2013.06.03 Mon
妖魔狩人 若三毛凛 if 第07話「女妖怪 胡媚娘 -前編-」
「くらえ!!」
凛が弦を放つ。青白い閃光が一直線に飛び、妖怪朱厭(しゅえん)の身体を射抜いた。
眩い光に包まれた朱厭は、無数の蛍が飛び散るように静かに消えていった。
「やったね、凛っ!」
金鵄が頭上で喝采を上げる。
凛は、今日も由子村を・・日本を中国妖怪の手から守ったのだ。
「ちっ!」
薄暗い岩肌の中で、一人の青年が苦虫を噛み潰したような顔で、水晶玉を覗いていた。
「あの小娘、日々力を伸ばしてきておる。妖木妃様が目覚める前に、なんとしても潰しておかなければ・・・」
水晶玉に映る凛の姿を睨みつけながら、百陰はワナワナと拳を握り締める。
ここは由子村に隣接する犬乙山、麓の洞窟。
妖木妃のお抱え調理師であり、凛に一番最初に倒された妖怪、ボンディァォフーニュが棲家に使っていた場所である。
調理師妖怪だっただけに、数々の調理道具や器材が並んでいる。
以前拠点として使っていた神社は、妖木妃と凛との激しい戦いで甚大な被害を負っている。
それ以後、村の役人達が原因解明で、毎日のように調査に訪れていた。
まだ人目につくわけにはいかない為、こうして洞窟に隠れ住んでいるのだ。
「なぁ~にぃ~? また手下がやられたの?」
甘ったるい言葉と共に、白陰の背後から一人の若い女性と、長毛に覆われた巨大な猿のような生物が姿を現した。
「何時、日本へ来たのです? 胡媚娘(こびじょう)・・・」
背後を振り返ることなく、言葉を返す白陰。
「ついさっきよぉ~」
爽やかな…まるで朝日を浴びたアサガオのような笑顔で答える、若い女性。
彼女は名を胡媚娘という、中国妖怪である。
正体は、長年の修行を積んだ白面狐狸の精で、草葉の操る法力を使う。
だが、愛らしい丸顔に、やや茶色がかったカールロングヘア。
鮮やかな若草色の肩開きブラウスに、スラリと伸びた脚が映えるフレアミニスカート。
その姿はどう見ても人間の、しかも美しい清楚な女子大生にしか見えない。
「百陰~っ、噂は聞いているわよぉ~。妖木妃様と一緒にこの国を侵略に来たけどぉ~、 たった一人の妖魔狩人のせいで、小さな村すら落とせないんだってぇ~っ?」
「汝(うぬ)には、関係なかろう」
「やっだ~っ、関係あるわよぉ~!」
胡媚娘は百陰の正面に回りこむと、ニッコリと微笑みながら、
「だってぇ~、元々…妖木妃様の幹部になるのはぁ~、アタシだったんだからぁ~」
………………。
「なのにぃ、どっかの白蛇野郎がぁ~、狐狸の精ごときには無理だとか言うもんだからぁ~、アタシ…外されたのよねぇ~」
………………。
「アタシ、昔から…『白蛇』には、ろくな目に合わされないのよねぇ~」
微笑んではいるものの、その瞳には憎悪の影が映っている。
「汝の法力では、日本妖怪と互角に戦えるのが精一杯だ。身共たちには敗北は許されない、必ず勝たねばならん。だから…そう進言したまでだ。」
そう聞いて一瞬百陰を睨みつけた胡媚娘だが、再び微笑むと
「たしかにぃ、アタシ自身は戦闘能力は低いかも知れないけどぉ、でも・・・・」
胡媚娘は指をパチンと鳴らす。すると今まで静かに立っていた長毛の猿のような生物は、百陰を摘み上げた。
「操妖術……、汝の得意な法力か……」
「そう! 高い知力を持つ妖怪は無理だけど、知力の低い妖怪ならば、アタシの僕(しもべ)にできる術よぉ~!」
「なるほど……」
「そしてこの妖怪は、知っているわよねぇ~!?」
