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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話「対決!独楽勝負 -後編-」

① 優里は凛を信じ、独楽勝負に挑む


― 凛ちゃんは、私よりずっと高い霊力を持っている。 さっき凛ちゃんは勘のようなものと言っていたけど、おそらく名の通り霊感から、何かを感じ取ったに違いないわ。―
 優里はそう決断すると、
「セコさん、独楽の回し方・・・知っている? 知っていたら教えてほしいのだけど?」
 と問いかけた。
「はい、ぼく自身はした事がありませんが、昔……子供たちが遊んでいるのをよく見ていました」
「ありがとう、お願いね」
「優里、考え直したほうがいい。あまりに不利だ!」
 金鵄はまだ反対し続ける。
「金鵄さん、私たちは凛ちゃんを信じて、こうして妖怪と戦う道を選びました。だから、最後まで凛ちゃんを信じましょう!」
 微笑む優里。もはや迷いも無い。

「どうするか、決めたばいね?」
「ええ、独楽勝負をする! だからわたしを独楽に変えて!」
 凛はそう言って前へ出た。
「いい度胸ばい!」
 ネンカチは、そう言って紐を凛に巻きつけた。
 女教師と同じように、ポンッ! という音と共に白煙が巻き上がる。
 しばらくすると、そこには一つの黒い独楽が落ちていた。
「凛ちゃん・・・・」
 優里は優しく丁寧に、黒い独楽を拾いあげる。
 よく見ると、独楽の上の模様は、凛の顔にも見える。
 だが、独楽となった凛は何も語ることができない。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話(3)

 すると、独楽は優里の手の中で、青白い光に包まれていく。
「こ…これは……?」
 優里は思わず声を漏らす。
 と同時に・・・
「えっ、凛……なのか!?」
 と金鵄が声を上げた。
「どうしたの・・・金鵄さん!?」
 慌てて振り返る優里。
「凛が僕の頭の中に語りかけてくる・・・・」
 しばらく驚きを隠せない金鵄だったが・・・
「そうか、独楽になっても凛の意識は残っているんだ! そして霊波動を通して、僕と会話ができる!!」
「ホント・・・!?」
「ああ、自分は大丈夫だから、勝負を急いでくれと、凛は言っている」
「わかったわ!!」
 優里はそう言うと、セコに独楽の使い方を教わり始めた。
 紐の巻き方、腕の振り方。
「まだかい?」
 ネンカチが急かすが、優里は無視して使い方を習う。
 負けるわけにはいかない。子どもたちもそうだけど、絶対に凛ちゃんを元に戻さなければいけない!
 優里の頭には、それしかなかった。
「お待たせしました!」
 ひと通り、独楽の使い方を習った優里は、独楽(凛)を手にし、前へ出た。
「勝負は一回勝負! 先に独楽が倒れた方が負けばい。途中、回転を強めるために自分の独楽を叩くのは有りとするばい。いいか?」
「了解しました!」
 独楽を持つ手に力が入る。
「では、審判はぼくがします!」
 セコが間に入る。
「勝負・・・・・・開始っ!!」
 セコの合図と共に、ネンカチ・・そして優里が独楽を投げる!
 激しく回転する、両者の独楽!
 ガチッ! ガチッ! と、まるで火花が散る勢いでぶつかり合う。
「ひゃはははははっ♪」
 ネンカチが、自分の独楽の横っ面を叩きだした。更に勢いを増すネンカチの独楽。
 何度も押され、やや回転に鈍りが見える優里の独楽(凛)。
「やばい・・・凛っ!!」
 金鵄がそう呟くと、まるでその言葉に反応したかのように・・・
 パァ~~ッと、優里の独楽(凛)が、青白い輝きを強めていった。
 その光に威嚇されたかのように、ネンカチの独楽は若干勢いが弱まる。
「よしっ!」
 この瞬間を逃す手は無い! 

妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話(4)

 優里は手にした紐で、己の独楽の横面を何度も叩きつけ、回転を強めていく!
 ガンッ!!
 勢いが増した優里の独楽(凛)は、ネンカチの独楽を強く叩きつけ形勢を逆転し始めた。
 その時・・・・
(き…金鵄……っ)
 金鵄の頭の中に弱々しい声が流れてきた。
(金鵄……ちょっ…と、やばい……。目が……目が回って………リ…リバース……しそう……。お…おぇ……)
 それは今にも逝っちゃいそうな、弱った凛の声・・・
「り…凛・・・!?」
(ご…ごめ……一旦……中断…………)
 苦しそうな凛の声。
「金鵄さん、凛ちゃん……どうかしたの!?」
 優里が心配そうに振り返った。
「優里、一旦・・・・」
 そこまで言いかけた金鵄だったが、戦況はあともう一押しで勝てる勢い。ここは・・・
「いやっ、もう一息だ! 一気にやってくれと、凛も言っている!!」
(えっ・・・・・・?)
「わかりました!!」
 優里は更に横面を叩き、コレ以上にない勢いで独楽を回す!
(金鵄、あんた一生恨む~~~~っ!!)
 ガンッ!!
 ついに、ネンカチの独楽は弾け飛んで、その場で転がり落ちた。
「勝者、妖魔狩人組っ!!」
 ここで審判のセコが勝敗を下す。
「ま…負けた……ばい……」
 ネンカチが、がっくりと膝をついた。
 ポンッ! ポンッ! ポンッ!
 ネンカチが負けを認めた瞬間、アチコチで弾けるような音と、白煙が立ち込める。
 校庭に転がっていた数々の独楽は、次々に子どもたちの姿へ戻っていった。
 あの若い女教師も。そして・・・
「う……うぅ…………」
 凛も元の姿に戻った・・・が、完全に千鳥足状態。
 よろよろと這いつくばって隅へ辿り着くと・・・
「お……おぇ~~~~~っ……」
 一気に、ゲロゲロ・・・・・

妖魔狩人 若三毛凛 if 第12話(5)

