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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

2014年08月 | ARCHIVE-SELECT | 2014年10月

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -前編-」

 柚子中学校の生徒赤ん坊化事件は、妖怪獏によって一部を覗いた殆どの者が、その記憶をすっかり食いつくされていた。
 あの日、なぜ警察や消防署まで出動したのか、誰も覚えていない。
 
 話は少し飛ぶが、柚子駅から徒歩五分程に、柚子村商店街がある。
 かなり古くから立ち並ぶ商店街だが、最近では郊外に大型量販スーパーが完成し、客足はすっかりそちらに流れ、今では一部の年配者が通うだけの寂れた町並みになってしまった。
 そんなある夜、ムッシュ怨獣鬼はその商店街を彷徨っていた。
 まだ宵の口だというのに、不思議なくらい物音や光の無い空間。
 すっかり時代から取り残され、亡霊のように佇む町並み。
「この柚子村というのは、平成という時間軸にある、落とし穴のような空間であるな」
 哲学ぶった言葉を並べるムッシュ。
 なぜなら彼は『酔っている』のだ。
 珍しく丘福市まで足を伸ばし、都会の美女を数人・・・カクテルにして飲み干してきたのだ。
「久しぶりに、優雅な気分を味わったものだ」
 人間のフリをしてJRに乗り込み、今先程・・・駅から降り、今ここにいるのである。
 元々褐色の肌を更に赤くし、千鳥足で商店街を彷徨う。
「うむ・・・? なにやら…念のようなものを感じる」
 それは商店街をくぐり抜けた先から感じられる。
 フラフラと足を運ばせるムッシュ。
「うむ、念はここから感じ取れるな・・・」
 そこには、古ぼけた平屋のような建物があった。
 元々、店舗だったかのように、表側はシャッターを下ろしてある。
 強引にぶち破れば入れないことはないが、あまり激しい物音をたてるのは、好みではない。 
 シャッターの上には、大きな看板が掛けてあったが、今はそんな事はどうでもいい。
 裏からでも入れないか? そう思い裏口へ回ってみた。
 裏口にも施錠してあるが、シャッターをぶち破るよりは簡単で静かだ。
 ムッシュは取っ手を掴むと、強引に捩じ切るように回し、扉を開けた。
 中に入ると、そこは外以上に暗闇の空間。
 もっとも、闇の世界で生きるムッシュにとって、むしろ心地よい明るさだ。
 内部をゆっくり歩いてみる。 ムッシュにとっては見たことの無い機器が並んでいた。
「ん・・・?」
 一台の機器の前で足を止める。 なんとも言えない、気のようなものを感じ取れた。
「お前さんか・・・。 うむ、悪くない・・・!」
 そう呟くと、自らの指を切りつけ、滴る血を機器に擦り付けた。


 それから数日が経ち、柚子中学校も夏休みに入っていた。
「うわっ、田中電器店…って、もしかして個人商店ってやつ!? 小さいお店!」
「こっちなんか…もっと凄いよ! 八百屋さんっていうの!? 初めて見た~っ!」
 カンカンと照らす日差しの中、商店街の中を制服を着た五人の女子生徒らしき少女たちが、まるで動物園にでも来たかのように、はしゃぎながら歩いていた。
 制服は白地のブラウスに大きめの襟にネクタイ。そしてプリーツスカート。
 襟とネクタイ、スカートは、水色地に白のチェック柄に統一されている。
 爽やかで都会的は雰囲気を持つこの制服は、やはり柚子村内の学校ではない。
 神田川県内でも、一二を争う高い偏差値を誇る、私立來愛(くるめ)女子大学附属高等学校の制服である。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(1)

 この学校の天文学部は、夜空が澄んでいて綺麗だという理由で、毎年夏休み柚子村で一週間程の合宿を行っている。
 生徒達は、夜の天体観測の合間に食べるお菓子や、その後行う花火などを買い出しに、商店街へ来ていたのだ。
 今の十代はスーパーやコンビニでしか、こういった買い物をしたことが無い。そのため、個人商店が並ぶ商店街など、動物園や水族館に生息する希少生物と殆ど代わりがないのだ。
 彼女たちは買い物を殆ど終え、物珍しげに辺りを見まわっていた。
「そう言えば、瀬織(せおり)の姿が見当たらないけど・・・?」
「瀬織なら、他に寄る所があるから、後から来るって!」
「あ…そう!」
「ねぇ、アレ・・・何かな!?」
 一人が商店街から外れにある、古ぼけた平屋の建物を指さした。
 正面のガラス張りの上に、大きな看板が見える。
「ゲー・・・ム・・セ・・ンター・・・」
「ゲームセンターっ! ゲーセン!!?」
「こんな田舎でもゲーセンがあるの!?」
「行ってみよう!!」
 新たな獲物を発見した狩人のように、女子高生たちは一目散に走っていった。
 建物の前面は総ガラス張りで、見たことの無いようなゲームのポスターが貼りまくってある。
 よく見ると、そのうちの一箇所は引き戸になっており、どうやらここが入り口らしい。
 ガラガラ~と引き戸を開け、中に入る五人の女子高生たち。
 店内は極普通の蛍光灯で照らされており、暗くはないが、これといった綺羅びやかさも無い。
 十数台の筐体などが並んでおり、それぞれ独特のBGMらしきものが流れていることから、可動しているのはわかる。
 だが、人の気配はまるで無い。
「誰もいないのかな?」
「でも、機械は動いているんだから、やっていいんじゃない?」
「ねぇ、プリクラどこ!?」
 探索するように、それぞれ店内を廻る。
「プリクラどころか、見たことのないゲームばかり・・・」
「てか、これ・・・全部、昔の機械じゃないの?」
 彼女たちが言うとおり、店内にある筐体は、どうみても最近のものでは無い。
 昭和・・・・、それも1970年代に流行った筐体ばかりであった。
 もちろん彼女たちには、そこまでの知識はないが。

