2ntブログ

自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第五章 最強の精霊

 都の後を追い路地裏を通り抜けると、そこは四方が雑居ビルに囲まれているにも関わらず、意外にもやや大きめな有料駐車場であった。

「てんこぶ姫っ!?」

 その駐車場の中では都がうつ伏せに倒れている。

 そして、その数メートル先には二つの人影が・・・。

 一人はフェアウェイを小脇に抱えた小柄な『せむし女』・・・アンナ・フォン。

 そしてもう一人は藍色の肌の長身の女性。

 だが、問題はその異様な姿。
 南米の踊り子のような露出の高い身なりで、その背中には翼が生えている。

 そして頭部は異常に縦長の兜のような物を被っている。

 しかもその兜らしき物には上から、鳥・男性・女性の三つの顔が並んでおり、仮面ではなく明らかに生きた表情を持っていた。

r-vs-m_601.jpg

「な・・なんなの・・・あれは!?」

 さすがの凛も、その異様さに驚きを隠せない。

「や・・はり貴女たちのお友達ってわけでは、なさそうですわね・・・」

 肩で息をし、よろめきながら身を起こした都。

「まぁ、正義の味方である妖魔狩人の仲間にあんな凶悪そうなのがいたら、それこそ・・イメージダウンですものね」
 軽口を叩いているが、大きなダメージを受けているのは容易にわかる。

「おや? 新たに小ジャリが一人、迷い込んだみたいね。イイ子だから天女の子は諦めて早くお家に帰りなさい」
 凛の姿を見たアンナ・フォンはクククと笑いながら、小馬鹿にしたように言葉をかけた。

「天女の子!? ねぇ、金鵄。もしかして・・あの人たちが『マニトウスワイヤー』っていう者の一味かな?」

 その凛の言葉に金鵄よりも都が先に反応した。

「なぜ、貴女がその名を知っているのかしら?」

「風の噂みたいなものよ。今日わたし達が丘福市へ来たのも、それが理由」

「ふっ・・! 風なんかと噂話をしないでくださる。道理で偶然にしては都合よく重なると思いましたわ」

「さっきまではてんこぶ姫。 あなたもマニトウスワイヤーの一味だと思ったんだけど、この状況を見る限りそうではなさそうね」

 その言葉に都は赤い瞳を更に輝かせ凛を睨みつけると

「わたくしを、あんな下衆な連中と一緒にしないでくださる? 二度とそんなしょぼい勘違いをなさったら・・・」
 そう言って爪を立てると、

「真っ先に殺しますわよ!」

「それよりも凛・・・・」
 口を挟むように金鵄が話しかけてきた。

「奴ら・・・。特にあの翼の生えた三つの頭を持ったヤツ・・・」

「三つの頭・・・? あの・・トーテムポールみたいなやつ?」

「トーテムポール・・・? まさしくトーテムポールだ!! アイツと戦ってはいけない!!」

 今まで見せたことのない怯えた様子で叫ぶ金鵄。

 その直後であった。

 三つの頭の女性が高々と右手を上げると、その遥か上空で眩い閃光が輝き始める。

 ゴロゴロゴロ・・・と低く重い音が鳴り響く。
 それは正に雷雲・・・。

 そのまま右手を振り下ろしその指先を凛へ向けた。


ガガガガガガッッ!!

r-vs-m_602.jpg


 一瞬、目の前が真っ白。いや黄金色になったかと思うと激しい衝撃に襲われ、気が付くと凛の身体は数メートル後ろにあった雑居ビルの壁に叩きつけられ、めり込んでいた。

「あ・・ああ・・・っ・・?」

 凛には何があったか、まるで記憶が無い。

 わかるのは全身を襲う激しい痛みと、きな臭い焼け焦げた匂いがすること。


「や・・やはり・・そうだ・・・」

 青ざめた顔で金鵄が呟く。

「サンダーバード・・・・。遥か昔からアメリカ先住民族から恐れられ、そして崇拝されてきた伝説の霊鳥・・・・」

「サンダーバード・・・? 伝説の霊鳥・・・?」

r-vs-m_603.jpg

 意識が朦朧としている凛の代わりに尋ねてやるかのように、都が問いかけた。

「そうだ・・・。ある時はその激しい雷で一夜にして村を消滅させ。ある時は同じようにその力で、悪魔を追い払う。北米最強の霊鳥であり精霊。トーテムポールとはそれを見た人間が、その大いなる力を魔除けとして偶像化した物なんだ」

「子どものころ小学校や公園で見たトーテムポールが、あんな化け物を奉ったものだとは・・・。これからは何事にも疑いの眼差しを向けますわ」

 さすがの都も、そのあまりの凄さに呆れ顔を通り越していた。


「ねぇ・・金鵄、わたし・・一体、何をされたの・・?」

 朦朧とした意識を振り払うように、頭を振り金鵄に問いかける凛。

「凄まじい雷撃を喰らったの。先程のわたくしと同じように・・・」
 代わりに都が薄ら笑いを浮かべながら答えた。

 そう言う都は無意識に自身の胸を擦っている。

「喰らった瞬間、意識も何もかも吹っ飛んでしまう・・・。それ程強力な雷撃ってことか・・・」
 金鵄が改めて、その恐ろしさを実感していた。

「これでわかっただろう! お前たち虫ケラや小ジャリなどお呼びではないのだ。さっさと退却するなら見逃してやろうぞ!」

 相変わらず、クククと笑いながら話すアンナ・フォン。

「蜘蛛の・・お姉ちゃん・・・・」

「蜘蛛女・・・・」


 アンナ・フォンの腕の中で、為す術もなく呟くフェアウェイと香苗。

「ちっ!」 

 打つ手立てが見当たらず思わず舌打ちをしてしまう都。

「てんこぶ姫・・・・」

 そんな都に凛が声を掛けた。

r-vs-m_604.jpg

「なにかしら? もう~っ寝る時間だから帰る・・というのならば、止めませんわよ」

「姫と名乗る割には軽口が多いのね?」

「余計なお世話です。それより要件をさっさとおっしゃいなさいな・・・」
 苛立ちを隠せない都の様子に凛は軽く微笑んだが、再び表情を硬くすると、

「サンダーバードとか言う精霊はわたしが引き離す。 だからあなたはその間に、天女の子を助けだして・・・」

 予想もしない凛の提案に目を丸くする都。

「なぜ妖魔狩人である貴女が、妖怪のわたくしを手助けしようとするのですか?」

「あなたを助けたいんじゃない。天女の子を奴らから助け出さないと日本が・・・。いえ・・世界が滅びるかもしれないからよ!」

「貴女、どこまで事情を知っているのかしら?」

「今はその話を詳しくしている暇はないわ。どうする? 一時、協力する?」
 凛の真っ直ぐな眼差しが都を見定めている。

 ふっ・・!

 都は軽く鼻で笑うと、

「今どき、こんな少年マンガの定番シチュエーションは流行らないのですけど、今はそれが一番ベストな選択のようですわね」
 ぶっきらぼうながらも、少し和らいだ目で返す都。

「しっかり惹きつけてくださいな!」

「うん!」

 凛は軽く頷くと、弓を構えながらサンダーバードに向かっていった!


シュッ!!


 青白い閃光・・霊光矢が、サンダーバードとアンナ・フォンの間を裂くように飛んで行く。

 更に二発目、三発目は、明らかにサンダーバードに向けて放っている。


バサッ! バサッ! バサッ!


 翼を広げ空高く飛び、その場を離れるサンダーバード。

「今よ・・・てんこぶ姫っ!!」

 凛の叫びに、アンナ・フォンに向かって突進する都。

「小賢しいっ!」
 アンナ・フォンは手の平を都に向けると呪文を唱えようとした。

 だが・・・

「いたたたたたっ!!」

 鋭い痛みが腕を襲い、思わず腕を振り払ってしまった。

 術を仕掛けようとしたその瞬間! 囚われていたフェアウェイがその腕に噛み付いたのだ!

 それを見逃さない都。

 直ぐ様・・蜘蛛の糸を放つと、フェアウェイと香苗に巻きつけ一気に引き戻した!