「凛ちゃん、大丈夫・・・?」
「凛、お疲れっ!」
 心配そうに駆け寄る優里と金鵄。
「き…金鵄、あなた……鬼か!?」
 もはや、キャラ崩壊までしている凛。
「ごめんよ凛、でもあの場面は一気にいくべきだと・・・」
「わ…わかるけど……、わかるけど……、お…おぇ……っ」
 そんな凛の背中を、優里が優しく擦ってやる。
『五十数年ぶりに熱くなれた、感謝しとるばい!』
 凛、優里、金鵄、セコの頭の中に直接声が聞こえた。
 皆が振り返ると・・・
「あっ!?」
 ネンカチの身体は溶けるように崩れ落ち、そしてついに土の塊となった。
「消滅したのか・・・?」
 金鵄が近寄って確認していると、
「それは、ネンカチじゃないよ・・・」
 と、凛が遮った。
「どういう事、凛ちゃん・・?」
 優里も不思議そうに凛を見つめる。
「ネンカチの本体は、わたしと直接ぶつかり合った……独楽!」
「ええ~~~~~~っ!!?」
 驚く一同。
『ほぅ、気づいておったばいね』
 またも頭の中で声が響く。
「まさか・・・・」
 皆がネンカチの独楽に目をやると、まるで陽炎のような赤い気が独楽から吹き出ている。
『そうばい、おいどんが本体ばい』
 よく見ると、独楽の上部にクリクリっとした大きな目が。
『おいどんは五十数年前、この村で暮らしていた独楽好きの子どもの物だった。 だが、その子は親と一緒にこの村を離れ、おいどんは置き忘れていかれたばい』
「…………」
『今日まで五十数年、おいどんはもう一度、熱い独楽勝負をしたい! その想いだけが募っていった。 そして今日、キザで褐色の大男の血に触れたら、こうして妖怪として生まれ変わる事ができたばい……』
「キザで褐色の大男・・・・、ムッシュ・怨獣鬼・・!?」
『おいどんは、別に子どもに恨みがあったわけではない。 ただもう一度勝負したかっただけ。 だが、今の子どもたちは独楽という存在すら知らない……、それが悔しくなってあんな事をしてしまったばい』
「そうなのね……」
『でも、お前たちのお陰で熱い勝負ができた。もう……悔いは無いばい。 ありがとさん……』
 独楽本体であるネンカチは、ここで静かに目を閉じた。
 すると、いつの間にか全体が青白い光で包まれている。
「この光はもしかして・・・・・」
「うん、わたしの霊力。 独楽にされた身体に霊力を纏わせ、ぶつかり合う事で浄化していたの」
 凛の言葉に合わせるように、光に包まれたネンカチは、徐々に光の粒子となって、静かに消えていった。
「凛ちゃんは、最初からネンカチの本体が独楽である事を、気づいていたの?」
「はい、確信は無かったけど、あの独楽のほうが強い妖力を感じられて・・・」
「だったら、わざわざ独楽勝負なんてしないで、普通に独楽を攻撃すれば良かったんじゃないか?」
 金鵄が、そう問いただすと、
「ネンカチからは、邪悪な妖気は感じ取れなかった。 感じ取れたのは、勝負に掛ける未練だけ。 だったら、それを解消してやればいいかな…と」
 凛はそう答えた。そして・・・
「潰し合うことだけが、妖怪との戦いじゃない。 わたしはそう思うんだ・・・」


 勝負を終えて和やかな雰囲気の一同を少し離れた塀から、二つの人影が。
 それは、嫦娥とムッシュ・怨獣鬼の姿であった。
「まさかお前さんの血は、動物だけでなく物品までも妖怪化できるとはのぉ……」
「ええ、吾輩も驚きましたよ。ま、どちらにしろ……」
 ムッシュは自慢のカイゼル髭を摘むと。
「うむ、悪くない~♪」
「うん?」
 嫦娥は上機嫌のムッシュを無視して、フトっ校門に目をやると、そこにはもう一つの人影が。
 それは一人の少女の姿。
 よく見ると、その少女は陽炎のような赤い妖気を纏っている。
 そう、凛と同じ柚子中学校の制服。
 ショートヘアに、アンダーリムの眼鏡。
 それは、凛の友人であり幼なじみの、千佳であった。
 金鵄の連絡でまっすぐ現場へ向かった凛。
 千佳は、すぐその後をつけて、全ての戦いを見ていたのだ。
「あの黒い服……あの服には見覚えがある。 やっぱり…ウチはあの服を着た凛と戦った事があるっちゃ……」
「ほぅ、黒い妖魔狩人と戦った事がある? もしかしてお前さん、以前妖樹化して妖怪に転生した娘かの?」
 いつの間にか嫦娥が背後におり、呟くように話しかけてきた。
「妖怪……?」
 真っ青な顔で振り返り、言葉を返す千佳。
「ウチ……、妖怪になったっちゃか……!?」



 第13話へ続く(正規ルート)


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| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 22:06 | comments:8 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話「ムッシュとお呼びください -前編-」

 5月23日、妖怪化した春人との対決から一ヶ月近く前、すなわち胡媚娘が白陰の前に現れた日。
 その日、嫦娥はとある北国の食肉センターにいた。
 なぜ食肉センターにいたのか?
 それは、そこから凄まじい怨念を感じ取ることができたからである。
 興味津々で赴いたそこは、近代化された立派な工場。
 その裏へ回ると、一つの区域で無数のカラス達が集まっていた。
 区域に設置された大きな檻のような籠には、コンベアから白や黒い物体や、赤みがかった液体が流れ落ちてくる。
 それは、牛や豚の生皮、体液などであった。
 よく見ると、皮にも僅かな神経が通っているのか?
 剥がされたばかりのその皮は、まるで生きているように、ピクピクと蠢いていた。
「なるほど・・・・」
 思わず嫦娥は納得した。
 嫦娥が感じた怨念は工場から溢れ出たものが、この皮や体液に寄り集まっているのだ。
 それは、普通の人間が近づくだけで、その凄まじい気で気絶してもおかしくないくらい強力である。
 そこに一羽のカラスが舞い降りた。
 腹を空かしているのか、鋭利な嘴で皮を突こうとしたその瞬間である。
 皮はまるで待ち構えていた大鷲が巨大な翼を広げたかのように、スッポリとカラスに覆い被さり、そのまま飲み込んでしまった。
 カラスを飲み込んだ皮は、やがて激しく鼓動すると、一つの大きな塊に姿を変えた。
 塊は一対の両手、両足を生え揃わせると、ゆっくりと立ち上がる。
フゥ・・・ッ、フゥ・・・ッ、フゥ・・・・
 荒い息を吐きながら立ち上がるその姿。
 仁王立ちした闘牛のような巨大な身体に、黒々と尖った角。
 岩でも噛み砕けそうな鋭い牙。
 そして、激しく血走り、爛々と光る目。
 まさしく獣の邪念が凝り固まったような、恐ろしい姿である。
「怨獣鬼(おんじゅうき)・・・」
 その姿を見た嫦娥は、臼笑うように名づけた。
 食べるためとは言え、無残に殺された家畜たちの怨念。
 その怨念が寄り集まって生み出された妖怪。
 まさに、この上なく相応しい名前かもしれない。


