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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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ターディグラダ・ガール 第六話「CCS再び……」 四章

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ターディグラダ・ガール 第六話「CCS再び……」 五章


「よし、これで送信機の回線変更ができましたわ!」
 明日香が救出され治療されている間、ミンスーはレイカから教わっていた命令送信機の回線変更を、終えたところであった。
「ハイパーオーク、じゃれ合っている場合ではありませんわ! すぐに人間の警察官を倒しなさい!」
 互いに掴み合い、噛みつき合っていた二体のオーク。どちらも大小のダメージを負ってはいるが、それすら物ともしない顔で、治療中の明日香たちに向かって駆け出した。
「和係長! オークのコントロールが敵の手に戻りました。奴等が襲ってきます!」
 パソコンを操りながら、申し訳なさそうに未希が叫ぶ。
「そうか、ありがとう……藤本くん。キミは充分よくやってくれた。西東くん、中田くん。明日香くんが回復するまで、時間稼ぎを手伝ってほしい。いけるか!?」
「舐めてるんっスか、係長!? 時間稼ぎ程度できねぇ~んなら、今…こんなところに来ていませんよ。なぁ……チビお嬢さん?」
 大型白バイFJR1300APに跨り、背後に立っている素子に視線を送りながら、欄はそう答える。すると、それに付け加えるように、
「うん、バカヤンキーの言う通り。もう二度と無様な姿は晒さない。」
 ガチャ!と拳銃の弾倉を戻しながら、欄の乗る白バイの後部座席に乗り込む素子。
 それを見た和は、
「キミ達、やっと協力し合えるようになってくれたのか!?」と、嬉しそうに問いた。
「まぁ、敵にやられて足引っ張って無様なトコ晒すくらいなら、その場だけでもお互いに手を組んだ方が……まだマシって事に話がついたんスよ。」
 そう返しながらアクセルを吹かす欄。
「じゃ、ちょっくら相手してきますんで、指示お願いしますよ!」
「うん、それじゃ……あの二体の間に、なんとか入り込んでくれ!」
「了解~っ!」
 欄はそう返答すると、勢いよく白バイを発車させる。
「中田くん。今の奴らは、本能的に弾道を予測できるようだ。だから、いくらキミでも仕留めるのは難しいと思う。まずは奴等の注意をキミ達に引き付けてくれ!」
 通信機を使って、白バイの後部座席に座っている素子にも指示を出す和。
 素子はその指示に頷くと、拳銃を両手で握りしめ、オークたちの足元を狙う。
バンッ! バンッ!!
 発射と同時に、飛び跳ねてその銃弾を避けるハイパーオークたち。
「ホントだ。ボクの目線か…構えか? それとも完全に本能的な予知なのか? どっちか判らないけど、普通に狙って撃ったら避けられそう。」
 和の言う通り、むやみやたらに発砲しても、無駄だと悟る素子。
「西東くん! 少々危険だが、少しの間……奴らの間を行き来してくれないか!?」
「了解!」
 和の指示に従い、褐色と通常の肌の二体のオークの間を行ったり来たりと、何度も反復する欄。二体のオークは、欄が操る白バイの動きを不審に思いながらも、ジワジワと間を詰めていく。
 そんなオークたちの動きを、ジッと見据える和。そして、何かに気づいたように、
「西東くん! 褐色ではない方の……普通のオークの背後を取るように、反転してくれ!!」
「了解!」
 いきなりの和の指示だが、欄は焦りもせずに、ハンドル…アクセル、ブレーキを巧みに操り猛烈なアクセルターン。一気に通常のハイパーオークの背後に着こうとする。
 当然それに気づいたオークも背後を取られないように、瞬時に身を捻って対応する!
「今だ、中田くん!! ヤツの軸足を狙え!!」
――軸足っ!?―
 激しい揺れを伴う白バイの後部座席だが、素子はその言葉を待っていたかのように両腕を伸ばし、間髪入れずに発砲をした!!
バンッ!!
 マグナムの発射音と同時に、身を捻ったオークの軸足である右太腿を撃ち抜く!!
ドシンッ!! 
 両手で撃たれた脚を押さえ、地響きを立てながら、その場で引っくり返るオーク。
「中田くん! そのままヤツの鎧の背中を撃つんだ!!」
 更に出された指示に、素子は冷静に頷くと、一発……二発とオークの鎧の背中を撃ち抜いていく。
 すると軽鎧はバチバチバチッ!と火花が飛び散り、更にボウッ!と発火し、燃え始めた。
「よくやった中田くん! そこが奴等の弱点である、強化アーマーのバッテリー部分らしい。ですね……? 瑞鳥川さん。」
「そう言う事。あの強化アーマーの基本構造は、ボンベーガールの強化服と同じだからね。背中部分に装着されているバッテリーシステムを破壊すれば、機能は停止。後は、重たく動きづらい……ただの鉄の塊となる。
 それよりも和くん。奴らは弾道を予測できたのに、どうして銃弾を命中させる事ができたんだ?」
 瑞鳥川の問い掛けに、和は戦場から目を離さず……耳だけを傾け、
「奴らがどうやって弾道を予測していたのかは不明ですが、生物である以上……運動力学の応用が使えると考えました。捻りの運動では、軸となる部分に時間的ロスが生じる。つまり身を捻っている瞬間なら、仮に弾道を予測できても、体重の掛かっている軸足は、瞬時に動かすことができない。肌色が普通のヤツを狙わせたのは、ヤツの方が動きが若干鈍かったからです。」
 と答えた。
――そんな事よりも僕の驚きは、やはり…このメンバーは、一つになればこんなにも頼もしい仲間だと、改めて認識出来たことだ!―
「たかが……人間の分際で、あまり調子に乗るんじゃありませんわ! ハイパーオーク、なんとしてもあの人間たちをぶち殺しなさい!」
 勝利を目前としていたのに、アッと言う間に形勢を逆転されたミンスー。その怒りは、「ぶち殺しなさい!」などと、日頃使わない乱暴な言葉遣いからも察することができる。
 ミンスーの命令に従うまでも無いと言わんばかりに、最後に残った褐色のオークが瀾たちへ向かっていく。
「あと一匹! いくぜ、チビお嬢!!」
 瀾はそう叫ぶと、再びアクセルを吹かし白バイを発進! 動きを読まれないように、蛇行運転で褐色のオークへ向かっていく。
 そして一気に加速し、褐色オークの脇を通り過ぎる。そして、敵の背後を取るように急反転!! その瞬間には、素子も拳銃を構えている。
 だが、褐色のオークは瀾たちの動きに合わせるように振り返りながら、そのまま大きく跳び上がった!!
「クスッ! バカなの!? 跳び避けたら、尚更動きが制限されるのに♪」
 そう呟きながら拳銃を向けた素子だが、
「ち、違う……! 跳び避けたんじゃなく……」
 そう、褐色のオークは弾道を跳び避けたのではなく、逆に、攻撃しようとしている素子たちに向かって、飛び込んでいったのだ!!
バンッ!!
 慌てて発砲する素子。しかし、素子ほどの名手でも、焦れば当然…狙いは外れてしまう。
 銃弾はオークの左腕を微かに掠ったものの、逆にオークの渾身の右拳が、瀾と素子の二人が乗る白バイに、カウンター気味に炸裂!!
バァァァン!!
 二人は、十数メートル程弾き飛ばされ、激しく大地に叩きつけられた。
 その衝撃はあまりに強かったのだろう。二人とも倒れたままピクリとも動かない。
 トドメを差そうと、そのまま走り寄る褐色のオーク!
 その時っ!!
「ガール・ライトニングキィィィィック!!」
 青白い火花を散らした飛び蹴りが、褐色オークに直撃した!!
 ボウリングの球のように、勢い良く転がっていく褐色オーク。もちろん蹴りの主は、ターディグラダ・ガールである……明日香だ!
「ありがとうございます……和係長、瑞鳥川さん。そして……皆さん! お陰様で、なんとか動けるようになりました!」
 明日香はそう言って、全員に向けて敬礼をした。
「あの水無月さんの治療薬の効き目は凄いな! まさか、こんな短時間で明日香くんが復帰できるとは……!?」
「ま、復活早々……ライトニングキックだから、これであの豚野郎もオシマイだろう♪」
 明日香の言葉に、薄ら笑いを浮かべてオークを眺める瑞鳥川。だが、そんな笑みも束の間で消える。
 口元から滴り落ちる赤い血を拭いながら、褐色オークは立ち上がったのだ。血眼になったその目は、妖気でも発しているかのように、爛々と輝いている。
「たしかにダメージは負っている。だが、元々強靭な肉体のオークが、あの強化アーマーで更に強化された分、防御力も上がっているのかも知れない……」
 立ち上がるオークを見つめながら、和はそう推測した。
――係長の言う通りだと思うけど、でも…それだけじゃない。直接戦ってみればわかる! あの褐色のオークだけは、他のオークに比べて精神力も……体力も、大きく上回っている!―
 空手という武術を鍛錬している明日香。そのため種族は違っても、相まみえる事で相手の潜在的強さを見抜くことができるのであろう。
 褐色オークも、もっとも楽しみにしていたウィンナーソーセージが、再び自分に牙を向いてきたのだ。なんとしても、もう一度ウィンナーにして茹で上げて、喰ってやろうと意気込んでいるのであろう。なぜなら、相当ダメージを負っているはずなのに、その鼻息は今までとは比でないからだ。
「瑞鳥川さん。私の行動時間は、あと…どれ位持ちますか?」
「う~ん……、かなり戦っているし、一度はウィンナーにされてシステムも結構損傷しているからね。持ってあと2~3分……。ライトニングキックも、あと一発撃てればいい方だね。」
 瑞鳥川のその返答に、明日香は気を引き締めてオークを睨みつける。
――あと…2~3分。ライトニングキックも、あと一発のみ……。なにか、他に手は……!?。―
「じゃあ! 俺……、手を貸すぜ!」
 そう言って声を掛けてきたのは、つい今しがたまで気絶していた瀾。
「手を貸すって、何をするんだ西東くん?」
 明日香ではなく、代わりに返答したのは…和であった。
「橘巡査って、前回……FJR1300AP(白バイ)の加速力を使って技を決めたんッスよね? 俺が運転すりゃ、もっと速くなり威力も倍増スよ!」
「そ、それはそうだが……。だが、相手は銃弾の弾道すらも予測できるヤツだ。さっきは不意打ちだったから決められたが、正面から向かえば…それでも避けられる可能性がある。」
「だったら、ボクが援護する!」
 そう言って和に返したのは、瀾同様……今しがたまで気を失っていた素子。その手には狙撃用ライフル銃が握られている。
「バイクに乗らずに撃つなら、このM1500(ライフル)が使える。これならM686(拳銃)よりも弾速が速くて正確だ。」
 和は、瀾と素子。二人の自信溢れる言葉に、「わかった!」そう言って頷くと、こう付け加えた。
「キミ達が一つになれば、絶対に敵を倒せるはずだ! ここはキミ達に全て任せる!」
 瀾は早速白バイのエンジンを掛け直すと、
「そんじゃ~ぁ……橘巡査、後ろに乗ってくれ。俺ぁ…速ぇ~から、振り落とされないでくれよ!」
「うん、期待している!」
 明日香を乗せると、瀾は二回三回とアクセルを吹かし、土埃を上げながら反転すると、褐色オークとは逆方向へ凄まじいスピードで走り出した。
 そして数百メートル程行き距離を空けると、再び反転。褐色オークを目指してガチャガチャとギアを切り替え、どんどん加速していった!
 そんな瀾たちを待ち構える褐色オーク。つま先立ちで腰を落として重心を下げ、どちらにでも動けるように身構える。
……キュンッ!!
 そこへ拳銃よりも遥かに速い、ライフル独特の風切音が耳をかすめる。撃ったのは、もちろん素子だ!
 だが、驚くべきは褐色オーク。明日香が感じた通り、このオークは並のオークたちよりも遥かに潜在能力が高いのであろう。
 銃声が鳴るか鳴らないかの刹那の瞬間。咄嗟に身を伏せ、弾道を避けたのだ!
 まさしくそれは、理屈ではない……、正真正銘の強者の本能。
 しかし、その身を伏せたのが不味かった!
 次に襲いかかる攻撃に対して、反応が遅れてしまったのだ!
 それは、猛スピードで突っ走ってくる白バイ。それが急激にブレーキを掛ければ、後部座席で構えていた明日香はどうなるだろう? 
 走っているバスや電車内で急ブレーキを掛けられ、前のめりに倒れそうになった経験は無いだろうか?
 それは慣性の法則。本体が止まろうとしても、それに乗っている物は、それまでの速度で進もうとする性質。
 瀾は、200km近い速度で走っていた。そこへ急ブレーキ。
 それは、まるで中世の投石武器の発射台のように、後輪が一気に跳ね上がるほどのもの。
 そこに乗っていた明日香は、慣性の法則で前方へ弾き飛んで行く。
 その速度による運動エネルギーをプラスして、青白い火花を放つ…必殺の飛び蹴り!
「ガール・アクセルライトニング……キィィィィック!!」