 フェアウェイと香苗の身体を抱え上げると、都は凛に目で合図を送る。
 そしてそのまま一目散に路地裏を駆け抜け、その身を隠してしまった。

「あんだけ傷を負っているのに動きが素早いよね・・」
 都の逃走を見届けると、ふっ・・と安堵の溜息をついた。

「本当に小賢しい小ジャリ・・・・。 サンダーバード! もう~っ容赦なくあのガキを焼き殺してしまいなさい!」

 怒りが収まらないアンナ・フォンは、八つ当たりするようにサンダーバードに命じた。

「ダレ二向ッテ、命令シテイル?」

 それに対し、感情の欠片もないような無機質な返事が返って来た。

「えっ!?」

「勘違イスルナ。ワタシハ、貴様ノ部下デハナイ。マニトウスワイヤーヲ復活サセル為二、今ダケ手ヲ貸シテヤッテイルノダ」
 サンダーバードは、そう言って指先をアンナ・フォンに向けた。

「二度ト命令シテミロ。先二貴様ヲ殺ス」

 その表情も口調も、感情の欠片も感じさせない。変に凄まれるより逆にそれが恐ろしい。

 それが証拠に先程まで勢いの良かったアンナ・フォンが、すっかり怯えガタガタと震えている。

「コノガキハ、ワタシガ殺シテオクカラ、貴様ハ先程ノ蜘蛛妖怪ノ後ヲ追エ・・・」

 逆に命令するサンダーバードにアンナ・フォンは無言で何度も頷くと、脱兎のごとく路地裏に駆け出していった。

「凛、サンダーバードが襲い掛かってくる。こうなったらヤラれる前にやるしかない! 全力でいくぞ!!」

 金鵄の言葉に、凛はわかっているとばかりに霊光矢を放った。
 先程の威嚇と違い、今度は真っ直ぐサンダーバードを狙っている。

 だが、サンダーバードは少しも慌てること無く向かってくる霊光矢に両手を突き出すと、青白く光る火花を散らし始めた。

バリッ・・バリッ・・バリッ・・バリッ!!

 火花によって行く手を遮られた霊光矢。まるで放電しているかのように激しい音と光を発すると、静かに消えて無くなってしまった。

「霊光矢が・・・通じない・・・?」

「ヤツは雷を操るだけでなく、自身の身体からも発電し操る事ができるのか・・・」
 呆然と立ち尽くす凛と金鵄。

 そんな凛たちにお構いなく、サンダーバードは右手を高々と上げた。

 上空では雷雲が激しい稲光を放っている。

 ゆっくりとその腕を降ろし、指先を凛に向ける。


バリッ・・バリッ・・バリッ・・バリッ!!


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 眩い閃光と雷鳴が響き渡り、またもや衝撃で凛の身体は吹っ飛んだ!
 激しい痛みときな臭い匂い。

「くっ………ぅ」

 肩で息をしながら起き上がろうとする凛に、サンダーバードは更に追い打ちをかけた!


バリッ・・バリッ・・バリッ・・バリッ!!


 凛は自身が放つ霊力と金鵄の羽毛で編んだ戦闘服の防御力によって、あらゆる衝撃に耐えることができる。

 だが、それだって無敵ではない。

 その防御力を上回る攻撃を受ければ、相当のダメージを負うのは当然。

 サンダーバードの攻撃は、凛の防御力を遥かに上回っていた。

 そんな攻撃を立て続けに二発も喰らったのだ。

 なんとか必死に立ち上がろうとしてみるものの、意識は朦朧とし足はガクガクと震え・・・、しかも僅かではあるが失禁もしていた。

r-vs-m_605.jpg

 もう・・戦うどころか、虫の息といっても過言ではない。

「凛、もう起き上がるな! そのまま倒れていろ!」

 さすがの金鵄も、これ以上の戦闘は命の危険性があることを感じ取っている。

 だがサンダーバードは、例え虫の息でも容赦する気は無かった。
 再度、右手を上空に突き上げる。

「もう、やめてくれぇぇぇっ!!」

 懇願するように泣き叫ぶ金鵄。


 その時・・・・

r-vs-m_606.jpg

「水流輪っ!!」

 激しく回転する水流の輪が、サンダーバードの右腕の動きを遮った。

「!?」

 何事かと辺りを見渡すサンダーバード。

 もちろん、それは金鵄も一緒だった。

 すると小さな雑居ビルの屋上に人影が見える。
 やや小柄だが、青をベースにした和風の身なりに顔を隠した頭巾。

「あ・・・青い妖魔狩人・・・!?」

 それは柚子村で二度ほど一緒に妖怪を退治した女性で、自らを青い妖魔狩人と呼んでいる。

r-vs-m_607.jpg

 頭巾に隠されたその素顔は今持って謎だが、凛と同じく浄化の術を使える実力の持ち主だ。

 感情を見せないサンダーバードだが、邪魔をされたことに怒りを感じたのか?
 その眼(まなこ)は青い妖魔狩人を見据えて動かない。

 金鵄の目もそんな二人から離せなかったが・・


「逃げるぞ・・・・」

 微かに聞き取れる程度の小さなものだが、妙に力強い声が耳に入った。

 フトッ見ると、一人の女性が倒れている凛を抱き起こしている。

 鮮やかな銀色のボフヘアー(オカッパ)にまるでアクセサリーのように輝く皿を乗せ、露出度の高い身なりそれに似合う長身でグラマラスなボディーの美女。

r-vs-m_608.jpg

「あんたは確か・・・、祢々(ねね)とか言う・・・」

 それは祢々と言う名の禰々子(ねねこ)河童。
 青い妖魔狩人に付き従っている妖怪だ。

 丸太ですら軽々と持ち上げるその怪力で凛の身体を担ぎあげると、青い妖魔狩人にも合図を送った。

 祢々の動きに気づいたサンダーバード。

 再び右腕を真っ直ぐ突き上げると、その照準を祢々と凛に向ける。

「水泡幕!!」

 そうはさせじと青い妖魔狩人はまるでシャボン玉のような小さな泡を無数に撒き散らすと、サンダーバードの視線を遮った。

「!?」

 サンダーバードは雷でなく自ら発効した電気火花で水泡を撃ち落としていったが、ある程度の視界が見通せる頃には祢々や凛の姿・・・、そして青い妖魔狩人の姿すら消え失せていた。




第六章 精霊の支配者(マニトウスワイヤー)へ続く。
=======================================



オマケ特典物語 >>つづきを読むをクリックしてください。



≫ 続きを読む

| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 21:57 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第六章 精霊の支配者(マニトウスワイヤー)

「少しですが、体力が回復いたしましたわ・・・」

 籐で作られた長椅子に足まで伸ばして横になっていた都は、ゆっくり頭を持ち上げ起きざまにそう言った。

「驚いたわよ・・。  傷だらけの身体でいきなり入って来て、少しだけでいいから寝かせろと、いきなり爆睡しだすから。
・・で、特に重症だった足は大丈夫?」

 うなじが美しい色白の和服美女はそう言って、お茶の入った四つの湯呑みをテーブルに並べた。

「おかげ様で。まだ傷口が塞がった程度ですが、とりあえず歩くくらいなら大丈夫そうですわ」
 都はそう言ってスカートをまくり上げると、白い足を露わにした。

 浄化による消滅を避けるため、霊光矢を自らの太腿の肉ごと抉り取った深い傷。
 まだ痛々しさはあるものの、さすが妖怪の回復力。 傷口はある程度塞がり、出血も完全に止まっている。

 ちなみに、ここは色とりどりの反物が並んでいる、丘福駅から少し離れた場所にある反物屋。

 だがその場所は複雑怪奇で、まるで迷路のような路地裏を潜り抜けなければ辿り着くことができない。

「そっちの付喪神(ヌイグルミ)は霊力でお茶を飲むことができるでしょうけど、異国の女の子は煎茶は大丈夫かしら?」

 そういって心配する和服の美女は、この反物屋の女将。

r-vs-m_701.jpg

 本名は誰も知らないし、また・・ここだけの話、この女将は人間では無い。

 だがここでは女将で通るし、またそれ以上の詮索も必要はない。

 なぜなら来てみればわかる。

 この店は時間の流れ・・・、世の中の動きから全て隔離されたような空間のように感じるからだ。

「大丈夫です」
 フェアウェイはそう言って湯呑みに口をつけた。

「ねぇ・・女将さん。ここミシンありますわよね? 借りてよろしいかしら?」
 都はそう言うと、バッグから鮮やかな茶色の生地を取り出した。


「その生地は・・!?」


 都が手にした生地を見て香苗は思わず声を上げた。

 それはバレンティアの身体から精製された、明るい茶色の生地。

「あるけど、裁縫ならここでやらず自分の家でやったらいいじゃないの?」

「ここからわたくしのアパートまでかなりの距離がありますし、それに大至急・・仕上げたいのですわ」
 都はまだ『借りて良い』という了承を得ていないのに、ミシンを漕ぎだした。

「相変わらず、自分のペースね・・・」
 女将は呆れて、言うだけ無駄といった仕草をとった。

「ところで都さん。貴女を傷つけたというマニトウスワイヤーという一味。貴女が寝ている間に少し当たってみたわ」

 都の生地を送る手が一瞬だけピタリと止まる。

「どうやら、とんでも無い化け物よ。できれば早急に手を引くことを、勧めるわね」








「マニトウスワイヤー・・・。マニトウとは先住民族たちの間で『精霊』を指す言葉。そしてスワイヤーとは支配者。 すなわち精霊の支配者ということ」

 青い妖魔狩人は二人の少女の前でそう語った。

 洋風で落ち着いた雰囲気のこの部屋は、丘福駅から少し離れた高級ホテル・・ニューオーニタの一室。

 さすがにここでは例の戦闘用コスチュームでは違和感があるため、青い妖魔狩人は水色のブラウスに白いキュロットパンツ。
 そしてポニーテールの髪型に白いマスクを覆っている。

 同じ部屋にはベッドに横たわる凛。 それを見守る金鵄。

 青い妖魔狩人を護衛するように寄り添っている祢々。

「精霊って、木や草や水なんかに居着く弱っちぃ・・霊の事っちゃろ? そんなのヤツらのボスだからって、何をビビる必要があるっちゃ?」

 独特の方言で話すショートヘアで少しイタズラっ子のような風貌の小柄な少女。
 歳の頃合いは凛と同じくらい?

