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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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ネザーワールドクィーン 「第5章」



 両拳で輝いている黒紫色の光を、ゆっくりと全身に移動させてみる。
 少しでも気を緩めると、集まっている光が一瞬で飛び散ってしまうような気がする。落ち着いて、尚且つ気持ちを途切れさせず光をコントロールする。
 全身に光が行き渡ると、俺の身体を拘束していた…カイーブの魔法で作れた紐が、プチッ!プチッ!と千切れ始めていった。
 それってつまり、カイーブの魔力よりも、今の俺の魔力の方が上だってことか?
 全身を縛っていた紐が解かれ、身体が自由になったことを確認すると、俺は静かにカイーブの死体に近寄る。
 なぜならヤツの手には、全ての状態変化を元通りに戻せる『モトモトパウダー』があるからだ。
 プレス機で箱状にされた者たちはもちろん、上手くいけばペチャンコになった王女も、ある程度…元に戻せるかもしれない!
 幸い? アイツ等は王女を喰うことに集中し、俺の方まで気が回っていない。
 カイーブの死体の手からモトモトパウダーを手に入れた俺は、今度はある…一つの術を試してみる。
「冥道……開封…」
 先程、王女が使おうとした術の一種だ。
 どういう術かと言うと、一時的にこの世とあの世(冥界)を繋げる術らしい。
 俺の中に王女の魔力があるならば、当然…王女の術も使えておかしくない。もちろん、王女ほど大きな効力を発揮しなくていい。
 俺の腕一本が通るだけの穴が、繋がってくれればいいのだ。
 すると、空間に小さな亀裂が浮かび上がり、それは腕一本が通るだけの黒い穴へと変わった。
 俺はその中に手を突っ込み、手探りである物を握り締めた!
 ゆっくりと腕を引き抜くと、その手に握られているのは…一本の長い剣!!
「よしっ! 成功だ!!」
「てめぇ、何をしているんだべ!?」
 しまった! 初めての術の成功で、嬉しさのあまりつい声が出てしまった。
 その俺の声に反応したのは、髭モジャのドワーフ……アニード。
 ヤツは俺の剣に気が付くと、
「この野郎~っ! どっからそんな物、手に入れたぁ!?」
 と、斧を振りかざして襲い掛かってきやがった。
 こうなれば当然ここは、剣と戦斧による白兵戦の場面だろう!
 だが、一つ言っておく。俺は剣を使った事は殆ど無い。いや、過去一回だけあったが、それ以外はまったく無いと言っても過言では無い。
 それは真剣は……という事ではなく、竹刀だろうが木刀だろうが、ビニール製のおもちゃの剣だろうが。
 とにかく棒状の物を握ってチャンバラをするということ自体が、俺の人生の中では殆ど無かったのだ。
 したがって、アニードの戦斧による技量がどれくらいのものか判らないが、おそらくマトモにやり合ったら勝てるはずは無いと言いきれよう!
 なのに、なぜ…俺はわざわざ冥界から、剣を引き抜いたのか?
 それは、この剣自体に秘密がある!
 俺は襲い掛かってくるアニードを待ち構えながら、ゆっくりと剣を『鞘から抜いた』。
 その瞬間! キンッ!!…という金属音と共に、目の前で剣と戦斧による火花が飛び散り始める。
 キンッ! キンッ! キンッ!
 それは、あたかも達人同士による対決のようだ!
 だが、俺が今…望んでいるのは、互角の勝負では無い。目の前の敵を倒し、王女を……、麻奈美を……。そして、他の少女たちを助け出す事だ!!
――剣よ、目の前の敵を倒してくれ!―
 そう強く念じる。
 すると、俺の剣はアニードの斧を強く弾き返し、その隙を狙って一気にヤツの胸元を貫いた!!
「つ…強い……。この小僧……、とんでもねぇ……強さ…だべ」
 それがアニードの最後の言葉だった。ヤツはそう言って俺の前に崩れ落ちたんだ。
 でも、なぜ剣のど素人の俺が、互角以上の戦いをし、勝つことができたのか?
 先程も言ったが、それは剣に秘密がある。
 俺が冥界から手にした剣。
 それは、『魔剣…ティルフィング!』。

