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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 終結~戦いの終わり~ -前編-」

「お待たせ、凛ちゃん。そして……みんな」
 ムッシュとの死闘を終え、傷だらけの優里はニコリと微笑みながら戻ってきた。
 だが、「!?」優里は糸の切れた操り人形のように、その場にバタリと倒れこんだ。
「優里お姉さん!?」慌てて駆け寄る凛とその一行。
「気を失ってはいるが、まだ息はある。だが、かなりの重症だ。このままでは危ないかもしれない」と瀬織はすぐさま優里の具合を確かめる。
「瀬織さん、優里お姉さんの回復をお願いいたします」凛はそう言うと弓を手に立ち上がった。
「もちろんそうするが。若三毛凛、お前……どうするつもりだ!?」
「わたしは妖木妃と戦います!」凛はそう言うと、千佳に向かって振り返った。「千佳、お願い……手を貸して!?」
「当たり前っちゃ! ウチだって、そのためにここへ来たっちゃからね!」そう言ってニヤリと微笑む千佳。
「ありがとう。でも最初にもう一度だけ言っておく。わたしのゲイの弓は、おそらく一発しか射ることができない。だから援護は一切できない。貴方一人で妖木妃の隙を作り出してほしいの。かなり危険だけど……」
「だったら、一つ条件があるっちゃけど!?」凛の言葉に千佳は速攻でそう返した。
「条件……?」
「たいしたことじゃない。今晩……ウチと同じベッドで一緒に寝てくれる!っちゅうのを聞いてほしいだけっちゃ?」
「な・な・・な・・・なんて馬鹿な事を!? そんなのわたしが……」
「ええやん。もしかしたら、ウチ……ここで死ぬかもしれへんっちゃろ? だったら、少しでも生き延びようとする活力っちゅうのが、欲しいやん? ここ一発のモチベーションって、大事やと思うっちゃけどな!?」
「う……っ、たしかに、そうかもしれないけど……」千佳のもっともらしい言葉に、返す言葉がない凛。「わかった。だ…だけど、同じベッドで寝るだけだからね!? 触ったり、変なことをするのは無しだからね!?」今は、こう返すしかない。
「ええよ! 千里の道も一歩から。今日はそれだけで我慢しとくっちゃ! まぁ、それだけでも、十分やる気が出るってもんやけどな!」そう答えた千佳は、赤い逆毛を更に逆立て、右手の灼熱爪はモウモウと熱気を放っている。
「そんじゃ、しっかりウチの戦い、見とくっちゃよ!!」拳を振り上げ、妖木妃に向かって一気に駈け出していった。
「赤い妖魔狩人? お前一人でワシと戦うつもりか?」一瞬呆然とした妖木妃だが、すぐに不敵に微笑むと「どれだけ身の程知らずか、思い知らせてやろうぞ」と右手を振りかざす。黒い炎の塊が手の平に凝縮され、一気に砲弾のように撃ち放った。黒い炎の砲弾……、それが妖木妃の攻撃術、黒炎弾。
「千佳、それに当たったらダメっ!!」一度は凛の命すら奪った術。だからこそ、その恐ろしさは誰よりも知っている。凛はまるで絶叫のような声で、千佳に注意を促す。
「わかってるっちゃっ!!」それはまさしく野生の動き。迫り来る黒炎弾を紙一重で避けると、すかさず妖木妃の懐へ入り込む。
「喰らえっ!!」千佳の鋭い一撃が、敵の脇腹に突き刺さる・・・。そう、いつもなら。だが、相手は妖木妃。その爪は、わずか数ミリメートルほど届いてはいない。それどころか、肉食プランクトンのような花粉が、右手に纏わりついてくる。そのまま放っておくと、文字通り右手は食いつくされる。「ちっ!」千佳は慌てて数歩後ろへ退いた。
 そんな千佳を見て、嬉しそうに笑みを浮かべる妖木妃。
「おそらく獣系の妖怪と融合したのじゃろうが、それにしてはなかなかの戦いっぷりじゃ。相当有意義な戦闘経験を積んだようじゃの。どうじゃ、ワシに仕えてみるか?」
