2014.02.11 Tue
妖魔狩人 若三毛凛 if 第10話「凛のために・・ -中編-」
翌日、朝一番で家を出て、JRに乗り込み志津香駅で乗り換えると、一時間半位で柚子駅に辿り着いた。
まずは柚子村立中学校へ向かってみることにする。その近辺で聞けば、ある程度の住まいはわかるだろう。
比較的、都会と呼ばれる丘福市と違って、山々に囲まれた柚子村。
春人には草の一本一本でも、珍しい景色であった。
フト、背筋に氷の塊を押し付けられるような感覚を受けた春人は、その辺りを見回した。
木々が覆い茂った森。よく見ると、そこだけ土砂崩れでもあったのかと思える程、木々が押し倒され荒れ果てた地があった。
ゆっくり足を向けると、奥の方に拝殿のような櫓(やぐら)が見える。
「神社……?」
何かに引き寄せられるように足を踏み入れと……
「なにか、御用かな?」
まるで待ち構えていたかのように絶妙のタイミングで声を掛けらた。
「すまぬ、驚かせてしまったようだな」
色の白い長身長髪の男が姿を見せた。
「身共は、この社の神主をしている。汝……この土地の者では無いな?」
「は…はい、ちょっと人を訪ねて……」
春人はそう言って、携帯の画像を見せた。
「ふむ、たしかにこの娘はこの土地に住む者だった気がする。だが、どこで暮らしているかまでは、身共も存じていない」
「そうですか……、どうもありがとうございました」
春人はそう言って踵を返した。
「待ちなさい!」
「えっ……!?」
「汝、心の中に秘めた想い……願い事のようなものを感じる。そうだろう?」
「え……、は…はい?」
春人がそう答えると、神主は懐から何かを取り出すと
「これを飲むが良い、この社の神木から採れた種だ」
そう言って小さな木の種を差し出した。
春人は言葉の意味を理解できないまま受け取る。
「心配ない、元々食用の種で身体に害はない。今、ここで一飲みせよ」
「はぁ……」
とても断りきれない空気と感じた春人は、言われるまま種を口に放り込み、一気に飲みこんだ。
「じゃ…これで」
さっさと中学へ行って、優里の家を探そう。その想いが足早にその場を立ち去ろうとさせた。
だが……
「ああっ!!」
いきなり全身に激痛が走った。体中の筋という筋が引き裂かれる、そんな激痛だ。
あまりの痛みにその場にうずくまる春人。
すると両足から、まるで蛇の尾のような細長い物がニョロニョロと生え出しきた。
「な…なんだ……!?」
足から生えてきた細長い物は、そのまま足元の地を突き刺し、奥へ奥へと進んでいく。
腕からは、細い木の枝のような物が生え、葉を茂らせながら伸びていく。
「た…すけ……て……」
数分後、春人がうずくまったその場所には、若葉を茂らせた一本の木が立っていた。
「白陰、何故その者を妖樹化させたのじゃ?」
事が済むと同時に、一人の老婆が姿をみせた。
緑色の肌、ギョロっとした大きな目。嫦娥だ。
「この人間から面白そうな欲望を感じたのでな。転生したら変わった能力を持つ妖怪になるだろうて」
神主…いや白陰は、そう言ってニヤリと笑った。
それから三日後。
「もう……通学が大変っ! 部活やってたら、こんな田舎から通えないよぉーっ!!」
日も暮れ、暗い農道を自転車で走る女子高校生。
体育会系の部活をやっているのだろうか、長い髪を後ろで一つに括っている。
「なんとか、丘福市で暮らせないかな……?」
そう呟いた瞬間。
シュルルル……、何かが首に巻き付いてきた。
「きゃ…………」
まともに声も出せず、その場で自転車ごと引き倒される。
「な……?」
暗くてよく見えないが、手触りで判断すると、植物のツタのような物が巻き付いている。
必死で引き剥がそうとするが、
シュルルル……
だが、更に両足、胴にもツタは巻き付いてきた。
藻掻き苦しむが、ツタは外れるどころがドンドン身体に巻き付いていく。
数分後、彼女の身体は完全にツタで覆われ、ピクリとも動かない。
動かなくなったのを見定めると、一人の影が現れた。
それは三日前、白隠に妖樹化されたはずの春人だ。
腕から数十本のツタが生え、彼女を覆ったツタに繋がっている。
腕を払うように軽く振ると、全てのツタは春人の腕に引き戻されていった。
