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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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ターディグラダ・ガール 第五話「誰も見ることのできなかった戦い」 三章

「あら…あら~っ! ラビス様、負けちゃったわねぇ~。」
 そんなミオとラビスの決着を、少し離れた場所から眺めていたる一人の若い女性がいた。
「まぁ、アタシも黒祥紫亜(シア)に負けちゃったから、大きな事……言えないんだけどぉ~。」
 その…のんびりと間延びした口調の主は、ラビスの部下であり、ロボット工学の超天才とも呼ばれた元女子大生……茶和レイカであった。
「どっちにしろぉ、これでラビス様の組織も崩壊~っ。以前やらかした……生体実験のせいで大学にも戻れないしぃ、明日からまた、一人で研究できるようにしていかなきゃ、いけないわねぇ~っ。」
 肩を落とし、大きく溜息をついたレイカは、そう言ってその場から踵を返そうとした。
 すると……。
「あいにくだが、一人きりというわけでは無い……」
 低く重い声が、身体の内側から響くように耳に入ってきた。
「あら? なにかしら……今の声は?」 
 辺りを見渡すレイカ。だが、ラビスたちの戦いを見物に来た人々が疎らに集まってはいるものの、今の声を発したと思われる者の姿は見当たらない。
「う~ん……。気のせいだったのかしら~ぁ?」
 そう思い直し、再び歩を進めようとすると、
「いいえ、気のせいではございませんわ!」
 今度は、やや高めでハッキリとした口調の声が、背後から間違いなく聞こえてきた。
 振り返り、声の主を確認するレイカ。
 そこに立っていたのは、年の頃……30歳代前半に見える女性で、まるで柳の木のようにスラリとした細めの長身。短い髪で青白い……肌。いや、正確には淡藤色の肌というべきなのだろうか。鋭く尖った耳に、輝くような赤い瞳。それはあたかも人間のようで、人間ではなさそうな。そんな謎めいた雰囲気を放っている女性であった。
 その女性はその場に跪くと、
「これから先の貴女様には、このアタクシと、そして……偉大なあの御方が、常に一緒におられますわ。」と話掛けてきた。
「貴女と偉大なぁ……? なんだかよく解かんないけどぉ、そう言う貴女は誰かしらぁ~っ?」
「申し遅れました。アタクシの名は『ミンスー』。ラビス様に……いえ、もう隠す必要もありませんね。『マアラ様』に陰ながらお仕えしていた魔族でございます。」
「マアラ……様?」
「はい! 今、貴女の体内にいらっしゃる偉大な御方です!」
「えぇぇ――っつ!? アタシの体内にぃ~っ!? いつからぁ?」
「つい先程……。ラビスが神楽ミオの術によって、封印される直前です!」
 ミンスーのその言葉にレイカは口を止め、静かにその時の様子を思い浮かべてみる。
「どうです? 思い出されましたか?」
「そう言えばぁ、ラビス様が石の箱になる寸前……。なんか黒い影が、アタシに向かって……飛んで来たようなぁ、そんな気はしたけどぉ~っ。」
「その黒い影が、マアラ様です! それまでラビスにとり憑いていたマアラ様が、貴女様の身体に乗り移ったのです!」
「ふ~ん……。それでぇ、そのマアラ様って……何なのぉ~っ?」
「一言で言えば、マアラ様は一人の魔族……。いえ、今現在は、その魔族の魂と言うべきでしょうか?」
「魔族の……魂?」
「はい。魔界におられた頃のマアラ様は、大変気高く向上心の強い御方。そして、その魔力は、魔界の四大実力者をも追い越しているとも言われておりました。遥か昔、ワタクシもそのお力を魔界で拝見したことがございましたが、今思い出しても背筋が寒くなるほどの強さでした。」
「へぇ~っ!」
「それだけの実力と向上心を持っているマアラ様を、四大実力者は危惧しておりました。そこで、魔界総がかりでマアラ様を拘束して、その肉体と魂を切り離し……、魂だけを地上界に追放したのです!」
「ふ~ん、映画みたいで面白いけど……ある意味、迷惑な話ねぇ~っ♪」
「地上界に追放されたマアラ様の魂は、時代を超え……それぞれの時代の魔力の高い人間にとり憑いていました。身体を使わせてもらう代償として、更なる魔力の高みと魔界の知識を分け与える事を条件に。」
「それで、ラビス様に憑いていたわけねぇ~っ! でも……なぜアタシに? アタシは、まるっきり魔力なんて持ち合わせていないわよぉ~!」
「それは、余がそなたの知識と技術を気に入ったからだ……」
 再び低く重い声が、レイカの体内から響き渡る。
「こ……この声は、マアラ様……!?」
 まるで予測していなかったのか? あまりに唐突な主の乱入に、ミンスーは慌てふためいていた。
「あらあら……、やっぱりさっきの声は、そのマアラ様だったのねぇ~♪」
 ミンスーとは対照的に、落ち着いているどころか物珍しげに、表情をほころばせるレイカ。
「ほぅ? そなたは、余が体内に居着いていても、心を乱さぬのだな?」
「ん~~っ……。だって、エイリ○ンみたいに、体内から食い尽くすわけじゃ…ないんでしょ~ぉ? だったら、別に問題ないしぃーっ!」
「やはり、そなたは……余が今まで憑いてきた人間とは、少し違うようだ。ラビスの中から見ていたが、並の人間には無い非情さも持ち合わせているようであったしな。」
「アタシは自分さえ楽しく生きれれば、それでいいのよぉ~っ♪」
「し、しかし……マアラ様。この者に憑いたのは、知識と技術が目的と仰っておりましたが?」
 やや落ち着きを取り戻したのか、ミンスーは別方向に流れた会話を軌道修正し始めた。
「今現在、自分の肉体を持たぬ余が、自身の魔力を制御できる新たな肉体を探しているのは、そなたも存じておるな?」
「は、はい……。しかし人間の身体では、マアラ様の有り余る魔力に持ちこたえることができないため、魔界に残されている本来の肉体を取り戻すと仰っていたことも……。」
「そうだ。人間としては……高い魔力耐性を持っていたラビスですらも、余の本来の力には到底耐えきれそうになかった。そこで余が考えたのは、このレイカの持つ技術で、全く新しい身体を作れないか?ということだ。」
「マアラ様、この者の技術は……機械と呼ばれる無機質の造形。生物のような柔軟性や適応力はありません。お止めになられた方が良いかと……!?」
 マアラと名乗る声の主による、斜め上の発想。そんなことを、まるで予期できぬミンスーは、またしても動揺の色を隠せない。
「レイカよ。お主の技術……それだけでは、あるまい?」
 物静かだが、却ってそれが威圧感を与える。だが、それでもレイカは……
「当然~っ!舐めてもらっては困るわぁ~っ♪ ロボットだけが、アタシの技術じゃないのよぉ~っ。サイボーグ……、すなわち改造生物。または、有機物を使った……新型のバイオ生物でも、アタシの許容範囲なんだからぁ~っ♪」と、まったく動じない態度で返してくる。
「うむ。その技術……余のために使ってみせよ。」
「別に構わないけどぉ、一つだけ聞かせて?」
 そう言うと、にこやかな笑顔にしか見えない独特の糸目が薄っすらと開き、氷のように冷えた瞳孔が、自身の身体を見下ろした。そして……
「魔界では恐れられていたようだけどぉ、あなたの目的は何なのぉ? アタシが力を貸すのは、ソレ……次第ねぇ~っ!」と、問い返したのだ。
――な……なんなのよ、この人間……? 魔力も……戦闘力も無いくせに、なぜ…こんな強気な態度でいられるの……!?―
 レイカの一歩も引かないその態度に、傍から見ているミンスーの方が恐れ多くて、気が気でない。

ターディグラダ・ガール 第五話13

「余が狙うは、全界支配!!」
 先程までよりも、更に低く……重みのある声が、レイカの体内から響き渡った。
「全界……支配…!?」
「そう。魔界、地上界、冥界……、そして天界! 全界全ての支配を創造主から奪い取り、我が手で統べる。それが、余の目的だ!」
「そしたらアタシも、No,1になれるってことかしらぁ~?」
「当然だ。」
 それを聞いたレイカの口から、白い歯が見える。
「いいわぁ~っ! 今のアタシは~、あなたと文字通り一心同体! したがって、あなたの野望はぁ、アタシの野望ぉ~っ! アタシの野望は、あなたの野望ぉ~っ!! アタシの技術は全てぇ、あなたに使わせる~っ♪」
「うむ。代わりに余の魔力も全て、お主の力として使うが良い!」
 そう声が響き渡ると、レイカの身体から黒いオーラが湧き上がり始めた。それは、魔力に精通する者や、霊感を持った者なら嫌でもわかる、強大な闇のオーラ。
 それを見ただけで、ミンスーは恐怖におののき、ガタガタと震え上がっていた。
「そう言うわけでぇ~、ミンスーって言ったかしらぁ? あなた……今からアタシの下僕として働くのよぉ~っ♪」
 もともと温和な顔の作りであるレイカ。今もそう言って、にこやかな笑顔を見せたが、ミンスーにとっては、どんな魔族よりも……恐ろしい表情にしか見えなかった。




