2014.09.28 Sun
妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -中編-」
商店街の並びにある小さな書店から、二人の少女が姿を現した。
手にした袋から「受験に出る数学問題集」と書かれた本が見える。
「涼果(すずか)は、どこの高校を狙っているんだっけ?」
そう話しかけたのは、長く靭やかな黒髪で、170センチ台の長身の美少女。
日笠 琉奈(りな)である。
「あたしは、琉奈と違ってあんまり成績良くないから・・・、樫井でも行けたらいいかな?」
そう言って苦笑したのは、両髪をおさげに結んだ少し幼い顔立ちの、初芽 涼果(すずか)。
「樫井なら公立だし、そう悪くないじゃない?!」
「琉奈は、どこに行くつもりなの?」
「私はできれば、大生堀高校かな?」
「あそこ・・・レベル高いよね! 凄いなぁ~、琉奈は!」
つい数週間前、学校中を大事件に巻き込んだ二人だが、以来すっかり元の親友同士に戻り、普通の受験生らしい生活を送っている。
「あれ・・・!?」
商店街を抜け終わろうとしたその時、琉奈が急に立ち止まった。
「どうしたの……琉奈?」
「いや、あそこ・・・」
琉奈はそう言って、商店街の外れを指した。
そこには、平屋の建物が見える。
「あそこはたしか・・・ゲームセンターだったよね? それがどうかしたの?」
「そうだけど、涼果……シャッターが開いているように見えない?」
琉奈の言葉に、涼果は目を凝らしてみる。
「あ、たしかにシャッターが開いてるよね? でも……あそこは……?」
「うん、たしか…お爺さんお婆さんがやっていたんだけど、二~三年前、二人共亡くなったんで、それからずっと閉まっていたはず・・・」
「新しい経営者さんが来たのかな・・・・?」
「そうかもしれない。 でも……私達、受験生だから、ゲームとかしている時間……無いよね?」
「うん、そんな時間があったら、勉強しなきゃ・・・・」
「だよね・・・」
「うん・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ちょっと気分転換で、見るだけみてみない?」
「そうだね、気持ちの切り替えって大事だよね!」
二人はそう意気投合すると、足早にゲームセンターへ向かっていった。
引き戸を開け、中を覗きこむ二人。
店内からは、機械音や軽妙なBGMが流れている。
「やっぱり、開店したんだ!?」
琉奈はそう言って、足を踏み入れた。涼果も後に続く。
中に入ると、BGMは一層大きく聞こえる。だが・・・人の話し声はまるで無い。
店内には、琉奈と涼果以外、客の姿も・・・店員の姿も無いのだ。
「やっていいのかな?」
涼果が恐る恐る、琉奈に尋ねた。
「どう見ても開店しているようにしか見えないから、遊んでいいんじゃない?」
琉奈はそう言って、品定めするように店内を歩いた。
「それにしても、ここには小学生の頃来た以来だけど、置いてあるゲームはあの時のままじゃない! こんなんで、お客さんが集まるの?」
琉奈はそうボヤきながら、エアホッケー台の前に立った。
エアホッケー。
卓球台程の大きさの台で、同様に二手に別れてパックという円盤を打ち合うゲーム。
ただし、台面上には無数の小さな穴が開いており、そこから空気を放出しているので、円盤が微妙に浮き上がり、台面との摩擦を減らすことで、相当なスピードになる。
そのため気の抜けない、緊迫した対戦ゲームとなっている。
「ねぇ・・涼果、エアホッケーでもやらない?」
琉奈はそう言って、硬貨を投入した。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・?」
硬貨を入れたが、いつまで経ってもパックが出てこない。
「なにこれ、壊れているの!?」
コツン!!
少しムッときた琉奈は、台を軽く足で小突いた。
すると・・・
「すぐに、新しいパックを用意する・・・・?」
琉奈の頭の中に、機械音のような声が聞こえた。
「えっ? ええっ!?」
辺りを見まわる琉奈。その瞬間!
頭上から、巨大な両手が現れ、琉奈の身体を掴みあげた!
「ちょ……、なにっ!? なにっ!?」
両手はそのまま琉奈を握り締めると、まるで団子でも握るように、ギュッ!ギュッ!と琉奈の身体を丸めていく。
「いた……いたいっ!」
更にある程度丸くなった琉奈を床の上に置くと、手の平でグルグルと転がすように回転させ、均等に球体化させていく。
「ひぇぇぇぇぇっ!!」
激しい回転に、目を回す琉奈。
「り・・琉奈っ・・!?」
それまで、呆然と眺めていた涼果だが、我に帰ると、ボコっボコッと巨大な両手を叩き始めた。
「琉奈を離せーっ!!」
懸命に巨大な両手を叩く涼果。
そんな涼果の背後にも、もう一対の巨大な両手が現れ、涼果の身体をも握りしめた。
「な…なによ……これ? もしかして…妖怪……?」
自身が妖怪になった記憶は残されているため、この不可思議現象が妖怪の仕業だと気がついた涼果。
プチッ!!
