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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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マニトウスワイヤー 第十章 妖魔狩人たちの苦戦

「しかし今更ながら、高嶺優里と斉藤千佳の二人だけを残し、先へ進んで大丈夫なのでしょうか?」
 銀髪長身、禰々子河童一族の二代目である祢々は心配そうに漏らした。

「大丈夫。あの二人は凛が信用している強い仲間。それに、セコに様子を見てもらっている。いざとなったらすぐに連絡してくれるはずだ」
 凛の頭上を飛びながら一緒について来る金鵄は自信を持って答えた。

「仮にあの二人が倒れても、ワタクシ達がエノルメミエドの復活を阻止すればいいだけの事。余計な心配は無用」
 先頭を走る青い妖魔狩人も坦々と返した。

 グランドへ向かう通路に入ると、そこはもう外野席に繋がっていた。

 外野席に足を踏み入れグランド内を眺める。
 ピッチャーマウンド辺りに二つの人影があった。


「フェアウェイっ!!?」

 思わず都が叫び声を上げた。


 そこには仰向けに寝かされているフェアウェイの姿と、アンナ・フォンの姿が。

 それを見て駆け出そうとする一行に、

「おやおや。ここから先は、部外者は立ち入り禁止ですよ!」
 と、外野席に腰掛けている一つの影が囁いた。

 それは、頭までスッポリとマントで覆い隠した黒い影。
 そう・・言わずと知れた、パペット・マスター!

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 ゆらりと陽炎のように立ち上がると、同時に数十のマネキン人形が凛たち一行を包囲した。
 子どもから主婦……会社員まで。

 そして、あのチアガールたちの姿も見える。

 おそらく、この球場に来た人々全てをマネキンに変えているのだろう。

「この人たちを元に戻して!!」

 これにはさすがの凛も憤りを隠せなかった。

「人形は私の大事なコレクション。 『戻して』と言われて『ハイそうですか!』と、すんなり戻す気はないわ」
 パペット・マスターはそう言ってニヤリと笑う。

「どうしても元に戻したいのなら、私の息の根を止めることね。そうすれば私からの魔力供給が無くなり、こいつらは人間に戻るわ」

「なるほど、お前を殺せばいいだけの事か。簡単な事だな」
 そう言って青い妖魔狩人と祢々が一歩前に出た。

「青い妖魔狩人さん!?」

「先へ急げ若三毛凛。見境無く命を大切に考えるお前では、たとえ化け物相手でも簡単には殺す気にはなれないだろう?」
 青い妖魔狩人の予想外の言葉に凛は言葉を失った。

「わたくしは敵の命などなんとも思っておりませんが、そんな人形の出来損ないより、今はフェアウェイの方が先決! 先へ進ませていただきますわよ」
 都は何のためらいもなく手の平から糸を噴出し天井にある照明に貼り付け飛び上がると、マネキン人形たちを一気に飛び越え、グラウンド内に降り立った。

 そんな都を横目に青い妖魔狩人は話を続ける。

「そして儀式を妨害し、エノルメミエドの復活を阻止するのだ。それくらいならお前でもできるだろう?」

「ハイ、必ず復活を止めてみせます!」

 凛は大きく頷くと座席に飛び乗り、強化された跳躍力でマネキン人形たちを飛び越えていく。

「頼む、若三毛凛・・・」

 凛の後姿を見送りながらそう呟くと、パペット・マスターと対峙した。

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 その頃、クエロマスカラたちと戦う為にショッピング通路に残った千佳。

 妖怪火山猫と融合し、半妖となった彼女の得意な戦法は一言で言えば『狩り』。

 今、千佳はファミレス店内に侵入し、テーブルや椅子を森の草木に見立て気配を消している。
 更にクエロマスカラが手にしているチェーンソーの大きなエンジン音が、逆に・・その効果を高めていた。
 気配を完全に消し静かに近寄り間合いに入ると・・・・。

 一気に飛び掛り、その右腕の鋭い灼熱の爪で喉元を切り裂くっ!!


ザクッッッ!!


「うぎゃあああああっ!!」


 断末魔の叫びを上げ、血飛沫を撒き散らしながらクエロマスカラの大きな身体は、地響きを立てその場に沈んだ!

「よしっ! ちょろいもんやね!!」
 ドヤ顔で倒れた『死体』を見下ろす。

「さて、あとはあのオッサンやけど・・・・?」
 そう言って店内を見渡すと、ドレイトンは厨房のコンロでハンバーグを焼いていた。

「なんだっちゃ、あのオッサンは!?」
 思いもよらないその姿に大きな溜息をつくと。
「ま・・・あんなオッサンなら無理して倒す必要はねぇっちゃね!」
 と、その場を後にしようとした。


 その背後に、チェーンソーを振り上げた大きな身体が立ち上がっている事も気づかずに。









バリッ・・! バリッ・・! バリッ・・!


 眩い光と音が響き渡る。

 巨大な雷撃のエネルギーを自らの身体に蓄積し、それをレーザーのように凝縮し連続攻撃を繰り返すサンダーバード。
 だが、その攻撃は全て優里の薙刀に防がれていた。

 いくらレーザーのような攻撃であっても、その根本は電流であると見抜いた優里は、野外イベント用の照明機器に繋がっている配線。すなわち『銅線』を薙刀に巻き、片方を金属製の電柱に結びつけアースにし電気伝導線を作り上げたのだ。
 これにより、薙刀で受けた電撃は銅線を伝わって電柱へ流れていく。

「電線に止まっているスズメが感電しない理屈ね」

 幾重もの攻撃を防がれ、さすがのサンダーバードも困惑の色が見え始める。

「ナルホド。オマエワ雷・・・。イヤ、電撃ニツイテ、アル程度ノ知識ヲ持ッテイルヨウダ」
 攻撃を止め、サンダーバードは優里に話しかけた。

「ダガ見タトコロ、ソノ仕組ワ、攻撃ヲ防グ事ワ出来テモ、自分カラ攻撃ヲ仕掛ケル事ワ、出来ナイヨウニ見エル」

「・・・!」

「ズット、タダ攻撃ヲ、防ギ続ケル”ダケ”ノツモリナノカ?」
 サンダーバードの予期しない問いに、優里は少し躊躇いを見せたが

「ええ。私がここに残った一番の目的は貴女を倒すことでなく・・・、仲間がマニトウスワイヤーの復活を阻止する時間を稼ぐこと」
 そう言い返した。

 その返事にしばらく沈黙を守ったサンダーバードだが


「ツマラン!!」


 そうキッパリと吐き捨てた。

「ワタシガ、ナゼ貴様一人ヲ、ココニ残ス事ヲ許シタト思ウ?」

「?」

「ワタシワ空ヲ飛ブ事ガデキル。ソノ気二ナレバ、スグ二貴様ノ仲間ノ後ヲ、追ウ事モ出来タ。ダガ、ソレヲシナカッタノワ、貴様ガ『一番強ソウ』ダッタカラ」

「!?」

「貴様トノ、一対一ノ戦イノ方ガ、面白ソウダッタカラ。ダカラ・・アエテ残ッタノダ」

 思わぬサンダーバードの言葉に優里は身震いをした。
 それは恐怖による震えではなく、一人の武術者としての武者震いに近いもの。

「ダガ、貴様ワ時間稼ギナドト、我々ノ戦イヲ侮辱シタ。トンダ・・侍ガールダッタ」
 心の底から失望したように、大きな溜息をつくサンダーバード。

「・・・・・・・」

「モウ貴様トノ戦イワ、ココマデダ。ワタシワ球場ヘ行キ、マニトウスワイヤー復活ノ援護ヲスル」
 サンダーバードはそう言うと、背中の翼を大きく広げた。

「それは許しません!!」
 今まで何も言い返せなかった優里だが、これだけはキッパリ言い返した。

「・・・?」

「たしかに私は武術者として貴女を・・・この戦いを侮辱したかも知れない。その非礼はお詫びします。でも・・・」

 そこまで言うと、優里は鋭い目つきでサンダーバードを睨みつける。

「でも・・・貴女が球場へ行けば、また凛ちゃんと戦う事になる。それだけは何があっても許しません!!」
 優里はそう叫び、薙刀に巻きつけていた銅線を全て解き捨てた。

「いいでしょう! 北真華鳥流の奥技を持って貴女をこの大地に倒し伏せてみせます!!」

 爛々と瞳を輝かせ、優里は薙刀を水平に構えた。

「ククク・・・! オモシロイ!」

 サンダーバードは満身の笑みを浮かべると、背中の翼をたたみ大地にしっかり足を降ろした。










「でやぁぁぁぁっ!!」

 長い金棒を振り回し、襲い掛かるマネキン人形たちを次々に薙ぎ倒す祢々。

 河童の一族と馬鹿にしてはいけない。
 禰々子河童は全ての水棲妖怪の頂点に立った一族。 そしてその怪力は地獄の鬼にも、全く引けをとらない。

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「ふ~ん・・・。妖怪とはいえ戦う女の姿は美しい。私のいいコレクションになりそうね♪」
 パペット・マスターは激しい戦いをする祢々を見つめ、不敵に微笑んだ。

 そんなパペット・マスターに一輪の水流の輪が襲い掛かった!

 寸前に気づき、そばに居たマネキン人形を盾にしてそれを防ぐ。

「ほぅ・・・? こんな不意打ちみたいな攻撃をしてくる奴もいるとは・・?」
 攻撃を仕掛けた青い妖魔狩人を見つけると嬉しそうに笑う。

「水流輪っ!!」
 それでも次々に攻撃を仕掛ける青い妖魔狩人。


バサッ!!


 身に着けていたマントを振り払い、水流輪を弾き落とす。

「見縊られたものね。この程度の霊術で私がやられるわけが無いじゃない!?」
 パペット・マスターは鼻で笑った。

 だが……そんなパペット・マスターも、足元に少しずつ迫っている『水溜り』には、気がついてはいない。

 狙ったように青い妖魔狩人は指先をクィっと上げる。
 すると水溜りは一気に壁のように跳ね上がり、パペット・マスターを覆い囲んだ!

「な・・・なにっ!?」

 仰天したパペット・マスターを、水の壁は包み込むように被さっていく。

「ワタクシも水流輪でお前を倒せるとは思っていない。この術から注意を逸らすための目くらましにすぎない」

 大きな青い水疱の中でもがき苦しむパペット・マスターを見つめながら、青い妖魔狩人は勝利を確信していた。
 数十秒が経ち水泡が静かになった事を知ると、青い妖魔狩人は術を解いた。
 流れ落ちる水の中から現れたのは・・・・

「な・・!?」

 そこには、五~六人の若い女性が倒れている・・・!?

「ど・・どういう・・事だ!?」

 思いもしない出来事に、その場に固まったように立ち尽くす青い妖魔狩人。

「それは、私が持ち歩いていた、フィギュア人形が元の姿に戻ったもの」
 倒れていた女性たちを跳ね除け、その下からパペット・マスターが立ち上がった。

「私は人間を好きな人形に変える事ができる。それがマネキンだろうと・・ヌイグルミであろうと。そして・・・フィギュアであろうと!」
 ドヤ顔で語るパペット・マスターに呆然とする青い妖魔狩人。

「貴方の術が相手を傷つける為の攻撃魔法ではなく、浄化する為の霊術だということは最初の水流で気がついていた」

「・・・・・・・」

「だから水泡の中で持ち歩いていたフィギュアをばら撒いたわけ。案の定・・・貴方の浄化の術は、私の呪術で人形になった者たちを優先して浄化し、私の浄化まで及ばなかったという事」

「く・・・・っ」

「私を殺すとか言っていたけど、貴方は水属性の術者。浄化や治癒の術は得意そうだけど、たいした殺傷能力は持っていない。だからあんな戦闘力の高い河童なんか連れ歩いているわけね」

 おそらく、凛や金鵄ですら気づいていない青い妖魔狩人の特性を、パペット・マスターは次々に言い当てた。

「フッ・・!」

「?」

「たしかにワタクシは物理的威力を発揮する術は持ち合わせていない。だが、それだけでワタクシの全てを解ったつもりになってもらっては困る」

 青い妖魔狩人はそう言うと、周囲に無数の小さな水泡を漂わせた。

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「なに・・これ?」

 パペット・マスターは、シャボン玉のように漂う水泡の一つを指先で弾いた。


パツン!