ネザーワールドクィーン 一話13

 神話の世界で小人族が作ったと言われる…この剣は、『勝利をもたらす剣』。
 使い手が強く念じれば念じるほど、剣は生き物のようにその念に応え、相手を倒す!
 たとえ、その使い手が俺のようなど素人でも……だ! でなければ、俺なんかが戦斧の名手とも言われるドワーフ族に勝てるはずがねぇ。
 そう。これが俺の唯一の秘策だ。今は、この剣の力に賭けるしかねぇんだ!
「…と言うわけで、ババア! 今度はお前の番だぁ!!」
 俺は剣を振り上げ、ハッグのババアに突進して行った。
「させはせんぞ! マーレの夢!!」
 ハッグのババアは掌を俺に向け、そう叫ぶ!
 それは、一度は俺の意識を奪いかけたハッグの術。だが、さっきと違い、今の俺は魔力で覆われている。それも、王女から受け継いだ魔力だ。
 だから、そんな術は俺には通用しない!(みたいだ!)
 一気に間合いを詰め、俺は剣を振り下ろした。
「ひぃ……っ!!」
 ハッグは短い悲鳴を上げながら、ババアとは思えないほどの身軽さで、数メートルほど後ろへと飛び避けた。
 しかも、剣の切っ先がヤツのローブを切り裂いていたのを知ると、その顔は一気に青ざめていく。
 くそったれ! 踏み込みが足りなかったか? しかし、王女が焼かれているバーベキューコンロから、ヤツを引き離す事はできた。それはそれで良しとするか。
 俺は剣を身構えたまま、王女の身体をコンロから引きずり降ろした。かなり喰いつくされていて下半身は既に無く、上半身と頭部だけが残っている状態。
 そんな状態だが、まだ息はしており…気を失っているだけのようだ。
 なるほど。本当に不死身なんじゃないかと、思わされる。
 俺はカイーブから取り上げたモトモトパウダーを、その身に振り掛けてやった。頼む……これでなんとか復活してくれ!
 しかし、残念ながらそれをノンビリ見守っている暇は無さそうだ。
 選りにも選って、あのババア。化け物のカードを手にしているカエデを、けしかけていやがる。
 カエデも無言で頷き、王女を倒した…あのタラスクとかいう化け物を、俺に差し向けやがった。
――冗談じゃねぇーぜ!―
 長い首や尾を振り回し、挙句に口からは灼熱の息を吐き掛ける。『生身の人間』の俺が、マトモに喰らったらそこで全てが終わる。
 なんとか隙を見て斬りつけてみるが、固い甲羅はもちろん、それ以外の肢などを狙っても、僅かなダメージを与えるのが精一杯だ。
 正直、いくら魔剣ティルフィングを手にしているとは言え、こんな化け物……まったく勝てる気がしねぇーっ!!
 それにしても、これほど狂暴な化け物なのに、絶対にカエデが被害に遭いそうな攻撃は繰り出さない。それは、カエデを主人と認めているからなのか?
 でも、なぜ黙ってカエデなんかに従っているのだ? どう見ても、カエデの力ごときで押さえ付けらえる化け物じゃないはずだが…。
 たしか麻奈美の時は、抜き取った魂をカードに移し、その抜け殻である身体は人形と化したよな?
 俺自身…経験仕掛けたことがあるが、魂その物自体を失うと、その生物の存在その物も消滅してしまうんだった。
 となると……そうか! あのカードには、まだ化け物の魂が残っているんだ! カードが傷つき、万が一それに宿っている魂まで傷ついて失うことがあれば、いくらあの化け物でも存在自体が消滅する。
 それをあの化け物は、本能的にわかっているんだ。だから、カードを握っているカエデには攻撃が出来ない。