 6月20日
 シュッ・・と風切音の後、トンッ!と的に突き刺さる音が響く。
 柚子村立中学校弓道部練習場では、数人の生徒たちが弓を引き、練習に励んでいる。
 その中には、当然凛の姿もあった。
 ゆっくりとした動作で矢を射る。その矢は見事に的の中心に突き刺さった。
 次の生徒の場を譲ると、凛は大きなため息をついた。
「いい調子じゃない? 若三毛さん」
 明るい上がり調子の声が背後から掛かる。
 それは弓道部部長、三年生の田中心美(こはる)だった。
 ポニーテールがよく似合う、いかにもスポーツ少女的で気さくな先輩だ。
「すごく命中率がいいよね、学校以外でも練習しているの?」
―いえ、相手が動いたり、襲ってきたりしませんから、大したことありませんよ―
 …と、いけない!いけない! 思わずそう口を滑らしそうになった。
 ハッキリ言って、今の凛の心は重かった。どんなに褒められても素直に喜べない。
 そう、凛は落ち込んでいるのだ。
 ここ二戦程、凛は連敗を喫している。
 その内の一戦は、人形化された女子高生を助けようとした際に背後から襲われたので、まだ仕方無いとしても、妖怪手長足長との一戦での敗北。
 これは完敗だった。
 もし、優里が妖魔狩人として参戦してくれていなかったら・・・・
 この村は、今頃多くの被害に合っていただろう。
 その想いが、凛に自己嫌悪を募らせていた。
 口調が歪になりかけるのも、そのせいだろう。
「先輩……、一つ訪ねていいですか?」
 改まって心美に言葉を返す凛。
「ん?」
「弓使いの戦い方って、どうしたらいいんですか?」
 自分でも相当焦っているのだろう、普通なら返答に困る問いである。そう……普通なら。
 ところが・・・
「あ、ひょっとして……ネットゲーの話!? 若三毛さん、何のゲームしているの? もしかして、フレイム・エムブレム=オンライン(以下FEO)!!?」
 予想外の返答だった。
「いいよね~FEO! ああ、そっか! 若三毛さん、アーチャー使っているの? 私もよ~♪ でも、先日スナイパーに昇格したよ!」
―えっと・・・・何の話ですか? スナイパーって、狙撃手?―
 目を丸くし、ひたすら呆然としたまま聞く凛に、心美の話は更に加速する。
「実はさ、受験勉強の合間にやっているから詳しくは無いけど、弓手ってあの間接攻撃がいいよね! まぁ……直接攻撃ができないから隣接されたらヤバイけど、でも離れた所から攻撃して仕留めるあの感覚、ハマるよね~♪ 特に追撃入ったら、もぉ~サイコー♪」

妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話(1)

 ゲームをやらない凛には、まるで呪文でも聞かされているようだ。
 てか、受験勉強の合間にやっているのではなく、ゲームの合間に勉強しているようにしか、聞こえないんですけど……
 ま、家に帰ったら検索してみよ。


 その頃、犬乙山、麓の洞窟。
「先日妖怪化させた小僧、あの者は女子の人形が欲しいという一念で、人形化という呪術能力を手に入れた。他の人間とは違う変化だ」
「たしかに、通常は凶暴性が増加する程度の変化じゃからのう」
 そこでは長身黒髪の妖怪白陰と、緑色の肌をした老婆、嫦娥が水晶を眺めながら会話していた。
「という事は、果実化してから妖怪に転生するこの術。その者の秘めたる本能や欲望が具現化されるわけだが、そこで身共は考えた」
 白陰はここで一呼吸入れ
「もし、本能の強い妖怪が転生した場合、どうなるのだろう?……と」
「うむ……、妖怪は理性よりも本能。特に凶暴性の強い妖怪ならば、どこまでその凶暴性が高まるのか? 興味深い考えじゃが、しかし……なぜそのような事を?」
 嫦娥の問い返しに、白陰は水晶球に一つの影を映しだした。
 白いコスチュームに身を包んだその姿は、優里!
「この白い妖魔狩人だ。この者は強い、おそらく見共達幹部の中で一番の武闘派だった銅角と互角……いや、それ以上かも知れぬ」
「うぬ……」
 水晶球は凛の姿をも映しだした。
「そして当初からの敵、黒い妖魔狩人。この小娘……基本値は白い妖魔狩人に劣ってはいるが、あの妖木妃様に傷を付けた事を忘れてはならない」
「たしかに……」
「この二人が更に力を付けていけば、今の身共達の戦力では勝てぬ!」
「そこで妖怪達の戦力増幅の為に、転生させてみる……という事かの?」
「そうだ、妖木妃様ですら試した事がないと思うが、一つ試してみる価値はあると身共は思う」
 白陰の言葉に、嫦娥はしばし思考を整理していたが、決断したように顔を上げ
「ならば、試してみるのに相応しい妖怪がおる!」
 そう言って、懐から白い瓢箪を取り出した。
 瓢箪の栓を抜き、呪文を唱えると、白煙と共に一つの巨大な影が飛び出した。
 仁王立ちした闘牛のような巨体に、荒々しい吐息。鋭い黒い角。
「妖怪……怨獣鬼。コイツで試してみてはどうじゃ?」
 怨獣鬼は血走った目で、白陰を睨みつけた。
「コロス・・・ニンゲン・・・・」
 言葉とも、うめき声ともつかない声を上げると、白陰に襲いかかろうとする。
「なんて凶暴な妖怪なのだ。それに凄まじい程の禍々しい妖気」
 一瞬、蒼白になった白陰だが、再び口元を緩ませると
「面白い、この者で試してみよう」
 そう言って、妖樹化の種を口の中へ放り込んだ。