 水泡が弾け散ると同時に緑色の半透明の液体が指先に付着する。

「これは・・・毒っ!?」

「そう。たとえどんな妖怪でもその動きを封じ込める事のできる・・神経性の猛毒! お前を直接殺すことは出来なくとも、その動きを封じる事はできる」

 ただでさえ頭巾越しで表情のつかめない青い妖魔狩人だが、今回ばかりは目の動きだけで笑みを浮かべていることが容易につかめた。

「ククク・・・・・♪」

「!?」

「たしかに頭巾越しで表情は掴みにくいけど、どれだけ平静を失っているかは容易につかめるわ!」
 パペット・マスターは口端が耳まで届きそうなくらい大口を開けて笑い始めた。

「仰るとおり私が生物である妖怪ならば、この毒は大きな効力を発揮したでしょう。だが・・私のこの肉体は血も肉も・・・、まして神経など全く無いただのマネキン人形。したがって毒などまるで通用しない!! そこまで頭が回らないとは、どれだけ平静を失っているのやら」

 そう言って一足飛びで間合いに入ると、青い妖魔狩人の首筋を鷲掴みした。

「まずは、その頭巾の下の顔を拝見させてもらいましょうか?」
 パペット・マスターは青い妖魔狩人の頭巾に手をかける。

「ま・・待てっ、貴様ぁぁっ!!」
 その様子が目に入った祢々は、加勢に向かおうとマネキン人形たちに背を向けた。


グサッッ!!


「!?」


 その瞬間、わき腹に何かが突き刺さる感触が・・・。 それは、真っ赤な蒸気のような靄を発する短剣。

「あ・・あ・・・・」

 祢々は呆然としたまま二~三歩進んだが、その長身でグラマラスな身体は消滅したかのように姿を消し、代わりのその場所に、小さなヌイグルミが転げ落ちていた

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 それは祢々にそっくりなヌイグルミ。
 例の赤い短剣で、祢々はヌイグルミに変えられてしまったのだ!

「祢々・・・!?」

 目を皿のように丸くする青い妖魔狩人。

「驚くことはないわ。貴方もその素顔を拝見したあと、可愛いお人形に変えてあげる♪」
 パペット・マスターはそう言って青い妖魔狩人の頭巾を剥ぎ取った!












「な・・・なんだっちゃ・・、あいつは・・!?」

 最初に戦いを開始したファミレスから離れ、別の店に駆け込み・・カウンターの下に身を潜める千佳。

「なんで・・。なんで……あいつは死なないっちゃ・・?」


 一番最初にクエロマスカラの喉元を灼熱爪で切り裂いた千佳。

 だが、ヤツは再び起き上がり千佳に襲い掛かってきた。

 それでも千佳は自分の戦法を守り、二度目はクエロマスカラの胸を貫き・・・。

 三度目はその腹を引き裂いた。

 どちらも間違いなく致命傷だった・・・・。

 にも関わらず、ヤツは三度立ち上がってきた。まるで何事もなかったかのように。

 ついに千佳は戦いから背を向け、逃げ出したのだ。
 倒しても・・・・、倒しても・・・起き上がってくる恐るべき敵から。


 エンジン音が通路に鳴り響く。 ヤツが行ったり来たりしているのがわかる。

「探している・・・・。あいつがウチを・・探している・・・。」

 身体の震えが止まらない。 心の奥底から来る、心臓を握りつぶされるかのような震え。

「怖い・・・・怖い・・・・」

 いつも強気な千佳が初めて恐れをなしている。
 人間が持つ『恐怖』という感情に付け加え、『勝てない敵』に対する妖怪としての本能から来る脅え。
 芯から味わう絶望感。

「見ヅけた・・・・・」

 頭上から声が聞こえた。
 見上げると、カウンター越しにクエロマスカラの皮膚マスクが目に入る。

「あぁ・・あ・・・」


ガガガガガ・・ッ!!


 クエロマスカラのチェーンソーが、容赦なくカウンターを切り裂いた。


「うあぁぁぁぁっ!!」


 悲鳴を上げ、尻込みしたまま逃げまとう千佳。
 彼女が逃げ込んだ先は、最初の戦いの場・・・。 ファミレスだった。




第十一章 妖魔狩人の反撃へ続く。
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| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 18:26 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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マニトウスワイヤー 第十一章 妖魔狩人の反撃

 千佳が逃げ込んだファミレスの厨房で、ドレイトンは焼き上げたハンバーグを美味しそうに頬張っている。

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 ドレイトンは逃げ込んだ千佳に気づき、
「まだ、生き延びていたのか? 思ったよりしぶといですね!」
 と嬉しそうに微笑んだ。

 人間なのに人間とは思えない・・不気味な笑顔。

「ここに、いたか・・・」
 更に背後にクエロマスカラが追いついてきた。

「エイダ、いつまで遊んでいるんです? 早く捕まえて、その娘も美味しいハンバーグにしてしまいなさい♪」

「うーん。でも・・・・パパ。コイツ人間じゃなくて獣のような匂いがする。きっと・・美味しくない」

「相変わらずエイダは好き嫌いが多いですね。そんな事だから大きくなれないんですよ?」
 ドレイトンの言葉に千佳は唖然とした。

 大きくなれない・・・だって? 十分・・デカイっちゃ!

 それよりアンタの方がずっと食べ続けていて、よく太らないもんだっちゃ!?  きっと栄養がどっかに飛んでるんじゃないっちゃね?

 千佳は頭の中でそう突っ込んでいた。

 ん・・っ!? 栄養がどっかに飛んで・・・?

 何かが頭に引っかかる。

「ねぇ・・パパ。アタシこんな獣より、さっき見た黒い子どもの肉が食べたい」

「黒い子ども・・? ああ、先へ進んだ、黒い衣服に身を包んだ少女の事ですか?」

「ウン、あの子・・・♪ 霊力も高そうですごく美味しそう!」

 霊力が高くて黒い衣服の少女・・・・?

「凛の事・・ちゃかぁぁっ!?」

 千佳は思わず叫び声を上げた。

「凛・・? ほぅ、あの少女・・凛という名ですか? 良い名ですね。たしかにあの子は小柄で肉付きはたいした事はなさそうでしたが、身質は良さそうでした。きっと美味しいだろうね♪」
 そう語るドレイトンの口元には涎が垂れている。

「ふざけんなぁぁぁっ!!」
 凛を食べると聞いて、千佳の顔に血の気が戻ってきた。

「てめえ等なんかに、絶対に凛は喰わせねぇっちゃよ!」

 逆立った髪も更に炎上するかのように赤みを増し、灼熱爪もモクモクと蒸気を放っている。
 そう、誰よりも凛を大事に・・・。いや、凛を愛しているといっても過言ではない千佳の想いが、一気に彼女を立ち直らせた。

「んっ、凛・・・?」

 と同時に何かが頭の中で繋がり始めた。

 そう言えば、以前ウチが記憶を取り戻し始めた時に見た凛が戦っていた相手・・・・。
 それは、土人形を操る・・・独楽(こま)の妖怪・・・!!

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 喰っても太らないオッサンと、好き嫌いの多いデブ。 一見まるで繋がりのない、点と点。

 もしかして、あのデブと・・あのオッサンは・・・!?

 何かを掴んだ・・千佳。灼熱爪の右腕を振り上げ飛びかかった先は・・・

「な・・なんですとーっ!?」

 まさかの突撃に必死に身を避けるドレイトン。

 振り払う灼熱爪。

「ぎゃぁぁぁっ!!」

 血飛沫と共にドレイトンの胸元に大きな爪痕が残る!

 悲鳴は背後からも聞こえた。

 なんと、背後から襲いかかろうとしていたクエロマスカラの胸元にも、ドレイトンと同じ・・大きな爪痕が!!

「やっぱりそうっちゃ!」 
 千佳は二人に付いた同じ爪痕に確信を感じた。

「詳しい理屈はわからんけど、このデブの本体は・・・オッサン!! だから、このデブは死なないっちゃね・・・?」

 千佳の推測通り、クエロマスカラはドレイトンの思念が生み出した魂の無い・・もう一つの肉体のようなもの。

 十数年前、ドレイトンは事故で実娘エイダを喪った。
 その頃のドレイトンはある宗教を信仰していた。
 それは動物も人間も同じ命。だから、差別なく同様に殺しても食べても良いものだという教え。
 そのせいか、いつの頃からか・・闇の魔力を身につけ、ついにはその力でエイダを実体型思念体として蘇らせた。
 実体型思念体の為、蘇ったその身体は生命体本来の『命』というものは持ち合わせていない。
 だから、どんなに致命傷を負っても何事もなかったように動き続けられるのだ。

「カラクリはわかったっちゃ。一気に決着(ケリ)をつけて、凛を喰いたいなんて言ったこと後悔させてやんよ!!」

 再び千佳は、灼熱の右腕振り上げドレイトンに向かう。

「パパを・・虐めるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そんな千佳にクエロマスカラが立ちはだかる。

 轟音と共に振り下ろされるチェーンソー。

 闇の魔力が篭ったチェーンソー。その攻撃力は防御力の高い戦闘服を着ていても、並みのダメージでは済まない。

「ちっ! 鬱陶しい回転ノコギリっちゃね! せやけど・・、まずはアレをぶっ壊さないとあのオッサンを攻撃できそうにないし・・・」

 そう呟くと、千佳は自らの右腕・・・灼熱爪に目をやった。

「いくらウチにとって最強の灼熱爪でも、あんなノコギリとまともにぶつかりあったらズタズタになるやろね・・・」

 当然の躊躇いだ。
 だが、またも頭の中で凛の顔が浮かぶ。

「絶対に負けないって、約束したっちゃね・・・」

 そう呟き決心したようにニコリと微笑む。

 迷いが吹っ切れた千佳。
 それは精神的だけでなく、半妖としての能力すら高めていた。

 頭部には燃えたぎるような髪の中に猫のような三角耳が立っており、鋭く睨みつける瞳は瞳孔が縦長になっていた。

「ぶっ壊してやるちゃ! 後悔すんなよ、この・・デブぅ~っ!!」

「・・んだと!? このクソチビがぁぁっ!!」
 一目でわかる弩級の怒り!

 チェーンソーを振り上げ千佳に襲い掛かるクエロマスカラ。


「うっせぇぇぇぇぇぇっ!!」


 その高速回転している刃に向けて、千佳は右腕の灼熱爪を突き出した!

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ガリッ!ガリッ!ガリッ!ガリッ!


 耳障りな音が鳴り響く!


バギッッッ!!!


 クエロマスカラのチェーンの刃が・・・・・。

 そして千佳の右腕の中指、薬指、小指・・三本の爪が・・・。


 鈍い音と共に砕け散った!!


「うぎゃぁぁぁぁぁつ!! アタシの・・アタシの・・・チェーンソーがぁぁぁぁ!!?」

 狂ったように慌てふためくクエロマスカラ。

 今、この時をおいてドレイトンを討つ間は無い。
 千佳は激しい痛みを堪えながら、一気にドレイトンに詰め寄ると・・


ズブッ!!


「ひぃぃぃぃっ!!」

 千佳は残った人差し指の爪でドレイトンの胸を貫いた!

 突き刺さった爪から灼熱の炎が流れこむ。 同時にその体内のアチコチから炎が吹き出し、


ゴォォォォォッ!!