TG-06_15.jpg

 素子の援護射撃から身を伏せていた褐色オーク。必死に立ち上がって避けようとしたが、流石に間に合わず自慢の強靭な胸に、その一撃をマトモに喰らってしまった!!
 全身から放電しているかのように青白い火花を散らしながら、数十メートルほど弾け飛ぶ褐色オーク。
 大地に叩きつけられたときには、白目を剥き出し、蟹のように泡を吹き、ピクピクと全身を痙攣させ、一目で意識が飛んでいることが解るほどだった。
「う、嘘でしょ……!? アタクシが率いた部隊が……全滅だなんて……!?」
 褐色オークが沈黙したと知ると、ただでさえ青い顔のミンスーは更に蒼白となり、
「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」
 と、悲鳴を上げながら猛ダッシュで逃げていった。
「こらっ…待ちやがれっ!!」
 逃げ去ろうとしているミンスーを追いかけようとする欄。しかし、
「西東くん。奴は後だ! それより倒れている警官たちや、一般市民の救出が先だ!」
 そう言って和は、欄の前に立ち塞がり彼を制す!
 すると、それを待っていたかのように、数台の救急車が雪崩れ込むように次々に駆け付けてきた。
「救急車……? いつの間に……!?」
 あまりのタイミングの良さに、驚く面々。
 すると、一人黙々とパソコンを操作していた未希が、
「わたしが手配しました。もっとも、各消防署の緊急連絡網に直接入り込みましたが…」
 と、涼やかな顔で答える。
「本来なら叱るところだけど、今回だけは良しとするよ。さすがだ!」
 和は苦笑しながら、そう返した。
 オークたちと戦って倒れた警官たちは、市内各地の緊急病院へ。ウィンナーソーセージにされた女性たちは、水無月診療所へ運ばれることとなった。
 「みんな、よくやってくれた!」
 全ての救急車が立ち去った後、和は全員の顔を見渡しながら言い始めた。
「僕は今日、改めて確信したよ。このメンバーが協力し合えば、どんな未確認生物や改造生物が相手でも、そして…あらゆる緊急事態に陥っても、必ず人々を守る事ができる…と。」
 そういう和の言葉に、瑞鳥川も明日香も、そして未希や欄、素子も。誰もが嬉しそうに微笑んだ。
「僕は、そんなキミたちと一緒に働けて、本当に嬉しく思っている!」
「係長、私もCCSに配属されて、嬉しく思っています!」
「わたしもです。ただ……ネットに関しては、もう少し融通を効かせてくれると、もっと嬉しいですが。」
「係長! 県警トップクラスの俺の腕、これからも期待してくれていいぜ!」
「バカヤンキーの戯言はさて置き、ボクこそこの射撃で、誰よりも力になるよ。」
「橘ちゃん!一度でいいから…あたしと寝てくれぇ~っ!!」
 約一名、煩悩が先走っている勘違い野郎がいるが、始めてCCSが本当の意味で一つになった! 
 和はそう、喜びを感じていた。


「参りましたわ……。マスターから、『全滅しただけでは飽き足らずぅ~っ、手ぶらで帰ろうとするなんてぇ、ミンスーって度胸あるわねぇ~っ♪』なんて脅されましたわ。」
 そう…独り言を呟くミンスー。
 一度は一目散に逃げ出した彼女だが、途中…マスターであるレイカに報告を入れたところ、そのような言葉が返ってきたらしい。
「とりあえず、一人だけでも始末しておけば、なんとかお咎めを受けずに済むかもしれませんね。」
 ミンスーはそう言って公園の茂みに隠れながら、ジワジワとCCSメンバーに近づいていく。
 丁度彼らは、勝利の余韻に浸って和気あいあいとしており、油断している。狙うなら今だ!
 茂みの中から、ミンスーは真っすぐ腕を伸ばす。その指先の先にあるのは、CCSリーダーである…和だ。
シュッ!!
 まるで、矢が放たれたような風切り音が微かに鳴ると、ミンスーの人差し指が和目掛けて一気に襲い掛かる。
 その鋭い鏃のような爪先が、和の後頭部に突き刺さる寸前……!!

ダダダダダッ!!

 それはまさしく…機関銃の銃撃音。
 それが鳴り響くと同時に「ギャアァツ!」という、ミンスーの悲鳴もこだました。
 何事かと背後を振り返る和。彼の目に入ったのは、青い血に塗れた人差し指を、痛々しく握りしめているミンスーの姿であった。
「あ、あれは……先程のパーピーヤスの幹部? しかし、何があったんだ!?」
 そう言って驚く和とCCSメンバー。
 そのミンスー当人は、そんな和たちの斜め後ろの方向を睨みつけている。
「だ、誰ですの……? アタクシの邪魔をしたのは!? 名乗りなさい!!」
 和たちが、そう叫ぶミンスーの視線を追っていくと、そこには文字通り…一つの黒い人影が!
「………………。」
 ミンスーの問い掛けにも全く無言の人影は、黒いロングコート姿で、頭にはコートのフードをスッポリと覆わせており、顔は一切見えない。だが、赤い瞳らしきものがギラギラと輝いているのだけは、何となくわかる。
「あ、あれは……!?」
 更に和たちを驚かせる出来事が、もう一つあった。
 それは、そのコートの人物が真っ直ぐミンスーに向けている…左腕!
 コートの袖を肘上まで捲り上げた…その左腕は……!
「左腕が、銃になっている……!?」
 そう、その人物の肘から下の左腕は、回転式多銃身機関銃…通称ガトリングガン(銃)と呼ばれる形状によく似ていた。

TG-06_16.jpg

「名乗るつもりはないようですね。でも……アタクシの知る限りでは、左腕が銃になる者は、ただ一人! この借りは、いずれ返させて頂きますわ!!」
 ミンスーは鬼のような形相でその人物を睨み続けていたが、そう叫び終えると、辺りの景色に溶け込むように、その姿を消し去っていった。
 それを確認すると、黒いコートの人物はもう用は無いと言わんばかりに、腕をゆっくりと降ろした。
 すると、瞬く間にその機関銃の腕が、人間の腕へと変化する。
「人間の腕になったり……銃になったり。しかも、その肌の色は…!?」
 驚愕する和を更にダメ押ししたのは、その人物の左腕の肌の色。日本人ではあまり見かけない、黒っぽい…? または褐色? そんな肌の色であった。
「黒い肌で、左腕が銃などの武器に変化する人物。僕にも心当たりはあるぞ!」
 和は、鋭い目つきでコートの人物にそう告げるが、その者はそれを無視して踵を返した。
「ま、待てっ!!」
 和が追いかけようとすると、コートの人物は木陰に隠しておいた、大型の自動二輪車に跨った。そして素早くエンジンを掛けると、何事もなかったかのように、その場を走り去っていった。
「係長。あの人物は係長を助けたのでしょうか? でも、あれは…多分?」
 明日香は、そう和へ問い掛ける。
「うん、おそらく助けられたのかも知れない。でも……僕たちが知る『あの女』であったのならば、彼女も敵であるはずだ!」
 喜びも束の間。和たちには、更なる謎が深まり始めていた。



  続く




| ターディグラダ・ガール | 13:51 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ターディグラダ・ガール 第三話「丘福に集まった6つの星 二.一章」

 こんにちわ。
 哲学する蝕欲 るりょうりに です!