「日本ではそういう霊の事を言うようですが、海外では妖怪や悪霊・・・。その他諸々の物の怪全般を指している地域もあるそうですわよ」

 もう一人は落ち着いた十代後半といったところか?
 山吹色の長いストレートヘアーに黄色いカチューシャ。整った鼻筋にパッチリした目。
 芸能界でも充分に通るほどの美少女である。

「さすがは『高嶺 優里』。教養が高いので話が早くて助かる」

 青い妖魔狩人は一応褒めているのだろうと思われる。だが、いつもながら淡々と話すため、聞く方は素直に喜べない感もあるが。

「それって、ウチがまるで馬鹿のように聞こえるんやけど!?」

「誤解を生じているみたいだな『斎藤 千佳』。 貴女は馬鹿のようなのではなく、真の馬鹿だから気にする必要は無い」

r-vs-m_702.jpg

 そう言われた千佳という名の少女。

「あ・・!?」

 思いっきり青い妖魔狩人を睨みつけると、怒髪天突くように髪を真っ赤し逆立てた。

 それは過大表現ではなく、本当に髪が真っ赤になり逆立っているのである。

 それを見て青い妖魔狩人を守るように間に入る祢々。

「千佳さん、今は争っている場合ではありません。早く経緯を聞いて、どうして凛ちゃんがあんな大怪我をしたのか? その真意を確かめないと」
 優里も千佳の間に入り千佳の怒りを制した。

「わかったっちゃよ!」

 髪を元に戻しベッドに腰掛けると、静かな寝息を立てている凛の顔を覗きこむ。

― ホント・・可愛いなぁ~凛~♪ それにしても、誰がウチの凛をこんな目に合わせたっちゃ!? 絶対にぶち殺したるっちゃよ!―


「話を本題に戻す・・・」

 青い妖魔狩人は淡々と言葉を続けた。

「マニトウスワイヤー、その正体は『エノルメミエド』という名の遥か古代の神族の一人」

「神族・・・?」


「そう・・。唯一神派が多数である今の時代ではピンと来ないかもしれないが、元々神というものは一人ではなく大多数存在している。

 日本の古事記、ギリシア神話、ゲルマン神話、ヒンドゥー教、エジプト神話など。
 国同士の交流のなかった時代なのに、多少の違いはあってもその中身は割りと類似している。

 その理由は神というのは一族のようなものであり、その一族の生活や行動が神話となって伝わっているのだ。

 それが証拠にギリシア神話のゼウスとインド神話のインドラ。
 日本神話のイザナギとギリシア神話でのオルフェウス。

 これらは一例だが、名こそは違っているものの同一人物だ」


「つまり、同じ人物の行いが、その国・・その国の言葉に合うように変化して伝わっていたということね」

「そういう事だ。
 彼ら神族は人間よりも遥かに高い知能と力を備え持っている。まぁ、人間の上位機種版みたいなものと考えれば、わかりやすいかもしれん」

「スマホとガラケーの違いみたいなものっちゃね?」

「能力的な違いはそんなものかもしれん」

「その一族の中にエノルメミエドという女がいた。彼女は操作系の能力に卓越しており、中でも強力な精霊操作の力を持っていた」

「ここで言う精霊というのは、先程・・高嶺優里が言っていたようにアタシのような妖怪。霊魂、妖精・・・全ての亜種生命体、生物の事だと思ってもらいたいわ」
 祢々が付け加えるように言った。

「精霊の中には大地や天候など強力な力を持った者もいる。それらを全て自分の意のままに操ることができれば・・・・」

「世界中に大災害を起こし、世の中の動きを変えることができる・・・」


「そう。その力を恐れた他の神族は、彼女から神族の生態の一つである数千年の寿命を消し去り、人間の寿命に替え人間界に追放した。

 人間としての寿命は僅か数十年。エノルメミエドはすぐに歳を取り死を迎える事になった。 そこで彼女は自らに転生の術を施し、数百年の眠りを得て転生を繰り返した」


「では、もう何度もこの世界に蘇っているということ?」

「そうだ。その度に彼女は自らの野望を抱くため、その力を見せしめに使っている。 過去、世界各国であった大災害の殆どは、エノルメミエドの仕業だ・・・」

「でも・・・そんだけのヤツが蘇って、よく今まで世界は無事で住んでいるっちゃね?」

「彼女の属性は『闇』。闇属性は『光』属性に弱い・・・。光属性は天界の一部の者か、もしくは心清らかな一部の人間でしか操る事のできない属性。
 その度に天界は人間と協力し、光属性の力でエノルメミエドの野望を抑えてきた」

「なるほど・・・。まるっきり手段が無いわけでは無いのですね?」

「そう・・・。だからヤツはその光属性にも耐えゆる不死の肉体を手に入れる事にしたのだ」

「不死の肉体・・・・?」

「そうだ。人間・・神族、そして天界の住人。その中で限りなく不死に近い肉体を持つ種族がいる」

「・・・・・?」


「それは『天女族』・・・」


「天女族・・・?」

「見た目は人間の女性とあまり変わらないが、『緑色に輝く髪』と再生能力を持った不死の肉体を持つ天界の住人」









「緑色の髪の毛って・・・・・・!?」


 女将の話を聞いていた香苗はとっさにフェアウェイを見た!

r-vs-m_703.jpg

「そう、フェアウェイ・・。その子が天女族の限りなく不死に近い子ども」

 女将はそう言うと飲み干した湯呑みを見て、ポットに手をかけた。

「それでその精霊の支配者様はフェアウェイをどうしようというのかしら? まさか、お茶飲み友達にしたい・・ってわけでもないでしょう?」

 黙々とミシンを漕ぎながら言葉だけ返す都。









「エノルメミエドの目的は唯一つ! それは自身の『魂』を天女族の身体に融合させ、不死の身体として転生を完成させること・・・」


 辺りがシーンと静まり返った。


 強力な力を持つ者が唯一の弱点を克服するために不死の肉体を手に入れようとしている。
 その意味を理解すれば、それがどれだけ恐ろしい事かを・・・。

「その情報。 そして、天女の子とエノルメミエドの手下がこの丘福市へ来ることを知ったワタクシは、黒い妖魔狩人・・若三毛凛にこの事を話し天女の子を確保に向ってもらったわけだ」

「じゃあ! 凛がこんなにボロボロになったのは青い妖魔狩人・・・。てめぇのせいだと言うわけちゃね!?」

 千佳が右手をワナワナと震わさせる。その爪先は灼熱のように赤くなり微かだが湯気まで立ち上がっていた。

「千佳さん、怒りの矛先が違うわよ。こんな話・・凛ちゃんが聞いたら動かない理由がないし、それに傷つけたのはエノルメミエドの手先・・・」
 物腰は軟らかいが、明らかに優里の表情にも怒りが見える。

 更に・・

「それよりも何故・・天女の子は、この丘福市へ逃げてきたのかしら?」
 と、青い妖魔狩人に問い返した。









「都さん。その答えは貴女が戴いた手紙の中に記されているはずよ」
 何もかもお見通しのように女将が答えた。

 作業の手を止め、バレンティアから引き継いた封筒を取り出しその中身を見る・・・


 日本、神田川県、丘福市・・・と地名が続き、私立聖心女子大学附属聖心女子高等学校の名の次に・・・


「神楽 巫緒(かぐら みお)!?」


「その名の人物が、この世界で唯一マニトウスワイヤーの野望からフェアウェイを守りきれるそうよ」

「まるで聞いたことがありませんわ。 一体どなたですの?」

「私も会った事はないけど、風の噂によると・・・・」

「どいつも・・コイツも、風の噂話が好きですわね」


「天界・・・いえ、全世界でも唯一人。光属性の力を持つ・・奇跡の天女!」

r-vs-m_704.jpg





第七章 闇からの襲撃へ続く。
=================================

| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 20:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第七章 闇からの襲撃

