2014.05.26 Mon
妖魔狩人 若三毛凛 if 第13話「妖怪食品工場 -中編-」
時刻は過ぎ、制服姿のまま志津香駅で待ち合わせた凛と優里。
ローカル線に乗り換え、牛味駅へ着いた頃は夕方五時を回っていた。
ネットで調べた住所を頼りにタクシーで工場に辿り着いた。
柚子村みたいに山々に囲まれ、殆ど民家も見当たらず、広い土地の中にポツリポツリとある、工場や倉庫の一つ。
神田川第一工場・・・・
門には社名の下にそう書かれてあった。
営業休止になったと聞いていたが、間違いないだろう。
駐車場や荷受場所には、車やトラックが一台も停まっていない。
工場を見渡しても、シャッターは全て閉ざされており、灯りの一つも見当たらない。
凛と優里は互いに頷くと、門の中へ足を踏み入れようとした。
そこへ・・・
「あなた達……中学生? それとも高校生……?」
と背後から声を掛けられた。
振り返ると、40半ばくらいの肉付きのいい中年女性が立っていた。
「私達は柚子村にある、青葉メイトという……小学、中学、高校生によって結成された、県の社会事業を観察していく集まりなんです。今日はこの付近で工場見学ができる場所を調べにやって来ました」
優里が笑顔で素早く答える。
もちろん、全て『嘘』である!
だが、あまりの頭の回転の早さに、凛は呆然と見つめるだけであった。
「まぁ、そうなの! でも……ここは止めたほうがいいわよ。この工場は一ヶ月前から営業が止まっているし、なにより・・・」
「……?」
「ここだけの話・・・!」
「はい……?」
「ここ最近、この付近……行方不明者が続出しているんだって!」
「行方不明者……?」
「もしかしたら、この辺で怪しい新興宗教団体でもいて、拉致でもしているのかもよ!?」
「こ…怖いですね……」
中年女性はそう言うと、手にしたハンドバックから何やら取り出し
「はい、飴ちゃんあげるから、それを食べて帰った方がいいわよ!」
と、二人に1つずつキャンディーを手渡した。
中年女性は言うだけ言うと、何事も無かったように立ち去っていった。
ガチャッ!!
不思議な事に、周りのシャッタ―は全て閉ざされているのに、玄関の鍵は閉じていない。
ゆっくり扉を開け、玄関に足を踏み入れる。
電気は止められているのか?
当然、全ての照明機器は作動していないため、工場内は1~2m先すらよく見えない程の暗がりになっている。
「優里お姉さん……、あまりよくない気を感じます……」
「うん、凛ちゃん程で無いけど、私にもなんとなくわかる……」
玄関から入ると、すぐ正面に二階へ上がる階段と、その脇を通る小さな廊下がある。
「どっちから行く?」
優里が声を掛けた瞬間・・・・
ゴトッ!!
上の方から物音が聞こえた。
慌てて凛の顔を見て確かめる。どうやら凛にも聞こえたようだ。
「二階・・・?」
二人はゆっくりと階段を登っていった。
階段を登り二階へ上がると、すぐ脇に営業事務室の扉があった。
優里が扉をゆっくり開け、中を覗きこむ。
殆ど暗闇状態で、まるで中の様子がつかめない。
しっかり手を繋ぎ、恐る恐る事務室の中へ入っていく。
「誰だっ!?」
ギクッ!!!
部屋の奥から、人の声が聞こえた?
「誰だ、何故…勝手に入り込んでいる?」
間違いない、人の声だ。
暗闇に目を凝らし、部屋の奥を見つめる。
どうやら一人の男が近づいてくるようだ。
ほんの目と鼻の先まで近寄ってこらえ、やっと中年男性だとわかる。
角刈りのような頭に、無精髭。
さほど身長は高くないが、中肉中背で極普通の中年男性。
「俺はここの工場長、お前ら…中学生か?」
怪訝そうな目で二人を見渡す工場長。
すかさず優里が、中年女性を対応した時と同じように返す。
「申し訳ありません、私達は柚子村にある・・・(以下、略…)」
「ふ~ん……、工場見学ねぇ~。見ての通り、この工場はしまえているよ」
工場長はお手上げといった仕草。
「そのようですね、私達の勘違いでした。ここで失礼いたします・・・」
そう言って優里が背を向けたその時・・・
「でも、お嬢ちゃん達なら……食品加工の現場を見せてやってもいいよぉ~♪」
口調が違う!