 今回はタイトル通り、『ターディグラダ・ガール』の第三話、二.一章です。
 どういうことかと言うと、後で読み返していただくとわかると思うのですが、この第三話の二章で、西東欄と中田素子の二人を迎え入れた…新生CCSのシーン。 
 そこへ彼らの第一戦目である、樫井方面からの応援要請が入ったのですが、物語はそこから一転して、スイミングスクールでのカツチとグーラの初対面となり、その後……樫井での”戦いを終えた”CCSの面々への話へ戻るわけです。

 そうです。
 樫井での戦闘を、スッポリとカットされているわけです。

 実は当時、その戦闘シーンも書いていたのですが、あまりに話が長くなったので、問題無い程度に省かせていただいたというわけです。

 ですが、次回公開予定の第六話。
 これを読むにあたって、直接関係するわけでは無いのですが、知らないよりは知っていた方がイメージが付きやすいかな?と思い、今回そのカットされた戦闘シーンをこの場で公開させていただくことにしました。

 あくまで純粋な戦闘シーンのみなので、状態変化はありません!

 また前述の通り、直接物語に関係するわけでも無いので、読まなくても…これといった問題はありません。
 ただ六話での会話の中で、「ああ、この時の戦闘のことかな?」とイメージが付いてくれれば、より感情移入がしやすいかもしれない。というだけのことです。

 というわけで、とりあえず公開させていただきます。

 ちなみに、三話二章の……

「東区樫井方面に、オーク型らしき未確認生物が複数出没。住民を襲い、現在東署職員が応戦中! TG01出動! 藤本くんはここに待機。西東くんはTG01と同じようにXP250Pで出動。中田くんは僕らと一緒に対策車両で現場へ向かう!」

 から……

「一体、何を考えているんだ……! キミたちは!?」
 応援を受けた戦闘を終え、無事に帰還したCCSの面々。

 の間の話です。

===============================
 一方こちらは、東区樫井にある大型ショッピングモール前。
「ガール・ライトニング・キィィィック!!」
 建物の壁面を利用して空高く跳び上がる。そして、そこから急降下による運動エネルギーと、電撃を加えた一撃必殺の蹴り技。
 喰らったオークは十数メートル吹き飛ぶと、そのまま泡を吹いて意識を失った。
「スゲェ! アレが噂の、ターディグラダ・ガール……最強の必殺技か!!?」
 瀾はそう言いながら、ターディグラダ・ガールこと明日香の動きを見入っていた。
「西東くん!のんびり見ている暇はないぞ。オークは他にも三体いる。キミはそのXT250Pを使って、中田くんの有効射撃距離まで誘き出すんだ!」
 和の指示が、通信機からガンガン響き渡る。
「へぃ…、へぃ……!」
 瀾は、そう適当に相槌を打つと、オフロード型白バイ……XT250Pのエンジンを吹かした。
 甲高いエンジン音を鳴らしながらオークに近寄ると、拳銃を構えた。
 彼の持つ拳銃は、最近警察で普及され始めたS&W・M360J SAKURA。一昔前の日本警察が使用していた、ニューナンブM60と同じ38口径の拳銃である。使用弾丸は .38スペシャル弾。反動が少なく、最も扱いやすい銃弾と言われているが、その分……威力は抑えられている。
 一発二発とオークの土手っ腹に命中するものの、分厚い脂肪に覆われた皮膚では、致命傷を与えることはできない。
 銃弾を受け血相を変えたオークは、棍棒を振り上げ一心不乱に瀾に向かってくる。だが、それが本来の狙い。
 白煙を上げながらアクセルターン……つまり反転すると、オークがそのまま追いついて来れる程度の速度で引き返す。
 そして、その先には拳銃を構えた素子が待ち受けているという寸法だ。
 素子の持つ拳銃は、S&W・M686という瀾の持つM360J SAKURAと同じ38口径。  
 だが、こちらは.357マグナム弾という、より破壊力の高い銃弾を撃つことができる。
 日本でも上位企業に仲間入りしている中田貴金属グループ、会長の孫。
 そんな素子は、幼いころから一年の三分の一は海外で生活しており、身を守るために射撃の練習もさせてもらっていた。そういった経緯があるからこそ、こんな少女のような風貌なのに、実弾射撃上級なんてものを一発で通ってしまうのだ。
「よしっ、西東くん!そこで離脱し、中田くんにトドメを刺させるんだ!」
 対策車両から和がそう指示を与える。それを聞くと瀾は更にアクセルを吹かし、バイクを加速させた。一気に追ってくるオークとの距離が広がる。
 ところが……。
「冗談じゃ、ねぇーぜ!」
 何を思ったのか瀾は、百数十メートル程離れた先で再びアクセルターンをすると、オークに向かって猛スピードで突進してきた。そして歩道の縁石の区切り目を利用して、そのまま高々とジャンプ。XT250P(バイク)ごと激しい勢いで圧し掛かるようにオークにぶち当たった!!
ブギャァァァァァッ!! 
 まさしく獣の雄叫びのような悲鳴をあげ、XT250Pに押し潰され倒れたオーク。
「フンッ! 銃が得意でなくても、てめぇ等みたいな豚野郎を倒す手は、いくらでもあんだよ!」
 瀾は倒れ伏せているオークを見下ろしながら、意気揚々と語った。
「西東くん、油断するな! 相手はまだ沈黙していないぞ!!」
 和から、そう警告めいた通信が入ると同時に、倒れていたはずのオークが再び起き上がる。そして瀾が乗っているXT250Pを掴むと、そのまま高々と持ち上げた!
 必死にXTにしがみつく瀾ごと二回……三回と振り回し勢いをつけ、まるで砲丸投げのように放り投げた。
 激しく道路に叩きつけられるXTと瀾。そんな瀾に向かって、蒸気が吹き荒れるヤカンのような顔をしたオークが、ノシ…ノシ…と歩み寄ってくる。
「こっちだって……簡単にやられるかよ!」
 そう呟きながら立ち上がろうとした瀾。しかし……
ズキッ!! 
 鋭い痛みが足首に響き渡り、「痛ぇぇぇぇぇっ!」瀾は再び道路に倒れ伏せてしまった。苦しみながら足首に目をやると、そこは真っ赤に腫れ上がっている。
「チッ!今ので挫いたか? マジかよ……」
 その言葉が通信機を通して和の耳に入る。
「やばい……! 今、中田くんは……!?」
 和はドローンを操作し、素子の状況を確認する。
 素子は丁度、駐車してある車に身を潜めながら、もう一体のオークを相手にしていた。
「中田くん、西東くんが足を負傷した。先に西東くんを援護してくれ!」
 和からの通信を受取り、チラリと瀾の方に視線を移した素子。
 しかし、「自業自得……」そう呟くと、我……関知せずといわんばかりに、もう一体のオークに銃を向けた。
 射撃の基本は一撃で敵を倒そうとするのではなく、まず一撃目で敵の動きを止め、二撃目で仕留める。
 それを忠実に守る素子。一発目の銃弾は、棍棒を振りかぶる右腕に命中。さすがはマグナム弾! 右腕は棍棒を握ったまま、胴体から吹き飛んだ!!
「余裕だね……」
 素子はトドメを刺さんとばかりに、今度は頭部を狙って銃を構えた。
 だが、そこに油断があった。トドメを刺すことばかりに集中し、潜めていた姿を丸出しにしてしまったのだ。
 自分を傷つけた敵の位置を把握したオーク。右腕は失いはしたものの、むしろ手負いの野生怪物と化し、一足飛びで素子に駆け寄る。
 それは、今まで射撃場の的しか射ってこなかった素子にとって、まるで予想もつかないほどの動きと速さ。ほんの一瞬で、目と鼻の先まで、敵の接近を許してしまった。
 野球のグラブのような大きな左手を高々と振り上げるオーク。
「ひぃ……っ!」
 意識的に避けたのか? それとも恐怖で腰を抜かしたのか? どちらにしろ、運良くオークの一撃をかわした素子。その一撃は素子の脇にあった乗用車を、一瞬でペチャンコにした。
 一撃目は外したものの、その怒りの篭った瞳は獲物を逃がさない。オークは再び素子の頭を粉砕しようと、その左手を振り下ろした。

ガシッッッ!!
  