 激しい火の粉を撒き散らしながら、ドレイトンは全身火達磨となった。

「ぎゃぁぁぁぁぁつ!!」

「パ・・パパ・・!?」

 火達磨となり、のたうち回るドレイトン。
 慌てて駆け寄ろうとしたクエロマスカラだが・・・・

「あぎゃぁぁぁぁぁっっ!!」

 ドレイトンの身体とリンクしているクエロマスカラも、身体のアチコチから炎が吹き出す。
 瞬く間に二体の火達磨が蠢く店内。

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「エイダ・・・」

「パパ・・・」

 手と手を触れ合う事もできず、闇が生んだ狂気の親子は文字通り地獄の業火に包まれ焼け落ちていった。

「やったよ・・凛・・」
 激しく肩で息をしながら千佳はその場に座り込んだ。

 そして砕け散った右手を満足そうに・・。それでいて少し悲しげな表情で見つめると、そのまま眠るように気を失った。











「凄い!! 優里さんの霊力が尖先に凝縮されている・・・? その力は雷撃の威力に匹敵するかもしれない・・・!?」

 薙刀を水平に構える優里。
 薙刀の尖先に白い光のようなものが浮かび上がり徐々に大きくなっていく。

 それだけでは無い。

 それに釣られるように優里の周囲は大気が陽炎のように歪み、地響きのような振動すら感じられる。

 物陰に隠れて様子を見ていたセコは初めて見る優里の奥技に・・。 そして、その『気』の大きさに驚きを隠せない。

「確カニ、貴様ガ繰リ出ソウトシテイル技ワ、ワタシノ雷撃ト同レベルノ威力ガアリソウダ。ナラバ、ワタシワソレ以上ノ最強ノ術ヲ繰リ出ソウ!」

 サンダーバードはそう言うと右腕を高々と上げる。
 激しい雷鳴が轟く。


バリッ!バリッ!バリッ!


 大きな落雷がサンダーバード自身を襲った!!
 だが、サンダーバードは更に右腕を高々と上げる。

 漂う雷雲から、再び大きな落雷が爆音と共にサンダーバードを襲った。


バリッ!バリッ!バリッ!・・・


 二発の雷撃を受け、そのエネルギーを蓄積したサンダーバード。

 さすがに少しダメージを受けたのか? 足元がやや・・ふらついている。 

 サンダーバードはそのあと左右の手から片方ずつ、青白い火花を放つ二つの球体を繰り出した。
 その二つのエネルギー球を強引に一つに組み合わせ凝縮し、一つの大きなプラズマエネルギー球に変えた。

「な・・・なんて、凄まじいエネルギーの球体!? 雷、二発分の威力を持った術なんて、そんな術は見るのも聞くのも初めてだ・・・」

 セコの言うとおり、それは雷二発分の威力を持ったプラズマエネルギーの凝縮体。
 おそらく半径数百メートルは一瞬で焼け野原になるだろう。

 一方、薙刀を構えたまま霊力を尖先一点に集中し技を仕掛ける準備をしていた優里。
 白色の大きな霊力の塊を刃に備え、水平の構えのまま右腕を引き左手で刀身を軽く支える。

 妖魔狩人と北米の精霊。

 最強同士の二人が、意地と底力を掛けてぶつかり合う瞬間!!

「プラズマトワイス・・・」

 先に仕掛けたのはサンダーバード。
 大きく腕を振りかぶり、火花散る大きなプラズマエネルギーの球体を爆音と共に撃ち放った!!

 火花と暴風を放ちながら突き進むプラズマトワイス。

 その球体が通り過ぎたあとは、アスファルトもタイルもボロボロに焼き崩れ、大地がむき出しになっている。

 それに対し優里は一呼吸・・間を置おくと、見極めたように一気に駈け出した!


「北真華鳥流奥技! 不撓穿通(ふとうせんつう)!!」


 霊力の塊を纏った薙刀を突き出しながら、優里自身が白色の閃光となり高速で突進していく。

 本来は闘気を一点に纏い、自らを刃と化し突進するのが北真華鳥流不撓穿通。
 だが優里の不撓穿通は、闘気どころか生まれ持った強力な霊力をも纏っている。
 その威力は本家不撓穿通の十倍以上。

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ズザザザァァァン!!


 中央でぶつかり合う、プラズマエネルギー球体と白色の閃光!!
 一見互角に見えるぶつかり合いだが、徐々に・・・徐々に・・に、プラズマトワイスが不撓穿通を押しのけていく。

 それは、サンダーバードの操る通常の雷撃エネルギーを仮に『3』という数値で表すと、優里の不撓穿通の威力はほぼ同格くらいである。

 それを察知したサンダーバードは二つの雷撃エネルギーを足し合わせ二倍の威力にした。

 したがって現状のままではプラズマトワイスが不撓穿通を跳ね除け、優里が吹き飛ばされるのは目に見えている。

「このままでは、優里さんが・・・・!」
 徐々に後退する白色の閃光を見つめながら、セコは焦りと恐怖を隠せない。

「たしかに・・・凄い術です! でも・・・」
 押し返されないように歯を食いしばりながら踏ん張っていた優里。

 だが・・ここでフトっ、口元を緩ませると、

「乗っ!!」

 そう叫び、手首をグルっと捻りこむ。。
 その途端、薙刀に纏っていた白色の霊力が大きな螺旋状に回転し始めた。

 激しい地響きと軌道上の大地・・。
 アスファルトや石が土砂が・・・。そしてまわりの電柱や樹木ですらも、回転で抉られるように舞い上がっていく。
 その激しい回転に合わせ突進する優里は、いわば白色のスクリュー。

 威力を増した不撓穿通は、逆にプラズマトワイスを押し返していく!

「ナ・・・ナンダ、コノ・・威力ワ・・・ッ!? 何故、私ノ術ヲ上回ル・・威力ニナッテイル!?」

「見誤っていましたね。今の私は高嶺優里という一人の武術者ではなく、白い妖魔狩人というある意味・・別の存在であるということを・・・!」

 揺るぎない自信を秘めたその表情。

「私は白い妖魔狩人という存在になったその時から、霊獣…麒麟の力も受け継いでいるのです!」

「そうか! 地響きを上げている螺旋状の術は麒麟の霊力によるもの・・・!?」
 セコが思い出したように呟く。

「貴方が見定めた不撓穿通の威力『3』というのは高嶺優里個人の力。ですが・・この技・・『不撓穿通・乗』は、白い妖魔狩人になったことで二乗化された威力になっているのです!」

「ツマリ、私ノ術ヨリモ、大キク上回ル!!?」

 サンダーバードが全てを諦めたように大きく溜息をつく。

 その瞬間、不撓穿通に押し返されたプラズマトワイスは大きく四散し、そのまま白色のスクリューがサンダーバードを貫いた!!


バキッ・・バキッ・・バキッ・・!!


 激しい閃光がサンダーバードの覆い隠す。

「やったぁぁっ!! 優里さんの勝利です!」
 大喜びで駆け寄るセコ。

 そんなセコに優里はニコリと微笑むと・・・
「うう・・・っ」
 その場に跪いてしまった。

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「優里さん、大丈夫ですか!?」
 心配そうにその身体を擦るセコ。

「ええ・・大丈夫。あの技は文字通り・・私の全身全霊の力を振り絞らないと使えない技」

「今まで使わなかったのは、そのためですか?」

「そう。先程までの私は後の事を考え、力を温存しておこうと本気で勝ちにいきませんでした。でも・・それは一対一の戦いにおいて最大の侮辱」
 優里はそう言って己の手のひらを見つめる。そこには・・わずかに残った霊力が漂っていた。

「だから全霊力を・・、全身体能力をも・・出しきりました。そうしないと勝てない相手だったから・・・・」
 優里は跪き、フラつきながらもそう微笑んだ。

「アリガトウ・・・」

 閃光が消えると、仰向けに倒れたサンダーバードがそう話しかけてきた。

「素晴ラシイ技ダッタ。アレニ敗レタノナラ、納得ガイク・・・」
 そう言うサンダーバードの全身はズタズタで激しい出血をしており、もはや虫の息だ。

「全力デ戦ウ。ソレワ相手ニトッテ、最高ノ敬意。ソノ敬意ヲ表シテクレタ侍ガールニ、私モ礼ヲシタイ・・・」
 サンダーバードはそう言って右手を突き上げた。

 手の平から青白い火花が散っている小さなエネルギーの球体が浮かび上がる。
 それはゆっくりと宙を漂いながら優里の薙刀へ辿り着くと、その中へ消えていった。

「こ・・これは・・・?」

「僅カダガ、私ノ力モ引キ継イデモラッタ・・・」

「サンダーバードっ!?」

 サンダーバードは初めて安らかな笑顔を浮かべると

「goodbye・・・」

 そのまま粒子となり、そして静かに消えて無くなった。












「フーン。偉そうな口を叩くから、どんだけふてぶてしい顔かと思いきや、結構可愛らしいじゃない♪」

 青い妖魔狩人の首筋を鷲掴みにしたまま頭巾を剥ぎ取ったパペット・マスターは、大きく口端を上げた。

 初めてその素顔を見せた・・青い妖魔狩人。
 その素顔は十代半ばくらいの愛くるしい美少女のものだった。

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「その可愛らしさは、マネキン・・・よりも、フィギュアの方がいいわね! うん、決めた! フィギュアにして、私の部屋に飾ってあげるわ♪」
 そう言って、不気味な笑顔を近寄せるパペット・マスター。

 青い妖魔狩人はパペット・マスターの手を外し逃れようとしたが、逆に取り囲んでいるマネキンたちに両腕両足を取り押さえられてしまった。
 一気に青褪める・・青い妖魔狩人。

「恐れなくていいわ。すぐに気持ちよくさせてやるから・・・」

 パペット・マスターはそう言って青い妖魔狩人の胸に手を触れた。
 そして優しく擦ってやる。それはまるで、産まれたての雛を触るように優しく丁寧に・・・。

「うっ・・・」

 まるで現実から逃避するかのように、思わず顔を背ける青い妖魔狩人。

 胸を擦るパペット・マスターの動きが少しずつ速くなり、時折揉みほぐしたり指先で胸の先端をクリクリと摘んだりする。
 それに伴い、青ざめていた青い妖魔狩人の頬もほのかに赤身を帯びてくる。

「フフ・・・」
 それを確認すると、パペット・マスターのもう片方の手は青い妖魔狩人のスカートの中へ忍んでいった。
 柔らかい内腿をなぞり、そして・・その付け根にある薄く白い布地に触れる。

「あ・・・っ!?」

 思わず声を漏らす青い妖魔狩人。
 パペット・マスターの指先は、そのまま白い布地を行ったり来たりと撫ででいく。

「だ・・・ダメっ!!」

 硬直したように、大きく仰け反る青い妖魔狩人。

「ウフッ! やはりまだ、そういう経験はないのね♪」
 ハァ・・ハァ・・と息を荒げながら、暖炉のように火照った青い妖魔狩人の表情を楽しむパペット・マスター。
 小さな口端から一筋の涎が垂れているのを見ると、ペロリと舌ですくい取った。

「甘く、上品な味・・・♪」
 更に白い布地の上で踊るように動きまわる指の動きに、もはや青い妖魔狩人は狂ったように仰け反るのみであった。

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「いいわね! その昂った魂・・・そろそろ頂くとするわ!」

 そう言ってパペット・マスターは青い妖魔狩人の唇に、強引に己の唇を押し当てた!
 舌で口内を舐めまわしその味を堪能すると、パペット・マスターは大きく息を吸い込む。

「う・・ぐっ・・・」

 小刻みに身体を震わせる・・青い妖魔狩人。

 どんなに弄ばれてもキリリと切り上げていた眉尻は、やがて力が抜けたように垂れ下がり、全身もグッタリし始める。

「ごちそうさま、過去・・1~2を争う程、美味しい魂だったわ♪」
 そう言ってパペット・マスターが唇を離すと、虚ろな表情の青い妖魔狩人は徐々にその身が縮んでいた。

コトンっ!!