「ハン・・ティング・・・ゲーム・・? モンハンみたいなゲームかな!?」
 一人の女子高生、宮本 伊世(いよ)が、一台のゲーム筐体の前で、もの珍しげに説明書きを読んでいた。
「一回10円だって! やってみよっ!!」
 まるで見たことのないゲームで、しかも料金が安いことから、伊世は早速プレイを開始した。
 ハンティングゲーム。 
 筐体のデザインは、ライフル銃が備え付けられた、今でもよく見る狙撃(シューティング)ゲームぽい。
 銃を構え正面を眺めると、そこにはテレビモニターなどあるわけもなく、すっぽりと薄暗い空間があり、よく見ると両端からレールのような物を渡らせてある。
 ライトアップされたレールの上を、左右から交互にベニヤ版から切り抜かれた動物の絵札が移動してくる。
 引き金を引くと、銃(の下)から電光が走って行き、電光の直線上に動物の絵札があれば、命中というわけである。
 命中すると、動物の泣き声らしき音と赤く点滅で記される。
 今の時代なら、小学生でも作れそうなアナログな仕掛けだが、当時の子どもは結構ハマっていたようだ。
 伊世は命中するたびに、キャッ♪ キャッ♪ …とはしゃぎながらゲームを楽しむ。
 すると、奥の方に二つ並ぶ赤い光が現れた。 
 それはまるで赤く光る『目』に睨まれているようにも見える。
「なんだろう?」
 そう思った瞬間、伊世の目の前が真っ白になった。
「きゃ・・・」
「ん……!?」
 女子高生の一人、千葉 操(みさお)は伊世の声に振り向いたが、そこには伊世の姿は無く、ただクリアされていないBGMだけが、鳴り響いていた。
「??????」
 不信に思った操は、ハンティングゲームに歩み寄る。
― 今の今まで、ここに伊世が居たよね・・・?―
 操は銃を構え、ライトアップされたレールの上を覗く。
 普通に動物の絵が左右に移動している。
「ふむ・・・・」
 何気なく、引き金を引く操。
 動物の悲鳴音と赤い光が点滅する。
 すると、絵で描かれた動物が一瞬で本物の動物並みに大きくなり、操に襲いかかった。
「あ……!?」
 声も上げる間も無く、操はゲーム機の中に引き摺り込まれていった。

「ねぇねぇ・・・見てっ! ドライブゲームだって! しょぼくない!?」
 こちらでは藤井 千鶴(ちづる)、杉本 七瀬(ななせ)。
 二人の女子高生が別の筐体の前にいた。
 ドライブゲームと銘打たれた筐体は、奥行きの深い筐体で、上面はガラス張りになっている。
 ガラス面から中を覗くと、ベルトコンベアに描かれた道があり、その上に玩具のオープンカーが乗っていた。
 オープンカーの後部には一本の棒が取り付けられており、その棒が筐体前面にあるハンドルに繋がっていて、ハンドルを回すことで車が左右に動く仕組みになっている。
「どのくらいショボイか? やってみようよ~♪」
 そう言って七瀬が硬貨を入れた。
 BGMが流れだすと同時に、ベルトコンベアも動き出す。
 要は道なりに車を左右に動かして、いかにもドライブしている気分を味わうゲームであるが、道からはみ出したり、途中ある障害物や川(絵で描いてあるだけ)に当たると、車がグルグル回転し、事故を起こしたという設定のようだ。
 最終的には時間内にどれだけの距離を進んだかで、点数が決められる。
 七瀬はBGMを鼻歌で合わせながら、右に左に、匠にハンドルを操っている。
 そばで見ている千鶴も「右~右~っ!」「左~左~!」「あっ、左に池がある! 避けてっ!!」と、一緒になってはしゃいでいる。
「任せなさい! Driveclubで鍛えた七瀬には、こんなレトロゲーム・・・。ベビーカーを押すより簡単よ!!」
 七瀬も得意満面の笑みで、ハンドルを回す。
 しばらくすると、ベルトコンベアに描かれた道が真っ赤になり、その質感はまるで動物の舌の上のようである。
「なにこれ!? こんなルートもあるの?」
「…て言うか、コレ・・・ずっと回転し続ける一本のベルトコンベアよね? いつの間に入れ替わったの?」
 さすがに薄気味悪くなってきた、七瀬と千鶴の二人。
 そう思った瞬間!!
 車の目の前に、怪物のような巨大な頭が姿を見せた!
 そしてソレは、大きな口を広げると、車だけでなく・・・ハンドルを握っていた七瀬。そして、その隣にいた千鶴まで一瞬で飲み込んだ!
「ん・・・?」
 最後の一人、松井 若菜(わかな)が気づいた時には、軽妙なBGMだけが流れており、七瀬と千鶴の姿は見当たらなかった。

 若菜はクレーンゲームの前にいた。
 クレーンゲームは今の時代のゲームセンターにも設置されているが、今とは構造も景品も違う。
 現代のタイプは、80年代から登場した『UFOキャッチャー』と呼ばれる、空飛ぶ円盤の下部に、二本もしくは三本の爪がついており、前後左右に移動させ、縫いぐるみやカプセルに入った景品を掴んで取るものが派生したものだ。
 しかし、当時のクレーンゲームは、ガラス張りの円筒の中で、それこそ重機のクレーン機のような腕が回転し、吊り下がった『クラムシェル』と呼ばれる二枚貝のように開閉するバケットで、底に並べてあるラムネ菓子(四~五錠をセロハンに包んだもの)を掬うものである。
 正直、技術よりも運に左右されるようなゲームである。
 若菜は話の種に程度の軽い気持ちで、硬貨を投入した。
 ガクガクと震えながらクレーンが移動し、ゆっくりと降下するバケットでラムネ菓子を拾う。
 運良く? 二包のラムネ菓子がポケットに落ちてきた。
「ま、10円だから・・・こんなものか!」
 苦笑いしながら、包を開けラムネを口に放り込む。
 甘酸っぱい香りが、口の中に広がった。
「そう言えば、ここに入っているお菓子まで、昭和のままって事は無いよね?」
 ちょっと怖い想像をしながら、残りのラムネも口に放り込んだ。
 その時・・・
ガタン!
 店舗が軽く振動する程度の音が鳴り響いた。
 更に、ガチャガチャと鎖がこすれ合うような音が聞こえる。
「なにかしら?」
 辺りを見渡しても、鎖らしきものが動いている様子は無い。
ガチャ…ガチャ…
 しかし、明らかに鎖がこすれ合う音が響く。
「ま……まさか……!?」
 若菜は頭上を見上げた。
 そこには、まるで恐竜が大口を開けたように、クラムシェルのバケットが開いていた。
 数分後、クレーンゲーム機の中に、水色地に白のチェック柄のセロハンに包まれた、肌色のラムネ菓子が一つ、転がっていた。


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 今回もかなり長めになっております。ww
引き続き、下のスレ「中編」を御覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -中編-」

「ホント、暑いわね・・・」
 商店街の並びにある小さな書店から、二人の少女が姿を現した。
 手にした袋から「受験に出る数学問題集」と書かれた本が見える。
「涼果(すずか)は、どこの高校を狙っているんだっけ?」
 そう話しかけたのは、長く靭やかな黒髪で、170センチ台の長身の美少女。
 日笠 琉奈(りな)である。
「あたしは、琉奈と違ってあんまり成績良くないから・・・、樫井でも行けたらいいかな?」
 そう言って苦笑したのは、両髪をおさげに結んだ少し幼い顔立ちの、初芽 涼果(すずか)。
「樫井なら公立だし、そう悪くないじゃない?!」
「琉奈は、どこに行くつもりなの?」
「私はできれば、大生堀高校かな?」
「あそこ・・・レベル高いよね! 凄いなぁ~、琉奈は!」
 つい数週間前、学校中を大事件に巻き込んだ二人だが、以来すっかり元の親友同士に戻り、普通の受験生らしい生活を送っている。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(2)