「ああ~ん!? たしかにウチは半妖。だからといって人間の味方ってわけでもないし、まして妖怪なんぞに仕える気なんかも、全然ねぇーっちゃ!」
「ほぅ……?」
「ウチが戦うのは、自分のため。そして……凛のため! そんだけっちゃよ!!」
「そうか。ならば、今日ここで死ね!」妖木妃はそう言って右手の平を千佳へ向ける。爆発音のような轟音と共に、再び黒炎弾が撃ちだされる。
 千佳は、身を低くし寸前でそれをかわすと、一気に妖木妃の足元に近寄り、上昇気流のように跳ね上がりながら、爪を引き上げる!! これも、いつもなら大ダメージを与える攻撃だ。だが、やはり妖木妃にはかすり傷一つ負わせられない。
「残念だな!」
 妖木妃は、右腕、身体を伸ばして跳ね上がった千佳の腹部に手の平を当てると、超至近距離からの黒炎弾。
「ぐあぁは!!」
 黒炎弾は、千佳をそのまま押し飛ばしながら、森の木々に炸裂。黒煙と黒い炎が、他の木々にも燃え広がる。
 一方、黒炎弾を至近距離から直撃された千佳。木々程ではないが、その身体からも激しい黒煙が舞い上がっている。
「なかなかの戦いっぷりじゃったが、もう終わりか……?」倒れた千佳を見つめ、冷ややかな笑みを浮かべる妖木妃。
「く……くそったれ!ウチを……、ウチを舐めるんじゃ……ないっちゃよ……」息絶え絶えながらも、鋭い眼光を発し千佳は立ち上がった。
「ほぅ……?」妖木妃はそれを見て、さらに嬉しそうに白い歯を見せる。「いいのぅ! こんな小さな島国で、お前たちのような獲物に会えるなんて!」そう言うと、再び黒炎弾を連発する。
 先ほどのダメージで足元が覚束ない千佳。一発目はなんとか避けることができたが、二発目でまたもや直撃。小柄な身体は大きく宙を舞い、放物線を描くように大地に叩きつけられた。
「ち……千佳ーっ!!?」弦を引く手を緩め、凛は張り裂けんばかりの声を上げながら、千佳に駆け寄ろうとした。だが・・・「心配するな……っちゃ……」顔は青ざめ、身体は今にも崩れそうにガクガク震えながらも、再び千佳は立ち上がったのだ。
「千佳……」あまりの出来事に取り乱した凛は、一旦は千佳の元へ歩み寄ったが、彼女の言葉に気を取り直し、その場で足を止めた。そして「ごめん……千佳、もう少し頑張って。妖木妃は絶対防御の髪飾りの力を確信している。どんな攻撃でも、甘んじて受け入れるはず。わたしたちが付け入る隙はそこしかない。だから……」と呟くように話した。
「わかっているよ、ウチを信じろっちゃ!」
「わ……わたくしは、見余っていた……!?」優里の回復をしながらも、その様子を見つめていた瀬織。一度ならず二度も立ち上がった千佳の姿を見て、内心驚きの色を隠せなかった。「妖木妃の黒炎弾の威力は、炎と雷の違いはあってもサンダーバードの雷撃と変わらぬ、いや……それ以上のはず。なのに……?」
 立ち上がった千佳は、己の拳で両足を叩き、痛みで震えを麻痺させる。そして灼熱爪を振り上げ、三度妖木妃に襲いかかる。自慢のスピードは半減し、妖木妃の放つ黒炎弾を完璧にかわすこともできず、何度か身体を弾かれ、それでもなお立ち上がり向かっていく。
 もはや驚愕すら通り越したように呆然と見つめる瀬織。そして、その光景を見ながら、彼女は一つの仮説を立てていた。
 赤い妖魔狩人こと斎藤千佳。彼女は不完全な浄化による消滅の危険から、他の妖怪と融合し半妖になることで、その生命を生き長らえることができた。
 融合した妖怪は火山猫。その名の通り、中国火山地帯に生息しており、まるで火種のように灼熱の息を吐く火属性の妖怪だ。
 そして、彼女の身を包む戦闘服。火鼠という火山猫同様、火山に生息する妖怪の毛皮で編まれているという。そのため、炎などの高熱に対して高い防御力を誇る。