すると、足元に小さな物体が転がり落ちている。
拾い上げ確認すると、長さ30㎝程のそれは人の形をしており、後頭部は長い髪を一括りにしてある。そう、それはあの女子高生に瓜二つの人形だった。
妖怪化した春人の妖力、それは人間を人形に変えること。
春人は頭の先から足先、そしてスカートを捲し上げ中を覗き込むと
「うん、まずまずの出来だ! やはり人形は着せ替え人形に限るね」
そう言って、嬉しそうに微笑んだ。
「早くこの手で、高嶺優里を人形にしたい……」
村の女子高生や若い女性が二~三人、行方不明になっていると凛の耳に入ったのは、更に三日後であった。
セコ、金鵄を通して入ったその情報は、どうやら柚子駅から柚子中学校までの、人通りの少ない場所で起きているらしい。
放課後、部活を休み足早に校門を飛び出した凛を、千佳が引き止めるように声を掛けた。
「凛、部活休むなら、途中までウチと一緒に帰らん?」
「ごめん千佳、大事な用があって急ぐの」
「そう……、引き止めてごめん」
まるで叱られた子犬のように、しょぼくれる千佳に対し、凛は優しく微笑むと
「今度、一緒に帰ろう!」
そう言って、走り去っていった。
まずは中学から駅までの間で、比較的人通りの少ない農道を中心に当たることにした。
「セコの話だと、事件が起こった場所には、半妖の気が残っているらしい」
金鵄は気配を探りながら、農道に沿って飛び回る。
「半妖……、千佳や美咲おばさんのように、妖怪化された人間の可能性があるって事?」
「そうだ、つまり中国妖怪の仕業である可能性が強い」
凛たちは、そう話しながら妖気を頼りに辺りを調べまわった。
日も暮れかかり、辺りが薄暗くなったその時、
「金鵄……!?」
「うん!」
強烈な妖気を感じ取った。
同時に数本のツタが凛に襲いかかる。
凛は飛び避けるように攻撃をかわすと、直ぐ様、霊装し戦闘体勢に入る。
「おおっ!戦う少女~っ!? いいねぇーっ!!」
ツタを引き戻しながら、春人が姿を見せる。
「小学生……? いや、さっきまで制服を着ていたから、女子中学生か。でも、今着ているそのミニスカ戦闘服、カッコイイねぇ~♪」
凛を凝視しながら春人は、気持ちを高揚させていく。
「あなたが女性たちを襲った妖怪?」
凛はそう言って、弓を構えた。
「襲った…? 人聞きの悪い」
春人はそう言うと、懐から三体の人形を取り出した。
「彼女たちは僕の人形となったことで、毎日着飾る事ができ、幸せを満喫しているはずさ」
「に…人間を、人形に……!?」
「君も僕の人形になりな! そうすれば、毎日色々な服が着られるよ!」
再び春人の両腕から数十本のツタが飛び出し、凛へ襲いかかる。
凛は弦を引き、矢を放った。
青白い光を放つ霊光矢は、襲いかかるツタを一撃で消滅させる。
「な…なんだ、この子は……!?」
霊光矢の威力に思わず怯む、春人。
しかし一体の人形を高々と持ち上げると、
「この人形は、今でも生きているんだ。もちろん僕が術を解けば、人間に戻す事ができる」
「……?」
「つまり人形が死と同じ状況に陥れば、当然……人間としての命も尽きる」
春人は農道沿いの用水路に目をやると
「人形も、溺死するのかな?」
そう言って、手にした人形を放り投げた。
「やめ……!!」
とっさに人形を追って、用水路に飛び込む凛。
手探りで人形を拾い上げ、安堵のため息をついた瞬間、
「あっ!!?」
背後からツタが全身に巻き付いた。
「凛ーっ!!」
金鵄の叫びも虚しく、徐々に小さくなっていく凛の身体。
春人がツタを引き戻すと、その手には30㎝にも満たない人形となった凛の姿があった。
サイドテールもゴスロリ戦闘服もそのままだが、瞳は一点を直視しピクリとも動かない。
「可愛いね~っ、戦う美少女の着せ替え人形!」
頭の先から足先まで舐めるように眺めると、その指は例のごとくスカートを捲り上げた。
「短パン?」
スカートの中の黒い短パンを摘み、そのまま引き下ろそうとするが、なかなか引き下ろせない。
「あ……、これスカートと一体型のスカパンってやつか?」
そう呟き、スカートを引き下ろそうとした。
その時!!