 それから約10ヶ月程の月日が経った……ある真夏の日。
 それは、神田川県民にとって、忘れられない大きな災厄の日。
 そして、レイカにとっても野望を前進させる、大きな兆しとなる日であった。
 丘福市を中心に、地震や地割れ。津波に暴風などの嵐。更に、所によっては季節外れの猛吹雪。また、それらによってもたらされた都市の大火災。
 それだけではなく、街には死人を始めとする、魑魅魍魎といった不可思議な生物が闊歩し、人々を襲う。
 それらは全て、原因がまったく不明の大災害であった。人々はこれを『丘福大災害』と呼んだ。


「原因不明……? 愚かな人間共は、蘇った古(いにしえ)の『精霊の支配者』の存在を、まるで気づきもしませんでしたね。」
 丘福大災害の日より更に10日程経ち、やっと人々の心も落ち着きを取り戻し始めた頃、その災害で崩れかけた『丘福市立博物館』で、ミンスーが嘲笑うかのように語りだした。
「まぁ……っ、普通~気づかないと思うわよぉーっ! そんな非科学的な現象。常識に囚われた人たちには、夢にも思わないわよぉ♪」
 そう返すレイカは、館内のあちこちに、実験や研究のための機材を備え付けていた。
「それにしても、さすがは~光の天女…神楽巫緒ねぇーっ! たった一晩で、その精霊の支配者さんを倒してしまうなんてぇ~っ♪」
 レイカは、まるで自分の友人が活躍したかのように、口元を緩ませている。
「ところで……マスター・レイカ。差し支えなければ、空いている部屋を一つお借りしても、よろしいでしょうか?」
 手際よく機材を備えているレイカに向かって、ミンスーは申し訳なさそうに話を切り替えた。
「うん? 別にいいわよぉ~。ちなみに、何に使うのかしらぁ~っ?」
「はい。アタクシのコレクション製作、保管室として使わせていただこうと思っております。」
「コレクション……製作? ああーっ! たしか、生身の女の子のメダル化だったわね~ぇ! いいんじゃな~い!」
「ありがとうございます。では、さっそく女の子たちを部屋に連れて行きます。」
「あらあら! もう、捕獲しているのぉ~?」
「ええ、先程出かけたときに、大学受験予備校の生徒たちを、送迎バス毎……拉致してきたので。」
 ミンスーはそう言って一旦館外へ出ていくと、ほんの数分で、十人前後の女生徒を引き連れ戻ってきた。ちなみに、一緒に乗っていたと思われる2~3人の男子生徒と、中年男性の運転手は、とっくに刺殺しているようだ。
 館内の一階にある、古代生物展示コーナー。割と広めのこの室内に、ミンスーは魔力で檻を作ると、連れてきた女生徒たちをその中に押し込んでいく。だが、
「貴女は、ここに残りなさい。」と、一人だけ手を掴み、その場に残した。
 それは、ストレートロングの髪に、白地にグレーの翁格子柄カチューシャ。小顔でクリクリとした大きな目。襟も真っ白なセーラー服に淡い青色のスカート。
 一言でいうなれば、清楚な女生徒といった雰囲気をもった少女だ。
「貴女、この中では一番気立てが良さそうね。それも今時の女性とにしては、珍しいと言ってもいいくらいの。そこで、まずは貴女からアタクシのコレクションに加えていくとしますわ!」
「コ……コレクション……? あ、あの……、お願いですから、家に帰していただけませんか…?」
 女生徒は、目にいっぱいの涙を溜め、震えながらそう返した。
「悪いけど、帰すわけにはいきませんわ。それより、コレクションにするためには、その品物の情報を細かく知る必要がありますの。
 まずは、アタクシの目をよく見つめてくださいね!」
 ミンスーはそう言って、女生徒の目と鼻の先まで自身の顔を近づける。怯える女生徒は、ミンスーに言われるまでもなく、眼前に迫ったその目を、ジッと見つめる他なかった。
 すると、どうしたことだろう? 
 ミンスーの目を見つめていた女生徒の瞳は、上下左右にゆっくりと動き出すと、やがてぐるぐると回り出していった。
 それだけでなく口端から涎が零れはじめ、まるで全身の力が抜けきったように両手をダランと下げ、上半身は風に煽られる草花のように、ユラユラと揺らめいている。
 それはミンスーの魔術の一つでもある、魅了(チャーム)の魔法。簡単に言えば、催眠術みたいなものだ。
「まずは、貴女のお名前から聞かせてくれる?」
 ミンスーはぐるぐると目を回し、すっかり惚けてしまった女生徒に質問を始めた。
「名前は、一之瀬美桜(みさ)です。」
「一ノ瀬……美桜ちゃん!? 見た目に合った可愛い名前ね。では、美桜ちゃんの年齢や身長体重、学校名から成績、趣味……。すべてを話すのよ!」
「歳は1月生まれの16歳。県立霞ヶ丘高校二年生です。身長は158㎝、体重は42㎏……、音楽が好きで、吹奏楽をやっています。」
 ミンスーの聞かれるままに、自身の情報を次々に話す美桜。その中には他人には決して言いたくないであろうプライベートな内容まで、包み隠さず話していた。
 檻の中から見ている他の女生徒からは、それは異様な光景だったに違いない。
「霞ヶ丘高校……。たしかこの地では、割と学力が高い学校でしたわね。そして、同じ部活の先輩に憧れていて、性体験はおろか……口づけすら未経験ということね!」
 ミンスーはそこまで聞くと、嬉しそうに歯を剥きだして笑った。
「見た目だけでなく、内面まで今時珍しい娘だわ! 貴女、プラチナ(白金)メダル……決定よ!」
 ミンスーはそう言うと、懐から小袋を取り出し、中に入っている白い粉を美桜の全身に振りかけた。
 それは魔界ではよく知られる、『フニャフニャパウダー』と呼ばれる魔法の粉。振りかけられた者は、骨も肉も全て粘土のように柔らかくなってしまう。
 次にミンスーは、二枚の小さなコインのような物を取り出す。それを指先で、ピンッ!と弾き上げると、それは直径40㎝ほどの金属製の盆のような形へと変化した。
 その二枚の盆のような物を、一枚は立っている美桜の足の下に。もう一枚は彼女の頭上で、互いの面が並行になるように移動させる。
「製作開始!」
 ミンスーの合図とともに、美桜の頭上にある盆が、ゆっくりと降下を始める。
 ゆっくり……ゆっくり……降下する盆は、フニャフニャパウダーによって粘土のように柔らかくなった美桜の身体を、ジワジワと圧し潰していく。

ターディグラダ・ガール 第五話14

「きゃぁぁぁぁっ!! やめてぇぇっ!!」
 その悲鳴は、潰されている美桜本人ではなく、檻の中から様子を見つめていた女生徒たちのもの。
 なぜなら、今……彼女たちの眼前では、一人の少女が無残にも圧し潰されている最中なのだ。中には、悲鳴すら上げられず、そのまま失神してしまった女生徒もいる。
 しかし、当の美桜はと言うと……、
「あ、ふにゅ……、気持ち……うにゅ……」
 まるで何を言っているのか解らないが、ただ言えることは、それは苦痛による声ではなく、むしろ快楽に溺れる声と言った感じのものである。
「フニャフニャパウダーには痛覚を麻痺させ、愉悦を感じさせる効果があるのよ。今、美桜ちゃんの心は、天にも昇るようなエクスタシーを感じているはずだわ!」
 そうこう言っているうちに、二枚の盆は重ね合わさる寸前の所まで来ていた。
 そしてついに、ガツッ――ン!!といった衝撃音とともに、二枚の盆は、ピッタリと重ね合わさったのだ!
「あぁ……っ…」
 それを見た半数以上の女生徒たちは、バタバタと気を失って倒れていく。
「さてと、出来栄えはどうかしら~♪」
 ミンスーは重なり合った盆を手に取ると、嬉しそうにそのうちの一枚を、ゆっくりと引き離し始める。
 ベリベリッ!と上側の盆が引き剥がされると、そこにはクルクルと目を回したまま、凸凹の無い……ペッタンコになった美桜の顔が現れる。
 更にもう一枚の盆を引き剥がすと、美桜の顔をした円盤状の物体が手元に残った。
「ウゥ~~ン♪ なかなか、いいメダルになったじゃなぁ~い♪」
 ミンスーの言葉の通り、その円盤状の物体は、真ん丸のメダルとなった美桜そのものであった。
 表側は中心に美桜の顔があり、その周りにセーラー服の襟元やスカートの一部らしきものが、模様のように残っている。そして裏面は、美桜が履いていた……ローファーの底から、紺のハイソックスと肌色の太腿だったものが、円形模様のように残っている。その周りにはスカートの裏地があり、中央にはそれと太腿に挟まれた白地模様が。
 そんな裏面を眺めると、
「あら……この子。今時の子には珍しく、スパッツも短パンも履かないで、そのまま下着を着けていたのね~ぇ♪」
 鼻を近づけ、クンクンとその匂いを嗅ぎだした。
「ハァ~ッ! 鼻にツーンとくる……処女の香り~っ♪」
 まるで茫然自失となったかのように、ミンスーはしばらくの間、その匂いの余韻を不気味な笑みを浮かべながら楽しんでいた。
 そして余韻から立ち直ると、少々名残惜しいように首を傾げていたが、やがて決心したかのように、新たな魔法を美桜に掛け始めた。
 それは、ある種のコーティング魔法。円盤状になった美桜は、端から徐々に、眩い光沢の白色へと変化していく。
「嗚呼ぁ~ン! なんて、素敵なプラチナメダルなのかしらぁ~~っ♪」
 今にも踊りだしそうな勢いで白色の円盤を掲げ、喜びの声を上げるミンスー。
 彼女の言う通り掲げられた白色の円盤は、それは見事な白金(プラチナ)メダルと化した、美桜であった!
 ちなみに、その光景を見つめていた残りの女生徒たちは、明日の我が身と思い知ったのだろう。皆、その場にバタバタと崩れるように倒れていく。中にはスカートの端から、ホカホカの湯気を立ち昇らせている子も、数名いたようだ。