「優里お姉さん、不味いです……」
凛が呟いた。
凛の目には、工場長から赤い靄のような物が噴出し始めたのが見える。
「この人・・・・妖怪です!」
凛がそう言った瞬間、工場長の姿が異変した!
角刈りは鋭くハリネズミのようになり、指先は刃のような長い爪。そして耳まで裂け、犬歯のような牙が並ぶ口。
凛にとっても見慣れた姿・・・妖樹によって妖怪化した姿!
シャァァァァッ!!
鋭い爪が二人に向かって振り下ろされる。
慌てて避ける凛と優里! そこにあった机が真っ二つに切り裂かれた!
「霊装っ!!」
黒と白の戦闘服を身に纏い、弓と薙刀を構える凛と優里。
だが、ただでさえ狭い事務室、更に机や事務用品が並んでいるため身動き一つするにも、ままならない。
まして優里の薙刀なんかその長さゆえに、机や棚に突っ掛かって自在に操る事もできない。
「凛ちゃん、ここじゃ戦えないわ。一旦…工場の外へ出ましょう!!」
「はい!」
二人はそう言って事務室から飛び出した!
早く下へ降り、外へ出なければ・・・
しかし!!
上がってきた時に使った階段が・・無い!?
「まさか・・・!?」
二人は我を疑った。
いや、階段が無くなったわけではない。
階段の前に防火用のシャッターが降ろされており、完全に閉ざされているのだ。
シャァァァァァァッ!!
すぐ背後で、鋭い爪が空を斬った!
優里が薙刀を構え応戦する。
だが、ここも狭く、更に素早く動く敵に技が振るえない。
「お姉さん、こっち!」
凛が階段の脇に奥へ進む細い廊下を見つけた。
突っ走る二人!
奥に扉が見える。
蹴り破るように扉を開け、中へ飛び込むと、勢い良く扉を閉め鍵を掛けた。
― ふぅ… ―
これで少しは時間が稼げる。
「ここは?」
真っ暗な室内を手探りで探っていくと、部屋の両脇に十数個のロッカーが並んでいるのがわかった。
どうやら飛び込んだ場所は、更衣室のようだ。
外へ出る方法はないか?
部屋の中を見渡す二人。
外からの薄明りでロッカーの上に排煙用の窓が見えたが、あまりに小さく、いくら小柄な凛でも通り抜けられそうにない。
更に室内を探索すると、別の部屋に繋がる扉を見つけた。
扉を開け、中の気配を探る。
そこは更に小さく狭い部屋? どうやら、妖怪の気配はない。
ゆっくりと先へ進む二人。
暗闇のため二人は気づいていないが、ここは調理場へ入る前の消毒用のエアシャワールームであったらしい。
部屋の左脇にあった引き戸型の扉を開けると、大きな厨房へ繋がった。
排煙用の窓が並んでいるため、外からの薄明りが差し、今までの部屋より僅かだが室内の様子がわかる。
中央には調理台が並んでおり、部屋の壁側にはフライヤーや鉄板など加熱機器が並んでいる。
ゆっくりと歩を進めていくと、部屋の隅で何かが蠢いている気配を感じる。
近づきながら目を凝らして様子を見る。
「キャッ…」
凛が小さな悲鳴を上げた。
床には数人分の白骨が散らばっていた。
更にその先で、ガツガツと何かを食い漁っている4~5人の姿が。
「そこにいるのは誰っ!?」
優里が凛とした声を掛ける。
声に反応し振り向く4~5人。
各々がその手、その口で、人間の腕や、動物の足などを食い漁っている。
それは、人間や野良犬などを食い漁っている・・・妖怪化した元人間達。
ううううぅ・・・
奴らは新たな獲物を見つけた肉食獣のように、食していた肉片を放り捨てると、ゆっくり凛と優里に向かって歩き出した。
武器を構える二人。
「ソイツらは、食うという本能だけが残って、下等妖怪に成り果てた・・・ここの作業員達だ」
背後から工場長が現れる。
「この俺は、誰よりも優れた加工食品を作りたいという願望があったため、知識も記憶も残したまま、上級の妖怪に生まれ変わったのだ!」
― たしかに・・・ ―
凛は思い当たった。
妖怪化した千佳は、凛に対する『想い』をしっかり残していた。