「あれ・・・!?」
 商店街を抜け終わろうとしたその時、琉奈が急に立ち止まった。
「どうしたの……琉奈?」
「いや、あそこ・・・」
 琉奈はそう言って、商店街の外れを指した。
 そこには、平屋の建物が見える。
「あそこはたしか・・・ゲームセンターだったよね? それがどうかしたの?」
「そうだけど、涼果……シャッターが開いているように見えない?」
 琉奈の言葉に、涼果は目を凝らしてみる。
「あ、たしかにシャッターが開いてるよね? でも……あそこは……?」
「うん、たしか…お爺さんお婆さんがやっていたんだけど、二~三年前、二人共亡くなったんで、それからずっと閉まっていたはず・・・」
「新しい経営者さんが来たのかな・・・・?」
「そうかもしれない。 でも……私達、受験生だから、ゲームとかしている時間……無いよね?」
「うん、そんな時間があったら、勉強しなきゃ・・・・」
「だよね・・・」
「うん・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「ちょっと気分転換で、見るだけみてみない?」
「そうだね、気持ちの切り替えって大事だよね!」
 二人はそう意気投合すると、足早にゲームセンターへ向かっていった。

 引き戸を開け、中を覗きこむ二人。
 店内からは、機械音や軽妙なBGMが流れている。
「やっぱり、開店したんだ!?」
 琉奈はそう言って、足を踏み入れた。涼果も後に続く。
 中に入ると、BGMは一層大きく聞こえる。だが・・・人の話し声はまるで無い。
 店内には、琉奈と涼果以外、客の姿も・・・店員の姿も無いのだ。
「やっていいのかな?」
 涼果が恐る恐る、琉奈に尋ねた。
「どう見ても開店しているようにしか見えないから、遊んでいいんじゃない?」
 琉奈はそう言って、品定めするように店内を歩いた。
「それにしても、ここには小学生の頃来た以来だけど、置いてあるゲームはあの時のままじゃない! こんなんで、お客さんが集まるの?」
 琉奈はそうボヤきながら、エアホッケー台の前に立った。
 エアホッケー。
 卓球台程の大きさの台で、同様に二手に別れてパックという円盤を打ち合うゲーム。
 ただし、台面上には無数の小さな穴が開いており、そこから空気を放出しているので、円盤が微妙に浮き上がり、台面との摩擦を減らすことで、相当なスピードになる。
 そのため気の抜けない、緊迫した対戦ゲームとなっている。
「ねぇ・・涼果、エアホッケーでもやらない?」
 琉奈はそう言って、硬貨を投入した。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・?」
 硬貨を入れたが、いつまで経ってもパックが出てこない。
「なにこれ、壊れているの!?」
コツン!!
 少しムッときた琉奈は、台を軽く足で小突いた。
 すると・・・
「すぐに、新しいパックを用意する・・・・?」
 琉奈の頭の中に、機械音のような声が聞こえた。
「えっ? ええっ!?」 
 辺りを見まわる琉奈。その瞬間!
 頭上から、巨大な両手が現れ、琉奈の身体を掴みあげた!
「ちょ……、なにっ!? なにっ!?」
 両手はそのまま琉奈を握り締めると、まるで団子でも握るように、ギュッ!ギュッ!と琉奈の身体を丸めていく。
「いた……いたいっ!」
 更にある程度丸くなった琉奈を床の上に置くと、手の平でグルグルと転がすように回転させ、均等に球体化させていく。
「ひぇぇぇぇぇっ!!」
 激しい回転に、目を回す琉奈。
「り・・琉奈っ・・!?」
 それまで、呆然と眺めていた涼果だが、我に帰ると、ボコっボコッと巨大な両手を叩き始めた。
「琉奈を離せーっ!!」 
 懸命に巨大な両手を叩く涼果。
 そんな涼果の背後にも、もう一対の巨大な両手が現れ、涼果の身体をも握りしめた。
「な…なによ……これ? もしかして…妖怪……?」
 自身が妖怪になった記憶は残されているため、この不可思議現象が妖怪の仕業だと気がついた涼果。
プチッ!!
 涼果は、自分の髪を一本引き抜くと・・・
「お願い……、誰か助けを呼んできて……」
 と、息を吹きかけた。
 髪の毛は、まるで意思でも持っているかのように、フワフワと宙を漂いながら、ゲームセンターの外へと飛んでいく。
 無事に髪の毛が飛んでいったことに安心するのも束の間、
「きゃあああっ!!」
 涼果も両手で、ギュッ! ギュッ!と丸め込まれていった。
 一方、綺麗な球体と化した琉奈に、両手はそれに相応しい大きなハンマーのような物を手に取ると、琉奈目掛けて一気に振り下ろした!
バンッ!!
 大音量と共に、激しい振動が建物全体に響き渡る。
「あひぃぃぃ……」
 そこには、綺麗な円盤・・・パックと化した、琉奈の姿があった。
 手は、パックになった琉奈を摘み上げると、エアホッケー台に放り投げた。
 そして、左右の手でマレットと呼ばれるエアホッケー用のラケットを持つと、交互に打ち始めた。
 その頃涼果の、綺麗に丸め込まれ球体と化していた。
 手は球体になった涼果を摘み上げ、ピンボールの台の中へ放り込んだ。
 台の中で小さな球と化した涼果。
 そこはプランジャーという、最初に球を発射するスプリングの部分。
「ここは・・・・!?」
 そう思った瞬間、背後から凄まじい勢いで、一気に弾かれた!
「ひぇぇぇぇぇぇ!!」
 高速回転しながら、レーンを猛スピードで突っ走る涼果。
 軽いループを通り過ぎると、バンパーと呼ばれるキノコ型のスプリングに弾かれる。
 更にスポットターゲット、スリングショットなどで何度も弾かれる。
「目が……目が…回る……」
 そんな涼果の目の前に映ったのは、フリッパーという名の、球を打ち返すハンドル。
 フリッパーに弾かれ、またまた台の中央まで転がると、先程同様にバンパーやターゲットにアチコチ、弾きまくられる。
「ほぇぇぇぇ……」
 あまりの出来事と衝撃に、涼果の脳内は、暗闇と飛び回る星しかなかった。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(3)