| ターディグラダ・ガール | 21:44 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

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ターディグラダ・ガール 第五話「誰も見ることのできなかった戦い」 四章

「この屋敷から、多数の若い娘の匂いがする! 今から全員で突入して、喰らい尽くすぞ! 万一抵抗する者がいえば、全て殺してしまえ!」

 それは、ミンスーが次の女生徒をメダル化する準備に入った頃、やって来た。
 博物館の玄関口を激しく叩き壊す音と共に、ズタズタと地響きのような足音が聞こえる。
「なんですの……、いったい!?」
 ミンスーは口惜しそうに女生徒を檻へ戻すと、足早にエントランス(玄関口)へと向かった。
 そこに待っていたのは、そのものズバリの『黒い集団』!
 数にして、20~30人と言ったところだろう。だが、驚くのは、その誰もが全裸姿であり、そして……その肌は、真っ黒であった。
 獣のような牙を持ったその口は、大きく耳まで裂け、血走った目はギラギラと見開かれている。手足には鋭い刃物のような長い爪が伸びており、それは見た目から人間ではなく、妖怪……もしくは怪物の類だとわかる。
――こいつ等は、中東に住む下等な亜人間……屍食鬼!? ですが、なぜ……この国に?―
 そう。それはミンスーの識別通り、そこに集まっているのは『屍食鬼』と呼ばれる中東の邪精、『グール』という種族。
 屍食鬼の名の通り、主に人間の屍体を喰らう邪精であるが、強靭な肉体と魔力を持っており、時には生きた人間を襲って喰い殺す。
「その屍食鬼が、ここになんの用ですの? たいした用が無ければ、さっさと立ち去りなさい。でなければ、死ぬ思いをいたしますわよ!」
 ミンスーはエントランスで立ち塞がると、全員を見渡しながら脅しにかかる。
「ほぅ!? 御大層な口を叩くヤツが出てきたかと思えば、なるほど……お前、魔族か?」
 そう言って先頭に躍り出て来たのは、一人の女性型グール。正確に言えば、女性型は『グーラ』と呼ばれる。
 そのグーラだが、自身の手で左肩を抑えている。しかし、その左肩には……あるべきはずの『左腕』が無い! それはよく見ると引き千切ったような跡が見受けられ、蒼い血が滴り落ちている。おそらく腕を失ってから、まだそれ程の時間は経っていないのだろう。
 更に、痛みが相当激しいのであろう。眉間には深い皺が入り、額や頬には玉のような汗が浮かんでいた。

ターディグラダ・ガール 第五話15

 それでもグーラは気丈に、
「魔族がこんな所で何をやっているのかは知らんが、この屋敷には多数の人間の娘がいるだろう? お前が抱え込んでいるのか?」とミンスーに向かい合う。
「ええ、たしかにアタクシの元には、10人程の女の子たちがいらっしゃいますが、これはアタクシが集めて来たもの。貴方たちが貫入するべきものではありませんわ!」
「貫入するか、しないかなど……どうでもいい。その娘たちは今からワッチたちが喰らわせていただく。そして、この館もワッチたちの寝床として使わせてもらう。そんなわけで、お前こそ死にたくなければ、さっさと出て行くがいい」
「フンッ!下等な邪精無勢が、何を勝手なことをほざいているのかしら? でかい口を叩くなら、相手を見てから叩きなさいな!」
「お前こそ、状況をよく見てモノを言うんだな! お前の言う下等な邪精でも、これだけの数なら……魔族の一人や二人。ものの数分で始末できるのだぞ! ま、このまま殺してしまった方が手っ取り早いから、ワッチとしてはそちらの方がいいんだが!」
 グーラはそう言うと、不敵な笑みを浮かべる。
――たしかに。いくらアタクシでも、これだけの数の屍食鬼。まともに相手にできる数ではありませんわ。―
 流石にミンスーの表情に、大きな不安の影が浮かんだ。
 それを見抜いたグーラは、部下であるグールたちに合図を送り、ミンスーを取り囲み始める。
 その時・・・。
「あらあら……。随分と騒がしいわねぇ~っ!?」
 エントランスの奥の廊下から、間延びした声とともに、一人の若い女性が現れた。
 それは、言わずと知れた……レイカである。
「に、人間の女……!?」
 虚を突かれたのはグーラである。なにしろ、屍食鬼と魔族との一触即発の空気の中、何喰わぬ顔で、人間の女性が平然と入って来たのだ。それはある意味、魔族の脅しよりも不気味な光景だ。
 レイカは何も言わず辺りを見渡すと、「ああ……、そういうことね!」と全てを察したように頷いた。そして、
「ねぇ、ミンスー。ここにいる屍食鬼の方々……、みんな負傷しているんじゃな~い?」
 と語りかけてきた。
「そ、そうですか……?」
 ミンスーはレイカの言葉で、改めてグールたちを一人一人見直してみる。たしかに言われてみれば、つい先程まで激しい戦闘でも行っていたかのように、全員が身体中に深い傷を負っており、中には呼吸すら満足にできないほどの重傷者も見受けられる。
「だから少しでも体力回復をするためにぃ、食料を要求しているぅ! そう言うことでしょ~っ!?」
 レイカの、やや舌足らずの間延び声が、全てお見通しだと言わんばかりに、グーラに問いかける。
「そ、そういうことだ! 死にたくなければ、この館にいる全ての娘たちを、ワッチ等に今すぐよこすのだ!」
 グーラは、相変わらずレイカの持つ…不可解な雰囲気を読み取れず、若干躊躇しているものの、強気な態度だけは崩さなかった。
「いいわよぉ~♪」
 レイカから返ってきた返事。それは、あまりにも呆気ないものだった。
 その返事に、一瞬呆けてしまうグーラ。
「ミンスー、貴方が集めてきた女の子……、半分くらい分け与えてあげちゃってぇ~~っ♪」
 ミンスーにも予期しない指示が来た!
「ちょ……ちょっと待って下さい! あれはアタクシの大切なメダルコレクションの材料でして……」
 こっちはこっちで、必死になって指示変更を願いだす。
「いいじゃないのぉ~っ! 貴方なら、またすぐに捕まえて来ること……、出来るでしょ~ぉ!? それとも、アタシの言うこと聴きたくないのぉ~っ?」
 いつも通り、笑っているようにしか見えない糸目に、保育園の先生のような……優しそうな口元。だが、その表情を信じてはいけない。ミンスーは、それをよく知っている。
「わ……わかりました。指示に従います……。」
 そう応えて、深々と頭を下げるミンスー。
「そっちの屍食鬼の皆さんも、女の子……少し分けるからぁ~、もうちょっと大人しくしてくれないかしらぁ~っ?」
 レイカはそう言って、グールたちにも温和そうな笑顔を振り撒いた。
 だが……、
「はぁ!? お前……人間の女だよね? 人間の女が、何を偉そうに指図している。ワッチは全ての娘をよこせと言ったんだ。なんだったら、お前から喰ってやってもいいんだぞ!?」
 たかが人間の女。その人間の女なんかに言い包められてたまるか? そう言わんばかりにグーラは、レイカに向かって更に凄んでみせる。
 そんなグーラの態度に、レイカの細い目尻が少しだけ釣り上がる。
「アタシを食べる……? ふ~ん!いいわよぉ~。食べられるなら、いつでも食べてちょ~だい♪」
 レイカはそう言って、カニのように二本指で構えると、「ピース!ピース!」と嘲笑うように、はしゃいで見せた。
「どうやらこの国の人間は、我々の恐ろしさがわかっていないようだ。グーラ様、この俺が……このバカな娘を挽肉にしてやりますよ!」
 たかが、人間の若い娘が何も知らずに粋がりやがって! おそらくそう思ったのだろう。一人の若いグールが、レイカに対して攻撃の了承を得ると、そのまま勇んで飛びかかった。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
 若いグールの鋭く伸びた爪で、レイカの身体は一瞬で真っ二つに切り裂かれる!
 ……はずだったのだが、実は悲鳴を上げたのはレイカではなく、若いグール。
 なんと、その若いグールはレイカを引裂くどころか、指一本触れることができず、その身はまるでビデオの逆再生のように、弧を描いて吹き飛ばされた。
「な……なんなの、今のは……!?」
「あの人間の女……少しも動いていないのに、襲ったアイツが吹き飛ばされたぞ!?」
 驚くグーラと他のグールたち。
 そうなのだ。彼が言う通り、レイカは両手でピースをした姿勢のまま、まるで動いていない。……にも拘わらず、襲い掛かった若いグールは、有無言わさず数メートル先まで吹き飛ばされたのだ。
「何があったの!?」
 その若いグールに駆け寄り、問い詰めるグーラ。
「こ……拳(こぶし)だ!? 無数の拳による、突きや殴打が一斉に襲い掛かってきた……」
 若いグーラは腰を抜かしたまま、恐る恐る返答する。
――拳による攻撃……!? そんなバカな……!? ワッチたちには、そんな攻撃……まるで見えなかったぞ!?―
「そのグールが見たのは、魔気(マーキ)なのよぉ!」
 レイカは、グーラの心の声に返答するように、いきなり話しだした。
「魔気(マーキ)……?」
「そうよ! 闇の魔術を極めた者は、その身に魔気(マーキ)を纏うことができるのぉ~っ! 彼が見たのは、アタシの魔気(マーキ)なのよぉーっ!」
 胸を張り、得意満面に話すレイカ。
――いや、マスター。貴女……どこの世紀末覇王ですか……?―
 ミンスーは空かさず、心の中でツッコミを入れていた。
 …て言うか、お前こそ魔族のくせに、何故……元ネタを知っている!?
「こ、こうなれば……、あの人間を全員で攻撃するんだぁ!!」
 そう叫ぶグーラを先頭に、残り全員のグールたちも、一斉になって…レイカに飛び掛かっていった。
 しかし、当のレイカ本人は、「フッ♪」と軽く鼻で笑うと、
「今夜が雲一つない空だったらぁ~、みんな……死兆星が見えていたわよぉ~♪」
 そう呟き、自身の体に軽く気合を入れた。
 その途端、襲い掛かったグールたちの身体は、一斉に舞い上がる。
 それは、目に見えない風船がパンパンに膨れ上がり、一気に破裂したかのように。いや、そんな生易しいものでは無い。見えない爆弾が爆発したかのように……!
 飛び掛かったグールたちは、レイカを中心に放物線を描いて、十数メートルほど弾き飛ばされていったのだ。
 その衝撃は見た目以上に凄まじく、それだけで気を失うグールもいたほどだ。
「い……今のも、魔気……っていうものか?」
 激しく大地に叩きつけられ、言う事の聞かない身体を必死で起こすと、グーラは震える口でそう漏らした。
「いえ、正直……ここだけの話。魔気と言うのは、マスターの厨二表現です。本当は、拳の攻撃に見える幻覚魔法を使いながら、自身の魔力を『少しだけ解放された』。それだけですわ。」
 グーラの漏らした問いに、ミンスーが少々呆れ顔で返してきた。
――魔力を少し解放しただけ……だと? それでこの威力か!? もし、今のがマトモな攻撃魔法であったら、ワッチたちは全員……瞬殺されていた!?―
 ソレを想像しただけで、グーラの心の中に、恐怖が駆け巡った。
「どうするぅ? まだ、アタシから食べてみよぉ~っ!なんて、思うかしらぁ~?」
 嘲笑うような含み笑いを浮かべ、レイカは再びそう問い掛けた。
「い、いえ……申し訳ありません。勘弁してください……。」
「最初から、そういう風に素直になればいいのよぉ~っ♪」
 レイカはそう言って、ニパッ!と笑うと、
「ミンスー。先程言った通り、あなたの女の子……、分けてあげなさぁ~い!」


