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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話「妖怪食品工場 -後編-」

 ① 「待って!」凛を制した。

 「待って!」優里は凛を制した。
 耳を澄まし、中年女性の部屋の気配を探る。
 複数の何者かが、うごめく気配がする。
 おそらく、この厨房にいた作業員と同じ、妖怪化した人間がいても不思議ではない。
 そんな中を、一般人である女性が辿り着けるはずがない。
「凛ちゃん、あの女性・・・なにか感じない?」
 優里の慎重な言葉に、目を凝らし女性を見つめた。
 赤い陽炎のような靄が、女性を覆っている!
「あ…あの人も、妖怪・・・!?」
「やはり・・・」
「あら、バレたようね!!」
 扉の向こうで中年女性は、そう言って微笑んだ。
「アタシは、この工場のオーナー。アタシも食べることが何より好きなんだけど、でも本能のまま食い散らかすなんてごめん! しっかり調理された文化的な料理を食べるのが好きなの」
― そういった理由でも、自我が残るものなのね… ―
 改めて、人間の執念……欲望の深さを知る。
「アタシの今の役目は、工場の外で美味しそうな獲物を見つけ、工場内へ誘い込む事・・・。後は、そこの工場長が美味しく加工した料理を頂くこと・・・」
「オーナー、もうしばらくお待ちください。 すぐにこの娘たちと料理してお持ちいたしましょう」
 厨房内には、妖怪化した工場長及び、作業員たち。
 隣の部屋には、同じように妖怪化したオーナーや、作業員が待ち構えている。
「まるで、ゾンビの館ね・・・・」
 10年に一度の出来事ではないだろうか?
 あの優里が、アメリカン・ジョークのようなものを口にして嘲笑している。
 それに対し
「笑えないです・・・・」
 と凛は引きつったままである。

 来た方向は、防火シャッターによって階段が閉ざされているので、下に降りることはできない。
 だが、工場の外にいたオーナーが上にあがってこれたと言うことは、あの扉の先が下の階に繋がっているはずである。
 進路は決まった。
「凛ちゃん、何日か前……霊光矢を投網のように変化させたわよね。あれ……ここでもできる?」
 優里は凛に問いかけた。
「投網のように・・・? ああ…、卵化した人たちを元に戻す時に使った・・・?」
「そう。できるのなら、工場長やこの部屋にいる作業員に向けて放ってほしいの!」
 凛には優里の言っている意味が理解できた。
「変化は多分できます。でも……あの時と違って広範囲になるので、きちんと網の形になるかわからないし、なっても霊力がかなり分散するので、浄化まで…できないと思います」
「形はどうでもいいし、浄化できなくてもいい。ただ……少しの時間でいいから、彼らの動きを足止めできればいいの!」
「わかりました、やってみます!」
 一歩前に出た凛は、弓を構える。
シュュュッ・・・・・!
 放たれた青白い光は、まるで花火のように瞬時に四方八方へ分散。
 分散した光の全てに、細い光の糸が繋がっている。
 それは妖怪たちの前に、壁の様に立ちふさがった光の網。
「凛ちゃん、ついてきて!」
 優里はオーナーのいる扉に向かって駈け出した。
 握りしめた薙刀の、刃先とは逆の柄の先……石突と呼ばれる部分を突き出し、オーナーの腹部に突き当てる!
 そのまま捻るように押し払うと、オーナーは反対の壁まで吹き飛んだ!
 直ぐ様、部屋の中へ飛び込むと、凛は扉を閉め鍵を掛けた。
 この部屋は厨房ほど広くはないが、逆に作業台や調理機器などが一切置いていない。
 どうやら、商品を梱包する部屋のようである。 
ううううううぅぅっ!
 この部屋にいた、5~6人の妖怪化した作業員が一斉に襲いかかってきた。
 だが、この部屋なら狭いながらも、なんとか薙刀を振るうくらいは出来そうだ。
「凛ちゃん、作業員は私に任せて、下に降りる階段をみつけて!」

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(3)