「妖怪獲猿(かくえん)。怪力、素早さ……、白兵戦では中国でも上位に入る妖怪だ。」
その答えに、ドヤ顔の胡媚娘。
「いいだろう、もし汝が妖魔狩人を倒してきた暁には、妖木妃様に幹部として迎えてもらえるよう、身共から直々に頼んでみよう。」
「約束よぉ~?」
「二言は無い」
「獲猿、離してあげなさぁ~い!」
犬乙山麓から南に位置する農耕地帯。
五月も終わりに近づき、田にはすっかり水も張られ、あとは苗植えを待つだけの状態だ。
水田の周りには、田植え機を整備している者。育苗箱を田に浸け、苗を慣らしている者もいる。
そんな平和な日常を壊すように、胡媚娘と獲猿の二人は現れた。
「いぃ~い……獲猿?目的わぁ、あくまで妖魔狩人を誘き出すこと。だからぁ~、思いっきり派手に暴れちゃいなさぁ~い!!」
胡媚娘の合図と共に、一気に村人へ駆け寄る獲猿。
「う……うわぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げる村人を持ち上げ、勢いつけて地面に叩きつける。
ある者は、叩きつけられた後、踏み潰され。
ある者は背骨を圧し折られ……
連絡を受けて駆けつけた警察官も、無残に踏み殺された……。
妖怪セコから知らせを受けた金鵄と凛の二人が駆けつけた頃には、そこはもう地獄絵図のような光景で、さすがの凛も目を背けたくなるほどだった。
そんな光景を楽しそうに見つめていた胡媚娘。そして、まだ息があると思われる村民の頭を握り絞めている獲猿。
「遅かったわねぇ~、妖魔狩人さん。あまりに遅いんでぇ~、もう十人以上殺しちゃった~ん!」
金鵄と凛の姿を見つけ、一遊び終えた子どものように話しかけてきた。
「見たところ中国妖怪のようだけど、その人を放すんだ!!」
村民の頭を握り締めている獲猿を睨みながら、金鵄が叫んだ。
「獲猿~っ、その人間を放しなさいって~。」
すると獲猿は、そのまま腕を高々と上げると……
グシャッッ!!
まるで『卵』を握り潰すかのように、村民の頭蓋骨を軽々と握り潰した。
「……っ!?」
驚く金鵄と凛を尻目に、村民を放り投げる獲猿。
「な……なんて酷い事を!」
怒りを顕わにする金鵄を凛がそっと制した。
そして無言のまま、弓を構える。
「り……凛……っ!?」
「いいわねぇ~っ!妖魔狩人ちゃんの方は、早速やる気ねぇ~! 獲猿……あの子も潰しちゃいなさいっ!!」
胡媚娘の合図と共に駆け出す獲猿。
なんの躊躇いも無く、矢を放つ凛。
青白い閃光が真っ直ぐ獲猿に向かっていく。
「なにっ……!?」
金鵄が驚きの声を上げた!
巨体の獲猿が、横にステップし、飛んできた霊光矢をかわしたのだ。
更にすぐさま体勢を立て直し、右拳を振り上げ襲い掛かってきた。
次の矢を構える間も無く、凛は必死で飛び退き、攻撃をかわすのが精一杯。
「違う……、凛が今まで戦ってきた妖怪とは、レベルが違う……」
人間の頭を軽々と握り潰すほどの怪力と、飛んでくる矢をかわせる俊敏な動作。
圧倒的な妖力を見せつけた妖木妃とはまた別に、明らかに戦闘に特化した能力。
獲猿は、間髪入れず襲い掛かってくる。
いくら高い防御力を誇る凛の服でも、あの攻撃をまともに食らったら、大ダメージを喰らうだろう。
凛の霊感がそれを感知している分、尚更飛び避けるのに精一杯だ。
「凛っ!この場所で戦うのは不利だ!! 一旦退いて、奴の動きを制限できる所まで誘い込むんだ!!」
凛は金鵄の助言に頷くと、山へ向かって走り出した。
選択:凛は奴等をどこへ誘い込む?