 それから数時間後。
 グール達はミンスーが拉致してきた少女たちを、半数ほど食べ尽くすと、見違えるように元気さを取り戻した。
 そもそも人間に比べてたら数倍もの強靭な身体を持つ屍食鬼たち。そのため、体力さえ回復すれば、出血も止まり傷口も塞がりはじめ、回復へと向かっていく。
「でも、この左腕は二度と元には戻らない……」
 グーラの左肩も出血は完全に止まり、その傷跡も塞ぎ始めてはいた。だが、それ以上に失った左腕に対しての、心の傷跡が大きいようである。
 そんなグーラを見ていたレイカ。
「アタシが新しい左腕……、作ってあげよぉーか?」
 そう、何気なく声を掛けた。
「作る……? 左腕を……? そんな事ができるのか?」
 思いがけない話に、身を乗り出すグーラ。
「モッチロぉ~ン! アタシはメカの天才~ぃ!! 最新型戦闘機能付き義手を、2~3日で作ってあげられるわよぉ~っ!」
「最新型…戦闘機能付き……? なんだかよく解らないが、それが本当であれば、ぜひ……お願いしたい!」
「いいわよぉ~ん! た・だ・し……、アタシに忠誠を誓って、アタシの下で働くこと。これが、条件よぉーっ! どぉ~する!?」
 それはグーラにとって、思いの他の展開であった。
 彼女とその手下のグールたちは、災害の張本人である『精霊の支配者』に、本人たちの意思とは関係無く、この国……この丘福市に召喚された。
 精霊の支配者も倒され、本来であれば祖国帰るべきところだが、彼らはこの国の人間の味が気に入って、もう暫くこの地に留まろうと考えていたところであった。
 そんな矢先、この地の人間を守っている『妖魔狩人』と名乗る者と戦う羽目となり、大惨敗を屈したばかりなのだ。
 正直…この国に留まりたいが、次にあの者たちと戦ったら、今度こそ浄化消滅させられてしまうであろう。
 しかし、先程見せつけられた……このレイカという人間の魔力。もし、この人間が自分たちに味方をしてくれれば、間違いなく妖魔狩人を退けることが出来る。いや、奴らの霊力の高い身体を、喰らい尽くすことも可能だ!
「わかった……。い、いえ……わかりました、マスター・レイカ。ワッチとその手下グール全て、貴女様の下で働かせてください!」
 グーラはそう言うと、額を大地に擦り付けるように土下座をした。
「ハ~イ、OKよぉ~ん♪ それじゃ~ぁ、あなた達は今からアタシの部下ということでぇ~っ!」
 レイカはそう言うと、振り向きざまに、
「ミンスー、今日から屍食鬼の皆さんがぁ、アタシの配下に入ったわよぉーっ! そこでぇ……ミンスー、あなたとグーラの二人は、今後同じ幹部として扱うからね~っ♪」
――な……なんですってぇ~~~っ!? アタクシと屍食鬼ごときが同じ幹部、つまり……同じ地位ってことですのーっ!?―
 辛うじて言葉には出さなかったが、あまりに突拍子もない話に、肝が飛び出しそうな程驚いたミンスー。
 そんなミンスーを無視して、レイカは更に話を続ける。
「グーラ。約束だからぁ~、あなたの腕……三日以内に作り上げてあげるわ~っ! あっ、それともう一つ。この国内で活動するには、その姿は目立ち過ぎるわねぇー。人間の姿に変身しておくことぉ! よろしく~っ♪」
 レイカはそう言うと、再び研究室へ戻ろうと踵を返したが、フトッ……足を止め、
「ねぇ? 精霊の支配者さんに召喚されて、神田川県に残ったのはぁ……グーラ達だけぇ?」と聞き返した。
 思いもよらない問いに、グーラは一瞬戸惑ったが、
「あくまでもワッチの推測ですが、この平和な日本という国の人間たちには、ワッチ達……邪霊の存在を殆ど知られていません。それに食文化が発展しているせいか、その肉の味は深みがあって大変美味しい! ですので、ワッチ達以外にも多くの邪精が居残っている可能性は、十分にあります!」と答えた。
「ふ~~ん♪」
 それを聞いて、まるで悪戯っ子のような、無邪気な笑みを浮かべるレイカ。
「グーラ。最初の命令を与えるわぁ! この丘福市付近に居着いた邪精たちをリストアップをして、アタシの元へ連れて来なさぁ~い!」
「マスター、それはもしかして……?」
 傍で二人の話を聞いていたミンスーは、その表情がパァ~ッと明るくなり、思わずそう問い返していた。
「そうよぉ~ん♪ その居着いた邪精たちを兵隊にして、お待ちかねのアタシたちの組織……『パーピーヤス』、ついに活動開始よぉーっ!!」
 サムズアップで、これ以上に無いほどの『ドヤ顔』のレイカ。
「おおっ!!」
 待ち焦がれていた。ミンスーは心からそう思っていた。そしてついに、レイカ(マアラ)の下で、地上界……そして魔界すらも、牛耳ることができるのだ!

