2013.02.22 Fri
妖魔狩人 若三毛凛 if 第05話「千佳の異変 -前編-」
行方不明だった千佳が保護されてから二日経った、五月十一日。
もちろん千佳が行方不明だった事は、警察関係者、学校関係者、本人家族以外、誰にも知らされていない。
生徒達には、千佳はインフルエンザで休学と伝えられていたため、凛ですらその事実を知る由もないのだ。
その日の朝、日曜だという事もあり凛はいつもよりのんびりと目覚めた。
「今何時・・・? えっ、もう十時・・!?」
おそらく相当な疲れが溜まっていたのだろう。なにしろこの一週間で四回も妖怪と戦ったのだ。ついこの間まで普通の女子中学生であった凛にとって、それは当然であろう。
パジャマ姿のまま階段を降り、居間を通って台所へ除くと、母・日和が朝食の片付けをしていた。
「おはよう」
「おはよう、今日はずいぶんゆっくり寝ていたわね?」
「うん、ちょっと部活で疲れたみたい」
そう言って凛は居間へ戻ると、テレビを付けた。
「うん…?」
何気なくバラエティー番組を見ていると、画面の上にニュース速報が流れている。
神田川県加須屋郡由子村で起きている連続通り魔事件、昨夜も村民二名が何者かに襲われる。
「連続通り魔事件…!?」
「そうそう、三日前から被害者が出ているそうよ。昨日の朝、村長さんから気をつけるようにって連絡があったわ」
日和が凛の朝食を持って居間へ入るなり話掛けてきた。
「三日前から・・・?」
「二丁目の大橋さんと三丁目の吉田さんが被害にあったらしいの。でも重症は負ったけど命に別状はないみたい」
ジリリリリン・・・
話に水を差すように電話が鳴り響いた。
「はい、若三毛ですけど…、ああ村長さん。はい…はい…」
日和は受話器を置くと青ざめた顔で凛を見た。
「凛、昨日の被害者は斎藤さん…、千佳ちゃんのお父さんとお母さんだって!」
「ち…千佳の…?」
「今から公民館で緊急集会があるから、お母さん出かけてくるわね。凛、用事がなければ家にいるのよ」
日和はそう言って手短に身支度を整えると、急ぎ早で飛び出していった。
―千佳の両親が・・・?―
座卓の上にある新聞を広げ、隅々まで目をやる。
あった!
『被害者は全身を鋭い刃物のようなもので刻まれ、全治三ヶ月の重症』
妖怪の仕業?
いえ、これだけでは断定できない。
それと千佳の両親、千佳は無事なの!?
「金鵄、いるんでしょ?」
「ああ、姿が見えないように霊体化しているけどね」
「嫌な予感がするの、一緒に被害者が入院している診療所へついて来てくれる?」
「もちろんだ、もし妖怪の仕業なら早く手を打った方がいい」
「申し訳ございません、こちらの患者さん方はしばらくの間、面会をご遠慮させて頂いております。」
村の中央にある病床数、十床程度の診療所。予想はしていたが、面接はあっさりと断られてしまった。
「金鵄、あなた被害者の症状を確認してきてくれる? 人間によるものなのか、妖怪の仕業なのか」
「わかった。…で君は?」
「わたしは千佳の家に行ってみる。無事かどうか確認したいし」
「うむ、何かわかったら、すぐに知らせるよ」
金鵄はそう言って姿が見えない霊体のまま、病床へ向かっていった。
凛はそれを見届けると、診療所を後にした。
斎藤家は昔ながらの棚田農家。
その特性を生かし、現在では山葵産業で需要を上げ、神田川県内で一つのブランドとして確立している。
そのため集落から離れた場所に住まいをおいているが、その佇まいは村民から『斎藤御殿』とも呼ばれる程の立派なものである。
千佳の家族は両親と千佳に加え、使用人が五名。祖父母もいるらしいが、現在は大きな病院に通院しやすい丘福市で暮らしている。
診療所から自転車で二十分、凛はその門前に来ていた。
門に設置されたインターホンを押すと、しばらくしてから千佳の声が返ってきた。
「どなた?」
「千佳? わたし・・凛だけど・・・」
「凛? 入って・・」
門が開錠され、凛は中へ入っていった。
何度も来たことがあるが、日本の自然美を味わえる立派な庭に繋がる。
春夏秋冬に催されたその庭は、県内でも五本の指に上げられると言われている。
そんな立派な庭を通り玄関に入ると、そこには千佳が待っていた。
斎藤千佳、凛の同級生。
丸顔でショートヘア、アンダーリムの眼鏡を掛けている。
背丈は凛よりやや低いものの、運動神経抜群でそのせいか、全体的なスタイルでは凛より上かも知れない。
「千佳! おじさんとおばさんの事・・・・」
凛は開口一番そう尋ねる。
「いいから、入って」
千佳はそっけない態度で凛を中へ通した。
廊下を歩きながら、凛は一つの違和感を感じ千佳に尋ねた。
