2015.12.21 Mon
マニトウスワイヤー 終章 エピローグ
「街も大きな被害を受けたけど、逆に言えば、これ以上大きな被害を出さずに済んで本当に良かったよ」
バックスクリーンの電光掲示板を見ながら、金鵄はそう呟いた。
「あまり・・良くないと思う。たった数時間の間で、どれほどの人たちが犠牲になったか・・?」
凛は悲壮な表情で電光掲示板を眺めている。
「ううん・・・」
そんな凛の肩を優里がやさしく抱きしめた。
「それでも凛ちゃんが・・・。そしてみんながこうして動かなければ、あの惨状は今・・この時も続いていたかもしれない。私達はよく頑張ったと褒めてあげていいと思うわ」
「そうっちゃよ!! 凛がマニトウスワイヤーっていうのを倒せなかったら、今頃みんな・・死んでいたかもしれないっちゃ!」
千佳も当たり前のように凛に抱きつき、頬ずりまでしている。
「千佳、ウザイっ!」
そう、エノルメミエドが倒れてから、凍らされた青い妖魔狩人も祢々も無事に助かり、街の中で蔓延っていた邪悪な精霊もすべて消え去っていった。
凛、都、優里、千佳・・それぞれも、後から駆けつけたミオの仲間セイナの治癒魔法によって、体力だけはなんとか回復できた。
もっとも逆に魔力を使い果たしたセイナは、そこでグッタリとダウンしているが・・。
「改めて、この街を守ってくれてありがとう! 妖魔狩人のみなさん。そして・・・」
にこやかな笑顔で話しかけながらミオは、そのまま都に眼差しを送る。
「てんこぶ姫さん」
だが、都は素知らぬ顔だ。
「ところで・・神楽巫緒さんでしたかしら? なぜ貴女がこの場に来られたのです?」
都のそっけない問い。
「さっきも言ったけど、フェアウェイを預かりにきたんだ。ボクもあの子と同じ・・天女族だからね。数日前から天女族の女王様から連絡があったんだけど、なかなか足取りが掴めなかった。やっと今日・・彼女が丘福市に来るとわかったけど、敵の邪魔があってね」
ミオの返事に都はまだ冷ややかな眼差しのまま、
「天女族って、緑色の髪をしているって聞きましたけど、貴女は黒色なのですね?」
「ボクは正確には天女族と人間の混血。この髪は父方の遺伝らしいんだ・・。会ったことないから、よく知らないんだけどね」
「ふーん・・。で、貴女がフェアウェイを引き取って、どうするつもりですの?」
一瞬、都の目つきが鋭くなったのを凛は見逃さなかった。
「何もしない!」
そう言ってミオは微笑む。
「どういうことですの?」
「うーん・・・、なんて言ったらいいかな? たしかにボクは女王様の命令で一旦あの子を引き取るけど、あの子がこれからどうするかは、あの子が決めることだよ! あの子がボクと一緒にいたくないと言えばボクはあの子を追わない! あの子の人生はあの子のものだからね」
ミオはそこまで言うと、ちょっと思いついたように首をかしげ、
「あ・・・っ。でも・・ずっと見守ってはいくよ。ボクも義理の両親に見守られながら育ってきたからね」
と付け加えた。
「そうですか・・・」
都は、そう言うと、フト視線を逸らした。
「蜘蛛のお姉ちゃん!!」
そんな都を呼びかける聞き慣れた幼い声。
見ると、香苗を抱きしめたフェアウェイが駆け寄ってくる。
「お姉ちゃん、やっぱり助けに来てくれたんだね。わたし・・・何があったかよく覚えていないけど、お姉ちゃんに抱き起こされたのだけは覚えている」
フェアウェイはそう言って、都の手を握り締めると・・
「ありがとう!お姉ちゃん。さぁ・・一緒に帰ろうっ!!」
と、満面の笑みで手を引いた。
「別に礼を言われるほどの事でもありませんわ。それよりも・・・・・」
都はそう言い、握りしめられた手をさりげなく外す。
「貴女はそこにいる・・・神楽巫緒とか言う天女のところへ行きなさい」
「えっ!? わたし、蜘蛛のお姉ちゃんと・・ヌイグルミさんと一緒にいるよ。これからもずっと!!」
そう言って、フェアウェイは再び都の手を握り返す!
「ふぅ・・・」
都は静かに溜息をつくと。
「ならば、食い殺しますわよ!」
「えっ!?」
都の口から出た意外な言葉に、フェアウェイは思わず身を引いた。
「わたくしが貴女を助けた理由は、ただ単純に・・・奪われた『餌』を取り戻しに行っただけ。貴女を喰うために助けだしたのですわ!」
「嘘だよ・・お姉ちゃん。お姉ちゃんが・・そんなこと・・・」
「しますわ!!」
都はキッパリ言い放った!
