2013.12.09 Mon
妖魔狩人 若三毛凛 if 第08話「対決 銅角 -後編-」
①凛は小白を信じ、血を分け与える。
「どういった意味かはわからないけど、わたしで出来ることなら協力するわ」
凛の言葉に真っ先に反応したのは、金鵄だった。
「ちょっと待つんだ凛!! 相手は中国妖怪、しかも先日戦った胡媚娘という妖怪の妹弟子なんだよ。何か罠を張っているのかもしれない!」
凛は金鵄の叫びに静かに首を振ると、
「今まで戦ってきた中国妖怪の殆どからは、強い邪気を感じ取れた。でも、あの子からはそれが感じ取れない。むしろ、胡媚娘を想う強い気を感じられる」
「凛……?」
「わたしは、あの子を信じるよ」
凛はそう言うと、小白を見つめた。
「血を分けるってどういう事? 具体的に教えてくれない?」
凛の真っ直ぐな眼差しに一瞬戸惑いを見せた小白だったが、
「ありがとう。 血を分けると言っても、そんな大げさな事ではない。あたしがホンの一舐めできる程度でいい。」
小白はそう言って手にした小刀で凛の指先を小さく切ると、血がにじみ出たその指を己の口に含んだ。
「遅い、あと5分で来なければ、こっちから出向くとするか。もちろんその時は……」
小学校の体育館で凛を待っていた銅角はそう呟くと、人質として捕らえた若い女性を目を向け
「お前には、死んでもらうけどな!」
猿轡をはめられ話すことができない女性は、目に涙を貯めて首を横に振った。
そこへ・・・・・
「その人を殺させはしない!」
金鵄の叫び声と共に、凛が姿を現した。
「お前が妖魔狩人か? なるほど、噂通りまだ子どもだな」
銅角はニヤリと笑みを浮かべると、腰に携えた剣を抜いた。
間髪入れず、凛が矢を放った。鋭い金属製の矢尻が銅角を捉える。
だが銅角は手にした剣で簡単に弾き返すと、一足飛びで間合いを詰めた。
飛び退けるように再び間合いを開けた凛。
その姿を見た銅角は、全てを悟ったような顔をし、
「チッ……!妖魔狩人って噂ほどじゃねぇーな! つまらん、もう終わらせるぜ」
そう言って瓢箪の詮を抜き、その口を凛へ向けた。
「おい、妖魔狩人・・・」
「な……なによ?」
凛がそう答えた瞬間、その体は宙に浮いたかと思うと、一気に瓢箪へ吸い込まれていった。
「きゃああああああっ!!?」
「り……凛っ!?」
様子を見ていた金鵄が叫ぶ。
「少し待てばコイツは美味そうな液体になる。酒で割って飲んだら最高だぜ!」
銅角は瓢箪を振り回しながら見せつけると、床の上に酒の肴を並べ始めた。
頃合を見て瓢箪に酒を注ぐと、軽く回して混ぜ合わせ、枡に注ぎ直した。
フルーティーな香りな漂う、白く半透明な液体が揺らめく。
「ほぅ? 匂いは胡媚娘に似ているな・・・」
銅角は香りを嗅ぐと、液体に口をつけた。
舌の上で転がすように味を確かめる。
「甘酸っぱくてそれなりに旨いが、思ったほど霊力は無さそうだな」
首を傾げながら肴を口にし、残りの液体を喉へ流し込む。
ぷはぁ!
