2014.03.22 Sat
妖魔狩人 若三毛凛 if 第11話「ムッシュとお呼びください -後編-」
この近接した戦闘では、わたしは役に立たない・・・。
「優里お姉さんっ!!」
凛は、いきなり振り絞るような声を上げる。
「凛……ちゃん?」
「この場は……、この場はお願いいたします……」
それだけ言うと、正反対の方向へ向かって走り去っていった。
そんな凛をみると、怨獣鬼は冷ややかな笑みを浮かべ
「おやおや、敵わないとみて逃げ出しましたよ。情けない子ですねー!」
と、あざ笑った。
怨獣鬼の言葉に耳を貸さず、静かに凛の後ろ姿を見つめる優里。
だが、その目は優しく、更に
「任せて!」
と薙刀を構え直した。
その姿が腑に落ちないのか、怨獣鬼は優里に問いかけた。
「なぜ失望しないのです? あの子は貴方を見捨てて逃げ出したのですよ」
「失望・・・?」
一瞬、目を丸くした優里だったが、再び優しく微笑むと
「あの子は私を信じてくれている。 だから、私もあの子を信じる。それだけよ!」
とキッパリ言い放った。
今まで凛は、たった一人で戦ってきた。
たった一人で、中国妖怪から村を守ってきた。
だから、凛は敵に背中を向けるわけにはいかなかった。
背を向ける、すなわちそれは敗北を意味するからだ。
でも、今は違う・・・・
優里が居てくれる。
優里になら、安心して背中を見せられる。
心美先輩が言っていた。
弓手はスナイパー・・・・だと。
近接戦闘が弱点ならば、後方へ下がればいい。
そう、後方から優里を支援すればいいのだ。
凛は鶏舎の裏手に回ると、屋根を見上げた。
高さは一般住宅の三階相当だろうか。
だが、軽量かつ、装着者の運動能力を五~六倍まで引き上げる戦闘服。
コレを着ているので、二~三足跳びで駆け上がる事も苦ではない。
一気に屋根に駆け上がると、その上を慎重に歩く。
見下ろすと優里や怨獣鬼、妖鶏の姿があった。
さすがに優里だ!
優里自身とほぼ互角の腕を持つ怨獣鬼、さらに妖鶏の二匹を相手に奮戦している。
本当に頼もしい人が味方になってくれた。
凛は、屋根の端まで行くと、片膝を落とし重心を下げ、身体を安定させた。
今度は、すぐには敵は襲いかかってこない。
しっかりと狙いを定める。
呼吸を整え、凛は静かに弦を離した。
青白い閃光が、一直線に飛んで行く。
閃光は、丁度優里に襲いかかろうとしていた、妖鶏の右翼に突き刺さった!
「コ……コケッ……!!」
激しい痛みが全身を襲う。妖鶏は四方八方に転げまわる。
光の矢は、粒子となり右翼を覆う。そして光と共に翼も消滅していった。
「な……っ!?」
怨獣鬼の鋭い視線が、屋根上の凛を見つけ出した。
「あの小娘、逃げ出したのではなかったのですか!?」
紳士的な振る舞いをする怨獣鬼であるが、この時ばかりは歯ぎしりをしている。
「だから、失望する必要は無いって言ったでしょう!」
追い打ちをかけるように、優里が不敵に微笑んだ。
一方、右翼を失った妖鶏の心境は穏やかではない。
その怒りは、へそで茶を沸かせる程である。
我も忘れ、一目散に凛へ向かって羽ばたいた!
だが、悲しいかな。 元々、鶏である上に片翼。
獲物に襲いかかる鷹のようにはいかず、空中でジタバタ浮いているだけ。
最早、格好の的だ。
再度、青白く光る…霊光矢を形成し、ゆっくり弓を引く凛。
シュッ・・・・!
風切音と共に、青白い閃光が飛び放たれる。
「コ…コココッ……」
叫び声にもならなかった。
霊光矢は、妖鶏の胸を一直線に貫いていた。
光の粒子が妖鶏の全身を包み込むと、そのまま飛散するように消えて無くなっていった。
「や…やったぁぁぁぁぁっ!!」
思わず声を上げて喜ぶ、優里!!
