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自己満足の果てに・・・

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 BadEnd~妖魔狩人編~」

 □前回のあらすじ□


 妖木妃との直接決戦において、たった一つの凛の判断ミス。
 これにより、凛はもとより他の三人の妖魔狩人も、為す術もなく倒されてしまった。



「そこのお前。すぐに白陰のところへ行き、大至急、料理のできる妖怪にここへ来るように伝えよ」
 妖木妃に、そう命じられた花の妖怪……女夷。元々たいした戦闘力もなく、争いごとを好まない妖怪ではあるが、同じ植物系妖怪の誼み(よしみ)である妖木妃に逆らえず、こうして日本までやってきてしまった次第である。もっとも妖木妃にとっての女夷は、ただの雑魚部下その一であり、顔と名前の一致すらしていないだろうが。
 命じられたまま白陰の元へ行くと、指示に納得した白陰は調理のできる妖怪たちを選りすぐる。なんといっても妖木妃が直々に食する料理だ。不備があってはならない。
 料理の知識、腕前、様々なテストを重ね、ついに彼は四人の候補者を選出した。
「で、これがお前が選んだ調理のできる妖怪たちか?」妖木妃は、眼前に並ぶ四人の妖怪たちを見渡し、その脇にいる白陰にそう尋ねた。それに対し、「はい」と頷く白陰。
「よかろう、着いて参れ。お前たちが腕を振るう材料は、すぐそこにある」
 妖木妃はそう言うと、自ら先頭に立ち、白陰と四人の調理師妖怪を引き連れ、拝殿の扉を開けた。
 拝殿の中で横たわる四つの人影。それは、凛、優里、千佳、瀬織の姿であった。
「そやつらは気を失っているだけで、まだ死んではおらぬ新鮮な材料じゃ。そこで、お前らの役目じゃが、各々一体ずつ持ち帰り、それぞれ得意とする調理を施し、誰の料理が一番美味いか!?料理対決をしてもらうことにする」
「おおお……」
「ただし、一つだけ条件がある。素材は全てペチャンコ、つまり押し潰してから調理すること。ワシもこう見えていい歳だ。一度押し潰して柔らかくなった料理が、今では好みじゃ。その後は、和洋中一切問わぬ。期限は三日後の正午。いいな!? 自慢の腕を奮った見事な料理をこさえてみよ」
 妖木妃の言葉を聞き、四人の妖怪は凛たちのもとに集まり、それぞれ品定めを始めた。直接肌に触れ、匂いを嗅ぎ、後が残らぬように軽く舌で触れ、味覚を確かめる者もいた。
 すると、一人の白く小柄な妖怪が納得したように立ち上がると、凛を指差し妖木妃と白陰の了承を求めた。無言で頷く両者。それを確かめると、そいつは凛の身体を抱え上げ、静かにその場を立ち去っていった。
 残る三人の妖怪は、優里の身体をジッと見つめている。どうやら三人とも、自分の料理の材料には優里が相応しいと決めたようだ。
 特に二人の妖怪。一人は真夏だというのに黒いコートを羽織い、コート以外も全身黒尽くめの出で立ちに、背中に二本の巨大包丁をX字に背負っている。もう一人は子どもと変わらぬほどの小柄で、まるでマカロンのような頭部で、しかも二頭身の身体つき。この二人は互いに睨み合ったまま、一歩も引きそうにない気配を見せていた。
 そんな二人を「やれやれ……」といった雰囲気で見つめていた、無表情な白い面を被った残る一人の妖怪。彼は何も言わず二~三歩進みと、なんと、千佳の身体を指差した。「赤い妖魔狩人でいいのか?」白陰の問いに白い面の妖怪はコクリと頷き、そのまま千佳の身体を担ぎ上げ無言で去っていった。
 あとは、黒尽くめと二頭身の二人の妖怪。どちらも高い戦闘力の持ち主のようで、睨み合うだけで、地鳴りが起きそうな気配がしている。そんな二人を見兼ねたように妖木妃が声を掛けた。
「欲しいものは力尽くで奪え。いつものワシならそう言うであろうが、今はあえてこう言おう。時間が惜しい、争わずに決めるがよい」
 その言葉に二人は渋々頷くが、とは言ってもどのようにして決めろと?と言いたげな表情である。そこに白陰が間に入った。「仕方ない、ここは日本。日本流の平和な決着法……『ジャンケン』で決めるとしよう」
「ジャンケン……ポン!」白陰の掛け声で二人とも握りこぶしを出す。「アイコで……ショッ!」「アイコで……ショ!」と二~三回アイコが続き、最後に二本指と握りこぶし。
 小さなガッツポーズを決めたのは、小柄な二頭身妖怪。彼は嬉しそうに優里の脇に立つと、驚いたことに身体の半分を占める頭が、更に膨らむように大きくなっていった。そしてガマ口のような大きな口を広げ、パクリと優里の身体を咥え込んだ。本当はそのまま丸呑みしたいのだが、そこは我慢。優里を咥えたまま、その場を立ち去っていった。
 最後に残された黒尽くめの妖怪。仕方ない……といった表情で、瀬織を担ぎ上げると、そのまま霧のように去っていった。


 そして三日後の正午。拝殿脇に並べられた長テーブル。白いクロスで覆われており、上座に腰掛けているのは、当然……妖木妃。妖木妃から向かって右側には、白陰。左側にはムッシュが腰掛けている。
 司会進行役は、なぜか花の妖怪である女夷。マイクを持つその手は、ガタガタと震えている。
「わ・わ・わ・私の……記憶が確かならば……、こ・こ・今回……揃えられた材料、そ…そして……それを料理した対決というのは、し・し・神話……の世界、まだ……多くの神族が……、地上を支配していた……ときまで、遡らなければ……いけないはずです……」
 震えたマイクに震えた声。そして、震える手で読み上げる数枚のメモ紙。
「何を言っておるのじゃ? あの娘は……?」
「ムッシュであろう? あんな物を読ませたのは!?」と白陰がムッシュに睨みを利かす。
「うむ、やはり料理対決となれば、こうでなくてはならんと思いましてな!」当のムッシュは悪びれもせず、自慢のカイゼル髭をピンと伸ばし、楽しそうにニカッ!と笑った。
 そんな楽しそうなムッシュとは裏腹に、今にも卒倒しそうなくらいオロオロしっぱなしの女夷。震えながら更に進行していく。
「い・い・い・今こそ……よ・よ・よ・甦れ・れ・れ……、伝説の……て・て・鉄人……、も…もとい、鉄の妖怪……。ア・ア・ア・アイアン……イ~~~ビル~~~ッ!!」
 それが合図となったのか、拝殿前の参道を大量の白煙(ドライアイス?)が、覆い尽くす。そして、その白煙の中から四人の影が姿を現した。

妖魔狩人若三毛凛if第20話B01

「こんな臭い演出、やる必要があるのか?」さすがの妖木妃も苦笑い。
「ま……まずは、一人目。世界を股にかけて食べ歩く、流れの料理人……! 某特務機関超能力支援研究局(通称バ◯ル)所属のレベル7テレポーターから、『りゅりょりゅにゅ‥‥ごめん、噛んでしもた!』とまで言わさせた、変態妖怪……るりょけん!!」
 最初の紹介で登場したのは、真っ先に凛を担いで去っていった妖怪。真っ白な毛に覆われた、丸々とした流線形。つまりアザラシの姿をした、強いのか?弱いのか?まるで見当のつかない。こいつは妖木妃に手を振りながら、調理台の前についた。
「あんなの、ワシの部下におったか?」怪訝そうな眼で眺める妖木妃。
「つ…つ……続きまして、調理の腕も然ることながら、ダンジョン探索が三度の飯より大好き! 別名黒き料理師、ビーター妖怪……霧斗!!」
 現れたのは、あのコートを含めた頭の先から足の先まで全身黒尽くめの妖怪。その素顔はまだ十代少年の面影を残し、今風のイケメン顔であった。霧斗は礼儀正しく妖木妃に一礼すると、次の調理台の前についた。
「ビーター妖怪? 噂では聞いたことがある。なんでも神獣と互角に戦えるとか。そうか、コヤツのことであったか!」妖木妃はそう言って、ニヤリと微笑む。
「つ・つ・次は……、絵の前にいるのは、すべてオレの餌!人も獣も、その気になれば鯨でさえ一呑み! ま・ま・丸呑み妖怪……呑雌鬼(どんしおに)!!」
 この紹介で現れたのは、マカロンのような頭の小柄な二頭身妖怪。呑雌鬼は妖木妃の前を通る際、大きな口で歯を剥きだしたままニカッ!と笑って、調理台についた。
「あーっ、知っているぞ……コイツ! たしかに以前インドで、象を一頭丸呑みしていたのを、見たことがある!!」白陰が思い出したように、指を指した。
「さ・最後は……、料理も獣化も状態変化も、そして固めでも全てお手の物!いつの間にか一味に加わっている謎の仮面妖怪……ミスターW⊥(ヴァイテ)!!」
 シルクハットに黒いマント。千佳を連れ去った時以上にお洒落な出で立ちで現れたのは、真っ白の無表情な面を付けた男。妖木妃に軽く会釈すると、静かに調理台についた。
「ほぉ!なんとなくですが、コヤツからはアジアではなく、我輩の好きな欧州の匂いがしますな!」ムッシュの嬉しそうな声。
「ほ・ほ・本日……、以上四名が……腕を振るった料理を、ひ・ひ・披露……致します!! し・し・し・審査員の皆様方、公平な審査、よろしくお願いいたします……!!」
 女夷の言葉に再び四人が、妖木妃たちに向かって会釈した。
「し…進行は引き続き……私、女夷がさせていただきます……。な・なお……、調理された妖怪の方々の中には、人前でお話をされるのを苦手としていらっしゃる方もおられるようなので、料理の説明なども全て、私がさせていただきます……。では、最初は……るりょけん氏から……」
 女夷はそう言うと参道に向かって振り返り、そこで待機している数名の妖怪たちに合図を送った。
 すると、二~三人の妖怪たちが、手押しワゴンを運んでくる。ワゴンの上には、人ひとり横たわれそうな大きさの銀の角皿が乗っていた。ワゴンは妖怪るりょけんの調理台の前に止まると、角皿が調理台へ移された。皿には蓋が掛けてあるので、まだ中身はわからない。
 妖怪たちの手によって、蓋が取り払われる。
「おおっ!?」妖木妃、白陰、ムッシュ、そして周りで見ている大勢の妖怪たちの、驚きの声があがった。
 角皿に寝かせるように乗せられているもの。それは、横に厚さ5ミリメートル程まで薄く押し潰された、若三毛凛の姿であった。
「ほぅ、一番目から黒い妖魔狩人の料理か!?」少し意外だったような口調の妖木妃。
「見たところ、たしかにペチャンコにはなっているが、それ以外……何も調理されていない、まるっきり生(なま)のように見受けられるが……?」
 白陰の言うとおり、角皿に乗っている凛は戦闘服を着たまま綺麗に押し潰されているが、それ以外は生きていても不思議ではないほど無傷な状態であり、どう見ても手を加えられた様には見えない。
「いや、アレは結構……良い仕事をしているようですぞ!」だが、ムッシュだけは何かを見抜いたようにそう呟いた。それを耳にした妖怪るりょけん。わかってくれたか!と言わんばかりに、ニヤリと微笑んだ。
 るりょけんは刺身包丁を手に取ると、凛の左足の脛の部分を、一口大の大きさに三~四つほど切り分けた。そしてソレを一枚ずつ小皿に乗せると、助手の妖怪に長テーブルまで運ぶように指示を出した。
 命じられたまま、小皿を妖木妃、白陰、ムッシュの前に置く。
「まずは、一口……味見をしてみろ、ということですかな?」ムッシュはそう言うと、箸で切り身を摘むと、そのまま口まで運んだ。妖木妃、白陰も後に続く。
 モグ……モグ……モグ……
「ほぅ!」「おおっ!」「うむ、悪くない!」それぞれから笑みが溢れる。
「え・・え……っと、説明させて頂きますと、それは『黒い妖魔狩人の一夜干し』だそうです……」女夷がるりょけんの言葉を、改めてマイクを通して語りだした。
「まずは、黒い妖魔狩人を重さ五百キログラムの鉄の重石で押し潰します。程よく均等に押し潰されたのを確認したら、今度は黄金のロールプレス機で圧延いたします」
「ロールプレス機……?あの、回転するローラーを使った機械か? わざわざそんなもので……?」
「ロールプレス機を使った理由は、より薄く……そして、より均等にしたかったこともありますが、一番重要なのは、コレを手に入れるため!……だそうです」女夷がそう説明すると、るりょけんは容量1リットル程のガラス製の瓶を、高々と上げた。瓶の中には、半透明の黄色染みたトロリとした液体が入っている。
「瓶の中身は、黒い妖魔狩人の汗や分泌液、そして尿などが程良く混ざり合った純粋な体液です。ロールプレス機の利点は、このように身体の隅々から体液を絞り取ることができるのです!」
「なるほど、一昔前の洗濯機に付いていたローラーと同じですな!」
「ペラペラになった身体を風通しのよい日陰で干しながら、その体液を何度も塗り続け、味を染み込ませるそうです!」
「なるほど!本来ならば、土臭くて味気ない十代前半のガキなのに、それによって適度な塩分や酸味によってほのかな甘味が引き出され、この美味さになっているのか!?」
 さすがの妖木妃も口元が緩まずにはいられない。
「えっと……、それで驚いてもらっては困る。本番はこれからだと、るりょけん氏は申しております!!」
「なんだと、この料理で終わりじゃないのか!?」
 女夷の言葉に、誰もが再び調理台に注目した。皆の注目の中、妖怪るりょけんは助手の妖怪に指示を送る。しばらくすると二~三人の妖怪たちが、高さ50センチメートル直径1.5メートル程の円筒のような物を運んできた。
「七輪か!?」白陰の言葉の通り、それは通常より大きめの七輪。中には赤々と燻っている炭が積み込まれてあり、充分熱せられた、金網が乗せてある。
 るりょけんは炭火の状態を確認すると、ペラペラと風になびく凛の身体を、金網の上に静かに乗せた。
 パチッ…パチッ…と炭が弾ける音と共に、香ばしい匂いが漂いだした。ピラピラに伸びきった凛の身体が、熱を帯びてくるとジリジリと僅かながら縮みだす。そして、頃合いを見て裏表ひっくり返す。今まで火に炙られていた面が、少しだけ狐色に焼き目が付いていた。