 数秒後には、パペット・マスターの足元に小さな人形が転がっていた。
 嬉しそうに人形を拾い上げるパペット・マスター。
 それは、青い妖魔狩人をそのまま縮小したような高さ十数センチのフィギュア人形であった。

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「うん、予想以上に可愛い人形が出来上がったわ!」

 パペット・マスターは自身の目線より高めの位置に人形を持ち上げ、スカートの中を覗きこむ。

 本当に不思議な事だが、なぜかこの手のフィギュア人形というのはスカートの中を覗き込みたくなる傾向がある。
 それは、その手の人形を手にした人の九割はそうだろう。
 もちろんパペット・マスターもそうであった。スカートの奥から白い三角形が目に入り、ホッコリと表情を緩ませる。

「私の人形は見た目だけでなく、匂いなどもそのまま反映される。あとでじっくり楽しませてもらうわ!」
 パペット・マスターはそう言うと、青い妖魔狩人のフィギュアを座席の上に置いた。

 だが、その途端・・・・

「うぐぅ・・・っ・・!?」

 突然、パペット・マスターが胸を押さえ苦しみだした。
 その苦しみは尋常ではなく、辺りに設置された座席を蹴散らしながら右へ左へとのたうち回る。

「な・・・なんだ・・・この苦しみは・・・・」
 苦しみの中心となっている胸に目をやると、その胸を押さえている手が少しずつ消えかかっているのに気がついた。

「ま・・・まさか・・・!?」

 そう思った瞬間、

「そう、お前は今・・・浄化されつつある」
 と胸の中から声が響いた。

「まさか・・さっき吸い込んだ・・・魂・・。それか・・・!?」

「そうだ。お前が相手の魂を吸い込み、人形に変えるというのを知っていた。だから・・ワタクシは自身の魂に浄化の霊力を蓄えて、お前に吸い込ませたのだ」

「で・・では、平静を失い・・取り押さえられたのも・・、演技だったのね・・?」

「お前の言う通り、ワタクシは物理的な力でお前を倒す術がない。だから、お前がワタクシの魂を吸い込む・・・、そこにイチかバチか掛けてみた!」

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 青い妖魔狩人の言葉が進むにつれ全身に行き渡った浄化の力は、パペット・マスターの両手両足を消し去っていった。

「フフフ・・・ッ。やはり可愛い顔していても、性格はふてぶてしかったのね・・」

 パペット・マスターは何かに満足したようにニッコリと微笑むと、静かにこの世から消え去っていった。

 パペット・マスターが消え去るのと同時に座席に立てかけていたフィギュアがカタカタと揺れだし、そのままポトリと落ちる。
 落ちたフィギュアは拡大するかのように大きくなり、やがて苦しそうに佇む青い妖魔狩人の姿になった。

「恐ろしい敵だった・・・」
 そう呟くと、ドシンと腰を落とす。

 相当の疲労感を漂わせながら辺りを見渡す。

 そこには、ヌイグルミから元の姿に戻った祢々。
 同様にマネキンから人間の姿に戻った一般人の姿。
 皆、気を失っているが命には別状はなさそうだ。

 それだけ確認すると、青い妖魔狩人はその場に眠るように横たわった。




第十二章 蘇るマニトウスワイヤーへ続く。
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≫ EDIT

マニトウスワイヤー 第十二章 蘇るマニトウスワイヤー

 少しだけ時間を遡り妖魔狩人たちがそれぞれの敵と戦っているころ、凛と都はフェアウェイとアンナ・フォンがいるグランドに侵入し、マウンドへ向った。

 ピッチャーマウンドに仰向けに寝かされているフェアウェイ。

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 その周りには魔法陣らしきものが描かれ、その脇にパソコンが置かれているのが気になる。

「何の御用?」
 凛と都に気づいたアンナ・フォンは無愛想な表情で問いかけてきた。

「決まっていますわ、その子を返して頂きに参りました。素直に返せば良し。さもなくば・・・」

 相変わらず口調は丁寧だが赤い瞳を輝かせ、妖気と殺気を振りまいている都。

「フン。たかが虫ケラ妖怪の分際でデカイ口を叩いて。バカなの?」

 アンナ・フォンはそう言うと、何やら呪文を唱えながら両手を上げる。

 すると、その周囲に無数の小さな物体が、ブーン・・ブーン・・と羽音を立てながら飛び回り始めた。

 それはイナゴ。
 バッタによく似た虫・・・、無数のイナゴの大群。

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 アンナ・フォンはニヤリと微笑み合図を送ると、イナゴの大群は凛と都を目掛けて一斉に襲い掛かり始めた。

 一瞬にしてイナゴの大群に覆い尽くされた凛と都。


ガリッ・・ガリッ・・


 イナゴ達が無数の口で噛み砕くような音が聞こえる。

「無様ね・・・。弱小妖怪や人間なんて、所詮は無力な存在なのよ!」
 勝ち誇ったように笑みを浮かべるアンナ・フォン。

 再び手を上げイナゴたちに撤退を指示する。

 半分近くのイナゴは空中高く舞い上がり待機するが、残り半数近くはそのまま凛と都に纏わりついている。

「何をしているのっ!? 早くそこをどいてガキ共の死体を見せなさい!!」
 甲高いアンナ・フォンの叫び声が響く。

「死体・・・? たかがイナゴごときが捕食虫である『蜘蛛』を食い殺せると思っているのかしら? バカはそちらですわね!」

 あざ笑うような口調と共に、多くのイナゴたちが吊るし上げられる。

 それは、大きな蜘蛛の巣に張り付き身動きがとれないイナゴの姿。
 その後ろから姿を見せる凛と都。

「昔から飢饉の背景には食物を食い荒らすイナゴの大群があったと聞きます。そしてそれを操る悪魔と呼ばれる呪術使いが存在したことも・・・。どうやら貴女は、その力を受け継いでいるようですわね」

 空中で待機する残りのイナゴを見渡しながら、都は口元の牙を覗かせた。

「フン。だったら・・何だと言うの? 下等な妖怪がその程度の事を知ったくらいで、勝ち誇るんじゃないわよ!」

 そう強がるアンナ・フォン。
 だが、明らかに・・・焦りの色が表情に浮かんでいる。

「このお馬鹿さんの相手はわたくしがしますわ。黒い妖魔狩人・・・、貴方は今のうちにフェアウェイを・・・」

「わかった!」
 都の言葉に凛は倒れているフェアウェイに駆け寄った。

 フェアウェイの顔の周りを飛び交う金鵄。

「凛、呼吸音が聞こえる。どうやら無事のようだ!」

 金鵄の言葉にフェアウェイを抱き起こす凛。

「フェアウェイ。しっかりしろ、フェアウェイ・・!」
 同じようにフェアウェイに駆け寄った香苗も必死で声を掛ける。

 その言葉が耳に届いたのか? フェアウェイは薄っすらと瞼を開ける。

「フェアウェイっ!?」

 高まる安堵感!

 やがてパッチリと目を開いたフェアウェイは、状況を把握するかのように辺りを見渡す。

 そして、自らの両足でマウンドに立ち上がった。

「よかった・・・、もう・・大丈夫だぞフェアウェイ!!」

 嬉しさのあまり香苗はフェアウェイに飛びついた。


「・・・・・・・・・・」


 だが、そんな香苗を見る目は冷たい。

 それどころか・・・


バシッッ!!


 思いっきり逆手で香苗の身体を吹き飛ばした!!

「どういう事ですの? あれ程・・あのヌイグルミを気に入っていたのに・・・?」

 フェアウェイの異変に、都も目を疑った。

「下等生命体が気軽に余に触れるでない!」

 低く重い言葉が、フェアウェイの口から発せられた。

「凛っ・・気をつけろ!! 強い魔力が子どもから吹き出している!!」
 直ぐ様・・空高く退避した金鵄は、慌てて凛に注意を促した!

 数歩身を引いて弓を構える凛!

 フェアウェイは黒い靄のような魔力を身に纏いながら、ゆっくりと宙に浮かびだした。


「ま・・・まさか・・・!?」


 誰もが何が起きているのか・・。まったく理解できなかった。
 それどころか今の今まで、アンナ・フォンの背中の瘤が無くなっている事に気づく者もいなかった。

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「我が名は、エノルメミエド。全ての精霊を支配する者・・・」




 フェアウェイの口から発せられる、低く重い言葉。

「バカな!? もう・・・転生の儀式は終わっているというのか? こんな短時間で!?」
 驚きの声を上げる金鵄。

「ククク・・・! たしかに一昔前ならもう数時間はかかったであろう。だが今の時代はコンピューターという便利な機器がある。これを魔法陣に接続し魔力経路を増幅することによって、短時間での儀式を可能にしたのだ!」

 ドヤ顔どころか、大口開けて欣喜雀躍するアンナ・フォン。

「う・・嘘だろ・・・フェアウェイ・・。嘘だと・・言ってくれ・・・!」
 大粒の涙を流しながら泣き叫ぶ香苗。

 そんな香苗を鬱陶しそうに見つめるフェアウェイ・・・いや、エノルメミエド。
 静かに人差し指を香苗に向ける。

「あ・・・危ないっ!?」

 咄嗟に飛び出す金鵄!

 金鵄の足が香苗を掴み空中高く舞い上がったのと、エノルメミエドの指から発せられた炎の塊がグラウンドを焼き焦がすのは、ほぼ同時であった。

「バカめ! もう・・そのガキは今までの天女のガキではないのよ。マニトウスワイヤー様なのよ!!」

 相変わらず歓喜に酔いしれるアンナ・フォン。

「さぁ・・マニトウスワイヤー様! 一気に他のガキ共も焼き殺してくださいな♪」
 いつの間にかエノルメミエドの前に立ち、凛や都を指さした。


「誰に命令している?」


 低い声がアンナ・フォンの頭上にのしかかった。


「・・・・・!?」


 恐る恐る・・振り返るアンナ・フォン。

 そこには宙に浮かんだまま、冷たく見下ろすエノルメミエドの視線が・・・。

「わ・・わたし・・は・・、命令して・・いるわけで・・なく、ただ・・マニトウスワイヤー様の・・・お力で・・・・・」
 まるで氷の塊を押し付けられたかのようにガタガタと震えるアンナ・フォン。

「お前は余が転生するまでの乳母車のような存在。だが・・もう、役目は終わった」

 何の感情も無く、淡々と話すエノルメミエド。

 そしてブツブツと二言・・・三言呟くと、その背後に炎に覆われた大きな爬虫類の様な生命体が姿を現した。

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「サラマンダー・・!? 西洋の・・炎の精霊・・・!?」
 金鵄が呆然としたように呟いた。

「冗談でしょう? ファンタジーゲームでも高ランクの四大精霊の一人じゃないの!?」

 香苗の着る魔法戦士のコスチュームを作るくらい、ファンタジーゲームにも精通している都。
 当然妖怪としてのその本能は、その強さが嘘で無いことを見抜いていた。

 サラマンダーは何も言わずアンナ・フォンに襲いかかると、一瞬でその身体を焼き焦がした。
 悲鳴を上げる間もなく沈黙したアンナ・フォン。

 思いもしない出来事に固まったように動きが止まる・・凛と都。

 サラマンダーは次は都に狙いを定めると、一気に襲いかかった。

「くっ!?」

 さすがに都はアンナ・フォンとは違う。

 瞬時に天井に設置されている照明器に糸を吹き付けると、そのまま飛び上がり攻撃をかわした。

 だがサラマンダーも方向転換し、再び襲い掛かる。

「てんこぶ姫っ!!」

 都を援護するように凛が二発の霊光矢を放った。

 サラマンダーは危機を察知し、口から炎の塊を吐き出し霊光矢を撃墜する。

 その瞬間を都は見逃さない。

 逆に跳びかかり、鋭い爪でサラマンダーを引き裂く!!
 致命傷にはならなかったが、ある程度のダメージを与える事に成功。

 更に凛の霊光矢が追い打ちを掛ける。

 一発がサラマンダーの腕に突き刺さり、浄化の力でその腕を消し去った。

「一気にトドメを刺しますわよ!」

 サラマンダーに向って駈け出す都。霊光矢で援護射撃をする凛。

「蜘蛛女、危ないっっ!!」

 佳苗の叫び声で、理由も分からず糸で天井に回避した都。

 なんと都が駆け出していた数十メートルが、アイスリンクのように凍りついていた。

「凛、向こうだっ!!」
 金鵄の言葉で振り返る凛。

 そこには白い着物に身を包んだ、色白の女性が立っていた。

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「雪女郎・・・。日本の妖怪までも自在に召喚し、操ることができるのか・・?」

 同じ日本の妖怪として驚きを隠せない金鵄。


「うむ・・・。少しずつだが身体のコントロールがつかめて来た」

 エノルメミエドはそう呟くと、サラマンダーにドームの屋根を炎で熱するように命じた。

 高温で真っ赤になった屋根を、なんと今度は雪女郎が吹雪で凍らせていく。 それは温度変化による金属劣化。
 エノルメミエドは軽い衝撃波を放つと、屋根は砂の城のようにボロボロと崩れ落ちた。