「これは・・・?」
 琉奈と涼果がゲーム機に取り込まれた同じ頃、商店街から少しはなれた村道を歩いていた妖怪セコは、不自然に宙を漂う髪の毛を発見した。


「だから、分配法則っていうのは、このカッコの前にある3を、カッコの中にあるxと-5に掛けて、カッコを外した式に作り直すのよ!」
 ここは若三毛宅、凛の部屋。
 夏休みの宿題ワークを開いて、解き方を教える凛と、シャーペンを咥えて呆然と眺めている千佳。
 夏休みになると相変わらず遊び呆けて、始業式前日に慌てて宿題を写させてと懇願してくるであろうと見通して、先にある程度済まさせてしまおうと、千佳を自宅に招いたのである。
「そうすると、3x-15になるというわけ! わかった!?」
「うん、わかったっちゃ!!」
「ホント!?」
「ああ、凛って髪は黒々しているのに、腕の産毛は割りと薄いっちゃね~~と!」
「アンタは、人が一生懸命教えているのに、産毛なんか眺めていたわけ!!?」
「ウチは、凛の全てが知りたいだけとよ!」
「その前に、数学の解き方を覚えなさい!!」
 お約束通り、痴話喧嘩(?)をしている二人の元に、大慌てで金鵄が飛んできた。
「凛、コレを見てくれないか?」
 金鵄はそう言ってテーブルの上に乗ると、口に銜えていた物を落とした。
「ただの髪の毛じゃなかとね?」
 そう言って千佳が一本の髪の毛を摘み上げる。
「セコから預かったんだけど、凛……何か感じないかい?」
 金鵄の言葉に、凛は千佳から髪の毛を受け取り、ジッと見つめた。
「霊気・・・いえ、妖気を感じる・・・・・。しかも・・・・」
 凛はそこまで言うと、カッと目を見開いた。
「これは、この間……姑獲鳥になった先輩の妖気・・!?」
「やはり、そう感じるかい?」
「ああ? あの……凛を赤ん坊にした、あの先輩ね!?」
「待って! 他に何か感じる・・・・・」
 凛はそう言って、精神を集中させる。
「た・・す・・け・・・て・・・・。 ……たすけて!?」
「どういう事だい、凛っ!?」
「わからない・・・。でも、これは救いを求めている波動・・・! 先輩に何かあったんじゃ!?」
 凛はそう言って立ち上がった!
「でも、あの先輩……、青い衣の女に浄化されて人間に戻ったっちゃよね? なんで、そげんこつ…できると!?」
「それはわからないけど、でも放っておけない! 先輩はどこにいるの!?」
「それは今、セコが霊気を追って、大体の場所を特定している」
「じゃあ、わたしたちも行きましょう!!」


 セコとの連絡で、ゲームセンターの前に来た凛と千佳。
 辺りはすっかり薄暗くなっており、ただでさえ人の姿が疎らな商店街が、猫の子一匹見当たらないほど、静まり返っている。
「優里には連絡を入れておいた。もう少ししたら到着するらしいけど、どうする…凛? 優里が来るまで待っているかい?」
 真剣な表情で佇む凛に、金鵄はそう尋ねた。
「ううん・・・。一分一秒遅れることで、先輩にもしもの事があったら大変だから、すぐに中に入るわ!」
 凛は首を振ると、静かに引き戸を開けた。
 店内は明るい照明と、軽妙なBGMが流れている。
 しかし、今に限ってはそれが逆に不気味な雰囲気を醸し出している。
 一歩足を踏み入れた凛は、圧迫されるような重い妖気を感じ取った。
「思ったより、強い妖気ね・・・。 念の為に霊装しておいた方がいいかも」
 凛の言葉に千佳も静かに頷き、二人共・・いつでも戦闘できるように霊装した。
 店内は思った通り、凛と千佳以外……まるで人の気配が無い。
「とりあえず、なんかゲームでもやってみん?」
 千佳はそう言うと、目の前にあったハンティングゲームの猟銃を握りしめる。
「千佳、今はそんな状況じゃないだろ!」
 金鵄はすぐに咎めようとしたが、
「いえ、敵の出方がわからない以上、こっちから動くしかないみたい・・・」
 と、凛がフォローを入れた。
「さすが凛! 愛してるっちゃ♪」
 軽口を叩き、銃の照準を測る千佳。
 右から左から、交互に動物の絵札が流れてくる。
 最初は外していたが、二~三回撃つことでコツを掴んできた。以後は次々に命中させていく。
 連続して四~五頭の動物を倒すと、次に現れたのはなんと、人間の少女らしき絵札だ。
 それは襟の大きいブラウスに水色地に白いチェック柄のネクタイ、プリーツスカート。
 いかにも都会風な制服を着た少女を、三頭身くらいにデフォルメしてから平面化したような、そんな滑稽な姿だった。
 千佳は不思議に思いながらも、銃を撃ち命中させる。
 ×目になり、パタンと倒れる少女の絵札。
 赤い点滅と叫び声が聞こえるが、先程までとは違い、動物の声ではなく、少女の声で「たすけて!」と聞こえる。
 次に現れたのも、同じ制服を来た少女の絵札だ。
 しかもこちらは初めから、涙を流しているように見える。
「あんま、いい気分じゃ…なかよね」
 千佳はそう呟き、銃口を下げた。
 凛は、ドライブゲームの前にいた。
 ガラス越しに中を覗くと、ベルトコンベアに描かれた道の上に玩具のオープンカーが乗っており、さらにその車には一人の少女らしき人形が乗っていた。
 ゲームそのものは昭和っぽいのに、乗っている人形はデフォルメされてはいるものの、髪型も、そして制服らしき身なりで、それも水色地に白いチェック柄のネクタイ・スカートと、今風のデザインである。

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(4)

「凛、こっちへ来てくれ!」
 金鵄の呼び声に振り向いた。
 そこにはエアホッケー台があり、金鵄はその上を飛び回っている。
 台の上を見ると、パックがポツンと乗っている。
 だが、そのパックには人間の顔のような模様があった。
 そして、その顔は・・・・
「日笠・・・先輩・・・!?」
 それはどう見ても、目を回して気を失っている、琉奈の表情だ!
「凛、先輩・・・見つけたっちゃよ!」
 千佳の声が聞こえ、凛は駆け寄った。
 それはピンボールの筐体。
 千佳は、ガラス面の一部を指さしている。
 それは球を弾き出すプランジャーの位置で、一個の球が準備されている。
 そして、その球には紛れも無く、涼果の表情が浮かんでいた。
「どうやら、このゲームセンターに立ち寄った人は、みんなゲーム機に取り込まれてしまったようね!」
 まとめるような言葉を口にしながら、薙刀を手にした優里が入り口に立っていた。
「優里お姉さん!!」
 凛の顔が、パァ~ッと明るくなる。
「話はセコさんから聞いたわ」
 優里は店内に入り、辺りを見渡す。
「でも問題が一つ・・・。それは妖怪の本体が、どれか・・・!? って事よね」
 優里の言葉に、凛は静かに頷くと・・・