同様に妖怪化した青年(春人)は、人形を集めたいという欲望が、能力として加わっていた。
うぅぅぅぅぅぅぅ・・・・
そんな凛の思考を中断するかのように、うめき声が聞こえる。
前方からは五人の妖怪化した作業員。後方は妖怪化した工場長。
先程までよりは多少広くはなっているが、それでも室内。更に1メートル先さえ見えない暗闇。
まともに戦える状況ではない。
いや、優里自身は……本心を言えば、実はこの不利な状況でも、敵を倒す自信はあった。
しかし、この状況下での戦いとなれば、敵に対して手加減などができず、それどころか相手を殺してしまう可能性が高い。
相手は、いくら妖怪化しても元は人間。凛の浄化の力を使えば、人間に戻すことができる。
そう・・・優里の母、美咲のように。
凛によって妖怪化した美咲を元の人間に戻してもらった喜びは、優里には痛いほどわかる。
この作業員たちも、もしかしたら……家族がその帰りを待っているかもしれない。
だから、無闇矢鱈に戦うことで、その生命を奪うわけにはいかない!
「優里お姉さん・・・!?」
凛の心配そうな声。
だが、優里にとっての最優先は凛だ。
どんな事になってもこの子だけは守らなければ!
最悪、この手を汚してでも・・・・
優里がそう決意した時。
「こっちよ!」
右の方向から声が聞こえた。
見ると、右方向の壁に扉があり、その扉の先には門の前で出会った中年女性の姿があった!
「あの人は・・・!?」
「お姉さん!」
凛の顔が少し明るくなり、目で合図を送る。
優里は・・・・・どう動く?
① 「待って!」凛を制した。
② 凛の手を握り、扉へ向かって走った。
----------------------------------------------------------------
『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
ローカル線に乗り換え、牛味駅へ着いた頃は夕方五時を回っていた。
ネットで調べた住所を頼りにタクシーで工場に辿り着いた。
柚子村みたいに山々に囲まれ、殆ど民家も見当たらず、広い土地の中にポツリポツリとある、工場や倉庫の一つ。
神田川第一工場・・・・
門には社名の下にそう書かれてあった。
営業休止になったと聞いていたが、間違いないだろう。
駐車場や荷受場所には、車やトラックが一台も停まっていない。
工場を見渡しても、シャッターは全て閉ざされており、灯りの一つも見当たらない。
凛と優里は互いに頷くと、門の中へ足を踏み入れようとした。
そこへ・・・
「あなた達……中学生? それとも高校生……?」
と背後から声を掛けられた。
振り返ると、40半ばくらいの肉付きのいい中年女性が立っていた。
「私達は柚子村にある、青葉メイトという……小学、中学、高校生によって結成された、県の社会事業を観察していく集まりなんです。今日はこの付近で工場見学ができる場所を調べにやって来ました」
優里が笑顔で素早く答える。
もちろん、全て『嘘』である!
だが、あまりの頭の回転の早さに、凛は呆然と見つめるだけであった。
「まぁ、そうなの! でも……ここは止めたほうがいいわよ。この工場は一ヶ月前から営業が止まっているし、なにより・・・」
「……?」
「ここだけの話・・・!」
「はい……?」
「ここ最近、この付近……行方不明者が続出しているんだって!」
「行方不明者……?」
「もしかしたら、この辺で怪しい新興宗教団体でもいて、拉致でもしているのかもよ!?」
「こ…怖いですね……」
中年女性はそう言うと、手にしたハンドバックから何やら取り出し
「はい、飴ちゃんあげるから、それを食べて帰った方がいいわよ!」
と、二人に1つずつキャンディーを手渡した。
中年女性は言うだけ言うと、何事も無かったように立ち去っていった。
ガチャッ!!
