2015.12.28 Mon
マニトウスワイヤー 「プロローグ」
ここは北アメリカ。
地平線の彼方まで見渡せるのではないかと思えるような広大な大地に覆われた、ニューメキシコ州の小さな村。
普段なら農業と狩猟による時代の流れを感じさせない民族が住む平和な土地だが、今・・・この場限りではそうではなかった。
「フェアウェイ、頑張って!! 奴らに追いつかれる!」
小麦色の肌。オカッパのような黒髪に、いかにもネイティブ・アメリカン的な軽装の若い女性が、同じような服装で緑色の髪をした幼い少女の手を引いて必死の形相で駆け抜けていく。
「バレンティア、もう走れない・・・!」
フェアウェイと呼ばれた緑色の髪の幼い少女は今にも号泣しそうに目に一杯の涙を貯め、バレンティアという名の女性の手をしっかり握りしめ後を追ってくる。
乾いた大地、二人の飛び散る汗が一瞬で吸い込まれる。
「はぁ・・はぁ・・。ねぇ、バレンティア・・・もう大丈夫なんじゃないの・・?」
手を離し、その場に座り込むフェアウェイ。
バレンティアも足を止め、辺りを覗きこむように目を凝らす。
広大な大地には小動物一匹の姿すら目にはいらない。
だが・・・
遥か後方から地響きを上げながら、まるで爆煙のような砂煙がこちらに向かってくるのがわかる。
まるで温度計が下がっていくかのように、見る見るうちにフェアウェイの顔色が青ざめていく。
「バレンティア! フェアウェイ!」
前方から大きな呼びかけと共に、三頭の馬が駆け寄ってきた。
「大丈夫!?」
それぞれの馬から三人の若い女性が飛び降りる。
「ルゥ、どうしてここに!?」
バレンティアは、自身より少し若く小柄で長髪の女性に話しかけた。
「酋長が何があっても貴女達を守りなさいと、わたし達をよこしたの」
「酋長が・・・?」
「そう、酋長が言っていたわ。もしフェアウェイが奴らの手に渡ったら、この大地の全てが終わると・・・」
ルゥという女性の言葉に他の二人の女性も頷いた。
「さぁ、この馬に乗って早く逃げて!」
同様に長髪で凛々しい面立ちの女性、サラはそう言って馬の手綱を引き寄せる。
靭やかな足でバレンティアは一気に馬に飛び乗ると、フェアウェイの身体を引きずり上げた。
「これを・・・」
三人目の女性、露出度の高い服に長身金髪のソランジュが、封筒と二枚の紙切れを手渡す。
「日本行きの航空券と目的地を記したものよ」
ソランジュの言葉にバレンティアは無言で頷く。
「無事に逃げ延びてね・・・」
「ありがとう、みんなも絶対に無理をしないで! 酋長にもよろしく・・・」
交わす言葉には、それぞれの覚悟を決めた心意気が伝わってくる。
「ハイヤーっ!!」
膝元にフェアウェイを乗せ、バレンティアは涙を拭うと一気に馬を走らせて行った。
二人を見届けると、ルゥたちは馬に積んであった各々の武器を手に取り近寄ってくる砂煙を睨みつける。
間近に迫った砂煙の中から現れたのは一本の『タイヤ』。
え・・っ!? タイヤって、あのゴムで出来た自動車やバスなどに付いている車輪のこと?
それ、見間違えじゃないの!?
いや、そうではない。
たしかに全高3.3メートルと一般ではお目にかかれない程の大きなものだが、それはどう見てもゴムで作らえれた一本のタイヤである。
更にそのタイヤのすぐ後から、一台の馬車が着いて来ている。
馬車から降りてきたのは小柄な中年女性。
しかし、その大げさとも思えるような猫背に瘤のようなしこりがある。
今の時代では禁句になっているらしいが、いわゆる『せむし女』と呼ばれる姿だ。
その後に降りてきたのは、同じく中年女性?