① 妖怪の本体は、この中のどれか一つの機械だと思う。
② この建物自体が、妖怪の本体だと思います。
 
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『-後編-』へ続く。

そのまま、下のスレをご覧ください。

| 妖魔狩人 若三毛凛 if | 14:55 | comments:8 | trackbacks:0 | TOP↑

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妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話「昔のゲーセンって凄いよね -後編-」

① 妖怪の本体は、この中のどれか一つの機械だと思う。

「でも問題が一つ・・・。それは妖怪の本体が、どれか・・・!? って事よね」
 優里の問いに、凛は静かに頷くと、
「おそらく本体は、この中にあるゲーム機のどれか一つだと思います」
 と答えた。
「でも、このゲーセンに入った人・・・全部が被害に合っているっちゃろ? だったら、この建物自体が、本体じゃなかとね?」
「もしそうだとしたら、ここは妖怪のお腹の中ってことでしょ? 普通の人間ならともかく、敵意の霊力を持ったわたし達を、簡単には体内には入れないと思うの」
「たしかに・・・お腹の中を突かれたら、反撃できんもんね」
「おそらく凛ちゃんの言う通り、本体はこの中のどれかよ! 先程から鋭い視線のようなものを感じるわ!」
 優里はそう言って身構える。
「凛、これは以前戦った独楽妖怪と同じタイプ、付喪神型妖怪の一種だ。だから、妖怪本体を浄化すれば、ゲームに取り込まれた人たちは、元に戻るはずだ」
 金鵄の言葉に、凛はコクッと頷く。
 凛は静かに目を閉じ、妖気の出処を探る。
 この中で、一番強い霊感を持っているのは凛だ。凛が探しきれなければ、誰にも本体を見つける事は不可能だろう。
 赤い、糸のような細い妖気が、店内中に張り巡らされている。 
 おそらく、その妖気の糸でそれぞれの機械を操っているのだ。
 一本一本・・・妖気の糸の出処を手繰ってみる。
「ここだ!」
 凛が辿り着いた所は、涼果が球にされている、ピンボールゲームの筐体だった。
「このゲーム機が、本体っちゃね!? ならば・・・」
 千佳はそう言って、灼熱を帯びた右手を振りかざした。
「おらぁぁぁぁぁぁっ!!」
 千佳の鋭い爪が、ピンボール機に突き刺さる・・・・・
 いや、筐体に届く数㎜先で、爪が止まっている。
「こ・・・攻撃が、届かんちゃ!?」
「なんか、見えない壁のようなものがある・・・」
 凛がまるでパントマイムのような手つきで、筐体の周りを触れる。
「これは結界・・・。このゲーム機械の中に別次元の世界を築き上げ、現実世界と妖力の壁で遮っているんだ」
 金鵄は見えない壁を嘴で突付きながら、答えた。
「凛の推測は当たっている。妖怪本体は間違いなくこの中にいる! でも……中に入るには、結界を破らなければならない」
 金鵄の助言を聞くと、今度は優里が薙刀で鋭い一撃を与えた。
 だが、筐体に当たる直前で、その刃はピタリと止まる!
「私や麒麟の霊力を備えた…この薙刀でも破る事はできない。 つまり単純な攻撃力だけでなく、他の力でなければ破れないかもしれない・・・」
「他の力って、なんね?」
「例えば、浄化の力・・・・」
 優里の言葉に、千佳が凛を見つめる!
「浄化の力なら、凛の霊光矢があるっちゃ!!」
 よっしゃっ!!とばかり、ドヤ顔の千佳の言葉に、凛は首を振った。
「この結界は相当強い。わたしだけの浄化力では、多分通用しない・・・・」
 凛の言葉に、一同言葉を失う。
 その時!
ガガガーンッ!! ガガガーンッ!!
 激しい振動が、ゲームセンターを襲った。
 天井に吊るされている蛍光灯は大きく揺れ、壁には亀裂が入っている。
「なにがあったの!?」
 優里を先頭に、全員が建物の外に飛び出した。
 そこには二人の人影が・・・・!
 そのうちの一人は、優里以外…見覚えがある姿。
 青い衣、そして青い頭巾で顔を隠した、姑獲鳥……涼果を浄化した女性。
 そしてもう一人は、長身で恐ろしくグラマーな、ボブカットヘアの大人の女性。
 だが、大きな金棒を手にし、凄まじい勢いで建物を叩きまくっている。
 どうやら激しい振動は、彼女の攻撃によるものらしい。
「あなた達は、どなたですか!? 一体何をしているのです!?」
 優里が鋭い目で睨みつける。
 攻撃の手を止め、同じく鋭い目で睨み返しながら、
「貴女こそ誰なの……お嬢さん?」
 と、問い返す・・・グラマーな女性。
「待ちなさい…祢々(ねね)。 ここは私(わたくし)に任せなさい」
 青い衣の女性が、それを制した。
 それを見た凛も、優里の前に出ると、
「この間はありがとうございます。お陰で助かりました。 でも、これはどういう事ですか?」
 と問いた。
「見ての通り、この妖怪建物を破壊する」
 青い衣の女性は、当然と言わんばかりの口調で答える。
「妖怪はこの建物ではありません。 中にあるゲーム機の一つに潜んでいます!」
 普段は大人しい凛も、この青い衣の女性に対しては、少々…口調が強くなる。
「そんな事は解っている。 手っ取り早く、建物ごと破壊してしまった方が間違いないから、そうしているだけ」
「内部のゲーム機の中に、多くの人たちが捕らわれているんです! こんな乱暴なやり方では、その人たちまで助からないかもしれません」
「最優先は、妖怪の駆除。 人命は二の次」
 青い衣の女性はそう言い放つと、グラマラスな女性に作業を続行するように、目で合図を送った。
 金棒を振りかぶった女性の目の前に、優里が薙刀をかざす。
「お嬢さん……、なんの真似?」
 薙刀の刃に映る優里の姿を睨みつけながら、グラマ-な女性が問い返す。
「破壊するの、もう少し待ってもらえないかしら?」
 そんなやり取りをしている二人を確認すると、凛は再び青い衣の女性に問いかける。
「あなたは浄化の術が使えますよね? 力を貸して頂けませんか!?」
「力を・・・貸す?」
「どのゲーム機に潜んでいるかは、目星が付いているんです。 ただ・・結界が張ってあって、中に入れないんです」
「それで・・・?」
「あなたと、わたしの浄化の力を合わせれば、結界は解けると思うんです。 そうすれば、妖怪本体を浄化し、捕らわれた人々を元に戻す事ができます!」
「・・・・・・・」
 凛の力の篭った訴えに、青い衣の女性は何も言わず、凛を見つめる。
「もし、貴女の申し入れを断ったら・・・?」
「そん時は、ウチらが力づくで言う事利かせるだけっちゃ!」
 千佳がドヤ顔で、凛と青い女性の間を割って入った。
「千佳・・・」
 苦笑する凛。
 あちらでは、優里も便乗して微笑む。
 それらを見た青い衣の女性。
「力づく・・・? 貴女方にそれができるとは思えないが、ここで争うのも時間の無駄。 よろしい、貴女の望みを優先しよう」
 お互いが顔を見合わせあい、店内へ戻っていった。
「なるほど。 この結界なら、私(わたくし)と貴女が協力すれば、侵入することは可能」
 結界を確認し、そう告げる青い衣の女性。
「手を繋いで。 私の浄化の力と、貴女の浄化の力を螺旋状にねじり合わせ、結界の一点に集中して穴を開ける」
「わかりました!」
 ピンボール筐体の前に立った凛と青い衣の女性。
 お互いに手を結び、反対の手を筐体にかざす。
 光輝くエネルギーが混じり合うと、ドリルの刃のように回転する。
 ジリジリと結界の表面が揺らぎ、まるで水面の波紋のように、徐々に・・徐々に、穴が広がっていった。
「す……すごい……ちゃ……」
 周りが驚く中、ついに穴は人一人が入れるくらいの大きさになった。
「凛ちゃん、千佳さん、行くわよ!」
 優里が先頭揃って、結界を潜り抜ける。千佳もすぐ後に続いた。
「貴方は?」
 後に続こうとした凛は、青い衣の女性に尋ねた。
「私(わたくし)と、祢々は、ここに残る。 万一貴女方が失敗した時、有無言わずこの機械を破壊する」
 青い衣の女性は、グラマラスな女性を目で指しながら、そう答えた。
「そうですね、よろしくお願いいたします」
 凛はそう言うと、結界を潜り抜け、筐体内部の世界に侵入した。