① 棚田が営まれている、斜面へ。
② 木々に囲まれた、山道へ。
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『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
凛が弦を放つ。青白い閃光が一直線に飛び、妖怪朱厭(しゅえん)の身体を射抜いた。
眩い光に包まれた朱厭は、無数の蛍が飛び散るように静かに消えていった。
「やったね、凛っ!」
金鵄が頭上で喝采を上げる。
凛は、今日も由子村を・・日本を中国妖怪の手から守ったのだ。
「ちっ!」
薄暗い岩肌の中で、一人の青年が苦虫を噛み潰したような顔で、水晶玉を覗いていた。
「あの小娘、日々力を伸ばしてきておる。妖木妃様が目覚める前に、なんとしても潰しておかなければ・・・」
水晶玉に映る凛の姿を睨みつけながら、百陰はワナワナと拳を握り締める。
ここは由子村に隣接する犬乙山、麓の洞窟。
妖木妃のお抱え調理師であり、凛に一番最初に倒された妖怪、ボンディァォフーニュが棲家に使っていた場所である。
調理師妖怪だっただけに、数々の調理道具や器材が並んでいる。
以前拠点として使っていた神社は、妖木妃と凛との激しい戦いで甚大な被害を負っている。
それ以後、村の役人達が原因解明で、毎日のように調査に訪れていた。
まだ人目につくわけにはいかない為、こうして洞窟に隠れ住んでいるのだ。
「なぁ~にぃ~? また手下がやられたの?」
甘ったるい言葉と共に、白陰の背後から一人の若い女性と、長毛に覆われた巨大な猿のような生物が姿を現した。
「何時、日本へ来たのです? 胡媚娘(こびじょう)・・・」
背後を振り返ることなく、言葉を返す白陰。
「ついさっきよぉ~」
爽やかな…まるで朝日を浴びたアサガオのような笑顔で答える、若い女性。
彼女は名を胡媚娘という、中国妖怪である。
正体は、長年の修行を積んだ白面狐狸の精で、草葉の操る法力を使う。
だが、愛らしい丸顔に、やや茶色がかったカールロングヘア。
鮮やかな若草色の肩開きブラウスに、スラリと伸びた脚が映えるフレアミニスカート。
その姿はどう見ても人間の、しかも美しい清楚な女子大生にしか見えない。
「百陰~っ、噂は聞いているわよぉ~。妖木妃様と一緒にこの国を侵略に来たけどぉ~、 たった一人の妖魔狩人のせいで、小さな村すら落とせないんだってぇ~っ?」
「汝(うぬ)には、関係なかろう」
「やっだ~っ、関係あるわよぉ~!」
胡媚娘は百陰の正面に回りこむと、ニッコリと微笑みながら、
「だってぇ~、元々…妖木妃様の幹部になるのはぁ~、アタシだったんだからぁ~」
………………。
「なのにぃ、どっかの白蛇野郎がぁ~、狐狸の精ごときには無理だとか言うもんだからぁ~、アタシ…外されたのよねぇ~」
………………。
「アタシ、昔から…『白蛇』には、ろくな目に合わされないのよねぇ~」
微笑んではいるものの、その瞳には憎悪の影が映っている。
「汝の法力では、日本妖怪と互角に戦えるのが精一杯だ。身共たちには敗北は許されない、必ず勝たねばならん。だから…そう進言したまでだ。」
そう聞いて一瞬百陰を睨みつけた胡媚娘だが、再び微笑むと
「たしかにぃ、アタシ自身は戦闘能力は低いかも知れないけどぉ、でも・・・・」
胡媚娘は指をパチンと鳴らす。すると今まで静かに立っていた長毛の猿のような生物は、百陰を摘み上げた。
「操妖術……、汝の得意な法力か……」
「そう! 高い知力を持つ妖怪は無理だけど、知力の低い妖怪ならば、アタシの僕(しもべ)にできる術よぉ~!」
「なるほど……」
「そしてこの妖怪は、知っているわよねぇ~!?」
「妖怪獲猿(かくえん)。怪力、素早さ……、白兵戦では中国でも上位に入る妖怪だ。」