 優里は、薙刀の刃の逆……刀背の部分を使って、襲いかかる作業員をなぎ払う。
 いわゆる、刀背打ち(みねうち)というやつだ。
 殆ど暗黒と言っても過言ではない……暗闇の中。
 実力的に劣る相手とは言え、気配だけを頼りに複数の相手から身を守るのは容易ではない。
 しかも、相手を殺さずに応戦しているのだから、殆ど神業と言いいてもいい。
「あった!」
 凛が非常口と兼用になっている、野外階段を見つけた。
 おそらく妖怪オーナーはここから上がってきたのだろう。
ガチャ・・ガチャ・・!
 ノブを回そうとするが、回らない。
 よく見ると、鍵が壊されており、ノブが回らないようになっていた。
 おそらくオーナーが念の為に壊していたのだろう。
「そんな……」
 大きく溜息が零れた。だが、ここでしょげている暇はない。
 優里が頑張っているうちに、他の手段を見つけないと!
 凛は諦めず、壁という壁・・床という床を手探りで弄る。
「!?」
 真っ暗で気付かなかったが、床の一部が落とし穴のように抜けている箇所がある。
 手探りで抜け穴に手を伸ばしてみる。
― ベルト・・コンベア・・・!? ―
 そう、そこはベルトコンベアを使って、直接下の階に荷を降ろせるように開けられた穴であった。
 抜け穴は極端に大きくはないが、それでも一人ずつなら十分に降りられる幅がある。
「優里お姉さん、下へ降りられます!!」
 凛は大声で叫んだ!
「ありがとう、凛ちゃん! 後から行くわ・・・先に降りていて!」
 優里は丁度、オーナーと応戦していた。
 凛は抜け穴に足を入れ、後ろ向きでコンベアを伝って降りていく。
 オーナーを払いのけた優里も後に続く。
 1階に辿り着くと、辺りを見渡す。
 閉じられた搬入用のシャッターの脇に、非常口と記された扉があり、駆け寄る二人。
 コンベア用の抜け穴から、次々に飛び降りてくる作業員。
 その中には、オーナーと工場長の姿もあった。
「開いたっ!!」
 扉を開け、勢い良く外へ飛び出す二人。
 外は日も暮れ、月夜の光だけが唯一の灯りだった。
 トラックレーンの中央まで駆けぬいた二人は、追っ手を迎え撃つため武器を構えた。
 十分な広さに、月明かりのお陰で、ある程度視界がきく。
 だが、工場長もオーナーも・・・そして作業員たちも、工場から出てくる気配は無かった。
 もしかしたら、あの妖怪たちもわかっているのかもしれない。
 工場内が自分たちの縄張りであり、ホームグラウンドであること・・・。
 工場の外で行動することが、どれだけ自分たちにとって不利であるかを。
 本能に忠実な妖怪ならではなのかもしれない。
 月明かりに照らされた工場は、そのもの自体がまるで生き物のように、ひっそりと息を潜めて辺りを伺っているようにも見えた。
「優里お姉さん、妖怪たち追って来ませんが、どうしますか?」
 さすがに優里も、これは予想外であった。
 どうする? 自分に問いかけるように、大きく息を吸う。
「今日は一旦戻りましょう。そして明日……準備を整えて、もう一度来ましょう。凛ちゃんも、このまま放っておけないでしょう?」
「はい」
― たしかに今戻っても、あの暗闇の中では戦えない。気がかりだけど、ここは体勢を整えなおしてからの方が良さそう。
 それにしても、もし……これが、わたしと金鵄の二人だけの時だったら、また飛び込んでいったかも知れない・・・。やっぱり優里お姉さんがいて、良かった! ―
 凛はそう考えていたら、自然と口元がほころんでいた。