「バレンティアが居なくなった理由を教えましょうか? わたくしが食い殺したからです!」
「えっ、バレンティア・・・!?」
フェアウェイは、更に二~三歩、身を引いた。
「あははは・・・、ヌイグルミさん・・・嘘だよね? お姉ちゃんは・・そんな事しない・・よね?」
その腕で抱きしめている香苗に潤んだ瞳で問いかける。
さすがの香苗も一世一代の大ピンチ。すがるように都に視線を送る。
だが、都の目は冷たい。
「ほ・・ホントだよ・・。蜘蛛女が・・バレンティアさんを・・食ったんだ・・・」
その言葉にフェアウェイは香苗をポトリと落とした・・・。
「うそ・・そんな・・・バレンティアを・・・・どうして・・?」
「ちょっと・・小腹が空いたからですわ。ネイティブ系は初めてでしたが、日本人と違って健康的で甘味・・コク。 なかなか・・どうして美味しく頂けました」
牙を剥き出し下衆な笑いを浮かべる都。
「・・・・・・・・・・」
まるで電池の切れた玩具のように、項垂れたまま声もでないフェアウェイ。
そして、蒼白の顔から出た言葉は・・・
「こ・・・殺してやる・・・・」
溢れる涙、握りしめる拳・・・・
「蜘蛛女、あなたを絶対に殺してやる! わたしが、この手で・・・!!」
「無理ですわ。貴女・・・何の力も持っていませんもの!」
都はそう言って、鼻で笑う。
「ち・・力・・・!?」
「そう言えば・・神楽巫緒さん。たしか貴女、魔法を使っていましたわね? 天女族は皆、あんな芸当ができるのかしら?」
小馬鹿にしたような都の問いに、ミオは今までにない真剣な表情で
「本来、天女族は風属性。個人の資質の差はあるけど、訓練しだいで誰でも魔法は扱える」
と答えた。
「そう? ならば、暇があったら・・そこのガキに教えてあげてはいかがかしら? わたくしを殺せる程度の魔法とやらを・・!」
その言葉と同時にフェアウェイはミオの下に駆け寄った。
「教えて! わたしにアイツを殺せる魔法を!?」
ミオは静かにフェアウェイを見つめると・・・
「ボクは誰かを殺すための魔法は教えられない。でも・・自分や誰かを守るための魔法ならいいよ」
とだけ答えた。
「それでもいい! とにかく、力が欲しい!!」
「わかった・・・」
ミオはそう答えると振り返り、紫色の髪をした女性・・シアに声を掛けた。
「すみません・・シアさん。この子を連れ帰って、明日から訓練してあげてください」
「わかりました、ミオ様」
シアはそう言って頷きフェアウェイの手を取る。
「じゃあ帰りましょう。 明日から猛訓練です」
そのまま二人は、ドームスタジアムを後にした。
二人を見届けた後、ミオは・・・
「てんこぶ姫さん、キミ・・わざと悪態をついたでしょう? あの子に目標を持たせるために?」
氷のような表情を浮かべている都に問いかけた。
「アレ・・目標やったん!? トラウマ植えつけただけって気もするっちゃけど・・・」
今まで黙って聞いていた千佳が、呆れた顔でチャチを入れる。
「目標・・というより、守る・・術(すべ)ですわ!」
都がポツリと言い返した。
「不死の肉体を持つ・・天女族。 また、マニトウスワイヤーのような者から狙われる可能性もありますわ。 だったら、自分の身は自分で守れる術をつけませんと」
そして・・・
「もう、バレンティアは守ってくれないのですから・・・」
と、独り言のように呟きながらミオたちに背を向ける。
フトっ、目と目が合う・・都と凛。
凛は何も言わず優しい眼差しで都を見つめるだけ。
「ホント、バカだよ・・・蜘蛛女」
香苗も苦笑いしながら見守っていた。
いつの間にか、空は明るい紫色になっていた・・・。
「もう、夜明けか・・・。長い一日だったな」
空を見上げながら、青い妖魔狩人が感極まりない表情で呟いた。
「それじゃ、ボクたちも・・もう行くよ。街の復興にも手を貸さないといけないしね!」
「ありがとう、ミオさん。お会いできてよかったです!」
凛はそう言って握手を求めた。
優しい手でそれに応えるミオ。
「今度また、ゆっくりと話しをしようね!」
ミオはそう言うと、残った仲間と一緒に去っていった。
そんなミオ達の後ろ姿を眺め・・・
「私達も、そろそろ帰りましょうか?」
優里も柔らかな笑みで、そう問いかける。
