2015.12.28 Mon
マニトウスワイヤー 第二章 てんこぶ姫 対 R-51
「私立聖心女子大学附属聖心女子高校・・・」
バスの中で封筒の中身を確かめながら、バレンティアはそう語った。
「聖心女子大・・・って、わたくしの通う大学ですわね。 その附属高校・・・。どこだったかしら?」
「とにかく私達は、そこへ一刻も早く行きたいのです!」
「うーん・・・、聖心女子高…。一度剣道の対抗試合で行ったことはあるんだけど、たしか・・・中央区だったかな?」
話を聞いていた香苗はバッグから顔を出し、つい呟いてしまった。
それを見たフェアウェイ。
「わぁぁぁぁつ!! ヌイグルミさんが喋ってる!?」
と声を張り上げてしまった。
一斉に他の乗客から視線を浴びる一行。
「貴女が余計なことをすると目立つから、口を挟まないでくれませんか?」
氷より冷たい視線で、香苗を睨みつける都。
慌てて口を噤む香苗。
だが、フェアウェイの好奇心という名の視線は香苗に鋭く刺さったままである。
「仕方ないですわ。少しの間だけですが存分に弄んでくださいな♪」
都はそう言って、香苗をフェアウェイに手渡した。
「ヌイグルミさ~ん♪」
フェアウェイは香苗をしつこく頬擦りしたり、アバラが折れそうな位、抱きしめたり。
もっとも、ヌイグルミである香苗にアバラは無いが・・・。
「それにしても中央区ですか・・・。途中で一回乗り換えれば、それほど遠い距離でもありませんわね」
都は無邪気に香苗で遊ぶフェアウェイを横目で見つめ、仕方無さそうに微笑み
「いいでしょう。わたくしたちがそこまでご案内いたしますわ」
と、言った。
「ありがとうございます!」
バレンティアは満面の笑みで喜んだ。
「・・で、貴女たちを追っていたあの人形どもは一体何ですの? そして・・・、貴女たちが狙われている理由は?」
「それは・・・・」
バレンティアが重そうな口を開こうとしたその時!
ガガァァァァン!!
重い衝撃音と激しい振動がバスを襲った!
急停車しようとしたが、ハンドルを取られそのまま横流れに歩道に乗り上げると、バランスを崩し一気に横転してしまった。
一瞬で地獄絵図と化した車内。うめき声と泣き声が交錯する。
「なにがあったんですの!?」
体勢を立て直し、辺りを見回す都。
その都の目に映ったのは、バスの外で蠢く巨大で黒い物体。
その大きさはバスの全高が約3.3メートル。それと殆ど変わらない。
もっと・・もっと・・小さければ、それは日常で極自然に目に触れている丸い物体。
「あ・・R-51・・・」
バレンティアがその物体を見て口に漏らした。
そう、ニューメキシコでバレンティアたちに襲いかかった・・・。
ソランジュを踏み潰し、ペチャンコにした・・・黒い巨大なタイヤ。
「R-51・・!? まさか、あのタイヤ・・・、生きているのですか!?」
「生きている・・・と言えば生きているのかも知れません。でも、まさか・・アイツまで、この国にやって来るとは・・・・」
蒼白となったバレンティアは、ただ・・ただ・・呆然と見つめるだけだ。
「とにかくまずはここから出て、逃げるしかありませんわね!」
都はそう言ってバスの窓ガラスを蹴り破る。
バスから飛び出し歩道を駆け出す都たち。
R-51はそれに気づくと、メキメキとバスを踏み潰しながら都たちの後を追い始めた。
「こっちです!」
都は強固な建物の多い飲食店街に向かって走り続ける。
しかし、いくら駆け足とは言え二足歩行の人間より回転して突き進むタイヤの方が移動速度は圧倒的に速い。
見る見るうちにR-51は都たちに追い付いてきた。
都はオフィスビルに飛びつくと、そのまま猛スピードでビルの壁をよじ登った。
それはまさしく『蜘蛛』の動き。
5階に辿り着くと手の平から糸を放出し、下にいるバレンティアとフェアウェイの身体に巻き付け、グイッと一気に引き上げた。
窓を蹴り破り二人を室内に誘導し
「さすがに、この高さまでよじ登ることはできないでしょう」
と、一息ついた。
だが・・・
ガンッ!! ガンッ!!