「あの虫けら妖怪と天女の子の足取りは、あれからサッパリなの?」


 とあるファミレス風の一室で、アンナ・フォンはベーコンを頬張りながら話していた。

 その側には、女性の皮膚で作った面を被っているクエロマスカラ。

 何の肉を使っているのか? 聞くのが怖いハンバーグやベーコンを作っている、長身の年配男性ドレイトン。

 そして・・・・

「今日は良い人形が手に入ったから、久しぶりにメンテナンスをしようかしら?」

 全身にマントを羽織った人物、パペット・マスターは一人の若い女性にそう告げた。

 野球のチーム名とロゴが入ったTシャッツにミニスカート。
 どうやら、その若い女性はチームのマスコット兼チアガールのようだ。

 いや、若い女性には違いないが、よく見ると・・何かが違う・・。

 光沢のある硬質の肌。 湿りの無い唇・・・・。 そして、まるでガラス球のような瞳。

 それは若い女性の形をした人形、マネキン人形である。

r-vs-m_801.jpg

 パペット・マスターは人形の頭部を両手で支えるように握ると、ゆっくりとその首を捻りだした。

 一回転……二回転と捻ると、人形の首はスポっと胴体から外れた。

 ゴロリと転がる美しい頭部。

 パペット・マスターは嬉しそうに頷くと、羽織っていたマントを取り払った。

 そこには眩いほどの全裸の女性の肉体が・・・・。

 いや、よく見るとツヤツヤに輝く肌。だが、お世辞にも柔らかそうとは言えず、むしろ硬質化しているように見える。
 そして・・その頭部はツルツルのスキンヘッド。ガラス細工のような瞳・・・。

 そうなのだ。

 パペット・マスターの全身も、まさしく・・マネキン人形の身体。

 だが、恐ろしい光景はそれだけでは留まらない。

 パペット・マスターは自身の頭部も両手で掴み、二~三回転させるとスッポリと引きぬいたのだ。

 そしてその頭部を、頭を失ったマネキン人形の胴体に乗せた。

 同じように二~三回転させ頭部と胴体をしっかり固定させると、それまで動いていたパペット・マスターであった身体が、崩れるように倒れた。

 そして新たに首を付け替えた身体がコキコキと動き始める。

「メンテナンス終了・・・。定期的に替えていかないと動きは悪くなるし、なにより飽きるわよね」

r-vs-m_802.jpg

 パペット・マスターはそう言って楽しそうに微笑み、再びマントを頭から羽織った。

「さて、次は新しい人形たちの作成ね・・・」

 彼女が振り向いた先には先程と同じコスチュームを着たチアガールが、四人程立ち尽くしている。
 しかし先ほどと違うのは、こちらの四人は生きている人間の女性だということ。
 平均年齢21歳の健康的な女性たち。

 パペット・マスターは一番左にいるサンバイザーを被ったポニーテールの女性の前に立った。

 彼女は先程取り外された人形の頭部から目を離せずに、ガタガタと震えている。

「んっ!?」

 なにやらツンと鼻につく匂いを感じパペット・マスターは視線を下げると、彼女の太腿には湯気が湧き上がり黄金色の液体が滴っていた。

「そうか・・・。先ほどの人形は元々貴方の大切な友人・・だった・・娘(こ)よね。貴方はあの娘を人形にするところから、こうして私の身体になるまでの一部始終を見ていたからね。それで恐怖しているのね?」

 そう言うとパペット・マスターは、その黄金色の液体を指先ですくい取り自身の口でしゃぶり始める。
 酸っぱいような、しょっぱいような味が口の中に広がる。

「お前の恐怖の味。とても可愛くていいわ! 特別にもっとも可愛らしい人形に変えてあ・げ・る!」


r-vs-m_803.jpg

 パペット・マスターはそう言うと、彼女の口に自分の口を覆い被せた。

 チュパッ・・チュパッ・・と口内で舌と舌が絡みあう。

「あ・・あ・・・っ・・」

 先ほどまでとは打って変わったように、青ざめていた彼女の顔色が薄桜色に変わっていった。

 更にパペット・マスターの両手は、彼女の胸や尻そして股間を弄り始める。

「あぁぁ・・ん・」

 焦点の定まらない瞳に甘い喘ぎ声・・・。
 完全に心も身体の自由も奪われ、為すがままにされていくチアガール。

 すると時を見計らったかのように、パペット・マスターは重ねた唇を大きく開き、まるで深呼吸でもするかのように大きく息を吸い込んだ。

 まるでバネ人形のように、ブルブル・・と小刻みに震えだすチアガール。

 次第に身体の動き自体がぎこちなくなり、更に柔らかそうな肌はプラスチックのように照り輝いていく。
 虚ろな瞳もまるで輝羅やかなビー玉のように変わって。

 数分後には、彼女は一体のマネキン人形と化していた。

 そう・・・。

 パペット・マスターは生きている人間の口からその魂を吸い込み、残った肉体を自由に人形に変えることができる。
 あのバレンティアの友人ルゥも、こうしてマネキン人形にされていたのだ。

「うふふ・・。いい出来だわ~、可愛い!」

r-vs-m_804.jpg

 それを間近で見ていた他のチアガールたち。 怯える彼女達に視線を移したその時・・・・

「パペット・マスター! さっきからアタクシの話・・・聞いているの!?」

 アンナ・フォンはパペット・マスターの肩をマント越しに掴み怒鳴りつけた。

「?」

 感情の欠片も無いビー玉のような瞳で睨み返すパペット・マスター。

「街中に放っている人形たちは、まだ天女の子の足取りと掴めないのか?・・って、聞いているのよ!」

「大凡の見当はついているわ・・・」

「なら何故すぐに捕らえに行かないの!?」

「探せ・・とは聞いていたが、捕らえてこい・・とまでは聞いていない」

「その位……言わなくてもわかるでしょ!? 馬鹿なの~っ、あなた!?」

 アンナ・フォンがそう言った瞬間・・!

 パペット・マスターの片腕がアンナ・フォンの首を掴み、そのまま吊るし上げた。

「貴女・・一つ大きな勘違いをしていない? 私もサンダーバードも。そしてここに居る誰もが、貴女ごときに命令される筋合いは無いのよ? 貴女の背中にマニトウスワイヤー様が『宿っている』から、協力してあげているだけ」

 そう言いながら首を掴む力を更に強める。

「二度とでかい口を叩いてみなさい。貴女の肉体を傷つけず、精神だけ殺す事も可能なのだからね?」

 パペット・マスターの言葉に涙目のアンナ・フォンは無言で何度も頷いた。

 その様子を面白そうに眺めていたドレイトン。

「まぁ、喧嘩はそこまでにして。その・・天女の子を捕らえにミーとエイダの二人で行ってきましょう」
 そう言って立ち上がり、美味そうに焼きたてのハンバーグを食しているクエロマスカラに声をかけた。

「エイダ、ちょっと仕事に行くよ。ついておいで・・・」

「・・・・」

 ドレイトンの言葉にクエロマスカラはしばらく名残惜しそうにハンバーグを眺めていたが、やがて決心したように立ち上がった。



「出来ましたわ!」


 ミシンの前で黙々と作業をしていた都は、嬉しそうに声をあげた。

 早速縫い終えた服を手に取ると、フェアウェイの元に駆け寄った。

「うん、予想通り可愛いですわ!」

 フェアウェイに服を着せてやりその姿を確かめて、都は満面の笑みを浮かべた。

「どれどれ・・・?」
 香苗と女将も寄ってきてその姿を眺める。

「あら・・、とてもお似合いね」

「たしかに可愛いね~~♪ でも・・・」

 香苗はそこまで言うと苦笑する。

「可愛いけど・・・。この真夏に、なんで『ポンチョ』なの?」

 都が作ったのは、身体をスッポリ包む可愛らしいポンチョであった。

「この子のネイティブ・アメリカンな雰囲気に、一番ピッタリ合うと思ったからですわ」

「ハハ・・、なるほどね・・・」

「それに・・・・」

「ん・・?」

 都は優しくフェアウェイの頭を撫でてやると、

「あの方がこの子を守るには、身を包んであげるものがいいと思うし・・」
 と、微笑んだ。

r-vs-m_805.jpg

 その時・・・!!


ガガガガガガッッッ!!


 激しいエンジン音が店内に響き渡ると、入り口の扉が大きく×印で切り裂かれていく。

 前に出て待ち構える女将。


ガーンッ!!


 激しく扉を蹴り破り、チェーンソーを手にしたクエロマスカラが入り込んできた。

「この店は幾重もの結界と迷路を組み合わせているから、簡単には辿りつけないはずなのに・・・」
 日頃冷静な女将も、さすがに驚きを隠せなかった。

「やはりここにいましたね・・・天女の子」

 クエロマスカラの背後から長身の年配男性ドレイトンが姿を見せる。

「お客様、ここは反物屋ですよ。 女の子を買いたいのなら色街へ行かれたほうがいいですわ」

「いやいや、我々は買い物に来たのではない。そこにいる天女の子を返して頂きたいだけだ」

「その子はうちの常連さんのお連れ様・・。見も知らぬ方にお渡しはできません。お引取りください」
 凛とした態度で一歩も引かない女将。

「ただでは帰れない・・・と言ったら?」

「その時は不本意ですが・・・・」
 そう言いながら両手を水平に広げると、

「強制退場していただきます!」

 クエロマスカラ、ドレイトンに向けて振りかざした。

 すると店中に展示されていた反物が一斉に宙に浮き、クエロマスカラ達に襲いかかる。
 反物に包まれるように動きを封じられる二人。

r-vs-m_806.jpg

「都さん、今のうちに裏口から!」

 女将の言葉に、都はフェアウェイと香苗を連れて裏口から飛び出した。

 まるでミイラのように、反物でグルグル巻になり拘束されたクエロマスカラとドレイトンの二人。

「このまま、絞め殺してやるわ・・・」
 更に力を込めるように反物を縛り上げていく女将。


グィィン~グィィィ~ン!!