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ターディグラダ・ガール 第五話「誰も見ることのできなかった戦い」 五章

 ここは中央区の北部にある御幸(みゆき)運動公園。
 この公園は、住宅街の端にある木々に囲まれた緑豊かな公園で、ちょっとしたテニスやバトミントン。フットサルなどができる小さなコートも備えている。
 そのため、午前中は年配者の散歩コース。午後は専業主婦同士の情報交換場所。夕方には、学校帰りの子どもたちの遊び場にもなっている。
 そして今、辺りも暗くなった黄昏時。
 付近を巡回パトロールしている、御幸交番勤務の巡査二名。
 一人は、来年定年退職を迎えるベテラン巡査長、山本和行。
 もう一人は、勤続年数五年の女性巡査、内田結衣(ゆい)。長い髪を後ろで束ね、一見…華奢で物静かな美女といった雰囲気だが、実は空手二段……実弾射撃上級という強者でもある。

ターディグラダ・ガール 第五話16

 その二人がこの御幸公園に足を踏み入れたとき、ある一つの犯行を目にしたのだ。
 それは、部活帰りと思われる一人の女生徒を、二~三人の男性らしき人影が暴行を加えようとしている光景だった。
 直ぐ様、山本・内田両巡査は声を掛け、犯行を阻止しようとした。だが、それは今まで目にしたこともないような、信じられない出来事であった。
 外灯も無い暗がりだったため、近寄るまで気づかなかったが、三人の人影は衣類を一切身につけていない、いわゆる全裸状態であった。更に、全身が暗がりに溶け込みそうな程、黒い肌。髪が全て抜け落ちたかと思われるほど頭髪は残っておらず、目は異様に大きく血走っている。刃物のような鋭い爪をした手足に、耳まで裂けた大きな口。
 そう、お解りであろう。女生徒を襲っていたのは屍食鬼グールたちであった。
「ま、まさか……、噂に聞く……未確認生物……っ!?」 
 初めて目にしたあまりの不気味な姿に、両巡査は一瞬怯んだが、もちろん放っておくわけにはいかない。
 すぐにグールたちの間に割って入ると、女生徒をその場から引き出し保護をする。
 更に山本巡査長は拳銃を抜き出し、バンッ!! と、一発威嚇射撃を行い、「動くなっ!!」とグールたちを制した。
 だが、それで大人しく言うことを聞くグールではない。
「グフフっ!」と下品な笑いを浮かべると、拳銃など恐れず、一斉に襲い掛かってきたのだ。
 それに対して、慌てて拳銃を発砲する山本巡査長。しかし、実は彼はそれほど射撃は得意ではない。まして、咄嗟のことで手元も狂いグールに当てることができず、逆にその身体をグールに組み伏せられてしまった。
 一方の内田結衣巡査は、女性警察官と言っても筋金入りの強者。
 得意の空手で殆ど互角に応戦するが、なにしろ相手は人間を超えた怪物……屍食鬼。とても容易に撃退できる相手ではない! 彼女は、それを悟ると、
「あなたは先に逃げなさい!!」と、女生徒を先にこの場から退避させた。
 そして、女生徒が公園から走り去るのを見届けると、直ぐ様拳銃を抜き出し、威嚇射撃もせず、そのまま一匹のグールの太腿を撃ち抜いた!
「グォォォォッ!」
 いくら邪精とは言っても、至近距離から拳銃の直弾を受ければ、それなりに痛みやダメージはある。その場にのた打ち回るグール。
 その隙に、山本巡査長の体に伸し掛かっているグールの元へ駆け寄ると、肘打ち……更に前蹴りで、その体を蹴り飛ばした。
「ありがとう……、助かったよ。」
 肩で息をしながら、ヨロヨロと立ち上がる山本巡査長。
「いえ。それよりも、このバケモノ共はいったい何なんでしょう!?」
「わからん。わからんが……、ここ最近アチコチで、数件の被害が報告されている!」
 拳銃を構えたまま、敵の動きを警戒する山本と結衣。
 一方、撃たれた脚の痛みに耐えながら起き上がるグールと他二匹のグール。そして、
「どうする? 若い娘に逃げられてしまった。後を追うか?」
 と、人間の言葉で会話を始めたのだ。
「いや、街中に逃げ込まれたら騒ぎがでかくなる。まだ騒ぎはでかくするなと、グーラ様のお達しだ。」
「ああ……。それに、さっきの娘より、こっちの女の方が肉は締まっていそうで美味そうだ! 今日の飯はコイツにするぞ。」
「ジジイは肉が硬くて、味も悪い。ここで殺ってしまおう。」
 そこまで言うと、三匹は再び両巡査に襲いかかる。
「内田、責任はワシが取る! このバケモノ共を射殺しろ!!」
 山本巡査長の掛け声で、同時に発砲する二人。
 相変わらず山本巡査長の銃弾はカスリもしないが、実弾射撃上級の結衣は、一発…二発と、見事一匹のグールの心臓を撃ち抜いた!
 更に、最初に脚を撃ったグールのもう片方の脚も撃ち、その動きを止める。
 あとは、またも組み伏せられ苦戦している山本巡査長のグールを倒せばいい!
 直ぐ様、馬乗りになっているグールを引き剥がそうと、その体に触れた瞬間……。
「キャッ!?」
 自身の両足首を捕まれ、その場に引き摺り倒されてしまった!!
 更に、うつ伏せ状態のまま両肩を抑えつけられる!
 必死に首を回し背後を覗き込むと、なんと……新たなグールが3~4匹ほど現れ、襲い掛かってきていたのだ。
――なんてこと……!? まだ…仲間がいたの……?―
 予想もしない事態に、一気に青ざめる結衣。しかも……、
「ぎゃあああッ!!」 
 聞き慣れた声による悲鳴。見るとそこには、喉を掻きむしられ絶命している山本巡査長の姿が……!
「どうだ、この女……! 割と良い肉していそうだろ?」
「ああ、筋肉質だがそれでいて硬すぎない。無駄な脂肪も無さそうで、これは美味そうだな!」
――美味そう……? 食べるの……あたしを……?―
 通常の生活では聞く事のない、狂気に満ちた会話を聞いているうちに、結衣は改めて……敵が人間では無い、怪物であることを実感し始めた。
 そして、その恐怖は彼女の頭よりも身体の方が忠実に反応し、制服のズボンは見る見るうちに温かな小水に浸っていく。
「おい、この女……漏らしたぞ?」
 一匹のグールがそう言って、結衣の湿ったズボンを引き下ろす。すると、白地に水色の星柄ボクサーパンツが、プリンッ!と姿を現した。
「丁度いい! 今回はコレを試してみよう!」
 グールがそう言って手にしたものは、竹筒で作られた……注射器のような物。
 奴は結衣のボーダー柄の下着も引き下ろすと、その注射器の先端を小さな菊蕾に差し込む。
「あっ…? いや……っ! あ、でも……、あへ……ぇ…♪」
 竹筒の液体が結衣の中に注ぎ込まれていくたびに、彼女は拒絶とも快楽とも、どちらとも言えないような奇妙な声を漏らしていく。
「コイツは、ミンスー様が愛用している『フニャフニャパウダー』を水に溶かしたもの。これなら少ない分量で、尚且つ体内から全身に行き渡るんじゃないか?」
「オ~イッ! こっちに良い物があったぞ!」
 その叫び声と共に、別のグールが嬉しそうに、なにやら大きな物体を引き摺ってやって来た!
 それは、コートを整地するための大きな鉄製のローラー。
「こいつでプレスして、もっと柔らかい肉にしてしまおう!」
「それは名案だ。せっかくフニャフニャパウダーを注入したことだしな!」
 奴らはそう言うと、結衣が身に付けている防刃ベストや、上着などの制服を全て脱がし、ブラとパンツのみの下着姿にした。
 そして、結衣の爪先にローラーを当てがうと、そのまま……ゆっくりと彼女の身体を押し潰し始める。
「あひゃ……ふにっ……ほぎゅ……」
 フニャフニャパウダーは痛覚を麻痺させ、愉悦を向上させる。それは、結衣の身体があげる……喜びの悲鳴であった。
 ローラーを押しては引き、引いては押し。何度も何度も丹念に結衣の身体を押し潰していく。
「おおっ! これは美味そうな……プレス肉だ!」
 やがて結衣は、厚さ1~2mm程の紙のようにペラペラとした、情けない姿になってしまった。
「このまま生で喰うのもいいが、滅多に手に入らない良質の肉だ。アジトへ戻って……調理してから頂こう!!」
 
 こうして御幸交番に勤務していた内田結衣巡査(24)は、例の博物館に持ち帰られ、『もやし』『にんじん』『ニンニクの茎』と一緒に『味噌炒め』にされ、グールたちに美味しく頂かれた♪

