマンダーの、嘘偽りの無い眩しい笑顔が、そこにあった。
「妖怪が、義理を重んじるなんて・・・」
複雑な心境の瀬織。
その時、
「かまいたちーっ!?」
琉奈の泣き声にも似た叫び声が、響き渡った。
「どうしたんですか?」
「鎌鼬が・・・、鎌鼬が・・・、死んでしまった・・・・」
琉奈の言葉に、金鵄が鎌鼬に触れる。
心音を探るかのように、静かに診ていたが、
「駄目だ。息を引き取っている」
と首を振った。
「鎌鼬・・・」
瀬織もそっと手を触れ、亡骸を見つめた。
まるで、全てに満足したかのように、安らかな表情だった。
その頃、柚子村・・犬乙山麓の洞窟。
白陰と嫦娥の二人が話し合っていると、
「な・・なんなのであるか? この大きな、闇の波動は!?」
大声で、ムッシュ・怨獣鬼が駆け込んできた。
「一週間ほど前にも、丘福市の方向から大きな闇を感じたが、今回のは、それに劣らない波動。 それも、この柚子村からであるぞ!」
いつになく険しい表情のムッシュ。
そんなムッシュに、冷ややかな笑いを見せる白陰。
「そうか、ムッシュは知らないのだな。 この波動の持ち主を・・・」
「!?」
「やっと、お目覚めのようじゃな」
嫦娥も白陰同様・・・冷めた笑みを浮かべる。
「お目覚め・・? まさか・・・!?」
呆然とするムッシュに、二人は揃ってこう言った。
「妖木妃様が、ついに目覚められる!」
第18話につづく(正規ルート)
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「いいだろう! 今回だけお前を信じて、契約してやろう」
瀬織はそう言って、鎌鼬の手を握った。
「我・・汝と力の契約を結ぶ。汝は肉を・・我は血を・・、互いに分け与えると誓う」
その瞬間、瀬織の身体から、白い光が鎌鼬に流れ込む。
すると、今まで弱々しかった顔色が、少しだけ良くなり、琉奈の手から離れ、立ち上がる事もできた。
「思ったとおり、上質な霊力だ!」
ニヤリと笑う、鎌鼬。
「あばよ~っ! そんじゃ、頑張って持ちこたえるんだな」
そう叫びと一気に飛び上がり、真空の鎌で美術館の天井を切り刻むと、月明かりの夜空へ飛び出して行った。
「やはり裏切って、自分だけ逃げ出したか・・・」
大きなため息をついた瀬織。
その表情は悔しさよりも、己に対する不甲斐なさが表れていた。
ガッシャァァァン!!
入り口から大きな破壊音が聞こえると、ドタドタと駆け込んでくる音が聞こえる。
「結局、信じられるのは、己の力だけだ。お前たちも死にたくなければ、必死に抵抗しろ」
瀬織はそう言いながら、両手で水流輪を編み出す。
涼果も髪の毛を引き抜き、妖怪赤子を生み出した。
「獲物・・・見つけた・・・♪」
一体のグールが部屋に侵入し、ニタリと笑う。
同時に、他二体のグールも駆け込んできた。
「やれっ!!」
瀬織の合図で、水流輪が放たれ、赤子も飛びかかる。
一体に水流輪が命中。一体に数匹の赤子が飛びかかって押さえつける。
突破してきたもう一体は瀬織に接近。鋭い爪先で斬りつけてきた。
瀬織は数歩、身を引いて、再び水流輪を放つ。
見事に命中して、このグールは浄化。
だが入り口からは、他のグールが数体入り込んでいた。
壁を背にし盾とすることで、前方からの敵だけに集中すればいいが、それでも瀬織たちの防衛力より、グールの突破力の方が高い。
間髪入れず攻撃しても、敵との間合いはどんどん縮まっていく。
室内には数体のグールが蠢き、もはや逃げ場も無くなった。
全てを諦め、ただ怯えている琉奈と涼果。
肩で息をしている瀬織は、術すら満足に放てなくなってきている。
最後列から中を覗いていたグーラは、勝利を確信したかのように不気味に微笑むと、顎で再攻撃を促した。
シャアァァァァッ!!