 突然エンジン音が鳴り響くと、ズサッ!ズサッ!とクエロマスカラを包み込んでいた反物が切り刻まれていく。

「ま・・まさか、私の妖力を篭めた反物を・・・!?」

 自身を縛り付けていた反物を切り落とすと、ドレイトンを包んでいる反物も切り刻んでいくクエロマスカラ。

「なるほど……。 この国流で言う、付喪神系の妖怪ですか?」

 女将の正体をあっさり見破ったドレイトン。

「もう・・充分永く生きたでしょう。そろそろ、あの世に戻りなさい」

 その言葉と同時に、女将に向ってクエロマスカラが突進してきた。 クエロマスカラの激しい当りに、店の外まで吹き飛ばされる女将。
 たったの一撃だが、かなりのダメージを負ってしまった。

 更に手にしたチェーンソーを振り上げ女将に狙いを定める。

「くっ・・・」

 クエロマスカラがチェーンソーを振り下ろそうとした瞬間!

 その手に細い光る物が巻き付いた。

「都さんっ!?」

 女将の目に飛び込んできたのは、ビルの壁に這いながら糸を引っ張る都の姿。

「アレですか? 我々の邪魔をする蜘蛛の妖怪というのは・・・。エイダ、先にあの蜘蛛娘を捕らえて頂いちゃいなさい」

 ドレイトンはそう言ってニヤリと笑った。

「蜘蛛なんか食べても美味しくなさそう・・・」
 だが、当のクエロマスカラは渋々とした表情。

「あら!? 脂身ばかりのおデブさん体型の方に、そんな言われ方するとは心外ですわ!」

 負けずと言い返す都。

「デ・・デ・・デ・・デ・・、デブって、イウナ~~~~~っ!!」

 それまで無表情に近かったクエロマスカラに、明らかに怒りの色が見える。

「誤解ですわ! わたくし・・貴女がデブだなんて、一言も言っておりません。 デブの方が貴女の体型によく似てらっしゃると言っているだけですわ!」


「コ・・・コ・・・殺すっっっっ!!」


 沸騰したヤカンの様に、真っ赤になって怒り狂うクエロマスカラ。

r-vs-m_807.jpg

 腕に巻き付いた糸を、そのまま力任せに引き寄せる。

 都も成人男性を片腕で釣り上げる程の力を持っているが、こと・・相手が妖怪や化け物だと勝手が違う。
 都の力など魔物の世界ではまだ非力な方だ。

 簡単に引き寄せられ、路上に思いっきり叩きつけられてしまった。

「うぐっ・・・!」

 口から血が吹きこぼれる。いくら妖怪とはいえ相当なダメージだ。

 更にチェーンソーを振り回しながら駆け寄ってくるクエロマスカラ。

 都はよろめきながらも手短な建物に糸を貼り付けて、糸を手繰りながら移動して一旦その場から逃げ出した。

 頭に血の上ったクエロマスカラは、見境なく後を追っていく。

 都の逃げ込んだ場所は路地裏から出た大通り。 夜の十時を過ぎているとはいえ、さすがに商業都市である丘福市。 大通りでは、まだまだ多くのトラックや自動車が走っている。


シュッッッ!!


 追ってくるクエロマスカラの両手両足に糸を巻付けそのまま高く飛び上がり、建築中の十二階建てビル屋上に設置されているクレーンの先に糸を潜らせた。

 その後、すぐにトレーラー型の大型トラックの荷台にその糸を貼り付ける。

r-vs-m_509.jpg

 それは大型トラックの力を借りて、クエロマスカラを宙吊りにする作戦だ!

 さすがのクエロマスカラも500馬力程のパワーにいきなり引き寄せられたらどうにもならない。

 ピンと張った糸は一気にクレーンを伝ってクエロマスカラの身体を引き上げ、屋上近くに宙吊りにした。

 それを見届けると、都はトラックに繋がっていた糸を一気に切り裂く。
 十二階建ての高さからクエロマスカラは真っ逆さまに落ちていった。


ズシィィィ―ン!!


 粉塵と化したアスファルトが舞い、激しい振動が響き渡る。

 クレーターのように陥没した路上の真ん中で、倒潰したクエロマスカラが沈黙していた。

「やれやれ・・。しばらくは肉まんを食べる気も失せますわね」

 勝利を確信した都は小さな溜息をつき、その場を離れようとした。


 その時・・・

「!?」


 都の身体が急にふわりと浮き上がり、そのまま逆さ吊りとなった。

「ま・・まさか・・・、たしかに殺したはず・・なのに!?」

 都の目に映ったのは逆立ちしたクエロマスカラ。いや、都が逆さまに釣り上げられているので、両手を真上に上げ仁王立ちしたクエロマスカラだ。

r-vs-m_808.jpg

「グフゥゥゥゥッ・・・・」


 大きく荒い息を継ぎながらクエロマスカラはそのまま都を振り上げ、勢いをつけて路面に叩きつける!!

「ゲボッ!!」

 激しく吐血する都。

ガンッ!! ガンッ!! と、二度・・三度、路上に都を叩きつけた。

 クエロマスカラは、まるでボロ雑巾のようにズタズタとなり失神した都の身体を確認すると、クン・・クン・・クン・・・と匂いを嗅ぎ、

「やっぱり、旨ぐなさそうだ・・・」

 とその場に放り捨てた。


「蜘蛛のお姉ちゃん・・!!?」

 路地裏から都の敗北を目のあたりにしたフェアウェイと香苗。

「お姉ちゃん、死んじゃいや~ぁ!!」

「ダメだ、逃げるんだ!!」

 都の元へ駆け寄ろうとするフェアウェイを必死で制止する香苗。

 その背後から・・・

「見つけましたよ♪」

 香苗が振り返ると、そこには長身の年配男性の姿が。 ドレイトンは嬉しそうにフェアウェイに手を伸ばす。

「この子に触るなぁぁっ!!」

 香苗が懸命に対抗するが、ヌイグルミであるこの姿では当然勝ち目がない。 簡単に放り投げられ、壁に叩きつけられた。

「フェ・・ア・・・ウェイ・・」

 気絶寸前の香苗の目に入ったのは、クエロマスカラに抱え上げられるフェアウェイの姿であった。



第八章 丘福ドームスタジアムへ続く。
================================

オマケ特典物語は >>続きを読むをクリックしてください。








≫ 続きを読む

| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 19:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第八章 丘福ドームスタジアム

「てんこぶ姫・・・。あの天女の子を無事に送り届けることができたかな・・・?」

 ベッドの中でうっすらと目を開け、凛が独り言のように呟いた。

「凛っ! 気がついたっちゃね!?」

ギュゥゥゥゥゥッ!!

 千佳が抱きしめ、スリスリと頬擦りをし始める。

「千佳、ウザイっ! 離れてっ!!」

 凛は力いっぱい千佳を押し返した。 シクシクと涙する千佳。

「あっ!? 雷撃で受けた傷が殆ど回復している・・?」

「ワタクシが治癒の術を施したから。まだ若干のダメージは残っているかもしれないけど、とりあえず動けるようになったはず」

 浄化だけでなく、治癒系の術も使える青い妖魔狩人。
 凛は深々と頭を下げた。

「で、凛ちゃん。その・・てんこぶ姫というのは?」
 優里が再び話を戻す。



 凛は都と出会った事・・。そしてサンダーバードとの戦いまで、その経緯を話した。



「まだ、天女の子が無事に送り届けられたという情報は入っていない。この丘福市の何処かで上手く逃げ延びていてくれればいいが・・・」

 青い妖魔狩人は部屋の窓から夜の街並みを眺めながら呟いていると

「ちょっといいですか?」

 祢々が話しかけてきた。

 青い妖魔狩人の耳元で、二言・・三言話す祢々。
 そのうち青い妖魔狩人の目つきが険しくなっていった。

 振り向きざま凛や優里、千佳、金鵄を見渡すと

「最悪の情報が入った。 天女の子がエノルメミエドの手の者に拉致されたらしい」
 と語った。

 場の空気が一気に冷える。

「詳しい事情を知っている者がここに到着する。話はそれからだ」



 十数分後、凛や青い妖魔狩人の前に現れたのは七~八歳くらいの少年。

 それは子どもの姿をした妖怪『セコ』。

 普段、柚子村で凛たちのために情報収拾の役割をこなしている。

 そしてそのセコが抱きかかえている物は・・・

「あなたは、てんこぶ姫たちと一緒にいた・・!?」

r-vs-m_901.jpg

 予想外の再会に目を丸くする凛と金鵄。

「あたしの名は伊達香苗。なんつーか・・・こんな形(なり)だけど、元は人間の付喪神妖怪・・? っていうものらしい」

 香苗はそう言うとピョコっと頭を下げた。

「一時間程前、河端町の一角で人間離れした者同士の争いがあったと連絡があったの。手下に様子を見に行かせたら、荒れ果てた街の中にこの妖気を持ったヌイグルミが落ちていたそうよ」
 祢々は簡単に経緯を話した。