「ねぇ、ここの家で働いている人達は? さっきから誰にも会わないし、いつもならその人達が案内してくれるのに?」
「今日は誰も来ていないっちゃよ。あんな事があったから、暇を与えたんやわ。だから、あたしと凛の二人っきりやねん。」
「わたしと千佳の二人だけ・・・?」
そうこう言っているうちに、いつも通り洋風のリビングに連れられた。
「凛、紅茶でいいんやろ?」
「千佳!そんな事より、おじさんとおばさんの事、心配じゃないの!?」
凛の言葉に千佳は小さくため息をついた。
「凛、さっきから父さんと母さんの事ばかりやね? あたしの事は心配じゃなかと?」
「心配よ、だからこうして・・・」
「だったら今日まで、なんで見舞いに来てくれなかったん?」
「えっ!?」
その頃、病床に侵入した金鵄は、千佳の母親『結』の枕元にいた。
全身包帯で包まれている結、それだけでどれだけの負傷を負ったかがわかる。
ここへ来る前に他の被害者を見てきたが、状態は殆ど同じ。
それだけでなく、傷口から僅かながら妖気を感じ取れた。間違いなく妖怪の仕業だ。
「う…ううん…」
意識を失っている結が、うなされるように言葉を漏らした。
「ち…千佳・・・ど…どうして…そんな姿に・・・・」
「うわごと…!?」
「やめて…千佳…、いや…いやぁ…」
相当な精神的ショックと恐怖を味わったのか、その形相は普通ではない。
「ま…まさか、その千佳って子が・・・!? 早く、凛に知らせなくては!!」
「あたしさぁ、何日間か学校休んどったやん、凛がいつ見舞いに来てくれるか、ずっと待っとったんよ!」
「そ…それは、千佳がインフルエンザだから、治るまでお見舞いには行かないようにって、学校の先生から・・・」
「そんなの関係ないやん。結局…凛があたしの事、その程度しか思っていないってことやないの?」
「ち…違う、わたしにとって千佳は幼なじみで、勉学を共にする大事な友だ・・」
「だよね~っ、幼なじみで同級生! 凛にとってのあたしは、その程度。あたしがどんだけ凛の事を・・・」
「千佳・・・・」
どうなる?
①凛は会話の最中で千佳の小さな異変に気づく。
②凛は千佳の会話のペースを変えられず、流れに乗ってしまう。
----------------------------------------------------------------
『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
もちろん千佳が行方不明だった事は、警察関係者、学校関係者、本人家族以外、誰にも知らされていない。
生徒達には、千佳はインフルエンザで休学と伝えられていたため、凛ですらその事実を知る由もないのだ。
その日の朝、日曜だという事もあり凛はいつもよりのんびりと目覚めた。
「今何時・・・? えっ、もう十時・・!?」
おそらく相当な疲れが溜まっていたのだろう。なにしろこの一週間で四回も妖怪と戦ったのだ。ついこの間まで普通の女子中学生であった凛にとって、それは当然であろう。
パジャマ姿のまま階段を降り、居間を通って台所へ除くと、母・日和が朝食の片付けをしていた。
「おはよう」
「おはよう、今日はずいぶんゆっくり寝ていたわね?」
「うん、ちょっと部活で疲れたみたい」
そう言って凛は居間へ戻ると、テレビを付けた。
「うん…?」
何気なくバラエティー番組を見ていると、画面の上にニュース速報が流れている。
神田川県加須屋郡由子村で起きている連続通り魔事件、昨夜も村民二名が何者かに襲われる。
「連続通り魔事件…!?」
「そうそう、三日前から被害者が出ているそうよ。昨日の朝、村長さんから気をつけるようにって連絡があったわ」
日和が凛の朝食を持って居間へ入るなり話掛けてきた。
「三日前から・・・?」
「二丁目の大橋さんと三丁目の吉田さんが被害にあったらしいの。でも重症は負ったけど命に別状はないみたい」
ジリリリリン・・・
話に水を差すように電話が鳴り響いた。
「はい、若三毛ですけど…、ああ村長さん。はい…はい…」
日和は受話器を置くと青ざめた顔で凛を見た。
「凛、昨日の被害者は斎藤さん…、千佳ちゃんのお父さんとお母さんだって!」
「ち…千佳の…?」
「今から公民館で緊急集会があるから、お母さん出かけてくるわね。凛、用事がなければ家にいるのよ」
日和はそう言って手短に身支度を整えると、急ぎ早で飛び出していった。
―千佳の両親が・・・?―
座卓の上にある新聞を広げ、隅々まで目をやる。
あった!
『被害者は全身を鋭い刃物のようなもので刻まれ、全治三ヶ月の重症』
妖怪の仕業?
いえ、これだけでは断定できない。
それと千佳の両親、千佳は無事なの!?