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 今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 15:04 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話「ムッシュとお呼びください -中編-」

 6月23日
 怨獣鬼が樹木化して三日、その枝には牛一頭が入りそうな大きな果実が実っている。
 しばらくして、果実はその重みに耐えかねたように落下すると、真っ二つに裂けた。
 白陰と嫦娥が息を飲むように見守っている最中、裂けた実から一つの影が。
「産まれた……か?」
 二本足で直立に立ち上がったその姿、闘牛程あった身体は一回り小さくなっている。
 それでも、張り裂けんような筋肉に覆われた褐色の肉体美。
 解りにくいが、牛のような角も健在だ。
 顔立ちは、殆ど人間と変わらない。というか、渋い中年男性のような顔立ち。
 口元には立派な白いカイゼル髭が生え揃っている。
 部屋の隅にあった水溜め用の樽を見つけると、自らの顔を映し眺め始めた。
 指先でカイゼル髭を捻るように摘み上げると
「うむ、悪くない……!」
 と、一言漏らす。
 更に白陰と嫦娥の姿に気づくと、振り向きざまにこう語った。
「お見苦しい裸体を晒して申し訳ない。良ければ着衣を一着、所望できないだろうか?」
 唖然とする白陰と嫦娥だったが
「あ、ああ……服か? 服ならその辺の棚に仕舞ってあるはずだが……」
 と指さした。
 言われるまま棚を弄り、洋食調理師の制服を身につけ、更にエプロン。
そして、高さ30㎝はあろうコック帽を被ると、再びその身を樽の水に映しだした。
「うむ、悪くない!」

妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話(2)

 先程より、少しだが声のトーンが上がっている。
「う、汝(うぬ)は一体、何者なのだ・・・・?」
 唖然とした表情のまま、絞りだすように白陰は問いかけた。
「吾輩の事ですかな? 確か、そちらのマダムが『怨獣鬼』と名づけてくれたと記憶しておりますが・・・」
 ここまで言うと、ちょっと待てと言わんばかりに指先で制し、
「ムッシュ…怨獣鬼。そう……ムッシュと呼んで頂けますか?」
 そう言って微笑んだ。
「ムッシュ……怨獣鬼……?」
「妖怪が転生すると、逆に人間になってしまうのかの…?」
 何が何だかわからない、白陰と嫦娥。
「ノン!ノン! 私は立派な妖怪ですぞ! 疑われるのなら、力を試してみても結構」
 自信に満ち溢れる怨獣鬼の言葉に
「いいじゃろう、試してみようて!」
 嫦娥は懐から瓢箪を取り出し、栓を抜いた。
 白煙と共に、またも巨体な影が現れる。
「獲猿・・・っ!?」
 白陰が驚きの声を上げた。
 それは、あの胡媚娘が手足のように操り、凛を苦しめた大猿の妖怪。
「もちろん胡媚娘が連れ歩いていたヤツとは別人じゃが、コイツも同種族の妖怪じゃ。その戦闘力は決して劣らぬ」
 ゴリラのように胸を叩き、その力を誇示する獲猿。
 そんな獲猿を怨獣鬼は冷めた目で眺め
「どうにも、肉が硬そうで不味そうな獲物ですな」
 と、テーブルに置いてあった包丁を手にした。
「どこからでも、どうぞ!」
 その言葉に、意味を理解できたのか解らぬが、獲猿は激しい雄叫びを上げると、怒り狂ったように飛びかかった。
 両手を振り回し、丸太の雨のような攻撃が襲いかかる。
 だが、そんな激しい攻撃を、息一つ乱さぬまま紙一重でかわす怨獣鬼。
 当たらぬ攻撃に業を煮やしたのか、両拳を振り上げ、渾身の一撃を振りかざそうとする獲猿。
 その隙を見逃さない怨獣鬼は、一瞬にして背後へ回ると、その太い首筋・・・そう延髄に包丁の柄を叩き込んだ!
 まるで電源が切れたかのように動きが止まった獲猿。そして、そのまま倒れこみ地響きを上げた。
 怨獣鬼は倒れた獲猿の頬を包丁の刃で軽く叩きながら、
「本当ならこのままバラして料理の材料にしたいところですが、あまり美味そうでないので野犬の餌にでもしたら良いでしょう」
 とあざ笑った。
「つ……強い……。銅角以上……、いや……身共よりも強いかも知れぬ……」
 改めて怨獣鬼の恐ろしさを知った、白陰と嫦娥。
「一つ聞いていいか? ムッシュ、汝は身共たちの味方であるな……?」
 白陰の言葉には、怨獣鬼を部下や手下のような格下扱いが無かった。いや…できなかったと言ってもいいかもしれない。
 怨獣鬼もそれを察したのであろう。
「それは貴方方次第ですな。吾輩の野望の邪魔をしなければ、吾輩も敵として見ません」
「野望……じゃと…?」
「ええ、吾輩の野望は唯一つ! 全ての人間を家畜にし、この地上を人間牧場にすること」
 怨獣鬼はそう言って、カイゼル髭を摘み上げた。
「なるほど、そういう事ならば身共達は敵では無い。だが・・・・」
「だが……?」
「この村には妖魔狩人と名乗る二人の娘がいる。この者達は汝の野望の邪魔をするだろうな」
 白陰は、水晶球に凛と優里の姿を映しだした。
「ほほぅ……、若く健康的な娘。なかなか美味そうですな! うむ、悪くない……」
 水晶を覗きこむ怨獣鬼。
「ちょっと様子見がてら、村へ行ってみるとしますか!」