「せやね! 帰って・・思いっきり寝たいっちゃ!」
優里、千佳、青い妖魔狩人、祢々・・・そして金鵄と香苗も後に続くようにその場を去っていった。
徐々に明けていく空を見上げながら佇む・・凛と都の二人。
紫色の空が少しずつ白い明るみを帯びていく光景は、神秘的で心が洗われるような気にもなる。
「たった一日で、敵同士として戦い、そして一緒に共通の敵と戦う・・・。こんなことってある意味・・・奇跡だよね?」
空を見上げながら凛はそっと語りだした。
「ですわね。でも・・・”まだ”敵同士ですわ」
そっけなく返す都。
「ねぇ・・・・・」
「なんですの・・・?」
言い難いのか? 口は動くが・・・声がなかなか出ない。
「人間を殺したり・・・食べたりするの・・・・。どうしても止められない?」
「!?」
凛の予想もつかない問いかけに、都は一瞬言葉を失った。
そして、慎重に言葉を選ぶように・・
「人間を殺すのは別としても・・。食べることは妖怪にとって・・肉食動物が他の動物の肉を食らうのと同じ習性や本能。それをやめることは難しいですわ・・・・」
都には珍しく皮肉や軽口を入れ込まない、真っ直ぐな返事。
「そう・・・・」
それ以上、何も言い返せない凛。
「丘福市と柚子村・・・。同じ神田川県同士。また・・・会う事もあるよね?」
「ですわね・・・」
「でも・・・・・」
ためらうように唾を飲み込むと。
「できることなら、もう・・・二度と会いたくないな・・・」
登りゆく朝日の光を浴びながら、そう語る凛の目に何かが光る。
都は、凛の言葉の意味を噛み締めながら・・・
「まったくもって同感ですわ。二度と顔も見たくない・・・」
そう言って自らの唇も噛み締める。
「もう・・ここで、お別れですわね・・・」
都はそう踵を返した。
「てんこぶ姫っ!!」
あわてて声を掛ける凛に足を止める都。
「さようなら・・・・・。 八夜葵 都さん!」
朝の澄んだ暖かい空気が流れる・・。
そんな暖かい空気が凛と都を包む・・・・。
「ごきげんよう~。 若三毛 凛!」
おわり
バックスクリーンの電光掲示板を見ながら、金鵄はそう呟いた。
「あまり・・良くないと思う。たった数時間の間で、どれほどの人たちが犠牲になったか・・?」
凛は悲壮な表情で電光掲示板を眺めている。
「ううん・・・」
そんな凛の肩を優里がやさしく抱きしめた。
「それでも凛ちゃんが・・・。そしてみんながこうして動かなければ、あの惨状は今・・この時も続いていたかもしれない。私達はよく頑張ったと褒めてあげていいと思うわ」
「そうっちゃよ!! 凛がマニトウスワイヤーっていうのを倒せなかったら、今頃みんな・・死んでいたかもしれないっちゃ!」
千佳も当たり前のように凛に抱きつき、頬ずりまでしている。
「千佳、ウザイっ!」
そう、エノルメミエドが倒れてから、凍らされた青い妖魔狩人も祢々も無事に助かり、街の中で蔓延っていた邪悪な精霊もすべて消え去っていった。
凛、都、優里、千佳・・それぞれも、後から駆けつけたミオの仲間セイナの治癒魔法によって、体力だけはなんとか回復できた。
もっとも逆に魔力を使い果たしたセイナは、そこでグッタリとダウンしているが・・。
「改めて、この街を守ってくれてありがとう! 妖魔狩人のみなさん。そして・・・」
にこやかな笑顔で話しかけながらミオは、そのまま都に眼差しを送る。
「てんこぶ姫さん」
だが、都は素知らぬ顔だ。
「ところで・・神楽巫緒さんでしたかしら? なぜ貴女がこの場に来られたのです?」
都のそっけない問い。
「さっきも言ったけど、フェアウェイを預かりにきたんだ。ボクもあの子と同じ・・天女族だからね。数日前から天女族の女王様から連絡があったんだけど、なかなか足取りが掴めなかった。やっと今日・・彼女が丘福市に来るとわかったけど、敵の邪魔があってね」
ミオの返事に都はまだ冷ややかな眼差しのまま、
「天女族って、緑色の髪をしているって聞きましたけど、貴女は黒色なのですね?」
「ボクは正確には天女族と人間の混血。この髪は父方の遺伝らしいんだ・・。会ったことないから、よく知らないんだけどね」
「ふーん・・。で、貴女がフェアウェイを引き取って、どうするつもりですの?」
一瞬、都の目つきが鋭くなったのを凛は見逃さなかった。