ターディグラダ・ガール 第五話17



 それまでの状況を黙って見ていたミンスー。やがて眉間に皺を寄せると、密かにレイカに話しかける。
「マスター、よろしいのですか? あの日以来、我がパーピーヤスの配下に治まっているのは、コイツ等……屍食鬼(グール)。そして氷の邪霊(ジャックフロスト)。更に本能のみで生きているような……オーク族。どいつもコイツも、大した戦闘力の無い雑魚邪霊ばかり。
 やはり、アタクシが魔界の精鋭を引き連れてきたほうがよろしいのでは?」
 ミンスーの提言に対し、レイカはクスクスと笑いながら、
「まぁ、魔界の精鋭とやらは、いずれ連れてきてもらうとして~ぇ。コイツ等はコイツ等できちんと役に立つのよぉ~っ!」と答える。
「役に……ですか?」
「そう! 単純に強いだけの兵隊は、アタシの科学力で作り出すことも可能なのよぉ。それよりも、そのための『実験材料』の方が必要なわけ~ぇ! なにしろアタシの最終目標は、マアラ様を『全界一の最強生物』として蘇らせること!だからねぇーっ♪」
「つまりコイツ等は、ただの実験材料である。そう割り切れ……と?」
「まぁ、そういうことね! それよりもミンスー。一つ気になる事があるのよぉ!」
 レイカはそう言うと、タブレット端末を操り、その画面をミンスーに見せた。
 画面に表示されているのはインターネットニュースのようで、『ここ最近頻発する、未確認生物による被害。それに対して、神田川県警本部は未確認生物対策係の設置を発表!』と映し出されている。
「未確認生物……っていうのは、アタクシ達のことでしょうね? それに対する対策係? でも、所詮は人間の組織。別に気にするほどのことでも無いのでは?」
 ミンスーは、さほど気に留めていないように返答する。
「まぁ、普通の警察が何をしようとぉ~、本来なら気にしないんだけどぉーっ。でも……」
 レイカはそう言って、新たな画面を表示した。そこには、
『県警本部は、神田川大学遺伝子工学博士……橘東平(たちばなとうへい)氏に、対策係への協力を依頼。』と映されている。
「橘東平……? 何者ですか?」
「ん~っ!? アタシも直接会った事が無いから、よくは…知らないんだけどぉ。
 でも、アタシが無機質の物体から最高のロボットを作り出す『ロボット工学の超天才』と呼ばれたように、そっちは有機生命体の遺伝子を組み替えたり、組み合わせたりすることで、新たな生命体を生み出す事を可能とした『遺伝子工学の超天才』と呼ばれた人なのぉ~っ。」
「遺伝子工学の天才……?」
「まぁ、色々と人道的な問題で、あまり表には出てこれなかったらしいんだけどぉ~。でも、そんな人が手を貸すとなるとぉ……、ちょっと厄介なことになりそぉ。そんな気がするのよねぇーっ!」
「なるほど……。」
「そこでぇ、ミンスーにお願いがあるのよぉ~!」
「ハイ、なんなりと!」
「その、橘東平と接触して、アタシたちのパーピーヤスに加わるように説得して欲しぃ~の!」
「に、人間ごときを、我らの組織に……ですか?」
「アタシも、その人間ごとき……だけどぉ~、何か!?」
「い、いえ……失言でした。」
「まぁ、そんな事はいいとしてぇ~。この人の研究、上手く使えば最強生物製作の可能性も、かなり高くなると思うのよねぇ~♪」
 レイカはそう言って、ニタリと微笑む。
「承知しました。で、ですが……万が一、聞き入れなかった場合は?」
「その時は、殺して。」
 軽く流すように発したレイカの言葉だが、このとき……彼女の糸のように細い目の奥で、微かな冷たい光があったことを、ミンスーは見逃さなかった。
 その意味をしっかり理解したミンスーは、ただ一言……
「では、今から行ってまいります。」
 とだけ言って、レイカの前から姿を消した。




 それから五日後。
 丘福市東区にある、古くからの家並みが揃う樫井(かしい)。
 その中にあるモダンな佇まいの一件の住宅。本日ここで、一人の男性の通夜が行われていた。
 弔問者たちはご焼香を済ませると、唯一の遺族と思われる、まだ20代前半の若い女性に頭を下げる。
 その中で、ある…恰幅の良い二人の中年男性が訪れていた。その二人は焼香を済ませ家を出ると、路地に待たせてあった一台の国産高級車に乗り込む。
 そして、運転手をしていた若い男性を一旦外に出し、二人だけで会話を始めた。
「どう思う、藤岡……いや、本部長?」
「佐々木、この場は呼び捨てで構わんよ。しかし、まさか『橘』が殺されるとはな……?」
「ああ、個人的恨みによる犯行か……? もしくは、警察(未確認生物対策)に協力するのを妨害するため……か?」
「うむ。影で未確認生物と絡んでいる者の可能性もあるな。」
「司法解剖の結果によると、死因は眉間をたった一刺し。それも千枚通しやアイスピックのような無機物製の道具ではなく、爪や牙などの有機物質的な物を突き刺している。そのことから、むしろ人間の仕業ではないと考えたほうが、合点もいく。」
 ここまで話すと、藤岡県警本部長(警視監)と佐々木警備部部長(警視長)の二人は、なにやら考え込むように、口を窄めた。
 そして、しばらく間を置き
「明日香……くん、だったか? 喪主を勤めていた橘の一人娘は……?」
 藤岡本部長が、再び口を開いた。
「ああ、橘明日香。唯一の遺族であり、そして俺の部……警備課災害対策隊員として働いてもらっている。」
 佐々木警備部部長は、そう返した。
「その明日香くんと言うのは、たしか……幼い頃身体が弱く、橘が遺伝子改良手術を行った……あの子だよな?」
「そうだ、諸々の理由で公にはしていないがな。そして、そのことを知っているのは、藤岡……お前と俺と、橘の教え子のうち…ただ一人だけ。それがどうかしたか?」
「実はな、佐々木。以前……科捜研の一人の研究者が、俺のところに『特殊強化機動服』という物の案を持ってきたことがある。」
「特殊強化機動服……? それはいったい?」
「簡単に言えば、装着者の運動能力を10倍まで引き上げるという物なんだが、今回の未確認生物対策に組み込んでみようかと考えているんだ。」
「運動能力を10倍か? それは凄いな……」
「ああ。出没している未確認生物は、人知を超えた能力を持っている。今の人間の武具や力だけでは、どこまで対応できるか判らん。」
「そこで、強化された機動隊員を投入するというわけか。悪くないな……!」
「ただ、現時点での研究結果は、装着時間は僅か5分以内。それ以上の着用は、筋肉組織を破壊してしまうらしい」
「なんだ、それではまるで使えないじゃないか?」
「うむ。だが……もし、その明日香くんの遺伝子改良された特殊体質ならば、もしかしたら耐えられるのではないかと思ってな?」
「藤岡、それは俺は承知できんぞ! 俺たちの友人であった橘の一人娘を、そんな人体実験みたいなことに使うなんて!!」
 普段、温和と噂されている佐々木警備部部長。だが、この時ばかりは、怒りを露わにしている。
「佐々木。たしかにお前が怒るのもわかる。だが、俺の考えはそれだけでは無いんだ!」
「どういうことだ?」
「もし、橘を殺った敵が、明日香くんのその秘密を知ったら……?」
「藤岡……!? もしかして……お前、橘明日香も狙われるかも知れない……? そう思っているのか!?」
「あくまでも可能性だ。だが、無いとも言い切れん! そして先程お前が考えた通り、橘を殺した奴が未確認生物と関係を持っているとしたら……?」
「今の警察の武力で、彼女をどこまで守れるか……?」
「だから、『彼女自身』に『自身を守る術(すべ)』を。『そんな敵とも戦える力』を持たせたい! 俺は、そう考えている。」
 藤岡本部長の力強い眼差しに、佐々木警備部部長は言葉を失った。
「わかった……藤岡。ならば彼女と、その対策係は俺の目が直接届く所、つまり……俺の直の配下にしてくれ!」
「もちろんだ、佐々木! そして俺も全力で支援する!」