 村へ辿り着いた怨獣鬼。
 見渡す限り森と田畑に囲まれた自然溢れる景色。
 この地上を牧場にしようと企む怨獣鬼にとってそれは……
「うむ、悪くない!」
 しばらく歩くと、ちょっとした倉庫のような建物が目に入った。
 中を覗くと、無数のゲージ(檻)に入れられた鶏の姿が。
 そう、ここは鶏卵を生産する養鶏場であった。
「卵とは言え、種族繁栄の為に産んだ子ども達を、良いように食べられているとは……」
 一羽一羽の鶏達を憐れみの眼差しで見つめる怨獣鬼。
 その中で、最も大柄で健康そうな雌鶏を見つけると、自らの指先を傷つけ、滴る血を雌その喉に流し込んだ。
 怨獣鬼の血は猛毒なのか? 雌鶏はゲージの中で激しく暴れまわる!
 しばらくの間は体中を痙攣させていたが、一旦落ち着いたかのように静かになった。
 だが、それも束の間。雌鶏の身体は、まるで風船のように膨らんでいく。
 ゲージを突き破るほど膨れ上がったその姿は、まるでダチョウのような大きな身体。
 巨体な妖鶏となった雌鶏は、大きな翼や嘴を振り回し、次々にゲージを突き破っていく。
「なにがあった!!」
 同時にドタトダと鶏舎に響き渡る足音が聞こえる
 激しい物音を聞きつけ、作業服を着た若い女性や数人の男性が鶏舎に駆けつけたのだ。
「ば…化け物っ!?」
 彼らは巨体化した妖鶏を見て、その場で腰を抜かした。
 怨獣鬼は、呪文のような言葉で妖鶏に指示を与えた。
 妖鶏は、それに頷いたかのように雄叫びを上げると、まずその両足で若い女性の身体を抑えこむ。
 そして大きく開け広げた嘴で、女性の頭部を咥え込んだ。
 なんと嘴は、まるで顎の外れた蛇の頭部のように、ゆっくりと女性の身体を咥えこんでいく。
「いやぁぁぁぁっ!!」
 大声で悲鳴を上げる女性。しかし、ついにはその全身が妖鶏の腹の中に収まってしまった。
 しばらくは腹の中で暴れていたようだが、ものの数十秒もすると静かになる。
 それを見計らったかのように妖鶏は腰を下ろし、用を足すように気張り始めた。
 微かな痙攣の後、妖鶏の尻から丸い物体が産み落とされる。
 それは、女性が着ていた作業服と同じベージュ色の、大きな大きな卵だった。
 妖鶏は間髪をいれず、他の男達にも襲いかかる。
 男たちも次々に呑み込まれ、卵として産み落とされていった。
 怨獣鬼は、最初の女性だった卵を拾い上げ、その殻の手触りを確かめる。
「うむ、持ち上げただけでわかる、この身のつまり具合。これはいい食材です。どこか……調理できる場所はないかな?」
 反面、
「うむ……、男の卵化は食欲が出ませんね」
 と、男たちの卵はそのまま放置し、女性の卵だけを持って外へ出て行った。
 木造鶏舎の一部を剥ぎ取り、それを薪代わりにし、鉄製の扉をフライパン代わりに熱し始める。
 ベージュ色の卵を鉄板の端で叩き亀裂を入れると、勢い良く鉄板の上で真っ二つに割った!
ジュゥゥゥゥゥッ・・・!!
 湧き上がる湯気と飛び散る油の中で、日の丸旗のように卵の中身が広がる。
 そして、十分に焼きあがるのを確認すると、大皿に移し、塩とコショウを振りかけた。
「一口に目玉焼きと言っても、色々好みがある。ちなみに吾輩はサニーサイドアップ派。黄身は半熟がいいですな」
 そう言いながらナイフで切り分け、口へ運ぶ。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話(3)

「うむ、適度な甘みと、タンパク質の質の良さ。悪くない! やはり、人間は家畜にするべきです」
 大きな目玉焼きを全てたいらげ、満足の笑みを浮かべる。
「さて、先程から気になっているのですが、そこの子豚妖怪……。怖がらなくていいから、出てきなさい」
 怨獣鬼は、鶏舎の影に視線を変える。
 そこには、ビクビクと震えている猪豚蛇の姿があった。
「知って…いたダカ……。そ…それに……オラ、豚じゃ…ねぇ……。蛇妖怪……ダ…」
「それは失礼。たしか、貴方も元は白陰氏たちのお仲間だったとか。 ですが現在は、裏切り者と聞いておりますが……?」
「ひぃぃぃ……、オ…オラに手を出すと……、妖魔狩人に……討たれるダヨ………」
「それです! その妖魔狩人です。 その者をここへ連れ出してもらえませんかね? そうすれば、貴方には一切手を出しません」


「アーチャー/スナイパー。 1マスから3マス離れた場所からの遠距離攻撃が可能。ただし、隣接されると無抵抗に攻撃されることが殆ど。唯一『狙撃』のスキルが使え、発動すると、一撃で敵ユニットを仕留める事も可能・・・・・」
 自宅で父のパソコンを使い、心美の言っていたゲームの公式サイトを眺める凛。
「ゲームでも、弓では近接戦闘に向いていない。つまり今まで勝ててこれたのは、わたしの実力というより、単純に敵が弱かったせい……?」
 その時・・・・
コツン!!
 部屋の窓ガラスに、何かが当たる音が。
 カーテン越しに外に目をやると、猪豚蛇が窓ガラスに小石をぶつけていた。
「どうしたの?」
 窓ガラスを開け、声を掛ける凛。
「妖怪ダ……、悪い妖怪が現れたダヨ……」