 すぐ目の前で、何かが交錯した。一つはオークの大きな手。もう一つは、白く細い棒のようなもの。いや、それは棒では無く……腕だ! ターディグラダ・ガールの白い左腕。
 そう……間一髪、明日香のガードが素子を救ったのだ。先ほどまで他のオークを相手にしていた明日香。それを撃退したときに目に入ったのが、素子の危機。無我夢中で駆け寄り……差し出した腕が、素子を襲う一撃を食い止めたのだ。
「怪我はありませんか、中田巡査?」
 ヘルメット越しに放たれる明日香の優しい声。
「う…うん……」
「よかった!」
 明日香はそう言うと左腕を払い、オークを弾き返す。そして、間髪入れずに左右のパンチによる連打攻撃。割と防御力の高いオークもさすがに堪えられず、その場で仰向けにひっくり返った。
 そこへ、
「明日香くん、聞こえるか!?」
 和より通信が入る。
「明日香くん、大至急……西東くんを援護してくれ!大至急だ!」
 和の言葉に振り返ると、そこでは瀾が負傷した足を引き摺りながら、必死で拳銃を乱射していた。
「中田巡査。あなたの銃を貸してくれませんか?」
 そう言って明日香は手を出した。
「いいけど、これ……いちお、マグナムだから……」
「わかっています」
 明日香は素子から拳銃M686を受け取ると、右手一本で構える。
 パンッ!!
 やや重い発射音が鳴り、更に……パンッ!! パンッ!!と三連射! 
 さすがのマグナム三連発!三発とも丸々太った胴体に命中し、オークは数メートルほど吹っ飛ぶと、そのまま沈黙した。
「うそ……でしょ……? マグナム弾を片手で連射だなんて……」
 目を皿のように丸くし、呆然とする素子。
「私……、強化服のお陰で通常の10倍の腕力があるんです。だからマグナムと言っても、反動は無いようなもの。でも、命中率は中田巡査の足元にも及ばないと思います」
 その後、まだ息のあるオークはそのまま捕獲し連行され、応戦していた東署職員たちは、全員無事に帰還した。

================================

 というわけで、ここまでです。

 現在第六話は執筆中で、今のペースでいくと、9月末くらいの公開になりそうです。

 では、また近況報告等で報告いたしますね! (^.^)ノシ


 

| ターディグラダ・ガール | 18:35 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

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ターディグラダ・ガール 第五話「誰も見ることのできなかった戦い」 序章

「す……凄い……!!」
 ここ丘福中央公園で、青い髪の女子高生くらいと思われる年頃の少女が、一つの激しい戦いを見守るように見つめていた。
 その戦いというのは、二人の人物による一対一の戦い。
 一人は、紋章が組み込まれている円周の大きいベレー帽、紫色の衣に身を包んだ、銀髪の女性。
「ダーク……」
 女性は、重く呟くような声で両手を掲げると、その間にはまるで橋が架かったように黒い稲光が流れ渡る。
 もう片方は小柄な少年……。いや……!? 短い髪に凛々しい顔立ち。たしかにボーイッシュではあるが、よく見ると身体の線も細く、ミニスカートを履いており、どうやら十代半ばくらいの『少女』のようである。
「サンダー……」
 凛とした高めの声で右手の人差し指をゆっくり上げていくと、それを追うように黄金色の火花が、蛍の淡い光線のように後をついて行く。

ターディグラダ・ガール 第五話01

「ライジング!!」
「ブレイク!!」
 そして、二人が同時に腕を振り下ろすと、その腕や指先から激しい稲光と共に雷撃が放たれた。

 ガガガガガガガガガガッッ!!

 中央で、黒い雷と黄金色の雷がぶつかり合い、目を覆うような閃光と激しい雷鳴が辺り響かせる。
 いや、一見互角に見える競り合いも、徐々に……徐々に、黒い雷が押しはじめ、黄金色の雷は打ち消されるように押し戻されていく。
 そして、押し戻されながら混ざりあった二つの雷は、ボーイッシュな少女を目掛けて、まるで飢えた獣のように襲いかかり、激しい爆炎となった。その衝撃に少女の身体は、十数メートル程吹き飛ばされる。
「ミ……ミオちゃん!?」
 見守っていた青い髪の少女は、あわてて『ミオ』と呼んだ少女に駆け寄りながら、
「すぐに、治癒魔法を掛けるからーっ!」と両手を掲げる。
 それを目にした銀髪の女性、
「邪魔をするな!!」
 その青髪の少女の足元を目掛けて、黒い雷を放った。
ガガガガッッ!!
 少女の足元で、まるで火山が噴火でもしたかと思わせるような、激しい土埃が舞い上がる。
「きゃあああ~っ!!」
 腰を抜かして、その場にしゃがみ込んでしまった少女の目と鼻の先は、抉り取られたような、直径10メートルほどの大きな穴が開いていた。
「次に余計な動きをすれば、今度はお前自身を狙い撃つ! よいな?」
 銀髪の女性は改めて青髪の少女に狙いを定めると、そう警告を与える。
 すると、
「セイナさん、ボクは…大丈夫。でも危険だから、もう少し離れていたほうがいいよ……」
 吹き飛ばされたミオという名の少女は、そう言いながら土埃で真っ黒になった顔を手の甲で拭うと、ニッコリ笑って立ち上がった。そして銀髪の女性をキッ!と睨みつけると、再び歩み寄っていった。
「さすがは……我が妹弟子ウィンディ―の娘、ミオ。その目……その振る舞い。そして諦めない闘志。母親に、よく似ておるわ!」
 銀髪の女性……『ラビス・インダーク』は、そんなミオを見つめながらそう微笑んだ。


 
 その頃、同じ中央公園内……少し離れた場所では、もう一つ別の戦いが行われていた。
 それは、片や…赤褐色の肌に緑色の髪。黄金色の瞳に尖った耳のボディコン女性。

ターディグラダ・ガール 第五話02

 もう片方は、歳の頃合い10歳にも満たなそうな金髪縦ロールの少女を中心に、四人の異形な姿をした女性たちが並んでいる。

ターディグラダ・ガール 第五話03

 更に、そのあまりにも異様な光景に、多くの人々がその周りを取り囲むように集まりだした。
「シグーネ! 貴女は、ワタシに勝てませーん!」
 そんな四人の異形な女性のうちの一人、全身がゴムか……もしくは粘土のように伸びたり縮んだりする不思議な能力を持った女性。名はネリケシオンナ。
 彼女は、シグーネと言う名の赤褐色のボディコン女性にそう告げると、勢いよく飛び出し、彼女の身体を抱きしめるような形で包み込んだ。
「前回のように、貴女の魔力を吸い尽くして、消しゴムにしてあげまーす!」
「それは無理だね!」
 シグーネと呼ばれる女性は、不敵な笑みを浮かべながら、
「今日はあの時のような様子見ではないからね。悪いけど、少しだけ本気になって勝ちにいくわ! ちなみに今のアタシは、前回の100倍以上の魔力になっている。とてもアンタには吸い尽くせないよ!」と、言い放った。
 するとネリケシオンナの背中から、プスプスと白煙が立ち昇り始める。
「ひ……ひぇぇぇぇぇつ!!」
 同時に、耳を劈(つんざ)くような金切り声と、更に彼女の背中から激しい炎が立ち上がった。
「それともう一つ。アタシは四大元素魔法のすべてを使いこなすことができる。ホントはあの時だって、こうやってアンタの身体を炎上させることも可能だったんだけどね!」
 シグーネは、炎を纏いながら慌てふためくネリケシオンナを眺めながらクスクスと笑みを浮かべた。
「プ……プウーペ様ぁ~っ、たすけて~~ぇ!!」
 背中の炎を消すため? それとも激しい熱さのため? 無論、その両方のため!? ネリケシオンナは地べたに横たわり、右へ左へと必死に転げ回る。
「み、みんな! ネリケシオンナの火を消してあげるのデス!」
 プウーペという名の金髪縦ロールの少女は、そう叫びながら自身が身に纏っているドレスを脱ぎ、ネリケシオンナの身体に被せて火を消そうとする。
 他の三人も布切れなどを覆い被せたり、一人はバケツを持って水を汲みに行ったりして、やっとのことでネリケシオンナの炎を消してやることができた。
「もう大丈夫ですヨ……。アジトへ戻ったら、身体を修復してあげますネ!」
 プウーペはそう言って、ガタガタと震えているネリケシオンナの身体を、静かに抱きしめてやった。
「ハーイ、次の相手はどいつ?」
 そんなことはお構いなしと言わんばかりに、シグーネはプウーペ達を相手に手招きをする。
「次はアタイが相手だ!」
 そう叫んで前に出たのは、ハッピにニッカズボン、ねじり鉢巻き。ガテン系女子……セメントオンナである。
 両手に持った『コテ』を振り回すと、灰色の土塊のようなものが飛んでいく。それは、セメントオンナが使う特製セメント。
 それを軽くかわすシグーネ。目標を外したセメントは、周りで取り囲むように集まっていた、数人の一般女性に当たった。
「なにこれ!? 汚ぁ~い!」
 女性たちは、身体や衣類についたセメントを払い落とそうとする。だが、そのセメントは二つ……三つと分裂、まるでアメーバ―のように増殖し、女性たちの全身を覆いつくしていく。
「い、いやぁぁぁっ!!」
 女性たちの悲鳴が鳴り響く。
 やがてセメントに覆いつくされた女性たちは、誰もが石像のような姿になり固まっていた。