 そのまま高く飛び上がり真夜中の丘福市を見渡す。

 深夜でも明るい街並みに、車のヘッドライトやテールランプが帯のように流れる。
 アジアでも有数の美しい夜景。

 エノルメミエドは丘福市を見下ろしながら、呪文を唱え始めた。

 するとまるで大地震のように、街全体が大きく揺るぎ始める。

 アチコチで地割れが起き、中から地霊や死人が湧き出てくる。

 大気中には妖精と呼ばれる・・虫のように小さく羽の生えた小人達。そして人間と鳥が合成したような醜い鳥妖怪たちが羽ばたく。

 彼らは一斉に人や街を襲いだした。

 地霊は大地を揺るがし、風の精は突風や竜巻を巻き起こし、そびえ立つ建物を破壊。
 路面を走る車は次々に衝突して炎上。

 町中を群れをなして歩く死人は手当たり次第・・人々に食らいつく。

 海からは水霊や海獣が波を荒立て、今にも巨大な津波が街に襲いかかりそうである。


 もはや、あっという間に丘福市は地獄絵図と化していった。

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 スタジアム内のテレビと連動していたバックスクリーンの電光掲示板にその光景が映し出され、そのおぞましさに凛や香苗の表情は青褪めていく。

「わたくしのテリトリーを弄くり回すのは止めていただけるかしら!?」

 空中高く飛び上がった都は、次々に糸を吹き出し呪文を唱え続けるエノルメミエドを縛り付けた。

「ふんっ!!」
 都にしては珍しく掛け声を上げると、一気に糸を手繰り寄せエノルメミエドをグラウンドに叩きつけようとする。

 しかしサラマンダーも飛び上がり火球で糸を焼き切ると、エノルメミエドは身を翻し綺麗にグラウンドに着地する。
 再びエノルメミエドを守るように、前に立ちはだかるサラマンダーと雪女郎。

「・・ったく、精霊の支配者という通り名は伊達じゃありませんわね。ここまで事態が悪化するとは・・・」

 凛の元に飛び降りた都は眉間に皺を寄せて呟く。

「このままマニトウスワイヤーを放っておくと、本当に日本はおろか世界は崩壊する!」
 金鵄も電光掲示板に映しだされた街の様子を見ながら表情を歪ませる。

「もう・・、もう・・・フェアウェイを殺すしか手は無いのか・・?」
 そう言ったのは香苗。

「仕方ありませんわね・・・。アレはもう・・フェアウェイでなく、ただの化け物なのですから・・」
 そう返答しながら都は唇を噛みしめる。

「ううん・・・。まだ方法はある・・・」
 今まで黙っていた凛が静かに口を開いた。

「!?」

「わたしには霊気とか・・妖気を読み取る力があるの。あのマニトウスワイヤー。おそらく・・まだ完全には、その霊体がフェアウェイの肉体と融合しきっていない」

「本当なのか・・・凛!?」

「うん。フェアウェイの魂が必死で融合に抵抗し続けている。だったら私の霊光矢で急所を撃ち抜けば、マニトウスワイヤーの霊体だけを浄化できるかもしれない。」

 凛の言葉に誰もが顔を見合わせた。

「問題は一撃で急所、すなわち霊体が宿る・・心臓を撃ちぬかなければいけないこと。身体の他の部分に当たったら、浄化する前にその部分を切り落とされる。そうしたら二度目のチャンスは無い!」

「たった一度だけのチャンス・・・」
 金鵄が溜息混じりで漏らす。

「上等ですわ! その一度きりのチャンスはわたくしが作ります! だから貴女は弓を構えたまま・・突っ立っておけばいいですわ!」

 微笑みながらも都の力強い眼差しが、凛を眼(まなこ)を貫く。

 その眼差しに答えるように、凛もニコリと微笑むと無言で頷く。

「いける!! 妖魔狩人と蜘蛛女の二人なら、フェアウェイを助けられる!!」
 香苗はそんな二人に、確かな手応えのようなものを感じた。

 それは、当の二人が一番・・感じ取っていたのかもしれない。
 その信頼感は半日前に命のやり取りをした者同士とは思えない。
 いや、逆に命のやり取りをしたことが、二人の信頼感を強めたのかもしれない。

「でも・・凛、てんこぶ姫。マニトウスワイヤーが召喚した精霊が当然邪魔をしてくるはずだ。それにはどう対応する?」
 金鵄はサラマンダー、雪女郎を眺めながら問いかける。

「そいつらならワタクシたちが抑える!」

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 そう言って傷ついた身体を引き摺るように現れた、青い妖魔狩人と祢々の二人。

「青い妖魔狩人・・・? その素顔は・・・まさか・・・!?」
 金鵄はそう返そうとした。

「ワタクシの正体なんか後でいい。それより今は奴らの殲滅が先だ」
 青い妖魔狩人の言葉に金鵄は黙って頷いた。

「それじゃ・・行きますけど、精霊共は本当に任せていいのですね?」

「いらぬ心配だ。それより・・お前こそ途中で逃げ出すんじゃないぞ。妖怪は信用できないからな」

 青い妖魔狩人の言葉に、都は赤い瞳を爛々と輝かせ、

「わたくしも姫の冠は伊達では無いことを証明してみせますわ!」
 と不敵に笑い真っ先に駆け出していった。

 すぐ後に続く青い妖魔狩人と祢々。

 都たちの反撃に反応したサラマンダーと雪女郎。

 左右から、炎と吹雪の攻撃を繰り出してくる。

「氷を操れるのは、お前達だけではない!」
 青い妖魔狩人はそう言って都とサラマンダーの間に入る。

「氷塊盾!!」
 両手を前に掲げ氷の塊による盾を作り、サラマンダーの炎を遮った。

 一方・・祢々は雪女郎との間に入り、金棒を風車のように回転させ吹雪を払いのける。

「さすがですわ!」

 その間に都は一直線に突っ走っていく。

 そんな都を冷ややかな眼差しで迎え撃つエノルメミエド。
 エノルメミエドの指先から小さな火球が次々に放出される。

 負けじと手のひらから糸を噴出する都。

 エノルメミエドの両手両足を絡みつかせ、一気に拘束しようと立て続けに糸を噴出する。


 だが・・・


「うぐっ・・・!?」

 攻め押していた都が、いきなり頭を抱えて苦しみだした。


「あぁぁぁぁっ!!」


 その苦しみ様は並大抵ではない!

「どうしたんだ!?」

 慌てて飛び寄る金鵄。しかし・・その金鵄も、


「うわぁぁっ!!」


 いきなり苦しみ藻掻いて、その場に落下した。

「どうしたの・・・?」

 構えていた弓を降ろし、状況を把握しようと見守る凛。

「命令だ・・・・。頭の中に・・マニトウスワイヤーの・・命令が、押し付けられる・・・・」
 金鵄が苦しそうに呟いた。

「支配!? てんこぶ姫も金鵄も精霊と同じ・・亜種生命体。だから、他の精霊と同じように支配できるのだ・・・!?」
 サラマンダーと対峙しながら、状況を見ていた青い妖魔狩人はそう答えた。

「り・・・凛・・・・」
 苦しそうに声を漏らす金鵄。

 その瞬間、金鵄の目は真っ赤に輝き空中高く舞い上がると、嘴を突き出し・・凛目掛けて急降下。


グザァツ!!


 鋭い嘴が凛の戦闘服を切り裂く。

 ついに金鵄がマニトウスワイヤーの支配下に置かれ、凛を攻撃しだしたのだ。

 凛の戦闘服は金鵄の霊力が篭った羽で編まれ、鋼の鎧に匹敵する防御力を持つ。
 だが、攻撃相手が同じ霊力の持ち主である金鵄だと、その力は相殺され普通の衣類と変わらない。

「金鵄・・・・」

 繰り返し襲いかかる金鵄に凛は一切抵抗できず、全身のアチコチに切り裂かれた傷が増えていく。

「金鵄、貴方とは戦えない・・・」
 繰り返される攻撃に凛はついに跪いてしまった。

「このまま・・妖魔狩人が倒されたら・・・」
 為す術もなく青い顔で見守る香苗。


「蜘蛛女・・・・」

 香苗は都に視線を送る。相変わらず頭を抱え苦しみ悶える姿が。

 そんな都の下に香苗は一目散に駆け寄ると・・・

「頼む・・・蜘蛛女、負けないでくれ・・・。お前が負けたら、全てが・・・。妖魔狩人もフェアウェイも街中も・・・。みんなが倒れてしまう・・・」

 涙ながらに訴えた。

「うぐっ・・・ぐっ・・・」

 言葉が届いているのか、いないのか・・。
 都は右に左に転げまわる。

 その状況を見つめていたエノルメミエド。

 新たに風の妖怪・・カマイタチを召喚すると、必死に都に呼びかける香苗に対して攻撃の指示を出した。


ズバッッ!!


 カマイタチから『真空魔法』が繰り出され、香苗の身体が切り裂かれる!


「ううっ!!?」


 いくらヌイグルミの身体とは言え痛みは感じる。
 切り裂かれた傷から綿がこぼれ落ち、その痛みは尋常でないはずだ。

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 それでも香苗は呼びかける。必死に・・何度も何度も・・・。

 香苗の身体もアチコチ切り裂かれ、意識も朦朧としてきた。


「た・・頼む・・よ、蜘蛛女・・・。い・・や・・・、てんこぶ・・ひ・・・・」

 そこまで言うと、香苗はついに力尽きて倒れてしまった。

 それを確認したかのように、カマイタチは止めの一撃を繰り出そうとしている。


シュッッッ!!


 そんなカマイタチの身体を、白く光る細い糸が幾重にも幾重にも・・巻き付いていった。

「・・ったく。姫と名乗るわたくしが下々の訴えに耳も貸さずに朽ち果てるなんて、許される事じゃないのですよ。まして、敵の支配下に陥るなんてことは死にも値する事ですわ!」

 真っ青な顔色だが赤い瞳を輝かせ、都は一気に糸を手繰った。
 そして、その勢いでカマイタチの胸を手刀で貫いた!!

 更にそのまま振り返り、金鵄にも糸を巻きつけその動きを封じこめた。

「てんこぶ姫・・・」

 凛が言葉を掛けるが、都は何も言わず気を失った香苗を担ぎあげると、グラウンドの隅に寝かしつけた。


「ありがとう・・・」


 それは側にいても聞こえにくい、小さな・・小さな呟き。


「マニトウスワイヤー・・。過去・・・貴女ほど本気で殺したいと思った相手はいませんでしたわ」

 怒りを噛みしめるように、ゆっくりと歩み寄る都。

 凛は再び弓を構え、いつでも攻撃できるように気を引き締める。

 スイッチが入ったように駈け出した都は、またもエノルメミエド目掛けて糸を吹き付ける。


「こんな子ども騙しの術が、本気で通用すると思っているのか?」

 降り注ぐ糸を真空を纏わせた手刀で切り裂いていくエノルメミエド。

「もちろん通用するとは思っていませんわ。これは貴女の注意を惹きつけるだけのもの・・・」

 都はそう言うと、一気に飛び上がりエノルメミエドの背後についた。
 そして、そのまま羽交い締めで抑えこむ。

「黒い妖魔狩人……今です!! 今すぐに、撃ち込みなさい!!」

 身動きとれないように更に力を込め、凛に向って叫んだ!


「てんこぶ姫・・・!?」

 弦を引く凛。

 だが、なかなかその矢を放つ事ができない。

 もし霊光矢が貫通し、その後ろにいる都にも刺さったら。
 都も妖怪。間違いなく浄化で消滅するだろう。それは先の戦いで証明されている。

 その間も必死で都を振りほどこうとするエノルメミエド。

 しかし、全ての妖力を込めてエノルメミエドを抑えこむ都。

「早くしなさい! たった一度のチャンスをわたくしは作ったのですよ!!」

 都の言葉にチラリと電光掲示板に目をやる凛。
 相も変わらず邪悪な精霊に襲われている街並みが映し出されている。


「ごめん・・・。てんこぶ姫・・・」


 そう呟くと、凛は弦を持つ手を緩め霊光矢を撃ち放った。

 青白い閃光が向かってくる。それを見てニコリと微笑む都。


 その時!!?