 翌日、凛と優里は学校を終えてすぐに、再び工場を訪れた。
 今度は二人だけでなく、金鵄、セコ、猪豚蛇、そしてセコを通じて火や光属性の精霊たちも呼び出した。
 精霊たちで工場内を照らし、金鵄・セコ・猪豚蛇が囮となって誘い出す。
 誘い出された妖怪たちを、優里が前に出て盾となり、後方から一匹ずつ確実に凛が浄化の矢で仕留めていく。
 もっとも猪豚蛇だけは、怖がって凛の背にしがみつき、何の役にも・・・いや、却って足手まといだったが。
 すべての作業員、工場長・・・オーナーは浄化され、静かに横たわっている。
 意識が戻れば、各々元の居場所へ帰るだろう。
 その様子を眺めていた優里は、もの悲しげに声を漏らした。
「私のお母さんは、本能しか無かったのかしら……」
「はい……?」
「ごめんなさい・・・気にしないで」
 優里は慌てて、言葉を濁した。
「君の母が、人を襲う本能だけの妖怪に変わった事を、気にしているのかい?」
 金鵄がストレートに問い返した。
「ここの工場長、凛ちゃんの友達や……私の高校の先輩みたいに、想いとか願望とか無かったのかな?って。なんか……フト、悔しいやら……悲しいやら、そんな馬鹿げた考えが浮かんで・・・」
 優里はそう言うと、自分自身を嘲笑うように、大きく溜息をついた。
「うん……、よほど強い念のようなものが無いと、妖怪の本能に負けてしまうのだろうね」
 金鵄がまとめるように呟いた。すると、
「わたしは、美咲おばさんに、強い想いが無かったとは思いません!」
 それまで黙っていた凛が口を開いた。
「ここから柚子村のおばさんの家まで、電車を使っても一時間近く掛かりますよね?
 それなのに、なぜそんな遠い道のりを歩いて戻っていったんでしょうか?
 もし、人間を襲う妖怪の本能だけになっていたのなら、おばさんも他の作業員さんと一緒に、この工場に残っていたんじゃないかと思うんです」
「それって……!?」
「きっと、潜在意識の中にある、優里お姉さん……家族への想いが、本能を上回っていたんじゃないかなと。だから……ガムシャラに家に戻ることしか頭になかったんじゃないでしょうか?」
「でも……、お母さんは私の事がわからず、襲ってきたし・・・・」
「考えてみれば、優里の母は家に辿り着くまで、誰も襲った形跡はない。もしかしたら、家に辿り着いた喜びや安心感が、一気に想いを和らげてしまい、その瞬間……本能が上回ったのかもしれないね」
「じゃ…じゃあ……、お母さんは……私の事を……」
「忘れてなんかいなかったんですよ!」
 凛の優しい微笑みが、優里の心を強く打った。
― ありがとう……凛ちゃん。また……貴方に助けられちゃったね。 ―
 


「や…やっと見つけた…ちゃ……」
 同じ頃、村外れ犬乙山の麓近辺で、千佳が嫦娥と接触していた。
「ウ…ウチの身体が……消えかかっている……。これ…って!?」
「ふむ、かなり魂(エネルギー)同士が、打ち消し合ってきたようじゃの」
「ウチ、まだ…死にたくない……」
「確実に助かりたいなら、方法はある!」
 嫦娥はそう言うと、懐から瓢箪を取り出し、その蓋を外した。
 気が重くなるような赤い靄が広がると、一匹の動物のような影が現れた。
 体長は中型の犬くらい。だが…体つきは猫そっくりで、燃え盛るような…真っ赤な逆立つ毛が全身を覆っていた。
「中国妖怪、火山猫。お前さん……こいつと融合するんじゃ!」

 第14話へつづく(正規ルート)



 エピローグ②
『もう一つの始まり』

 ここは神田川県丘福市中央区に位置する、私立聖心女子大学。
 ティールームと表示された全面ガラス張りの一室のテーブルで、一人の女学生が読書をしていた。
 昔話のお姫様のように、長く、しなやかな黒髪。
 まだ女子高生で通るのではないかと思えるような、可愛らしく…それでいて上品な面影。
 このままジッと座っていれば、実物大の人形だと言っても信じてしまうだろう。
 本の表紙には『人形ニナの手作り服』と記載されている。
 どうやら手作り着せ替え人形と、その服の作り方が記された手芸本のようだ。
 キラキラ輝くその瞳を見れば、この女学生がどれ程関心をもっているかがわかる。
 そこへ
「姫~っ、探したわよ!」
 湯気の沸いた紙コップを両手に、短髪の女学生が話しかけてきた。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(e-2)