ターディグラダ・ガール 第五話04

「アタシのセメントは一握りでも身体についたら、アッという間に全身を覆いつくし、ソイツを石化させてしまうのさ!!」
 そう言ってセメントオンナはこれ以上に無い満面の笑みを浮かべた。
「ふ~ん、あれで石化……ねぇ?」
 シグーネは冷ややかな眼差しで、石像となった女性を見つめ鼻で笑う。
「ちっ!そのバカにした態度。いつまで続けられるかな!?」
 セメントオンナはそう叫びながら、シグーネ目掛けて次々にセメントを放り投げる。
 だが、ヒョイ!ヒョイ!と嘲笑うように避けまくるシグーネ。もっとも、シグーネが避ければ避けた分、一般人の石像が増え続けてはいったが。
「く、くそぉ~っ! 当たりさえすれば、当たりさえすれば……貴様なんか石化できるのに!!」
 悔しそうに、歯ぎしりをしているセメントオンナ。
「へぇ、当たったらアタシに勝てるつもり? じゃあ、アタシ……動かないから、当ててごらんよ!」
 シグーネはそう言うと、腕組をしたまま…その状態でピタリと動きを止めた。
 それを見たセメントオンナ。
「バカなヤツめ!」と動かないシグーネ目掛けて、セメントを投げ放つ。
 ビシャッ!!
 約束通り動かなかったシグーネに、一握りのセメントが貼りつく。それは先程までと同じように、幾つにも分裂……増殖し、アッという間にシグーネの全身を覆いつくした。
 そしてついに、見事なまでのプロポーションを保ったまま、シグーネの石像が出来上がった。
「ハハハッ! ものの見事に石化しやがった! アタシのセメントを舐めた報いだ!」
 そう高笑いしながら勝ち誇るセメントオンナ。
「やれやれ……。だから、こんなものは石化とは言わないの!」
 ピタリと固まっているシグーネの石像から、そんな声が聞こえた。すると、その石像のアチラコチラに、ビシッ!ビシッ!ビシッ!と亀裂が入る。
 その亀裂は満遍なく石像に入り、やがて……ゆで卵の殻が剥がれ落ちるように、表面の石がポロポロと崩れ落ちていった。
 その中から、まったく無傷のシグーネが現れると、
「ネッ! こんなの……ただ表面をコーティングしているだけで、石化とは言わないのよ」と、嘲笑った。
 そして右手を伸ばし、セメントオンナに照準を合わせる。
「土属性の術を愛する好(よしみ)で、本当の石化を味あわせてあげるわ。デビルズ……アイ!!!」
 シグーネの黄金色の瞳が、眩いくらいに光り輝く。
 すると、セメントオンナの足が石のようにガチガチに固まっていた。いや、それは足だけでは留まらない。徐々に膝……腰、胸……そして頭部へと身体が石へと変わっていったのだ。
 それは10秒程度の短い時間。だが、たったそれだけの時間で、そこには表面だけではなく、身体の芯から石となった、セメントオンナの姿が残った。

ターディグラダ・ガール 第五話05


「クククッ! これで二人目。さて、お次は誰かしら……」
 石像と化したセメントオンナを見下しながら、意気揚々とするシグーネ。だが、次の瞬間!
「な…!?」
 シグーネの身体が一瞬、宙を浮く。
 なんと、異形の四人のうちの一人が、シグーネを背後から抱きかかえているのだ。そして、素早く手に持った角柱型の木枠に、その身体を押し込める。
「く…苦しい……、たすけ……」
 狭い枠の中で苦しむシグーネを、更に押し込めるように突き出し棒を差し込んだ。
 彼女の名は、テンツキオンナ。
 角柱型の兜をかぶり、軽鎧に身を固めた出で立ち。彼女は、人間を天突きと呼ばれる道具に押し込め、ところてんのように突き出す能力を持っている。
 今テンツキオンナは、天突きに押し込んだシグーネを、ところてんにしてしまうつもりなのだ!
 ギュッ!ギュッ!と突き出し棒を押し込んでいくと、天突きの先から、赤褐色の細い糸状(麺状)に切り別れたところてん……いや、ところてん化したシグーネが押し出されていく。
「ああ~っ、素敵! 美味しそうなところてんが出来上がったわ♪」
 地べたに置かれた大皿の上には、赤褐色のところてんがこんもりと盛り上がっている。

ターディグラダ・ガール 第五話06

 テンツキオンナは嬉しそうにそのうちの一本を摘み上げると、三杯酢に軽く浸し、そのままツルツルと頬張った。
「はぁ~っ!美味しい♪ 見た目と違って、澄んだ爽やかな味わいだわ!」
 テンツキオンナはそう言って、もう一本摘み上げる。すると……
「そんなに美味いの? アタシも一本頂いていいかしら?」
 背後から羨ましそうな声が掛けられる。
「どうぞ!どうぞ!頂いてください。とっても美味しいですよ~♪」
 テンツキオンナは振り返りもせず、そう言ってもう一本を頬張る。
 声の主も大皿から一本手に取り、三杯酢を浸して口の中に入れる。
「なるほど、たしかにこれは美味しいわぁ! 今度、ミオでも試してみたいわ~!」
「ええ、ぜひ……そうなさってください。……って、ミオ……!?」
 声の主は、てっきりプウ―ペか、もう一人の仲間だと思いこんでいたが、彼女たちがそんな事を言うはずがない! 慌てて振り返るとそこには……
「もう一本もらうよ!」
 ところてんとなったはずのシグーネが、美味しそうにところてんを頬張っている。
「な、な、な、な、な……なぜ、貴女が……? ところてんにした……はず!?」
 テンツキオンナがどれだけ驚いたか? それはろれつの回らない彼女の言葉で察しがつくだろう。
 そんなテンツキオンナを嘲笑うようにシグーネは、
「戦闘中のアタシは、常に防御用の幻惑魔法を掛けているからね。アンタはまんまとソレに掛かったわけ! ちなみにアンタが不意打ちでところてんにしたのは、周りにいた群衆の内の一人の女の子。見た感じ……JKかJCって感じだったら、だからこんだけ爽やかな味なんだろうね!」と、他人事にように語る。

ターディグラダ・ガール 第五話07a

ターディグラダ・ガール 第五話07b

 当のテンツキオンナは、そんなシグーネの言葉がまるで耳に入っていない。どうやら相当ショックだったのだろう。シグーネと目を合わせられず、ガタガタと震えている。
「おやおや、さっきまでの威勢はどこへ行ったんだい!?」
 シグーネは鼻で笑うと、震えたまま身動き一つしないテンツキオンナの四角い兜を掴み、それをゆっくりと取り外した。
「へぇ~♪」思わずシグーネの口元が緩む。いや、シグーネでなくとも誰もが頬を緩ませるだろう。
 そこにいるのは、淡い栗色でサラリとしたセミロングヘア。ややタレ目で泣き黒子(ほくろ)がよく似合う、とても愛らしい若い女性の素顔であった。

ターディグラダ・ガール 第五話08

「なかなか可愛いじゃないの~!ちょっと味見したくなったわねー♪」
 シグーネはポツリとそう呟くと、テンツキオンナの鎧を外し、彼女の武器である天突きに、なんと……彼女自身を押し込んだのだ!
 そのまま、ギュッ!ギュッ!と突き出し棒で押し込んでいく。
 ニュルルルル~ッ!
 新しい大皿には、鮮やかな肌色のところてんが、こんもりと盛り付けられている。
「どれどれ……?」
 そのうちの一本を摘み上げ、三杯酢に浸して口へ運ぶ。
「ホォ~ッ!? 淡泊だけど、ほのかな甘味が口へ広がる。結構美味しいじゃないの~♪」
 シグーネはそう言って、さっきまでテンツキオンナだったところてんを、次から次へと口へ運んだ。

ターディグラダ・ガール 第五話09

「ああああああっ!? テンツキオンナーっ!!」
 それを見ていたプウ―ペは、顔面真っ青!
「カ…カタワクオンナ、早く……あの魔族を倒してくだサイ!」
 カタワクオンナと呼ぶ最後の一人に、そう指示を出した。
 ところが、そのカタワクオンナは、
「いやいやいやいや……。ウチじゃ……無理ですわー! ウチ、アイツとは二度戦って、二度とも負けてますねん!」
 そう叫びながら必死で拒絶する。
「だ、だけど……このままじゃ、テンツキオンナが喰いつくされてしまいマス!」
「せ、せやな……」
 一旦はしょんぼりと項垂れたが、気持ちを切り替えたように面を上げ……キッ!とシグーネを睨みつけると、「たしかに放ってはおけまへんな……」拳を振り上げ向かっていった。
 すると、
「心配しなくていいわよ。ちゃんと復活できる程度で止めておいてあげるわ。」
 シグーネはそう言って食べかけのところてんを、プウ―ペ達に返してきた。
「先に倒したアンタの部下も、巻き添えを喰った群衆たちも、今……ここで止めておけば、人魚たちの能力で回復させることができるわ。だからもう、アタシに突っかかるのは止めておきなさい。」
 それは先程までとは打って変わった真剣な眼差し。
 そんなシグーネの真剣な表情にプウ―ペは一瞬たじろいだが、小さな体を震わしながらも、負けじと言い返し始める。
「そ、そうはいきまセン。ワタシたちは、たとえ最後の一人になっても、決して身を引くわけにはいかないのデス。それに……」
「うん?」
「それに……貴女は、魔族の中でも秀でて悪名高い人物。特に己の欲望を満たすためには、どんな冷酷な行いでも平然とやり遂げると聞いてマス。そんな貴女が、ワタシたちの仲間や何も関係の無い人間の命を救うなんて、どう考えても信用できまセン。」
 そこまで一気にまくし立てると、プウ―ペは小さな拳を握りしめた。
 そんなプウ―ペの力説をシグーネは真剣に聞いていたが、やがて……「フッ!」と、軽く鼻で笑い、
「そうだね。でも、こう見えても……今アタシは、自分の本音を話しているんだよ。」と答えた。
「えっ!?」
「たしかにアンタの言う通り、アタシ自身…自分の欲望のためには、いくらでも他人に冷酷になるわ。アンタの部下や、そこいらの人間が死のうが喰われようが、ぶっちゃけ……全く気にならないのよね。でも、ミオはそうじゃない。たとえ敵であろうと、自業自得で巻き添えを喰らった人間であろうと、勝利のためにアタシがソイツ等を見殺しにしたと聞けば、あの子は本気で悲しむだろうね。」
「勝利のためデモ……?」
「そう。そしてアタシが一番怖いのは、それ! ミオを悲しませること。だからアタシはそうならないように。ただ、その一心で、アンタたちの命でも見捨てるわけにはいかないのよ。」
 シグーネはここまで言うと、珍しく眉や目尻を下げ……優しげに微笑んだ。
「で、でも……これは戦いデス。ワタシと貴女が敵である以上、どちらかが倒れるまで止めるわけには……」
「いいんじゃないの? 止めても!?」
「!?」
「だって、アタシとアンタのどっちが倒れても、この戦いが終わるわけではない。結局……最後は、ミオとラビスの決着次第でしょう? だったら、それこそこれ以上アタシたちが戦うのは無駄だと思わない?」
「う……っ。そ、それは…そうですガ…」
 シグーネの如何にもな正論に、プウ―ペは言葉を詰まらせる。
「わかったのなら見に行くわよ、あの二人の決着を!」
 シグーネはそこまで言うと、クルッ!と踵を返し、ミオとラビスが戦っている場所に向かって歩き出した。
「プウ―ペ様……。どないします?」
 カタワクオンナの問いにプウ―ペはしばらく考え込んだが、
「たしかに一番大切なのは、ラビス様が神楽巫緒(ミオ)に倒されないことです。ワタシはラビス様の元へ向かいますので、カタワクは倒れたツーレム達をアジトへ連れて帰ってくだサイ」と答え、自身はテクテクとシグーネの後を追っていった。