 それから更に、一月程の時が流れた。
「橘巡査! 部長が会議室へ来るようにと仰ってましたよ。」
 外勤から戻ってきたばかりの明日香に、女性巡査が声をかけてきた。
「会議室ですか? 承知しました。」
 明日香はそう答えると簡単に身なりを整え、足速に会議室へと向かった。
「橘明日香巡査、入ります!」
 扉を開け一礼する明日香。室内にはすでに、4名の人物が席に腰掛け待っていた。
「おおっ!橘……帰ってきて早々、済まなかったな。ま、そこに座ってくれ!」
 にこやかな笑顔でそう言ったのは、明日香の部署の長、警備部部長……佐々木である。
 その他には、同じ部署であり直属の上司でもある、警備課課長……石倉。
 そして、たしか一人は……父の教え子として、よく家に来ていた人。
 その父の教え子だった者は、ひょろひょろとした細身の長身で撫で肩。とても警察組織の人間とは思えないほどの穏やかな顔の男性。
 最後の一人は初見の人で、白衣を着た小柄な女性。そばかす顔で眼鏡、長い髪は後ろで束ねている。そして何故か、嬉しそうな笑顔で明日香の顔ばかり見つめている。
「話というのは、この数ヶ月に及ぶ未確認生物による、被害対策についてだ。」
 佐々木部長は皆の顔を見渡しながら、そう切り出した。
「現時点で被害による死傷者は、70人を超えている。これまでは野生動物による被害対策と同じように、各警察署の地域課や警備課を中心として、我々県警本部警備部警備課が応援するという対応を行ってきた。
 だが、ここまで被害が拡大すると、もはや専門の部署が必要だと言うことになり、本格的に対策室を設置する運びとなったわけだ。」
「それは、以前報道でもあった、未確認生物対策係……ということですか?」
 佐々木部長に話に、石倉課長がそう問い返した。
「そうだ。未確認生物対策係……通称『CCS』。そして、その任務に携わってもらうのが、今ここにいる君たちだ。」
 佐々木部長の言葉に、そこにいた誰もが顔を見合わせる。
「このCCSは、書類上は警備部警備課に配属されているが、実質は私……佐々木の直属の部署となる。そして、この部署の任務内容に関しては、全て機密事項とする。したがって一切の口外は禁じられる。いいか?」
 この問いに、全員が静かに頷いた。
「では、これより正式に通達する。まず石倉警備課課長……。君は私の補佐として、私と今から任命する係長とのパイプライン的な役割をしてほしい。」
「承知しました!」
「次に生活安全部生活保安課勤務、和滝也警部補。本日より、未確認生物対策係係長を命ずる。」
「ぼ……僕が係長……?」
 任命された長身細身の和は、一瞬我を見失ったように呆然とした。
「返事は?」
「は、はい! 和滝也警部補、未確認生物係係長の任に就きます!」
「次に科学捜査研究所より、瑞鳥川弘子氏。貴女には派遣という形で、例のシステム管理担当をお願いしたい。」
「喜んで、お引き受けいたしまーす。」
 そう答えたのは、白衣を着た小柄な女性。そして彼女は、再び……チラリ!と明日香を見つめると、
「一つお伺いしますが、例の隊員候補は……そこの彼女ですかな?」と問い返してきた。
「それに関しては、今から紹介しよう。次……警備部警備課勤務、橘明日香巡査!」
「は、はいっ!?」
「本日付で、未確認生物対策係……『特殊強化機動隊員』の任を命ずる!」
「特殊……強化、機動隊員……?」
 初めて聞く任務に、明日香は、ただ…ただ、目を丸くする。
「そうだ。このCCSで最も重要な役割だ!」
「最も重要な……役割?」
 最も重要と聞いて、嬉しさと緊張で、武者震いにも似た震えを催す明日香。
「今日から君のコードネームは、TG01。」
「TG01……?」

「そう。別名……『ターディグラダ・ガール』!!」

ターディグラダ・ガール 第五話18


つづく

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ターディグラダ・ガール 第四話「パーピーヤスの野望 一章」

 あたしの名前は結城暁(ゆうきあきら)。見た目も大したこと無く、そしてコレといった取り柄もない、ただ毎日流されるように生きている平凡な中学校の女子生徒。

ターディグラダ・ガール 四話01

 父は『ゆうきまなぶ』という芸名で、神田川県内で活動している地方タレント。
 ローカルテレビのバラエティー番組やラジオ番組。県内芸能イベントでの司会。割と仕事も多く、神田川県内だけであれば、全国規模の芸能人やタレントに負けない程度の人気を誇っていた。
 でもある時。その父は、番組でアシスタントをしていた若い女性タレントと、不倫をしていたことが公表されてしまった。
 数多くあった仕事は謹慎休止。憤慨した母は父と別居することになり、私は母の元で生活をすることになった。
 だけど、あたしの真の苦しさはここからだった。
 なまじ有名人だった父だけに、その話題は学校でも広がり、あたしは『不倫タレントの娘』『セックスハンターの遺伝子を持つ者』など呼ばれ、あっという間に『いじめ』の対象となってしまったのだ。
 今の時代のいじめというのは、偏った正義感からくる攻撃。つまり、相手は「自分は正しいことをしている」と思い込んでいる分、『罪悪感』なんてものをまるで感じていない。したがって加減や遠慮なんてものはまるっきり無い。そんなものを、なんの戦闘力も持っていない極普通の女子生徒が、そう簡単に耐えられるものではないのだ。
 学校ではゴミのように扱われ、家に帰れば相変わらず母はイライラしている。
 いつしかあたしは自分の居場所が無くなり、学校へも行かず、充てもなく街中をブラブラしていることが多くなった。
 今でも何故だかわからない。もしかしたら、反撃する戦闘力が欲しかったのかもしれない。
 あたしは街の一角にある、小さな『キックボクシングジム』の前でポツンと立っていた。
 すると……
「よかったら、少しやってみない?」
 いきなり背後から、そう声を掛けられた。振り返るとそこには、ショートヘアの女の子がニコニコしながら立っている。
「い……いえ、あたしは、こういうのは……」
 なんと返事をしたらいいか戸惑っているあたしに、彼女はさらににこやかな笑顔でこう綴った。
「そう? 無理強いはしないけど、何かを殴ったり蹴ったりするのって、身体の中に溜まっているワケわかんない物が、結構吐き出せるもんだよ!」
 そう。その人は、あたしが今……どんな気持ちなのか?まるで見抜いているような感じだった。
 結局あたしは断る気もなく、半分どうでもいいか!的な気持ちで、ジムの中へ連れられていったんだ。
 中に入り、言われるままサンドバッグを叩いたり、蹴ったり。
 最初は殴っている手や足の方が痛かった。でも、そんなことを一時間も続けていたら、学校での嫌なこと。家にいるときの暗い気持ちなど、すっかり忘れていた。
「あたしもさ、以前……凄く嫌な気分になる時期があってね。貴方と同じようにこの辺をぶらついていたら、ここのジムの会長にひっぱりこまれちゃった!」
 そういう女の子の笑顔は、あたしがしばらく見たこともない、別世界の輝きがあった。
 それがきっかけで、いつしかあたしもジムに通うようになり、一緒に練習に励んだ。そしたら何故だろう?学校でのいじめが、それほど苦痛でなくなったんだ。
 キックを始めたお陰で「お前たちなんかいつでも叩き伏せることができる!」と思えるようになってきたからなのか? それとも、練習を続けていくことで、どんどん強くなっていく自分が楽しかったからなのか? とにかく、いじめている子たちの事なんか、眼中に無くなってきていたんだ。
「最近、笑うようになったじゃん!」女の子は、いつもと変わらぬ笑顔で、あたしにそう言ってきた。
 たしかに。鏡で見たら、その子ほどじゃないけど、キックを始める前まですっかり潜んでいたあたしの笑顔が、そこにあった。その女の子のお陰で、あたしは笑顔を取り戻せたんだ! 今でも彼女には感謝している。
 その女の子の名前は、堀口琴音(ほりぐちことね)。私立晶華女子商業高校に通う、あたしの二つ上の尊敬する女の子だ!

「本当なんですか、琴音先輩が未確認生物に食い殺されたっていうのは!?」
 あれから約一年後。高校入試を控えたあたしに、とんでもない事実が飛び込んできた!
「うん、あたしの目の前でアイスクリームにされて、ペロリと食べられちゃった……」
 そう話してくれたのは琴音先輩の親友で、ツインテールにまとめ上げた赤く染めた髪。小柄で童顔。一見、妹系と言われている咲沢彩音(さきざわあやね)さん。
 二か月近く前、琴音先輩と彩音先輩は下校中に未確認生物に襲われたらしい。辛うじて彩音先輩だけは、噂の特殊機動警官ターディグラダ・ガールに救われたとのこと。

ターディグラダ・ガール 四話02

 でも、琴音先輩はもう二度と戻ってこない。あの笑顔を見ることができない。
「暗いトンネルの中のような生活を送っていたあたしに、光を与えてくれた琴音先輩。その先輩が未確認生物に食い殺されたなんて。許せない!世の中の未確認生物を絶対に許せない!」