 もし、嫦娥がこういった戦いの展開を予想し、そのために斎藤千佳を赤い妖魔狩人に仕立てあげたのなら、この光景は納得できるものがある。
 いや、それだけではない。斎藤千佳という少女は、元から若三毛凛の事になると、異様なほど高い執念を見せる。そもそも不完全な浄化も、それが原因だったと聞く。
 わたくしは見余っていた。妖木妃との戦いにおいて、斎藤千佳こそが最大のキーポイントだったのだ。彼女無くして、この戦いに勝利はない。
(おかしい……?)千佳と対戦しながら、妖木妃は一つの疑問を感じていた。何発かの黒炎弾を喰らいながらも立ち上がってくる赤い妖魔狩人。この者は火属性の妖怪との半妖らしいので、それはそれで納得できる。おかしいのは、黒い妖魔狩人だ。この場に来てから、一発も霊力の矢を放っていない。
 千佳と闘いながら、慎重に凛の様子を探る。(ま……まさか!?)妖木妃がそう思った瞬間、千佳は自らの身体を倒し、足を交差させながら妖木妃の足元を挟むように絡みつかせた。突きや斬撃が通用しないのならば、直接の絡み技。千佳が優里の戦いから学んだ戦法だ。
 絶対防御の髪飾りによる花粉も、絡んだ千佳の足に纏わりつくことはできても、妖木妃の重心まで支えることまではできない。「!?」バランスを崩した妖木妃は、その場に尻もちをつくように倒れた。
「今だっ!!」
 千佳が作った妖木妃の隙。凛はこの時を逃しまいと、ゲイの弓から霊光矢を放った。いつもの青白い閃光ではなく、日差しのような山吹色に近い閃光。一直線に飛んだ閃光は妖木妃に直撃すると、太陽のような眩い輝きを放った。
 凛も瀬織も、あまりの眩さに目を覆う。そして、静かにその輝きが消えてゆき、辺りが見渡せるようになると、今度はその目を疑った。
 妖木妃に直撃したと思っていた凛の霊光矢。だがそれは妖木妃ではなく、千佳の右胸に突き刺さっていた。そう、一瞬の出来事ではあったが、凛が矢を放った瞬間、妖木妃は側に倒れている千佳の頭部を掴み、そのまま千佳の身体を盾にしたのだ。
「な…なぜだ……!? 絶対防御に自信を持っている妖木妃が、盾など使うはずが……?」優里への回復も忘れて、呆然とする瀬織。
「危なかった。まさかとは思ったが、やはりゲイの弓を所持していたか」妖木妃は額に流れる汗を拭いながら、そう微笑んだ。
「き…気づいていたの……?」凛も呆然と目を丸くし、独り言のように呟いた。
「うむ、お前が一発も矢を放たないのでな。お前たちの構成であれば、近接戦闘の赤い妖魔狩人。介護支援の青い妖魔狩人。そして、後方からの援護射撃が黒い妖魔狩人、お前の役割のはずじゃ。にも関わらず、お前は一発も援護をしておらぬ。そこで有りと有らゆる可能性を考えた」妖木妃はここまで言うと、不敵に目を細めた。「絶対防御の髪飾りを攻撃できる唯一の武器……ゲイの弓。やはり、嫦娥より授かっておったな。だから、あえて隙を作り、矢を射らせたのじゃ」
「く……くそ、もう一度……」焦る凛は再び弦に指を掛けた。「あ……!?」だが、その弦にはまるで手応えが無い。最初に危惧していたとおり、弦はぷっつりと途切れてしまっていた。
「古き時代から、幾千もの戦いを経てきたゲイの弓。とうに寿命は過ぎておる。一発放てただけでも、奇跡みたいなもの。だが、それももう……終わりじゃ」
 恐れる物が無くなった妖木妃。その表情は滅多に見ることができないほどの、歓喜の笑みに溢れている。
 それを悟ってか、凛もその場にガックリと膝をついた。


 その頃、百を超える数の妖怪たちの足止めをしていた風花とシュナ。だが、さすがに妖力も尽き始め、それによる吹雪の力も、大きく下がっていた。そして、それを見計らったかのように、再び中国の雪女、雪妖が姿を見せる。ここでもすぐにシュナが牽制の炎の渦を放った。
 だが、今度は先程と異なる展開を見せた!なんと、その炎の渦を一本の槍で受け止め、それどころかその炎を吸収してしまった者がいた。