 結界を潜り抜け、三人が辿り着いた場所は、ピンボール機のゲーム盤上であった。
 それはボールサイズまで縮小した身体で、ピンボール盤上という町並みを歩くようなものだった。
「凛、ここからどっちへ行けば、よかとね?」
 千佳が辺りを見渡しながら、尋ねる。
 凛は静かに目を閉じ、精神を集中させた。
「前方・・・。 このまま北上した方向に、強い妖気を感じる」
「おっけ! じゃ…早速向かうとするっちゃ!」
 そういった矢先、ゴロゴロゴロと転がるような音と、振動が襲いかかる。
 見ると、前方から無数の球が転がってくる。
「早速、攻撃を仕掛けてきたわね!」
 優里が薙刀を構えた。
「優里お姉さん、待って!!」
 凛はそう叫ぶと、球に向かって飛び出し、身体を張って一つの球を止めた!
「凛、何してるっちゃっ!?」
「球を見て・・・・」
 凛の言葉で、止めた球を見る二人。
 球には、目を回した少女の顔が浮かんでいる。
「これは!?」
「もしやと思ったけど、やはり…そう! これは、妖怪にピンボールの球にされた、被害者たちです」
「つまり、迂闊に攻撃すっと、捕らわれた人たちに危害を加えてしまう……ってことっちゃか?」
 そう悩んでいる間にも、球は次々に襲ってくる。
「要は、球に傷を与えず、跳ね除けていけばいいわけよね?」
 優里はそう言うと、薙刀の柄の部分を使って球を突付き、一つまた一つと進路方向を変えてやる。
 一見簡単そうだが、凄まじい勢いで転がってくる球を、傷つけることなく速やかに方向を変えるのは、優里ならではの技術だ。
 一方、凛や千佳にはそんな技術は無い。
 だが千佳は、にへら~と微笑むと、
「凛、ウチにおぶされ! ウチは、ウチの武器を見せてやるっちゃ!」
 と腰を下ろした。
 言われるままに、千佳におぶさる凛。
「いくぜぇーっ!!」
 凛をおぶった千佳は、無数に転がってくる球に向かって突進!
 当たりそうになる寸前で、右へ左へ・・・飛びかわしていく!
 それは、獣系妖怪と融合し強力な脚力を持つ、千佳だからできる芸当!

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(5)

「すっごい~~~ぃ、千佳ーっ!!」
 凛は、子どものように無邪気に喜ぶ。
 千佳も、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ・・・なぜか、涎まで垂らしている。
「千佳・・・・?」
 怪しい笑顔の千佳に、凛が問いかける。
 その瞬間・・・
「きゃ…っ!?」
 凛は小さな悲鳴を上げた!
 お尻に、ムズムズと不快な感触が走る!
「うへへ・・・♪」
 凛をおぶっている千佳の手は、モミ~っモミ~っモミ~っと、凛の尻をリズムカルに揉みほぐしている。
「凛のお尻・・・うへへへ~~っ♪」
ガンッ!!
 凛の激しい鉄槌が、千佳の頭上に喰らわされた!
「二度とやったら、このまま首をへし折るよ!」
「イェッサー!」
 そうこうしているうちに、無数の球の突進をかわした三人。
 そんな三人の左手に、緩やかな上り坂が見える。
「なぁ、あの坂を登っていかん? 下を進むと、また球の突進があるかもしれないっちゃ!?」
「そうだね、方向的にはこのまま真っ直ぐだし、そっちの方が安全かも・・・?」
 三人は、そう言って緩やかな坂道を登っていった。
 坂を登り終えると、そこは人一人幅の鉄橋のようになっていた。
 凛を先頭に、千佳、優里と一列に並び、ゆっくりと先へ進む。
 すると・・・
ガタン!
 何かのスイッチが入ったような音と振動がすると、路面が前に進みだした。
 わかりやすく言えば、その鉄橋は動く歩道のようなもの。
 歩を進めず、自動的に前へ前へ進んでいく。
「これは楽っちゃ!」
 そう喜ぶのも束の間。 鉄橋の先はループ橋のようにカーブしており、どうやらまた元の場所に戻りそうな気配だ!
「引き返しましょう!」
 凛がそう叫ぶと、それがまたスイッチのように、歩道は更に速度を上げ、猛スピードで先へ進む。
 進んだ先は下り坂。
 先頭の凛が、勢い良く滑り下りる!
 更に加速度を上げ、滑り降りたその先に待っているのは、フリッパーと呼ばれる、プレイヤー操作で球を打ち返すバットのようなパーツ!!
 ボールを待ち構えるバッターのように、二~三素振りをすると、まずは凛を思いっきり打ち返した!!
「ひぇぇぇぇっ!」
 猛回転で転がる凛は、高速回転するスピニングディスクに弾かれ、更にバンパー、ターゲット等にアチコチ弾き返される。
「あか~~んっ!!」
 続いて滑り降りた千佳も、同様にフリッパーに打ち返され、アチラコチラ弾き返されていく。
「凛ちゃん! 千佳さん!?」
 最後に滑り降りる優里。
 彼女は、刃を立てた状態で薙刀を水平に構えた。
 そして滑り降りる加速度を利用し、フリッパーを真っ二つに切り裂く!!
「二人とも・・大丈夫っ!?」
 優里が駆け寄った時には、二人とも此処彼処転げまわり、目を回して倒れていた。