不思議な事に、周りのシャッタ―は全て閉ざされているのに、玄関の鍵は閉じていない。
ゆっくり扉を開け、玄関に足を踏み入れる。
電気は止められているのか?
当然、全ての照明機器は作動していないため、工場内は1~2m先すらよく見えない程の暗がりになっている。
「優里お姉さん……、あまりよくない気を感じます……」
「うん、凛ちゃん程で無いけど、私にもなんとなくわかる……」
玄関から入ると、すぐ正面に二階へ上がる階段と、その脇を通る小さな廊下がある。
「どっちから行く?」
優里が声を掛けた瞬間・・・・
ゴトッ!!
上の方から物音が聞こえた。
慌てて凛の顔を見て確かめる。どうやら凛にも聞こえたようだ。
「二階・・・?」
二人はゆっくりと階段を登っていった。
階段を登り二階へ上がると、すぐ脇に営業事務室の扉があった。
優里が扉をゆっくり開け、中を覗きこむ。
殆ど暗闇状態で、まるで中の様子がつかめない。
しっかり手を繋ぎ、恐る恐る事務室の中へ入っていく。
「誰だっ!?」
ギクッ!!!
部屋の奥から、人の声が聞こえた?
「誰だ、何故…勝手に入り込んでいる?」
間違いない、人の声だ。
暗闇に目を凝らし、部屋の奥を見つめる。
どうやら一人の男が近づいてくるようだ。
ほんの目と鼻の先まで近寄ってこらえ、やっと中年男性だとわかる。
角刈りのような頭に、無精髭。
さほど身長は高くないが、中肉中背で極普通の中年男性。
「俺はここの工場長、お前ら…中学生か?」
怪訝そうな目で二人を見渡す工場長。
すかさず優里が、中年女性を対応した時と同じように返す。
「申し訳ありません、私達は柚子村にある・・・(以下、略…)」
「ふ~ん……、工場見学ねぇ~。見ての通り、この工場はしまえているよ」
工場長はお手上げといった仕草。
「そのようですね、私達の勘違いでした。ここで失礼いたします・・・」
そう言って優里が背を向けたその時・・・
「でも、お嬢ちゃん達なら……食品加工の現場を見せてやってもいいよぉ~♪」
口調が違う!
「優里お姉さん、不味いです……」
凛が呟いた。
凛の目には、工場長から赤い靄のような物が噴出し始めたのが見える。
「この人・・・・妖怪です!」
凛がそう言った瞬間、工場長の姿が異変した!
角刈りは鋭くハリネズミのようになり、指先は刃のような長い爪。そして耳まで裂け、犬歯のような牙が並ぶ口。
凛にとっても見慣れた姿・・・妖樹によって妖怪化した姿!
シャァァァァッ!!
鋭い爪が二人に向かって振り下ろされる。
慌てて避ける凛と優里! そこにあった机が真っ二つに切り裂かれた!
「霊装っ!!」
黒と白の戦闘服を身に纏い、弓と薙刀を構える凛と優里。
だが、ただでさえ狭い事務室、更に机や事務用品が並んでいるため身動き一つするにも、ままならない。
まして優里の薙刀なんかその長さゆえに、机や棚に突っ掛かって自在に操る事もできない。
「凛ちゃん、ここじゃ戦えないわ。一旦…工場の外へ出ましょう!!」
「はい!」
二人はそう言って事務室から飛び出した!
早く下へ降り、外へ出なければ・・・
しかし!!
上がってきた時に使った階段が・・無い!?
「まさか・・・!?」
二人は我を疑った。
いや、階段が無くなったわけではない。
階段の前に防火用のシャッターが降ろされており、完全に閉ざされているのだ。
シャァァァァァァッ!!
すぐ背後で、鋭い爪が空を斬った!
優里が薙刀を構え応戦する。
だが、ここも狭く、更に素早く動く敵に技が振るえない。
「お姉さん、こっち!」
凛が階段の脇に奥へ進む細い廊下を見つけた。
突っ走る二人!