瓢箪の中の酒を全て飲み終えると、大きく息を吐いた。
「まぁ……不味くはなかったし、それなりに酔えたから良しとするか!」
銅角は、ほろ酔い気分でそのまま横になると、数分後には大きなイビキをかき始めた。
「予定通り、眠ったようだね」
今まで黙って様子を見ていた金鵄がそう言うと、扉の影から一人の少女が姿を現す。
「ごめんね……小白さん」
姿を現したのは、瓢箪に吸い込まれ酒にされ銅角に飲まれたはずの、凛だった。
今から一時間前・・・・
「わたしに変身……する!?」
胡媚娘の敵を討ちたいと打ち明けた後、小白は自身の能力について話だした。
「そう、あたしは血を舐めることで、その相手の遺伝子情報などを読み取る事ができる。その情報を使って、姿をそっくりに変化させることができるんだ。」
「凛の姿になって、何をするつもりなんだ?」
「銅角は必ず敵を瓢箪へ吸い込み酒にして飲む。これが奴の常勝手段だ」
「…………」
「あたしが妖魔狩人に化けで戦えば、奴は気づかないままあたしを吸い込み、酒にして飲むだろう」
「え……?」
「その後、酔った状態で一眠りするのが、奴の癖だ。」
小白はここまで言うと、改めて凛の眼差しを見つめた。
「奴が寝込んだ後、そこを狙って射て!!」
―ちょっと待って!? それじゃ……貴方は!?―
「銅角は妖魔狩人のあんたでも、まともに戦って勝てる相手ではない。これが奴を仕留める一番確実な方法だ」
「なるほど、どんな強者でも勝利を確信したその瞬間が一番無防備。いい手だと思うよ、凛!」
金鵄も相槌をうつ。しかし凛は・・・・・
「嫌……、小白さん、貴方を犠牲にしなければならないなら、そんな戦い方はしたくない!」
「つまらないプライドは捨てて! この方法しかないんだから」
「たとえつまらなくても、わたしはアイツ等とは違う。誰かを犠牲にしてまで勝ちたくない」
「しかし凛! 中国妖怪を止めなければ、この村の人達や、いずれは日本に住む人々が犠牲になる!」
「だからといって・・・!!」
頑なに賛同しない凛を見て、小白はニコリと微笑むと
「聞いて……妖魔狩人。あたしの命はどちらにしろ、持ってあと1~2ヶ月なんだ」
「えっ!?」
「あたしは、妖力硬化型心筋症という病気に掛かっている」
「妖力……硬化型……?」
「妖力硬化型心筋症というのは、妖力が全身に行き渡らなくなり、心臓が徐々に動かなくなる妖怪特有の不治の病だよ、凛……」
金鵄が説明を入れる。
「あたしは胡媚娘姉さんと二人で、中国全土に名を響きわたせるような大妖怪になる事が夢だった。
でも数カ月前この病に掛かっている事を知り、あたしは自暴自棄になった……」
「…………」
「だからだと思う。元々天下なんて興味が無かった姉さんが、急に妖木妃の配下にまでなって、名を轟かせようなんて思いついたのは……。
きっと、あたしの代わりに夢を果たしてくれようとしたんだと思う」
「だから、あんな殺戮までして……」
「そんな姉さんを銅角は嘲笑うように殺した。姉さんに勝目が無いとわかっていながら!」
悔しさを隠しきれない小白の目には、涙が溜まっている。
「どうせ長くない命なら、奴を仕留める事に使いたい!! 頼む……妖魔狩人!」
小白の気迫の篭った訴えに、凛は眉間にしわを寄せていたが
「わかった。貴方の命、絶対に無駄にしない!」
高々なイビキを上げながら、銅角は熟睡している。
凛は静かに狙いを定め、弦を引く。
シュッ!!
風きり音と共に、青白い光を放つ霊光矢が放たれた。
しかし……
ブスッッ!!!
急所を狙ったのに、その矢は差し出した銅角の左腕に突き刺さっていた。
「危なかったぜ! 話に聞くより、あまりに妖魔狩人が弱っちいので何かあると踏んでいたが、こういう事か」
爛々とした目を輝かせながら、銅角が起き上がる。
霊光矢が刺さった左腕は、浄化の力で霧が晴れるよう消え落ちていく。
銅角は、力が全身に行き渡る前に、自身の腕を肩口から切り落とした。
「さっき俺様に飲まれた奴が誰かは知らんが、浄化の矢とやらも霊力で作られた矢でなく普通の矢尻だったし、バレバレなんだよ」
「そ…そんな、小白の命を掛けた作戦が……」
金鵄が不安げな声を上げる。
「今度はもう少し楽しませろよ!」
銅角はそう叫ぶと、拳を振りかざし凛に向かって飛びかかっていった。
必死で間合いを開け、次の矢を放つ凛。
「おっと!!」
寸前でかわす銅角。その頬には矢の衝撃波によって傷跡ができていた。
「さっきとは段違いの速さ、威力だぜ! これが数々の妖怪を葬ってきた妖魔狩人の力か。だが……」
一足飛びで間合いに入り、凛の首を掴むと自身の目線の高さまで持ち上げた。
「うぐっっっっ……」
苦悶の表情を浮かべる凛。
「いい表情だ、ゾクゾクするぜ。酒にして飲むのもいいが、たまには生きたまま、丸噛じりというのも、いいかもな!」
悶々とした笑顔で、舌なめずりをする銅角。
―く…くる……しい……―
グイグイと首を絞められ、凛の意識が朦朧としてくる。
―も……もう……ダメ……―
手足がダラリと伸び、気が飛びそうになったその時……
(もう少し……もう少し、頑張って……妖魔狩人……)
凛の頭の中に直接語りかけてくる声が。
―だ……だれ……?―
(頼む……あたしと姉さんの敵を……)
―小…白……さん……?―
そう思った瞬間、僅かだが首を絞める力が緩んだ。
(今のうちに……)
―銅角に飲み込まれた小白さんは、まだ……銅角の中で生きている……?―
凛は残った力を振り絞り、必死で手を伸ばす。
伸ばした手の先で触れた物、それは銅角の腰に下がった紅色の瓢箪。
凛は瓢箪の詮を抜くと……
「ど……銅…角……」と発した。
「あん? まだ息の根が止まってねぇーのか?」
銅角がそう返事をした瞬間!