| ターディグラダ・ガール | 21:45 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

≫ EDIT

ターディグラダ・ガール 第五話「誰も見ることのできなかった戦い」 二章

「状況はどう?」
 ミオとラビスの戦闘現場に着いたシグーネは、ずっと様子を見守っている青髪の少女……セイナに声を掛けた。
「あ、シグーネさん? まだ……これといった決め手はないけど、ミオちゃんの方が押されている。」
「そうか……」
 シグーネとプウーペが到着しても、まったくそれに気づかず戦いを続けているミオとラビス。
「こんな戦い、まったくもって時間の無駄だ。早くアジトへ戻って、先日完成したばかりのカラオケルームで、ワラワは『マイ・ウェイ』を熱唱せねばならん!」
 戦いなから、唐突に妙な事を口走るラビス。それを耳にしたプウーペは、
――また、アジトにそんな物を作ったのですカ? いつもながら、ラビス様は……。―
 と、呆れた表情。
「神楽巫緒よ……。そんな訳で、さっさと終わりにしてやる!」
 ラビスはそう言って、ベルトに備えてあった小さな杖を取り出した。
「ダーク・メタモルフォーゼ!」
 ラビスが手にする杖から放たれる怪しい光。必死で飛び避けたミオだが、そのためその光は、周りに集まっている野次馬の一人である、まるでモデルのような美しいボディーラインのOLらしき女性に当たってしまった。
「いや、なによ……これ!?」
 光が女性の全身を覆いつくすと、徐々に……徐々に女性の姿が変貌し始めていく。
 切れ長の目はつぶらな丸い目となり、高い鼻……厚めの色っぽい唇は合体したように一つとなり、尖った嘴に変わる。長い脚は短く、細い腕は平たく大きく……翼と変わる。
 そして本人にとって最も屈辱であろう、ボンッ!キュッ!ボンッ!のくびれたボディ!
「やだ、あたしのナイスバディ―が……!?」
 細いウエストは太く丸く。自慢のFカップはストンと平ら、そう……そのものズバリの『鳩胸』に!
「クルッ…クルッ!」
 なんと、あの美しい若きOLは、どこにでも居そうな一羽の鳩となってしまったのだ!

ターディグラダ・ガール 第五話10

「は……鳩に、変わった……!?」
 予想もしなかったラビスの術に、ミオもセイナもあまりの驚愕で目が釘付けとなる。
「変化は動物だけではないぞ。」
 そう言うラビスの持つ杖から、再び光が放たれる。必死に光を飛び避けるミオ。
 それは、またしても野次馬の一人、十代後半くらいの少女に当たった。
 実は彼女、あの有名なアイドルユニット……『OKF48.5』、チームK所属の野村咲夜(のむらさくや)であった。レッスン帰りに人混みを見つけ、そのまま一緒に見物してたが、まさか自分に変身光線が当たってしまうとは!?
 全身が光に包まれると、まるで前後から見えない壁に挟まれていくかのように、彼女の身体はゆっくり……ゆっくり、ぎゅ~~っ!と押し潰されていく。もう、その厚さは1㎝にも満たないだろう。だが、そこで終わりではない。
 今度は頭の先と爪先を見えない手に摘まれたかのように、上下にグィ~~ンと引っ張られ、同様に両脇を左右に引っ張られると、一気に放された。
 それはまるで、引っ張ったゴムを手放すと反動でバチ~~ンッ!と縮むように、彼女の身体も一気に縮む。
 これを10回程繰り返された彼女の身体は、幅2cm…長さ10cm程の小さな薄い板状に。それはまさに、一枚の『チューインガム』。

ターディグラダ・ガール 第五話11

「こ、こんどは女の子が……ガムみたいに!?」
 新たな少女の変化に、またしても釘付けになるミオ。
「ワラワの変化の術は、人間以外の物なら何でも変化させることができる。動物であろうと物品であろうと、そして食品であろうと……な!」
 まるで少女の変化を楽しんだように、ラビスは冷やかな笑みを浮かべていた。
 そうこう言っていると、ガムになった咲夜に一陣の風が舞い込んだ。咲夜はその風に乗って宙を漂うと、戦いを傍観していたシグーネの足元にポトリと落ちた。
「あら、ガムになった女の子。ふ~ん、アタシに食べてもらいたいのかしら?」
 シグーネはガムを拾うと、ニヤリと微笑む。
 もちろんガムになったとはいえ、咲夜自身が食べられたいなんて願っているはずは無い。
 だがシグーネは、食材となった女の子は全て自分に食べられたいと思っている……なんて、都合の良い解釈ができる女だ。
「それじゃ、いただくとするわ!」
 手にしたガムを嬉しそうに口の中に放り込む。
 シグーネの歯がムシャ…ムシャ…と噛みしめる度に、咲夜は……、
「きぅ……」「ぷぴぃ……」と、可笑しな奇声をあげ続けた。
 だが、笑わないでほしい。ガムとなった彼女は、頭部も脚も皮膚も神経も……、全てが統一化している。つまり全身が神経であり筋肉であり、そして性感帯でもある。
 噛まれることで全身が刺激され、今まで体験したことのないエクスタシィを感じていたに他ならない。
 それによって、ガムと化したその身体からは香りや体液だけでなく、人気アイドルとして口にするのも恥ずかしいような汁も、多少放出していたようだ。
「ふ~ん! この子……見た目は随分カワイコぶっていたけど、結構……下品な味もするのね! でも、それがいい♪」
 そう言いながら更にクチャクチャと噛み締め、十分なほど咲夜ガムを味わうシグーネ。
 しばらくして、隣で戦闘を見守っているセイナに向かって、
「ちょっと、手を出して~!」と声をかけた。
 セイナは言われた通り手を差し伸べると、なんと……シグーネは、噛み続けていた咲夜ガムを「プッ!」と、その手に吐き出したのだ。
「な、な、な、何するんですかぁ~っ!汚いーっ!!」
 思わず手を振り、グニャグニャのガムを払い落とそうとするセイナ。
「捨てたら駄目よ! そんな形(なり)だけど、その子……まだ生きているからね。」
「えっ!?」
 シグーネの言葉に、改めて噛み潰れたガムを見直すセイナ。
 残骸としか思えない噛み潰されたガムではあるが、よく見ると……微かに鼓動のようなものが聞こえ、表面では目らしきものがグルグルと回っている。そう、こんな状態でも咲夜はまだ生きているのだ!?
「ホント……です。この人……まだ生きている?」
「ラビスの闇の力が衰えさえすれば、その子たちはアンタたち人魚の術で、元に戻す事ができるわ。だからそれまで、しっかり保護してあげなさい!」
 なんか、上手いこと言いくるめられたような気がしないでもないが、
「わかりました!」
 セイナは素直にそう言うと、吐き出された咲夜ガムを自分のハンカチで包むと、やさしく握りしめた。