 香苗はピョコンと床に降りると凛の足元に歩み寄り

「貴方……、蜘蛛女と戦った妖魔狩人だよね?」

「えっ!? ええ・・そうですけど・・・?」

 香苗はそこまで言うと床に両手をつき額が擦れそうなくらい頭を下げ、すなわち深々と土下座をした。

「アイツの事は大っ嫌いだけど、今回だけは別・・・。 お願い! あの蜘蛛女を助けてやって・・・!」

 そのただならぬ決意に、凛たちは驚きを隠せなかった。

「いったい何があったの?」

 温和で軟らかい口調の優里が話しかけた。

 すると香苗は呆然とした顔で優里の顔を見つめ、

「アンタも・・・妖魔狩人だったんだ?」

 と小さく呟いた。


「えっ!?」


「い・・いや、こっちの事・・・。 それより・・えっと・・・。

 そうそう、奴ら・・マニトウスワイヤーって奴らがあたし達に襲いかかってきたんだ。 蜘蛛女はフェアウェイを守るために戦ったけど負けてしまって・・・。 あたしも蜘蛛女もさっきまで気を失っていたんだけど・・・・」

 ここまで言うと香苗の肩がワナワナと震えだした。

「アイツ、たった一人でフェアウェイを助けに行ったんだ!! ボロボロの身体のくせして・・!!」

「でもっ・・ちゃ・・・」
 今まで黙っていた千佳が問いかけた。

「その蜘蛛女・・。都市伝説では人を食べるような極悪な妖怪っちゃろ? そんなヤツが人間のために、そこまでするっちゃか!?」

 千佳の問いに香苗はしばらく黙っていたが

「アイツと一緒に過ごした時間はそれほど長くはないんだけど。たしかにあんたの言う通り、アイツは人を殺してその肉を喰う・・・。
 今回もフェアウェイと一緒にいたバレンティアっていう女性を食べた・・・」

 その言葉に凛も千佳も表情を曇らせる。

「でも・・その時バレンティアさんは瀕死の重症で、とても延命できる状態では無かった。
 そして食べた後にアイツ・・こう言ったんだ・・・・」

 この時ヌイグルミであるはずの香苗の目に、涙が溜まっていることに皆が気づいていた。

r-vs-m_902.jpg

「『貴方の意志とその想いは、差し出したその身と共にわたくしが全て引き継ぎました。 姫の冠にかけてこの生命に変えても、この子は無事に守りぬく事を約束しますわ』 ・・と」



 この場にいた誰もが言葉を失った。

「アイツは復讐代行なんて事を口実に気まぐれで人を殺したり食べたりもする最悪なヤツだけど・・・。でも・・約束だけは破ったことが無い」

 シンと鎮まり返った空気の中、凛がそっと口を開いた。


「てんこぶ姫を助けましょう!」

 その言葉に優里も千佳も黙って頷いた。

「ちょっと待ちなさい!」

 凛とした言葉が場の空気を遮った。

 その言葉を発したのは青い妖魔狩人・・・・。

「天女の子を手に入れた今、奴らはエノルメミエドの転生儀式をすぐにでも始めるはずだ。 かなりの魔力を使う為、早急に終わるような儀式では無いにしろ、おそらく明朝までには儀式は終えエノルメミエドが復活するだろう。 ・・となれば勝負は明朝まで。 もし復活を阻止できなければ我々に勝機は無い」

 緊迫した空気が辺りを包む。

「伊達香苗と言ったわね? 貴方、てんこぶ姫が何処へ向ったかわかる?」

「い・・いや・・・。アイツ、フェアウェイの匂いを辿っていくとか言って・・・」

 香苗の言葉に青い妖魔狩人は眉を潜めた。

「相当な魔力を使う儀式・・・、おそらく地の利の有効な場所で行うはず・・・。一体何処・・?」

「全員で手分けして探すしか・・ないっちゃないの?」

「それでは戦いになった時、圧倒的に不利・・・」

「みんな丘福市の地図よ!」

 祢々はそう言って市内地図をテーブルに広げた。


「魔力を上げるのに有効な地の利の条件と言うのは?」

 凛が金鵄に尋ねる。

「うん・・色々あるけど、古くから魔の儀式が行われていた場所とか・・・。もしくは魔力を上げる、六芒星の形を司る場所とか・・・だね。」


「六芒星・・・?」


 金鵄の助言を参考に目を皿のようにして地図を探る。

「これは・・・?」
 優里がある一箇所を指さした。

r-vs-m_903.jpg

「丘福ドームスタジアム・・!? それって神田川ボークスっていう、プロ野球チームのホームグラウンドじゃないっちゃか?」

「その辺は詳しく知らないけど。でも・・この形、殆ど六角形でしょう?」

「なるほど六芒星に当てはまる・・・。たしかにその可能性は高い」
 青い妖魔狩人も頷く。

「今日、そこではナイター試合が行われているはず」

「儀式で必要な生贄も充分事足りるわね」

「行きましょうドームスタジアムへ!!」
 凛がスクっと立ち上がった。










 地下鉄『東陣町』駅。

 神田川県が誇る施設の一つ、丘福ドームスタジアムの最寄りの駅である。


 地下鉄が急遽運行停止となっていたため、青い妖魔狩人の用意した車で到着した一行。

 もっとも一般公道も所々閉鎖されており、近辺に車両を停めて、警察等の目を掻い潜ってやっと辿り着いたのだが。
 駅に着いて、その原因がよくわかった。

 そこにはおびただしい数の負傷者や、死体が横たわっている。

 現場に駆けつけたであろう警官たちの姿もそこにあった。

 今現在、この地で二本の足で立って歩いているのは、パペット・マスターが操るマネキン人形化した者と、そしてこの地に憑依していたであろう霊魂や精霊が実体化した姿。

 おそらくこの者たちが、ここに倒れている人間たちを襲ったのであろう。

r-vs-m_904.jpg

「てんこぶ姫は、辿り着いているの?」

 凛は真っ先に都の姿を見つけようと、辺りを見回した。

「凛、先の方で何者かが戦っている気配がする!」

 上空から見渡す金鵄が、ドームスタジアムへ続く一本の道の先を見てそう叫んだ。

「先へ進もう!」



 凛たちはドームスタジアムを目指し、まっすぐ突き進んだ。

 途中十数体のマネキン人形たちが襲いかかってくるが、凛・優里・千佳・青い妖魔狩人・祢々。
 彼女たちは何度も妖怪と戦い続けた強者。

 次々と撃破し、さらに凛の浄化の矢や青い妖魔狩人の浄化の術で、マネキン人形を元の人間に戻していった。

「す・・凄いっ! これが・・妖魔狩人の実力なんだ・・・!?」

 金鵄にぶら下り上空から戦いを眺めていた香苗は、初めて見る妖魔狩人たちの戦いに驚きを隠せなかった。


「あそこだ!?」

 金鵄の声で辿り着いたその場所はドームスタジアム正面にある大階段。

r-vs-m_905.jpg

 そこへ続く大歩道の脇にある野外イベント用の敷地。

 凛たちの目に入ったのは、全身傷だらけで倒れ伏せている都とその前で佇むサンダーバードの姿。

「てんこぶ姫っ・・!?」

 すぐさま都の下へ駆けつける凛。

「あら・・、こんな場所でまた会うなんて・・。 野球観戦なら・・向こうの建物ですわよ・・・」

 軽口は叩いているものの、文字通り虫の息である。

「馬鹿なこと言っていないでっ!! 青い妖魔狩人さん・・・!」
 凛はそう言うと青い妖魔狩人を呼び寄せた。

「青い妖魔狩人さん。あなたの治癒の術でてんこぶ姫を回復させてください!」

 凛の言葉に青い妖魔狩人はチラリと都に目を向けたが、静かに首を横に振った。

「ワタクシにとって妖怪は敵。その敵の治癒なんてできないわね」

「今・・てんこぶ姫は天女の子を救い出すという共通の目的を持った、いわば仲間です! 治癒をお願いします!」

「できない」
 青い妖魔狩人はキッパリと答える。

 それを聞いていた優里、

「貴方と一緒に行動を共にしている祢々さん。彼女も妖怪ですよね?」
 と問い返した。

「祢々の一族は遥か昔からワタクシに仕えてきた。妖怪とはいえ信頼できる」

「なら、全ての妖怪が敵という考えは早計ではありませんか?」

「・・・・・・・」

「今回だけ目を瞑ることはできませんか?」
 珍しく食い下がる優里。

「わかった・・・」

 青い妖魔狩人は小さくため息をつくと、両手を高々と掲げる。
 水流の輪を作り静かに都の下に引き下ろすと、それは無数の水泡となって都を包み込んだ。

 凛自身も、そして以前も優里や千佳に行ったことのある、青い妖魔狩人の治癒の術。

「ありがとうございます・・・」
 凛は青い妖魔狩人に頭を下げた。




第九章 妖魔狩人VS闇の精霊へ続く。
===============================

| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 19:26 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第九章 妖魔狩人VS闇の精霊