「その手を放しなさい!」
鋭く突き刺さるような声が、背後から掛けられた。
振り返ると、最初に目に入ったのは、鋭い刃。
そして、その刃のついた長い獲物を手にし、白く軽装な鎧を身につけた、山吹色の髪をなびかせる少女。
「高嶺……優里……ちゃん……?」
今まさに、春人の想い人がそこに立っている。しかも春人の趣味に合わせたような戦闘服を身につけて。
「なぜ私の名を知っているのか解りませんが、まずその手にした人形を渡してください」
突き刺さるような眼光が、春人の視線を貫く。
「いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!」
春人が雄叫びのような絶叫を上げた。
「その姿の君が人形になれば、こんな子どもの人形は、二の次だ!!」
春人は人形となった凛を放り投げると、空かさず数十本のツタで襲いかかる。
一振り!
たった一振り薙刀を振り払うだけで、ツタは切り落とされる。
二撃、三撃と襲いかかるが、優里にはまるで通じない。
そして一気に間合いを詰めた優里の刃が、春人の眼前に迫った。
実力の差は、一目瞭然だった。
腰が抜け、その場に座り込む春人。
「ま…待ってくれ、僕を殺すと……、さっきの子も……他の人形になった子も……、元に戻らないよ……」
それを聞いた優里の眉が、僅かに動く。
その瞬間を見逃さなかった春人は追い打ちをかけるように、
「ど…どうだ!? 君が僕の人形になれば、さっきの子を含め……全ての子を元に戻そうじゃないか……」
…と、申し立てた。
無言で冷ややかな視線を送る、優里。
その様子を見ていた金鵄。
「やはり、優里の戦闘力は群を抜いている。あの妖怪を間違いなく討ち取る事ができるだろう。
だが、そうなるとあの術だ。おそらく、あの術は呪術系の妖術。術を解くには、ヤツの言葉通り……ヤツでなければ解けないだろう。
つまりヤツをこのまま討ち取れば、凛もその他の娘たちも元には戻らない。
どうする……優里!?」
どうする?
① 耳を貸さず、春人を討ち取る。
② 身代わりになって、凛を救う。
----------------------------------------------------------------
『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
まずは柚子村立中学校へ向かってみることにする。その近辺で聞けば、ある程度の住まいはわかるだろう。
比較的、都会と呼ばれる丘福市と違って、山々に囲まれた柚子村。
春人には草の一本一本でも、珍しい景色であった。
フト、背筋に氷の塊を押し付けられるような感覚を受けた春人は、その辺りを見回した。
木々が覆い茂った森。よく見ると、そこだけ土砂崩れでもあったのかと思える程、木々が押し倒され荒れ果てた地があった。
ゆっくり足を向けると、奥の方に拝殿のような櫓(やぐら)が見える。
「神社……?」
何かに引き寄せられるように足を踏み入れと……
「なにか、御用かな?」
まるで待ち構えていたかのように絶妙のタイミングで声を掛けらた。
「すまぬ、驚かせてしまったようだな」
色の白い長身長髪の男が姿を見せた。
「身共は、この社の神主をしている。汝……この土地の者では無いな?」
「は…はい、ちょっと人を訪ねて……」
春人はそう言って、携帯の画像を見せた。
「ふむ、たしかにこの娘はこの土地に住む者だった気がする。だが、どこで暮らしているかまでは、身共も存じていない」
「そうですか……、どうもありがとうございました」
春人はそう言って踵を返した。
「待ちなさい!」
「えっ……!?」
「汝、心の中に秘めた想い……願い事のようなものを感じる。そうだろう?」
「え……、は…はい?」
春人がそう答えると、神主は懐から何かを取り出すと
「これを飲むが良い、この社の神木から採れた種だ」
そう言って小さな木の種を差し出した。
春人は言葉の意味を理解できないまま受け取る。
「心配ない、元々食用の種で身体に害はない。今、ここで一飲みせよ」
「はぁ……」
とても断りきれない空気と感じた春人は、言われるまま種を口に放り込み、一気に飲みこんだ。
「じゃ…これで」