涼果は、自分の髪を一本引き抜くと・・・
「お願い……、誰か助けを呼んできて……」
と、息を吹きかけた。
髪の毛は、まるで意思でも持っているかのように、フワフワと宙を漂いながら、ゲームセンターの外へと飛んでいく。
無事に髪の毛が飛んでいったことに安心するのも束の間、
「きゃあああっ!!」
涼果も両手で、ギュッ! ギュッ!と丸め込まれていった。
一方、綺麗な球体と化した琉奈に、両手はそれに相応しい大きなハンマーのような物を手に取ると、琉奈目掛けて一気に振り下ろした!
バンッ!!
大音量と共に、激しい振動が建物全体に響き渡る。
「あひぃぃぃ……」
そこには、綺麗な円盤・・・パックと化した、琉奈の姿があった。
手は、パックになった琉奈を摘み上げると、エアホッケー台に放り投げた。
そして、左右の手でマレットと呼ばれるエアホッケー用のラケットを持つと、交互に打ち始めた。
その頃涼果の、綺麗に丸め込まれ球体と化していた。
手は球体になった涼果を摘み上げ、ピンボールの台の中へ放り込んだ。
台の中で小さな球と化した涼果。
そこはプランジャーという、最初に球を発射するスプリングの部分。
「ここは・・・・!?」
そう思った瞬間、背後から凄まじい勢いで、一気に弾かれた!
「ひぇぇぇぇぇぇ!!」
高速回転しながら、レーンを猛スピードで突っ走る涼果。
軽いループを通り過ぎると、バンパーと呼ばれるキノコ型のスプリングに弾かれる。
更にスポットターゲット、スリングショットなどで何度も弾かれる。
「目が……目が…回る……」
そんな涼果の目の前に映ったのは、フリッパーという名の、球を打ち返すハンドル。
フリッパーに弾かれ、またまた台の中央まで転がると、先程同様にバンパーやターゲットにアチコチ、弾きまくられる。
「ほぇぇぇぇ……」
あまりの出来事と衝撃に、涼果の脳内は、暗闇と飛び回る星しかなかった。
「これは・・・?」
琉奈と涼果がゲーム機に取り込まれた同じ頃、商店街から少しはなれた村道を歩いていた妖怪セコは、不自然に宙を漂う髪の毛を発見した。
「だから、分配法則っていうのは、このカッコの前にある3を、カッコの中にあるxと-5に掛けて、カッコを外した式に作り直すのよ!」
ここは若三毛宅、凛の部屋。
夏休みの宿題ワークを開いて、解き方を教える凛と、シャーペンを咥えて呆然と眺めている千佳。
夏休みになると相変わらず遊び呆けて、始業式前日に慌てて宿題を写させてと懇願してくるであろうと見通して、先にある程度済まさせてしまおうと、千佳を自宅に招いたのである。
「そうすると、3x-15になるというわけ! わかった!?」
「うん、わかったっちゃ!!」
「ホント!?」
「ああ、凛って髪は黒々しているのに、腕の産毛は割りと薄いっちゃね~~と!」
「アンタは、人が一生懸命教えているのに、産毛なんか眺めていたわけ!!?」
「ウチは、凛の全てが知りたいだけとよ!」
「その前に、数学の解き方を覚えなさい!!」
お約束通り、痴話喧嘩(?)をしている二人の元に、大慌てで金鵄が飛んできた。
「凛、コレを見てくれないか?」
金鵄はそう言ってテーブルの上に乗ると、口に銜えていた物を落とした。
「ただの髪の毛じゃなかとね?」
そう言って千佳が一本の髪の毛を摘み上げる。
「セコから預かったんだけど、凛……何か感じないかい?」
金鵄の言葉に、凛は千佳から髪の毛を受け取り、ジッと見つめた。
「霊気・・・いえ、妖気を感じる・・・・・。しかも・・・・」
凛はそこまで言うと、カッと目を見開いた。
「これは、この間……姑獲鳥になった先輩の妖気・・!?」
「やはり、そう感じるかい?」
「ああ? あの……凛を赤ん坊にした、あの先輩ね!?」
「待って! 他に何か感じる・・・・・」
凛はそう言って、精神を集中させる。
「た・・す・・け・・・て・・・・。 ……たすけて!?」
「どういう事だい、凛っ!?」
「わからない・・・。でも、これは救いを求めている波動・・・! 先輩に何かあったんじゃ!?」
凛はそう言って立ち上がった!