 そして今、あたしは『丘福市立博物館』の前にいる。
 この博物館は、なんでも女子アナウンサーが未確認生物に殺されたという、あの大生堀公園から歩いて十数分の所にある。
 半年以上前の丘福大災害で建物が半壊状態となり、今では立入禁止区域となっているこの場所。でも、ここ最近怪しい人影や大型動物のような姿が目撃されていると、ネットで話題になっている。
「ねぇ、暁ちゃん。やっぱ……止めようよ。ここ、入っちゃいけない場所だよ。」
 そんな彩音先輩の言うことを、まるで聞こえていないような仕草をしながら、あたしは博物館のエントランスに足を踏み入れた。
 内部は電気も通っていない、当然真っ暗。ガラスが砕け散ったままになっている窓や、崩れて亀裂の入った壁の隙間から、僅かな光が差し込まれている。
「ねぇ、暁ちゃん。もし……ホントにここに未確認生物がいたら、どうするの? 琴音ちゃんだって、まるで手も足も出ないでやられちゃったんだよ。いくら暁ちゃんが強いっていっても、敵わないと思うよ」
 後ろから恐る恐る付いてきている彩音先輩の不安気な言葉。
 そんなことはわかっている。でも……。でも……、例え敵わなくても、一矢は報いたい。琴音先輩に誘ってもらったこのキックボクシングで、先輩の代わりに報いてやりたい!
 一階ホールを進んでいくと、正面に二階へ上がる大階段が目に入った。
 すると、その階段の上から、ギシッ!ギシッ!と何者かが降りてくるのか?階段の軋む音が聞こえてくる。そして……
「あら……あら~っ? どなたかいらっしゃったの~ぉ?」と間延びした女性の声が。
「実はこの博物館で、未確認生物が目撃されたと聞いて来たのですが……」
「未確認……生物? ああ、あの今…世間で騒がれている『アレ』ねぇ~っ!? アレは今~っ、ちょっと出かけているけどぉ、代わりにこんなのならいるわよ♪」
 こんな場所でえらくのんびりした人だな~。てか、ここ……立ち入り禁止区域なのに、なぜこの女性(ひと)は居るんだろう? アレが出かけている!? 代わりにこんなの……!?
 次々に浮かんでくる突っ込みのどれを返せばいいんだろう? そう考えていたその時、
「きゃあああっ!」
 後ろに付いていたはずの彩音先輩の悲鳴が聞こえた。
 振り返ると彩音先輩は、人でもなく……獣でもない。何かわからないけど、人間よりも少し大きめな物体に抱きかかえられていた。
 物体はその大きな手で、彩音先輩の体を四方八方から押し固めるように握りしめていく。
 ギュッ!ギュッ!「ふぎゃ…ふぎゃ……」ギュッ!ギュッ!「ふぎゃ…ふぎゃ……」
 握りしめる音と彩音先輩の短い悲鳴の不思議なハーモニー。
 数分後、あたしの目の前には、クルクルと目を回し、綺麗な三角形の形に押しつぶされた、元…彩音先輩の『おにぎり』がそこにあった。

ターディグラダ・ガール 四話03



「西東くん、中田くん。手が空いたら、少し僕に付き合ってくれないか?」
 ここは神田川県警本部、警備部警備課未確認生物対策係、通称CCSの対策室。
 一通りの書類を書き終え、係長である和(かのう)警部補は、壁際に設置されたデスクで作業する若い男女に声を掛けた。
 その二人は約一月前にCCSに配属された、西東瀾巡査と中田素子巡査である。
「はぁ……」
 気の乗らない声でそう反応したのは、ややワイルドな雰囲気を持つ、瀾こと西東巡査。瀾は不愉快そうな表情のまま隣の席に座っている小柄な女性、中田素子巡査をチラリと睨みつけた。
「付き合うのはいいんスけど、そこの『チビお嬢様』も一緒じゃなくちゃいけねぇーんスかぁ?」
「チビお嬢様……。小学中学でよく言われたけど、改めて『元ヤン』とかいう社会のクズに言われると、怒りを通り越して呆れてくる……」
 そう毒気を吐きながら返してきたのは、スーこと中田素子巡査。
「相変わらず、日本全国の元ヤンを敵に廻す気マンマンだな。あ…!? チビお嬢様……?」
「誤解の無いように言っておく。ボクの敵は『元ヤン』だけでなく、『現役ヤンキー』も入っているから。因みに、ヤンキーとか不良とか、全部死ねばいいと思っている。」
 何故か、目が合うと一触即発なこの二人。
 和は疲れ切った表情で頭を掻きながら、「まぁ、そんなにいがみ合わずに。今後の任務において、見ておいてもらいたいものがあるだけなんだ。」と、窘めるように付け加えた。
「うぃ!係長を困らせる気はねぇース。了解ッス、すぐお供します。」
「ボクも任務が大事なんで、とりあえず従います。」
 そう言って二人は、渋々ながらも席を立ち上がった。

 和が最初に二人を連れてきたのは、署内にある拳銃保管金庫。
 日本の警察では、拳銃など銃器の使用が必要な事件、事故以外では、銃器は所持できない。一部例外として特別な任務の一部刑事や、駐在所等に勤務する警官は、勤務時間内所持ということはあるが。
 したがってCCSで勤務している者も、基本的に現場出動時以外では、銃器は保管することが義務付けられている。
 和は銃器取り出し手続きを終えると、保管庫から一丁の長い銃器を取り出した。
「豊和M1500。知ってはいると思うけど、本来……猟銃として開発された物で、その性能の良さから日本の警察では狙撃用としても使われるんだ。今回警備部長にお願いして、中田くん用に手配をしてもらった。もちろん、対未確認生物撃退用としてだ。ちなみに弾丸は.300WinMag(300ウィンチェスターマグナム)を使用する。」
 素子は和からライフル銃を受け取ると、適当に構えて感触を確かめてみる。
「銃に詳しい中田くんならわかっていると思うが、その手のライフル銃はボルトアクション式だ。だから命中精度は高いが、アサルトライフルみたいに連射はできない。したがって、仕留められなかった場合、反撃をくらう可能性がある。」
 和の説明に、素子は無言で頷く。
「対策として、遠距離からの狙撃のみで使用するか? もう一つは……。それは、後ほど話そう」
 和はそう言って説明を一旦区切ると、保管庫へM1500を収納した。そのまま保管庫の鍵を閉めるのを見て、瀾が眉をひそめて声をかける。
「アレ、係長。俺には新しい銃の支給とか……無いんッスか?」
 その問いに対し和は軽く微笑むと、「西東くんには銃ではなく、別に支給されているものがある。こっちだ!」そう言って保管庫を後にした。
 和が案内したのは、本部地下にある任務車両用駐車場。
 その一角にTG01が愛用する災害対策用白バイXT250P-Sや対策車両を停めてあるCCS専用ゾーンがある。出動の度に使用しているので、欄も素子も当然知っている。
「これが西東君に支給されたものだ!」
 和がそう言って見せたものは、交通部交通機動隊で使っていたものと同型の新型白バイ。
「おおっ!FJR1300APじゃないッスか~っ!」

ターディグラダ・ガール 四話04

 欄はそう叫びながら、まるで玩具を見つけた子どものように駆け寄り、嬉しそうにペタペタと触りまくる。
 すると「アレっ? これ……何ッスか~ぁ!?」と運転シートの後部に手を当てて問いかけた。
 通常、交通部で使用している白バイの後部は、反則切符や書類等が入れられているケースが取り付けられている。だが、この白バイの後部は二人乗り用シート。と言っても、ノーマルの二人用ではなく、背もたれも付いた本格的なタンデムシートである。
「な…何っスか、これっ!? ケツに誰か乗っけて、ツーリングでもしろ!……つぅんスかぁ~っ!?(笑)」
「ツーリング…ではないけど、キミの言うとおり二人一組で乗ってもらうことを前提としている。」
「二人乗り前提って、そんな白バイ……最近見たことも聞いたこともないッスよ!?」
「それはこの白バイが追跡や交通取締り用ではなく、未確認生物や改造生物との戦闘用に改造されたものだからだ。」
「戦闘……用?」
「そう。一人が運転をし、もう一人が後部シートから射撃をする。つまり走行攻撃を想定した、戦闘用オートバイというわけだ。」
「何ッスか? その戦車みたいな発想は……?」
「戦車よりも機動力があるぞ」
「当たり前っしょ!戦車よりトロかったら、バイクの意味無いじゃないっスか!?」
 先程までとは打って変わって、まるで苦虫を1ダースほど噛み締めたような表情の欄。
更に大きく溜息をついて……「で、その後部座席には誰が乗るんです? まさか……」と尋ねる。
「うん、中田くんに乗ってもらうつもりだ。」
 清々しいほどの笑顔で、和は明るくそう答えた。
 ―やっぱりか……―
 欄も、そして傍で話しを聞いていた素子も、ウンザリした顔で和を睨みつけた。
「先日植物園で、中央署の警官隊が敵わなかった未確認生物に、キミたち二人が協力しあって撃退している。これによってキミたち二人が協力し合えば、TG01にも負けない働きをしてくれると僕は確信したんだ。それを活かすために先程のライフルも、この白バイも部長にお願いしたんだ。」
「じゃあ、さっき係長が言っていた、ライフルを使うボクが反撃されない……もう一つの対策って!?」
「そう。これに乗ることで、攻撃して即離脱。ボクシングで言う、ヒットアンドウェイになるだろう!」
―なんで俺がこんな『チビお嬢様』の、お抱え運転手にならなきゃいけねぇーんだ?―
―なんでボクが、こんな『ヤンキー』とニケツをしなきゃいけないの……?―
 口には出さないが、そんな思いが顔から読み取れるくらい、ゲンナリした表情の二人。その二人の気持ちに気づいているのか、いないのか?
 和がトドメの一言を放った。
「これから週に二~三回は、二人の共同訓練を行う。一日も早く、『二人の息をピッタリ合わせてくれ!』」

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ターディグラダ・ガール 第四話「パーピーヤスの野望 二章」

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