 エノルメミエド・・・いや、フェアウェイが身につけていたライトブラウンのポンチョがまるで意思をもったかのように・・大きく翻った!


「な・・・!?」


 予期せぬ事と・・、そのあまりの力に都の手が振りほどかれる。

「こ・・こんなことが・・!?」
 宙を舞う木の葉のようにエノルメミエドから離れていく都。


 その都の耳に・・・


― ありがとう・・てんこぶ姫。あとは私にまかせて・・・―

 静かで暖かな口調の女性の声が入ってきた!?


「そ・・その声は・・・?」

 聞き覚えのある声に驚愕する都。

 都の身体を振りほどいたポンチョは、今度はエノルメミエドの手足を拘束するようにギュッッッッ!!・・と締め付けた。

「ま・・まさか、あなた・・・・、バレンティア・・・ですの!?」

 必死で暴れ狂うエノルメミエドを更に力強く締め付ける・・・ライトブラウンのポンチョ!!


ズブッッッッ!!


 ついに、身動きできないエノルメミエドの胸に霊光矢が命中したっ!!


「ぐあっっっっ・・・!!」


 吹き飛ぶように倒れこんだエノルメミエド。

 突き刺さった胸を中心に青白い粒子が全身に行き渡っていく。

 必死で矢を抜こうともがき苦しむエノルメミエドだったが、やがて徐々にその動きが鈍くなり、ついには力尽きたように横たわった。


 すぐに駆け寄り、エノルメミエドの意識の確認をする凛と都。

 エノルメミエドはピクリとも動かない。
 都の視線は穴の開いたポンチョに移る。

 先程とは違い、倒れているフェアウェイの身体をゆったりと包んでいる。

「バレンティア・・・。貴女は最後の最後までフェアウェイを・・・。それどころか、わたくしまで助けてくださるなんて・・・。」
 都はそう呟きながら目を細めた。





第十三章 闇の女神へ続く。
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マニトウスワイヤー 第十三章 闇の女神

「フェアウェイ・・・、しっかりしなさい!!」

 都は倒れているフェアウェイを抱え起こし、しきりに声を掛ける。
 その声が耳に届いたのか、フェアウェイがピクリと反応した。

 更に・・・

「バレン・・ティア・・・・」
 と、言葉を返した。

「どうやら無事のようですわね・・・」

 都は肩の荷を降ろしたように、ホッと溜息をついた。

「てんこぶ姫っ!! なんか・・おかしくない!?」
 安心する都とは裏腹に動揺した凛の叫び超えが聞こえる。

 凛の声に眉を潜めながら辺りを見回してみる。

「これは・・いったい!?」

 エノルメミエドは凛と都で倒したはず。フェアウェイは元に戻っている・・・。

 だが、すぐ目と鼻の先で、青い妖魔狩人と祢々は、エノルメミエドが召喚した精霊とまだ戦い続けたまま。

 バックスクリーンのモニターに映し出される光景は今も変わらず、邪悪な精霊が蠢き人々を襲い続け、街は火の海と化している。

 たしかに凛が驚くのも無理は無い。

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「まさか・・・?」

 驚きを隠せない二人。そんな二人の耳に・・・・


「ククク・・・ッ!」


 低く、不気味な笑い声が聞こえてきた。

 同時に、抱き起こされているフェアウェイの身体から、黒い靄のようなものが抜けだした。
 黒い靄は、まるで蛇のようにクネクネと蠢きながら空中を移動すると、焼き焦がれたアンナ・フォンの死体の上で停止する。

 すると、アンナ・フォンの口から気体のようで、また半液状のゼリー状の白い物体が浮き上がってきた。

「エクトプラズム・・・!?」

 先程エノルメミエドの支配下に置かれ、都に糸で拘束された金鵄が元の口調で答えてきた。

「金鵄、正気に戻ったの!?」
 凛が慌てて駆け寄る。

「うん、迷惑かけてすまなかった・・・。もう・・エノルメミエドの命令は僕には届いていない」
 金鵄はそう言って、コクリと頷いた。

「で、エクトプラズムって・・?」

「エクトプラズムとは、霊体と肉体の中間に位置する幽体を作る素材のようなもの。誰の身体にも備わっているものだ」

 そう言っている間に、アンナ・フォンの身体から抜き出したエクトプラズムを黒い靄はその中に取り込んでいった。
 すると、黒い靄は次第に、人間の様な形に変化していく。

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「サラマンダー、雪女郎・・。その力、その身体を余によこせ!!」

 人型になった黒い靄はハッキリとそう叫んだ。

 その言葉を聞いたサラマンダーと雪女郎は戦闘を中断し、黒い靄へ駆け寄る。

 二人の身体はそのまま黒い靄に取り込まれていった。

「どういうことだ・・・!?」
 戦いを中断された青い妖魔狩人も肩で息をしながら状況を見守る。

アンナ・フォンのエクトプラズム。サラマンダーと雪女郎の身体を取り込んだ黒い靄。

 中途半端に形成された人型は更に細部に渡って形成され、やがて一人の美しい女性の姿へと変貌した。

 それは、怪しく輝く・・長く真っ直ぐな髪。切れ長の目に、深い・・深い湖のように暗く蒼い瞳。長身で非の打ち所のない見事なプロポーション。

 日本の卑弥呼とエジプトのクレオパトラを足して割ったような、見るからに女王の威厳を持った雰囲気。

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「どうやら、アンナ・フォンと呼ばれる女のエクトプラズムをベースに他の二人の精霊を融合させ、一つの器となる肉体を形成し魂を取り憑かせたようだ・・・」

 凛に糸を解かれた金鵄は、ゆっくりと羽ばたきながらそう答えた。

「危ない所だった。せっかく手に入れた天女の身体だったが・・・。だが、肉体を切り捨てなければ魂までもが浄化されてしまうところだった・・・」

 先程以上に、重く冷たい言葉が新たな肉体から発せられる。

「一時的に新しい身体を形成したが、この肉体はそう長くは保たぬ。再び転生の儀式を施し、再度改めて天女の肉体に融合する日。それまでにまた・・・深き眠りにつき、幾年も魔力を貯めこまなくてはならない・・・。」

 沈んだ面影でそう語るエノルメミエド。

「それだけに、この度・・永遠の命を手に入れるチャンスを邪魔してくれた貴様らに天罰を与えてくれようぞ!」

 黒い、光を通さないオーラを纏わせ、エノルメミエドはゆっくりと左手を上げた。

 その先が祢々に向いた瞬間・・・!!
 螺旋状に舞う、無数の粉雪が祢々の身体を覆った。

「あぁぁぁっ!?」

 瞬時に氷漬けに固められた祢々。


「祢々・・っ!!」

 青い妖魔狩人が、直ぐ様治癒の術を使おうと右手を上げる。


 だが、その青い妖魔狩人にも粉雪の舞いが襲いかかる。
 なんと青い妖魔狩人も、そのまま凍らされてしまった。

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「気をつけろ・・凛! 雪女郎の時より、はるかにレベルの高い吹雪の術だ!!」
 金鵄の警告が響く!!

 狙い撃ちされぬよう大きく二手に分かれる凛と都。

 都はそのまま観客席に飛び入り、抱えていたフェアウェイを寝かしつけた。


「くらえっ!!」

 凛の弓から、青白い閃光・・霊光矢が放たれる!!

 エノルメミエドは慌てた様子もなく凛に向い吹雪を舞い起こすと、霊光矢を押し戻すように弾き返す。

 一方都は、そんなエノルメミエドの背後に廻っており、その背に鋭い爪を突き立てた!!


「な・・っ!?」


 突き立てた爪はエノルメミエドの身体に触れることなく、黒い靄によって取り押さえられている。

 黒い靄は強力なバネのように、そのまま都の身体を弾き飛ばした。
 激しくグラウンドに叩きつけられる都。

「なんですの・・・。あの黒い靄は・・・?」

「闇の障壁・・・・・」
 金鵄がポツリと呟く。

「闇の・・障壁・・・?」

「そうだ、青い妖魔狩人が言っていたよね。マニトウスワイヤーの属性は『闇』だと。その闇属性による強力な防御壁をヤツは身に纏っているんだ・・・」

 そう語る金鵄の表情は硬い。

「凛の属性は僕と同じ・・風(大気)。そして、てんこぶ姫の属性は、おそらく・・土(大地)のはずだ。だが、マニトウスワイヤーのような強い闇属性の持ち主だと、風・土・火・水による自然の四大属性では打ち破ることが難しいかもしれない」

 金鵄の悲痛の言葉に、凛の表情も更に硬くなる。

 そんな凛たちにお構いなく、エノルメミエドは追い打ちを掛けるよう攻撃を続ける。
 周り全てを焼きつくすような強力な炎の渦が、凛を・・・都に襲いかかる!!


「うあぁぁぁつ!!」


 いくら強力な防御力を誇る戦闘服を着ていても、それを上回る攻撃を受ければダメージは必至だ!

「くそっ!!」

 凛も霊光矢で必死に反撃を試みてみるが、炎や吹雪の術に阻まれてしまう。

 また、それらを潜り抜けても、闇の障壁によってエノルメミエドの本体に矢が届く事はなかった。

「凛の霊光矢が命中さえすれば、浄化して倒す事も可能かもしれない・・・。だが、あの闇の障壁は今の僕等には打ち破る術がない・・・・」

 今まで数々の助言で凛を支えてきた金鵄。しかし、その金鵄すら・・全てを諦めかけている。

 そして、凛や都にも長時間の戦いによる激しい疲労やダメージの色が、ハッキリ表れている。
 いや、むしろ立っている事自体が、奇跡なのかもしれない。

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「さすがに打つ手無しといったところかしら? こんな事なら素直に家でも帰って、ドレスでも縫っているんでしたわ」
 そんな状態なのに、相も変わらず都の軽口。

 くすっ・・♪

 凛は思わず吹き出してしまった。

「・・・?」

「ううん。てんこぶ姫って、あまりに人間っぽくて妖怪とは思えない」
 凛は、そう微笑みながら答えた。

「フッ・・! そう言う貴女こそあまりにお人好しすぎて、あの中国妖怪共が恐れをなしている・・妖魔狩人とは思えないですわ!」
 都もお返しとばかりに微笑みながら、そう答える。

「お人好し・・なのかな? でも・・・・」

「うん?」

「でも、諦めの悪い・・ひねくれた性格だと思うよ!」

 真面目な凛にしては珍しく黒い発言。
 その言葉に同調するように、不敵な笑みを浮かべる都。

「それは、わたくしもですわ!」

 その言葉を合図に、二人はエノルメミエドに向って再び駈け出した。

「てんこぶ姫! わたしの浄化の力で強引に障壁に穴を開けてみせる。だから貴方はその時を狙って一気に貫いて!!」
 そう叫びながら、凛は弓を構えた。

「心得ましたわ!」

 都は一層爪を鋭く尖らせる。


シュッッ!!


 風切音と共に霊光矢が放たれた。だが案の定・・それは闇の障壁に突き刺さるだけで、本体へは届かない。

 だが凛は更に霊光矢を形成すると、そのまま逆手に握りしめ大きく振りかぶる。

 そして障壁に突き刺さっている矢の筈を目掛けて、矢尻で押し込むように振りぬく・・・


 いや、振りぬこうとした瞬間・・・


バキッッッ!!


 逆に振りぬいたエノルメミエドの左腕が、凛の身体を弾き飛ばした!!


ガンッッッ!!


 勢い良くすっ飛び、フェンスに直撃する凛!
 フェンスは粉々に崩れ落ち、凛もグッタリとしたまま起き上がれない!


「黒い妖魔狩人!?」


 慌てて駆け寄ろうとする都をエノルメミエドは吹雪で遮る。

 そして右腕をあげ炎の渦を巻き上げると、狙いを凛に定めた。

「凛ーっ!!?」

 金鵄の悲痛な叫び声が響き渡る!