たしかにR-51は壁をよじ登ることはできないが、一歩引いては突進。一歩引いては突進を繰り返し、ビルの壁を叩き壊しに掛かる。
「まっ!? このビルごとダルマ落としでもして、わたくしたちを引きずり降ろそうって思っているの!? なんて・・脳筋なのかしら!?」
ヒュゥゥン!
都は唯一人ビルから飛び降りると、鋭い手の爪を剥き出し、
ズザザッ・・
R-51を切り裂きにかかった。
「!!?」
だが、分厚いゴム製のR-51。
爪先が僅かに喰いこみはするものの、その弾力性で爪が抑えこまれ、引き裂くことすらままならない。
「あらあら、わたくしの爪がまるで役に立たないとは・・・。こんな事なら毎朝コーンフレークを食べて、カルシュウムをしっかり取っておくべきでしたわね」
都がそう呟いた時・・・
「下等な虫ケラ妖怪ごときが、アタクシたちに歯向かうつもりなの?」
黒マントの人形たちを引き連れて、路上を悠々と歩む一人のせむし女。
「アンナ・フォン!?」
オフィスビルの窓越しでバレンティアが声を上げた。
「そ・・その手にした物は・・!?」
それは、アンナ・フォンが両手で抱えている反物のような物体。
桜色で所々…香ばしく焼け焦げた跡があるその物体は、人の姿を型どったペラペラの薄べったい物。
「ああ…、これかい?」
アンナ・フォンはそれを高々と持ち上げると、
「これはアンタたちを逃がそうとした、ソランジュとかいう娘を燻って作ったベーコンさ!」
アンナ・フォンはそう言って太腿の辺りに齧りつくと、美味そうにその肉を頬張った。
「ドレイトンが作ったのだけど・・・この娘の程よい甘さを活かした絶妙な塩加減にチップの香り。一度食べたら止まらない美味しさよ。 彼の作るベーコンは口コミで大人気。最近ではネットからの注文が殺到しているらしいわ!」
「そんな事より虫ケラ妖怪・・ごとき・・とは、聞き捨てなりませんわね。 貴女こそどなたですの?」
都が間に割って入る様に、冷ややかな眼差しで問いかけた。
「アタクシの名はアンナ・フォン。 偉大なる『マニトウスワイヤー』の第一の下僕」
「マニトウスワイヤー・・・? 聞いたことありませんわね。何者ですの?」
「アンタごときではその名を口にするのも恐れ多い、偉大な支配者様よ!」
アンナ・フォンはそう言って指先でR-51に合図を送る。
それを理解したかのように、R-51は目標を都に定め猛回転で突進して来た!
持ち前の身の軽さで楽々と避ける都。
アンナ・フォンは、その間・・人形たちにバレンティアたちがいるオフィスビルに向かうように指示。
それに気づいた都はビルに戻ろうとするが・・・
グォン!!
予想以上に素早い動きで突進してくるR-51に阻まれ、思うように身動きが取れない。
「本当に、邪魔なタイヤですわね!」
都は糸を噴出し近くのビルに貼り付けると、糸を手繰るように飛び上がった!
飛びながら更に糸を噴出、手繰りながら空中移動を繰り返す・・都。
だが、R-51はその場で2~3回弾むように跳ねると、その反動を利用し都目掛けて大きく飛び上がった!
バシッッッッ!!
空中でR-51はそのまま都に体当たり!
体勢を崩し、為す術もなく落下する都。
ガッシャーン!!
飲食店街一角の天ぷらチェーン店の大窓に、真っ逆さまに突っ込んでしまった。
「うぅぅぅ・・・」
過去、多くの人間を手にかけてきたが、自分と同等・・・もしくはそれ以上の化け物と戦ったのは初めてである。
全身は血まみれ。初めて味わう『殺されるかもしれない』という恐怖感。
「あんた、大丈夫か・・・!?」
客や店員が駆け寄り、心配そうに都に問いかけた。
「ご心配には及びませんわ・・・。わたくしは・・姫。蜘蛛妖怪の姫・・・。こんな傷・・屁でもありません」
よろめきながらも立ち上がり、身体を引き摺るように店の外へ・・・
そこへ、大きく跳ね上がったR-51が全体重を乗せて都目掛けて落下!!
ズシィィィン!!