 ……となれば!
 俺はカエデに向かって、一直線に駆け出した。アイツから、あのカードを奪い取れば…。そうすれば、この化け物は襲ってこれない!
 そんな鬼のような形相で向ってくる俺に恐怖を感じたのか? 今まで淡々と無表情を貫いていたカエデにも、焦りの色が見えた。
 大きなリュックを背負った背中を見せて、一目散に逃げ始める。
「こら! 待ちやがれッ!!」
 ティルフィングを振り回しながら、その後を追い回す俺。
 ここで一気に追い抜いて、アイツの前に立ち塞がればカッコイイんだろうが、やっぱ俺だな。ヒーローになる資質に、何かが足りないらしい。
 息を切らし始めていた俺は、石だか空き缶だか、何だかよく判らない物に躓き、大きく転がり込んでしまった。
 だが、災い転じて福となる。
 転がった拍子に、握っていた剣先が、カエデのリュックをザックリと切り裂いたみたいだ!?
 切り口から、ボット!ボット!…と、こぼれ落ちる人形とカード。
「あ! それは……!?」
 振り向いた彼女が咄嗟に叫んだその理由は、こぼれ落ちた多くの人形の中に、先ほど手に入れたばかりの麻奈美の人形があったからだ!!
 まさしく、転じて福だ!! 俺は他の人形とかには目もくれず、無我夢中で麻奈美の人形とカードを握り締めた。
 やったぜ! やっと麻奈美を取り返すことができた!
 あとは、化け物のカードを奪い取るだけだが…。
 俺の目の前では、カエデが慌てて他の人形を拾い集めている。しかも、あの化け物のカードを脇に置いた状態で……だ!
「もらったぜ!!」
 間の抜けたカエルのように飛び跳ね、カードに手を伸ばす俺。
 カエデもそれに気づき、阻止するべく手を伸ばす。
 一枚のカードをめぐり、俺とカエデは奪ったり…奪われたり、激しいもみ合いとなる。
 だが、そのもみ合いの拍子で俺たちの手から離れたカードは、まるでそよ風の悪戯にあった如く…ヒラヒラと宙を舞い、事もあろうに化け物タラスクの目の前にポトリッ!と落ちやがった。そして……、
パクッ!!
 なんと! タラスクは長く大きな舌を器用に使い、目の前のカードを拾い上げると、そのまま喉の奥に飲み込んだのだ!
 その瞬間タラスクの全身が、照明弾のように眩く輝き始める。
「おい、カエデ……! あの化け物に、何が起こっているんだ!?」
「魂が……。苦労して抜き取った魂が……。再び肉体に戻り、融合しているの。」
 そう言うカエデは、それまでの無表情が打って変わって目が点となり、手足もガタガタと震えている。一応…感情はあったんだな?
「で、魂と肉体が融合すると…どうなるんだ!?」
「元の狂暴な怪物に戻る。そうなったら、私たちの手には負えない。」
 手に負えないって。じゃあ…お前、どうやって人形に変化させたんだ!?
「ご主人や、他の魔術師の協力があったから。一人じゃ…とても無理。」
 オイ…オイ! じゃあ…何か? 今までも狂暴な暴れん坊だったのに、更に手が付けられなくなるっていうのか!?
 いったい…どうしたらいいんだ!? 誰か攻略ウィキペディアをググってくれねぇーか!?
 そうしているうちに、タラスクの身体から発していた眩い光が、徐々に…徐々に収まってきた。だが、それは新たな終焉の始まり。
 先程まで死んだ魚のようだった眼も、今ではギラギラと睨みを利かせている。
 口から吐き出す灼熱の息も、当社比1.5倍アップといった感じだぜ。