見た目は体重100キログラムは楽々超えているだろうとわかる程の丸々太った巨体。
だが、問題はその顔だ。まるで表情がわからない。
それもそのはず。その顔は素顔ではないからだ。
おそらく、動物の皮で作ったのではないかと思える面を被っている。
そしてその後に続いたのは、ヒョロリとした長身の年配男性。
手にベーコンか何か肉の塊のようなものを握りしめ、クチャクチャ噛み締めている。
一見、人の良さそうな中高年に見えるが、さすがにこのメンバーの中にいると異様な雰囲気が醸し出ている。
最後は、頭から全身までマントのような布で覆われた性別不明の人物。
体格的にも、男なのか女性なのかわからない。
馬車から降りてきたのは全部で四人だ。
「子ども・・・。天女の子どもは、どこへやった?」
小柄なせむし女が口を開いた。
「見てのとおりここにはいない。そして・・・」
ルゥはそう答える。
その言葉に反応したかのようにサラが大きな剣を。ソランジュがライフル銃を構えた。
「何処へ行ったか、お前たちに教える筋合いも無い」
「まさか、極普通の人間であるお前たちが、アタクシ達を抑えられるとでも思っているのかい?」
せむし女は目を細め、口端は耳にでも届きそうなくらい引き上げクククと笑う。
「R-51、この獲物・・・まずはお前に与えるよ」
せむし女の言葉に、巨大なタイヤ・・・R-51がゆっくりと動き出す。
R-51はそのまま回れ右をし、後方に向かって走りだす。だが再び旋回すると、加速を付け猛スピードで迫ってきた!
「くっ!!」
ソランジュがライフルを二発・三発と発射する。
しかし高速回転しているR-51は屁でもないように弾き返し、そのまま突進してきた。
ガンッ!!
ライフルを構えたまま避けそこねたソランジュは悲鳴を上げる間もなく弾き飛ばされた。
「ソランジュ!?」
ルゥとサラは剣を掲げ救助に向かって走りだした。
その前に立ちはだかったのは、皮膚で作られた仮面を被る丸々太った中年女。
その手には、轟音を上げながら勢い良く回転するチェーンソーを握りしめている。
「こいつが・・・ミス・ブッチャーマン(女屠殺人)と呼ばれるクエロマスカラ!?」
クエロマスカラ。テキサス州近辺に出没する殺人鬼。
チェーンソーを片手に数百人の人命を殺害したと言われている、極悪非道の女屠殺人。
顔につけている皮膚製の仮面は、殺した女性の皮膚で作られていると言われている。
巨体から繰り出す怪力で、右へ左へ軽々とチェーンソーを振り回す。
下手に剣で受けようとするならば、腕ごとねじ切られるかもしれない。
ルゥもサラも攻撃を避けながら左右二手に別れ、致命傷を負わせる隙を狙う。
そんなルゥとサラを目で追えなくなり、一瞬躊躇するクエロマスカラ。
「今だっ!!」
ルゥが剣ごと体当たりするようにクエロマスカラにぶつかって行った。 クエロマスカラの脇腹にルゥの刃が深々と突き刺さっている。
更に「たぁぁぁぁっ!!」サラも刃を突き立て体当たり。 左右から、二本の剣が突き刺さる。
「・・・!?」
何が起きたか、まるでわからないかのように目を丸くしたクエロマスカラ。 だが、ゆっくりとその巨体は傾き、地響きを立ててその身を横たわらせた。
一方、弾き飛ばされたソランジュは、倒れたその身にR-51が踏み潰すように伸し掛かっていた。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
高さ3メートル以上ある巨大なタイヤは、たとえゴムタイヤとは言えその重さは1トン以上ある。
そんな物が乗っかっているのだ。その激痛は想像を超え激しい悲鳴は当然だ。
「早く、ソランジュを助けなければ!」
直ぐ様ルゥが駈け出し、サラもその後を追おうとした。
だが・・・足が前に進まない!
「えっ!?」
サラはその細い足首を掴まれ、そのまま一気に宙吊りにされた。
「サラ!?」
ルゥが振り返ると、倒したはずのクエロマスカラがサラの両足首を掴み、逆さ吊りにしている。
「くそっ! 放せ、この・・デブ!!」
逆さ吊りの状態で、喚きながら剣を振り回すサラ。 振り回した剣は、何太刀かクエロマスカラを切りつけている。
だが、クエロマスカラが反応したのはそこではなかった。
「デブって、イウナ!」
まるで地の底から搾り出されたような、重く掠れた声を出すと、
ガツンっ!! ガツンッ!! と、サラを頭から大地に叩きつける。
「ぐ・・・ぐ・・ぅ・・」
三度、四度と叩きつけられると、頭を強く打ったせいかサラの意識は朦朧としていた。
クエロマスカラはグッタリしたサラを地面に横たわらせると、まるで小麦粉でも捏ねるように手足を折りたたんでは力を込めて押し潰す。
丸く押しつぶすと二~三回大地に叩きつけ、またまた捏ねるように押しつぶす。
そんな作業を五~六回繰り返したら、サラの姿はどこが頭でどこが手足で、どこが胴なのか? まるでわからない・・・楕円形の大きな肉の塊になっていた。
クエロマスカラは肉の塊となったサラを持ち上げると、人の良さそうな長身の中高年男性の元へ持っていく。
「パパ、ハンバーグ・・焼イテ」