震度5を思わせるような大きな揺れ。
「所詮は虫けら妖怪・・・呆気無いものだ。ペチャンコに潰れてR-51に吸収されるがいい」
離れて様子を見ていたアンナ・フォンは「クククッ」と嘲笑った。
激しい戦いとなっている飲食店街を、少し離れた場所から見物する多くの通行人たち。
「化け物が暴れているそうだぞ!」
「空中を飛び回る女の姿もあったそうだ!!」
「それって、都市伝説にもなっている・・『蜘蛛女』じゃね!?」
そしてここ、一番近い地下鉄乗り場『五福街駅』でも、多くの人集りが出来ていた。
その中に髪を長めのサイドテールに結んだ、小学校か・・中学校の生徒らしき一人の少女の姿が・・・。
その少女の頭上では金色に輝く・・・鳩ほどの大きさの鳥が一羽、飛び回っている。
「どうやら事態は予想以上に深刻のようだね。 先を急ごう!!」
なんと金色の鳥はサイドテールの少女に、そう話しかけていた。
その言葉に少女は黙って頷くと、駆け足で飲食店街に向かった。
都を踏みつぶして勝利を確信したR-51。
だが、いつもなら吸収できる体液が、なぜか一滴も吸い取ることが出来ない。
よく見ると、タイヤであるR-51のトレッドパターン。いわゆるタイヤの溝の隙間から、それに沿って黒い液体が溢れている。
いや、液体では無い!
小さな・・小さな・・・。小指の爪先にも満たない小さな物体が無数、行列を作って流れるように移動しているのだ。
それは、小さな小さな『蜘蛛』の行列。
「蜘蛛の子を散らす」そんなことわざのように、無数の蜘蛛が這いずり回っているのだ。
溝から抜けだした蜘蛛たちは一箇所に集まると、小山を作るように積み重なっていく。
そしてそれはやがて人の形になり、ついには都の姿になった。
なんと都はR-51に踏み潰される瞬間、姿を無数の小蜘蛛に変え、トレッドパターンの隙間に入り込んでいたのだ。
「この術はとてつもなく妖力を消耗するから頻繁には使えませんけどね・・・」
都は、そう荒々しく息を吐いている。
R-51もそんな都の姿を見てワナワナと震えている・・・ように感じられる。
おそらく彼が人の姿をしていたならば、こめかみ辺りに血管が浮き出ていたことだろう。
それが証拠にR-51は助走をつけると、まるで怒りをぶつけるかのように激しく都に向かって突進してきた!
都は残る力を振り絞ぼり必死で体勢を立て直すと、左右に立ち並ぶビルを2往復・・3往復と飛び交った。
そして、張り巡らせた糸で、大きな・・大きな『網』を仕掛けた。
蜘蛛の糸の強度は恐ろしく高く、直径1センチ程の太さで網を張れば、大型旅客機ですら蜻蛉のように捕らえることができるという。
さすがに都の出す糸はそこまで太くはないが、それでもR-51の突進を抑えるには充分の太さである。
「くたばりなさい!!」
しかもその網はまるでゴムのように大きくしなると、勢い良くR-51を弾き返した。
弾き返された先には、先程・・都が突っ込んだ『天ぷらチェーン店』が!!
ガシャァァァァン!!
大勢の客を回転させる為に設置された大型のフライヤー(揚げ物調理機器)。それらがひっくり返り、熱くなった大量の油がR-51に降り注ぐ。
それだけではない!
ひっくり返ったフライヤーの火は床に流れる油に移り、導火線を伝わるかの如くR-51へ向かっていく。
ゴォォォォォォッッ!!
激しい火の粉を撒き散らし、ゴム製のR-51は瞬く間に炎に覆われた!