「何もしない!」
そう言ってミオは微笑む。
「どういうことですの?」
「うーん・・・、なんて言ったらいいかな? たしかにボクは女王様の命令で一旦あの子を引き取るけど、あの子がこれからどうするかは、あの子が決めることだよ! あの子がボクと一緒にいたくないと言えばボクはあの子を追わない! あの子の人生はあの子のものだからね」
ミオはそこまで言うと、ちょっと思いついたように首をかしげ、
「あ・・・っ。でも・・ずっと見守ってはいくよ。ボクも義理の両親に見守られながら育ってきたからね」
と付け加えた。
「そうですか・・・」
都は、そう言うと、フト視線を逸らした。
「蜘蛛のお姉ちゃん!!」
そんな都を呼びかける聞き慣れた幼い声。
見ると、香苗を抱きしめたフェアウェイが駆け寄ってくる。
「お姉ちゃん、やっぱり助けに来てくれたんだね。わたし・・・何があったかよく覚えていないけど、お姉ちゃんに抱き起こされたのだけは覚えている」
フェアウェイはそう言って、都の手を握り締めると・・
「ありがとう!お姉ちゃん。さぁ・・一緒に帰ろうっ!!」
と、満面の笑みで手を引いた。
「別に礼を言われるほどの事でもありませんわ。それよりも・・・・・」
都はそう言い、握りしめられた手をさりげなく外す。
「貴女はそこにいる・・・神楽巫緒とか言う天女のところへ行きなさい」
「えっ!? わたし、蜘蛛のお姉ちゃんと・・ヌイグルミさんと一緒にいるよ。これからもずっと!!」
そう言って、フェアウェイは再び都の手を握り返す!
「ふぅ・・・」
都は静かに溜息をつくと。
「ならば、食い殺しますわよ!」
「えっ!?」
都の口から出た意外な言葉に、フェアウェイは思わず身を引いた。
「わたくしが貴女を助けた理由は、ただ単純に・・・奪われた『餌』を取り戻しに行っただけ。貴女を喰うために助けだしたのですわ!」
「嘘だよ・・お姉ちゃん。お姉ちゃんが・・そんなこと・・・」
「しますわ!!」
都はキッパリ言い放った!
「バレンティアが居なくなった理由を教えましょうか? わたくしが食い殺したからです!」
「えっ、バレンティア・・・!?」
フェアウェイは、更に二~三歩、身を引いた。
「あははは・・・、ヌイグルミさん・・・嘘だよね? お姉ちゃんは・・そんな事しない・・よね?」
その腕で抱きしめている香苗に潤んだ瞳で問いかける。
さすがの香苗も一世一代の大ピンチ。すがるように都に視線を送る。
だが、都の目は冷たい。
「ほ・・ホントだよ・・。蜘蛛女が・・バレンティアさんを・・食ったんだ・・・」
その言葉にフェアウェイは香苗をポトリと落とした・・・。
「うそ・・そんな・・・バレンティアを・・・・どうして・・?」
「ちょっと・・小腹が空いたからですわ。ネイティブ系は初めてでしたが、日本人と違って健康的で甘味・・コク。 なかなか・・どうして美味しく頂けました」
牙を剥き出し下衆な笑いを浮かべる都。
「・・・・・・・・・・」
まるで電池の切れた玩具のように、項垂れたまま声もでないフェアウェイ。
そして、蒼白の顔から出た言葉は・・・
「こ・・・殺してやる・・・・」
溢れる涙、握りしめる拳・・・・
「蜘蛛女、あなたを絶対に殺してやる! わたしが、この手で・・・!!」
「無理ですわ。貴女・・・何の力も持っていませんもの!」
都はそう言って、鼻で笑う。
「ち・・力・・・!?」
「そう言えば・・神楽巫緒さん。たしか貴女、魔法を使っていましたわね? 天女族は皆、あんな芸当ができるのかしら?」
小馬鹿にしたような都の問いに、ミオは今までにない真剣な表情で
「本来、天女族は風属性。個人の資質の差はあるけど、訓練しだいで誰でも魔法は扱える」
と答えた。
「そう? ならば、暇があったら・・そこのガキに教えてあげてはいかがかしら? わたくしを殺せる程度の魔法とやらを・・!」
その言葉と同時にフェアウェイはミオの下に駆け寄った。
「教えて! わたしにアイツを殺せる魔法を!?」
ミオは静かにフェアウェイを見つめると・・・
「ボクは誰かを殺すための魔法は教えられない。でも・・自分や誰かを守るための魔法ならいいよ」
とだけ答えた。
「それでもいい! とにかく、力が欲しい!!」
「わかった・・・」