 スタート地点に戻され、無数の球の襲われ、それから数十分後にやっと妖気の出処に辿り着いた三人。
 高い壁に覆われた一本道の先に、大口を開けたモンスターのような模様のスピナー(球が当たると回転する板状)が待ち構えていた。
「アレが、妖怪の本体!?」
 優里が凛に問いかける。
「ハイ、妖気の出処はあそこです。 アレを霊光矢で射抜けば浄化できるはずです!」
 凛はそう言うと、ゆっくりと弓を引いた。
シュッッッ!!
 風切音と共に、青白い閃光が真っ直ぐスピナーに向かって、突き進んでいく!
「よしっ!!」
 千佳が勝利を確信した瞬間!!
 スピナーの直前に、光り輝く円筒・・・バンパーが現れた!
 霊光矢の直撃を喰らうバンパー。
 だが、更に光り輝くと、ビュン!という高音と共に、真っ直ぐ霊光矢を弾き返した!!
 撃った凛を狙って打ち返された、青白い閃光!
「危ないっ!!」
 凛を押しのけるように、優里が割って入る!!
「くっ・・・!!」
 優里はそのまま胸を抑えこんで倒れた!
「優里お姉さんっ!!?」
「高嶺さん!?」
 仰向けに倒れ伏せている優里の胸には、青白く光る…霊光矢が突き刺さっている。
「いやあああああっ!!」
 凛はそのまま跪くと、「死んじゃ…嫌だぁぁぁ、お姉さんっ!!」と泣き叫んだ!
 すると、泣き叫ぶ凛を、優里は震える手で制する。
「だ…大丈夫よ……凛ちゃん。 この…霊光矢は……浄化の矢……。 私には……邪悪…な……妖気が無い…から、このまま……消滅…することは……ない…わ…」
「で…でも……、血が……血が流れて……」
「だいじょ…う…ぶ……。 逆に……綺麗に…刺さっている分……、大きな……出血…は…ないわ……。 それよりも……」
 優里はそう言って、光り輝くバンパーを指さした。
「本体の…直線上にある……あのバンパー……。まずはアレを……消さなければ…本体は…狙えない……」
「でも、アレはわたしの攻撃をいとも簡単に跳ね返しました……」
 凛の返答に優里は、静かに首を振る。
「大丈夫……私は…見たわ…。 たしかに……凛ちゃんの…霊光矢を……跳ね返した…けど…、あのバンパー……も、一度…消滅したところを……」
「それって……!?」
「そう……。 ダメージを受けて……消滅した後に、また……再出現……しているの……」
「つまり、大ダメージを与えてやれば、アレは一瞬だけ消えるってことっちゃか?」
 千佳の確認に、優里は頷いた。
 凛も優里の言葉の意味を理解し、涙を拭った。
 そして、バンパーに向けて弓を構える。
「アレを射抜いた後、間髪入れず……二撃目を放つ!」
 凛の額に脂汗が流れる。
「待ったっ!!」
 それを千佳が制した。
「バンパーを消し去るのは、ウチがやるっちゃっ!」
「でも…千佳……?」
「いくら一瞬消滅するとは言え、それでも攻撃を跳ね返すんやろ? そしたら凛は、二撃目を撃てんやん!?」
「・・・・・・」
「だから、まずウチがヤツを消滅させ、跳ね返りも喰らっちゃる! 凛は、その後すぐ本体を撃つっちゃよ!」
「それじゃ、千佳が大怪我をする……」
 凛の言葉に千佳は首を大きく振った。
「凛がたった一人で妖怪と戦っていた頃、ウチは盾にもなってやれんで、ごっつ…悔しい思いをした。 でも、今は身体を張って盾になってやれるっちゃ! むしろ、本望っちゃよ!」
 千佳はそう言うと、自らの左手で右腕を握りしめ、全ての妖力を右手に集中させる。
 千佳の灼熱の爪が、更に赤く燃え盛るように輝く。
 そして大きく息を吐き、気持ちを整えると
「そんじゃ~凛。 あとは頼んだっちゃ!!」
 とバンパーに向かって突進した。
 赤く輝く右手を大きく振りかぶり、そのまま垂直に切り裂くように下ろす!!
ザグッ!!
 鈍い引き裂き音と共に、激しく吹き飛ぶ……千佳!!
 そして、今・・・
 凛の目の前は、本体であるスピナーとの直線上、何も障害物は無い!!

妖魔狩人 若三毛凛 if 第16話(6)

 めいいっぱい引き締めていた弦を、ゆっくり離す!
 青白い閃光は真っ直ぐ飛んでいき・・・
グサッッ!!
 妖怪スピナーのど真ん中に突き刺さった!!
ピカッ! ピカッ! と、赤く点滅するピンボール空間。
 透明な水入れ中に、一滴の絵の具を垂らしたかのように、辺りがゆっくりと染まっていく。
 再び、周りの景色がハッキリ見えるようになった時、そこは元のゲームセンターの店内だった。
 弓を構えたまま、辺りを見回す凛。
 その傍らで、苦しそうに胸を抑えて蹲る優里と千佳。
 千佳の胸も、自らの爪で大きく切り裂いたかのような、傷跡が残っている。
「やったね・・凛っ!!」
 金鵄が嬉しそうに飛び寄ってきた。
「ほら、見てごらん。 浄化は成功だ! 皆・・元に戻っている!」
 金鵄の言うとおり、店内には來愛女子大付属の生徒。 涼果と琉奈の姿・・・。そして、他にも犠牲になったと思われる、一般人の姿が倒れ伏せている。
 全員気絶しているが、大きな怪我らしいものも無く、命に別状は無さそうだ。
 だが・・・
「優里お姉さん・・・、千佳っ・・・!?」
 凛は蹲って倒れている二人の方が心配だった。
「ううっっ・・・」
 二人とも苦しそうではあるが、まだ微かに息はある。
 しかし、このままではその僅かな命すら、危険である。
「金鵄、どうしたら・・・!?」
 涙を流す凛のもとに、
「そこをどきなさい・・・」
 と頭上から声を掛けられた。
 見上げると、青い衣の女性が両手を上げ、水流の輪を二つ掲げている。
「はっ!」
 青い衣の女性は、二つの水流の輪を、それぞれ優里と千佳の身体に引き下ろした。
 水流から無数の水泡が現れ、二人を包み込む。
 徐々に水泡が弾け飛び、全ての水泡が消え去った時には、優里も千佳も安らかな表情で、静かな吐息を漏らしていた。
「こ……これは、治癒の術……!? しかし、人間はもちろん、霊獣や妖怪ですら……これだけの術を使いこなせる者は、そうはいない・・・!?」
 金鵄は呆然と、青い衣の女性を眺めた。
「二人とも高い生命力が幸いしている。 あと一時間もすれば傷も癒え、目を覚ますだろう」
「本当にありがとうございます!」
 凛は深々と頭を下げる。
「礼を言われる筋合いは無い。 結果的に貴女達が妖怪を倒してくれたのだから」
 頭巾で表情はわからないが、僅かに見える目元や眉ですら、ピクリとも動いている様子は無い。
「これで貴方に助けて頂いたのは、三度です。 せめて名前だけでも聞かせてください」
 凛はやや控えめに尋ねた。
「…………………」
 青い衣の女性はしばらく黙っていたが、
「妖怪どもが貴女達の事を呼んでいる言い方をすれば、『青い妖魔狩人』。 とりあえず、そう呼ぶがいい」
 とだけ言った。 そして・・・
「祢々、行くぞ・・・」
 と、グラマラスな女生とその場を後にした。