「金鵄、いるんでしょ?」
「ああ、姿が見えないように霊体化しているけどね」
「嫌な予感がするの、一緒に被害者が入院している診療所へついて来てくれる?」
「もちろんだ、もし妖怪の仕業なら早く手を打った方がいい」
「申し訳ございません、こちらの患者さん方はしばらくの間、面会をご遠慮させて頂いております。」
村の中央にある病床数、十床程度の診療所。予想はしていたが、面接はあっさりと断られてしまった。
「金鵄、あなた被害者の症状を確認してきてくれる? 人間によるものなのか、妖怪の仕業なのか」
「わかった。…で君は?」
「わたしは千佳の家に行ってみる。無事かどうか確認したいし」
「うむ、何かわかったら、すぐに知らせるよ」
金鵄はそう言って姿が見えない霊体のまま、病床へ向かっていった。
凛はそれを見届けると、診療所を後にした。
斎藤家は昔ながらの棚田農家。
その特性を生かし、現在では山葵産業で需要を上げ、神田川県内で一つのブランドとして確立している。
そのため集落から離れた場所に住まいをおいているが、その佇まいは村民から『斎藤御殿』とも呼ばれる程の立派なものである。
千佳の家族は両親と千佳に加え、使用人が五名。祖父母もいるらしいが、現在は大きな病院に通院しやすい丘福市で暮らしている。
診療所から自転車で二十分、凛はその門前に来ていた。
門に設置されたインターホンを押すと、しばらくしてから千佳の声が返ってきた。
「どなた?」
「千佳? わたし・・凛だけど・・・」
「凛? 入って・・」
門が開錠され、凛は中へ入っていった。
何度も来たことがあるが、日本の自然美を味わえる立派な庭に繋がる。
春夏秋冬に催されたその庭は、県内でも五本の指に上げられると言われている。
そんな立派な庭を通り玄関に入ると、そこには千佳が待っていた。
斎藤千佳、凛の同級生。
丸顔でショートヘア、アンダーリムの眼鏡を掛けている。
背丈は凛よりやや低いものの、運動神経抜群でそのせいか、全体的なスタイルでは凛より上かも知れない。
「千佳! おじさんとおばさんの事・・・・」
凛は開口一番そう尋ねる。
「いいから、入って」
千佳はそっけない態度で凛を中へ通した。
廊下を歩きながら、凛は一つの違和感を感じ千佳に尋ねた。
「ねぇ、ここの家で働いている人達は? さっきから誰にも会わないし、いつもならその人達が案内してくれるのに?」
「今日は誰も来ていないっちゃよ。あんな事があったから、暇を与えたんやわ。だから、あたしと凛の二人っきりやねん。」
「わたしと千佳の二人だけ・・・?」
そうこう言っているうちに、いつも通り洋風のリビングに連れられた。
「凛、紅茶でいいんやろ?」
「千佳!そんな事より、おじさんとおばさんの事、心配じゃないの!?」
凛の言葉に千佳は小さくため息をついた。
「凛、さっきから父さんと母さんの事ばかりやね? あたしの事は心配じゃなかと?」
「心配よ、だからこうして・・・」
「だったら今日まで、なんで見舞いに来てくれなかったん?」
「えっ!?」
その頃、病床に侵入した金鵄は、千佳の母親『結』の枕元にいた。
全身包帯で包まれている結、それだけでどれだけの負傷を負ったかがわかる。
ここへ来る前に他の被害者を見てきたが、状態は殆ど同じ。
それだけでなく、傷口から僅かながら妖気を感じ取れた。間違いなく妖怪の仕業だ。
「う…ううん…」
意識を失っている結が、うなされるように言葉を漏らした。
「ち…千佳・・・ど…どうして…そんな姿に・・・・」
「うわごと…!?」
「やめて…千佳…、いや…いやぁ…」
相当な精神的ショックと恐怖を味わったのか、その形相は普通ではない。
「ま…まさか、その千佳って子が・・・!? 早く、凛に知らせなくては!!」
「あたしさぁ、何日間か学校休んどったやん、凛がいつ見舞いに来てくれるか、ずっと待っとったんよ!」
「そ…それは、千佳がインフルエンザだから、治るまでお見舞いには行かないようにって、学校の先生から・・・」
「そんなの関係ないやん。結局…凛があたしの事、その程度しか思っていないってことやないの?」
「ち…違う、わたしにとって千佳は幼なじみで、勉学を共にする大事な友だ・・」
「だよね~っ、幼なじみで同級生! 凛にとってのあたしは、その程度。あたしがどんだけ凛の事を・・・」
「千佳・・・・」
どうなる?
①凛は会話の最中で千佳の小さな異変に気づく。
②凛は千佳の会話のペースを変えられず、流れに乗ってしまう。
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『-後編-』へ続く。
そのまま、下のスレをご覧ください。
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