「さて、次はどいつが物や動物に変化するかな?」
 対戦相手であるミオよりも、周りで見物している群衆に杖を向け、ラビスはニヤリと冷笑する。
「こ…これ以上、罪の無い人に手を出させはしない!!」
 そう叫んだミオは、右掌を伸ばしラビスへ向けた。
「くらえぇぇぇぇっ!! ホーリー・ライトぉぉっ!!」
 伸ばした右掌から眩い光が広がると、それは一気に真っ白な光の束となって放たれた!
――ラビスの魔法属性は『闇』! その闇属性に有効なのは、『光』属性……!!―
 そう、ミオが新たに放った魔法は、闇属性に最も効果の高い、光属性魔法。
「ほぅ!? さすがはウィンディーの娘、神楽巫緒。母同様……光でワラワを封じ込める気か。だが……」
 ラビスは自身も左手を長々と伸ばし、その掌から紫色で半透明の壁を繰り出した。壁はミオが放つ光属性魔法を軽々と受け止める。
「お前の母……ウィンディーの光の術ですら、ワラワの闇魔力に歯が立たず、結局……増幅装置まで引っ張り出して、やっとワラワを封じ込めることができたと言うのに。なのに、お前ごときの魔力で、ワラワに敵うと思っておるのか?」
 ラビスの言葉通り、ミオ……渾身のホーリー・ライトは、ラビスの繰り出した壁に遮られたままだ。
「シグーネさん、ミオちゃんの魔法はラビスを打ち破れそう?」
 ミオとラビスの攻防を心配そうに見守りながら、シグーネに問いかけるセイナ。
 その問いにシグーネは、
「ラビスの属性は闇。そしてミオが今……放っているのは、光属性魔法。属性だけで見ればミオの方が有利だけど、それはあくまで同レベルの場合ね。ミオとラビスの魔力レベルの差は、ラビスの方が1……もしくは2段階、上ってとこかしら? だから、今のミオがラビスを倒すのは、ちょっと難しいかもね……」と返答した。
「もう少し……歯ごたえがあると思っておったが、所詮はこの程度か!? くだらん、そろそろ決着(けり)を着けてやる。」
 ラビスはそう言って左手で攻撃を防ぎながら、もう片方の右手で、紫色に輝く……光の球のような物を作り出した。その光の球は徐々に大きくなり、ついにはラビスの背丈程の大きさになる。
「くたばれ、神楽巫緒。ダーク・デストロイヤー……。」
 重く、吐き捨てるように呟くと、ラビスはその紫色の光の球……ダーク・デストロイヤーを、ミオ目掛けて撃ち放った。
 撃ち放たれたダーク・デストロイヤーは、ミオの放ったホーリー・ライトを打ち消しながら唸りを上げて突き進み、無防備となったミオに襲いかかる。
ズォォォォォォォォォンッ!!
 雷鳴のような爆音、眩い閃光を放ちながら、土煙が巻き上がる。
 しばらくして土煙が収まると、そこには激しいダメージを負って虫の息となったミオが、うつ伏せに倒れていた。
「ほぉ……、まだ息があるのか? たいしたものだ。だが、もう立ち上がる事もできまい?」
 ラビスは倒れたミオに歩み寄り、仁王立ちで彼女を見下ろした。
「ハァ……ハァ…… どうしてもわからない。貴女は、なぜ……そこまで人間を目の敵にするの……?」
 肩で息をしながら、それでも黙ってはいられないのだろう。ミオは苦しそうに、そう問い掛ける。
 そんなミオに対し、ラビスは冷たく鋭い視線で見つめると、
「お前は地上界に巣食う……人間たちをどう思う? 下種な種族だと思わぬか?」と、逆に問い返した。
「下種……ですって?」
「そうだ。人間は動物や植物と違って、自分で考え判断し、行動できるという『自由』というものを創造主から与えられている。そしてその自由による行動が、人間という種族の基盤を築いている。
 しかし、その実態はどうだ!? 
 他人のために、自然を守るために……。そんな心清らかな者は極僅かで、その逆に…他人を踏みつけ、虐げ、争い、傷を負わせ、命を奪う。挙句の果てに戦争を起こす。そんな輩ばかりだ。
 そのような行為をお前はどう思う? そういった行為を人は『悪』と呼ぶのではないか?
 しかも、清らかな心を持つ善行者よりも、他人を貶める悪行者の方が、栄光を手に入れる世の中。おかしな話だと思わぬか? これを下種と言わずして、なんと言うのだ?」
 気持ちが昂っているのだろう。口調も昂ぶってくるラビス。
「ちなみに私事だが、ワラワの両親は小さいながらも一つの領地と、そこに住む村人を守り続けた領主であった。ワラワが言うのも何だが、お人好しで村人を心から愛し続けた、冴えない領主であったわ。だが、欲に塗れた余所者共が入り込み、村人たちに裏切られ、土地を奪われ……ついにはその命まで奪われた。」
「貴女の、お父さん……お母さんを……?」
「今の時代でもそうだ。栄光を手に入れた者。国を治めている者たちの心の中に、欺き、汚職、横領、恐喝、陰謀、隠ぺい……侵略、そういったものは一切無いと、お前は断言できるか?」
 そう語るラビスは、まるで歪みの無い真っすぐな眼差しである。
 そんなラビスに対し、
「貴女の言うことは、あながち間違いでは無いと思う。でも、誰もが進んで悪行を行っているわけではありません。そういったのは、本当に一部の人たちだけです!多くの人は、進んで悪行を行ったりしません!」
 これだけは譲れないと言わんばかりに、激しい形相で言い返すミオ。
 すると、ラビスはしばし間を置き……
「そうだ。確かにお前の言う通り、自身の意思で悪行を行うのは、僅かな数であろう。」と、意外な返事を返した。
 しかし、ここまで言うと、再び鋭い眼差しでミオを睨みつけ
「だが、ワラワが人間共を下種と呼ぶのは、それだけの理由では無い! もっと質(たち)の悪い者たちが、世には蔓延っているからだ!」と声を張り上げた。

「それは自身で答えを出さず、周りに流され……同調する輩共!!」

「周りに流され、同調する……者?」
「お前の言う通り、自身で考え悪行を行うのは僅かな数だ。しかし、世の中には自分自身ではろくに考えもせず、世間の動きに同調する者たちがいる。たとえそれが、悪行であったとしても……だ。 そして、この手の輩が人間の大半を占めている。」
「そんなことはありません! 時には周りの流れに乗る人も大勢いるけど、それでも人は、良い事と悪い事の区別ができます! いくら流れでも、悪行の流れに乗る人なんているはずが……!?」
「ほぅ? では、お前は『魔女狩り』を知っておるか?」
 ラビスはそんなミオに、憎しみとも悲しみとも見える、複雑な眼差しで見つめながら問いてきた。
「魔女狩り……? 実際に見たことはないけど、歴史の勉強や……雑学としてなら。」
「ある程度知っておるなら割愛するが、これに加担した多くの者たちは、真実を確かめもせず、いや……解っていても、それに目を瞑り、自分自身に火の粉が掛からぬように、周りの動きに同調していただけだ。」
「それは、そういう時代……、そういう国政でもあったから……!?」
「ならば、今の時代でお前たちに身近な話をしよう。この国にも、『いじめ』というものがあるだろう。アレはどうだ?」
「いじめ……?」
「発端は一人か二人かもしれん。だが、同じように真実や善悪から目を反らし、流れに乗って……もしくは、自身に火の粉に掛からんがために、同調して加担する者が多いのではないか? その結果、ときには死者が出ることになっても……。」
「…………」
「更に大規模なものが、『国叩き』だ。一つの国に色々な因縁をつけ、周りも一斉に叩きだす。 わかりやすい例で言えば、この国……日本叩きだ。有名なところでは、鯨問題であろう。 これも発端は一つの国だが、かなり同調した国もあるようだな?
 だが、これはまだ平和な方だ。宗教などが絡むと、もっと根が深い。これも、戦争まで発展したこともあったはずだ。
 更にもう一つ付け加えるならば、先ほどのワラワの両親を殺したのも、直接手を下したのは余所者ではない。そ奴等の根も葉もない話に惑わされ、それまでの恩を忘れて同調した、村民という愚民どもによるものだ。」
「…………」
「どれも発端は一部で、後はその他大勢が同調して、大事となっている。もし、一人一人の人間が、国が、真剣に考え……自身の答えを出していれば、こんな事にはならなかったかもしれぬ。 これを下種と言わずして、なんと言う?」
 ここまで来るとミオは口論する気力まで失ったのか、地に伏したまま、黙ってラビスの話を聞いていた。
「だからワラワは考えた。多くの人間たちが、自分で考え答えを出せるという……与えられた自由を放棄し、周りに流され同調するだけであるのならば、一切の自由を奪ってやろうと!!
 そう、まるで考える必要も無い……、物品や動物にでもしてやろうと!!」
「まさか……それが!?」
「そう。 人類形態変化計画だ。
 ワラワの術やツーレムたちの力によって、ただ流され同調するだけの下種な者たちを、人間以外の物や動物に変化させる。
 それが済んだ後に、自らの意思で悪行を行う者たちを抹殺し、始末する。そうすることによって、人間の世界は、他人を思いやり……自然を愛する、真に心の清らかな者だけとなる。理想の人間社会が出来上がるのだ!
 これこそが、人類形態変化計画の全容だ!」
 拳を握り締め、強い口調でそう叫ぶラビス。その姿には、まったく迷いといったものは見受けられない。
「他人を思いやり…自然を愛する、真に心の清らかな人間だけの世界……。理想の……人間社会?」
「どうだ? もう一度お前に問おう! ワラワと一緒に、理想の人間社会を作り上げていかぬか!?」
 たしかに、欺きや争いの無い社会は、人間にとって本当に理想社会だ。ミオの心中に、ラビスの言葉が深く突き刺さる。

「でも……」
 そう言い始めたミオは、自分の言葉に自信がないのか? まだ地に伏したままだ。しかし、拳だけは力強く握りしめられていた。
「うむ……?」
「たしかにそんな社会が築き上げられたら、本当に素晴らしいと思う。でも……、ボクが好きな人間たちの世界って、そういうのとは何か違うんです!」
「ほぅ……! 違う……とは?」
「ボクは天女族だけど、でも……人間社会の中で、人間の養父、養母に育ててもらいました。だから、ボク自身も人間と同じように、悩んで……迷い……、時には流され、そんなことも多々ありました。」
 ここまで言うとミオは、まるで生まれたばかりの子鹿のように、ブルブルと手足を震えさせながら懸命に身体を支え、ゆっくり起き上がろうとし始めた。
「でも、その度にボクはいつも……自分自身を見つめ直してきた。そして、ときには反省し、ときには自分で自分自身を励まし。それを繰り返すことで、何が自分にとって正しいのか? 自分の中の正義とは……? それらを問いただせてきたのです。」
「それは、お前だから……そういう事ができたのであろう? 他の人間共は、そんなこと……」
「いいえ、他の人たちも一緒だと思います。貴女の言う通り、最初から最後まで心が清らかな人間なんて、極々……僅かでしょう。
 それでも殆どの人は、正しいと思って進みながらも、ときには悪の道へ足を踏み入れたり、迷って流されてみたり……、元の道に戻ってきたり。行ったり来たりしながら、自分にとっての正しい道を探し続けていると思います。
 でなければ……」
 そう言いながら、震える足で懸命に大地に踏ん張り、しっかり胸を張り、凛とした眼差しでラビスを見据えた。
「でなければ……?」
 ラビスは、そんな力強く起き上がったミオの姿に、一瞬戸惑いはしたが、フトっ……嬉しそうに口元を緩ませ、今まで以上に強い視線でミオに問い返す。
「人間の歴史が、700万年も続くはずがありません! 貴女が手を下すまでも無く、もっと……もっと早く、滅んでいるはずです!!」

 自分の考えや言葉が正しいなんて、今ここでもハッキリと断言は出来ない!
 それでも、自分が正しいと思うものを信じて生きてきた! そう、教えられてきた!
 これだけは、ハッキリと言いきれる!!