 その遊技場は、今以上に娯楽の少ない昭和・・1970年台。
 子どもや大人までもが、熱中した遊び場の一つであった。
 そこには、勝負に掛ける熱い魂などが充満していた空間でもあった。
 だが、時代が進み、デジタルゲームが当たり前の時代となった今、誰もプレイする者はいなくなり、更に経営していた老夫婦が他界したことから、そのエネルギーは行く宛の無い無念のエネルギーとなった。
 ムッシュが引かれた念はおそらくそれであり、そのエネルギーがムッシュの血に作用し、付喪神妖怪化したのだろう。

 その後、このゲームセンターは、老夫婦の遠い親戚が管理するようになり、殆どの筐体を売り払われ、そろばん塾として経営されることになった。

 第17話につづく(正規ルート)

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第16話 あとがき

こんにちわ!

今度、ダイエット成功本でも売りだそうかと思っている(いや…嘘w)、 るりょうりに です。

でも、減量したのは本当ですよ!

一年間で13㎏・・・そのうち9㎏は、ここ三ヶ月間で落ちました。

なんか、凄いですよね。

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さて、16話・・公開しました!

前回の近況報告で9月末に公開予定と言ったものの、今回挿絵が多くて、ホント…ギリギリ間に合ったところです。

今回の敵は、ゲームセンターのゲーム筐体の付喪神型妖怪

現在では誰も使っていない古い筐体が持つ思念に、ムッシュが例の血を擦り付けたところ、妖怪化しました。

元ネタはXMAAから頂いたものです。

ですが、ピンボールだけを扱った物語は創作レベル不足で作れそうになかったので、他のゲーム機も取り入れた物語&状態変化にしてみました。
エアホッケーのパック化と、クレーンゲームのラムネ化も、個人的には気に入ってます♪

基本的に70年代のゲーム機を題材としてみましたが、今回取り扱った機器は本当に実在した機機をモチーフにしています。
ただ、なかなか資料が集まらず、殆ど私の記憶を元に書いてみましたので、構造上の違いなどは多々あると思われます。

しいて言えば、70年代後半に登場した『スペースインベーダー』という一世風靡した筐体。
本当はこれも物語に入れ込む予定でしたが、挿絵にした場合、ああいうドット絵では、特定のキャラ表現できるか!?
その辺の自信が無かったので、今回は外す事にしました。
登場人物の『ドット絵化』。こういうのもいずれやってみたいと思います。

それにしても、今回ピンボール機が敵であり、主戦場という設定にしましたが、ピンボールというゲームを思い出すため、何度もネット上のフリーピンボールゲームにチャレンジしました。

本当ならリアルの実機に挑戦したいところですが、時間と金銭的余裕がないので。。。orz

実際にピンボールらしい世界観が表現できたかは、正直…微妙なところですがw

もう一つ、今回の敵は、殆どセリフがありません。
機械の霊というか、機械そのものの思念体が妖怪化したものなので、あえてセリフをなくす事で無機質感を出してみました。

この辺も、新たな試みで結構楽しんで書けました。

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さて、次回17話ですが・・・・



すみません、17話はお休みさせて頂きます

次回の予定は、個人的に・・・・


究極の自己満足 作品を公開する予定です!ww


究極の自己満足作品って何!?

これが状態変化を扱った、究極の作品ならこのサイトの閲覧者様も喜べるものでしょうが、申し訳ない・・違います


若いころから数多くのオリジナル創作作品(主にマンガ)を作ってきましたが、常に一度はやってみたいと思うことがありました。

それは、自身の複数作品による『クロスオーバー!』


子どもの頃にみた、仮面ライダーのゲスト出演! (これは同シリーズではあるが、別作品の主人公同士によるクロスオーバーと呼べるはず!)

もっとわかりやすく言えば、「東映マンガまつり」であった、『グレートマジンガー対ゲッターロボ』。

水島新司の野球漫画キャラクターが一同に介し、甲子園で戦いあった・・『大甲子園』。

最近?の映画では、『ジェイソンVSフレディー』、または『エイリアンVSプレデター』。


本来なら出会うはずのない別作品同士の主人公たちが、一つの舞台で出会い・・もしくは戦い合う!


この設定、ホント好きなんですよ!! もう~っ、想像するだけでドキドキする!!


これ、やります!!


妖魔狩人 若三毛凛×てんこぶ姫 

このクロスオーバーを書く予定にしています。


そこで、一つだけ・・・急募です!!


この作品に登場する、妖怪を現在構想中です。


この作品では、日本妖怪・中国妖怪にこだわらず、世界各国の『妖怪』『怪物』『未確認生物』等を使いたいと思っております。

ぶっちゃけ、伝記上のものでなく、映画に登場した怪物(もちろん、そのまま使うと著作権に引っかかる問題があるので、微妙にアレンジを加えますがw)等でも結構!
もちろん、オリジナルでも結構!

とにかく、こんな奴らが凛たちと戦う所を読んでみたい! というのがありましたら、ぜひ教えてください。

頂いたアイデアを絶対に使わせて頂くという約束は出来ませんが、現在構想している物語展開に上手くマッチングできそうなら、有難く使わせて頂こうと思っております。


というわけで、行き当たりバッタリ感満載の企画ですが、次回はそれをやりたいと思っております。

現在公開予定は、おそらく2ヶ月後。 11月末・・・もしくは12月になるかもしれません。
(若三毛凛シリーズの2話~3話分の長さになると思われる)


では、よろしくお願い致します。m(_ _)m


今回も閲覧、ありがとうございました!
 

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