「でも、あの先輩……、青い衣の女に浄化されて人間に戻ったっちゃよね? なんで、そげんこつ…できると!?」
「それはわからないけど、でも放っておけない! 先輩はどこにいるの!?」
「それは今、セコが霊気を追って、大体の場所を特定している」
「じゃあ、わたしたちも行きましょう!!」
セコとの連絡で、ゲームセンターの前に来た凛と千佳。
辺りはすっかり薄暗くなっており、ただでさえ人の姿が疎らな商店街が、猫の子一匹見当たらないほど、静まり返っている。
「優里には連絡を入れておいた。もう少ししたら到着するらしいけど、どうする…凛? 優里が来るまで待っているかい?」
真剣な表情で佇む凛に、金鵄はそう尋ねた。
「ううん・・・。一分一秒遅れることで、先輩にもしもの事があったら大変だから、すぐに中に入るわ!」
凛は首を振ると、静かに引き戸を開けた。
店内は明るい照明と、軽妙なBGMが流れている。
しかし、今に限ってはそれが逆に不気味な雰囲気を醸し出している。
一歩足を踏み入れた凛は、圧迫されるような重い妖気を感じ取った。
「思ったより、強い妖気ね・・・。 念の為に霊装しておいた方がいいかも」
凛の言葉に千佳も静かに頷き、二人共・・いつでも戦闘できるように霊装した。
店内は思った通り、凛と千佳以外……まるで人の気配が無い。
「とりあえず、なんかゲームでもやってみん?」
千佳はそう言うと、目の前にあったハンティングゲームの猟銃を握りしめる。
「千佳、今はそんな状況じゃないだろ!」
金鵄はすぐに咎めようとしたが、
「いえ、敵の出方がわからない以上、こっちから動くしかないみたい・・・」
と、凛がフォローを入れた。
「さすが凛! 愛してるっちゃ♪」
軽口を叩き、銃の照準を測る千佳。
右から左から、交互に動物の絵札が流れてくる。
最初は外していたが、二~三回撃つことでコツを掴んできた。以後は次々に命中させていく。
連続して四~五頭の動物を倒すと、次に現れたのはなんと、人間の少女らしき絵札だ。
それは襟の大きいブラウスに水色地に白いチェック柄のネクタイ、プリーツスカート。
いかにも都会風な制服を着た少女を、三頭身くらいにデフォルメしてから平面化したような、そんな滑稽な姿だった。
千佳は不思議に思いながらも、銃を撃ち命中させる。
×目になり、パタンと倒れる少女の絵札。
赤い点滅と叫び声が聞こえるが、先程までとは違い、動物の声ではなく、少女の声で「たすけて!」と聞こえる。
次に現れたのも、同じ制服を来た少女の絵札だ。
しかもこちらは初めから、涙を流しているように見える。
「あんま、いい気分じゃ…なかよね」
千佳はそう呟き、銃口を下げた。
凛は、ドライブゲームの前にいた。
ガラス越しに中を覗くと、ベルトコンベアに描かれた道の上に玩具のオープンカーが乗っており、さらにその車には一人の少女らしき人形が乗っていた。
ゲームそのものは昭和っぽいのに、乗っている人形はデフォルメされてはいるものの、髪型も、そして制服らしき身なりで、それも水色地に白いチェック柄のネクタイ・スカートと、今風のデザインである。
「凛、こっちへ来てくれ!」
金鵄の呼び声に振り向いた。
そこにはエアホッケー台があり、金鵄はその上を飛び回っている。
台の上を見ると、パックがポツンと乗っている。
だが、そのパックには人間の顔のような模様があった。
そして、その顔は・・・・
「日笠・・・先輩・・・!?」
それはどう見ても、目を回して気を失っている、琉奈の表情だ!
「凛、先輩・・・見つけたっちゃよ!」
千佳の声が聞こえ、凛は駆け寄った。
それはピンボールの筐体。
千佳は、ガラス面の一部を指さしている。
それは球を弾き出すプランジャーの位置で、一個の球が準備されている。
そして、その球には紛れも無く、涼果の表情が浮かんでいた。
「どうやら、このゲームセンターに立ち寄った人は、みんなゲーム機に取り込まれてしまったようね!」
まとめるような言葉を口にしながら、薙刀を手にした優里が入り口に立っていた。
「優里お姉さん!!」
凛の顔が、パァ~ッと明るくなる。
「話はセコさんから聞いたわ」
優里は店内に入り、辺りを見渡す。
「でも問題が一つ・・・。それは妖怪の本体が、どれか・・・!? って事よね」
優里の言葉に、凛は静かに頷くと・・・
① 妖怪の本体は、この中のどれか一つの機械だと思う。
② この建物自体が、妖怪の本体だと思います。
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『-後編-』へ続く。
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| | 2018/03/29 17:07 | | ≫ EDIT