その言葉にニヤリと微笑む、中高年男性・・・ドレイトン。
馬車から大きな鉄板と薪を下ろすと、料理の準備を始めだした。
為す術もなく呆然と見つめていたルゥ。
そんなルゥは大きな悲鳴で我に返った。
「た・・たすけて! ルゥ!!」
それは巨大なタイヤであるR-51に踏み潰され、姿すら見えないソランジュの声だ。
ルゥが駆けつけると、踏み潰されているソランジュの身体が徐々に・・・徐々に薄くなっていくように見える。
それはまるで、空気が抜けた風船人形が萎んでペチャンコになっていくように。
「R-51は、ああして踏みつぶして絞り出た人間の体液を吸い尽くしていくのさ」
いつの間にかすぐ背後にせむし女・・・アンナ・フォンが近寄り、そっと囁いた。
振り返り剣を構えるルゥ。
「警戒する必要はないさ。アタクシ自身はアンタをどうこうする気はないよ」
アンナ・フォンはそう言うと、厚さ1センチ程になったソランジュを摘み上げるクンクンと匂いを嗅ぎ、嬉しそうに馬車に積み込んだ。
「ただ・・・、パペット・マスターはアンタに興味があるみたいだね」
あまりに異様な者達ばかりでルゥはすっかり戦意を喪失し、ただ・・ただ、呆然と立ち尽くすのみだ。
そんな彼女の肩に手をかけたのは、全身マントの人物・・パペット・マスター。
ルゥは、逆らう気も無かった。
それから数時間後。
メキシコ・シティ空港から一機の国際線航空機が飛びだって行った。
その機内には、バレンティア、フェアウェイの姿が見える。
相当疲れたのであろう。フェアウェイは座席の中でスヤスヤと小さな寝息を立てていた。
その姿を見てバレンティアは静かに微笑むと、ポケットから封筒を取り出し中身を確認した。
「日本・・・神田川県、丘福シティー。ここに行けば・・・・・」
そして、空港の側で飛び去る飛行機を眺めるアンナ・フォン。 クエロマスカラ。 ドレイトン。 パペット・マスター。 R-51。
「全ては、マニトウスワイヤー復活のために・・・」
「全ては、マニトウスワイヤー復活のために・・・」
第一章 蜘蛛のお姫様へ続く。
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地平線の彼方まで見渡せるのではないかと思えるような広大な大地に覆われた、ニューメキシコ州の小さな村。
普段なら農業と狩猟による時代の流れを感じさせない民族が住む平和な土地だが、今・・・この場限りではそうではなかった。
「フェアウェイ、頑張って!! 奴らに追いつかれる!」
小麦色の肌。オカッパのような黒髪に、いかにもネイティブ・アメリカン的な軽装の若い女性が、同じような服装で緑色の髪をした幼い少女の手を引いて必死の形相で駆け抜けていく。
「バレンティア、もう走れない・・・!」
フェアウェイと呼ばれた緑色の髪の幼い少女は今にも号泣しそうに目に一杯の涙を貯め、バレンティアという名の女性の手をしっかり握りしめ後を追ってくる。
乾いた大地、二人の飛び散る汗が一瞬で吸い込まれる。
「はぁ・・はぁ・・。ねぇ、バレンティア・・・もう大丈夫なんじゃないの・・?」
手を離し、その場に座り込むフェアウェイ。
バレンティアも足を止め、辺りを覗きこむように目を凝らす。
広大な大地には小動物一匹の姿すら目にはいらない。
だが・・・
遥か後方から地響きを上げながら、まるで爆煙のような砂煙がこちらに向かってくるのがわかる。
まるで温度計が下がっていくかのように、見る見るうちにフェアウェイの顔色が青ざめていく。
「バレンティア! フェアウェイ!」
前方から大きな呼びかけと共に、三頭の馬が駆け寄ってきた。
「大丈夫!?」
それぞれの馬から三人の若い女性が飛び降りる。
「ルゥ、どうしてここに!?」
バレンティアは、自身より少し若く小柄で長髪の女性に話しかけた。
「酋長が何があっても貴女達を守りなさいと、わたし達をよこしたの」
「酋長が・・・?」
「そう、酋長が言っていたわ。もしフェアウェイが奴らの手に渡ったら、この大地の全てが終わると・・・」
ルゥという女性の言葉に他の二人の女性も頷いた。
「さぁ、この馬に乗って早く逃げて!」
同様に長髪で凛々しい面立ちの女性、サラはそう言って馬の手綱を引き寄せる。
靭やかな足でバレンティアは一気に馬に飛び乗ると、フェアウェイの身体を引きずり上げた。
「これを・・・」
三人目の女性、露出度の高い服に長身金髪のソランジュが、封筒と二枚の紙切れを手渡す。
「日本行きの航空券と目的地を記したものよ」
ソランジュの言葉にバレンティアは無言で頷く。
「無事に逃げ延びてね・・・」
「ありがとう、みんなも絶対に無理をしないで! 酋長にもよろしく・・・」
交わす言葉には、それぞれの覚悟を決めた心意気が伝わってくる。
「ハイヤーっ!!」
膝元にフェアウェイを乗せ、バレンティアは涙を拭うと一気に馬を走らせて行った。
二人を見届けると、ルゥたちは馬に積んであった各々の武器を手に取り近寄ってくる砂煙を睨みつける。
間近に迫った砂煙の中から現れたのは一本の『タイヤ』。
え・・っ!? タイヤって、あのゴムで出来た自動車やバスなどに付いている車輪のこと?