 短髪の女学生は、姫と呼んだお姫様風の女学生と、自分のテーブル上に紙コップを置くと、自身も椅子を引き隣に腰掛ける。
「ありがとうございます、希美さん。でも…姫と呼ぶのはやめていただけませんか?」
 姫と呼ばれた女学生は、気恥ずかしそうに微笑んだ。
「いいじゃん! あんた…この大学の有名人だからね!」
 希美は紙コップに入ったミルクティーを一口、口に含むと、
「八夜葵 都(はやき みやこ)、私立聖心女子大学教育学部一年生!
 あの日本十大流派とも言われている、八夜葵流の令嬢で、一説では武将島津の血を引くとか引かないとか・・・。
 柔らかで優雅な振る舞いに、美しく愛らしい佇まい。
 わが校だけでなく他校からも、お姫様みたい~~っ♪って言われているくらい、あんた・・超人気者なのよ!」
 と、少し大げさかなとも思えるくらい、囃し立てた。
「そ…そんなこと……ないです……」
 姫こと・・都は、ただ…ただ…赤面するしかなかった。
「ところで姫、週末のサークル強化合宿。参加するんだよね?」
「はい、初めての合宿なので、大変楽しみにしております。ただ・・・・」
「ただ・・・・?」
 都の言葉に、希美は首を傾げた。
「いえ、ハンドメイド(手作り)サークルでの強化合宿って、どういった事をするのでしょう?」
 ある意味で、素朴な疑問だった。
「わからん!」
 希美も頭をかく。
「まぁ、先輩たちの話によると、合宿っていう名目の、親睦会みたいなものって話だよ」
「そうですか。私……そういった会も経験がないので、皆様のご迷惑にならなければいいのですが……」
 不安そうに頬を赤らめる都。
 やっぱ、こいつ…お姫様みたいで、マジ可愛い!! そう思う希美だった。

 週末の土曜日、ハンドメイドサークルは、都と希美を含む二十数人のサークル部員を乗せた貸し切りバスで、柚子村という小さな村を経由して伊塚市へ向かった。
 途中、山道を通るが、実質二時間程の道のりである。
 しかし道中、予想もしない大事故が発生した。
 柚子村を通り過ぎた辺りの山中で、バスが横転……崖から落ちるという大事故だった。
 バスの前面は、まるで落石か、もしくは熊のような大型動物に衝突したかのように、大きくへこんでいたらしい。
 バスの内部には、2~3人の女学生の死体があったが、他の学生の行方がわからない。
 大規模な捜索活動が行われたが、依然として行方不明のままだった。