優里にとっては凛の活躍の方が、自分の事以上に嬉しいのだ。
「うむ、これは不味いですね・・・・」
消えていった妖鶏の姿を見つめながら、怨獣鬼は初めて不安げな声を放った。
「次は貴方の番よ!」
優里の刃が、目前に迫る。
「今回は吾輩の負けですな。 いや正直、黒い妖魔狩人を侮っていました。それが敗因です」
「さすが潔いのですね。 そのまま大人しく囚われてくれるなら、命までは奪いません」
優里は刃を僅かに下げた。
「おや? 確かに負けは認めますが、捕まるとは言っておりません!」
怨獣鬼は懐から球のような物を取り出し、思いっきり地面に叩きつけた!
激しい閃光と爆煙が巻き上がる。
思わず身をかがめる優里。凛も煙で視界が遮られる。
数分後、爆煙が収まった頃には、怨獣鬼の姿は無かった。
「逃げられたわね・・・・・」
優里は苦虫を噛み潰したような顔だ。
凛も屋根の上から当りを見渡したが、怨獣鬼は見つからなかった。
「卵化した人は、元の人間に戻れないのね・・・・」
戦いが終わって、養鶏場内に散らばっている大きな卵を集め、優里は無念の表情を浮かべた。
「これは、優里のお母さんや凛の友達のように、妖怪に生まれ変わったのと同じ原理だと思う。 だから術者が死んでも、元には戻れない」
金鵄も残念そうに続けた。
「ん……っ?」
凛が何か思いついたように、顔を上げた。
「妖怪化した人と同じなら、わたしの霊光矢で浄化できないかな?」
霊光矢の威力は、妖怪に対する殺傷力よりも、邪悪な妖力を打ち消す浄化の力の方が大きい。
だが・・・
「たしかに理論的には可能だけど、霊光矢はあくまで矢だ。突き刺せば殻は割れ、中の身も死んでしまうよ」
金鵄は首を振った。
「それ、なんとかなるかもしれない」
凛はそう答えると弓を構え、霊力で矢を形成する。
霊光矢は物理的な矢ではない、凛の霊力が矢の形をしたものだ。
「だから、突き刺さらないようにすれば、いいと思う……」
凛はそう言って、卵を狙って・・・いや、卵の遥か上空を狙って矢を放った。
いつも通りに放たれる青白い光。
だが、その矢は上空で、破裂したように四散した。
よく見ると四散した矢には、それぞれ光の糸で、蜘蛛の巣のように結ばれている。
「ああっ!?」
思わず声を上げる優里と金鵄。
そう、それは光の網。
まさに、青白く光る投網であった。
落下した光の網は、そのまま優しく卵に覆い被さる。
卵は全体的に光に包まれると、やがてそれは人の姿に変わっていった。
気を失ってはいるものの、それは卵に変えられる前の養鶏場の男性。
「元に戻った・・・」
凛は更に、他の卵にも矢を放つ。
次々に元の姿に戻る人たち。
「ふぅ・・・・」
全ての卵を元に戻すと、凛は大きなため息をついた。
無理も無い。何事もないような仕草をしてはいるが、霊光矢は凛の霊力で形成されたもの。
その精神疲労は、並大抵ではないのだ。
「霊力を物質的な矢として形成するだけでも並外れた能力なのに、更にそこから状況に応じた形に変化させるなんて・・・・これ程の力を持った人間は聞いたことも無い」
あまりの凛の霊力の高さ、そしてそれを操れる凛の精神力。
金鵄は、もはや驚きを通り越して呆れるだけであった。
「凛ちゃんと私の妖魔狩人としても違いは、霊力の高さとその質。
もって産まれた能力の差以上に、あの子自身が村を、人々を守りたいという気持ちが、私よりも遥かに強いから、起こりうる効力。
やはり、真の妖魔狩人は、凛ちゃんだよね。
私の役目は、あの子を精一杯・・・守ること」
優里は、改めてその想いを強く秘めた。
第12話へ続く(正規ルート)
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だめだ! 今のままでは、わたしは足手まといでしかない。
でも、だからと言って諦めるわけにはいかない。
とにかく、今までの戦い方をやりながら、考えるしかない。
凛はそう考え、無我夢中で弓を引きながら前線へ飛び込んでいく。
「凛ちゃん、焦ってはダメっ!!」
優里が引き止めるが、凛の耳には入っていない。
勇み足で放つ霊光矢。
だが、怨獣鬼も妖鶏も軽々と矢をかわす。
大きな身体で宙に舞う、妖鶏。
その足はついに凛の身体を捉えた。
両足でしっかり押さえつけられ、身動きできない凛に、大きく広げた妖鶏の嘴が迫る!
ガボッ!!