一体、そしてまた一体と、グールが飛びかかる!
「もはや、これまでか?」
瀬織も諦めかけた瞬間。
シュッッッ!!
青白い閃光が、一体のグールを貫いた!!
更に、
シュッッッ!!
驚きふためく、もう一体のグールにも、閃光が貫く!!
「れ・・・霊光矢・・・? 若三毛凛か!?」
そう、それは邪なるものを浄化する、霊力の矢。
「どこだ・・? 若三毛凛は、何処から撃っている!?」
辺りを見渡す瀬織。
「あ・・あそこ!?」
涼果が指差したのは、鎌鼬が切り裂いた天井。
そこには天井に足を引っ掛け、逆さ吊り状態で、亀裂から身を乗り出した凛の姿が。
「瀬織さん、大丈夫ですか!?」
そう言いながら、一回転して瀬織の元に飛び降りる。
「若三毛凛、助かった。でも、どうしてここに?」
「鎌鼬だよ。鎌鼬が、凛に救援を求めてきたんだ!」
返答と共に、金鵄も現れる。
金鵄は、気を失ってグッタリとしている鎌鼬を、足で掴んでいた。
「瀕死の身体のまま、キミから受け継いだ霊力を全て使って、凛を探し廻っていたようだ」
金鵄はそう言って、鎌鼬の身体を琉奈に預けた。
「逃げたのでは、なかったのか?」
更に、
「黒い妖魔狩人だけじゃ、ないよ!」
瀬織が耳にしたことのない声が聞こえると、新たに天井から二人の人影が飛び降りてきた。
「なんか、やばそうな気がしたので、あたし達も付いてきた!」
それは、雪女郎とサラマンダーの二人。
「ついでだから、あたし達とも契約しない? いい仕事するよ♪」
そう言ってニッコリ微笑む、雪女郎。
先の戦いで、雪女郎・・サラマンダーとは、直接相まみえている。実力は充分承知だ。
「いくら黒い妖魔狩人でも、あれだけの数のグールを相手にするのはキツイ。あたし達と契約しろ!」
「そうだ・・・。ワタシ・・たちなら・・・、グールにも・・・負けない・・・」
サラマンダーも一緒に問い詰めてくる。
その間、凛はたった一人でグールを相手にしている。
たしかに、この中では一番戦闘力のある凛だが、弓使いである凛は、遠距離攻撃型。
こういう室内では、その力は半減する。
それに比べ、中距離ながらも、広範囲の攻撃術を持っている、雪女郎やサラマンダーの方が、この場は有利だろう。
それは、瀬織もよくわかる。
だが、瀬織は妖怪を・・・・・
そんな心を読んだかのように、雪女郎はこう付け加えた。
「あんたは鎌鼬を信じたんだろう? そして鎌鼬はそれに応えた。あたし達も同じだ!」
― た・・たしかに、そうだ・・! 鎌鼬を信じたことで、黒い妖魔狩人が駆けつけてくれた。―
その言葉に、瀬織は心を決めた!
「手を貸せ! 疲れて消耗しているが、残っている霊力を、お前たちに分け与える!」
そういって、雪女郎とサラマンダーの手を握った。
白い光が、二人の身体に流れ込む・・・
みるみるうちに、力が復活していくのがわかる!
小さく、ガッツポーズをとる二人。
「契約完了! それじゃ~っ、早速給料分働くよ!」
そう言った雪女郎は、凛の前に出た。
片手を上げ、ゆっくり回転させると、周囲にチラホラと雪が舞いだした。
そのまま上げた手を、グールに向ける!
すると雪は、激しい吹雪となってグールに襲いかかった!!
サラマンダーは、天井の穴から外へ飛び出すと、入り口付近に集まっているグールたちの背後に周り、大きな炎の渦を放った!!
炎の渦で、複数のグールが一気に倒れる。
雪女郎、サラマンダー。
たった二人の精霊の加入で、戦況は一気に逆転!
倒れていく同族の姿を見て、他のグールたちは次々に逃げ始めた!
そんなグール達に・・
「逃げるな! 最後まで戦えっ!!」
と命令し続ける、グーラ。
そのグーラの左腕に、青白い閃光が突き刺さる!!