さっさと中学へ行って、優里の家を探そう。その想いが足早にその場を立ち去ろうとさせた。
だが……
「ああっ!!」
いきなり全身に激痛が走った。体中の筋という筋が引き裂かれる、そんな激痛だ。
あまりの痛みにその場にうずくまる春人。
すると両足から、まるで蛇の尾のような細長い物がニョロニョロと生え出しきた。
「な…なんだ……!?」
足から生えてきた細長い物は、そのまま足元の地を突き刺し、奥へ奥へと進んでいく。
腕からは、細い木の枝のような物が生え、葉を茂らせながら伸びていく。
「た…すけ……て……」
数分後、春人がうずくまったその場所には、若葉を茂らせた一本の木が立っていた。
「白陰、何故その者を妖樹化させたのじゃ?」
事が済むと同時に、一人の老婆が姿をみせた。
緑色の肌、ギョロっとした大きな目。嫦娥だ。
「この人間から面白そうな欲望を感じたのでな。転生したら変わった能力を持つ妖怪になるだろうて」
神主…いや白陰は、そう言ってニヤリと笑った。
それから三日後。
「もう……通学が大変っ! 部活やってたら、こんな田舎から通えないよぉーっ!!」
日も暮れ、暗い農道を自転車で走る女子高校生。
体育会系の部活をやっているのだろうか、長い髪を後ろで一つに括っている。
「なんとか、丘福市で暮らせないかな……?」
そう呟いた瞬間。
シュルルル……、何かが首に巻き付いてきた。
「きゃ…………」
まともに声も出せず、その場で自転車ごと引き倒される。
「な……?」
暗くてよく見えないが、手触りで判断すると、植物のツタのような物が巻き付いている。
必死で引き剥がそうとするが、
シュルルル……
だが、更に両足、胴にもツタは巻き付いてきた。
藻掻き苦しむが、ツタは外れるどころがドンドン身体に巻き付いていく。
数分後、彼女の身体は完全にツタで覆われ、ピクリとも動かない。
動かなくなったのを見定めると、一人の影が現れた。
それは三日前、白隠に妖樹化されたはずの春人だ。
腕から数十本のツタが生え、彼女を覆ったツタに繋がっている。
腕を払うように軽く振ると、全てのツタは春人の腕に引き戻されていった。
すると、足元に小さな物体が転がり落ちている。
拾い上げ確認すると、長さ30㎝程のそれは人の形をしており、後頭部は長い髪を一括りにしてある。そう、それはあの女子高生に瓜二つの人形だった。
妖怪化した春人の妖力、それは人間を人形に変えること。
春人は頭の先から足先、そしてスカートを捲し上げ中を覗き込むと
「うん、まずまずの出来だ! やはり人形は着せ替え人形に限るね」
そう言って、嬉しそうに微笑んだ。
「早くこの手で、高嶺優里を人形にしたい……」
村の女子高生や若い女性が二~三人、行方不明になっていると凛の耳に入ったのは、更に三日後であった。
セコ、金鵄を通して入ったその情報は、どうやら柚子駅から柚子中学校までの、人通りの少ない場所で起きているらしい。
放課後、部活を休み足早に校門を飛び出した凛を、千佳が引き止めるように声を掛けた。
「凛、部活休むなら、途中までウチと一緒に帰らん?」
「ごめん千佳、大事な用があって急ぐの」
「そう……、引き止めてごめん」
まるで叱られた子犬のように、しょぼくれる千佳に対し、凛は優しく微笑むと
「今度、一緒に帰ろう!」
そう言って、走り去っていった。
まずは中学から駅までの間で、比較的人通りの少ない農道を中心に当たることにした。
「セコの話だと、事件が起こった場所には、半妖の気が残っているらしい」
金鵄は気配を探りながら、農道に沿って飛び回る。
「半妖……、千佳や美咲おばさんのように、妖怪化された人間の可能性があるって事?」
「そうだ、つまり中国妖怪の仕業である可能性が強い」
凛たちは、そう話しながら妖気を頼りに辺りを調べまわった。
日も暮れかかり、辺りが薄暗くなったその時、
「金鵄……!?」
「うん!」
強烈な妖気を感じ取った。
同時に数本のツタが凛に襲いかかる。
凛は飛び避けるように攻撃をかわすと、直ぐ様、霊装し戦闘体勢に入る。
「おおっ!戦う少女~っ!? いいねぇーっ!!」
ツタを引き戻しながら、春人が姿を見せる。
「小学生……? いや、さっきまで制服を着ていたから、女子中学生か。でも、今着ているそのミニスカ戦闘服、カッコイイねぇ~♪」