凛の首を絞めていた手がスルリと抜けるように離れたかと思うと、
「ぎゃ……ぎゃああああっ!!」という悲鳴と共に、銅角の巨体が瓢箪に吸い込まれていった。
「凛、早く……早く詮を!!」
金鵄の叫び声が聞こえる。
凛は瓢箪を手に取り、詮を閉じた。
数分後、瓢箪を真っ二つに割ると、中から元は銅角だったと思われる液体が、こぼれ落ちた。
液体からは妖力も何も感じない。間違いなく銅角は絶命している。
すると、液体から白い靄のようなものが浮かび上がった。
靄は静かに馬か鹿のような動物の形を司ると、光のような速さで飛び去っていった。
「金鵄、今のは?」
「うん……、銅角は封印されている麒麟の鍵を握っていたらしいから、今のがそうなのかも……?」
そう、その白い靄は、瞬く間に麒麟が封印されている祠の前に来ていた。
「ありがたい、もう戻らないと思っていた其れがしの肉体。こうして戻ってきてくれた」
祠の中から、老いた声が聞こえる。
「だが、仮に元の姿に戻っても、其れがしの寿命はもう長くない」
麒麟の声に、そばにいたセコは悲しげにそれを聞いている。
「この力、あの者に託そう……。妖魔狩人の新たな力として……」
第九話につづく
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「どういった意味かはわからないけど、わたしで出来ることなら協力するわ」
凛の言葉に真っ先に反応したのは、金鵄だった。
「ちょっと待つんだ凛!! 相手は中国妖怪、しかも先日戦った胡媚娘という妖怪の妹弟子なんだよ。何か罠を張っているのかもしれない!」
凛は金鵄の叫びに静かに首を振ると、
「今まで戦ってきた中国妖怪の殆どからは、強い邪気を感じ取れた。でも、あの子からはそれが感じ取れない。むしろ、胡媚娘を想う強い気を感じられる」
「凛……?」
「わたしは、あの子を信じるよ」
凛はそう言うと、小白を見つめた。
「血を分けるってどういう事? 具体的に教えてくれない?」
凛の真っ直ぐな眼差しに一瞬戸惑いを見せた小白だったが、
「ありがとう。 血を分けると言っても、そんな大げさな事ではない。あたしがホンの一舐めできる程度でいい。」
小白はそう言って手にした小刀で凛の指先を小さく切ると、血がにじみ出たその指を己の口に含んだ。
「遅い、あと5分で来なければ、こっちから出向くとするか。もちろんその時は……」
小学校の体育館で凛を待っていた銅角はそう呟くと、人質として捕らえた若い女性を目を向け
「お前には、死んでもらうけどな!」
猿轡をはめられ話すことができない女性は、目に涙を貯めて首を横に振った。
そこへ・・・・・
「その人を殺させはしない!」
金鵄の叫び声と共に、凛が姿を現した。
「お前が妖魔狩人か? なるほど、噂通りまだ子どもだな」
銅角はニヤリと笑みを浮かべると、腰に携えた剣を抜いた。
間髪入れず、凛が矢を放った。鋭い金属製の矢尻が銅角を捉える。
だが銅角は手にした剣で簡単に弾き返すと、一足飛びで間合いを詰めた。
飛び退けるように再び間合いを開けた凛。
その姿を見た銅角は、全てを悟ったような顔をし、
「チッ……!妖魔狩人って噂ほどじゃねぇーな! つまらん、もう終わらせるぜ」
そう言って瓢箪の詮を抜き、その口を凛へ向けた。
「おい、妖魔狩人・・・」
「な……なによ?」
凛がそう答えた瞬間、その体は宙に浮いたかと思うと、一気に瓢箪へ吸い込まれていった。
「きゃああああああっ!!?」
「り……凛っ!?」
様子を見ていた金鵄が叫ぶ。
「少し待てばコイツは美味そうな液体になる。酒で割って飲んだら最高だぜ!」
銅角は瓢箪を振り回しながら見せつけると、床の上に酒の肴を並べ始めた。
頃合を見て瓢箪に酒を注ぐと、軽く回して混ぜ合わせ、枡に注ぎ直した。
フルーティーな香りな漂う、白く半透明な液体が揺らめく。
「ほぅ? 匂いは胡媚娘に似ているな・・・」
銅角は香りを嗅ぐと、液体に口をつけた。
舌の上で転がすように味を確かめる。
「甘酸っぱくてそれなりに旨いが、思ったほど霊力は無さそうだな」
首を傾げながら肴を口にし、残りの液体を喉へ流し込む。
ぷはぁ!