 姫こと八夜葵都と、その友人…希美の行方も・・・・・・・・。


 もう一つの始まり  完




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 ② 凛の手を握り、扉へ向かって走った。

「一旦、この部屋を出ましょう!」
 優里は凛の手を引くと、中年女性のいる扉へ向かって駈け出した。
 失速せず、そのまま扉を通り抜けようとした瞬間、足元が空に浮く感触!
 そう、扉の先の床は、まるで落とし穴のように2m四方にくり抜かれていた。
ドンッ!!
「いった・・・・っ・・・」
 予期せぬ落下で、思いっきり腰を打った二人。もちろん、自身を覆っている霊力と、高い防御力を誇る戦闘服のお陰で、たいしたダメージは無い。
 だが、起き上がる間も無く、大勢の作業員たちに取り押さえられてしまった。
「材料、確保~♪ ってとこかしら」
 先ほどの中年女性が工場長を引き連れ、姿を見せた。
「二階の穴はね、この部屋……素材加工室と、直接荷の上げ下げをするための、クレーン用の穴よ」
「あなたも妖怪だったのね!?」
 優里が問いただした。
「この方は、この工場のオーナーだよ」
 工場長の言葉に、凛が目を凝らして見ると、中年女性から赤い靄のような妖気が見える。
「妖怪になったアタシ達全員が動きまわると、あっと言う間に世間に知れ渡って、面倒くさい事になるからね。 だから、アタシが外に出て、獲物を誘い込む役をしているのさ!」
 オーナーはそう言うと、ハンドバックからキャンディーを取り出した。
「この飴にはね、ヒカゲシビレタケを煎じたものを入れているんだけど、アンタ達…さっき口にしたわよね?」
 門の前で貰った……あの飴! 凛たちの表情が青ざめる。
「通常は舐めてから30分から一時間くらいで、痺れや麻痺、幻覚症状が現れて動けなくなるんだけど、そろそろ効いてきたんじゃない?」
 オーナーの言葉でスイッチが入ったかのように、凛と優里の身体に痺れが走った。
 正座で痺れた足が全身に広がったような、指先すら自由に動かせない。
 それを確認した工場長は、凛たちを取り押さえていた作業員に、引き下がるように命じた。
 床の上で大の字に倒れたままの凛と優里。
「わ…た……し…たち……ど……う…する……の……?」
 毒のせいで、舌すら満足に回らない。
「久しぶりに新鮮で、柔らかそうな食材ね。どう調理する?」
 オーナーが舌なめずりしながら、工場長に問う。
「そうですね、たしかに柔らかそうな食材。もっと軟らかくするため、自慢の圧延機を使っていいですか?」
「圧延機……? ああ、あなたが人間だった頃に設計したという、ローラー機械の事ね。いいわ! やって頂戴!!」
 工場長はオーナーの返事に頷くと、優里の身体を担ぎあげ、室内のベルトコンベアへ運ぶ。
 コンベアに優里をうつ伏せに横たわらせると、大きな機械の電源を入れた。
 鈍い振動と共に、足の先で何かが回転する音が聞こえた。
 首ですら痺れて動かせぬため、目だけで足の先を追うと、イボイボのような突起物がついた、大きなローラーが一対、ゆっくり回転しているのが見える。
― ま……まさか…… ―
 優里の頭に、不吉な予感が走る。
 工場長が嬉しそうな表情で、次のスイッチを押した。
ゴトンっ!!
 優里が横たわっているコンベアが動き始める。
「い…いや……」
 予感は当たった!
 優里の短い叫びを他所に、爪先から突起のついたローラーに巻き込まれていった。
グイン…グイン……
 上下の突起が優里の身体を抑えこむ。
 だが、優里の身体が潰されるわけではなく、むしろ……突起物が全身のツボを刺激する形になって、まるでマッサージを受けているかのように気持ちがいい。
「あ……いい…っ…」
 思わず優里が、甘い息を漏らした。
「自慢のオリジナル設計でね、最初のローラーは材料を揉みほぐして軟らかくしていくのさ」
 たしかに、ローラーから出てきた優里は、身も心も軟らかくなったかのように…トロンとした表情をしていた。
 だが、そんな余韻を楽しむ間も無く、次のローラーに巻き込まれる。
「あ…あ……っ…」
 さすがに今度は甘い声は出なかった。
 表面が金属の網目状で、上下の間隔が更に狭くなったローラー。
 ローラーから流れ出てきた優里の身体は、元の身体の1/3の厚さ・・・。3~4㎝程に潰されていた。
 もはや、声も無かった。
 最後に表面がツルツルの、直径がより大きくなったローラーが待ち構えている。
 今まで同様に爪先から、引き摺り込まれる優里。
ブチッ…ブチッ……
 お肉が潰される、小さな音が鳴り響いた。
「どれどれ……♪」
 最後のローラーから流れ出てきた優里を、工場長が待ち構えていた。
 優里の頭を摘み上げると、その出来栄えを確かめる。
 厚さ・・・1㎜程で、面積は元の3割増し程度、薄く広がっている。
 摘み上げられたその姿は、まるでペラペラとなびいた紙のようだ。
クンカ…クンカ……
「うん、薄さ…柔らかさ、そして…この甘味のある匂い! これは生ハムにしたら、凄くいい商品になるぞ!」
 思わず唾を飲む、工場長。
「優里……お姉さん……」
 優里の惨めな姿に涙する凛。だが、そんな感傷もすぐに冷まされた。
 作業員が、凛の身体をコンベアに横たわらせたからだ。
 凛の爪先から突起物のあるローラーに巻き込まれていく。
 まるで、温泉地にあるマッサージチェアのように、突起が全身のツボを優しく押してくる。
「気持ち……いい……」
 思わず涎が溢れる気持ちよさ。
 しかし、次のローラーに挟まれると、大きな悲鳴を上げた!
 凛の叫びを、オーケストラの奏でる音でも聞くように、笑顔で受け止めるオーナー。
 3㎝程の厚さになった凛。もう意識も無かった。
 優里同様、最後の大きなローラーから流れでた凛の姿は、やはり厚さ1㎜程の紙のようにペラペラに薄く伸ばされたものだった。
 オーナーはペラペラの凛を摘み上げると、匂いを嗅ぎ……更にペロリと味見をした。
 その舌触りは、小麦粉で出来た薄い生地を思わせた。
「ねぇ…工場長、こっちの子どもは、スイーツにしたらどうかしら?」
「スイーツですか?」
 工場長が歩み寄り、凛をペロリと舐めた。
「クレープのように薄いまま焼いて、生クリームを乗せて、クルクル巻いたら・・・」
 オーナーが嬉しそうに語りかける。
「それはいいかもしれませんね。それはオーナーの自由にしてください。こっちは生ハムにしますから♪」

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(4)