r-vs-m_1001.jpg

「ところで、あのケッタイな羽の生えた三つ首女は何だっちゃ!?」
 千佳がサンダーバードを睨みながら金鵄に尋ねた。

「気をつけるんだ! アイツが凛を倒したんだ・・・」

「あ!?」

 千佳のコメカミに血管が二~三本クッキリと浮き上がった。

「アイツが凛をあそこまでボロボロにした奴っちゃか?」

 見る見るうちに千佳の髪が真っ赤に逆立ち、右手は一回り二回り大きくなり灼熱の爪がモウモウと湯気を立ち上げる。

「だったら丁寧にお返ししてやらなくっちゃね!!」

 そう言った瞬間、まるで野生の獣のように一足飛びでサンダーバードの眼前まで飛び込んだ!

 だが、サンダーバードは慌てることなく指先を千佳へ向ける。
 同時に上空から激しい雷鳴とともに、雷撃が千佳に襲いかかった。


バリッ!バリッ!バリッ!・・・


 その衝撃の強さを物語るように千佳の身体は十数メートル吹き飛び、駐車してあった乗用車に頭から突っ込んでいった。

「千佳っ!?」
 凛が慌てて駆け寄る。

「くらえ~~~っ!!」
 その間、禰々子河童の祢々が金棒を振り上げサンダーバードに襲いかかる。

 だが、それも左手一本で軽々と止めてしまった。

 いや左手で止めたのでなく、左手と金棒の間に激しい電流の流れが見える。
 そう、サンダーバードは電流のバリアで攻撃を封じたのだ。

 そのまま電気の流れを強めると電磁石となり、金棒を持った祢々も軽々と吹き飛んでいった。

「なんて・・強さなの?」
 冷静に戦況を見つめていた優里は、改めてサンダーバードの恐ろしさを実感する。

「この・・クソ野郎っ・・・!!」
 崩れた乗用車の扉から全身傷だらけとなった千佳が這い出てきた。

r-vs-m_1002.jpg

「千佳・・、大丈夫・・・?」

「これがアイツの雷撃ってヤツっちゃか!? こんな痛いの・・凛は何発も受けたっちゃね?」

 千佳の着用している戦闘用の服も火鼠の皮から作られているためある程度の高熱にも耐えることはできるが、それでも千佳の全身に火傷の跡が見える。

「凛が受けた痛み・・・。ウチが何倍にして返してやるっちゃっよ!!」
 自身の痛みより凛の受けた屈辱ばかり気にする。それが千佳という少女。

「完全ではないが、動けるところまで治癒は終わった」

 丁度・・都の治癒も終り、青い妖魔狩人の言葉に合わせて都も立ち上がる。

「どういうつもりか解りませんが、今回は素直に礼を申し上げておきますわ」
 都はそう言って青い妖魔狩人に頭を下げた。

「このまま引き下がれるか!?」
 祢々も立ち上がり、再びサンダーバードを睨みつける。


「四人の妖魔狩人に、蜘蛛女・・、そして河童の女性・・・。このメンバーで一斉にかかれば、あのトーテムポールを倒せるかも・・・」

 上空で金鵄に摘み上げられた状態で様子をみていた香苗は、期待に胸を膨らませた。



「いえ、全員でかかるわけには行かないわね」


 そんな香苗の言葉に反するかのように、優里が一歩前に出た。


「優里お姉さん・・・・?」

「金鵄さんからこの敵の事は聞きました。相手は北米最強の精霊。簡単には行かないでしょうが、全員でかかればなんとか倒すことも可能かもしれません」

「なら、問題ないっちゃないの!?」
 千佳の言葉に首を振ると、

「問題は時間です。ここに到着してからもう40分以上が過ぎ、天女の子が拐われた時間も考慮すれば、これ以上の時間ロスは許されません!」

「一体何が言いたい?」

 青い妖魔狩人の問いに優里は皆を見回すと、

「私一人で相手をします。皆さんは先を急いでください!」
 と答え、薙刀を構えサンダーバードを見据えた。

「優里お姉さん無理です・・! みんなで戦ったほうが!?」

 さすがの凛も簡単には同意できない。

「凛ちゃん。私達が優先することは敵を全滅させる事ではなく、天女の子を救い出しマニトウスワイヤーの転生を阻止すること。
 だから、私はあの精霊を倒せなくてもいいの。みんなが先へ進む時間を稼げれば・・・!」

 優里の言葉に誰も言い返す事はできなかった。

「たしかに高嶺優里の言う通りだ。ワタクシ達は先へ進んだ方がいい」
 青い妖魔狩人は大きく頷くと、祢々を連れて真っ先に群を飛び出していった。

「そいつには借りがあるのですが、今はフェアウェイの連れ戻すことが先決!」
 都も気持ちを切り替え、その後に続く。

 そして・・・

「凛、ウチたちも行くっちゃっ!」
 千佳が凛を催促する。

 だが凛は、まだ不安そうな表情でその場をジッとして動かない。

 そんな凛に対し優里はこう告げた。

「凛ちゃんは私のことを信用している?」

「えっ・・? 優里お姉さんのことを・・・・?」

「そう。私のこと・・・」

 凛は少しうつむき加減で言葉を選ぶように考えていたが・・・

「信じています! 優里お姉さんの人柄も、優しさも・・・。そして強さも!」

「すごくいい答えだわ!」
 優里はそう言ってニッコリと微笑んだ。

「だったら、この場も私を信じて!」

「・・・・・・!?」

「私は絶対に死なないわよ!」

 いつも以上の優里の優しい微笑みに、凛はまるで一目惚れした男子のように釘付けになったが、やがて我に返ると、

「はいっ!!」

 と、慢心の笑みで返事を返した。

 そして何事も無かったかのようにその場を駆け出し

「千佳、早く行くよっ!!」
 と逆に催促した。

「う・・・うん・・!?」
 慌てて後を追う千佳。そんな千佳に、

「千佳さん!」

 と、優里が声を掛けた。

 足を止め振り返る千佳。


「凛ちゃんのこと・・・、任せたわよ!」

「!?」


 予想もしない言葉に千佳は一瞬我を見失ったが、

「ああ・・、任せるっちゃ! 次に化け物が現れたらウチが相手をする!!」
 と、いつものイタズラっ子のような不敵な笑みで返事を返した。

 その返答に優里は満足そうな笑みを浮かべると、薙刀を構えサンダーバードを睨みつけた。


 ― 高嶺さん、また後で必ず会うっちゃよ! ―


 千佳はそう呟くと速攻で凛の後を追っていった。

r-vs-m_1003.jpg


「別レワ、済ンダカ?」

 今まで傍観していたサンダーバードが待ちわびたように声をかけた。

「別れ・・・? あの子たちとはまた後で会います。だから別れの挨拶など不要です」

 「ホゥ・・!? ソレワ、ワタシ二勝ツ自信ガアル。ト・・イウコトカ? ソレトモ・・・?」

「できるなら戦いは好みません。 ですが、それが避けられないというのであれば、戦ってみればわかること!」

「フン、期待シテイルゾ!」

 そう言ってサンダーバードは右腕を高々と上げた。

 轟く雷雲・・・。

 それを見た優里の脳裏に浮かぶ、その雷撃の破壊力・・・。 先の戦いで敗北した凛・・・。 到着時に倒れ伏せていたてんこぶ姫の姿。 つい今しがた・・・吹き飛ばされた千佳。

 それらを見れば、どれほど恐ろしい攻撃力かがわかる。

 だが、たしかにその破壊力は凄まじいが、先ほどの千佳と祢々による攻撃を見て気づいた事が一つある。

 優里は、再度それを頭の中で整理するように一呼吸つく。
 そして薙刀を握りしめ、サンダーバードに向かって一気に駈け出した!

 向かってくる優里に対しサンダーバードは指先を向けた。
 激しい稲光と共に雷撃が優里を襲う!