もちろんそれは、凛の霊光矢。
それが何を意味しているか!?
理解しているグーラは左肩に己の爪を突き刺し、肩口から力任せに腕を引きちぎった。
肩口から、大量の血をたれ流しながら、凛を睨みつけるグーラ。
「この傷、絶対に忘れない。いずれ、必ず貴様を喰らってやる!!」
そう吐き捨てると、他のグールに紛れて、その場を去っていった。
「た・・助かった・・・」
安堵の溜息をつきながら、琉奈と涼果は腰を抜かす。
「若三毛凛・・、雪女郎・・、サラマンダー。お前たちが来てくれなかったら、ワタクシ達は確実に敗れていた。本当にありがとう」
瀬織も深々と頭を下げる。
「違いますよ、瀬織さん。わたし達は鎌鼬さんの必死の呼びかけに応じただけ。本当にお礼を言ってあげてほしいのは、鎌鼬さんにです」
凛の言葉に、瀬織は静かに頷き
「そうだったな・・・」
と、琉奈に抱かれている鎌鼬に、頭を下げた。
「いいんだ・・・、あんた達が助かって・・くれれば・・・」
もはや鎌鼬は、虫の息であった。
「この子・・・、なんとか助けてあげられないの?」
琉奈が瀬織に懇願する。
しかし、瀬織は首を振ると、
「さっきも言ったが、生きているのが不思議なくらいの重体なのだ。もはや、治癒の術を掛けても効果は無いし、受け付けるだけの気力も残っていないだろう」
「わかって・・いる・・。」
鎌鼬は、静かに頷いた。
「一つだけ、聞きたいことがある」
瀬織は振り返り、雪女郎やサラマンダーを見ると、
「なぜ、ワタクシと従僕の契約を結ぼうとした? 探せばワタクシ以外にも、多少の霊力を分け与えられる人間が、他にもいるはずだ。とても偶然や成り行きとは思えない」
と問いかけた。
その問いに、雪女郎たちはニッコリと笑みを浮かべると
「妖怪はさ~ぁ、結構義理堅いんだよ!」
「・・・?」
「あんた達妖魔狩人は、あたしらをマニトウスワイヤーから開放してくれた。 だから、その恩返しをしたかったんだ!」
「それで・・、わたし達に・・?」
凛も、初耳といった表情で、問い返した。
「特に、あたしとサラマンダーは、融合までされちゃったからね。 こうして元の身体に戻る事ができたのも、みんな・・あんた達のお陰だよ!」
「ワタシたちの・・力で・・、貴女たちに・・・恩を返したかった・・・」
雪女郎とサラマンダーの、嘘偽りの無い眩しい笑顔が、そこにあった。
「妖怪が、義理を重んじるなんて・・・」
複雑な心境の瀬織。
その時、
「かまいたちーっ!?」
琉奈の泣き声にも似た叫び声が、響き渡った。
「どうしたんですか?」
「鎌鼬が・・・、鎌鼬が・・・、死んでしまった・・・・」
琉奈の言葉に、金鵄が鎌鼬に触れる。
心音を探るかのように、静かに診ていたが、
「駄目だ。息を引き取っている」
と首を振った。
「鎌鼬・・・」
瀬織もそっと手を触れ、亡骸を見つめた。
まるで、全てに満足したかのように、安らかな表情だった。
その頃、柚子村・・犬乙山麓の洞窟。
白陰と嫦娥の二人が話し合っていると、
「な・・なんなのであるか? この大きな、闇の波動は!?」
大声で、ムッシュ・怨獣鬼が駆け込んできた。
「一週間ほど前にも、丘福市の方向から大きな闇を感じたが、今回のは、それに劣らない波動。 それも、この柚子村からであるぞ!」
いつになく険しい表情のムッシュ。
そんなムッシュに、冷ややかな笑いを見せる白陰。
「そうか、ムッシュは知らないのだな。 この波動の持ち主を・・・」
「!?」
「やっと、お目覚めのようじゃな」
嫦娥も白陰同様・・・冷めた笑みを浮かべる。
「お目覚め・・? まさか・・・!?」
呆然とするムッシュに、二人は揃ってこう言った。
「妖木妃様が、ついに目覚められる!」
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