 工場長はペラペラの優里を二階の調理室へ運び、調理台の上に広げた。
 工場長は、バケツにたっぷりのソミュール液(塩水をベースにした調味液)を用意すると、刷毛で優里の身体に塗り始めた。
「あ……っ…」「つめた……」「し…しみる……」
 時折、優里が声を漏らす。
「ほぅ、この状態でもまだ生きているのか? これは活きが良くて、楽しみだ♪」
 全身に十分にソミュール液を染み渡らせると、冷蔵室へ運び、一晩寝かした。
 翌日、物干し竿にペラペラの優里を洗濯物のように引っ掛けると、冷風に当て、風干しを始めた。
 更に翌日、ある程度水分の抜けた優里を燻製器の中に吊り下げる。
 20℃前後の煙で2時間程、冷燻。
 終わったら風干し。それを一日四~五回繰り返す。
 大変手間が掛かるが、この手間が美味しい生ハムを作るのだ。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(5)

 四日目。
クンカ…クンカ……
「いい匂いだ。これは今までで最高の生ハムが完成したな!」
 大皿に乗せられた、生ハムとなった優里。
 通常のハムと違い、加熱していない生ハムのため、綺麗な赤みがしっかり残っている。
 その色合いといい、香りといい、見ているだけで涎が出そうになる。

 優里が生ハムとして加工されている間、凛はロールケーキ風クレープの材料として、オーナーに調理されていた。
 まず、ペラペラになった凛をまな板の上に乗せ、麺棒を使って更に薄く……しなやかに伸ばされた。
 爪先から丁寧に麺棒押し回していく。
「あ……だ…め……」
 凛もまだ生きていたようで、薄く伸ばされていく度に、甘い声を漏らしていた。
「うふふ……可愛い声ね。その可愛らしさも、美味しさの一つよ」
 オーナーは、ゆっくり…ゆっくり、凛を引き伸ばしていく。
 もう、神経は麻痺しており、痛みではなく快楽としてしか感じられないのかもしれない。
 反対側が透けて見えそうなくらい、薄く引き伸ばされた凛。
 レモン汁を全身に振りかけられ、二日程…冷蔵室で寝かされた。
 その方が生地が熟成され、焼き上げた後、弾力…旨味が大きく違ってくる。
 三日目、油を引いて加熱した鉄板の上に、十分に寝かせた凛を薄く広げる。
ジュゥゥゥゥゥッ!!
「あぁ……、美味しそうな匂い……」
 香ばしい匂いが、調理室に充満する。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(6)

 焦げすぎないように、弱火でじっくり……両面に焼き目を付ける。
 薄く焼きあがったクレープ生地のような凛を、ラップを広げた調理台の上にうつ伏せに広げ、たっぷりの生クリームを塗りたくる。
「スイーツだから、生クリームは惜しみなく使わないと」
 オーナーは、これでもか!と言わんばかりに、生クリームを乗せていった。
 十分にクリームを乗せると、凛の爪先からラップを使ってゆっくり巻き上げる。
 頭の先まで、ロールケーキ状に巻き上げると、そのままラップで包み、冷蔵室でまた一晩寝かした。
 4日目、ラップを引き剥がすと、クルクルと丸まった、凛のロールケーキ風クレープの完成した!!