まさに『火車』となって、言葉通り転げまわるR-51。
だが、それも長くは続かない。
やがてゴムがドロドロに溶け、ついには黒いコールタール状の物体となって沈黙した。
都はR-51の死を確認すると、肩で息をしながらバレンティアたちの居るビルへ向かった。
第三章 バレンティアとの別れへ続く。
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バスの中で封筒の中身を確かめながら、バレンティアはそう語った。
「聖心女子大・・・って、わたくしの通う大学ですわね。 その附属高校・・・。どこだったかしら?」
「とにかく私達は、そこへ一刻も早く行きたいのです!」
「うーん・・・、聖心女子高…。一度剣道の対抗試合で行ったことはあるんだけど、たしか・・・中央区だったかな?」
話を聞いていた香苗はバッグから顔を出し、つい呟いてしまった。
それを見たフェアウェイ。
「わぁぁぁぁつ!! ヌイグルミさんが喋ってる!?」
と声を張り上げてしまった。
一斉に他の乗客から視線を浴びる一行。
「貴女が余計なことをすると目立つから、口を挟まないでくれませんか?」
氷より冷たい視線で、香苗を睨みつける都。
慌てて口を噤む香苗。
だが、フェアウェイの好奇心という名の視線は香苗に鋭く刺さったままである。
「仕方ないですわ。少しの間だけですが存分に弄んでくださいな♪」
都はそう言って、香苗をフェアウェイに手渡した。
「ヌイグルミさ~ん♪」
フェアウェイは香苗をしつこく頬擦りしたり、アバラが折れそうな位、抱きしめたり。
もっとも、ヌイグルミである香苗にアバラは無いが・・・。
「それにしても中央区ですか・・・。途中で一回乗り換えれば、それほど遠い距離でもありませんわね」
都は無邪気に香苗で遊ぶフェアウェイを横目で見つめ、仕方無さそうに微笑み
「いいでしょう。わたくしたちがそこまでご案内いたしますわ」
と、言った。
「ありがとうございます!」
バレンティアは満面の笑みで喜んだ。
「・・で、貴女たちを追っていたあの人形どもは一体何ですの? そして・・・、貴女たちが狙われている理由は?」
「それは・・・・」
バレンティアが重そうな口を開こうとしたその時!
ガガァァァァン!!
重い衝撃音と激しい振動がバスを襲った!
急停車しようとしたが、ハンドルを取られそのまま横流れに歩道に乗り上げると、バランスを崩し一気に横転してしまった。
一瞬で地獄絵図と化した車内。うめき声と泣き声が交錯する。
「なにがあったんですの!?」
体勢を立て直し、辺りを見回す都。
その都の目に映ったのは、バスの外で蠢く巨大で黒い物体。
その大きさはバスの全高が約3.3メートル。それと殆ど変わらない。
もっと・・もっと・・小さければ、それは日常で極自然に目に触れている丸い物体。
「あ・・R-51・・・」
バレンティアがその物体を見て口に漏らした。
そう、ニューメキシコでバレンティアたちに襲いかかった・・・。
ソランジュを踏み潰し、ペチャンコにした・・・黒い巨大なタイヤ。
「R-51・・!? まさか、あのタイヤ・・・、生きているのですか!?」
「生きている・・・と言えば生きているのかも知れません。でも、まさか・・アイツまで、この国にやって来るとは・・・・」
蒼白となったバレンティアは、ただ・・ただ・・呆然と見つめるだけだ。
「とにかくまずはここから出て、逃げるしかありませんわね!」
都はそう言ってバスの窓ガラスを蹴り破る。
バスから飛び出し歩道を駆け出す都たち。
R-51はそれに気づくと、メキメキとバスを踏み潰しながら都たちの後を追い始めた。
「こっちです!」
都は強固な建物の多い飲食店街に向かって走り続ける。
しかし、いくら駆け足とは言え二足歩行の人間より回転して突き進むタイヤの方が移動速度は圧倒的に速い。
見る見るうちにR-51は都たちに追い付いてきた。
都はオフィスビルに飛びつくと、そのまま猛スピードでビルの壁をよじ登った。
それはまさしく『蜘蛛』の動き。
5階に辿り着くと手の平から糸を放出し、下にいるバレンティアとフェアウェイの身体に巻き付け、グイッと一気に引き上げた。
窓を蹴り破り二人を室内に誘導し
「さすがに、この高さまでよじ登ることはできないでしょう」
と、一息ついた。
だが・・・
ガンッ!! ガンッ!!
たしかにR-51は壁をよじ登ることはできないが、一歩引いては突進。一歩引いては突進を繰り返し、ビルの壁を叩き壊しに掛かる。
「まっ!? このビルごとダルマ落としでもして、わたくしたちを引きずり降ろそうって思っているの!? なんて・・脳筋なのかしら!?」
ヒュゥゥン!