凛を凝視しながら春人は、気持ちを高揚させていく。
「あなたが女性たちを襲った妖怪?」
凛はそう言って、弓を構えた。
「襲った…? 人聞きの悪い」
春人はそう言うと、懐から三体の人形を取り出した。
「彼女たちは僕の人形となったことで、毎日着飾る事ができ、幸せを満喫しているはずさ」
「に…人間を、人形に……!?」
「君も僕の人形になりな! そうすれば、毎日色々な服が着られるよ!」
再び春人の両腕から数十本のツタが飛び出し、凛へ襲いかかる。
凛は弦を引き、矢を放った。
青白い光を放つ霊光矢は、襲いかかるツタを一撃で消滅させる。
「な…なんだ、この子は……!?」
霊光矢の威力に思わず怯む、春人。
しかし一体の人形を高々と持ち上げると、
「この人形は、今でも生きているんだ。もちろん僕が術を解けば、人間に戻す事ができる」
「……?」
「つまり人形が死と同じ状況に陥れば、当然……人間としての命も尽きる」
春人は農道沿いの用水路に目をやると
「人形も、溺死するのかな?」
そう言って、手にした人形を放り投げた。
「やめ……!!」
とっさに人形を追って、用水路に飛び込む凛。
手探りで人形を拾い上げ、安堵のため息をついた瞬間、
「あっ!!?」
背後からツタが全身に巻き付いた。
「凛ーっ!!」
金鵄の叫びも虚しく、徐々に小さくなっていく凛の身体。
春人がツタを引き戻すと、その手には30㎝にも満たない人形となった凛の姿があった。
サイドテールもゴスロリ戦闘服もそのままだが、瞳は一点を直視しピクリとも動かない。
「可愛いね~っ、戦う美少女の着せ替え人形!」
頭の先から足先まで舐めるように眺めると、その指は例のごとくスカートを捲り上げた。
「短パン?」
スカートの中の黒い短パンを摘み、そのまま引き下ろそうとするが、なかなか引き下ろせない。
「あ……、これスカートと一体型のスカパンってやつか?」
そう呟き、スカートを引き下ろそうとした。
その時!!
「その手を放しなさい!」
鋭く突き刺さるような声が、背後から掛けられた。
振り返ると、最初に目に入ったのは、鋭い刃。
そして、その刃のついた長い獲物を手にし、白く軽装な鎧を身につけた、山吹色の髪をなびかせる少女。
「高嶺……優里……ちゃん……?」
今まさに、春人の想い人がそこに立っている。しかも春人の趣味に合わせたような戦闘服を身につけて。
「なぜ私の名を知っているのか解りませんが、まずその手にした人形を渡してください」
突き刺さるような眼光が、春人の視線を貫く。
「いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!いいね!」
春人が雄叫びのような絶叫を上げた。
「その姿の君が人形になれば、こんな子どもの人形は、二の次だ!!」
春人は人形となった凛を放り投げると、空かさず数十本のツタで襲いかかる。
一振り!
たった一振り薙刀を振り払うだけで、ツタは切り落とされる。
二撃、三撃と襲いかかるが、優里にはまるで通じない。
そして一気に間合いを詰めた優里の刃が、春人の眼前に迫った。
実力の差は、一目瞭然だった。
腰が抜け、その場に座り込む春人。
「ま…待ってくれ、僕を殺すと……、さっきの子も……他の人形になった子も……、元に戻らないよ……」
それを聞いた優里の眉が、僅かに動く。
その瞬間を見逃さなかった春人は追い打ちをかけるように、
「ど…どうだ!? 君が僕の人形になれば、さっきの子を含め……全ての子を元に戻そうじゃないか……」
…と、申し立てた。
無言で冷ややかな視線を送る、優里。
その様子を見ていた金鵄。
「やはり、優里の戦闘力は群を抜いている。あの妖怪を間違いなく討ち取る事ができるだろう。
だが、そうなるとあの術だ。おそらく、あの術は呪術系の妖術。術を解くには、ヤツの言葉通り……ヤツでなければ解けないだろう。
つまりヤツをこのまま討ち取れば、凛もその他の娘たちも元には戻らない。
どうする……優里!?」
どうする?
① 耳を貸さず、春人を討ち取る。
② 身代わりになって、凛を救う。
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