瓢箪の中の酒を全て飲み終えると、大きく息を吐いた。
「まぁ……不味くはなかったし、それなりに酔えたから良しとするか!」
銅角は、ほろ酔い気分でそのまま横になると、数分後には大きなイビキをかき始めた。
「予定通り、眠ったようだね」
今まで黙って様子を見ていた金鵄がそう言うと、扉の影から一人の少女が姿を現す。
「ごめんね……小白さん」
姿を現したのは、瓢箪に吸い込まれ酒にされ銅角に飲まれたはずの、凛だった。
今から一時間前・・・・
「わたしに変身……する!?」
胡媚娘の敵を討ちたいと打ち明けた後、小白は自身の能力について話だした。
「そう、あたしは血を舐めることで、その相手の遺伝子情報などを読み取る事ができる。その情報を使って、姿をそっくりに変化させることができるんだ。」
「凛の姿になって、何をするつもりなんだ?」
「銅角は必ず敵を瓢箪へ吸い込み酒にして飲む。これが奴の常勝手段だ」
「…………」
「あたしが妖魔狩人に化けで戦えば、奴は気づかないままあたしを吸い込み、酒にして飲むだろう」
「え……?」
「その後、酔った状態で一眠りするのが、奴の癖だ。」
小白はここまで言うと、改めて凛の眼差しを見つめた。
「奴が寝込んだ後、そこを狙って射て!!」
―ちょっと待って!? それじゃ……貴方は!?―
「銅角は妖魔狩人のあんたでも、まともに戦って勝てる相手ではない。これが奴を仕留める一番確実な方法だ」
「なるほど、どんな強者でも勝利を確信したその瞬間が一番無防備。いい手だと思うよ、凛!」
金鵄も相槌をうつ。しかし凛は・・・・・
「嫌……、小白さん、貴方を犠牲にしなければならないなら、そんな戦い方はしたくない!」
「つまらないプライドは捨てて! この方法しかないんだから」
「たとえつまらなくても、わたしはアイツ等とは違う。誰かを犠牲にしてまで勝ちたくない」
「しかし凛! 中国妖怪を止めなければ、この村の人達や、いずれは日本に住む人々が犠牲になる!」
「だからといって・・・!!」
頑なに賛同しない凛を見て、小白はニコリと微笑むと
「聞いて……妖魔狩人。あたしの命はどちらにしろ、持ってあと1~2ヶ月なんだ」
「えっ!?」
「あたしは、妖力硬化型心筋症という病気に掛かっている」
「妖力……硬化型……?」
「妖力硬化型心筋症というのは、妖力が全身に行き渡らなくなり、心臓が徐々に動かなくなる妖怪特有の不治の病だよ、凛……」
金鵄が説明を入れる。
「あたしは胡媚娘姉さんと二人で、中国全土に名を響きわたせるような大妖怪になる事が夢だった。
でも数カ月前この病に掛かっている事を知り、あたしは自暴自棄になった……」
「…………」
「だからだと思う。元々天下なんて興味が無かった姉さんが、急に妖木妃の配下にまでなって、名を轟かせようなんて思いついたのは……。
きっと、あたしの代わりに夢を果たしてくれようとしたんだと思う」
「だから、あんな殺戮までして……」
「そんな姉さんを銅角は嘲笑うように殺した。姉さんに勝目が無いとわかっていながら!」
悔しさを隠しきれない小白の目には、涙が溜まっている。
「どうせ長くない命なら、奴を仕留める事に使いたい!! 頼む……妖魔狩人!」
小白の気迫の篭った訴えに、凛は眉間にしわを寄せていたが
「わかった。貴方の命、絶対に無駄にしない!」
高々なイビキを上げながら、銅角は熟睡している。
凛は静かに狙いを定め、弦を引く。
シュッ!!