妖魔狩人若三毛凛if第20話B02

 更にいい匂いが漂い出した頃、るりょけんは凛の身体を引き上げ、調理台の皿の上に乗せ直した。
「えっと……、ここで大事なのは、決して焼き過ぎないことだそうです。全体を軽く炙るだけで、適度に温まる程度に火が通るのが、一番良いとのことです」
 女夷の解説に、妖怪るりょけんは大きく頷いた。そして、先程と同じように一口大の大きさに切り分けていく。
 妖木妃たちの元へ運ばれた切り身の他に、今度は小皿に入った濃い橙色の液体が、一緒に配られた。
「炙った切り身を、その皿のタレに付けて食べて欲しいそうです!」
 言われた通りに切り身にタレをつけ、口へ運ぶ。
「おおっ!なんとっ!!?」「こ…これは凄いっ!」「うむ、悪くないどころか、これは絶品ですな!!」先程以上の歓喜の声を上げ、目を丸くし、嬉々とした表情の妖木妃たち。
「温めたことで切り身の甘みが遥かに増し、更に焼き目の香ばしさが食欲を倍増させる。そして……問題は、このタレだっ!?」
 誰もが同様に口走る問いに、るりょけんはボソボゾと女夷に返答を命じる。
「そのタレは先程の体液をベースにし、酒とみりんで味を整え、紅葉おろしを加えたものだそうです!」
「なるほど! 同じ黒い妖魔狩人の体液ですか!?だから違和感無く切り身と調和するのですな。そして紅葉おろしの辛味が、さらに切り身の甘みを引き出す!! 見事な仕事ですぞ!」
 さすがのムッシュも、まるで感服したかのように満面の笑みを浮かべ、自身の髭を弄くっている。
「素晴らしい。できることなら、この干物の太腿の部分を味わってみたいが……」
 妖木妃がそう呟くのを見計らったように、もう一品の皿が前に差し出された。「もしや?」妖木妃は調理台にいる妖怪るりょけんをみると、彼は腿の部分を切り取った干物をチラリと見せた。
「一番軟らかく、一番素材の味が確かな、内腿の部分だそうです」助手妖怪が、さり気なく付け加えた。
 出された内腿の切り身にタレをつけ、口へ運ぶ。
「ぉぉぉぉぉぉぉ………」妖木妃は、もはや言葉を忘れそうになった。爽やかな甘みと塩っぱさと、癖のある酸味が奏でる見事なハーモニー。それは至高と呼ぶに相応しい、旨味の世界であった。

「で…では、次の方に進みます! 次は人間退治だけでなく、神獣まで成敗する最強の妖怪剣士、霧斗氏です!」
 女夷の掛け声が終わると、またも手押しワゴンが運ばれ、霧斗の調理台の前に止まった。ワゴンの上にはトラックのタイヤを重ねたような、大きな蒸籠が乗っている。
「今度は、蒸し料理か?」思わず問いかける白陰に「いや、蒸気が吹き出していないところを見ると、蒸籠はただの演出上の飾りでしょうな!」とムッシュが答えた。
 数人が蒸籠を調理台の上に乗せると、ニヤリと微笑む霧斗が、勢いよく蓋を取り外した。
 眼に飛び込んで来たのは、鮮やかなピンク……いや、桜色と、清々しい緑色! それは桜色の丸まった物体を、大きな緑色の葉で包んだものであった。
「柏……もち……?」そう呟く白陰。「いや、あの葉は柏では無い。アレは桜の葉……」自身が植物系妖怪であるため、植物に詳しい妖木妃がそう返した。
「そ……そ、そうです! 霧斗氏の作られた料理は、妖怪桜の葉で包んだ、『青い妖魔狩人(棚機瀬織)の桜餅』です!!」
「おおおっ!!」女夷の説明に、多くの妖怪たちから歓声が上がる。
 たしかに言われてみると、大きな桜の葉のすぐ下には、厚さ1~2センチ程の平たい餅のような物が二つ折りにされ、その間には見るからに甘そうなこし餡が収まっている。
「では、あの桜色の平たい餅が、青い妖魔狩人なのか!?」「そのようですな、良くご覧になるといい。餅の端にグルグルと眼を回した青い妖魔狩人の顔が見える」
 そのような会話が進む中、霧斗は背中に背負った大きな包丁を一本抜き取ると、鮮やかな太刀筋で、桜餅を数十等分に切り分けた。そのうちの三切れを皿に取り分けると、助手妖怪に妖木妃たちのテーブルに運ばせた。
 テーブルに並ばれた桜餅の切り身。ほのかな桜色と微かな桜の葉の香りが、食欲を誘う。
「ほぅ。たしかによく見ると、餅のように見えるが、間違いなくペチャンコになった小娘じゃ。しかも生ではなく、焼き目が入っておるな!」
 妖木妃はそう呟くと、黒文字(和菓子用の楊枝)で更に小さく切り分け、口へ運んだ。
 口へ入れた途端、桜の花の甘い香りが口内に広がる。柔らかくなった餅を歯茎や舌で噛み潰していくと、コクのある甘さのこし餡が溶けるように流れ出る。
「うむ、これは見事じゃ!」思わず妖木妃が唸った。
「さ……さて、ここでこの桜餅の調理方法を説明いたします!!」女夷が自身に注目を向けるように金切り声を上げた。
「さ・最初にお話したとおり、この料理のメイン食材は、青い妖魔狩人です! まず捉えた青い妖魔狩人に、十年ほど寝かせた『さくらんぼ酒』を飲ませます。未成年でアルコールに弱い青い妖魔狩人はすぐに酔いが回り、眼を回してひっくり返りました。」
「なるほど。頬も含め、全身が桜色なのは酔っ払ったせいか!」
「更に、グデグデになった青い妖魔狩人を、これまた桜の木で作った大きな枠の中に寝かしつけ、全身が浸るまで『さくらんぼ酒』を注ぎ込みます。そして、その身体におよそ200キログラム程の重しを乗せ、ゆっくりとジワジワ押し潰していき、そのまま丸一日置いておきます。そうすることによって、さくらんぼ酒がじっくりと、身体に染みこまれていくわけです」
「元々青い妖魔狩人は色白だったから、だからここまで綺麗な桜色に仕上がったわけだ!!」
「後は、ペチャンコになった身体を吊るし干しにして、余分なアルコールを抜いていきます。そして再び麺棒で厚さ1~2センチほどまで押し伸ばしたあと、鉄板の上で軽く両面を焼き上げ、焼き目と香ばしい香りを付けます」
「見た目は若いが、見事に和菓子の調理法を身につけているな!」
「最後に身体の中心にこし餡を乗せ二つ折りにし、そのまま妖怪桜の葉で包んで完成です!!」

妖魔狩人若三毛凛if第20話B03

 女夷が説明を終えると、盛大な拍手が霧斗へ送られた。大げさに騒ぐわけでなく、回りに軽く会釈をし、拍手に答える霧斗。
「だが、それだけではあるまい!?」そんな歓声を遮るように、妖木妃が一喝した。
「この美味さ、それだけではあるまい。おそらくその秘密は……餡! そう、餡にあると思えるのだが!?」
 そんな妖木妃を後押しするように、ムッシュが更に付け加えてきた。「妖木妃殿の仰るとおり、問題は餡ですな! 通常、和菓子の餡は、甘味を引き立てるために、隠し味に『塩』を一摘み入れると聞きます。ですが、この餡は甘味だけでなく……深い独特なコクのようなものも感じ取れる。おそらく隠し味に使ったのは、塩では無いのではないかと……?」
 妖木妃とムッシュの問いに、霧斗は不敵な笑みを浮かべた。それは剣士が最高の好敵手に出逢えたような、そんな含みを込めた笑みだ。
「さすがは、おふた方……。と霧斗氏は申しております」女夷がそう述べると、更に霧斗が女夷に耳打ちをする。
「たしかに隠し味に塩は使用せず、ある特別な物を使ったそうです。その、ある特別な物とは……『青い妖魔狩人が身に着けていた下着』!!」
「し……下着……だと?」白陰が驚きの声を漏らす。
『身に着けていたパンツやブラなどの下着を寸胴鍋に入れ、たっぷりの水を注ぎます。それを火に掛け、八割以上の水が蒸発するまで存分に煮込みます。すると僅かに残った湯は、下着のエキスと旨味が凝縮された、味の濃いダシ汁になっているというわけです!」
「おおおっ!!?」
「そのダシ汁を十分に冷ましたあと餡に注ぎ込み、しっかりと練り上げるんだそうです!」
「なるほど! 下着に染み込んだ『汗』が塩分の役目になり、同様に染み込んでいる他の匂いや分泌物が、あの独特のコクになったというわけですな!」
 そう言いながら、感心のあまり何度も納得したように頷くムッシュ。
「うむ、文句ない! 見事じゃ……霧斗よ!」妖木妃も讃美の言葉を述べた。

「では、では……、次の方に参ります。次は人間を丸呑みすること数百年!丸呑み世界一を誇る、妖怪……呑雌鬼氏です!」
 紹介の後は、今まで通りワゴンが運ばれる。ワゴンの上には大きな丸皿が乗っており、中身を隠すように、半径50センチ程のドームカバーで蓋をしてある。今度は調理台に移す前に、呑雌鬼がドームカバーを外し、中身を披露した。
 そこには、縦20センチ・横40センチ・厚さ5センチほどの、まるでコピー用紙を数百枚ほど重ねたような、そんな白っぽい塊が置いてあった。
「なんだ……あれは!?」
 周りがどよめく中、呑雌鬼の大きな口が、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。そして、コピー用紙の一番上の紙をめくり上げるかのように、その白い塊の一番上の辺りを、ペラリとめくり上げた!
 な・な・な……なんと! めくり上げられた紙のような薄い物には、半開きの口に、グルグルと眼を回し、呆けた『優里』の顔があった!!
「な、なんだと……? もしかして、あの白い塊は白い妖魔狩人を折り畳んだ物なのか……!? だ・だが……あの薄さはなんだ!? どう見ても……紙よりも薄いぞ!?」あまりの驚きに、思わず立ち上がってしまった白陰!
 いや、白陰だけではない。周りにいる妖怪たち全てが、驚きを隠せなかった。
「え……えっと、皆さんが思っておられる通り、ここにあるのは、極限まで薄く伸ばしてから折り畳んだ、白い妖魔狩人だそうです!」
 女夷の解説が始まると、誰もが息を飲んだように静まりかえる。
「まず、捉えた白い妖魔狩人をうつ伏せに固定し、上部から『ランマ』を使って、押し潰すところから始めます」
「ランマって……!?」「ほ・ほれ……、道路工事なんかで、ダダダダダッ!!ってホッピングみたいに上下振動し、アスファルトを押し固める機械だよ!」「あ…あんなんでか!?」
「あくまでも適度に押し潰すのが目的なので、別にランマじゃなくてもいいそうですが、激しい振動で、正気を失ったようにヘロヘロに悶えていく妖魔狩人の姿が面白いので、あえてソレを使ったそうです!」と、周りの声に答えるように、女夷が説明に補填をした。
「厚さ数センチメートルまで押し潰したら、それを大きな金パットに入れ、切り刻んだパイナップルと一緒に一晩漬け込みます。そうすることで、肉が更に柔らかくなるそうです!
 翌日、のし台の上に妖魔狩人を平らに敷き、彼女の足元から麺棒を手前に巻きつけ、体重を乗せて転がしていきます。一通り転がしたあと麺棒から引き離し、再び足元から巻きつけ、また同じように押し転がしていきます」
「ふむふむ、うどんを打つのと同じ要領か!」
「ポイントは、生地同士が引っ付き合わないようにすることと、押し潰すことで中のエキスが外へ逃げないようにするために、特殊な和紙を間に挟んでおくことです。そうして、この作業を四~五十回ほど繰り返します!!」
「し……四~五十回だと!?」
「丁寧に時間を掛けて作業することで、このように裏面が透けて見えそうなくらい、すなわち……厚さ1/100ミリメートルまで薄く押し延ばすことができるのです!!」
「た……、たしかに、職人技だ……!?」改めてその薄さを見て、誰もが驚愕を隠せない。
「そして、薄く延びた生地を20センチごとに折り畳んでいきます。こうして仕込んだのが、今……目の前にあるコレ、白い妖魔狩人の『ミルフィーユ・カツ』です!」
「み…ミルフィーユ・カツ!?」
「今からコレにパン粉をまぶし、油で揚げて、仕上げに入ります」
 女夷の説明が終わると同時に、優里の身体は調理台の上へ運ばれた。台の上には金パットが置かれており、中にはたっぷりのパン粉が敷き詰められている。溶き卵とパン粉、交互に塗り固められていく優里。
 その傍らで、他の助手妖怪たちが大きなコンロを用意し、大鍋で大量の油を沸かしている。
 カツ(優里)の準備を終えると、呑雌鬼は自らの指を油に突っ込み、油温を確認する。「うむ!」そう頷くと、助手妖怪たちにカツを鍋に投じるように命じた。
ジュワァァァァァッ!! 油が弾けると同時に、香ばしい匂いが辺りに漂いだす。底に沈んでいたカツも、ゆっくりと浮き上がってきた。呑雌鬼は、それを菜箸で突きながら、時折ひっくり返し、満遍なく火を通していく。
 十数分経ち、油の弾け具合から頃合いを見定めると、呑雌鬼は大きなザーレン(油こし)で、カツを掬い上げた。そして調理台の上のまな板の上に乗せる。
 濛々と上がる湯気と、香ばしい匂いを放つ大きなカツ。呑雌鬼は大きな包丁を両手で握り、ザクッ!ザクッ!と均等に切り分けていく。
 そして、ついに妖木妃たちのテーブルに、切り分けられたカツが並べられた。溢れ出る肉汁と脂の甘い匂い。それだけで、ご飯三杯はいけそうなくらい、いい匂いだ。
「まずはソースも何も付けず、そのままガブリと齧り付いてください!」女夷の言葉に、カツを摘み、そのまま口へと運ぶ。
 ガブッ! 一噛み。たった一噛みで、口の中に大量の肉汁が崩壊したダムのように溢れだした。一気に肉の甘味が口の中に広がっていく。
「おおおっ!なんという……美味さだ!!」思わず歓喜の声を上げる白陰。
「いや、たしかに美味いが、驚くべきことはそれだけではありませんぞ!」と言葉をつけ加えるムッシュ。
「うむ、驚きべきことは、この肉の柔らかさだ!口内にちょっと圧力をかけるだけで、切れ目から解れるかのように、簡単に食いちぎれる!!」あの妖木妃ですら、喜びのあまり、冷静さを欠いている。
「美味しさの秘訣は、ミルフィーユ・カツとして仕上げたからです!」妖木妃たちの感想に対して答えるように、女夷が説明を始めた。
「ミルフィーユ。通常、洋菓子の名として知られていますが、その意味は『千枚の葉』。つまり、薄く仕上げた生地を葉に見立て、数多く重ね合わせることで、サクサクとしたその食感を楽しめるという、世界に名高い銘菓です」
「知らない者はいませんな!」
「ですが、カツにすると話はまた違ってきます。何しろ、肉を紙よりも薄く押し潰しているのですから、その柔らかさは赤子でも噛み切れるほど。そんな肉を重ね合わせているのです。その柔らかさ、食感は並の肉の比ではありません!!」
「たしかに、これは肉の柔らかさとか、歯ごたえとか、そんな次元を遥かに超えている!」
「そして、更にその重ねあわせた肉と肉の間に溜まった肉汁。噛み切ったあとはどうなるか……? それはもう、ご体験して頂いたとおりです!」
「ああ、ここまで肉汁が溢れだす肉なんて、今まで食べたことがない!」
 審査を務める妖木妃、白陰、ムッシュ。三人とも、もはや文句の付け所がないといった表情だ。それを見た呑雌鬼。だが、まだ何かあるように、不敵な笑みを浮かべた。それを裏付けるように女夷が説明を続ける。
「呑雌鬼氏は、更に追い打ちをかけてやる!と言っておられます」女夷がそう言うと、一人の妖怪が両手に何やら持って、呑雌鬼の前にやってきた。手にした物を受け取る呑雌鬼。
 それは、一足の白いショートブーツ。そう、優里が生前履いていた、戦闘用のショートブーツであった。
 呑雌鬼は、鍋を片付けたコンロの前に立つと、助手に火を付けさせた。炎を弱火に調整すると、手にしたブーツを逆さに持ち直し、つまり履き口を下に向け、その中を火で炙り始めた。
 しばらく炙り続け、ブーツの内部が熱くなったのを見計らうと、再び上下をひっくり返し、納得したように微笑んだ。
「奴は、一体……何をしているんだ!?」誰もが呑雌鬼の行動を疑った。
 呑雌鬼は調理台の上にブーツを並べると、燗につけた酒を、履き口から波々と中へ注ぎ込む。
「ブ……ブーツに酒を注ぐだと!? 狂っているのか、奴は!?」
 そんな驚きの声を他所に、その一足のブーツを妖木妃たちの元へ運ばせた。
「『ブーツ酒』です!試してみてください。と呑雌鬼氏は仰ってます」

妖魔狩人若三毛凛if第20話B04

 妖木妃とムッシュはそれぞれブーツを手にとり、口元へ運んだ。履き口から溢れる酒から、ハッキリと鼻に突く異臭が感じ取れる。「なるほど、そういうことですか!」ムッシュはそう呟くと、その酒を口の中に含んだ。眼を閉じ、全神経を口内に集中させ、その真意を確かめる。そして静かに飲み干すと、ニヤリと微笑んだ。
「妖木妃殿、何も言わず……騙されたと思って確かめてごらんなさい!」ムッシュは妖木妃にそう告げる。その言葉に妖木妃は、恐る恐るブーツの中の酒を口へ含んだ。
「な……なんと!?」打って変わったように、驚きとも喜びとも取れる顔をする妖木妃。そして今度は、一切の迷いなく、再び酒を口の中へ流し込んだ。
「お……、驚いた! こんなに美味い酒は、過去…数える程しか飲んだことがない!」
「面白いですな!酒の中に溶け込んだ、蒸せたような異臭。まさか、これがそんなに酒を美味くするとは!? この異臭は、白い妖魔狩人の足のアレですな!」ムッシュの言葉に呑雌鬼はコクリと頷いた。
「どんな美少女でも長時間ブーツを履いていれば、かなり足が蒸れるものです。当然、ブーツの中の臭いは相当なものでしょう。しかもソレは、熱することで更に臭気が強くなる」
「なるほど、ブーツの中を火で炙ったのは、その為か……!?」
「そんな鼻を突くような異臭ですが、日本酒と相性は抜群です。例えるなら、日本古来の食べ物『クサヤの干物』。アレなんか、酒の肴には最高ですよね。このブーツ酒は、炙ったクサヤを、熱燗にそのまま漬け込んだものと思っていただければ、理解しやすいでしょう!!」女夷は嬉々としながら、呑雌鬼の言葉を代弁していった。
「たしかにこれは、してやられたわ!」女夷の説明を聞きながら、妖木妃は、ただ、ただ、感心するだけであった。

「さぁ、ここまでは全く互角の勝負。トリ(最後)を務めるのは、正体不明の謎の仮面妖怪……、ミスターW⊥(ヴァイテ)~っ!!」女夷の紹介に、W⊥は軽く頭を下げる。
 ここで驚くべきことは、女夷はまったく噛んでおらず、いつの間にか滑舌良い進行ができるようになっていたことだ。もっとも、その事は誰も気づいていないが・・・。
 今まで通り、調理台の前に手押しワゴンが運ばれる。これもワゴンの上には大皿があり、中身を隠すようにドームカバーで蓋をされている。
 助手の妖怪たちが皿ごと調理台へ運ぼうとすると、ミスターW⊥はそれを拒み、妖木妃たちの長テーブルを指差した。どうやら、そのまま御膳に運べということらしい。
 大皿はそのまま長テーブルに置かれ、ドームカバーが取り外された。
「おおっ!?」思わず声を上げる妖木妃たち。
 皿の上には、丸々と膨れ上がり、香ばしい焼き目のついた、巨大なシューが乗っていた。
「こ…これは、もしかして……シュークリーム、なのか……?」目の前に置かれた物体を、不思議そうに眺める白陰。
「では、早速……料理の解説を始めさせていただきます!!」高々とした女夷の声が響き渡る。
「今、妖木妃様方の前にあるのは、お察しの通り……シュークリーム。題して……『赤い妖魔狩人の満腹シュークリーム!』です~っ!!」
「赤い妖魔狩人の……シュークリーム?」白陰の唖然とした声。
「そのようですな、よく見たらわかりますぞ」ムッシュはそう言いながら、シュークリームの部分部分を指差した。「赤い妖魔狩人の服をひん剥き、素っ裸にしたところを真上から縦に潰し、その後膨らむように焼き上げたものですな」彼の言うとおり、狐色の焼き目の間には、きめ細かい十代の肌の色が見える。そしてシューの上側には、千佳の表情がうっすらと浮かんでいた。
 調理台ではムッシュの言葉に頷くミスターW⊥。そして彼は、まずは何も言わず食してみよ。と言わんばかりに、手を差し出した。
 それに同意した妖木妃、白陰、ムッシュの三人。シューを引き千切り、中に詰まっているクリームを塗りつけ口の中へ運ぶ。
「こ……これは、本当にシュークリームなのか!?」
 三人が驚くのも無理は無い。通常シュークリームは、口の中に入れると、シューが溶けるように崩れ、中から甘いカスタードクリームが流れ出すというもの。
 だが、今食べたソレは、そのシューが溶けるどころか、まるで暴れだすかのようなワイルドな食感と、ローティーン独特の精製していないミルクのような味を主張する。さらにクリームは……と言うと、なぜか逆に弱々しく、それでいて田舎臭い……酸味のような、やや癖のある風味で、不思議なくらいシューと見事に調和していた。ソレは彼らの知っているシュークリームとはまるで違う、それでいて、それ以上の美味さを奏でるお菓子であった。
「一体どんな作り方をすると、こんな物になるのですかな?」さすがのムッシュも、解析不能といった状態だ。
 それに答えるように、女夷が解説を始めた。
「シューの材料はご存知の通り、赤い妖魔狩人です。彼女を円筒に押し込み、上下から押し潰して平らにしたものを使用しました。もちろん、それだけではまだ生地が厚く硬くなるので、更に麺棒で押し広げ、ピザ生地のように遠心力を利用した引き延ばしもしております。」
「たしかにワイルドな食感ではあるが、硬いわけでなく……むしろ柔らかい」
「そして、ソレをオーブンの中に入れ、膨れるまでコンガリと焼き上げたものです」
「なんだ、まるっきり普通の調理法じゃないか!?」妖怪たちの間から、そんな声が上がった。
「たしかに調理法自体は、何の変哲もない……オーソドックスな方法です。ただ、ミスターW⊥氏は調理法そのものよりも、素材の『真の良さ』を引き出すにはどうしたらいいか? そこに細心の注意をはらったそうです」
「素材の良さ? 今までの調理師妖怪も、ソレは十分に引き出したと思うが……?」白陰がそう漏らした言葉に、ミスターW⊥は舌打ちをしながら、人差し指を目の前で振った。
「引き出す方向性が違う!と、W⊥氏は言っておられます。なぜなら、シューに浮かぶ赤い妖魔狩人の表情を見よ!と」
 女夷を通したW⊥の言葉に、皆がシューに浮かぶ千佳の表情に注目した。なんと、その表情はにこやかに微笑み、いや、それどころか満面の笑みにも見える。

妖魔狩人若三毛凛if第20話B05

「ますますわからん。これは一体どういうことですかな?」
「赤い妖魔狩人は火属性の半妖。ペチャンコにし……焼き上げた程度では、完全には息の根が止まっていない、そこが狙い目でもあったということらしいです」
「ん…ん……? 話がまったく見えてこないが……?」
「今まで調理された妖魔狩人の面々は、おそらく恐怖し、悲しみ、ストレスを感じながら調理されていったことでしょう。そうすると人間は、脳内からノルアドレナリンという物質を出し、これは素材の味を僅かながら劣化させてしまいます!」
「な…なんだと!?」
「しかしW⊥氏の赤い妖魔狩人は、先ほど言った通り焼き上げた時点では、まだ辛うじて生きていました。そこである特別なクリームを、シューとなった彼女の体内に注入したのです!」
「特別なクリーム? 普通のカスタードクリームではないのか?」白陰がそう言った途端、「そうですか!何か違和感があると思ったのですが、これであのクリームの謎が解けました!」とムッシュが声を荒げた。
「どういうことだ、ムッシュ?」妖木妃が問いただす。
「あのクリーム、弱々しい風味なのに、それでいて妙に癖の強い部分も感じ取れました。それは、ある人物になんとなく似ていると思いませんかな?」
 そう答えるムッシュに、妖木妃は思い当たったようにハッとした。「く……黒い妖魔狩人……!?」
「そのとおりです!」二人の会話をまとめるように、再び女夷が話しだした。
「あのカスタードクリームの中には、黒い妖魔狩人の部屋から拝借した、下着や靴下を刻んで練り上げた物を混入させているのです!」
「やはりそうか!だから、弱々しいカスタードクリームのはずなのに、どこか田舎臭い、アンモニア臭的な酸味や癖が感じ取れたのだ!?」
「そう。そして……その黒い妖魔狩人の田舎臭い、アンモニア臭のような酸味こそが、赤い妖魔狩人にとっての至高の喜び!!」女夷の説明に合わせ、W⊥が不敵に微笑む。
「そんなものを体内に注入されたら、赤い妖魔狩人はどうなると思われます? 心の底から黒い妖魔狩人を好いている彼女です。それこそ狂喜乱舞することでしょう! あの満面の笑みはその表れです! そして、人間は喜びを得るとエンドルフィンという分泌物を放出する。これは、まるで麻薬のような歓喜の旨味! つまり、これ以上無い調味料ということです!!」
「それによって、赤い妖魔狩人が本来備えていた、あのワイルドな食感と旨味を倍増させる結果となった?」
「赤い妖魔狩人の真の性質を理解し、それを引き出したからこそ、あの味になったということじゃな」これには、妖木妃も驚くしかなかった。もはや、料理の枠を超えている……と!


 これで、四人の妖怪たちの料理が全てお披露目された。どれもが想像を超える料理で、とてもじゃないが、甲乙付け難い。
「どうされます? 妖木妃様……?」ムッシュがそう問いかけた。
「ハッキリ言って、どれもが凄い料理で身共たちでは決めかねますな」白陰もそう言って、頭を抱える。
 すると妖木妃は思い立ったように、助手妖怪たちに料理を集まった妖怪たち全員に配るよう命じた。
「ワシたちだけでは、とても判断できん。そこで、今……この対決を見ていたお前らにも、判断をしてもらうことにした!」
 妖木妃はそう言って、今見ている妖怪を指差した。そう……彼女が指定したのは、今見ている妖怪。つまり、貴方だ!!
 貴方にも、審査に加わってもらいたい!


 …ということで、BADENDルートの物語は、ここで中断です。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 11:10 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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第一回 妖怪料理対決 投票場

 さて、妖木妃も言ったとおり、貴方(閲覧者)にも審査に参加していただきます。

 まず、下記の候補料理の中から 一つを選んでください。
 ただ、それだけ! おぉ♪(ノ)’∀`(ヾ)
 簡単なコメントも頂けると、妖木妃殿を喜びになると思います!

 
 投票は、5/21をもって終了いたしました。
 ご協力、ありがとうございました。 

 発表は、後日行わせていただきます。



 締め切り以後、集計結果・・つまり、妖怪調理師No,1を決めます。
 優勝した妖怪には、気まぐれでご褒美を差し上げるかもしれませんし、しないかもしれません(笑)

 と……いう訳で、ご協力よろしくお願いいたします。 ヽ(`▽´)/

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 11:09 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第19話「 決戦!中国妖怪軍団 -前編-」

 「鎌鼬(かまいたち)の能力を・・・・!?」
 つい先日まで同じ中学の先輩だと思っていた日笠琉奈(ひかさりな)が、ある日突然・・妖怪の妖術を身に着けているなんて!?
 それも空だ。空を飛んだのだ。
 こればかりは妖魔狩人である凛も、優里も、千佳も。誰も持ちえていない能力だ。
 「知っているだろう。先日、大生堀公園で黒い化け物に襲われたとき、若三毛を呼びに行って息絶えた鎌鼬。あの時、彼は自分の妖術を私に授けてくれたんだ。」
 そうだ。マニトウスワイヤーに召喚されたまま丘福市に居ついた、黒い屍食鬼グール。
 そのグールたちに襲われた瀬織や琉奈たちを救ったのは、同様にマニトウスワイヤーに召喚され、一時とは言え敵対関係だった妖怪鎌鼬。
 もしあの時、鎌鼬が自らの命を顧みず救いを求めに動いてくれなかったら・・・。
 瀬織も琉奈も涼果も、グールに喰い殺されていただろう。
 そしてその鎌鼬の力は、今度は凛の危機さえ救ってくれたのだ。
 「ありがとうございます、日笠先輩!」
 深々と頭を下げながら、たった一人で敵地に乗り込むなんて、なんて思い上がった行動を取ったものだと、反省する凛であった。
 「やっと追いついた・・・・・」
 そこへ「ハァ…ハァ…」と息を荒げながら、初芽涼果(はつめすずか)が駆け込んできた。
 凛を救ってくれたのは琉奈だけではない。この涼果が妖怪赤子を乱入させてくれなかったら、琉奈に拾い上げてもらうことすら出来なかった。
 「初芽先輩も、ありがとうございます。お陰で助かりました。」
 凛は涼果にも深々と頭を下げる。
 「いいよ!若ちゃんには今まで色々と助けてもらったもん。お返し足りないくらいだよ。」
 中学三年生にしてはやや幼い涼果だが、それだけにその愛くるしい笑顔が、より一層癒してくれる。
 「それにしても、あいつらが若三毛の戦っている相手なの?」
 「ハイ・・・。柚子村を拠点にして日本征服を企む、中国妖怪たちです!」
 「あそこにいた髪の長い背の高いやつ。あいつがあたしを妖怪にした奴だよ!」
 涼果の目には、憎き白陰の姿がクッキリと焼きついている。
 「若三毛、放っておいたら・・この村も、神田川県も、そして日本も。奴らに征服されてしまうんだろう? 妖怪には妖怪の力! 私たちにも手伝わせてくれよ!」
 琉奈はそう言って親指を立てたサムズアップで、ニコリと微笑んだ。
 「でも・・・・」相手は人間を殺すことも、喰らうことも何も躊躇わない凶悪な妖怪だ。
 気持ちは嬉しいが、これ以上危険な目に合う人を増やしたくない。
 そんな凛の気持ちを察したかのように、実体化した金鵄が割って入ってきた。
 「凛、味方は一人でも多いほうがいい。ここは素直に、この子たちの申し出を受けようじゃないか!」
 「あ、この鳥さん・・・、いつも若ちゃんのそばに居る金色の鳥さんだ!」
 「僕は霊鳥金鵄だ。凛のパートナーをやっている。」
 「へぇ~っ!アニメの魔法少女やプリ○ュアみたいに主人公のそばにいる、淫獣ならぬ・・・淫鳥ってやつか~♪」
 本気か・・冗談か? 茶化すように琉奈が金鵄を指差した。
 「そっちのキミは、平気で失礼な事を言うんだね?」
 まるで苦虫を1ダース程噛み潰したかのような表情で、琉奈を睨みつける金鵄。
 「わかりました日笠先輩。そして初芽先輩・・・。力をお借りします!」
 凛は二人を見上げ、そう答えた。
 「ところで初芽先輩、二つほどお尋ねしていいですか?」
 「うん、いいけど・・・なに?」
 「あの赤子って妖怪なんですが、あの子たちは召喚されている妖怪なんですか? この間もかなり被害を受けていたようですけど。私としては、たとえ妖怪でも・・一人も犠牲者を出したくないんです!」
 そう言って真っ直ぐ涼果を見つめる凛。それに対し涼果は優しく微笑むと・・・
 「若ちゃんは本当に優しいね! 大丈夫。あの子たちは召喚妖怪ではなく、実はあたしの分身みたいなものなんだ。」
 「分身・・・?」
 「うん。正確には、あたしの髪の毛を妖術で妖怪の姿に変化させて動かしているの。だから本物の妖怪でも、生き物でもないんだ。」
 「そうなんですか。良かった・・・。」
 「でも、あまり使い続けると、涼果の頭が禿げてしまうね!」
 またしても琉奈が、言っているそばから茶化しだした。
 「琉奈は黙って!」
 頬を膨らませ、珍しく不機嫌そうに言い返す涼果。
 「もう一つ、いいですか・・・?」
 こっちはこっちで、何事も無いように平常運行の凛。
 「あ、うん。なに・・なに・・?」
 「先輩の、その・・・今着ている格好なんですけど。まさか、その格好で・・戦うんですか?」
 聞いていいのか、悪いのか? 少し悩んだ末、問いかけた凛。
 あーっ、そのことには触れないで欲しいと、今度は見て見ぬ振りの琉奈。
 それもそのはず。涼果が身に着けている衣類は、まるで80年代か90年代のアイドルのような、鮮やかな黄色を主体とし、フリルとリボンが付いたフリフリドレスで、しかもスカートの中にパニエが着用されており、花のように膨らませている。

妖魔狩人若三毛凜 19話01

 「だって、アニメとかで戦う女の子の格好って、こういう感じでしょ!? 若ちゃんもゴスロリ服を着ているじゃない!」
 「私のは金鵄の羽で編まれた、防御力と運動能力を大幅に上げてくれる戦闘服です。でなかったら、好き好んでこんな格好は・・・・。」
 顔を赤くし、恥ずかしそうに答える凛。
 「あ、そうなんだ! じゃ~あ、あたしも戦闘服ってことで!」
 至極当然のように返した涼果に、凛はそれ以上何も聞けなかった。
 「話の途中、大変申し訳無いのですが・・・・。」
 突然の声に三人は振り返ると、そこには1人の小三から小四くらいの男児の姿があった。
 「あ、セコさん。ごめんなさい・・気付かなかった。」
 その姿を見て、申し訳なさそうに応える凛。
 「いえ構いません。ぼくも今来たところですから。それより瀬織さんより伝言です。」
 「瀬織さんから・・・?」
 「はい。復活した妖木妃対策で、明日朝10時より話し合いを行なうようです。場所は村はずれにある、猪豚蛇が以前使っていた古民家。」
 「わかりました。」
 「千佳さんには、ぼくから伝えておきます。では!」
 セコはそう言うと、静かにその場を去っていった。



 「みんな、今日集まってくれたことに感謝する。」
 翌日、瀬織は集まった一同を一通り見渡すと、軽く頭を下げた。
 ここは猪豚蛇が以前使っていた小さな古民家の、六畳程度の狭い部屋。
 その場に揃っているのは、凛・瀬織・千佳・琉奈・涼果・雪女郎・サラマンダー。そして金鵄に猪豚蛇である。
 「どうぞ、お茶ですダ!」
 座敷にそのまま腰を下ろしている全員の前に、猪豚蛇は一つ一つ湯のみ茶碗を置いていった。
 「また変な物・・入れていないでしょうね?」
 凛が睨みを利かす。
 「入れる訳ないダヨ! オラごときがこれだけの人数相手にしたら、生きて帰れるはずがないダ」
 そう言う猪豚蛇の顔は蒼白である。なるほど、さすがに身の程をよく知っているようだ。
 「高嶺さんは来れないっちゃか?」
 「うん。退院は明日か・・明後日って。」
 「そっか! まぁ…高嶺さんの分はウチが頑張るとして、それより・・アンタら。誰なん?」
 千佳がそう問いかけたのは、雪女郎とサラマンダーの二人。
 「あたし? 雪女郎~っ! 妖怪やってまぁ~す!」
 「サラマンダー・・・・。火の精霊・・・・。」
 「なんで、妖怪がここにいるっちゃ?」
 「おや?自分だって半妖じゃん! 似たようなもんじゃない!?」
 「ウチは元は人間やったん! それに斎藤千佳という、人間としての名もあるっちゃ!だから人間として、この場にいられるっちゃよ!」
 何が気に入らないのか? 千佳は一緒にするなと言わんばかりの言い草。
 「千佳。そんな言い方、酷すぎるよ!」
 凛は必死で嗜めようとする。
 「…けど凛。こういうのって連帯感・・?ってやつが必要じゃね!? いかにも『妖怪でぇ~す!』って感じやと、なんか『仲間~っ!』て……意識しにくいし。」
 なんで今日に限って、普段気にも留めないような事を言っているの? 凛は千佳にそう問い詰めようと思った、その時・・・。
 「あ~っ、とりあえず人間っぽい名前があれば、いいの?」
 雪女郎が自身の性格のように、軽~く返してきた。
 「人間の名前があるんですか!?」
 驚いたのは、凛を含む・・琉奈、涼果。
 「あるよ。人間のフリして暮らしていた事もあったからね! 当ててごらん!」
 ニヤニヤと微笑む雪女郎。
 「ここはシンプルに『雪』さん。」
 「ブーッ! でも、たしかに雪にちなんだ名かな・・?」
 「六華(りっか)・・か?」
 今まで黙って聞いていた瀬織も入ってきた。
 「ほぅ。さすが博識な瀬織津姫だね、惜しい! 正解は『風花(ふうか)』だよ!」
 「風花・・・? 風に花・・・? それって雪と関係するんですか?」
 凛が不思議そうに尋ねてきた。
 「元々・・風花って、風に舞うように降ってくる雪を、花に例えた言葉なんだって。」
 「そうなんだ・・・!」
 一つ勉強になったね!
 「じゃあ、サラマンダーさんは!?」
 涼果は次にサラマンダーに同じ話題を振った。
 「わ・・私は、ありふれた・・・名前・・だから・・・。」
 「ありふれた? じゃあ、サラマンダーだから、サラさん!?」
 「いや、炎という意味で、フレイムの・・『フレイ』さん!?」
 涼果と琉奈が楽しそうに問いかける。
 「い・・いえ、ホント・・・どこにでもあるような、平凡な・・名・・・。」
 「日本っぽく、『瞬火(またたび)』とか!?」

 「い…いえ・・。そういうんじゃ・・なく、ホント・・平凡に・・『ダーク=フレイム=シュナイダー』って名前・・です。」
 
 どこが平凡なんだよっ!?
 …というか、どこの『バス○ード!!』だよっ!?
 その場にいた誰もが、心の中でそう突っ込んだ。
 「母が、よく・・・『ありふれた名前でごめんね。』と、言ってました・・・。」
 全然ありふれてねぇーよ!! どんだけ、厨二病的なネーミングしてんだよ。お前のおかんは・・!?
 てか、精霊にも……『おかん』がおるんかい!?
 誰もが、ツッコミが追いつかなかった。
 「ま…まぁ、せっかくだから、略して『シュナ』さんていうのは、どうですか?」
 一人、その場の雰囲気を治そうと、凛がうまい具合に提案してきた。
 「シュナさんか、いいね!」
 「いいんじゃない? サラマンダー。いや、シュナ!?」
 直ぐ様、琉奈と風花(雪女郎)が賛同した。
 「は…ハイ。では……そう呼んでください・・・。」
 サラマンダーことシュナは、そう言って嬉しそうに微笑んだ。

 「…で!? そろそろ、女子会は終わったか?」
 目をドンジリと座らせた瀬織が、吐き捨てるように問いかけてきた。
 「ご・・ごめんなさい・・。」
 即座に謝る、凛とシュナ。
 「今日は大切な話があって集まってもらったのだ。遊び半分では困るぞ!」
 「アンタだって、途中…参加したやん!」
 「ね~っ!」
 瀬織の言葉に、不服そうに言葉を返す千佳と風花。
 「・・・・・・・・・!!」
 それが耳に入ったのか、更に冷たく鋭い視線が二人を突き刺した。
 「な…なんね!? ホントの事やん!?」
 性格的に黙って引き下がらない千佳。
 「千佳っ! わたしに免じて、ここは折れてっ!!」
 そこに、まるで保護者のように間に入った凛。その言葉どおり、千佳は渋々ながらもその場は折れることにした。
 「気づいているだろうが、あの妖木妃が目覚めた。」
 瀬織の一言に、打って変わって空気が一瞬で重くなる。
 「今までとは違い、一気に決着(けり)をつけようとしているのか、ヤツはこの柚子村に本国……中国から部下を呼び集めている。
 「柚子村に・・・!?」
 「どれだけの妖怪が・・・!?」
 瀬織は皆の疑問の声を予測していたかように更に表情を強張らせると、
 「昨夜、そして今朝の段階で神田川県に足を踏み入れた数・・・。おおよそ…百匹。」
 「ひ・・ひゃ・・百匹~っ!?」
 「報告では更に中国本土でも集まっており、三日以内でその三倍以上の敵が押し寄せてくるだろう。」
 淡々と答える瀬織。
 「すぐに迎え撃たないと!!?」
 居ても立ってもいられない様に、凛が立ち上がった。
 「落ち着け、若三毛凛。たった二~三十匹の山精すら相手に出来なかったお前に、百もの妖怪を相手にできるわけがないだろう。」
 瀬織の言葉に、凛は何も返すことができない。
 「たしかに時が過ぎれば奴らの数は増える一方だ。早めに叩けるに越した事はない。だが・・中心にいるのは、やはり妖木妃だ。妖木妃さえ倒せば、奴らは本国へ逃げ帰るはずだ。そうなれば、不必要な戦いは避けることができる。」
 続けて語る瀬織の言葉に、皆は黙って頷く。
 それを横目で見つめる金鵄。
 (さすがだ瀬織。水神……瀬織津姫として生きてきたその知識は、凛たちのブレーンとして最適だ。)
 「そこでだ。若三毛凛、貴方が嫦娥より預かった物を、改めて確認したい。」
 瀬織の言葉に凛は頷くと、手提げ袋から白い瓢箪を引き出した。
 瀬織はそれを手に取り、蓋を開け中を覗いたり、周りを眺めてみる。そして口を前に向けるように構えると、二言……三言呟いた。
 瓢箪の口から勢いよく何かが飛び出す。
 「こ……これはっ!?」
 飛び出してきたのは弓。それも凛が持っているような和弓ではなく、飾り彫りを施した・・中国風の弓であった。
 「なるほど・・・、そういうことか・・・。」
 一人納得したように頷く瀬織。
 「どういうことですか!?」
 意味のわからない凛。それに答えるように金鵄が口を挟んだ。
 「ゲイの弓だ。」
 「ゲイ…って、あの……嫦娥さんの夫で、弓使いの英雄だったという・・・?」
 「そうだよ凛。神族から人間に落とされたというのに、それでも尚且つ・・妖木妃に恐れられたゲイ。その秘密はきっと、その弓にある。」
 「うん。霊鳥金鵄の読みは当たっているようだ。」
 ゲイの弓を手に取り、部分部分を確認していた瀬織。
 「わたくしは直接対戦していないのでわからぬが、たしか妖木妃の髪飾りとやらは、闇属性だったらしいな?」
 「はい。」
 凛の返事を受けると、瀬織は不敵な笑みを浮かべた。
 「この弓は『光属性』。つまり……闇属性を打ち破れる力を持っている!」
 その言葉に、凛の顔はまるで花が開いたように明るくなった。
 「では、その弓なら……あの絶対防御を破って、ダメージを与えられるということですね!!」
 「あ~っ、でも……ちょっと待って?」
 そう言って入ってきたのは風花。
 「その弓を使えば妖木妃を倒せると言うのであれば、どうして今まで、嫦娥はそれを使おうとしなかったんだい?」
 単純な疑問だが、誰もが同じ疑問だった。瀬織は『もっともだ』という表情をし、それに対して答え始めた。
 「ファンタジーゲームで言えば、いわゆる『伝説の武器』という物に当たるのだろう。得てしてそういった特殊な武器は、使い手を選ぶ。」
 「……?」
 「たしかに光属性の付加価値がついているが、それだけでは大きな効果は求められない。肝心なのは他の強い力と掛け合わせて、この武器は真の効力を発揮する。」
 「つまり、その光属性を生かせるだけの魔力なり妖力なり。または、霊力が必要だと?」
 「そういうことだ。更に付け加えるならば、武器という道具である以上、それを使いこなせるだけの『技術』も必要となる。それも実戦経験を積んだ・・・な。」
 「それだけじゃない!それほどの武器を悪用しない……正しい心!」
 金鵄は、これこそが大事と言わんばかりに付け加える。
 「霊力と技術と正しい心・・・。」
 皆の言葉をまとめるように瀬織は凛を指し、こう言い放つ。
 「嫦娥が捜し求めていたゲイの弓を託すに値する人物は、黒い妖魔狩人こと……若三毛凛。お前だったのだ!」
 「嫦娥さんが捜し求めていたのは、わたし・・・。」
 凛は瀬織からゲイの弓を受け取り、それを見つめながら呟いた。
 「!?」
 「どうした、若三毛凛・・・?」
 弓を見つめながら呆然と黙り込む凛を見て、瀬織が心配そうに声を掛けた。
 「この弓・・、弦が切れ掛かっている・・・。」
 「本当かい・・!? 凛・・・?」
 凛の言葉に、金鵄はゲイの弓を隅々まで見渡す。
 「普通に弦を張り替えたらいいんじゃないの?」
 話を聞いていた涼果が、心配なさそうに問い返してきた。
 「いや、この弦は特殊な神通力で編まれたものだ。人間の作った普通の弦では代用はできないね。」
 「じゃあ、その弓を使えるのは・・・!?」
 「うん。おそらく矢を射ることが出来るのは、あと二回・・・。いえ……もしかしたら、あと一回……かも。」
 「妖木妃を倒すことのできるチャンスは、たった一度ということだな・・・。」
 結論になる瀬織の一言に、その場の誰もが言葉を失った。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 11:12 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第19話「 決戦!中国妖怪軍団 -中編-」

 「話の途中ですが、新たな情報が入手できましたので、いいでしょうか?」
 いつの間にか入室していた妖怪セコが、見計らったように口を開いた。
 「どうした、セコ?」
 「今現在、柚子神社近辺では約百五十匹ほどの中国妖怪が集結。さらに丘福港にも、人間に紛れて入国した妖怪多数。」
 「ひ……百五十・・・!?」
 「さらに港にも・・・!?」
 「どうやら、あまりゆっくりはできないな・・・。」
 皆の重苦しい空気の中、セコは更に続けた。
 「あと昨日。柚子小学校の女児三名と、所轄の女性警察官が行方不明。その背景にはムッシュ・怨獣鬼の姿が目撃されております。」
 「ムッシュが・・・!?」
 セコの報告に、凛は思い出したかのように驚きの声を上げた。
 「そういえば……昨日ムッシュが担いでいた籠の中に、それらしい影が・・・!? まさか、あの中に・・・!?」
 居ても立ってもいられなくなった凛は叩き払うように襖を開け、部屋から飛び出そうとした。
 「待ちなさい、若三毛凛っ!!」
 即座に止めにはいる瀬織。
 「セコの報告どおり柚子神社への道のりには、百五十以上の敵が待ち構えている。まして、相手は妖木妃に次ぐ実力者、ムッシュ・怨獣鬼だ! お前では勝てん!!」
 その言葉に凛は鬼のような形相で瀬織を睨み付ける。
 「勝てる、勝てないの問題ではありません! 今……助けに行かないと、確実にその子たちは喰い殺されてしまいます!!」
 「気持ちは判る。だが、勝てなければ助けようがないだろう!!」
 「敗れても、子どもたちを助けることができれば・・・!!」
 「お前が敗北して倒れたら、誰が妖木妃を倒すのだ!?」
 どちらも一歩も引かず、睨み合ったままの二人。
 「心配するなっちゃ、凛・・・。ウチがムッシュをぶっ倒してやんよ!!」
 サムズアップで微笑みながら、割って入る千佳。だが・・・
 「お前では、尚更勝てん!」
 …と、それに対して即答の瀬織。
 「なんや……あんた!? マニトウスワイヤーの時もそうやったけど、ウチに喧嘩売っとん?」
 「斎藤千佳。お前と喧嘩などする気はないが、わたくしは適当な事を言うつもりもない。今から説明してやるから、よく聞け!」
 「……?」
 「わたくし自身はムッシュ・怨獣鬼と直接対決したことは無いが、今までの妖魔狩人たちとの戦い。そして、ヤツのそれ以外の行動から考えると、ヤツは『近接戦闘タイプ』であることがわかる。」
 「……で?」
 「相性的に考えれば、遠距離攻撃タイプである若三毛凛が有利だが、そういった弓や魔法等の攻撃に対して、ヤツは驚くほど勘がいい! 若三毛凛に勝機が薄いのはそのためだ。」
 「なるほど・・・。」
 「次に斎藤千佳。たしかにお前も近接戦闘タイプだが、ムッシュ・怨獣鬼と比較した場合、力・技・妖力。どれをとってもムッシュ・怨獣鬼の方が上だ。唯一、僅かにスピードだけはお前が上回っているが、それだけで勝てる相手ではない。それがお前では勝てない理由だ。」
 瀬織は冷静に、そして厳しく、自身の分析を説明した。
 「そ…そんなもん、やってみないと……わからんちゃ……ね・・?」
 納得いかないように、千佳が食い下がろうとしたとき・・・。
 「……でしたら、ムッシュとは私が戦います!」
 襖を開けたままの凛のすぐ目と鼻の先から、しっかりとした口調の若い女性の声が聞こえた。その声の主を見た凛の表情が、まるで太陽光のように明るく輝く!
 「優里お姉さんっ!!!」
 「ただいま。凛ちゃん!」
 そこにはマニトウスワイヤーとの戦い以来、ずっと入院したまま戦列を離れていた高嶺優里の姿があった。
 「みんな心配かけてごめんなさい。一日早く退院できたので、まっすぐこちらに来てみたの。」
 そう言って、眩しい程の優里スマイル。
 「うわっ!凄い美人・・! モデル業界でもやっていけるよ、あの人!?」
 そう言って驚くのは、琉奈と涼果。
 「あれが北米最強の精霊……サンダーバードを倒したという、白い妖魔狩人か・・!?」
 こちらは風花とシュナの二人。
 「ムッシュとは一度戦ったことがあります。ですから、彼の実力は誰よりも知っています。」
 過信ではない。だが……自信に満ち溢れる優里の表情。
 「たしかにわたくし達の中で、唯一ムッシュ・怨獣鬼と互角に戦えるのは、高嶺優里・・・。貴方だけだ。」
 さすがの瀬織も、優里の実力は高く評価している。
 「では、すぐに子どもたちの救出に向かいましょう!!」
 これなら文句は無いでしょ!と言わんばかりに凛が囃し立てる。
 「うん。だが・・・・・。」
 瀬織はまだ渋い顔をしている。待ち構えている百五十人の妖怪。それでもこちらが不利な状況には変わりない。
 そんな瀬織の側にセコはスッと近寄ると・・・
 「もう一つ、朗報があります。」
 「……?」
 「先程祢々さんが、神田川県に到着したという連絡が入りました。それも・・・・」
 「ほ…本当か!? それを先に言えっ!!」
 珍しく飛び上がらんばかりの表情を見せる瀬織。
 「若三毛凛、そして……みんな。急ですまないが、今すぐ柚子神社へ向うぞ!!」
 「なんやねん? さっきまでと、えらい……手の平の返しようは・・!?」
 「いいんじゃない? その気になってくれたなら。あたしもさっさと暴れたいしね!」
 そう言って、ニコリと微笑む風花。
 「あ……っ、ちょっと待ってっ!!」
 すぐに部屋を出ようとする皆を呼び止めたのは、涼果。
 「ごめんなさい。今すぐ戦闘用の服に着替えるから、ちょっとだけ……待ってて?」


 左右森に囲まれた、柚子神社へ通じる一直線の舗装された道路。
 「情報では妖木妃。ムッシュ・怨獣鬼。共に柚子神社にいるらしい。」
 先頭に立つ瀬織は後に続く皆を見渡して、そう告げた。
 瀬織の言葉に頷くと、それぞれが己の役割に応じて分かれていく。
 「よし、私も準備OK~っ!!」
 身軽な服装に着替えた琉奈は、自身の周りに風を纏わせる。
 「日笠琉奈。わたくし達の中で空を飛べるのは貴方だけだ。多少危険であるが、よろしく頼むぞ。」
 瀬織の言葉に琉奈はニコリと微笑むと。
 「バッチリ、任せておいて!」
 そう言うと、そばにいた涼果と抱き合った。
 「それじゃ、行くよ!」
 琉奈の身の周りを吹く風が、更に激しく竜巻のように舞い上がると、それに吊られるように二人の身体も空高く舞い上がる。そして突風のような速さで、柚子神社目指して一気に飛び去って行った。
 空中を飛行しながら森を見下ろすと、神社へと続くアスファルトの路面に、身動きできないのでは?と思えるほど密集した妖怪たちの姿が見える。
 「あれが百五十匹の中国妖怪かぁ!? まともには相手にできないよね!」
 改めてその数の多さに、背筋が凍りつくような寒気を感じた琉奈。
 「琉奈、前から敵……。気をつけて!!」
 その時、脇に抱えられていた涼果が驚きの声を上げた。声に従い前方を見定めると、二匹の妖怪らしき姿が、こちらに向かって空中を突き進んでくる。
 一匹は飛虎人(ひこじん)。大きな虎のような姿だが、翼が生えており、更に二本の前足は人間の手のようになっている。
 もう一匹はカコクといい、大きな猿のような姿。頭部は普通に猿の頭だが、身体は皮も肉もなく骨のみ。脇腹あたりから蝙蝠のような翼が生えているという、不気味な姿であった。
 二匹とも中国妖怪で、しかも人肉や生き肝を好物としている。
 「瀬織さんの予想通り、敵の中にも空を飛べる奴がいたね。」
 「うん。そしてあたしたちの役目は、空飛ぶ妖怪を集団から引き離しながら、地上の敵を空中から掻き回すこと。」
 そう言って琉奈の脇に抱えられている涼香は、自身の髪の毛を数本引き抜いた。
ふぅーっ!! 強く息を吹きかけると、それは数匹の妖怪赤子へと変わる。赤子たちはそのまま落下し、地上で蠢く妖怪たちに襲い掛かる。
 一人一人はたいした力もない赤子だが、今回の目的は攻撃ではなく撹乱。引っ掻き噛付きをしては逃げ、それを次から次へと繰り返す。
 「鬱陶しい!! なんなんだ…っ、このガキのような妖怪は・・!?」
 地上で多くの中国妖怪たちが、赤子たちに振り回されている。
 「これは妖怪赤子・・!? チ…ッ! あの時の姑獲鳥(こかくちょう)の仕業か・・・?」
 自ら集団の中に入って、指揮をとっていた幹部妖怪……白陰。翻弄されている部下たちの姿を見て、己自身が妖怪に転生させた涼果の姿を思い浮かべた。
 もちろん、涼果の目にも白陰の姿は写っていた。
 「あたしは、アイツに騙され妖怪にされたことがある。アイツだけは、あたしの手で倒したい!!」
 そう呟く涼果を更に強く抱きしめる琉奈。
 「涼果の敵は私の敵。一緒に力を合わせて倒そうぜ!」
 「琉奈……? ありがとう・・・。」
 「その前に・・・・!」
 そう言うと、琉奈は一気に急反転。勢いよく襲いかかってきた妖怪カコクの攻撃を避けた。そして、空かさず右手を振り払う。
シュッッッッ!!
 目に見えない空気の流れが、カコクの身体の一部を切り裂いた。
 琉奈が鎌鼬から受け継いだ術は、空中飛行だけではない。真空波を飛ばして敵を切り裂くという、鎌鼬独自の攻撃妖術……真空切断をも受け継いでいる。
 ……と言っても、琉奈自身はたいした妖力も持ちあわせていない普通の人間の少女。したがって、その攻撃の威力も致命傷を与えるには程遠いものであるが。
 「まずは私たちの役目。空を飛べる妖怪を少しずつ引き離していこうぜ!」
 その都度真空波を飛ばして威嚇し。琉奈は妖怪二匹を引き連れながら、少しずつ敵の集団から離れていった。

 その頃、地上に蠢く妖怪たちの先頭集団は、突然の猛吹雪に襲われていた。
 「なんだ……この国は!? 先程までクソ暑かったのに、なんで……急激に吹雪いたんだ!?」
 荒れ狂う吹雪により視界も悪く、わずか1~2メートル先すら状況が把握できない。もちろんそればかりでなく、吹き荒れる冷気は妖怪たちの身体を凍てつかせていく。
 「……ったく、どうなっているんだ!? このままだと凍え死んでしまうぜ!!」
 その場にいる妖怪たちは対処法もわからず、それぞれが不平を叫んでいた。
 「おそらく、この日本にも、雪や冷気を操る妖怪がいるのでしょうね・・?」
 そう言ったのは、袖なしの白い中国ドレスに白いマントを身にまとった若い女性。
 白い肌に黒い髪、整った鼻筋に涼し気な瞳。妖怪『雪妖』、中国の雪女である。

妖魔狩人若三毛凜 19話02

 「この程度の吹雪、ワタシには通用しないわ。」
ヒュッッン!!
 まるで目の前の白い大気を切り裂くように、左腕を垂直に振り下ろした。
 「おおっ!? 雪妖の目の前だけは外の景色が・・・!?」
 他の妖怪が驚く中、彼女はゆっくりと白い世界から外へと足を踏み出していく。
 だが・・・・。
ゴォォォォォォッ!!! 
 そんな彼女を激しい炎の渦が襲った。
 「な…な…なにっ!?」
 慌てて後退し、吹雪の中へ戻っていく雪妖。
 「ふふ~んっ!! あたしみたいな雪の妖怪が居ることは、当然想定していることだよ~っ!」
 吹雪の外で、雪女郎こと風花がニヤリと微笑む。
 「でも・・・、私の攻撃・・フランメヴィアベル(炎の渦)が・・・かわされてしま・・・った・・・。」
 そう言ってションボリしているのは、サラマンダーことシュナ。
 「いや、むしろその方がいいんだって! 下手に吹雪の外に出ると、攻撃の的になるって解釈してくれるだろ? あたしたちの役目は敵を倒すことでなく、一箇所に釘付けすることなんだからぁ~っ!」
 風花はそう言いながら、シュナにウインクする。
 そんな風花に対し、シュナは少し寂しげに・・・
 「風花は・・・いいよね。身も・・・心も・・・強いから・・余裕が・・ある。」と返した。
 「え……っ!?」
 「私は・・・これだけ・・の・・敵を相手にして・・・、今・・・凄く怖い・・・。正直・・・言って・・、一人でも・・・・数を・・減らしたい・・・の・・・。」
 今も槍を手に身構えているシュナ。だが、たしかにその身体はガタガタと震えていた。
 そんなシュナを見て、風花は優しげに目尻を下げると
 「あたしだって怖いよ。いくら妖魔狩人たちに恩義があるからとは言え、ホントにここまで付き合う必要があるのかな~ぁ?って思っている。だって……、下手すれば殺されるもんね。」
 「風花……?」
 「でもさ……、中国妖怪の目的って日本の支配だろ? そうなれば、あたしたち日本妖怪だって、何をされるかわからない。良くて……手下。最悪……皆殺し!ってとこだろうね。」
 「・・・・・。」
 「だったら他人事じゃ……ないじゃん!? 恩義が無くても、ここは動くべきかな~ぁって、思っている。」
 「風花・・・・。」
 そう言う風花に、シュナも優しげに微笑み返す。
 「でも……よく考えたら・・・私。日本妖怪・・・じゃ・・・ないから、関係・・ないかも・・・?」
 「おいーっ!!?」

 その間、凛と優里。そして千佳と瀬織の四人は、少し離れた森の中を柚子神社に向かって駆け進んでいた。
 「大丈夫……千佳? わたし、下りようか?」
 そう言う凛は、千佳の背中におぶってもらっている。
 「千佳さんは凄いよね!? 凛ちゃんをおぶったままで、私と同じ速さで走っているんだから!」
 すぐ脇を並んで走る優里。かなり遅れて瀬織が続く。
 「大丈夫っちゃよ。ぶっちゃけ……凛が直に走るより、ウチがおぶっていった方が速いと思うし。それに・・・・」
 「それに・・?」
 「こうしておぶっていると、手に凛の小さなお尻の感触が伝わってきて、そりゃあ~もう~っ・・・! うひぇぇぇっ♪」
 「千佳。あんた……着いたら、とりあえず殴るね。」
 「うん? この先で森が途切れているわ。おそらく……そこが参道かも!」
 優里の言葉通り、途中森が途切れると、そこには地肌の見える石畳。崩れて原型の判らない鳥居。たしかにそこは、柚子神社の参道に入っていた。
 一歩一歩先へと進むたびに重く圧し掛かる不快な波動。凛、金鵄の二名は、明らかにその波動に覚えがあった。
 柚子神社は村の小さな神社。歩けば一分も掛からず拝殿へとたどり着く。
 重苦しい不快な波動は、間違いなくそこから放たれている。
 「気をつけるんだ……みんな。奴はそこにいる。」
 そんな金鵄の警告の言葉が終わるのを待っていたかのように・・・
 「美味そうな、子兎の匂いが漂ってくるわ・・・。」
 拝殿の中から、低く重い声が流れてきた。
ギィィィィィィィッ・・・
 きしみ音と共に扉がゆっくりと開く。
 華やかな衣装に、青白い肌。その存在を象徴するかのように、花弁の多い大きな花の髪飾り。
 そこに立っていたのは、今までの敵とは明らかに格の違いを感じさせる絶世の美女。妖木妃であった。
 「やはり目覚めていたのね。妖木妃!!」
 弓を向け、鋭い目つきで問いかける凛。
 「あの時の妖魔狩人と名乗った小娘か……。久しく見ぬうちに、更に霊力が上がっているようじゃな。」
 凛とは逆に、まるで数年ぶりに親友と出会ったような、そんな親しそうな目で返す妖木妃。

妖魔狩人若三毛凛 18話1

 「そして、なるほど……。白・・。赤・・。青・・・。そなた達が新たに加わった妖魔狩人か? ようこそ、ワシが妖木妃じゃ。」
 そう言って不敵な笑みを浮かべながら、優里、千佳、瀬織と順に見渡していく。
 「あれが……妖木妃?」
 自分たちにとっての最大の敵に初めて出会い、さすがの優里も緊張を隠せない。
ズイッ!! そんな妖木妃の言葉に一歩前に出た人物がいる。
 「悪いけど……、ウチはアンタと会うの、初めてじゃないっちゃ!!」
 「千佳っ!?」
 「・・・?」
 「三ヶ月半前……。凛を助けて欲しいと……この神社に願いに来たら、アンタが出てきてウチに変な種を飲ませたんよ! そのせいで妖怪人間になって、凛と戦う羽目になったっちゃ!!」
 「知らんな。ワシは今まで何百という人間を妖怪化してきた。そなたみたいな小娘、いちいち覚えておらんわ! それにそなたから発せられている妖力。それは妖怪化人間のものではない。今のお前は妖怪……? いや……半妖か?」
 冷たい、まるで虫ケラを見るような目が千佳を刺す。
 「あぁ…、半妖っちゃよ! これには色々な事情ってヤツがあったんやけど、でも……ある意味じゃ、アンタに感謝しとるっちゃ!」
 「ほぅ…?」
 「こうして凛を助けられる力を得て、おめぇーっをぶっ倒せるんやからね!!」
 その言葉と同時に、千佳は一気に飛び掛かって行った!
 蒸気を発しながら、千佳の鋭い灼熱爪が妖木妃のドテッ腹を貫くっっっ!!
 「やったか!?」
 思わず拳を握り締める瀬織。
 だが…千佳の灼熱爪は、妖木妃の身体まであと数ミリのところでピタリと止まっている。
 「ぐぅっっっ!?」
 歯を食いしばる千佳のその表情から、自ら攻撃を止めたとは思えない。
 そんな千佳の灼熱爪の回りを、金粉のような光が無数に舞い始めた。
 「千佳ぁぁぁっ! 妖木妃からすぐに離れてぇぇっ!!」
 それを見た凛は、ありったけの声を振り絞るように叫んだ!!
 訳もわからず、瞬時に飛び避ける千佳。
 「凛ちゃん、金鵄さん。今のは・・・?」
 「あれが妖木妃最大の能力……、絶対防御の花粉だ。」
 優里の問いに金鵄が答えた。
 「ヤツの頭の花の髪飾り。あれは妖木妃に寄生している妖怪生物で、攻撃を受けると宿主を守るために絶対防御の花粉を放つんだ。」
 「絶対防御の……花粉?」
 「金色に舞う花粉は、物理・魔法・霊力。すべての攻撃を蝕ばみ……消滅させる。あのままだったら、千佳の灼熱爪は完全に消滅させられていた・・・。」
 「な…なんてこと!?」
 「まずはあの髪飾りを破壊する。それができなければ、妖木妃は倒せない!」
 金鵄の言葉に、凛はこぶしを握り締めた。
 (それができるのはゲイの弓を預かった、わたし・・・・!)


どうする!?
 ① 凛は一歩引いて、攻撃の機会を伺う。
 ② 凛はゲイの弓で、今すぐ髪飾りを攻撃する。

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≫ EDIT

妖魔狩人 若三毛凛 if 第19話「 決戦!中国妖怪軍団 -後編-」

 ① 凛は一歩引いて、攻撃の機会を伺う。


 「優里お姉さん……。千佳……。瀬織さん……。」
 「……?」
 「わたしがゲイの弓で妖木妃を攻撃します。でも……、今撃っても奴はそれを防ぐでしょう。だから、一撃で仕留められるように奴の隙を作ってください!」
 「凛ちゃん!?」「凛……っ!?」「若三毛凛……?」
 日頃、常に自分の立ち位置を一歩引いた状態に置いている凛。それだけに積極的な発言は皆を驚かせた。
 「ご…ごめんなさいっ! わたしなんかが偉そうに・・・。」
 「くすっ…♪ 何を言っているの、凛ちゃん!」
 「そうだ。この中で妖木妃と直接戦った経験のあるのは、貴方だけだ。わたくしたちは当然その指示に従おう!」
 「ウチはいつだって、身も心も凛に捧げる気だっちゃよ!!」
 凛に返される満面の笑み。
 「ありがとうございます! よろしくお願いします!!」
 「……んじゃ! 徹底的に奴の気を引いてみるっちゃよ!!」
 改めて三人が身構えたその時・・・!
 「おやおや……。これはまた、急展開に陥っておりますな!」
 拝殿の脇に生えている木々の陰から、一人の大柄な男が姿を見せた。
 「ムッシュ……怨獣鬼っ!?」
 「美味しい料理を作っていたら、只ならぬ気配を感じたので見に来てみれば。まさか……いきなりクライマックスとは驚きましたぞ!」
 カイゼル髭をピンと伸ばし、不敵な笑みを浮かべながら辺りを見渡すムッシュ。
 「料理……? まさか・・・!?」
 ムッシュの言葉に表情を一変させる凛。
 「まさか……。料理というのは、昨日さらった……小学校の女の子たち・・・!?」
 凛の問いに、驚きの色を見せるムッシュ。
 「ほぅ、ご存知ですかな? ガキと警察官。予想以上に素材が良いので、なかなかの絶品ができそうですぞ!!」
 「ムッシュ――っ!!!」
 激高する凛。だが、それを制するように優里が間に入った。
 「その子たちの下へ案内してもらおうかしら。」
 「優里……お姉さん……?」
 「言ったでしょう? ムッシュは私が相手をする……と!」
 「はい……。」
 そんなことは知ったことかと言わんばかりのムッシュ。
 「生憎ですが、我輩……。調理の邪魔をされるのだけは許さん性質でして。それだけは応じられませんな!」
 「そう……?」
 優里はそう呟くと、薙刀の刃をムッシュに向けた。
 「ならば不本意ですが、力ずくで聞き出すだけです!」
 「白い妖魔狩人。貴方と戦うのは……いつ以来でしたか?」
 ムッシュはそう言うと、懐から鈍重な光を放つ短刀のような物を取り出した。
 「出刃……包丁!?」
 優里の目がそれを鋭く捉える。
 たしかにムッシュの手に握られているのは、刃渡り20センチほどの出刃包丁である。以前に戦った時も、彼はそれを武器としていた。
 本来出刃包丁は武器ではなく調理道具。たとえ鋭い切れ味があったとしても、攻撃範囲である間合いは狭く、武器として使うにはかなり不便である。
 一方優里の持つ獲物……薙刀は、全長約200センチ刃長約45センチの代物。
 その長さから判る通り、広い間合いでの攻撃が可能。
 通常、間合いの狭い武器で広い間合いの武器を相手に挑む場合、2倍も3倍もの技術が必要だと言われている。
 故にこの勝負、薙刀を持つ優里の方がどうみても分が高い。傍から見る瀬織は、そう確信していた。だが、当の優里はそうは思っていなかった。
 たしかに、敵が自身の攻撃範囲に入れないように広い間合いから威嚇攻撃を行い、一気に畳み掛ける機会を狙う。
 並みの相手ならばそれで上手くいくのだが、こと相手がムッシュだとそうはいかない。
 ムッシュはそんなことはお構いなしに、強引に自身の間合いに入ってくるのだ。
 優里の威嚇攻撃を避けることなく、己が傷ついてもまるで平気で力任せに優里の懐へ入る。
 そうなると薙刀はその長さ故、小回りが利かない。懐へ入られると攻撃の術がない。
 逆に包丁のような短刀系の武器が、接近戦ではその威力を発揮してくるのだ。
 アッという間に優里は、腹部に鋭い一撃を食らってしまった。
 幸い優里が身に着けているコスチュームは霊獣麒麟の毛で編まれており、その繊維は鎖帷子のように刃物を弾くことができる。
 それでも防御力には限界があり、それ以上の攻撃を受ければ当然のダメージは受けるのだ。
 うっすらと優里のコスチュームに鮮血が滲む。それほど大きなダメージではないにしろ、それでも普通の一般人ならば、身を縮めてしまう痛みである。
 だが優里は素早く間合いを取り直すと、そんな痛みを微塵にも見せぬまま、再び薙刀を構える。
 「妖魔狩人最強の戦士……白い妖魔狩人。たしかに一流の武術家ですが、しょせんは人間。強力な妖怪である我輩には到底敵いませんよ。」
 ムッシュは自慢のカイゼル髭をピンと伸ばす。
 「あなたこそ人間を……。そして北真華鳥流古武術を舐めないでほしいですね。」
 そう言って腹部に受けた傷の血を自身の指で拭い、それを舌先でペロリと舐める。
 再び出刃包丁を突き出し、突進してくるムッシュ。
 今度は威嚇でなく、仕留めるために攻撃を繰り出す優里。
 それでもムッシュはやや身体を丸め、致命傷だけを避ければいいという覚悟で、全身血だらけになりながら優里の懐へ入る。
 『肉を切らせて骨を絶つ!』
 とてもフランスかぶれの妖怪とは思えぬ武士道染みた戦法だ!
 そして、優里の心臓を狙った必殺の一突きを繰り出す!
 だが……その瞬間、優里は手にしていた薙刀をその場にポロリと落とした・・!!
 「むっ!?」
 呆気にとられるムッシュ。
 そして優里は突き出したムッシュの右腕にしがみつく様に抱き締めると、自らの身体を捻り……払い腰!!
 ムッシュの巨体が宙に浮き、そのまま青畳ならぬ石畳に叩きつけられる!!
 激しい振動と土ぼこりが宙に舞う。
 「す…すごい……。」
 遠目に眺めていた凛、瀬織はその技の切れに、我もを忘れて見入っていた。
 「いや……いや……。我輩としたことが、やられましたな……。」
 尻餅をついたまま、驚くほど爽やかな笑顔のムッシュ。
 そして、ゆっくり埃を払いながら腰を上ると、
 「獲物を手放すことで自分の間合いを作り直す……。この戦法、以前赤い妖魔狩人との戦いでやっておられたのを我輩見ていたのに……。」
 してやられた感たっぷりの、恥ずかしくも苦々しい表情。
 「やはり白い妖魔狩人は、我輩らにとって最も油断ならぬ相手。もっと真剣に立ち会わなければいけませんな!」
 ムッシュはそう言うと、懐からもう一本……鈍重な光を放つ刃物を引き出した。
 手にしている出刃包丁よりやや細めで長いそれは!?
 「牛刀包丁。まぁ……、西洋の万能包丁ですな!」
 そう言って右手に出刃。左手に牛刀と、左右一本ずつ包丁を握り締める。
 (二刀流・・・!?)
 優里は再び薙刀を握ると、慎重に構えなおした。
 「どっすぇぇぇっ!!」奇妙な掛け声と共に、ムッシュが襲い掛かってくる。
 右・左・右・右・左・左・左・右・・・・。
 二刀流による予測できないムッシュの攻撃で、優里はジワジワと防戦一方となった。
 (予想以上の動きの速さに加え、まるでリズムの見えない攻撃……。)
 悩む優里は、一瞬の隙をついて二足三足跳びで後退、間合いを空け直す。
 (どうしたら……?)
 ― 悩んだときは、基本に立ち戻りなさい。―
 (先生……っ!?)
 フトッ……!今は亡き武術の師、園部秀子の声が聞こえた気がした。

 「いいですか……優里? 最後に信じられるのは才能でもなければ、ひらめきでも無い。修練で身に着けた基本なのです!」
 そう言って秀子は竹刀を手にした。
 「日本の剣術は、西洋のそれとは違い盾というものがありません。基本的には一本の刀のみで攻防を努めています。しかし稀に脇差や小太刀を盾代わりとした二刀流が存在していました。」
 秀子は更にもう一本の竹刀を手にし、大の字のように構える。
 「現代の剣道においても二刀流は存在しております。流派や指導者によって竹刀の長さや対戦方法もまちまちで虚をつかれますが、だからと言って恐れることはありません。」
 そう言いながら竹刀をもった左右の腕を交互に振ったり、同時に挟むように振ったりする。
 「人間には利き腕、利き足というものがあるように、左右同じ重心、まったく同等の腕力というのはありません。必ずどちらかに歪があります。それを見極めなさい!」
 秀子は手にしていた二本の竹刀を優里に持たせると、
 「足の位置。腕の上げ方。目線の位置。どんなに達人でも必ずどこかに歪があるはず。それを見極める力をつけるのです。その力は閃きや才能ではありません。日々の精進による洞察力です。それが古武術の基本です。」

 北真華鳥流は実戦を目的とした古武術で、薙刀も武器の一つであって全てではない。したがって優里は薙刀以外にも剣術や柔術も学んでいる。
 秀子の指導はどこよりも厳しかった。だがそのお陰で、今こうして最強の妖魔狩人と呼ばれ、凛を助ける事ができる。
 優里は目を皿のようにしてムッシュの隅々まで見渡す。左右の腕の上げ方。両足の踵……爪先、重心はどこに架かっているか? そして目の動き。
 秀子に習ったことを全て思い出し、ムッシュの動きを見極める。
 (出刃を持った右腕がやや高めで、わずかだが身を左に捻っている。重心は右足の爪先に左足の踵。)
 優里は呟くようにそう見極めると、高々と構えた薙刀をムッシュの頭上目掛けて振り下ろした!!
 瞬時に出刃包丁で刀刃を受け止めるムッシュ。……と同時に、左手に握られた牛刀が優里目掛けて振り下ろされた!
 だが、まるでそれを予測していたかのように、柄の中心を軸に薙刀をクルリと半回転させ石突を振り上げ牛刀を弾く!
 「なっ!?」
 ムッシュが驚いている間にも優里は薙刀を水平に構えなおし、そのまま横へ払った!!
ザバッッッッ!!
 大木のようなムッシュの胴から、緑色の鮮血が飛び散った!
 「な…なぜだ!?」
 そのまま跪き、斬られた腹を押さえながら驚きを隠せないムッシュ。
 「なぜ、我輩の攻撃を読みきった!?」
 その表情は日頃決して見せることの無かった、恐怖と困惑が入り混じった血の気の失せた顔。
 「たしかにムッシュ、貴方は強敵です。動きの速さ、力、そして……妖怪の本能からくる攻撃センス。今まで私はそれだけを見ていました。ですが、冷静に見れば技そのものは基本ができていない素人技術。
 左右二刀による攻防と思わせておいて、その実……右手が防御、左手が攻撃の要と、見極めるのはそう難しくありませんでした。」
 優里は厳しい眼差しで、そうムッシュを見下ろしていた。
 「フフフッ! 我輩はこの世に生を受けてまだ数ヶ月。たしかにその間、自身の強さに自惚れて訓練などしたことがありませんな。素人と言われれば、ごもっとも。 だが……!」
 ムッシュはそう言うと優里を鋭く見返し、ニヤリと口端を緩ませた。
 「!!?」
 すぐさま危険を感じた優里。だが……そう気づいたときには既に右肩と左太腿に、何かが鋭く突き刺さっていた。
 突き刺さったそれは、ムッシュのコック帽を突き破って伸びている。暫くしてそれはスルスルと縮んでいき、再びコック帽の中に納まった。
 激しい出血とともに、その場に跪く優里。
 逆にムッシュが立ち上がり、不敵な笑みで優里を見下ろす。
「妖怪の戦いは勝つか……負けるか? 喰うか……喰われるか? そこには技術が云々など一切関係なく、要は相手をぶっ殺せばいいんですよ。」
 そう言って頭にかぶっていたコック帽を、無造作に剥ぎ取った。
 そこには黒い髪の間から、鋭く長い『角』が黒々と光っていた。
 「日頃……背の高い帽子をかぶっていたので、角が生えているなんてご存知なかったでしょうな。まぁ~っ、いわゆる奥の手ってやつです!」
 ムッシュはそう言って会釈するように頭を下げる。同時に角が一気に伸び、再び優里を襲った。 今度は脇腹と左腕を貫かれる。
 「我輩の角は十数メートルほど伸縮可能です。つまり、貴女の間合いの外から攻撃することが可能というわけですな!」
 角はそう言っている間にも何度も伸縮し、そのたびに優里の身体を貫いていく。
 あっという間に、優里は全身血だるまになっていた。
 「優里お姉さんっ!!」
 凛が弓を構え、ムッシュを狙う。
 「危ないっ!若三毛凛っ!!」
 そんな凛を、瀬織が覆いかぶさるように横たわらせた。その上を黒い業火が通り過ぎていく。
 「せっかくの一対一の対決。邪魔をするでない!」
 黒い炎の塊を手のひらに漂わせ、妖木妃が楽しそうに微笑んでいた。
 「高嶺優里を信じて、わたくしたちは妖木妃一人に集中しよう!」
 瀬織はそう凛を戒めた。仕方なく頷く凛。
 もはや全身のあちこちを貫かれ、避ける気力もない優里。
 「そろそろ一気に頭を貫いて楽にしてあげましょう。その後貴女は、我輩が美味しいパイ料理にしてさしあげます!」
 ムッシュはそう言って、舌なめずりをする。
 「さらばです!!」
 ムッシュの鋭い二本の角が、優里目掛けて襲い掛かる。
 「最初に言ったはずです! 私を舐めないで!……と!!」
 優里はそう叫ぶと、手にしている薙刀を鋭く振り返した。
 「な…ぬ…っ……!?」
 優里に角が突き刺さる前に、逆にムッシュが何かに貫かれたように後ろへ吹っ飛んだ!
 ムッシュの右胸に、コイン大の焼き焦げたような跡がこんがりと残っている。
 「な……なんなんですか、これは――っ!!?」
 叫び狂うムッシュの身体を白い光が再び貫いた。突き刺すような、それでいて痺れるような痛み。
 それは、優里が薙刀を振り払うたびに襲い掛かってくる。
 「ば……ばかな!? 白い妖魔狩人は魔法や妖術のような類は一切使えない。更に飛び道具も持っていないはず。なのに……これはっ!?」
 今度はムッシュが全身血だらけになっている。
 「光……、いや……これは雷撃の一種…っ!?」
 「雷光速射撃。貴方の言うとおり雷撃の応用技です。ムッシュ!」
 優里はそう言って、薙刀を前に突き出した。
 「これは、亡き強敵(しんゆう)サンダーバードから受け継いだ技。今の貴方に見切れますか!?」
 「サンダー……バード……!? あの伝説の……北米最強の聖獣? い…いつの間に……!?」
 ムッシュの言うとおり。サンダーバードとは、雷を自在に操る北米に伝わる最強の聖獣。
 あのマニトウスワイヤーの一件で死闘を繰り広げた優里とサンダーバード。優里に敗北し、その実力を認めた彼女は、この世を去る寸前に自身の力を優里に分け与えていた。
 光の速度で放たれる雷光速射撃。優里の言葉通り、ムッシュにはその技を見きれる術もなく、もはや一歩も動くことはできなかった。
 「改めて聞きます。こどもたちはどこですか!?」
 技を止め、厳しい表情で問いかける優里。
 「言いませんよ。我輩にとって料理は全て! たとえ刺し違えても、料理の邪魔だけはさせません!!」
 ムッシュは最後の力を振り絞りながら立ち上がると、全身にありったけの気を込めた!
ムクッ! ムクッ!
 その身体が一回りも、二回りも膨れ上がり、それだけでなく体格にも変化を及ぼしていく。
 その姿は二本足で立つ闘牛のようであり、いや……巨大な頭部は角の生えたマッコウクジラのようにも見える。
シャァァァァッ!!!
 ニシキヘビのような呻き声を上げ、化け物と化したムッシュは、一歩二歩と優里に向かっていく。
 「それが貴方の真の姿ですか・・・?」
 そんなムッシュに優里は再び薙刀を振り払う! いくつもの閃光……いや雷光が、ムッシュの身体に襲い掛かる。だが、ダメージを与えてはいるものの、まるで痛みを感じていないかのように、歩みを止める気配が無い。
 やがて興奮が頂点に達したかのように赤々と目を光らせると、優里に向かって突進して来た!!
 激しい土埃を撒き散らしながら突進するその姿は、まるで生きているブルドーザー!
 「どうやら、小手先の技では通用しないようですね!」
 そう言って優里は薙刀を水平に構え直した。すると、尖先に白い光の玉が広がり始める。やがて光の玉は優里すら覆いこむような大きさになった。

妖魔狩人若三毛凜 19話03

 それに釣られるように、その周囲は大気が陽炎のように歪み、地響きのような振動すら感じられる。
 「北真華鳥流奥技! 不撓穿通(ふとうせんつう)!!」
 大地を蹴りあげ、駆け出した優里。それは巨大な光の刃!!
 血に飢えた……赤い生きたブルドーザーと白い光の刃の激突!
 「きゃあああああっ!!?」
 まるで爆弾と爆弾が衝突したかのような凄まじい衝撃が、辺りをそして妖魔狩人たちや妖木妃に襲い掛かり、思わず悲鳴をあげる凛。
 土埃が収まり二つの人影が見える。それはムッシュと優里の姿。
 ムッシュの鋭い角が深々と優里の左肩に突き刺さっている。
 だが、もう一方で優里が伸ばした薙刀の先は、ムッシュの腹部に大きな風穴を開けていた!
 ゆっくりと薙刀を引き戻す優里。
 それに引かれるように、ムッシュの巨体が地響きを立てながらその場に倒れ伏せた。
 「完敗……です…。戦いにも……料理と…同じように……、心・技・体……が必要だと……、貴女……に教わり……ました。」
 息絶え絶えに呟くムッシュ。
 「私にとって貴方も、サンダーバードに負けない程の強敵でした。」
 「嬉しい……言葉で…す。お礼……に、我輩の……厨房をお教えしま……しょう。ざ…材料は……、そこに保管……しております。」
 そう言ってムッシュはその場所を告げると、静かに息を引き取った。

 その光景を遠目で見つめていた凛。
 (もしも……。もしも、彼が人間を食べない存在だったら……? そうしたら優里お姉さんとは、ずっと腕を競い合う……武術の宿敵としていられたのかな? それとも、逆に出会えることすら……なかったのかな? 妖怪と人間……。それは食物連鎖の関係でしか、成り立たないの?)

  

 第二十話に続く(正規ルート)

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