――そうだよ……ミオ。本当に正しいかどうかなんて、そんなの関係ないの。アンタはいつも、迷いながらも自分が正しいと信じる道を、一生懸命突き進んできた。そんなアンタだから、アタシは誰よりもアンタが好きなんだよ!―
 これまで黙って戦況を見つめてきたシグーネ。
 いつもは冷酷で、稀に悪戯っ子のような眼差しであるが、今ばかりは……まるで母親か、姉のように優しい眼差しで、ミオの力強い姿を見つめていた。

「なるほどな! つまり、お前は『人間は、今のままで良い……』、そう言うのだな?」
「いいか……どうかは、わかりません! でも、貴女やボク個人らが、その存在をどうこうしていいとは言えません。
 人間の在り方は、人間自身が決めるべきです!
 ラビスさん、貴女は誰よりも人間世界の行く末を案じています。人間の存在を無くすことよりも、人間が正しい生き方をできるように、それこそ……一緒に考えていきませんか!?」
「人間の下種さは、変わりはせん! お前の言葉を返すなら、700万年……下種のままだ!もはや、誰かが手を下さねばならぬのだ!!」
「だったら、ボクは何があっても、人間を守り通します!!」
 自身が言うとおり、いいか……どうかではなく、今…自分が信じることを貫き通す。
 迷いがとれたミオは、再び臨戦体勢を取るように身構えた。
 完全に打ち倒したと思っていたミオが、再び戦う姿勢を見せた事に、ラビスはフッと鼻で笑うと、
「そこまで言うのであれば、ワラワも声を掛けるのはここまでとする。そう、お前はワラワの敵だ。今この場で、この付近の人間共と一緒に消し去ってくれるわ!!」
 そう叫ぶと、万歳するように高々と両手を上げた。
 すると、その両手の遥か上空に、紫とも赤とも青とも言えない……何とも怪しげな色の光を放つ球体が、火花を散らすように輝きだす。
 更にそれは、ラビスの腕に力が篭もるたびに、徐々に徐々に大きくなっていき、やがて辺り一面を、街を……、暗い影で覆い尽くす程の、大きな大きな球体となった。
「これが、ワラワの最大級の魔力を使った……、ダーク・デストロイヤーだ。」

「あ、あ……あまりにも大きすぎる。こんな大きな闇のエネルギー、見たことないですぅ!?」
 そのあまりの巨大さに、傍で眺めていたセイナは、呆然と立ち尽くす。
「これだけの魔力なら、この辺一帯どころか……神田川県全域の人間が、一気に消滅するだろうね」
 さすがのシグーネも、表情が少し強張っている。
「ラビスさんっ!! もう……止めて下さい! でないと、ボクは本気で……!」
 右手で魔法を放つ構えをとりながら、必死に引き止めようとするミオ。
「本気でなんだ!? つい先程まで寝そべっていたお前が、ワラワに一矢を報いることができると言うのか?」
 ラビスは、もう一度受け止めてやると言わんばかりに左手を差し向けると、冷ややかな笑顔で、そう言い返した。
「く、くそぉ……。ホーリー・ライトォォォっ!!」
 ミオの右掌から眩い光が広がると、再び真っ白な光の束が、ラビス目掛けて放たれた!
グォォォォン!!
 またもホーリー・ライトを、左手の魔力の壁で受け止めるラビス。
「無駄だ。こんな物……ワラワには通じないことは、先程身に染みたはず。」
 紫色に発光するラビスの左手。その手は完全にミオの光魔法を食い止め、1㎜程も侵攻を許す気配が無い。
 その様子を見守りながら、
――ミオ……、アンタの真の力を引き出しなさい。そうしなければ、ラビスは……いえ、ラビスの中に潜む、真の脅威は倒せないわ。そう…アンタが言う通り、『この地上界』は、アンタが守らなければならないのよ!― シグーネは、そう呟いていた。

 そんな中、ミオの光魔法を、左手一本で少しずつ押し返し始めるラビス。
「やはり、その程度か……? まったくもって話しにならぬ。ならば、そろそろこのダーク・デストロイヤーを、この地に放たせてもらうとするぞ!」
 ラビスはそう嘲笑うと、もう片方の右腕で支えていた巨大な球体を、ゆっくりと都心部の方へと向け始めた。
「や……やらせない~っ! おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
 まるで地響きでも起こっているのではないかと錯覚するほどの、激しいミオの叫び!
 その叫びに同調するかのように、ミオの全身が眩い光で覆いつくされていく。
 そして、魔法を放っていた開いた掌を少しずつ握りしめ、人差し指一本だけをラビスへ向けた!
 そう、それによって今まで広範囲に放たれていた光の束が、指先程細く……しかし更に光を増し、集約された『一筋の閃光』と化したのだ!
「くらえぇぇぇっ! ホーリー・レイ!!」
 指先程の眩い光の直線が、再びラビスを襲う。
「お前の魔力レベルでは、ワラワに勝てぬわ!!」
 そう、余裕で受け止めるラビス。
 だが、今度は先程までとは勝手が違った。魔力を指先に集約したこともあって、力の密度が違っているのだ!
 一本の閃光は、受け止めるラビスの左手に風穴を開けるが如く、キリキリと食い込んでいく。
「ま……まさか!? ワラワが押されるのか!?」
 そう呟いた瞬間、ラビスの身体が眩い白い光に覆いつくされた。
 そう。威力に押された左手を弾いて、白い閃光は、ついにラビスの左胸を貫いたのだ!!

ターディグラダ・ガール 第五話12

「うぉぉぉぉぉぉっ!!?」
 衝撃で、勢いよく弾き飛ばされるラビス。
 同時に空中に漂っていた巨大な球体は、まるで花火のように四散し、消滅していった。
「やったぁぁぁ!! ミオちゃん!」
「ラ……ラビス様……!?」
 躍りまわるセイナに、茫然と立ち尽くすプウーペ。ミオは、そんな対照的な二人の姿を見て、自分の魔法が打ち勝ったことを、やっと悟ることができた。
「大したものだ。さすがはウィンディーの娘……」
 弱弱しい声が、ミオの耳に入る。
 見ると、そこには必死で起き上がろうとする、傷ついたラビスの姿。更にその全身は、白い光の粒子が満遍なく包み込んでいる。
「ラビス様、まさか……それはァ!?」
 プウーペの目に忘れようとも忘れられない、二百三十年前の恐怖が蘇る。それは、ラビスがウィンディーに敗れたときと同じ光景。
 闇属性を操る者が光属性に敗れたとき、全身が光の粒子に覆われ、やがて石箱と化し、身も魂も封印されてしまう。
「か、神楽ミオ……! お願いデス! ラビス様の……ラビス様の光の術を解いてくだサイ!」
 元々…一体の人形であったプウーペは、感情表現というものがあまり得意ではない。にも拘わらず、この時ばかりは目に大粒の涙を溜め、ミオにしがみ付いて懇願してきた。
「う、うん……今すぐ……」
 ミオは両手を広げ、ラビスを包み込んでいる光の粒子を自身の身に、取り込もうとする。だが、そのとき……。
「神楽ミオ、その必要はない……」
 光に包まれ、徐々にその姿が消えかかっているラビスが、そう答えたのだ。
「ラビス様、そんなわけには……!」
「これで良いのだ、プウーペ。お前には黙っておったが、ワラワの中には表に出してはならぬ、もう一人の脅威が住みついておる。このまま一緒に封じ込めてしまう方が最善なのだ。」
「何を仰っているのカ、意味がわかりまセン! それに……帰ってカラオケを熱唱するのでショウ? どうせ私をマイクか…何かに変化させて、遊ぶつもりだったのでショウ? だったら、元に戻って……」
「マイクに変化か……? それはそれで、面白そうだな。考えてもおらんかったぞ! でも、もう……良い!」
 ラビスはそう言って、優しく微笑んだ。
「ラビスさん。貴女……もしかしてワザと挑発して、ボクを奮起させた……!?」
 その問いに、ラビスは何も言わず微笑みで返す。
「血は通っていなくとも、ウィンディーはワラワにとって実の妹のような存在であった。その娘であるお前は、姪のような存在でもあるわけだな。」
 それはまるで、娘に対する母親のような優しい笑顔。
「良いか……? 光の天女、神楽ミオ。
 この時代……この地上。お前の光の力で照らし続けるのだ……。決して闇に……。いや、たとえ……相手が神と名乗っても、負けぬようにな!」
 ここまで言うとラビスは、光の粒子に飲み込まれるように姿を消していった。
 そして、それと引き換えのように、その場所には小さな石の箱が、ポツンと残っていた。

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