「な…なんだ、あいつは!?」驚く風花とシュナ。
 そんな風花とシュナをあざ笑うかのように、不敵な笑みを浮かべるその男。いや……男というより、少年というべき年頃だ。オカッパ頭で赤みを帯びた肌。つり上がった目に燃えるような赤い瞳。手には、先ほどシュナの炎の渦を受け止めた、長さ約六メートルはあろうかという長い槍を持っている。
 彼の名は、紅孩児。かの昔、天竺へ旅する玄奘三蔵とその一行を苦しめた、牛魔王とその妻、羅刹女の間に生まれた子。彼もまた、三蔵の一番弟子、斉天大聖孫悟空を退けたことのある実力者である。

妖魔狩人若三毛凛if第20話01

「アンタが西洋で有名な、炎の代名詞とも言われる精霊、サラマンダーか? 一度その力を見てみてぇーと思っていたが、噂ほど大したことねぇーんだな?」紅孩児はそう言って、己の実力を誇示するかのように、長い槍をグルグルと回転させた。
 逆に牽制とはいえ、自分の得意技であるフランメヴィアベル(炎の渦)をいとも簡単に防がれ、シュナは自信喪失のようにガタガタと震えている。
 吹雪の力も弱まり、シュナの牽制も通用しなくなったと知ると、今まで鳴りを潜めていた他の妖怪たちは、二人を取り囲むように動き出した。
 青ざめる風花。その風花の顎をしゃくるように持ち上げ、嫌らしい笑みを浮かべる一匹の妖怪。
(もう……ダメだな)いつも、割りと軽く考える風花だが、さすがにこの状況ではどうにもならないことを悟った。全てを諦め、為すがままになろうとした、その時!
「ギャァァァァつ!!」「グワッ!!」二人を取り囲んだ先の方から、妖怪の悲鳴らしき声が聞こえた。それだけでなく、悲鳴に紛れて打撃音や斬撃音のような衝撃音も聞こえる。そしてそれらは、少しずつ広がり近寄ってくるのがわかる。
「なんだ? 何が起こっている?」風花の顎をしゃくっていた妖怪も、何事かと辺りを見回し始める。すると、バギッッ!! 鈍い音と共に、その顔面に何かが落下してきた。それは細く長い脚。無論、脚だけでなく、それに応じた胴も頭も付いている。
 落下物はそのまま綺麗に着地すると、間髪入れず、その長い脚を振り回し、先ほどの妖怪の延髄目掛けて、回し蹴り! 再び鈍い音が鳴り響き、妖怪は数メートル先まで吹っ飛んで、そのまま起き上がることはなかった。
 落下物。それはそういう状況下だったので、そう表現したまでで、当然『物』ではなく、人間によく似た姿をしていた。琉奈や祢々に負けない程の長身で、ただ二人より更に『長く』『細い』手足を持つモデル体型。面立ちも細く、ひと目で女性だとわかる。
 更に鋭角的なボブヘアー(オカッパ)で、前髪のすぐ下には、細く鋭い眼差し。そして、それに見合った細い眼鏡を着用。服装は白いブラウスにブルーデニム。白いスニーカーにソックス。そして、なぜかはわからぬが、紺色の家庭用エプロンを纏っている。
「あんたは……!?」突如目の前に現れ、眼前の敵を蹴り倒した女性に、風花は唖然としたまま問いかけた。
「初めまして、雪女郎さん。私は、人間の世界では『片節』という名で通している者。勘の良い貴女ならお気づきでしょうが、ガラッパという種族の水棲妖怪です」こう答えたこの女性に、別の妖怪が鋭い爪を振りかざして襲い掛かる。だが、片節は一向に慌てず、軽くのけ反ることで攻撃を回避。そしてその反動を生かし、体重を乗せた肘鉄を妖怪の顔面にブチ喰らわせた。フラフラとよろめく妖怪に、長い脚に遠心力を加えた強烈な廻し蹴り。こいつも先ほど同様、数メートルほど吹っ飛び、そのまま気絶してしまった。
 よく見ると、片節は両手に二十~三十センチメートル程の木製の棒のような物を隠し持っている。「それは?」風花の問いに片節は目をキラリと輝かせ、「トンファー。琉球から伝わる、格闘術用の武器です」と答えた。なるほど、先ほどのはただの肘鉄ではなく、この武器の硬度をも加えた威力か。風花は深く納得した。