奥に扉が見える。
蹴り破るように扉を開け、中へ飛び込むと、勢い良く扉を閉め鍵を掛けた。
― ふぅ… ―
これで少しは時間が稼げる。
「ここは?」
真っ暗な室内を手探りで探っていくと、部屋の両脇に十数個のロッカーが並んでいるのがわかった。
どうやら飛び込んだ場所は、更衣室のようだ。
外へ出る方法はないか?
部屋の中を見渡す二人。
外からの薄明りでロッカーの上に排煙用の窓が見えたが、あまりに小さく、いくら小柄な凛でも通り抜けられそうにない。
更に室内を探索すると、別の部屋に繋がる扉を見つけた。
扉を開け、中の気配を探る。
そこは更に小さく狭い部屋? どうやら、妖怪の気配はない。
ゆっくりと先へ進む二人。
暗闇のため二人は気づいていないが、ここは調理場へ入る前の消毒用のエアシャワールームであったらしい。
部屋の左脇にあった引き戸型の扉を開けると、大きな厨房へ繋がった。
排煙用の窓が並んでいるため、外からの薄明りが差し、今までの部屋より僅かだが室内の様子がわかる。
中央には調理台が並んでおり、部屋の壁側にはフライヤーや鉄板など加熱機器が並んでいる。
ゆっくりと歩を進めていくと、部屋の隅で何かが蠢いている気配を感じる。
近づきながら目を凝らして様子を見る。
「キャッ…」
凛が小さな悲鳴を上げた。
床には数人分の白骨が散らばっていた。
更にその先で、ガツガツと何かを食い漁っている4~5人の姿が。
「そこにいるのは誰っ!?」
優里が凛とした声を掛ける。
声に反応し振り向く4~5人。
各々がその手、その口で、人間の腕や、動物の足などを食い漁っている。
それは、人間や野良犬などを食い漁っている・・・妖怪化した元人間達。
ううううぅ・・・
奴らは新たな獲物を見つけた肉食獣のように、食していた肉片を放り捨てると、ゆっくり凛と優里に向かって歩き出した。
武器を構える二人。
「ソイツらは、食うという本能だけが残って、下等妖怪に成り果てた・・・ここの作業員達だ」
背後から工場長が現れる。
「この俺は、誰よりも優れた加工食品を作りたいという願望があったため、知識も記憶も残したまま、上級の妖怪に生まれ変わったのだ!」
― たしかに・・・ ―
凛は思い当たった。
妖怪化した千佳は、凛に対する『想い』をしっかり残していた。
同様に妖怪化した青年(春人)は、人形を集めたいという欲望が、能力として加わっていた。
うぅぅぅぅぅぅぅ・・・・
そんな凛の思考を中断するかのように、うめき声が聞こえる。
前方からは五人の妖怪化した作業員。後方は妖怪化した工場長。
先程までよりは多少広くはなっているが、それでも室内。更に1メートル先さえ見えない暗闇。
まともに戦える状況ではない。
いや、優里自身は……本心を言えば、実はこの不利な状況でも、敵を倒す自信はあった。
しかし、この状況下での戦いとなれば、敵に対して手加減などができず、それどころか相手を殺してしまう可能性が高い。
相手は、いくら妖怪化しても元は人間。凛の浄化の力を使えば、人間に戻すことができる。
そう・・・優里の母、美咲のように。
凛によって妖怪化した美咲を元の人間に戻してもらった喜びは、優里には痛いほどわかる。
この作業員たちも、もしかしたら……家族がその帰りを待っているかもしれない。
だから、無闇矢鱈に戦うことで、その生命を奪うわけにはいかない!
「優里お姉さん・・・!?」
凛の心配そうな声。
だが、優里にとっての最優先は凛だ。
どんな事になってもこの子だけは守らなければ!
最悪、この手を汚してでも・・・・
優里がそう決意した時。
「こっちよ!」
右の方向から声が聞こえた。
見ると、右方向の壁に扉があり、その扉の先には門の前で出会った中年女性の姿があった!
「あの人は・・・!?」
「お姉さん!」
凛の顔が少し明るくなり、目で合図を送る。
優里は・・・・・どう動く?
① 「待って!」凛を制した。
② 凛の手を握り、扉へ向かって走った。
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『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
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