都は唯一人ビルから飛び降りると、鋭い手の爪を剥き出し、
ズザザッ・・
R-51を切り裂きにかかった。
「!!?」
だが、分厚いゴム製のR-51。
爪先が僅かに喰いこみはするものの、その弾力性で爪が抑えこまれ、引き裂くことすらままならない。
「あらあら、わたくしの爪がまるで役に立たないとは・・・。こんな事なら毎朝コーンフレークを食べて、カルシュウムをしっかり取っておくべきでしたわね」
都がそう呟いた時・・・
「下等な虫ケラ妖怪ごときが、アタクシたちに歯向かうつもりなの?」
黒マントの人形たちを引き連れて、路上を悠々と歩む一人のせむし女。
「アンナ・フォン!?」
オフィスビルの窓越しでバレンティアが声を上げた。
「そ・・その手にした物は・・!?」
それは、アンナ・フォンが両手で抱えている反物のような物体。
桜色で所々…香ばしく焼け焦げた跡があるその物体は、人の姿を型どったペラペラの薄べったい物。
「ああ…、これかい?」
アンナ・フォンはそれを高々と持ち上げると、
「これはアンタたちを逃がそうとした、ソランジュとかいう娘を燻って作ったベーコンさ!」
アンナ・フォンはそう言って太腿の辺りに齧りつくと、美味そうにその肉を頬張った。
「ドレイトンが作ったのだけど・・・この娘の程よい甘さを活かした絶妙な塩加減にチップの香り。一度食べたら止まらない美味しさよ。 彼の作るベーコンは口コミで大人気。最近ではネットからの注文が殺到しているらしいわ!」
「そんな事より虫ケラ妖怪・・ごとき・・とは、聞き捨てなりませんわね。 貴女こそどなたですの?」
都が間に割って入る様に、冷ややかな眼差しで問いかけた。
「アタクシの名はアンナ・フォン。 偉大なる『マニトウスワイヤー』の第一の下僕」
「マニトウスワイヤー・・・? 聞いたことありませんわね。何者ですの?」
「アンタごときではその名を口にするのも恐れ多い、偉大な支配者様よ!」
アンナ・フォンはそう言って指先でR-51に合図を送る。
それを理解したかのように、R-51は目標を都に定め猛回転で突進して来た!
持ち前の身の軽さで楽々と避ける都。
アンナ・フォンは、その間・・人形たちにバレンティアたちがいるオフィスビルに向かうように指示。
それに気づいた都はビルに戻ろうとするが・・・
グォン!!
予想以上に素早い動きで突進してくるR-51に阻まれ、思うように身動きが取れない。
「本当に、邪魔なタイヤですわね!」
都は糸を噴出し近くのビルに貼り付けると、糸を手繰るように飛び上がった!
飛びながら更に糸を噴出、手繰りながら空中移動を繰り返す・・都。
だが、R-51はその場で2~3回弾むように跳ねると、その反動を利用し都目掛けて大きく飛び上がった!
バシッッッッ!!
空中でR-51はそのまま都に体当たり!
体勢を崩し、為す術もなく落下する都。
ガッシャーン!!
飲食店街一角の天ぷらチェーン店の大窓に、真っ逆さまに突っ込んでしまった。
「うぅぅぅ・・・」
過去、多くの人間を手にかけてきたが、自分と同等・・・もしくはそれ以上の化け物と戦ったのは初めてである。
全身は血まみれ。初めて味わう『殺されるかもしれない』という恐怖感。
「あんた、大丈夫か・・・!?」
客や店員が駆け寄り、心配そうに都に問いかけた。
「ご心配には及びませんわ・・・。わたくしは・・姫。蜘蛛妖怪の姫・・・。こんな傷・・屁でもありません」
よろめきながらも立ち上がり、身体を引き摺るように店の外へ・・・
そこへ、大きく跳ね上がったR-51が全体重を乗せて都目掛けて落下!!
ズシィィィン!!
震度5を思わせるような大きな揺れ。
「所詮は虫けら妖怪・・・呆気無いものだ。ペチャンコに潰れてR-51に吸収されるがいい」
離れて様子を見ていたアンナ・フォンは「クククッ」と嘲笑った。
激しい戦いとなっている飲食店街を、少し離れた場所から見物する多くの通行人たち。
「化け物が暴れているそうだぞ!」
「空中を飛び回る女の姿もあったそうだ!!」
「それって、都市伝説にもなっている・・『蜘蛛女』じゃね!?」
そしてここ、一番近い地下鉄乗り場『五福街駅』でも、多くの人集りが出来ていた。
その中に髪を長めのサイドテールに結んだ、小学校か・・中学校の生徒らしき一人の少女の姿が・・・。
その少女の頭上では金色に輝く・・・鳩ほどの大きさの鳥が一羽、飛び回っている。
「どうやら事態は予想以上に深刻のようだね。 先を急ごう!!」
なんと金色の鳥はサイドテールの少女に、そう話しかけていた。
その言葉に少女は黙って頷くと、駆け足で飲食店街に向かった。
都を踏みつぶして勝利を確信したR-51。
だが、いつもなら吸収できる体液が、なぜか一滴も吸い取ることが出来ない。
よく見ると、タイヤであるR-51のトレッドパターン。いわゆるタイヤの溝の隙間から、それに沿って黒い液体が溢れている。
いや、液体では無い!