「こんな場所に、何があるというのですかな?」
 ムッシュが髭を擦りながら、問い詰めた。
「身共(みども)も先日まで知らなかったのだが、妖木妃様は、あの村に辿り着く前に、この地で人間を妖怪化したらしいのだ」
「ほぅ?」
「それが本当であれば、我が配下として扱わなければならない。だから状況を見に来たと言うわけだ」 
 そう、妖木妃の直属の手下である白陰、そして人間牧場化計画を企むムッシュは、例の食品工場前に来ていた。
「アンタ達、工場に何か用かい?」
 工場に近寄る者を、獲物として誘い込もうとオーナーが姿をみせた。
「うん……? 汝(うぬ)は、妖怪のようだな……」
 白陰は一目見て、オーナーが妖怪であることを見抜いた。
「それも、たいして妖力も強くない……雑魚妖怪ですな!」
 ムッシュも、自慢のカイゼル髭を摘み上げながら、嘲笑う。
「どうやら、妖木妃様がこの場所で妖樹の術を使ったのは、間違いなさそうだ」
 白陰は、オーナーを睨みつけると
「妖怪化したのは、汝だけではなかろう……。他の者達の所へ案内せよ!」
 と凄んだ。
 さすがに妖怪化したことで本能が強まっているオーナー。
 白陰とムッシュから湧き出る妖気から、自分たちが敵う相手では無いと悟った。
 言われるまま、工場内に案内する。
 工場長もすぐにソレを察し、食事をご馳走すると応対した。
 事務室の応接セットに案内された、白陰とムッシュ。
「一体、どんな物をご馳走してくださるのかな?」
 料理の腕も知識も一流と自負するムッシュは、特に楽しみに待ち焦がれる。
 やがて二人の前に、小皿に盛りつけられた、人皮のような薄い手の平大の切れ端が出された。
 ムッシュは切れ端をフォークでクルクルと巻きつけ、鼻先に運ぶ。
クン……クン……
「ほーぉ! これは……!?」
 ムッシュはそう言って、口端を緩ませた。
 そして、そのまま口の中に放り込む。
「お・・・・っ!!」
 口に入れた瞬間、少女のような甘い香りが鼻腔を通り抜け、嬉しいため息が漏れる。
 それは、生だからわかる、優しい自然な甘い香り。
「これは……人間の娘を潰して作った生ハム・・・。それも、旨味の強い……太腿の部分ではないかな?」
「さすがに、良くお解りで! 先日手に入れた小娘を調理してみました」
 工場長は直角とも思える程腰を低くし、言葉を返す。
 ムッシュは嬉しそうに、更にゆっくりと噛み潰してみた。
 皮と脂肪と筋肉を上手にプレスする事で、一つの肉片に融合させた、例の無い肉質と味。
 適度な弾力はあるが、しかし硬いわけではない。少し力を入れれば、簡単に噛み潰せる。
 唾液の中に、溶けた脂が混じり、独特の甘みが舌の上に広がる。
 そして思い出したように赤身の旨みも、じわじわと押し寄せてくる。
 目を閉じ、全ての神経を舌に集中させ、ゆっくりと噛み締めながら、甘美な旨みを脳へ送る。
「悪くない・・・。いや、全てにおいて完璧な美味さだ」
 ムッシュは天を仰ぐように、その余韻を楽しんでいた。
 白陰も、その生ハムの美味さに声も出なかった。

「次にデザートのスイーツでございます」
 オーナーが次の皿を運ばせた。
 皿には、バームクーヘンのような、切り株を思わせるスイーツが乗っていた。
 バームクーヘンと違う所は、生地がスポンジケーキ状でなく、クレープの様に極薄の生地であること。
 白陰もムッシュも、物珍しい表情で口へ運んだ。
 焼き目のついた香ばしい匂いが鼻孔を通り抜ける。
 だが、それを追うように、大地のような土の香り、それでいて甘酸っぱい香りが口の中で広がる。
「これは、少女……。しかも、10代前半の少女独特の匂い……」
 ムッシュがパズルを解くように、思考を張り巡らせる。
 ゆっくり噛み締めてみると、極薄の生地の割にしっかりした確かな弾力。そして独特の甘酸っぱさ。
 生地からはみ出す生クリームの甘さが、更にその旨味を引き上げる。
「うむ、これも悪くない……、見事な仕事だ!」
 味に五月蝿いムッシュすら、文句の付け所がなかった。
「時に工場長、先程の生ハムといい、このスイーツといい、ある一つの共通点が感じられる。そう……美味さも去ることながら、力が湧き出るような、強い霊力が込められていた」
 ムッシュはそこまで言うと、不敵に微笑み……
「一体、何を料理したのかね?」
 と、問いただした。
 工場長とオーナーは互いに頷きあうと、作業員に残りの生ハムとロールケーキ風クレープを運ばせた。
 大皿の上には、きれいに切り刻まれた……生ハム優里と、ロールケーキ風クレープの凛の姿が。
「ぶふっっ!!」
 宿敵の情けない姿に、白陰とムッシュは思わず吹き出した!
「なるほど、美味さも霊力も納得した」
 笑わずにはいられなかった。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話(7)


 ムッシュはオーナーと工場長を直属の部下に任命した。
 そして、この食品工場を正式に人間加工食品工場として運営することにした。

 その後、宿敵妖魔狩人がいない日本、ムッシュの野望は順調に進んだ。
 ムッシュは次々に人間を飼育加工させ、更に部下を増やし…妖怪相手のレストランチェーンを展開した。

 半年後、長い眠りから目覚めた妖木妃は驚いた。
「まさか、レストランチェーンでこの国を制圧するとはのぅ・・・・」

 バッド・エンド

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