「こうなりゃ…仕方ねぇ! 俺が囮になるから、カエデ…。お前はもう一度、ヤツを人形に変化させるんだ!」
 そうだ。今は敵…味方言っている場合じゃねぇ。まずここは一旦協力して、あの化け物を封じ込めることが、お互いの為だ!
 俺はそう思ってカエデに声を掛けたのだが、
「・・・・・・」
 一向に返答がねぇ!?
「おい、聞いてるんか!?」
 そう言って振り向いた先には、もはやカエデの姿は無かった……。
 辺りを見回してみると、ハッグのババアと二人で遥か彼方先の交差点の角を、全速力で折れていく姿が見える。
 最悪だぜ…あの二人! 自分たちの手に負えないと見るや、放置プレイで逃げ出しやがった!!?
 当のタラスクは完全な無敵モード状態で、辺り構わず暴れまくり、街はどんどん崩壊していく。
 こうなりゃ、警察でも自衛隊でも…消防団でも何でもいい。早く応援に来てくれ!と思っても、よくよく考えれば、この辺り一帯にはハッグのババアが眠り粉とやらをバラ撒き散らしていやがったんだ。たどり着く前に、眠り惚けてしまう。
 それって…つまり、孤立無援ってことか!?
「これは今日……間違いなく死ぬな。もし死んだら、これで二……いや、三度目になるのか?」
 思わず、そんな言葉が出て来たぜ。
「でも、俺がやるっきゃ…ねぇーな!」 
 覚悟を決めた俺は、魔剣ティルフィングを強く握りしめた。なんとかこの化け物を倒せるように! そう強く念じながら。
 さすがは魔剣ティルフィング。強く念じれば念じるほど、こんな戦闘素人の俺でも、レベル80並みの達人に変えてくれる!
 ヤツの吐く灼熱や毒の息を切り裂き、長い首や尾の攻撃をかわす。そして、比較的防御の弱そうな腹部や首の付け根などを狙って斬りつけていく。
 それはまるで、アニメやゲームの中の勇者にでもなった気分だ。
 それでも、俺が圧倒的に不利なのは変わりはねぇ。いや、今まで以上に危険な状況だ。
 なにしろヤツは、自分の魂との融合を果たし、本来の力を完全に取り戻している。
 それに対し、体力限界に達している俺の身体は、もはや…ティルフィングに引き摺られて動いているようなものだ。
 いや、戦いの疲れによるものだけではねぇ。この異常な疲労は、その『魔剣』のせいでもあるんだろうな。
 そんな事を考えていたせいか? 狙ったように足をもつれさせた俺は、ヤツの毒の息をマトモに喰らってしまった!
「くそったれ!!」
 ヤツの毒は神経性の毒らしい。身体が痺れ自由が効かなくなってきやがった。
 そこへ痛恨の一撃!! 
 ヤツの払った尾を喰らい、俺の身体は小石のように吹き飛び、路上に叩きつけられた。
 仰向けの背中が、焼ける様に熱く感じる。おそらく大量に出血しているんだろうな……。
 今更だが、ティルフィングが何故…『魔剣』と呼ばれているか、知っているか?
 実はあの剣には『呪い』が掛けられていて、剣の使い手には災いが降り掛かるんだそうだ。その災いは、剣の力を引き出そうと念じれば念じるほど…比例して高まり、最終的には『使い手の命を奪う』。
 あのときも、そうだった。そのせいで俺は一度、魂を失いかけたんだ。
 だから、この剣を使って戦う事を決意した時点で、こうなることを俺は知っていたんだよ。
 ドスンッ!! ドスンッ!!と、地鳴りのように大地を伝わって、奴が歩き回っているのがよくわかる。
 このままヤツに踏み潰されて、俺は終わるんだろう。
 散々でかい口を叩いておいて、結局誰一人…助けることができなかった。情けねぇーな。