ミオはそう答えると振り返り、紫色の髪をした女性・・シアに声を掛けた。
「すみません・・シアさん。この子を連れ帰って、明日から訓練してあげてください」
「わかりました、ミオ様」
シアはそう言って頷きフェアウェイの手を取る。
「じゃあ帰りましょう。 明日から猛訓練です」
そのまま二人は、ドームスタジアムを後にした。
二人を見届けた後、ミオは・・・
「てんこぶ姫さん、キミ・・わざと悪態をついたでしょう? あの子に目標を持たせるために?」
氷のような表情を浮かべている都に問いかけた。
「アレ・・目標やったん!? トラウマ植えつけただけって気もするっちゃけど・・・」
今まで黙って聞いていた千佳が、呆れた顔でチャチを入れる。
「目標・・というより、守る・・術(すべ)ですわ!」
都がポツリと言い返した。
「不死の肉体を持つ・・天女族。 また、マニトウスワイヤーのような者から狙われる可能性もありますわ。 だったら、自分の身は自分で守れる術をつけませんと」
そして・・・
「もう、バレンティアは守ってくれないのですから・・・」
と、独り言のように呟きながらミオたちに背を向ける。
フトっ、目と目が合う・・都と凛。
凛は何も言わず優しい眼差しで都を見つめるだけ。
「ホント、バカだよ・・・蜘蛛女」
香苗も苦笑いしながら見守っていた。
いつの間にか、空は明るい紫色になっていた・・・。
「もう、夜明けか・・・。長い一日だったな」
空を見上げながら、青い妖魔狩人が感極まりない表情で呟いた。
「それじゃ、ボクたちも・・もう行くよ。街の復興にも手を貸さないといけないしね!」
「ありがとう、ミオさん。お会いできてよかったです!」
凛はそう言って握手を求めた。
優しい手でそれに応えるミオ。
「今度また、ゆっくりと話しをしようね!」
ミオはそう言うと、残った仲間と一緒に去っていった。
そんなミオ達の後ろ姿を眺め・・・
「私達も、そろそろ帰りましょうか?」
優里も柔らかな笑みで、そう問いかける。
「せやね! 帰って・・思いっきり寝たいっちゃ!」
優里、千佳、青い妖魔狩人、祢々・・・そして金鵄と香苗も後に続くようにその場を去っていった。
徐々に明けていく空を見上げながら佇む・・凛と都の二人。
紫色の空が少しずつ白い明るみを帯びていく光景は、神秘的で心が洗われるような気にもなる。
「たった一日で、敵同士として戦い、そして一緒に共通の敵と戦う・・・。こんなことってある意味・・・奇跡だよね?」
空を見上げながら凛はそっと語りだした。
「ですわね。でも・・・”まだ”敵同士ですわ」
そっけなく返す都。
「ねぇ・・・・・」
「なんですの・・・?」
言い難いのか? 口は動くが・・・声がなかなか出ない。
「人間を殺したり・・・食べたりするの・・・・。どうしても止められない?」
「!?」
凛の予想もつかない問いかけに、都は一瞬言葉を失った。
そして、慎重に言葉を選ぶように・・
「人間を殺すのは別としても・・。食べることは妖怪にとって・・肉食動物が他の動物の肉を食らうのと同じ習性や本能。それをやめることは難しいですわ・・・・」
都には珍しく皮肉や軽口を入れ込まない、真っ直ぐな返事。
「そう・・・・」
それ以上、何も言い返せない凛。
「丘福市と柚子村・・・。同じ神田川県同士。また・・・会う事もあるよね?」
「ですわね・・・」
「でも・・・・・」
ためらうように唾を飲み込むと。
「できることなら、もう・・・二度と会いたくないな・・・」
登りゆく朝日の光を浴びながら、そう語る凛の目に何かが光る。
都は、凛の言葉の意味を噛み締めながら・・・
「まったくもって同感ですわ。二度と顔も見たくない・・・」
そう言って自らの唇も噛み締める。
「もう・・ここで、お別れですわね・・・」
都はそう踵を返した。
「てんこぶ姫っ!!」
あわてて声を掛ける凛に足を止める都。
「さようなら・・・・・。 八夜葵 都さん!」
朝の澄んだ暖かい空気が流れる・・。
そんな暖かい空気が凛と都を包む・・・・。
「ごきげんよう~。 若三毛 凛!」
おわり
| 妖魔狩人若三毛凛VSてんこぶ姫 | 12:02 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