 その瞬間優里は手にしていた物を、空中高く放り投げた。

 それは先程千佳が吹き飛ばされ突っ込み、崩れた自動車の扉の一部。


バリッ! バリッ! バリッ!


 サンダーバードの放った雷撃は優里ではなく、放り投げた金属の扉に直撃した!

「!?」

 サンダーバードが虚を突いたその瞬間に一気に間合いを詰める優里!

― 雷撃による短時間内の連続攻撃は不能!―

 それが優里の出した攻撃の糸口。

 サンダーバードはすぐに冷静さを取り戻し、電流による電磁石バリアを張って防御に入る。

 だが優里は薙刀を逆手に持つと、柄の端・・すなわち石突を突き立て一気に貫いた!


ズボッ!!


 優里が放った薙刀の石突は電磁石の網をいとも簡単に突き抜け、サンダーバードの鳩尾辺りに食い込んでいる。
 一見無表情なサンダーバードだが、微かに眉間にシワが寄る。

「私の薙刀は今は亡き麒麟の角から作られています。このセラミックに近い物質の柄は、いかなる電流も磁石も通じません」
 そう言って優里は手応えのあった柄をゆっくりと引き抜く。

 自身の鳩尾に手を当て優里を睨みつけるサンダーバードだが・・・

「ククク・・・・・」

 小さく、それでいて高いトーンで笑い出した。

「ナルホド。コノ小サナ島国ニワ、『侍』ト呼バレル戦士ガイルト聞イテイタ。ドウヤラ貴様ワ女デワアルガ、ソノ侍ト呼バレル戦士ノヨウダナ」

 サンダーバードは背中の翼を羽ばたかせると、優里との間合いを再び十数メートル開けた。
 そして、またも天高く右腕を上げ雷雲を轟かせる。

「また、雷撃・・・?」
 優里がそう思った瞬間!

 振り下ろした右腕と共に、激しい稲光が『サンダーバード』の身体を覆いこんだ!?

「な・・なにっ・・!?」

 自らに雷撃を食らわせたサンダーバード。
 青白い火花を散らしながら仁王立ちしたその姿は、不気味な微笑みをはなっている。

「相手ガ侍ガールナラ、コノワタシモ『サンダーバード(雷鳥)』ノ名ガ、伊達デナイ事ヲ見セテヤロウ」

 そう言って指先を優里に向けた。

 ピカッ!!っと、目がくらむような光を放った瞬間、鋭い突き刺すような痛みが優里の身体を貫いた。

「ああっ!!?」

 更に間を開けず立て続けに光が放たれる。
 二撃、三撃・・・と、次々に鋭い痛みが襲いかかってくる。

 たまらず膝をつく優里。

「まさか・・・。雷撃のエネルギーを自分の身体に蓄電し、それをレーザーのように撃ち放っているというの・・・?」

「ソノ通リ。雷ヲ自由自在二使イコナス。ダカラコソ・・・サンダーバードト呼バレル所以ダ」

 一撃一撃の威力は天空からの雷撃より若干落ちるが、間を開けず放ってくるためまるでかわしようが無い。
 次々に放たれる光電により、ついに優里はその場に倒れた。

― 速い・・・。落雷と違って・・攻撃が速すぎる・・。レーザー・・、まさしく光のように・・・。―

 そこまで思った瞬間、何かが引っかかった。

―光・・・? いや・・・違う。この突き刺すような痛みはまさに感電によるもの・・・。光線攻撃に似ているけど、これは紛れも無く電撃攻撃・・・!―

 そう呟き辺りを見渡す。

 そして優里の目に止まったのは、その付近に設置されている数々の照明や配線機器。

「これなら・・・!」















 その頃、ドームスタジアムに辿り着いた一行。

 正面ゲート(入口)をくぐり抜けると、そこはグッズショップやファーストフード、ドリンクコーナーなどが並ぶ、娯楽施設であった。

 通路を駆け抜ける一行の目に入るのは、マニトウスワイヤー一味に襲われたとみられる数多くの犠牲者たちの姿。

「野球観戦を楽しみに来たはずなのに・・・」
 凛の心は切り裂かれるような痛みが走る。

「むっ!?」

 先頭を走っていた青い妖魔狩人が、ピタリと足を止めた。

 見ると通路の先に一人の長身の男が立ちふさがっている。

「ほほーぅ。 人形たちから侵入者があったと知らせがありましたが、貴方達の事ですか?」
 長身の男・・・ドレイトンは、肉の塊のような物を頬張りながら不敵な笑みを浮かべた。


ガシャーンっ!!


 更に通路脇のファミレスの窓を突き破り、丸々とした物体も姿を現す。

 鳴り響くエンジン音・・・。 パンパンと弾けそうなデニム生地のオーバーオール。 不気味な皮で作られた面・・・。

r-vs-m_1004.jpg

 その姿を見て真っ先に反応したのは都。

「あら!? お久しぶりですわ、おデブさん体型の方・・・♪」
 ・・・と、チェーンソーを片手に現れたクエロマスカラを見て挑発する。


「デ・・デブ・・・、デブって言うなぁ・・・・!!」


 マスク越しでわからぬが、きっとその下は顔中血管が浮きまくっている事だろう。

 そんなクエロマスカラを宥めるように押さえ込むドレイトン。

「先程の蜘蛛女さんですな。エイダから完全に殺したと聞いていたのですが、なかなかどうしてしぶとい方ですね」

「ふん! またお会いできるなんて光栄の至りですわ。ちなみにわたくしが今、何を考えているか当然おわかりですわよね?」

 そう言う都の瞳は鮮血のように赤く輝き・・・
「貴方たちをぶち殺して、先程の借りを返して差し上げますわ!!」

 言葉が終わらぬうちにドレイトンたちに飛び掛った。

 ドレイトンの前に立ち、チェーンソーを振り上げるクエロマスカラ。

 だが・・・。


「ちょっと、待つっちゃあ!!」

 横から一陣の風のように、都に飛びかかった人物がいた。

 激しく転げまわる二人。

 都に飛び掛った人物。それはなんと千佳であった。

「な・・何をするんですのっ!?」

「それは、ウチのセリフっちゃっ!! アンタこそ、なにしとるん!?」

「わたくしはこの者たちへ復讐、リベンジをするところですわ!」

「今、そないな事しとる場合っちゃっろ!?」

「えっ!?」

 千佳は大きく息を吸い込むと・・・


「アンタが今せないかん事は、フェアウェイっていう子どもを助けることじゃ・・ないっちゃね!?」

 と一気に怒鳴り上げた。


「あ・・・・・」


 我に返ったように言葉に詰まる都。

「こいつらの相手はウチがする! アンタは凛たちと先へ進むっちゃよ!」

「ほぅ・・!? この中で一番バカな斉藤千佳にしては、賢明な判断だ」
 まるでアラスカの白い大地で二足歩行をするアフリカ象を見つけたような。そんなあり得もしない物を見たかのように、青い妖魔狩人は驚嘆していた。

「てめぇ・・・、後から絶対コロス!」

「千佳・・・あなた?」
 さすがの凛も心配そうに駆け寄った。

「心配ないっちゃ。こいつらをチョチョ~ンとぶっ倒して、すぐに後を追うっちゃよ!」

「で・・でも・・・?」

「それに・・・」

「・・・?」

「高嶺さんと約束したっちゃ。 次に化け物が出たらウチが相手をするって」

「優里お姉さんと・・・・?」

「ウチは絶対に負けへん! だから安心して先に行くっちゃよ!」
 千佳はそう言って、最高の笑みを浮かべた。


 絶対に負けない!


 以前にも千佳が放った言葉だ。

 そしてその言葉の通り、その時も千佳は無事に戻ってきてくれた。

 千佳の態度に少し驚きを隠せない凛だったが、

「わかった。ここは千佳に任せる!」
 と、お返しとばかりに最高の笑みを浮かべた。

「やば・・・っ、やっぱ可愛い・・・」

「えっ!?」

「い・・いや、何でもない。さっさと行くっちゃっよ!」

「うん!」
 千佳に後押しされ凛は都の元へ行くと

「ここは千佳に任せて先へ急ぎましょう!」
 と声を掛けた。

「しかたありません・・・」

 都はそう溜息をつくと、

「そこの半妖、ここは貴方に譲ります。しっかり役目を果たしなさいな」
 と悪し様に言い放つ。

「あ!? あんだ、その態度は・・・?」

 そう返す千佳をなぜかじっと見つめる都。そして・・・


「ありがとう・・・・」


 ポツリと呟くと、脱兎のごとく駆け出していった。

 そんな都に続けとばかりに青い妖魔狩人、祢々、そして凛が後を追う。


「ありがとう・・・? あの蜘蛛女が・・?」
 千佳はそう呟くと、口元が自然に緩んだ。

「さて、化け物退治を始めるやん!!」
 そして赤々と熱気を放つ右腕を、大きく振り上げた。




第十章 妖魔狩人たちの苦戦へ続く。
=============================

| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 18:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT