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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第20話「 終結~戦いの終わり~ -中編-」

「凛、諦めるのは早い。まだ、一つだけ方法が残っている」
 膝をつき、悲壮感漂う凛の耳元で、霊体化した金鵄がそっと囁いた。
「一つだけ方法……って?」「しっ! 声を出さないで。妖木妃に悟られては不味い、霊波で会話しよう」凛と金鵄は至近距離であれば、霊波で会話ができる。会話を続けていくことに、凛の目に輝きが戻ってきた。「本当に、そんなことができるの?」「ああ、充分に可能だよ。だが、重要な点が二つ。一つはチャンスは一度切り、絶対に妖木妃に知られてはならない。もう一つは、そのチャンスが訪れるまで、もうしばらく千佳たちに頑張ってもらわなければならない」
 金鵄の言葉に、凛は二人の様子を伺った。瀬織は今も優里の回復を行っているが、その視線は宙を舞い、絶望感に溢れている。もう一方千佳は、勝ち誇ったように佇む妖木妃の足元で大の字に倒れており、胸には霊光矢が突き刺さったままだ。
(千佳……、瀬織さん……)改めて二人に強い視線を送る。その視線に気づいたのか、二人は同時に凛の目を見返した。凛からの強い視線、それは言葉は無くとも、まだ何かあるという思いを察するに充分な合図だった。
「なんか知らんけど、もう少しだけ頑張らなきゃ、ならんみたいっちゃね!」千佳はそう言って上半身を起こすと、胸に刺さった霊光矢を両手で掴み「うんにゃぁぁぁぁぁぁっ!!」と絶叫を上げながら引き抜こうと試みる。突き刺さった物を引き抜く時は、突き刺さる時の数倍の痛みを生じる。千佳の額には玉のような脂汗が滝のように流れ、その痛みは尋常で無いことがよくわかる。だが・・・、ズボッ!!という音と共に、突き刺さった矢を見事に引きぬいたのだ!
 激しく肩で息をする千佳。「斎藤千佳、こっちへ来い!」同時に瀬織が声をかけた。「な…なんや?」「いいから、わたくしの前に胸を出せ!」
 千佳は言われるままに、傷ついた胸を瀬織の前に突き出す。瀬織は優里を治癒している手とは逆の手を千佳の胸に当て、ビーチボール程の水泡を浸透させていった。
「簡単な治癒の術を施した。それで傷口は塞がり、痛みも半減できるはず」「ホントやん! だいぶ痛みがなくなったっちゃ!」
「とはいっても、体力回復はまるで補えていない。したがって、立ち上がるだけでも辛いはずだ」瀬織は申し訳なさそうに言い出した。
「ええよ!痛みがないだけでも、かなり動ける。それにウチのエネルギー源は、凛だっちゃ!凛がウチを信じてくれている限り、いくらでも動けるっちゃよ!」千佳はそう言って立ち上がった。髪は燃え上がるように逆立ち、右手の灼熱爪は再び熱気を発する。
「ほぅ? まだ、ワシと戦うつもりなのか?もはや、お前たちに勝ち目が無いことは、ハッキリしたであろうに?」妖木妃は、そんな千佳に対して不思議そうに問いかける。
「うるせ! ここで寝っ転がっていても、お前に歯向かっても、どっちにしろ殺されるんやったら、身体引き摺ってでも歯向かった方が、まだウチらしいっちゃよ!」千佳は叫ぶようにそう言い放つと、文字通り足を引き摺るように突進して行った。
「見苦しい……」妖木妃は呆れたように手のひらを向ける。手の平に黒い炎の塊が浮かび上がる。
「そうはさせん!」それを遮るように、無数の小さく碧い水泡が、妖木妃の周りを覆い尽くした。
「水泡? だが、ただの水泡ではあるまい。なんらかの術が施してあるはずだ」そう言って妖木妃は自身を覆う水泡を、一つ一つ確認するように見渡していく。「もっとも、仮に術が施してあっても、ワシの絶対防御の前では、何の役にも立ちはしないがな」そう、ニヤリと笑った。
「だったら、そのまま……ボォ~っと、突っ立っておくっちゃね!!」千佳は灼熱爪で水泡を弾き割っていった。一撃、二撃。水泡は灼熱爪が動く度にその熱気で弾け、蒸発し霧に変わる。そうしていくうちに、ものの五分としないうちに、辺りは碧い霧で覆い尽くされた。
「なるほど、これが狙いか? おそらくこの霧の中に、動きを封じる毒系の術でも施してあったのだろう。この中にいるだけでも、触ばまれるようにな。だが、残念だったな!髪飾りの花粉は、それすらも阻むのだ。むしろダメージを受けるのは、赤い妖魔狩人のほうよ!」
 たしかに言うとおり、空気中を漂う碧い霧は、数ミリメートル単位で妖木妃には届いていない。逆に千佳の頬や、そして全身に水滴となって付着しているのがわかる。
「そんなことは、百も承知っちゃ! だから、これは毒じゃねぇーっ!」
「なに!?」
「それは、わたくしの回復の術の応用。大きな効力はないが、その中にいるだけで徐々に体力回復を行うことができる。だが、今現在の目的はそれでは無い!」
 瀬織がそう言った瞬間、千佳の姿が妖木妃の視界から消え失せた。「これは!?」妖木妃が気付いた時には、辺りは完全に碧一色となり、目と鼻の先すら視界では確認することができない。
「そうか、目眩ましか。たしかにこれでは、お前たちの姿を捉えることができぬ。だが、それはお前たちも同じこと」
「そうでもないっちゃ!!」千佳の声が頭上で聞こえたと思った瞬間、両肩に一気に重みが加わった。なんと千佳は、妖木妃の両肩に肩車の状態で乗っかったのだ。
「クソガキが。どこまでワシを愚弄するつもりだ?」妖木妃はそう言って千佳に手の平を向ける。
「おっと、それは通用しないっちゃ!!」千佳は更に、妖木妃の頭部に覆い被さるようにしがみついた。「これで今、ウチの身体はお前の頭と一体になっている。つまり、お前の花粉とやらが、その黒炎弾から守ってくれるというわけっちゃ!」
「バカはバカなりに考えたというわけか。だが、それからどうするつもりじゃ? 一生ワシの肩に乗っているつもりか?」呆れてモノが言えない。そんなため息混じりの口調で、千佳に問いかける。
「もちろん、お前を攻撃してぶっ倒す!!」千佳はそう言って、灼熱爪を髪飾りに押し付け、突き刺そうとした。
「無駄だ。ワシの髪飾りは絶対防御。何度言えば理解できるのだ?」
「いや、そうとは……言えないっちゃ!」
「!?」
「凛から聞いたっちゃ。以前、凛の霊光矢は絶対防御を突き破って、お前に傷をつけたことがあるって。それってつまり、お前の髪飾りの防御力を超える攻撃力があれば、突き破ることが可能ってことじゃね!?」
 その言葉に妖木妃は、忌々しい黒歴史を思い出す。「クソガキが!お前も同じことができると申すのか!?」
「だから、やってみるっちゃよ!!」千佳はそう言い、灼熱爪に力を込める。
「ふん、黒い妖魔狩人の高い霊力ならいざ知らず、お前ごとき半妖の妖力程度が、絶対防御を突き破れるはずがない!」
「うるせぇぇぇっ!!」更に千佳は、全妖力を右手の灼熱爪に集中させる。赤い爪がまるでマグマのように赤く輝きを増していく。
「無駄だ!無駄だ!無駄だ!」妖木妃は高揚したように、高笑いさえ上げている。「無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄だ!無駄・・・・・・・・・!?」
 時間が止まった。いや、実際には止まったわけではないが、そう感じられるように、妖木妃の高揚も高笑いも。目は焦点を失い、口は半開きのまま。辺りの風の動きすら止まってしまったように感じられた。
「な…な……なんだ……これは……!?」妖木妃がようやく発した言葉がそれだ。「いつの間に、こんな物が髪飾りに……?」
 初めて見せる、妖木妃の虚ろな表情。それもそのはず。今まで数百年間、絶対的な信頼を置いていたあの髪飾りに、一本の異物が突き刺さっているのだ。その異物は、日差しのような明るい山吹色に輝いた凛の霊光矢。それは、花の髪飾りの真上に重ねてあった、千佳の右手も一緒に貫いていた。

妖魔狩人若三毛凛if第20話02b

「やったな……凛……」突き刺さった霊光矢を引き抜き、そのまま雪崩落ちる千佳。
 同時に髪飾りも、砂で作った飾り物のように流れ落ち、消滅していった。
「ごめんなさい、千佳ーっ!!」凛の泣き叫ぶような声が響き渡る。
「心配するな、若三毛凛!!」そう叫びながら瀬織は、倒れた千佳を担ぎ上げ、優里の側に運びこむ。そして、間髪入れず治癒の水泡で包み込んだ。
 茫然自失としている妖木妃。「なぜ……? いや……いつ、どうやって……こんな物で射抜いたのだ……?」
「当然、髪飾りを破壊できる、ゲイの弓を使ったのだ」妖木妃の問いに、瀬織が返答した。
「ゲイの弓は弦が切れ、使えなくなったはずだ……」
「いいえ」そう言って凛は、ゲイの弓を見せた。見ると、切れかかってはいるが、一本の弦が弓に結びついている。
「バカな! ゲイの弓は神族の武器。人間の作ったものでは代用できない……」
「そう、この弦はわたしたち人間の手で作られたものではないわ。これは一人……いえ、一羽の霊魂が姿を変えたもの」
「ま…まさか……!?」
「そう、僕だよ……妖木妃」いきなり弦が口を聞いたかと思うと、それは徐々に金色の鳥の姿に変わっていった。
「霊鳥金鵄、お前が……?」
「神族の道具は、強い霊力や神通力を使った材料で組み立てられている。そして僕の身体は霊体、霊力の塊だ。その身体は自在に変化させることもできる。現に凛の戦闘服も、僕の羽を変化させ編んだもの。だから今度は僕自身が姿を変え、弦になったんだ」
「なるほど、そんなカラクリか!? だが、いつ射った!? 黒い妖魔狩人の姿は・・・」
「当然見えなかっただろう。そのために碧い霧を散漫させたのだからな。アレは斎藤千佳の姿を隠すものではなく、若三毛凛をお前の視界から外すことが目的だったのだ」
「だが、逆に黒い妖魔狩人の視界からも、ワシの姿は捉えることができなかったはずだ!」
「だから千佳はあなたの肩に乗り、目印になってくれたの」
「…?」
「わたしは幼い頃から、霊気や妖気を色として識別できる。それは多少視界が悪くても、感知することができるわ。千佳の妖気の色は赤。だから千佳は髪飾りの上で灼熱爪に妖気を集中させ、自らの右手を目印としてくれたの」そう語る凛の目からは、涙が溢れ出ていた。
「もう、あなたの負けよ、大人しく降参して。たとえ敵でも、むやみに命を奪いたくはない」
 そう言う凛に対し、妖木妃は項垂れたまま、何一つ言葉を返すことができなかった。
「ひ・ひ・ひ・ひ・ひっ……!」そして突然、気でも違ったかのように、不気味な笑い声を放ち始める。「ワシの負けか……。たしかにこんな屈辱は、生まれて初めてじゃわ! だが、まだワシの負けではない」
「ふん、負け惜しみか!?」鼻で笑う瀬織。「いえ、瀬織さん、そうじゃないっ!!」凛はそう叫び、新たに自分自身の弓を持ち直した。「妖木妃の身体の中の妖力が、膨れ上がるように高まるのがわかる!!」
 その言葉を裏付けるように、妖木妃の身体に、目で見てもわかる変化が始まっていた。華やかな貴族の衣装は引き裂かれ、体自体も膨れ上がるように巨大化していった。
「こ…これが、妖木妃の真の姿か……!?」
 驚くのも無理はない。今、凛や瀬織の前に立ちはだかるのは、明らかに異形の生命体。全長四~五メートルはあろうかと思える大きさ。両腕の無い全裸の女体に、大きな蔦や葉が覆うように巻き付いている。足元は数十本の根のようなものが這いずり回り、そのうちの数本が触手のように立ち上がり、その先端はトカゲかワニのような大きな口が開いていた。頭部は人間の面影はまるでなく、それは禍々しい巨大な花。そう……ラフレシアによく似た花が開いている。その花の中央には、大きな単眼がギロリ。こちらを睨みつける。
 もはや、妖怪というより、怪獣といっても過言ではない異様な化物であった。
立ち上がった数本の触手は、その大きな口を凛や瀬織に向けると、黒い炎の塊を吐き出した。
「黒炎弾!?」必死に飛び避ける二人。変身前よりも強力な黒炎弾。それを数本の触手が連発で放ってくる。まるで反撃する機会が作れない二人。だが・・・
 一筋の白い閃光が宙を横切ると、一本の触手を真っ二つに切断した。その閃光の正体は……「優里お姉さんっ!!」凛の喜びの声でわかる。それは薙刀を手にした優里だった。
「大丈夫か、高嶺優里?」「ええ、お陰でほぼ完璧に回復できました」そう言って優里は二人の顔を微笑みながら見渡した。そして最後に倒れている千佳の姿を見て「お疲れ様、千佳さん。選手交代よ、前衛は私が務めるわ!」と頼もしく語った。


 激しい轟音と共に、炎の渦が飛び交う。そしてその反対方向から激しい炎が吹き出し、渦と激突した。炎の渦の出元は槍を構えたシュナ。そして反対の炎は、紅孩児が口から吹き出している。
 一見互角に見える。だが……、紅孩児は更に鼻の穴からも炎を吹き出し、追撃するように瞳からも熱線を発した。これが紅孩児が極めた三昧真火という術。その激しい威力はシュナの炎の渦を押し返していく。そしてついに、その力を抑えきれなくなったシュナは、逆流した自らの豪火に、その身を包まれてしまった。
「炎の精霊とは言っても、所詮は使い魔程度の存在。てんで、話にならねぇーな!」鼻で笑う紅孩児。
「シュナ!!」返された炎を吹雪で抑えこむ風花。「だ…大丈夫・・・」シュナはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
「あたしもさっき、あの雪妖とかいうやつに押し負けたよ。やはり、あたしたちの力は、残念だけどアイツ等には及ばない」風花はそう言って、向こうでニヤついている紅孩児と雪妖の二人を睨みつける。「……となれば、作戦Bプランに行くしかないね!」「でも・・・、本当に・・・上手く・・いくか・・・どうか?」気乗りしない表情をみせるシュナ。
「一か八かの勝負だけど、やってみる価値はあるよ!」「う・・ん・・・」額にかかる縦線が、さらに濃くなる。
「シュナ、自信を持って! 日本最強の雪の妖怪(自称)と、世界に名高い炎の精霊のコンビなんだよ。大丈夫、あたしたち二人なら、やれる!!」風花はそう言うと、ニカッ!と微笑んだ。
「いつもながら・・風花は、軽い・・よね」
「えーっ!?」
「だけど・・・、いつも・・不安な・・・私を、安心・・させて・・くれる!」そう言って、滅多に見せないほどの明るい笑顔で返すと、「やるよ・・・風花。私たちの・・・強さ、見せて・・・やろう!」力強く、風花の眼差しを見つめた。
「まだ、やる気? 力の差が理解できないのも、悲しいものよね?」そう嘲笑う雪妖。だが風花は「力の差!? あはは!解っていないのはアンタたちでしょう? だ・か・ら……今から本当の差っていうのを、見せてあげるよ~♪」と更に小馬鹿にしたように返した。
「ほぅ? 何を根拠にそんなこと言ってんのかわかんねぇーが、再戦を挑んできているのだけは、わかった。だったら、二度とそんなことが言えないように、遠慮なくぶっ潰してやるぜ!」
「どうぞ! ただし・・私たちは・・二人同時でいく・・・。受けて立つ気・・・があるなら、そっちも・・二人同時で・・向かってきて・・・」
「おもしろい!」
 それぞれ、互いに並んで術の構えをとる。
「はっ!!」そして先に術を放ったのは、雪妖・紅孩児組であった。
 激しい熱気を伴う炎と、痛みすら通り越すような冷気。それらが真っ直ぐ風花たちへ襲いかかる。
「いくよ、シュナ!!」「うん!!」一呼吸遅れて、風花とシュナも冷気と炎の渦を放つ。
「なんだと!?」すかさず雪妖が疑問の声を上げた。なぜなら、それは雪妖や紅孩児が予想していた対決とは、微妙に違っていたからだ。彼女たちの予想は、冷気対冷気。炎対炎。各々、同じ術と術の対決であろうと。だが、風花たちの攻撃は、その逆であった。
 雪妖の冷気に対し、シュナの炎の渦。紅孩児の炎に対して、風花の冷気。二組の中央で、それぞれ相対する術がぶつかり合う。
「なにが、狙いなの!?」
「ふふ~ん! すぐにわかるわよ!」風花の言うとおり、それは文字通り『雲行きが怪しくなる』ことで、すぐに理解する羽目になる。
 ぶつかりあった熱気と冷気。それは激しい上昇気流を巻き起こした。それにより、まるで塔のように高く厚い『雲』が覆い始め、辺りを暗い景色へと一変させた。
「な……なんだ、この雲は……!?」急激な変化に、戸惑いを隠せない雪妖たち。
「何、アンタたち!? そんなことも知らないの? あれは、『せきせき雲』と言って……」「違う・・『積乱雲』。それに・・、雲の名前が・・・わからないんじゃ・・ないと思う・・」
 シュナのツッコミに一瞬たじろいだ風花だが、再度気を取り直し「つまり、あれは別名『雷雲』ってヤツだ! そこまで言えば何が言いたいのか、わかるだろ!?」とドヤ顔。
「雷系の術は、本来……風(大気)属性の者が扱えるもの。お前たちは二人は、水(氷)と火属性。なのに、なぜそんなもの(雷雲)を生み出せる?」そう問う雪妖に対し、風花とシュナは不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 時間は遡り、決戦場へ向かう直前、猪豚蛇の古民家。
「ええっと、雪女郎……?さんと、サラマンダー……さんでしたっけ?」
 支度を整えた風花とシュナに話しかけてきたのは、復帰したばかりの優里。
「うん、そうだよ。ちなみに呼び名は、風花とシュナってさっき決まったから、それでいいよ! アンタは白い妖魔狩人だよね?」そう返す風花に優里はニコリと微笑み、「高嶺優里といいます。先日(グールの一件)、凛ちゃんを助けてくれたそうですね? だから、一度お礼を言いたくて」と頭を下げた。
「別にいいよ! あたしたちだって、アンタたちのお陰でマニトウスワイヤーから開放されたからね。お互い様じゃん! ところで、マニトウスワイヤーと言えば、アンタ……サンダーバードを倒したんだって? 精霊の間じゃ、有名だよ~っ!」
「サンダーバードは強敵ではありましたが、尊敬できる敵でもありました。できれば、他の形で出会いたかった」
「ひとつ・・・聞いていい・・?」今まで黙って聞いていたシュナが、ポツリと口を開いた。「貴女は、どうして・・そんなに強い・・の? 人間なのに・・妖怪や、精霊と・・・戦うことが、怖く・・ないの?」
 シュナの問いに優里はしばし考えこむように目を閉じ、間を置いた。そして、ゆっくりと……「怖いですよ。少なくともサンダーバードと戦ったときは、敗北も覚悟しました」と答えた。「ですが、守りたいもののために何としてでも勝たなければならない。その一心が、私を勝利に導いてくれました」
「気持ち・・だけで、勝てる・・・ものなの? 明らかに・・自分よりも、上回った・・力をもった・・・相手でも・・? ワタシは・・それがわからない・・・」
「もちろん、ただ……気持ちだけでは勝てません。大事なのは、追い込まれた状態から、どれだけ知恵や勇気を振り絞れるか……。だと思います」
「知恵・・や、勇気・・・?」
「はい。もし、自分の力だけでは不足を感じるようであれば、相手の力を利用するのも手です!」
「相手の力を利用? それは、あたしも考えたことがなかったな……」
「相手というのは、敵でも味方でも構いません。たとえば、風花さんとシュナさんは、互いに正反対の能力を持っておられますよね? コレ、上手く利用すれば、まるっきり異なった力を呼び出すことができますよ!」
 優里はそう言って風花とシュナ、二人の手と繋ぐように軽く握った。
「凛ちゃんを助けてくれたお礼です。私の強敵(しんゆう)の力、貴女方にもお分けいたしますね」そう言うと、優里の白い霊力が繋いだ手を通って、二人の身体に伝わっていった。

「喰らえーっ、雷撃~~っ!!」風花の腕の振りに合わせ、激しい雷鳴と共に、稲光が炸裂する! それは雪妖と紅孩児、二人から数メートル離れた場所に火柱を打ち上げた。驚きのあまり、瞬きすら忘れた二人。

妖魔狩人若三毛凛if第20話04

「あちゃーっ。やっぱ……初めての術は、上手くいかないね!」戯けたように、ペロっと舌を出す風花。
「し……信じられねぇ……。火・水・大気・大地……。それぞれ元素の力は、精霊……もしくは、それに通じた者から術を受け継ぐことでしか、使えねぇーはず。なのに、何故だ……!?」
「もちろん、雷撃そのものはサンダーバードの術を分けてもらったからだけど、雷雲を呼び起こせたのは、自然科学という……人間の知識だ! いやーっ、人間も凄いもんだよね!」嬉々として語る風花。
「人間の知識……? サンダーバードの術……? なんで、てめぇらみてぇーな妖怪が、そんなもん持ってんだ!!?」そう叫びながら、まるで自棄になったように炎を吹き出す紅孩児。
 その炎の中心を、真っ直ぐ貫くように突き進む一筋の光。それはシュナが放った、収縮された電撃によるもの。眩い光を発しながら、それは紅孩児を直撃した。「あぐっっ!?」声にならない悲鳴を上げ、強烈な力で弾かれたように吹っ飛ぶ紅孩児。十数メートル程転げまわったが、ピクピクと痙攣し呻き声を上げていることから、命に別状は無さそうだ。ただ、完全に白目を剥いており、起き上がれる状態で無いことはハッキリわかる。
 それを確認したシュナは、「その答えは・・、貴方たち・・のように、自分の・・力だけを追求する・・者には、わからない・・と思う」と静かに告げた。
 そして、もう一方では見事に雷撃を決め、雪妖を撃退した風花が、得意満面の笑みでサムズアップを決めていた。もっとも、気絶している雪妖の周りには、いくつもの雷撃の跡が残っており、雷撃の術の難しさと、アンド……風花の意外な不器用さも物語ってはいたが。


 辺りを木々で覆い尽くした森の中・・・。
「う……嘘だろ? 私たち、勝っちゃった……の?」そう呟くのは、琉奈と涼果の二人。
 ここだけを聞くと、一体何があったのか? とても気になる所だろう。そこで、話を数十分ほど前に遡らせる。
 九頭の妖怪、鬼車に襲われた二人。鬼車は妖怪としてのレベルが高く、素早い動きで翻弄し、口から吐き出す脱魂の粘液で、近寄ることすらままならない。
「空中では、不慣れな私達が不利だ。地上に降りるよ、涼果」琉奈はそう言うと、森の中へ降り立つ。そしてふたりとも、木陰に身を隠した。
 後を追って森の中に降り立った鬼車。十八の目で二人の姿を探し始める。ミミズクのような丸く大きな目で探されては、とても長い時間、隠れていられそうにない。

妖魔狩人若三毛凛if第20話03

「涼果、アイツを追い払う方法……、弱点みたいなものはないの!?」鬼車に気づかれないように、蚊の鳴くような声で囁く琉奈。
「姑獲鳥の記憶では、アイツとマトモに戦ったことはないみたい。だって……アイツの方が強いから、大抵追い払われていたみたいだよ」と、却って不安を煽る言葉が返ってきた。「あ、でも……」突然思い出したように声を発すると「アイツの失った頭部についての逸話は、聞いたことがある!」と語り始めた。
「逸話……?」「うん、アイツは元々……十の頭を持っていたらしいの。そのうちの一つを、ある動物に喰いちぎられたとか……」「ある動物……って?」
「犬!!」
「犬~~っ!? あんな化物に喰いつくなんて、どんだけ獰猛な犬だったんだ!?」予想もつかない答えに、琉奈は思わず大声でツッコミそうになってしまった。
「そのへんの経緯はよく知らないけど、とにかくアイツは、今でも犬だけは嫌っているらしいの」涼香はそこまで言うと、改めて鬼車の様子を伺った。執拗に辺りを見渡しながら、森を彷徨う鬼車。
「なぁ……?」フトっ、思いついたように琉奈が声を掛けた。「涼果の出す……赤子って妖怪。あいつら、言葉を話すことはできるの?」
「言葉……? アタシの手足となって動くだけの妖怪だから、会話とか……多分ムリだと思うけど?」
「会話とかじゃなく、単純な一つの単語を声にするだけでいいんだ……?」
「それなら、多分できると思う」涼果がそう答えると、「ヨシッ!!」と琉奈は拳を握りしめた。
「上手くいくか……どうかは、わからないけど、ここで見つかるのを待つよりはマシだ!」琉奈はそう言って、一つの提案を涼果に持ちかけた。
「わかった!」涼果はそう頷くと、自身の髪の毛を数本引き抜く。それに息を吹きかけることで、赤い肌の幼子姿の妖怪、赤子が誕生する。
 数人の赤子たちは、各々森の中を駆け込んでいった。そして、鬼車を包囲するように散らばっていく。それを確認した琉奈。「今だっ!」と涼果に合図を送った。
「ワンッ!」
「ワンッ!]
 鬼車を取り囲んだ赤子たちは、それぞれ一斉に犬の鳴き声のような声を上げる。
「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」「ワンッ!」
 森の中を響き渡る、犬の鳴き声(の真似)の大合唱! それまで無表情に涼果たちを探しまわっていた鬼車に、明らかに『怯え』の表情が浮かんだ。
「やっぱりだ! 首を喰いちぎられたアイツにとって、犬はトラウマなんだ!!」琉奈の言葉を象徴するように、打って変わって豹変する鬼車。九つの頭は統率が取れず、威嚇のような声を発するもの。辺り構わず粘液を吹きかけるもの。頭だけでも、その場から飛び立とうとするものなど、滑稽ともとれる取り乱しようだ。
「ここが勝負どころ!!」今まで身を隠していた琉奈。空かさず立ち上がり、渾身の真空切断! 一直線に進んだそれは、鬼車の一本の首を通り過ぎる。
 つい数日前まで、極普通の女生徒だった琉奈。大した妖力のない彼女が放った妖術など、たかが知れている。当然、鬼車の首を通り過ぎた攻撃は、妖怪には掠り傷に毛の生えた程度の浅いものだった。だが、鬼車にとって、犬から受けた恐怖心を呼び起こすには、充分過ぎるものであった。
「キェェ……シャァ……フェェ……!!」何を言っているのか、まるでわからない叫び声を上げ、まるで宇宙へ向けて飛びだつロケットのように、凄まじい勢いで上空へと飛び立ち、そのままどこかへ消え失せてしまった。
「う……嘘だろ? 私たち、勝っちゃった……の?」
 それを見た琉奈と涼果は、呆然と見送りながら呟いた。


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