 だが、いつまで経っても、一向にヤツが近づいて来る気配が無い。
 かすれそうな意識を必死に保ち、辺りを見回してみると、巨大な物体になにやら無数の『何か…』が、纏わりついているのが見えた。
 それは、動物に群がり食い殺そうとしている…無数の蟻の大群のようにも見える。
――なんだ…アレは? あの化け物に群がっているのか……?―
 そう思って見ていると、頭上から……
「よくここまで耐えきってくれたな。褒めてやるぞ!」
 と、幼く……それでいて優しい声が、耳に入って来た。
 声のした方を見上げると、そこには声同様に幼く、そして優しい笑顔が目に映る。

ネザーワールドクィーン 一話14a

「お……王女…!?」
「うむ。後は全て此方に任せるが良い。お前はゆっくり休んでいいぞ。」
 その言葉を聞き遂げると同時に、激しい疲労感と眠気が襲ってきた。
 俺はそのまま静かに、深い眠りについたようだ。


| ネザーワールドクィーン | 16:15 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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ネザーワールドクィーン 「終章」


 薄っすらと開いた俺の目に、一番最初に映ったものは……「白」。
 白い……天井? そして、右も左も白い壁……?
 どこなんだ…ここは?
「ここは病院だよ、倫人ちゃん。それにしても良かったぁ~! やっと目が覚めてくれたわね? 二日間も眠り続けていたから、心配しちゃったわよ~ぉ!」
 そう言って話しかけてくる聞きなれた声。
「叔母さん……? 病院って、俺は…どうしたんだ?」
「倫人ちゃんが飛び出して行った…あの日。あの塾の近辺では原因不明の災害があったらしく、大勢の被災者が出たらしいの。」
「原因不明の……災害…?」
「ええ。近辺の建物は崩壊……。火災もあったらしいわ。でも、地震が計測されたわけでも無いし、隕石が落ちてきたわけでも無さそう。 一説では、怪しげな新興宗教団体の科学実験があったとも言われているわ。」
 な、なんだ…それは? 何が…どうなってる……!?
「でも、倒れていた人は全員、病院へ搬送されたらしいわよ。そして、倫人ちゃんもその一人ってこと!」
 俺も……?
 いや、俺は化け物と戦って……って?
 ……って、あれ!?
 俺は自身の全身を隈なく触ってみたが、化け物と戦って受けた傷が一つも無い。思いっきり叩きつけられて、出血多量と感じた背中も……痛みすら無い?
 まさか、アレは夢だったのか?
 だとしたら、麻奈美は…? 麻奈美も無事だったのか?
 俺の慌てふためきに、叔母さんは目を丸くして見つめていたが、
「大丈夫よ。麻奈美ちゃんも無事に保護されて、この病院で治療を受けているわよ!」
 と、ニッコリ微笑んだ。
「ホント倫人ちゃんって、日頃何に関しても平静を装っているくせに、麻奈美ちゃんの事になると、すぐにボロが出るんだから。ま、それだけ意識しているってことかしら~ぁ?」
 そう言う叔母さんの顔は、微笑みから意地の悪そうなドヤ顔にレベルアップ! なんか、すげぇ~っムカつくぜ。
 まぁ…でも、麻奈美は無事だったのか? なんにしても良かった!
「それじゃ、あたしは先生と今後の話をしてくるけど……。そうそう、そう言えば王女ちゃんの執事の人が来ていて、倫人ちゃんに会いたがっていたわよ。」
 執事……?
「そう。まだ病院内にいると思うから、呼んでくるわね!」
 叔母さんはそう言うと、テクテクと急ぎ足で病室から出ていった。
 そして、それと入れ替わりに入って来たのが、一人の若い男。
「こんにちわ、倫人さん。」
 歳の頃は20代前半ばくらい。細身でスラリとしたモデル体型。ニコニコした笑顔に合わせたような、細い糸目。