 猪豚蛇の案内で養鶏場に着いた凛と金鵄。
 幸いな事に、優里ともすぐに連絡が取れ、現地で落ち合うことができた。
 霊装し、鶏舎の周りを調べる二人。
「何かしら……、このベージュ色の球体は……?」
 所々に転がっている球体を見つけ、優里が呟いた。
「霊気を感じます・・・それも、人間の霊気です・・・」
 凛が付け加える。
「それは、ここで働いていた人間を卵化したものです!」
 背後から、張りのある丁寧な口調の声が掛けられた。
 そこには褐色の肌、白いコック服に身を固めた、大柄な中年男性(ぽい)姿と、ダチョウのように大きな鶏が待ち構えていた。
「アイツだ、アイツが……妖怪ダヨ!」
 叫んだと同時に、まるで音速の勢いで鶏舎の影に身を潜める、猪豚蛇。
「初めまして、吾輩……ムッシュ・怨獣鬼。そう、ムッシュとお呼びください」
 怨獣鬼は深々と頭を下げる。
「こちらは吾輩の部下、妖鶏でございます」
「挨拶は結構です。それより、人間の卵化とはどういう事ですか!?」
 こちらも丁寧だが、強い口調の優里。
「妖鶏は人間を呑み込んで、卵に変えて産み落とす事ができるんですよ。ちなみに、味は普通の鶏卵に比べ、遥かに濃厚で美味でした♪」
 その言葉は、凛と優里の眉尻を5ミリ程釣り上げさせた。
「吾輩の野望は、人間全てを家畜にすることです。人間たちは私達に飼い慣らされ、そして食用肉として、妖怪たちに供給されることでしょう」
「そんな事は許さない!」
 言葉と同時に、弾き出されたように凛と優里は跳びかかった。
 優里の鋭い薙刀の刃が振り下ろされる。
キーンッ!!!
 甲高い金属音が鳴り響く。その刃は、怨獣鬼が手にした包丁の刃で受け止められていた。
「うむ、悪くない……。いい太刀筋です!」
―この人……、並みの妖怪では無い!?―
 刃を合わせただけで、お互いの力量を読む二人。
 一方凛は、弓を構え弦を引くが、妖鶏の鋭い嘴や足爪の攻撃が速く、矢を射ることができない。
 一旦飛び避け、改めて弓を構えようとすると、今度は頭上から妖鶏が襲いかかる。
―間に合わない……―
 凛が諦めそうになる寸前、目の前を一陣の風が通り過ぎる。
 それは、優里が振り払った薙刀。
 慌てて避けようとした妖鶏だが、刃が大きな胸をかすめた。
 妖鶏の胸元に、一筋の真っ赤な切り傷が現れる。
「うむ、白陰の言っていた通り、白い妖魔狩人の方は、要注意ですね」
 怨獣鬼と妖鶏の鋭い眼光が、優里を突き刺す。
 相手にされていない……。
 今のわたしは、相手の眼中に入っていない……。
 ここ最近の二連敗。
 そして、今も蚊帳の外になっている。
 凛は、そんな自分が惨めだった。
 戦いに負ける恐怖心よりも、今まで村を守ってきた自分は、夢や幻だったのでは無いかと思える程のこの現実が、なにより情けなく思えてきた。
「凛・・・・?」
 金鵄もそんな凛を心情を察したのか、不安そうに見つめる。


どうする!?
 ① この場は優里に預け、凛は一旦場を去る。
 ② 逃げちゃダメだ! 凛は弓を構え突撃する。


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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話「ムッシュとお呼びください -後編-」

① この場は優里に預け、凛は一旦場を去る。


 この近接した戦闘では、わたしは役に立たない・・・。
「優里お姉さんっ!!」
 凛は、いきなり振り絞るような声を上げる。
「凛……ちゃん?」
「この場は……、この場はお願いいたします……」
 それだけ言うと、正反対の方向へ向かって走り去っていった。
 そんな凛をみると、怨獣鬼は冷ややかな笑みを浮かべ
「おやおや、敵わないとみて逃げ出しましたよ。情けない子ですねー!」
 と、あざ笑った。
 怨獣鬼の言葉に耳を貸さず、静かに凛の後ろ姿を見つめる優里。
 だが、その目は優しく、更に
「任せて!」
 と薙刀を構え直した。
 その姿が腑に落ちないのか、怨獣鬼は優里に問いかけた。
「なぜ失望しないのです? あの子は貴方を見捨てて逃げ出したのですよ」
「失望・・・?」
 一瞬、目を丸くした優里だったが、再び優しく微笑むと
「あの子は私を信じてくれている。 だから、私もあの子を信じる。それだけよ!」
 とキッパリ言い放った。

 今まで凛は、たった一人で戦ってきた。
 たった一人で、中国妖怪から村を守ってきた。
 だから、凛は敵に背中を向けるわけにはいかなかった。
 背を向ける、すなわちそれは敗北を意味するからだ。
 でも、今は違う・・・・
 優里が居てくれる。
 優里になら、安心して背中を見せられる。
 心美先輩が言っていた。
 弓手はスナイパー・・・・だと。
 近接戦闘が弱点ならば、後方へ下がればいい。
 そう、後方から優里を支援すればいいのだ。
 凛は鶏舎の裏手に回ると、屋根を見上げた。
 高さは一般住宅の三階相当だろうか。
 だが、軽量かつ、装着者の運動能力を五~六倍まで引き上げる戦闘服。
 コレを着ているので、二~三足跳びで駆け上がる事も苦ではない。
 一気に屋根に駆け上がると、その上を慎重に歩く。
 見下ろすと優里や怨獣鬼、妖鶏の姿があった。
 さすがに優里だ!
 優里自身とほぼ互角の腕を持つ怨獣鬼、さらに妖鶏の二匹を相手に奮戦している。
 本当に頼もしい人が味方になってくれた。
 凛は、屋根の端まで行くと、片膝を落とし重心を下げ、身体を安定させた。
 今度は、すぐには敵は襲いかかってこない。
 しっかりと狙いを定める。
 呼吸を整え、凛は静かに弦を離した。
 青白い閃光が、一直線に飛んで行く。
 閃光は、丁度優里に襲いかかろうとしていた、妖鶏の右翼に突き刺さった!
「コ……コケッ……!!」
 激しい痛みが全身を襲う。妖鶏は四方八方に転げまわる。
 光の矢は、粒子となり右翼を覆う。そして光と共に翼も消滅していった。
「な……っ!?」
 怨獣鬼の鋭い視線が、屋根上の凛を見つけ出した。
「あの小娘、逃げ出したのではなかったのですか!?」
 紳士的な振る舞いをする怨獣鬼であるが、この時ばかりは歯ぎしりをしている。
「だから、失望する必要は無いって言ったでしょう!」
 追い打ちをかけるように、優里が不敵に微笑んだ。
 一方、右翼を失った妖鶏の心境は穏やかではない。
 その怒りは、へそで茶を沸かせる程である。
 我も忘れ、一目散に凛へ向かって羽ばたいた!
 だが、悲しいかな。 元々、鶏である上に片翼。
 獲物に襲いかかる鷹のようにはいかず、空中でジタバタ浮いているだけ。
 最早、格好の的だ。
 再度、青白く光る…霊光矢を形成し、ゆっくり弓を引く凛。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話(4)