「いやぁ!!」
嘴で凛の頭部を咥え込むと、一本釣りした魚のように、大きく宙に持ち上げた。
更にそのまま重力の法則を利用するかのように、顎が外れ大きく開いた口の中へ落とし込む。
グビッ・・・グビッ・・・
ものの数十秒で、凛の身体は妖鶏の腹に収まった。
「り……凛ちゃん……!?」
あまりの出来事に、驚く優里。
妖鶏は、他の村人を呑み込んだ時と同様に、腰を落とし気張り始める。
ズ・・ズ・・ズ・・・ズルッ・・・・
妖鶏の尻から、黒い球体が転がり落ちる。
その球体は、黒地に所々オーバー・チェック柄が見える。そう、それは凛が着ていたゴスロリ戦闘服の柄。
「ま……まさか……?」
優里の顔が一気に青ざめる。
「フフフ……、お察しの通り、黒い妖魔狩人は妖鶏によって、卵になったのですよ!」
怨獣鬼の言葉が、認めたくない事実として追い打ちをかけた。
呆然として卵を見つめていた優里。だが・・・
「どうやったら、凛ちゃんは元に戻るの!?」
鬼の形相で、怨獣鬼に刃を突きつける。
「三週間! そう……卵が孵化するには三週間が必要です。 三週間温め続ければ、もう一度人間の姿で孵ります」
三本指を突き立て、説明する怨獣鬼。 さらに、
「ただし・・・・」
そう言うと、凛の卵に包丁を突きつけた。
「この殻を破って、中身が流れ出れば……、そこで全て終わりです!」
「!!?」
怨獣鬼の言う意味を一瞬で理解した優里。 さすがに薙刀を持つ手が震える。
「コケ――ッ!!」
僅かだが戦闘意欲を失った優里。そこを付け狙うかのように、妖鶏が襲いかかった。
「くっ・・・!」
さすが優里、一瞬の隙を付かれた攻撃も上手く薙刀で捌き、決してダメージを負わない。
しかし、その目は卵化した凛を追っている。
優里は、妖鶏を軽く弾き返すと、間を開けるかのように一足飛びで身を引いた。
そこへ金鵄が飛び寄る。
「どうする優里? また、先日の人形化の時のように、カマをかけてみるかい!?」
金鵄の問いに優里は首を振る。
「あの時の妖怪化した先輩は、根は小心者でした。 ですが、このムッシュという妖怪は違います。 紳士ぶってはいますが、性根は残忍で残酷です!」
「!?」
「もし、私が本気で反撃をすれば、間違いなく卵化した凛を割るでしょう・・・」
「では、どうするんだい!?」
「とにかく、今は時間を稼ぐことです!」
そう言って薙刀を構え直す優里。 しかし・・・
「申し訳ない、そこまでお付き合いしている暇はないんですよ!」
すぐ耳元で怨獣鬼の声が掛かる。
振り返ろうとした瞬間! 延髄に鈍い衝撃が走った。
「あ・・・・っ?」
気を失う寸前に目に入ったのは、包丁の柄だった。
「優里っ!!?」
金鵄が必死で声を掛ける。
「五月蝿い鳥ですね」
怨獣鬼は金鵄を鷲掴みすると、大口を開けて頭から頬張った!
霊体の金鵄ではあるが、怨獣鬼も怨念から産まれた妖怪。
霊体でも物理的に食いちぎる事も可能だった。
「やはり、霊鳥なんか……全然美味しくありませんね」
そう言って、亡骸を吐き出した。
「さて、美味しそうな食材を手に入れたので、一旦戻りましょうか。 というわけで、そこの子豚妖怪、その娘を運んでください」
声を掛けられた子豚妖怪とは、鶏舎の影から戦況を覗いていた猪豚蛇である。
卵化した凛、気を失った優里を運んだアジトでは、白陰や嫦娥が待っていた。
優里を調理台のまな板の上に寝かせ、凛を大きなボールの中に入れておく。
「黒い妖魔狩人だけでなく、白い妖魔狩人まで捕らえてくるとは・・・・」
さすがに白陰も驚きを隠せなかった。
「しかし、なぜその場で殺さず連れ帰ったのじゃ?」
嫦娥が首を傾げる。
その問いに怨獣鬼はわざとらしく、優里の身体の匂いを嗅いだ。
くん…くん…
「この娘、すごく美味しそうだと思いませんかな? 特にこの腿肉、筋肉と脂身のバランスが凄く良い。きっと絶品だと思われますぞ♪」
怨獣鬼はそう言いながら、優里の太腿の皮膚を摘み上げた。
「う……うむ……」
釣られて太腿に目をやる白陰、思わず鍔を飲み込んだ所を嫦娥は見逃さなかった。
「まったく男ってヤツはのぉ……。だが、どのように料理するのじゃ?」