 そもそもガラッパとは、鹿児島県薩摩に生息する河童に似た水棲妖怪。大きな特徴として手足が長く、どうやらこの片節は、その特徴を生かした打撃系格闘術を身につけているようだ。

妖魔狩人若三毛凛if第20話02

 次々に襲い来る妖怪たちを、トンファーや拳。そして強烈な蹴りで撃退している。身のこなし、そして見るからに知的で、その美しい容姿。誰が見ても『できる女』と言わざる得ないだろう。もっとも風花は、腰に巻かれたエプロンの紐が縦結びになっていること。履いている靴下が左右別々の物であることなど、『隠れたポンコツっぷり』を見抜いてしまったが。
「救援に来たのは、私だけではありませんよ!」戦いながら、片節はそう付けくわえた。見ると、さらに五十人は超えているだろうと思われる軍勢が、雄たけびを上げながら駆け寄ってくる。ガラッパのような水棲妖怪もいれば、烏天狗、唐傘、ぬりカベや一反木綿など、名高い妖怪たちの姿も見える。
「銀髪の頭領が、日本中を駆け巡って声をかけたんですよ」
「銀髪の頭領……?」
「ええ、貴女も戦ったことがあるでしょう? 禰々子河童の祢々さんを……」
 風花はその言葉で思い出した。たしかにマニトウスワイヤーの時、青い妖魔狩人こと棚機瀬織や禰々子河童と戦ったことを。
 ここしばらくの間、祢々の姿が見えず、地元へ戻っていると聞いてはいたが、実は彼女は、地元関東から東日本。そして戻りながら西日本の妖怪たちに、今日に備えて声掛けを行っていたのだ。そして、水無月家のフェリーにその妖怪たちを引き連れて、本日丘福港に到着したのだ。「あのセコとか言う子ども妖怪が、瀬織津姫に囁いていた朗報とは、このことだったんだ!」風花の表情に、活き活きとした赤みが戻ってきた。

「まさか、日本の妖怪たちが集結するとはね」日中両国の妖怪たちが入り乱れて戦う状況を見て、雪妖は呆れたようにため息をついた。
「いいじゃねぇーか!」そう返したのは、紅孩児。長い槍を肩に担ぎ「おかげで俺は、一度心ゆくまで戦ってみたいと思っていた相手と、ゆっくりやり合えそうだ」とシュナに視線を向けた。
 その言葉に、シュナは震えながらも紅孩児を睨み、槍を構える。
「へぇ、さすがは炎の精霊。体はビビッても、気持ちだけは負けねぇーってとこか? まぁ、いい。さっき、アンタの技を見せて貰ったからな。一応、俺の技も見せておくか!?」紅孩児はそう言うと、大きく胸を膨らませ、「ふぅ~~~っ!!」と勢い良く息を吹きかける。いや、ただの息ではない、それは火炎の息。一気に森の木々が激しい炎に飲み込まれた。
「わ…私の炎より・・・熱量が・・高い・・・!?」その光景を見て、思わず一歩身を引いてしまったシュナ。
「こう見えても俺は、三昧真火という火炎に特化した術を極めている。数百年前から、炎の精霊と呼ばれるサラマンダーと、どちらの炎の技が上か? 勝負してぇーと思っていた。もちろん受けてくれるよな?」
 明らかに自分より高い熱量の炎を操る紅孩児。それを見たシュナの心は、勝てる気持ちがまったく無かった。でも炎の勝負を挑まれて戦わずに逃げる。それはサラマンダーという種族において、許されることではない。たとえ負けるとわかっていても・・・だ。「受ける・・・」ただ一言、シュナはそう答えた。その答えに、紅孩児はニヤリと笑みを浮かべる。
「だったらその勝負、あたしも混ざっていい?」今までそのやり取りを黙って見ていた風花が、見計らったように割って入る。
「炎の使い手同士の戦いだぜ。雪妖怪が混ざってどうするんだ?」呆れたように言い返す、紅孩児。
「だからさ、こっちはあたしとシュナ。そっちはアンタと、そこで小馬鹿にしたように見ている、あたしと同じ雪妖怪とのタッグ戦っていうのは、どお……?」風花の視線の先には、冷ややかな目でこちらを見ている雪妖の姿が。