 その時・・・・


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「サンダー・・ブレイクーっ!!」




 真横一直線に飛び交う雷撃が、炎を纏うエノルメミエドの右腕を直撃した。

 その威力は激しく、一瞬で纏っていた炎すらも消し飛んでしまった。


「うむ・・? まだ他にも余に歯向かおうとする奴がいるのか・・・?」

 エノルメミエドは雷撃が飛んできた方角を睨みつける。


 その方角から一つの人影がゆっくりと歩み寄る。都も金鵄も呆然としたまま人影を見守る。

 人影はやがてグッタリと倒れている凛の側に寄ると、優しく右手を差し出した。


「だ・・・だれ・・・?」


 虚ろな目で見つめる凛。


 凛の目に映る・・その人物は。

 小柄で10代前半か半ばくらいの凛々しい顔立ちの少年・・・・?
 いや、胸にはチューブトップ。そして・・ミニスカートを履いている・・・。


「お・・女・・の子・・・?」


 凛がそう呟いた瞬間・・・



「遅れてごめんね! ボクの名は『神楽 巫緒』。


周りのみんなは・・『ミオ』って呼んでくれている」


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そう言って、ニッコリと微笑んだ。




 その頃、ドームスタジアム外の野外イベント場。

 次から次へと湧き出るように現れる地霊や死人に、優里は大苦戦を強いられていた。

 地霊や死人・・。いつもの優里なら『雑魚』と言っても過言ではない敵。

 だが、強敵・・サンダーバードとの戦いで体力も・・そして霊力も使い果たし、立っているのさえ苦しい状態で、当然・・・薙刀を振るえるような力なんか残っていない。

「凛ちゃん・・・、今行くわ・・待っていて・・・」

 それでも必死で立ち上がるのは、球場内の闇の力が更に増していったことを感じ取っていたから。
 その中心で凛が戦っていると思うと、とても居ても立ってもいられない。

 しかし、その気持とは裏腹に、足が一向に前に進まない。


「凛・・ちゃん・・・」


 そんな優里に十数匹の地霊が襲いかかる。

 必死で迎え撃とうとする優里・・・。だが、構えることすらままならない。


 その時・・・!?




「ロック・ダイビング!」


 何処からか呪文のような掛け声がかかったかと思うと、まるで豪雨のように無数の岩石が降り注いできた。
 降り注ぐ岩石に次々に押し潰される地霊や死人。


「こ・・これは・・・!?」


 驚く優里。そんな優里に・・



「そこの球場には、アンタにとって大切な子でもいるのかい?」



 背後から、張りのある力強い口調の言葉が・・・。

 それは、若草のような鮮やかな翠色の髪。艶やかな褐色の肌。誰もが羨むような、整ったプロポーション。

 しかし、尖った耳・・。金色に光る瞳・・・。口元から覗く牙のような歯・・。

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「あれは・・『魔族』の女性・・・!?」

 物陰で様子を見ていたセコは新たに現れた人物を見て、思いがけない言葉を呟いた。


「そんな死にかけの身体のくせに、それでも向かおうとするなんて。アンタにとってよっぽどその子は大切なんだろうね~♪」

 褐色の肌の女は、再び優里に問いかける。

「アタシにも、とっても美味し・・いや、大切な子がいてね! どうやら今回の事件の関係者の一人らしいんだけど」
 女性はそう言って、目を細めると・・

「そろそろ…その子が、アンタの大切な子がいる場所に辿り着いているはずだよ!」

「関係者・・・? 貴女はいったい・・・?」

 優里の問いに女は不敵な笑みを返した。


「アタシ・・? アタシは、ノーストル=シグーネ=アスタロト」











 ここ、スタジアム内の飲食店が並ぶ通路で、千佳が這いずりながらグラウンドに向って進んでいた。

 千佳も体力はまるで残っていない。
 それに付け加え、唯一の武器である灼熱爪の右手は完全に粉砕している。

「凛・・・今・・行くっちゃ・・・」

 それでもグラウンドから増強した邪悪な魔力を感じ取り、凛のために動かぬ身体を引きずっている。

 そんな千佳にも死人や骨だけとなったアンデットモンスターが襲いかかる。

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 必死で払いのけながら前へ進む千佳だが、当然・・その抵抗にも限界がある。
 あっと言う間に抑えこまれ、鋭い歯がその体に食い込もうとしていた。


「ウェポンアーム・・レーザーモード!!」


 その時、若い女性の声が響き渡ったかと思うと、行く束の赤い閃光が駆け巡った。

 赤い閃光は、千佳にのしかかっていた死人共を撃ち倒していく!!

 更に・・・

「ウェポンアーム・・ヒートソードモード!!」

 閃光のように走る人影が次々にアンデットを薙ぎ倒す。


「右手が・・銃になったり・・・、剣に・・なったり・・・?」

 九死に一生を得た千佳が見たものは、剣化した右腕でモンスターたちを切り払う・・紫色の髪をした若い女性。


「もう心配ありませんよーっ♪」

 突然、頭の上から・・甘い声が振りかけられる。

 驚いて見上げると、そこには一人の少女が立っていた。

 少女は十代半ば・・女子高校生くらいの年頃。
 水色の長く透き通るようなストレートヘアに、海のように綺麗な瞳。

 それは、優里に負けないくらいの美少女であった。

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「酷い怪我をしちゃってますねぇ。特に右手がぁ・・・!?」

 少女は千佳の身体を見て縦線が入るくらい顔をしかめる。

 そして、右手で優しくその身体に触れると、
「全ての水の源・・その身体を癒やし給え。ヒーリング!!」
 と呪文を唱えた。

 光り輝く霧が千佳の身体を覆うと、見る見るうちに傷が癒えていく。

「青い妖魔狩人のような・・治癒の術なんね?」

「私のは魔法ですけどね。あとぉ・・その右手ですけど、それって妖力で変化した手ですよねぇ?」

 少女の言葉に千佳は頷いた。

「なら、今すぐでは無理ですけど・・・、私と私の師である神官さんの二人でやれば、きっと治せると思います~ぅ!」

「マ・・・マジ・・ね・・!?」

「ハイ~っ♪」

 そう微笑む少女の笑顔は、それだけで癒されるような心地良い笑顔だった。

「アンタ、一体・・何者っちゃね!?」

「あ・・っ、申し遅れました。私は~、水無月 聖魚(セイナ)。そっちの人は・・黒祥 紫亜(シア)さんっていいます!」



「神楽・・・巫緒・・・・?」

「噂で聞いた、光属性の・・奇跡の天女・・?」

 その名を聞いて驚く都・・そして金鵄。


「貴女が、そのミオさん・・?」

 凛の問いに、ミオは凛の手を握り引き起こしてやると・・

「本当はもっと早くボクがフェアウェイを預かる予定だったんだけど、ボク等の方にも彼奴(アイツ)等の邪魔が入ってね。それで遅れてしまった。本当にごめん!」
 申し訳無さそうに微笑んだ。

「それにしてもキミは凄いね。いくら霊力が高いと言っても生身の普通の人間。なのに、ここまで頑張れるなんて! 初めて見たよ、キミのような凄い子!!
 そちらの妖怪さんも凄い方だね! ここまで人間に力を貸して戦ってくれるなんて!」

「フン・・、人間の為なんかではありませんわ。 ああいう輩が嫌いなだけですわ!」

「そっか♪」

 ミオは、少年のような屈託のない笑顔で返す。

 そして二人の前に出ると、今度は鋭い眼光でエノルメミエドを睨みつけ・・
「ヤツの属性は闇。その闇属性を破るには光属性が一番効果的・・。だから、ボクの光属性魔法で奴の障壁に風穴を開ける!」

 そう言って振り返り凛を見つめた。

「そうしたら、キミの浄化の技でトドメを刺して欲しい!」

 ミオの言葉に凛は強く頷く。

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「妖怪さん、援護をお願いっ!!」

 ミオはそう言って都に目で合図を送ると、エノルメミエド目掛けて駆け出していった。

 エノルメミエドの腕がミオを狙う。


シュッッ!!


 だが、同時に駆け出した都が糸を噴出し、その腕を縛り上げた。
 一瞬、身動きを封じられたエノルメミエド。

 その隙を逃さず・・

「ホーリー・ライトっ!!」

 ミオの腕から眩い光の魔法が放出された!

 七色に輝く光魔法はエノルメミエドを包む闇の障壁に直撃・・・!

「こ・・これは、光属性魔法・・・!?」

 驚くエノルメミエドをよそに、それ程大きくは無いがその障壁にポッカリと風穴を開ける事ができた!!

「今だ、凛っ!」
 金鵄の掛け声に合わせ凛が弦を離す!

 青白い閃光が一直線にエノルメミエドへ突き進む!


ズサッッ!!


 鈍い音と共に霊光矢は障壁を通りぬけ、エノルメミエドの胸のど真ん中に突き刺さった!!

「やった!」
 ミオが小さくガッツポーズを取る。

 突き刺さった傷口から、青白い粒子が徐々に・・徐々に、蝕むように広がっていく。

「バ・・バカな・・、余が・・浄化なんか・・・されるはずが・・無い・・・」

 苦し紛れの言葉か・・。
 いや、たしかにエノルメミエドを包む黒い魔力は霊光矢の刺さった傷を包囲し、浄化の進行を食い止めようとしているようにも見える。

「嘘だろう? 今まで矢が刺さった身体の一部をもぎ落として浄化を食い止めたヤツはいたけど、自身の魔力や妖力で、凛の浄化を止めた奴はいない・・」

 そのあまりの魔力の強さに、金鵄はただ・・ただ・・呆然としている。

「彼女(凛)の浄化の力よりマニトウスワイヤーの魔力の方が上回っているのか・・? 予想以上の魔力だね・・・」

 予想外の出来事に、さすがのミオも驚きを隠せない。


「だったら黒い妖魔狩人の霊力に、わたくし達が手助けをしてやればいいだけの事ですわ!」

 そう言って都は凛の背後にまわり、その肩を抱き抱えた。
 そしてそのまま右手から糸を噴出し、エノルメミエドに突き刺さっている矢に巻きつける。

「なぜだ・・? てんこぶ姫の糸が凛の霊光矢に触れても浄化されない・・?」

 夕時の戦いでは、都の妖力で形成されている蜘蛛の糸は凛の霊光矢に触れると消滅していたはず。
 一体、何がどうなっているのか? 

「今わたくしは自分の妖力の波長を、黒い妖魔狩人の霊力の波長に合わせていますの。だから糸が消えないのですわ・・・」
 不敵な笑みを浮かべる都。

 しかし、その身体からシュウ・・シュウ・・と蒸気のようなものが吹き出している。
 よく見ると・・都の肌の表面はグツグツと煮えたぎるように泡立っており、誰の目から見てもこのままでは焼き崩れるのは明らかだ。

「てんこぶ姫・・・、貴女・・?」

 都の異変を感じ取り、思わず声をあげる凛。

「妖怪が浄化の波長に妖力を合わせるなんて、それって自殺行為じゃないか! なんでそんな事を!?」
 ミオも驚いて問い返す。

「今はそんな事はどうでもいいのです! それよりも黒い妖魔狩人。 わたくしの身体と糸を使って、貴女の霊力をもっとアイツに送り込みなさい・・・。そうしなければアイツを倒す事はできません!」

 そう、都は凛の浄化の力で追撃できるように、自らの身体をパイプラインとしたのだ。
 当然そんなことをすれば、妖怪である都の身体もただでは済まない。


「てんこぶ姫・・・」

 唇を噛み締める凛。

 全ての思いを霊力に変えたかのように、青白い光が都の身体を……蜘蛛の糸を伝わって、エノルメミエドに突き進んでいく!!


「ぐわぁぁぁ!!」


 次々の送り込まれる凛の霊力。さすがのエノルメミエドも悲鳴を上げ始めた!

「くたばらん・・・、これくらいではくたばらんぞ・・!」
 それでも、必死の抵抗を続けるエノルメミエド。

「妖怪さん・・ごめん! ボクの力も使わせてもらうよ・・・」
 ミオはそう言って反対側から凛の肩を抱きしめた。

 すると、ミオの身体からも光属性の魔力が糸を伝わってエノルメミエドの身体に流れ込んでいく!