シュッ・・・・!  
 風切音と共に、青白い閃光が飛び放たれる。
「コ…コココッ……」
 叫び声にもならなかった。
 霊光矢は、妖鶏の胸を一直線に貫いていた。
 光の粒子が妖鶏の全身を包み込むと、そのまま飛散するように消えて無くなっていった。
「や…やったぁぁぁぁぁっ!!」
 思わず声を上げて喜ぶ、優里!!
 優里にとっては凛の活躍の方が、自分の事以上に嬉しいのだ。
「うむ、これは不味いですね・・・・」
 消えていった妖鶏の姿を見つめながら、怨獣鬼は初めて不安げな声を放った。
「次は貴方の番よ!」
 優里の刃が、目前に迫る。
「今回は吾輩の負けですな。 いや正直、黒い妖魔狩人を侮っていました。それが敗因です」
「さすが潔いのですね。 そのまま大人しく囚われてくれるなら、命までは奪いません」
 優里は刃を僅かに下げた。
「おや? 確かに負けは認めますが、捕まるとは言っておりません!」
 怨獣鬼は懐から球のような物を取り出し、思いっきり地面に叩きつけた!
 激しい閃光と爆煙が巻き上がる。
 思わず身をかがめる優里。凛も煙で視界が遮られる。
 数分後、爆煙が収まった頃には、怨獣鬼の姿は無かった。
「逃げられたわね・・・・・」 
 優里は苦虫を噛み潰したような顔だ。
 凛も屋根の上から当りを見渡したが、怨獣鬼は見つからなかった。


「卵化した人は、元の人間に戻れないのね・・・・」
 戦いが終わって、養鶏場内に散らばっている大きな卵を集め、優里は無念の表情を浮かべた。
「これは、優里のお母さんや凛の友達のように、妖怪に生まれ変わったのと同じ原理だと思う。 だから術者が死んでも、元には戻れない」
 金鵄も残念そうに続けた。
「ん……っ?」
 凛が何か思いついたように、顔を上げた。
「妖怪化した人と同じなら、わたしの霊光矢で浄化できないかな?」
 霊光矢の威力は、妖怪に対する殺傷力よりも、邪悪な妖力を打ち消す浄化の力の方が大きい。
 だが・・・
「たしかに理論的には可能だけど、霊光矢はあくまで矢だ。突き刺せば殻は割れ、中の身も死んでしまうよ」
 金鵄は首を振った。
「それ、なんとかなるかもしれない」
 凛はそう答えると弓を構え、霊力で矢を形成する。
 霊光矢は物理的な矢ではない、凛の霊力が矢の形をしたものだ。
「だから、突き刺さらないようにすれば、いいと思う……」
 凛はそう言って、卵を狙って・・・いや、卵の遥か上空を狙って矢を放った。
 いつも通りに放たれる青白い光。
 だが、その矢は上空で、破裂したように四散した。
 よく見ると四散した矢には、それぞれ光の糸で、蜘蛛の巣のように結ばれている。
「ああっ!?」
 思わず声を上げる優里と金鵄。
 そう、それは光の網。
 まさに、青白く光る投網であった。
 落下した光の網は、そのまま優しく卵に覆い被さる。
 卵は全体的に光に包まれると、やがてそれは人の姿に変わっていった。
 気を失ってはいるものの、それは卵に変えられる前の養鶏場の男性。
「元に戻った・・・」
 凛は更に、他の卵にも矢を放つ。
 次々に元の姿に戻る人たち。
「ふぅ・・・・」
 全ての卵を元に戻すと、凛は大きなため息をついた。
 無理も無い。何事もないような仕草をしてはいるが、霊光矢は凛の霊力で形成されたもの。
 その精神疲労は、並大抵ではないのだ。
「霊力を物質的な矢として形成するだけでも並外れた能力なのに、更にそこから状況に応じた形に変化させるなんて・・・・これ程の力を持った人間は聞いたことも無い」
 あまりの凛の霊力の高さ、そしてそれを操れる凛の精神力。
 金鵄は、もはや驚きを通り越して呆れるだけであった。
「凛ちゃんと私の妖魔狩人としても違いは、霊力の高さとその質。
 もって産まれた能力の差以上に、あの子自身が村を、人々を守りたいという気持ちが、私よりも遥かに強いから、起こりうる効力。
 やはり、真の妖魔狩人は、凛ちゃんだよね。
 私の役目は、あの子を精一杯・・・守ること」
 優里は、改めてその想いを強く秘めた。


 第12話へ続く(正規ルート)



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| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:44 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第10話「凛のために・・ -前編-」

―高嶺優里……、凛がまるで歯が立たなかった相手を一方的に……―
 優里の高い戦闘力を間近で見た金鵄は、驚愕で声も出なかった。
「あ…あれは、麒麟の力を受け継いだからなのかい!?」
 側にいたセコに尋ねられずにはいられなかった。
 金鵄の問いにセコは静かに首を振ると、こう答えた。
「たしかに麒麟の力を受け継いではいますが、それだけではありません。むしろ彼女自身の基本能力が高いが上に、麒麟の力を使いこなせていると言ったほうがいいでしょう」