「こんな小さな島国の、レベルの低い雪女郎とかいう妖怪が、妖怪の本場……中国出身の、この雪妖を相手に勝負を挑むっていうの? ふっ、頭がおかしいのかしら?」冷ややかな目が、更に細く冷たくなる。
「受けるの? 受けないの?」強気で押す風花。
「いいわ、受けて立ちましょう。いいわね、紅孩児?」
「ああ、俺はサラマンダーと勝負できるなら、それで構わないぜ!」
 雪妖も紅孩児も、自信満々の表情で答えた。
「風花……? こんなことに・・・なって、大丈夫・・なの?」逆に心細さが態度に出ているシュナは、風花にそう問いかける。
「大丈夫!って言いたいけどさ、ぶっちゃけ……あたしもシュナも、術そのもののマトモな勝負では、アイツらには勝てないと思うんだ?」「うん・・・」「だったら、マトモじゃない勝負に持っていくしか、あたしたちには勝ち目がない!」風花はキッパリと、そう言い切る。それに対しシュナは、何も言い返せず頷くしかなかった。
 二百人近くの妖怪軍勢が争いあう戦場から少し離れた平地へ、風花、シュナ、雪妖、紅孩児の四人は、戦いの場所を移した。


「な…なによ、こいつ!? 凄くキモイんですけどぉ!!」
 空を飛ぶ妖怪たちを引きつける役目を負っていた琉奈と涼果。そして、その誘いに乗ってきたのが、飛虎人とカコクという二匹の妖怪。順調に柚子神社上空から引き離していたと思っていた矢先、その二匹の背後に現れた一匹、いや一羽の妖怪。
 見た目のイメージでは、翼長三メートル以上の巨大なミミズクによく似た鳥だと思えばいい。だが、大きな違いは、一つの身体に九つの頭部を持っていることである。正確には、元々十個あった頭部のうち、一つは千切られたように失っており、残り九つの頭部を持っていると言った方がいいだろう。
 コイツは二匹の背後に現れた瞬間、九つの口から赤い粘液状の物質を吐き出した。その粘液を浴びた二匹から白い球型の気体らしきものが飛び出すと、それを二つの口で一気に飲み込む。同時に二匹の妖怪は、まるで大穴の開いた気球のように、真っ逆さまに落下していった。
 それを見届けると、十八の目は次はお前たちの番だと言わんばかりに、琉奈と涼香を睨みつけた。
「妖怪鬼車(きしゃ)……別名、九頭鳥。中国でも上位に入る、危険な妖怪だよ」琉奈の問いに、涼香は淡々と答え始めた。「アイツの恐ろしいところは、さっき見た赤い粘液っぽいもの。アレを浴びると身体から魂が抜け出てしまうの。アイツはその魂を捕食するわ」
「とんでもない化け物だな……! てか、涼香、なんでそんなことを知っているんだ!?」
「これを言うと琉奈から気味悪がられると思って今まで黙っていたんだけど、アタシね……妖鳥姑獲鳥の記憶が、少しだけ残っているの」
「記憶……が?」
「うん。だから、あの鬼車のことも覚えているんだ。しかも、人間の赤ん坊を育てる姑獲鳥と、人間の魂を捕食する鬼車。完全に正反対の二羽でしょ? 相当、仲が悪かったみたい」
「マジ……!?」
「おそらく、アイツの狙いは姑獲鳥が転生したアタシ。……なので、琉奈。アタシだけ地上に降ろして。そうすればアイツはあなたを襲わない」
 いつもは弱気な面が多い涼香だが、睨みつけてくる鬼車に対し、ここだけは譲れないという強い気迫を込めた視線を返している。それを見た琉奈は軽く、それでいてどことなく優しいため息をつくと、「さっきも言ったろう? 涼香の敵は、私の敵……だって! それに姑獲鳥の能力を殆ど失い、空も飛べない状態じゃ、負け戦もいいところだ!」と言い返した。
「琉奈……?」
「私が涼香の翼になるよ! だから、一緒に戦おう!!」

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