小さな・・小さな・・・。小指の爪先にも満たない小さな物体が無数、行列を作って流れるように移動しているのだ。
それは、小さな小さな『蜘蛛』の行列。
「蜘蛛の子を散らす」そんなことわざのように、無数の蜘蛛が這いずり回っているのだ。
溝から抜けだした蜘蛛たちは一箇所に集まると、小山を作るように積み重なっていく。
そしてそれはやがて人の形になり、ついには都の姿になった。
なんと都はR-51に踏み潰される瞬間、姿を無数の小蜘蛛に変え、トレッドパターンの隙間に入り込んでいたのだ。
「この術はとてつもなく妖力を消耗するから頻繁には使えませんけどね・・・」
都は、そう荒々しく息を吐いている。
R-51もそんな都の姿を見てワナワナと震えている・・・ように感じられる。
おそらく彼が人の姿をしていたならば、こめかみ辺りに血管が浮き出ていたことだろう。
それが証拠にR-51は助走をつけると、まるで怒りをぶつけるかのように激しく都に向かって突進してきた!
都は残る力を振り絞ぼり必死で体勢を立て直すと、左右に立ち並ぶビルを2往復・・3往復と飛び交った。
そして、張り巡らせた糸で、大きな・・大きな『網』を仕掛けた。
蜘蛛の糸の強度は恐ろしく高く、直径1センチ程の太さで網を張れば、大型旅客機ですら蜻蛉のように捕らえることができるという。
さすがに都の出す糸はそこまで太くはないが、それでもR-51の突進を抑えるには充分の太さである。
「くたばりなさい!!」
しかもその網はまるでゴムのように大きくしなると、勢い良くR-51を弾き返した。
弾き返された先には、先程・・都が突っ込んだ『天ぷらチェーン店』が!!
ガシャァァァァン!!
大勢の客を回転させる為に設置された大型のフライヤー(揚げ物調理機器)。それらがひっくり返り、熱くなった大量の油がR-51に降り注ぐ。
それだけではない!
ひっくり返ったフライヤーの火は床に流れる油に移り、導火線を伝わるかの如くR-51へ向かっていく。
ゴォォォォォォッッ!!
激しい火の粉を撒き散らし、ゴム製のR-51は瞬く間に炎に覆われた!
まさに『火車』となって、言葉通り転げまわるR-51。
だが、それも長くは続かない。
やがてゴムがドロドロに溶け、ついには黒いコールタール状の物体となって沈黙した。
都はR-51の死を確認すると、肩で息をしながらバレンティアたちの居るビルへ向かった。
第三章 バレンティアとの別れへ続く。
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第二章 てんこぶ姫 対 R-51(オマケ)
もしも・・・
R-51との戦いの時、
都が、小蜘蛛分裂という能力をもっていなかったら・・・?
「ご心配には及びませんわ・・・。わたくしは……姫、蜘蛛妖怪の姫……。こんな傷……屁でもありません」
よろめきながらも立ち上がり、身体を引き摺るように店の外へ・・・
そこへ・・・
大きく跳ね上がったR-51が、全体重を乗せて都目掛けて落下!!
震度5を思わせるような大きな揺れ。
あわれ・・・
落下してきたR-51に押し潰され、都はペチャンコに・・・。
このあと都はどうなったのか?
R-51に妖力から全て吸い尽くされ、そのままくたばったか?
それとも・・・・
ソランジュのようにベーコンにされて、アンナフォンに食べられてしまったか?
それは、ご想像にお任せいたします。
おわり
もしも・・・
R-51との戦いの時、
都が、小蜘蛛分裂という能力をもっていなかったら・・・?
「ご心配には及びませんわ・・・。わたくしは……姫、蜘蛛妖怪の姫……。こんな傷……屁でもありません」
よろめきながらも立ち上がり、身体を引き摺るように店の外へ・・・
そこへ・・・
大きく跳ね上がったR-51が、全体重を乗せて都目掛けて落下!!
震度5を思わせるような大きな揺れ。
あわれ・・・
落下してきたR-51に押し潰され、都はペチャンコに・・・。
このあと都はどうなったのか?
R-51に妖力から全て吸い尽くされ、そのままくたばったか?
それとも・・・・
ソランジュのようにベーコンにされて、アンナフォンに食べられてしまったか?
それは、ご想像にお任せいたします。
おわり
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