「日本人の娘は殆ど雑食で、その体質も『豚』に近い。 上質な豚肉に新鮮な卵・・・。 この組み合わせなら、『カツ丼』が最も相応しい料理だと思われますな」
「ほぉ……カツ丼、日本独自の食べ方じゃが、たしかに旨いかもしれんのぉ!」
二人の同意を得て、怨獣鬼はにこやかに微笑むと、
「では、まず子豚妖怪。その娘の衣類を剥ぎ取りなさい」
「ど…どうでもいいけど、オラ……豚じゃねぇダ、蛇妖怪だよ……」
「それはすまない。でも、いちいち吾輩に歯向かうと、蛇らしく蒲焼きにしてしまいますよ!」
怨獣鬼の凄みに猪豚蛇は一切言葉を返せず、素直に優里の衣類を脱がしにかかった。
並みの刃物なら、糸一本切ることもできない強靭な防御力を誇る戦闘服も、普通に留め具を外して脱がせば、どうってことはない。
優里は下着だけを残し、露わな姿をさらけ出した。
色白な方だが、キメ細かい血色の良い健康的な肌。
怨獣鬼はその肌に、塩とコショウを振りかけ、丁寧に擦り込んでいく。
その見事な手捌きは、優里の神経に過敏に反応した。
「あ……、あ……っ」
意識を取り戻した優里。
見慣れない景色にしばし呆然とするが、やがて自分の置かれている身を理解した。
「な…な…なんですか、これは……っ!?」
「おやおや、気が付きましたか。 別に大したことでは無いのですよ、貴方達をカツ丼にして頂くだけですから」
「カ…カツ丼……っ!? 冗談じゃないわ!!」
必死で起き上がろうとする優里。
「ちっ…、食材が今更騒ぐんじゃねぇーよ!」
紳士的な言葉から打って変わった口調の怨獣鬼。
直ぐ様、巨大な肉叩きハンマーを手にすると・・・
ゴンッッ!!
優里の頭に一撃!!
「あぁ……っ、あぁ……」
星が飛び散ったかと思うと、一瞬で目の前が真っ暗。
「よ~く叩いて、軟らかいお肉にしてあげましょう♪」
怨獣鬼は更に容赦なく、優里の全身を叩きまくった。
「フンッ…♪ フンッ…♪」
鼻歌交じりで、優里を叩きまくる怨獣鬼。 数分後・・・
「見事に軟らかくなりましたね。うむ、悪くない~♪」
調理台の上には、ヘロヘロ~、クタクタ~っ、になった、優里が横たわっていた。
「トンカツを揚げる用意はできていますか?」
怨獣鬼の問いに妖鶏は頷くと、小麦粉・パン粉・溶き卵が入った、それぞれのパットを調理台に並べた。
更にその間猪豚蛇は、人一人が楽々入る鍋に、たっぷりの油を入れて火にかけていた。
怨獣鬼は「よしよし~」といった顔で、ヘロヘロになった優里を摘み上げ、小麦粉の入ったパットに放り込む。
しっかり粉をまぶすと、今度は溶き卵のパットに入れ、全体的に卵を染み渡らせる。
最後にパン粉のパットに入れ、更に上からパン粉を振りかけてやる。
「さぁ、いよいよ揚げるますが、油温はどうです?」
「はぁ……、今…丁度170℃ですダ……」
「上等~っ♪」
怨獣鬼はパン粉まみれの優里を摘み上げ、熱く煮えたぎった油の中に、滑りこませるように放り込んだ。
ジュゥゥゥゥッ!!
飛び散る油と、激しい音が鳴り響く!
その様には、さすがの白陰や嫦娥も、身を乗り出して見つめている。
数秒もすると、油の中で優里が暴れだした。
―あつ……いやぁ……、出し…てぇ……―
必死で叫んでも、ブクブクと気泡が吹き出るだけで聞こえはしない。
「活きがいいですね~♪」
そんな優里を怨獣鬼は、菜箸で押さえつける。
さらに数秒後、ついに優里はピクリとも動かなくなった。
油の中に見えるパン粉は、香ばしくキツネ色に変わっていく。
激しく鳴り響いていた揚げ音も、ピチピチピチと小さくなっている。
「そろそろいいですかね!」
大きな網で優里を掬い上げる。
人の形はしているものの、こんがりとキツネ色の衣。
朦々と立ち込める湯気。香ばしい匂い・・・・。
それは、まさしく大きな大きな、カツであった。
怨獣鬼は、斬馬刀のような巨大な包丁を担ぐと、揚げ上がったばかりのカツを、サクッ!サクッ!と切り分ける。
「さて、もう一つの上質な食材、溶き卵の用意をしますか!」
猪豚蛇が、大きなボールに入った黒い卵を持ってきた。
言わずと知れた、卵化した凛だ。
怨獣鬼は卵を持ち上げると。ボールの端に数回叩きつける。
ピキッッ!