風きり音と共に、青白い光を放つ霊光矢が放たれた。
しかし……
ブスッッ!!!
急所を狙ったのに、その矢は差し出した銅角の左腕に突き刺さっていた。
「危なかったぜ! 話に聞くより、あまりに妖魔狩人が弱っちいので何かあると踏んでいたが、こういう事か」
爛々とした目を輝かせながら、銅角が起き上がる。
霊光矢が刺さった左腕は、浄化の力で霧が晴れるよう消え落ちていく。
銅角は、力が全身に行き渡る前に、自身の腕を肩口から切り落とした。
「さっき俺様に飲まれた奴が誰かは知らんが、浄化の矢とやらも霊力で作られた矢でなく普通の矢尻だったし、バレバレなんだよ」
「そ…そんな、小白の命を掛けた作戦が……」
金鵄が不安げな声を上げる。
「今度はもう少し楽しませろよ!」
銅角はそう叫ぶと、拳を振りかざし凛に向かって飛びかかっていった。
必死で間合いを開け、次の矢を放つ凛。
「おっと!!」
寸前でかわす銅角。その頬には矢の衝撃波によって傷跡ができていた。
「さっきとは段違いの速さ、威力だぜ! これが数々の妖怪を葬ってきた妖魔狩人の力か。だが……」
一足飛びで間合いに入り、凛の首を掴むと自身の目線の高さまで持ち上げた。
「うぐっっっっ……」
苦悶の表情を浮かべる凛。
「いい表情だ、ゾクゾクするぜ。酒にして飲むのもいいが、たまには生きたまま、丸噛じりというのも、いいかもな!」
悶々とした笑顔で、舌なめずりをする銅角。
―く…くる……しい……―
グイグイと首を絞められ、凛の意識が朦朧としてくる。
―も……もう……ダメ……―
手足がダラリと伸び、気が飛びそうになったその時……
(もう少し……もう少し、頑張って……妖魔狩人……)
凛の頭の中に直接語りかけてくる声が。
―だ……だれ……?―
(頼む……あたしと姉さんの敵を……)
―小…白……さん……?―
そう思った瞬間、僅かだが首を絞める力が緩んだ。
(今のうちに……)
―銅角に飲み込まれた小白さんは、まだ……銅角の中で生きている……?―
凛は残った力を振り絞り、必死で手を伸ばす。
伸ばした手の先で触れた物、それは銅角の腰に下がった紅色の瓢箪。
凛は瓢箪の詮を抜くと……
「ど……銅…角……」と発した。
「あん? まだ息の根が止まってねぇーのか?」
銅角がそう返事をした瞬間!
凛の首を絞めていた手がスルリと抜けるように離れたかと思うと、
「ぎゃ……ぎゃああああっ!!」という悲鳴と共に、銅角の巨体が瓢箪に吸い込まれていった。
「凛、早く……早く詮を!!」
金鵄の叫び声が聞こえる。
凛は瓢箪を手に取り、詮を閉じた。
数分後、瓢箪を真っ二つに割ると、中から元は銅角だったと思われる液体が、こぼれ落ちた。
液体からは妖力も何も感じない。間違いなく銅角は絶命している。
すると、液体から白い靄のようなものが浮かび上がった。
靄は静かに馬か鹿のような動物の形を司ると、光のような速さで飛び去っていった。
「金鵄、今のは?」
「うん……、銅角は封印されている麒麟の鍵を握っていたらしいから、今のがそうなのかも……?」
そう、その白い靄は、瞬く間に麒麟が封印されている祠の前に来ていた。
「ありがたい、もう戻らないと思っていた其れがしの肉体。こうして戻ってきてくれた」
祠の中から、老いた声が聞こえる。
「だが、仮に元の姿に戻っても、其れがしの寿命はもう長くない」
麒麟の声に、そばにいたセコは悲しげにそれを聞いている。
「この力、あの者に託そう……。妖魔狩人の新たな力として……」
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