その答えに、ドヤ顔の胡媚娘。
「いいだろう、もし汝が妖魔狩人を倒してきた暁には、妖木妃様に幹部として迎えてもらえるよう、身共から直々に頼んでみよう。」
「約束よぉ~?」
「二言は無い」
「獲猿、離してあげなさぁ~い!」
犬乙山麓から南に位置する農耕地帯。
五月も終わりに近づき、田にはすっかり水も張られ、あとは苗植えを待つだけの状態だ。
水田の周りには、田植え機を整備している者。育苗箱を田に浸け、苗を慣らしている者もいる。
そんな平和な日常を壊すように、胡媚娘と獲猿の二人は現れた。
「いぃ~い……獲猿?目的わぁ、あくまで妖魔狩人を誘き出すこと。だからぁ~、思いっきり派手に暴れちゃいなさぁ~い!!」
胡媚娘の合図と共に、一気に村人へ駆け寄る獲猿。
「う……うわぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げる村人を持ち上げ、勢いつけて地面に叩きつける。
ある者は、叩きつけられた後、踏み潰され。
ある者は背骨を圧し折られ……
連絡を受けて駆けつけた警察官も、無残に踏み殺された……。
妖怪セコから知らせを受けた金鵄と凛の二人が駆けつけた頃には、そこはもう地獄絵図のような光景で、さすがの凛も目を背けたくなるほどだった。
そんな光景を楽しそうに見つめていた胡媚娘。そして、まだ息があると思われる村民の頭を握り絞めている獲猿。
「遅かったわねぇ~、妖魔狩人さん。あまりに遅いんでぇ~、もう十人以上殺しちゃった~ん!」
金鵄と凛の姿を見つけ、一遊び終えた子どものように話しかけてきた。
「見たところ中国妖怪のようだけど、その人を放すんだ!!」
村民の頭を握り締めている獲猿を睨みながら、金鵄が叫んだ。
「獲猿~っ、その人間を放しなさいって~。」
すると獲猿は、そのまま腕を高々と上げると……
グシャッッ!!
まるで『卵』を握り潰すかのように、村民の頭蓋骨を軽々と握り潰した。
「……っ!?」
驚く金鵄と凛を尻目に、村民を放り投げる獲猿。
「な……なんて酷い事を!」
怒りを顕わにする金鵄を凛がそっと制した。
そして無言のまま、弓を構える。
「り……凛……っ!?」
「いいわねぇ~っ!妖魔狩人ちゃんの方は、早速やる気ねぇ~! 獲猿……あの子も潰しちゃいなさいっ!!」
胡媚娘の合図と共に駆け出す獲猿。
なんの躊躇いも無く、矢を放つ凛。
青白い閃光が真っ直ぐ獲猿に向かっていく。
「なにっ……!?」
金鵄が驚きの声を上げた!
巨体の獲猿が、横にステップし、飛んできた霊光矢をかわしたのだ。
更にすぐさま体勢を立て直し、右拳を振り上げ襲い掛かってきた。
次の矢を構える間も無く、凛は必死で飛び退き、攻撃をかわすのが精一杯。
「違う……、凛が今まで戦ってきた妖怪とは、レベルが違う……」
人間の頭を軽々と握り潰すほどの怪力と、飛んでくる矢をかわせる俊敏な動作。
圧倒的な妖力を見せつけた妖木妃とはまた別に、明らかに戦闘に特化した能力。
獲猿は、間髪入れず襲い掛かってくる。
いくら高い防御力を誇る凛の服でも、あの攻撃をまともに食らったら、大ダメージを喰らうだろう。
凛の霊感がそれを感知している分、尚更飛び避けるのに精一杯だ。
「凛っ!この場所で戦うのは不利だ!! 一旦退いて、奴の動きを制限できる所まで誘い込むんだ!!」
凛は金鵄の助言に頷くと、山へ向かって走り出した。
選択:凛は奴等をどこへ誘い込む?
① 棚田が営まれている、斜面へ。
② 木々に囲まれた、山道へ。
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『-後編-』へ続く。
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