亀裂の入った卵を、綺麗に二つに割ると、中から大きな黄身と白身が。
ボールの中で日の丸のように漂う……黄身と白身。
よく見ると、黄身にはすっかり呆けた凛の表情が浮かんでいる。
「た……たす……け…て……」
蚊の泣くような小さな声だが、たしかに黄身はそう呟いた。
そう、まだ凛の意識は残っているのだ。
「さすが、鮮度が違う!」
怨獣鬼は嬉しそうに菜箸を入れ、ゆっくりと掻き回し始めた。
「だめ……だめ…っ…」
卵はそう叫んでいるようだが、まるで気にしない。
徐々に黄身と白身が混ざり合う。
「ここで大事なのは、混ぜすぎない事です。 適度にまばらなくらいが、丁度いいんですよ」
と、怨獣鬼はある程度混ぜあわせ、箸を止めた。
ボールの中の凛……いや卵は、まるでとろけたまま目を回している表情にも見える。
「さて、そっちの様子はいかがですか?」
怨獣鬼がコンロに目をやると、そこには大きな鍋でタマネギとダシ汁を煮立てている妖鶏の姿があった。
「うん、いい感じで煮立っていますね!」
中を確認すると、切り分けた優里カツをゆっくりと、鍋に入れる。
軽く一煮立ちさせ、凛の溶き卵が入ったボールを手にし、中身を数回に分けて流し込む。
「一気に入れると、火の通りが悪いですからね。 数回に分けて入れるのがコツです!」
カツに覆いかぶせるように溶き卵を入れると、蓋をして数十秒。
もちろん、その間に妖鶏は、大きな丼に炊きたての御飯を装っていた。
煮立ったカツを、鍋から直接ご飯の上に盛り付ける。
丼には蓋をし、お好みで中身を蒸らすといいだろう。
「完成です!!」
怨獣鬼が丼の蓋を取ると、濛々と湯気が立ち込める。
キツネ色の優里カツに、とろけるような…やや半熟状の凛溶き卵。
そこにいる、誰もが鍔を飲み込んだ。
それを見て、ドヤ顔の怨獣鬼。
「これは本当に美味そうだ、食べても良いのか?」
普段冷静な白陰だが、少し興奮気味だ。
「どうぞ♪」
怨獣鬼の言葉に、一切れカツを摘んでみる。
キツネ色の衣の中に見える、肉の断面。
形、大きさから優里の太腿の肉のようだ。
それは牛肉よりも白く、豚肉よりも赤く・・・。ほのかで綺麗なピンク色の肉。
衣と一緒にひと齧りしてみる。
「はあああああああああああっ……」
思わず言葉が、漏れた。
サクっとした衣に、弾力性があって、それでいて軟らかい肉。
口の中に流れ込む、甘く香ばしい肉汁。
それだけでは無い。
カツに覆い被さった溶き卵の旨味。
淡白なようで、コクのある甘み。
このコラボネーションは、旨さを超越している。
白陰も数百年生きており、今まで多くの肉や料理を食べてきただろう。
だが、この旨さは紛れも無く、至高と呼べる味だ。
隣の席では、嫦娥も時が止まったように、その味を堪能している。
「ごめんなさい……」
凛を慕っていた猪豚蛇だが、食欲には勝てなかったようだ。
小さく詫びを入れると、カツ丼を口に入れる。
「旨すぎる……、凛さん……マジで旨すぎるダヨ…♪」
満面の笑みでカツ丼を頬張る皆をみて、怨獣鬼は調理人としての喜びを味わっていた。
自慢のカイゼル髭を摘み上げると・・・
「うむ、悪くない♪」
BAD-END
| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:44 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑
個人的に女性が丸呑みされてタマゴとして排泄されるシーンが一番グッときましたwつい最近自分も似たようなのかいてましたしw
凛ちゃんの場合は丸呑み絵までしっかりついて見ごたえ十分でした♪
| yorotoru | 2014/03/23 09:47 | URL | ≫ EDIT