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 凛の浄化の霊力と、ミオの光属性の魔力・・。

 二つの闇と妖魔を消し去る力が重なりあって、ついにエノルメミエドの全身に亀裂が入る。
 亀裂はまるで蜘蛛の糸のように細かく全身に広がり・・・


「バカなぁぁぁぁっ! 余は・・余は・・・余わぁぁぁぁぁぁっ!!」


ギャァァァァァァァッ!!!!!!


 断末魔の叫びと共に、ついにエノルメミエドの身体は粉々に砕け散っていった。



エピローグへつづく・・・。

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マニトウスワイヤー 終章 エピローグ

「街も大きな被害を受けたけど、逆に言えば、これ以上大きな被害を出さずに済んで本当に良かったよ」
 バックスクリーンの電光掲示板を見ながら、金鵄はそう呟いた。

「あまり・・良くないと思う。たった数時間の間で、どれほどの人たちが犠牲になったか・・?」
 凛は悲壮な表情で電光掲示板を眺めている。

「ううん・・・」
 そんな凛の肩を優里がやさしく抱きしめた。

「それでも凛ちゃんが・・・。そしてみんながこうして動かなければ、あの惨状は今・・この時も続いていたかもしれない。私達はよく頑張ったと褒めてあげていいと思うわ」

「そうっちゃよ!! 凛がマニトウスワイヤーっていうのを倒せなかったら、今頃みんな・・死んでいたかもしれないっちゃ!」
 千佳も当たり前のように凛に抱きつき、頬ずりまでしている。

「千佳、ウザイっ!」

 そう、エノルメミエドが倒れてから、凍らされた青い妖魔狩人も祢々も無事に助かり、街の中で蔓延っていた邪悪な精霊もすべて消え去っていった。

 凛、都、優里、千佳・・それぞれも、後から駆けつけたミオの仲間セイナの治癒魔法によって、体力だけはなんとか回復できた。
 もっとも逆に魔力を使い果たしたセイナは、そこでグッタリとダウンしているが・・。


「改めて、この街を守ってくれてありがとう! 妖魔狩人のみなさん。そして・・・」

 にこやかな笑顔で話しかけながらミオは、そのまま都に眼差しを送る。

「てんこぶ姫さん」

 だが、都は素知らぬ顔だ。

「ところで・・神楽巫緒さんでしたかしら? なぜ貴女がこの場に来られたのです?」
 都のそっけない問い。

「さっきも言ったけど、フェアウェイを預かりにきたんだ。ボクもあの子と同じ・・天女族だからね。数日前から天女族の女王様から連絡があったんだけど、なかなか足取りが掴めなかった。やっと今日・・彼女が丘福市に来るとわかったけど、敵の邪魔があってね」

 ミオの返事に都はまだ冷ややかな眼差しのまま、

「天女族って、緑色の髪をしているって聞きましたけど、貴女は黒色なのですね?」

「ボクは正確には天女族と人間の混血。この髪は父方の遺伝らしいんだ・・。会ったことないから、よく知らないんだけどね」

「ふーん・・。で、貴女がフェアウェイを引き取って、どうするつもりですの?」
 一瞬、都の目つきが鋭くなったのを凛は見逃さなかった。

「何もしない!」
 そう言ってミオは微笑む。

「どういうことですの?」

「うーん・・・、なんて言ったらいいかな? たしかにボクは女王様の命令で一旦あの子を引き取るけど、あの子がこれからどうするかは、あの子が決めることだよ! あの子がボクと一緒にいたくないと言えばボクはあの子を追わない! あの子の人生はあの子のものだからね」

 ミオはそこまで言うと、ちょっと思いついたように首をかしげ、

「あ・・・っ。でも・・ずっと見守ってはいくよ。ボクも義理の両親に見守られながら育ってきたからね」
 と付け加えた。

「そうですか・・・」

 都は、そう言うと、フト視線を逸らした。


「蜘蛛のお姉ちゃん!!」

 そんな都を呼びかける聞き慣れた幼い声。

 見ると、香苗を抱きしめたフェアウェイが駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん、やっぱり助けに来てくれたんだね。わたし・・・何があったかよく覚えていないけど、お姉ちゃんに抱き起こされたのだけは覚えている」

 フェアウェイはそう言って、都の手を握り締めると・・
「ありがとう!お姉ちゃん。さぁ・・一緒に帰ろうっ!!」
 と、満面の笑みで手を引いた。

「別に礼を言われるほどの事でもありませんわ。それよりも・・・・・」
 都はそう言い、握りしめられた手をさりげなく外す。

「貴女はそこにいる・・・神楽巫緒とか言う天女のところへ行きなさい」

「えっ!? わたし、蜘蛛のお姉ちゃんと・・ヌイグルミさんと一緒にいるよ。これからもずっと!!」
 そう言って、フェアウェイは再び都の手を握り返す!


「ふぅ・・・」

 都は静かに溜息をつくと。


「ならば、食い殺しますわよ!」


「えっ!?」

 都の口から出た意外な言葉に、フェアウェイは思わず身を引いた。


「わたくしが貴女を助けた理由は、ただ単純に・・・奪われた『餌』を取り戻しに行っただけ。貴女を喰うために助けだしたのですわ!」

「嘘だよ・・お姉ちゃん。お姉ちゃんが・・そんなこと・・・」

「しますわ!!」

 都はキッパリ言い放った!

「バレンティアが居なくなった理由を教えましょうか? わたくしが食い殺したからです!」

「えっ、バレンティア・・・!?」
 フェアウェイは、更に二~三歩、身を引いた。

「あははは・・・、ヌイグルミさん・・・嘘だよね? お姉ちゃんは・・そんな事しない・・よね?」
 その腕で抱きしめている香苗に潤んだ瞳で問いかける。

 さすがの香苗も一世一代の大ピンチ。すがるように都に視線を送る。
 だが、都の目は冷たい。

「ほ・・ホントだよ・・。蜘蛛女が・・バレンティアさんを・・食ったんだ・・・」

 その言葉にフェアウェイは香苗をポトリと落とした・・・。

「うそ・・そんな・・・バレンティアを・・・・どうして・・?」

「ちょっと・・小腹が空いたからですわ。ネイティブ系は初めてでしたが、日本人と違って健康的で甘味・・コク。 なかなか・・どうして美味しく頂けました」
 牙を剥き出し下衆な笑いを浮かべる都。

「・・・・・・・・・・」

 まるで電池の切れた玩具のように、項垂れたまま声もでないフェアウェイ。
 そして、蒼白の顔から出た言葉は・・・


「こ・・・殺してやる・・・・」


 溢れる涙、握りしめる拳・・・・

「蜘蛛女、あなたを絶対に殺してやる! わたしが、この手で・・・!!」

「無理ですわ。貴女・・・何の力も持っていませんもの!」
 都はそう言って、鼻で笑う。

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「ち・・力・・・!?」


「そう言えば・・神楽巫緒さん。たしか貴女、魔法を使っていましたわね? 天女族は皆、あんな芸当ができるのかしら?」

 小馬鹿にしたような都の問いに、ミオは今までにない真剣な表情で

「本来、天女族は風属性。個人の資質の差はあるけど、訓練しだいで誰でも魔法は扱える」
 と答えた。

「そう? ならば、暇があったら・・そこのガキに教えてあげてはいかがかしら? わたくしを殺せる程度の魔法とやらを・・!」

 その言葉と同時にフェアウェイはミオの下に駆け寄った。

「教えて! わたしにアイツを殺せる魔法を!?」

 ミオは静かにフェアウェイを見つめると・・・
「ボクは誰かを殺すための魔法は教えられない。でも・・自分や誰かを守るための魔法ならいいよ」
 とだけ答えた。

「それでもいい! とにかく、力が欲しい!!」

「わかった・・・」

 ミオはそう答えると振り返り、紫色の髪をした女性・・シアに声を掛けた。

「すみません・・シアさん。この子を連れ帰って、明日から訓練してあげてください」

「わかりました、ミオ様」
 シアはそう言って頷きフェアウェイの手を取る。

「じゃあ帰りましょう。 明日から猛訓練です」
 そのまま二人は、ドームスタジアムを後にした。

 二人を見届けた後、ミオは・・・

「てんこぶ姫さん、キミ・・わざと悪態をついたでしょう? あの子に目標を持たせるために?」
 氷のような表情を浮かべている都に問いかけた。

「アレ・・目標やったん!? トラウマ植えつけただけって気もするっちゃけど・・・」
 今まで黙って聞いていた千佳が、呆れた顔でチャチを入れる。

「目標・・というより、守る・・術(すべ)ですわ!」

 都がポツリと言い返した。

「不死の肉体を持つ・・天女族。 また、マニトウスワイヤーのような者から狙われる可能性もありますわ。 だったら、自分の身は自分で守れる術をつけませんと」

 そして・・・

「もう、バレンティアは守ってくれないのですから・・・」
 と、独り言のように呟きながらミオたちに背を向ける。

 フトっ、目と目が合う・・都と凛。

 凛は何も言わず優しい眼差しで都を見つめるだけ。

「ホント、バカだよ・・・蜘蛛女」
 香苗も苦笑いしながら見守っていた。












 
 
 いつの間にか、空は明るい紫色になっていた・・・。

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「もう、夜明けか・・・。長い一日だったな」

 空を見上げながら、青い妖魔狩人が感極まりない表情で呟いた。


「それじゃ、ボクたちも・・もう行くよ。街の復興にも手を貸さないといけないしね!」

「ありがとう、ミオさん。お会いできてよかったです!」
 凛はそう言って握手を求めた。

 優しい手でそれに応えるミオ。

「今度また、ゆっくりと話しをしようね!」
 ミオはそう言うと、残った仲間と一緒に去っていった。

 そんなミオ達の後ろ姿を眺め・・・

「私達も、そろそろ帰りましょうか?」
 優里も柔らかな笑みで、そう問いかける。

「せやね! 帰って・・思いっきり寝たいっちゃ!」
 優里、千佳、青い妖魔狩人、祢々・・・そして金鵄と香苗も後に続くようにその場を去っていった。


 徐々に明けていく空を見上げながら佇む・・凛と都の二人。


 紫色の空が少しずつ白い明るみを帯びていく光景は、神秘的で心が洗われるような気にもなる。


「たった一日で、敵同士として戦い、そして一緒に共通の敵と戦う・・・。こんなことってある意味・・・奇跡だよね?」
 空を見上げながら凛はそっと語りだした。

「ですわね。でも・・・”まだ”敵同士ですわ」
 そっけなく返す都。



「ねぇ・・・・・」

「なんですの・・・?」

 言い難いのか? 口は動くが・・・声がなかなか出ない。


「人間を殺したり・・・食べたりするの・・・・。どうしても止められない?」


「!?」

 凛の予想もつかない問いかけに、都は一瞬言葉を失った。


 そして、慎重に言葉を選ぶように・・

「人間を殺すのは別としても・・。食べることは妖怪にとって・・肉食動物が他の動物の肉を食らうのと同じ習性や本能。それをやめることは難しいですわ・・・・」

 都には珍しく皮肉や軽口を入れ込まない、真っ直ぐな返事。


「そう・・・・」
 それ以上、何も言い返せない凛。


「丘福市と柚子村・・・。同じ神田川県同士。また・・・会う事もあるよね?」

「ですわね・・・」


「でも・・・・・」

 ためらうように唾を飲み込むと。


「できることなら、もう・・・二度と会いたくないな・・・」

 登りゆく朝日の光を浴びながら、そう語る凛の目に何かが光る。

 都は、凛の言葉の意味を噛み締めながら・・・

「まったくもって同感ですわ。二度と顔も見たくない・・・」

 そう言って自らの唇も噛み締める。


「もう・・ここで、お別れですわね・・・」
 都はそう踵を返した。



「てんこぶ姫っ!!」



 あわてて声を掛ける凛に足を止める都。




「さようなら・・・・・。 八夜葵 都さん!」


 朝の澄んだ暖かい空気が流れる・・。

 そんな暖かい空気が凛と都を包む・・・・。



「ごきげんよう~。 若三毛 凛!」











おわり

| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 12:02 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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