 高嶺優里、6月30日生・・・私立大生堀高校三年生17歳。
 父拓海、母美咲の間に長女として産まれる。その頃はまだ普通の子どもだったが、四歳の頃、愛犬コロが亡くなった事がきっかけに、ある能力が目覚める。
 それは霊や物の怪といった類の妖気を感じ取る能力。
 愛犬コロを失った三日後に、彼女はコロの霊を見たのが始まりだった。
 以後、様々な霊や妖気を感じ取る事ができるが、大人たちは愛犬を亡くした悲しみからくる幻覚だと、相手にしなかった。
 この経験があったからこそ、誰も信じない凛の霊体験話を真剣に受け止め、心の支えになる事ができたのであろう。
 両親は共働きで家に一人で居ることが多かった優里に、近所に住む老女、園部秀子はよく自宅に招き入れ話し相手になったり、薙刀の指導を行ったりした。
 秀子は古武術北真華鳥流の元師範で、全国でも指折りの薙刀使いだった。
 北真華鳥流は戦国時代から続く流派で、対真剣・対槍など実戦向けの流派。
 厳しい指導だったが、優里は薙刀にのめり込み日々実力を付けていった。
 優里が中学二年生の頃、秀子は伝手を生かし、当時の全国高校なぎなた大会優勝者と練習試合を設けた。
 結果は優里の圧勝だった。この結果は非公式のため記録には残っていないし、対戦流派の希望から、口外もされなかった。
 秀子は機会が有る度に、優里に他流派試合をさせた。こうして優里はより一層実戦型の実力を上げていった。
 そんな秀子も優里が高校へ進学する前に息を引き取った。
 優里は神田川県で数少ない『なぎなた部』のある進学校、県立丘福高校へ入学した。
 学力でも運動能力でも秀でた優里は、校内でも注目の的であった。
 特に入部した『なぎなた部』では、その突出した実力で、一年生であるにも関わらず、レギュラーに選出された。
 この事が事件の発端になった。
 それまでレギュラーだった三年生の一人が優里に嫉妬し、他の部員と共に一年生イビリを始めたのだ。
 優里たちがイビリに耐えれば耐える程より過激になり、ついには一年生の中から怪我人が出てしまった。
 大きな怪我では無かったが精神的傷ついた同級生の姿は、優里の怒りに火をつけるには十分だった。
 たった数分の出来事だった。
 木製の薙刀を手にした優里の足元には、怪我を追った数人の上級生達が倒れていた。
 練習中の事故と言うことで扱うようになったが、この事件は優里の退部を余儀なくされた。
 更に怪我をした上級生の一人に、県会議員の姪がいた。
 県会議員はこの事件を、優里の起こした校内暴力として対応するように、県教育委員会へ連絡させた。
 そのため、通っていた丘福高はもちろん、地元の柚子中学校を通じて村民からも、優里に対する視線や対応が変わった。
 この一件で優里は弁解することもできず、私立高校へ転校していった。

 その後は薙刀を封じ、学問優先の高校生活を送っていたのだが、約一月前、突然豹変した美咲に彼女の近況は一転した。
 気を失っていたため事件の経緯はよく覚えていない。しかし、元には戻ったものの、間違いなく美咲は獣のようになり、そして事件解決に凛が絡んでいる。
 その後もいくつかの事件が村で発生した。
 後を追っていくと、そこには殆ど凛が絡んでいる。
 事実を確認しようと思ったその時だった、子ども姿の妖怪セコに出会ったのは。
 セコは封印されている麒麟の祠に案内し、全てを優里に話した。
 妖木妃の事、妖樹からの妖怪化。そしてそれを食い止めている凛の事。
 話を聞き、凶悪な妖怪との戦いになると知りつつも、優里は戦う事を決意した。
 そして麒麟は復活後すぐに、残る力の全てを優里に譲り託したのだ。

 セコから優里の経緯を聞いた金鵄は、優里の強さの秘密を改めて実感した。


 手長足長との戦いから二日後。
「春人、また荷物が届いているわよー!」
 下から響く母の声に、春人は階段を駆け下りると、玄関先で荷物を受け取った。
 大切そうに荷物を持って部屋へ戻ると、丁寧に荷を開け中から箱を取り出した。
 箱には『閃光のナスア』と表示され、透明の硬質ビニールからアニメ風の美少女の顔が見える。
 春人は箱から美少女を抜き出し、机に立てかけた。
 それは、30㎝ほどのアニメ美少女のフィギュアであった。
「やっぱ、戦う美少女って萌えるよな~っ!」
 春人はそう呟くとフィギュアのスカートの中を何度も覗き込んだ。
 西村春人、丘福市南区在住、県内の国立大学に通っている。
「そう言えば、うちの高校の後輩にもいたよな……、すごく強い美少女が!!」
 そう言って携帯を手に取り、画像を映し出す。
 そこには、カメラとは全然別の方向に視線を送っている、山吹色の髪をした美少女が写っている。
 そう……それは、優里だった。
「なぎなた部に入部したこの子。強くて勉強ができて、それでいて最高に可愛い。まさか、現実にこんなアニメみたいな美少女がいたなんて~♪」
 鼻の下を伸ばし、想いに耽る。
「でも、1年のうちに転校してしまって……。ああ~っ…会いたいな!いや、本物でなくてもいい、この子のフィギュア!いや……着せ替え人形が欲しい!!」
 居ても立ってもいられなくなった春人はパソコンに向かうと、在学していた高校の友人や、あの事件をネット検索などで調べ上げ、優里が由子村立中学校出身であることを突き止めた。
「柚子村か……、JRで途中乗り換えれば、そう遠くはないな……。」
 ネットで路線を確認すると、翌日村へ向かう事を決意した。
 

 
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 今回はいつもより、かなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 13:42 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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