それ、見間違えじゃないの!?
いや、そうではない。
たしかに全高3.3メートルと一般ではお目にかかれない程の大きなものだが、それはどう見てもゴムで作らえれた一本のタイヤである。
更にそのタイヤのすぐ後から、一台の馬車が着いて来ている。
馬車から降りてきたのは小柄な中年女性。
しかし、その大げさとも思えるような猫背に瘤のようなしこりがある。
今の時代では禁句になっているらしいが、いわゆる『せむし女』と呼ばれる姿だ。
その後に降りてきたのは、同じく中年女性?
見た目は体重100キログラムは楽々超えているだろうとわかる程の丸々太った巨体。
だが、問題はその顔だ。まるで表情がわからない。
それもそのはず。その顔は素顔ではないからだ。
おそらく、動物の皮で作ったのではないかと思える面を被っている。
そしてその後に続いたのは、ヒョロリとした長身の年配男性。
手にベーコンか何か肉の塊のようなものを握りしめ、クチャクチャ噛み締めている。
一見、人の良さそうな中高年に見えるが、さすがにこのメンバーの中にいると異様な雰囲気が醸し出ている。
最後は、頭から全身までマントのような布で覆われた性別不明の人物。
体格的にも、男なのか女性なのかわからない。
馬車から降りてきたのは全部で四人だ。
「子ども・・・。天女の子どもは、どこへやった?」
小柄なせむし女が口を開いた。
「見てのとおりここにはいない。そして・・・」
ルゥはそう答える。
その言葉に反応したかのようにサラが大きな剣を。ソランジュがライフル銃を構えた。
「何処へ行ったか、お前たちに教える筋合いも無い」
「まさか、極普通の人間であるお前たちが、アタクシ達を抑えられるとでも思っているのかい?」
せむし女は目を細め、口端は耳にでも届きそうなくらい引き上げクククと笑う。
「R-51、この獲物・・・まずはお前に与えるよ」
せむし女の言葉に、巨大なタイヤ・・・R-51がゆっくりと動き出す。
R-51はそのまま回れ右をし、後方に向かって走りだす。だが再び旋回すると、加速を付け猛スピードで迫ってきた!
「くっ!!」
ソランジュがライフルを二発・三発と発射する。
しかし高速回転しているR-51は屁でもないように弾き返し、そのまま突進してきた。
ガンッ!!
ライフルを構えたまま避けそこねたソランジュは悲鳴を上げる間もなく弾き飛ばされた。
「ソランジュ!?」
ルゥとサラは剣を掲げ救助に向かって走りだした。
その前に立ちはだかったのは、皮膚で作られた仮面を被る丸々太った中年女。
その手には、轟音を上げながら勢い良く回転するチェーンソーを握りしめている。
「こいつが・・・ミス・ブッチャーマン(女屠殺人)と呼ばれるクエロマスカラ!?」
クエロマスカラ。テキサス州近辺に出没する殺人鬼。
チェーンソーを片手に数百人の人命を殺害したと言われている、極悪非道の女屠殺人。
顔につけている皮膚製の仮面は、殺した女性の皮膚で作られていると言われている。
巨体から繰り出す怪力で、右へ左へ軽々とチェーンソーを振り回す。
下手に剣で受けようとするならば、腕ごとねじ切られるかもしれない。
ルゥもサラも攻撃を避けながら左右二手に別れ、致命傷を負わせる隙を狙う。
そんなルゥとサラを目で追えなくなり、一瞬躊躇するクエロマスカラ。
「今だっ!!」
ルゥが剣ごと体当たりするようにクエロマスカラにぶつかって行った。 クエロマスカラの脇腹にルゥの刃が深々と突き刺さっている。
更に「たぁぁぁぁっ!!」サラも刃を突き立て体当たり。 左右から、二本の剣が突き刺さる。
「・・・!?」
何が起きたか、まるでわからないかのように目を丸くしたクエロマスカラ。 だが、ゆっくりとその巨体は傾き、地響きを立ててその身を横たわらせた。
一方、弾き飛ばされたソランジュは、倒れたその身にR-51が踏み潰すように伸し掛かっていた。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
高さ3メートル以上ある巨大なタイヤは、たとえゴムタイヤとは言えその重さは1トン以上ある。
そんな物が乗っかっているのだ。その激痛は想像を超え激しい悲鳴は当然だ。
「早く、ソランジュを助けなければ!」
直ぐ様ルゥが駈け出し、サラもその後を追おうとした。
だが・・・足が前に進まない!
「えっ!?」
サラはその細い足首を掴まれ、そのまま一気に宙吊りにされた。
「サラ!?」
ルゥが振り返ると、倒したはずのクエロマスカラがサラの両足首を掴み、逆さ吊りにしている。
「くそっ! 放せ、この・・デブ!!」
逆さ吊りの状態で、喚きながら剣を振り回すサラ。 振り回した剣は、何太刀かクエロマスカラを切りつけている。
だが、クエロマスカラが反応したのはそこではなかった。
「デブって、イウナ!」
まるで地の底から搾り出されたような、重く掠れた声を出すと、
ガツンっ!! ガツンッ!! と、サラを頭から大地に叩きつける。
「ぐ・・・ぐ・・ぅ・・」
三度、四度と叩きつけられると、頭を強く打ったせいかサラの意識は朦朧としていた。
クエロマスカラはグッタリしたサラを地面に横たわらせると、まるで小麦粉でも捏ねるように手足を折りたたんでは力を込めて押し潰す。
丸く押しつぶすと二~三回大地に叩きつけ、またまた捏ねるように押しつぶす。
そんな作業を五~六回繰り返したら、サラの姿はどこが頭でどこが手足で、どこが胴なのか? まるでわからない・・・楕円形の大きな肉の塊になっていた。
クエロマスカラは肉の塊となったサラを持ち上げると、人の良さそうな長身の中高年男性の元へ持っていく。
「パパ、ハンバーグ・・焼イテ」
その言葉にニヤリと微笑む、中高年男性・・・ドレイトン。
馬車から大きな鉄板と薪を下ろすと、料理の準備を始めだした。
為す術もなく呆然と見つめていたルゥ。
そんなルゥは大きな悲鳴で我に返った。
「た・・たすけて! ルゥ!!」
それは巨大なタイヤであるR-51に踏み潰され、姿すら見えないソランジュの声だ。
ルゥが駆けつけると、踏み潰されているソランジュの身体が徐々に・・・徐々に薄くなっていくように見える。
それはまるで、空気が抜けた風船人形が萎んでペチャンコになっていくように。
「R-51は、ああして踏みつぶして絞り出た人間の体液を吸い尽くしていくのさ」
いつの間にかすぐ背後にせむし女・・・アンナ・フォンが近寄り、そっと囁いた。
振り返り剣を構えるルゥ。
「警戒する必要はないさ。アタクシ自身はアンタをどうこうする気はないよ」
アンナ・フォンはそう言うと、厚さ1センチ程になったソランジュを摘み上げるクンクンと匂いを嗅ぎ、嬉しそうに馬車に積み込んだ。
「ただ・・・、パペット・マスターはアンタに興味があるみたいだね」
あまりに異様な者達ばかりでルゥはすっかり戦意を喪失し、ただ・・ただ、呆然と立ち尽くすのみだ。
そんな彼女の肩に手をかけたのは、全身マントの人物・・パペット・マスター。
ルゥは、逆らう気も無かった。
それから数時間後。
メキシコ・シティ空港から一機の国際線航空機が飛びだって行った。
その機内には、バレンティア、フェアウェイの姿が見える。
相当疲れたのであろう。フェアウェイは座席の中でスヤスヤと小さな寝息を立てていた。
その姿を見てバレンティアは静かに微笑むと、ポケットから封筒を取り出し中身を確認した。
「日本・・・神田川県、丘福シティー。ここに行けば・・・・・」
そして、空港の側で飛び去る飛行機を眺めるアンナ・フォン。 クエロマスカラ。 ドレイトン。 パペット・マスター。 R-51。
「全ては、マニトウスワイヤー復活のために・・・」
「全ては、マニトウスワイヤー復活のために・・・」
第一章 蜘蛛のお姫様へ続く。
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| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 12:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