ネザーワールドクィーン 一話15

 ああ、コイツか……。
 たしか冥界ニブルヘイムで出会い、それ以後…王女の下宿代を払いに来たのもコイツだった。名をたしか、ガンガン…ジー?とか言っていたかな?
「いいえ、『ガングラティ』です。どこかの特撮ドラマのキャラクターではありませんので。」
 それは、白い歯がキラリと輝きそうなくらいの爽やかな笑顔。モテない男の悲しい習性だな。こういったイケメン野郎の爽やかな笑顔ほど、虫唾が走ることはないぜ!
「そう言わないでくださいよ。それよりも今回の事は、本当に深く感謝しております。」
「感謝……?」
「はい。貴方があのタラスクを引き付けていてくれたお陰で、王女はなんとか復活でき、術を発動させる時間を稼ぐことができました。」
 俺がタラスクを引き付けていた……? ってことは、やはり俺は、あの化け物と戦っていたんだな!?
「ええ、もちろんです! 本当に勇敢でしたよ。貴方があそこまで頑張ってくださったお陰で、被害が最小限に防げたと言っても過言ではありません。」

 この男……ガングラティの話はこうだった。 
 あの時、カイーブから奪い取ったモトモトパウダーを王女に振り掛けた後。ペチャンコに潰された王女は、脚を失ったままであったが、なんとか術を繰り出せる程度まで回復したようだ。
 そして復活した王女は、再び『冥道開通』の術を起動させた。
 前にも言ったが、冥道開通とは人間界(ミッドガルド)と冥界(ニブルヘイム)という二つの世界を一時的に連結させ、その場で行き来出来る様にするという……難易度の超高い大技。
 今度は、全ての注意が俺に向いていたため、発動するまでの時間を十分に稼げたらしい。
 二つの世界が繋がると、王女はもう一つの秘術……『ドラウグル兵団』を召喚させた。
 ん……? ドラウグル兵団!?
「ええ。ニブルヘイムの『死人』たちで構成された軍団ですが、並みの死人の軍団ではありません。元バイキングや傭兵などといった歴戦の兵(つわもの)たちの死人が中心となった、総勢数万人にも及ぶ…天上界にも最も恐れられた兵団なのです。」

ネザーワールドクィーン 一話14b

 そう。あの時俺が見た、化け物(タラスク)に群がる無数の何か…とは、数万人にも及ぶ死人兵の大群(ドラウグル兵団)だったのだ。
 さすがにあの化け物(タラスク)も、それほどの大群相手では成す術のなかっただろう。
 なにしろ、ただでさえ歴戦の兵たちが数万と集まっているのに、そいつ等は既に死人であるため、どれだけ叩きつけようが…踏み潰そうが、再び起き上がって攻撃をしてくるのだからな。
 そのタラスクが倒れた後は、モトモトパウダーを使って箱化された女の子たちを元に戻していったらしいが。
 でも、麻奈美もそうなのか? 麻奈美はただの変化ではなく、魂を抜き取られていたのだが……?
「麻奈美さん? ああ、あの人形とカードにされた少女ですね! ご安心ください。彼女なら、王女が直接元の姿に戻しました。」
 戻しました……って、王女はそんな術も使えるのか!?
「冥界(ニブルヘイム)で、長きにわたって霊魂を相手になさって来たお方です。魂の扱いは、誰よりもお手の物です!」
 さすが、冥界の王女(女王)だぜ。
 俺なんか息巻いて戦った割には、無様に敗北して足を引っ張っちまったからな。
「いえ。相手は、あのS級モンスター…リヴァイアサンの子です。生身の人間が、たった一人であそこまで戦ったこと自体が、奇跡に近い事ですよ。そうそう!戦いで受けた傷は、冥界の治癒魔法を施させていただきました。傷跡も痛みも残っていないはずです。それと魔剣(ティルフィング)による呪いですが……」
 それだ!
 化け物に受けた傷だけでなく、むしろ…その呪い方が致命的だったはずだが?
「あの剣の呪いの原理は…実の所まだ解明は出来ていないのですが、災いを起こす事で、使い手の魂の中にあるエネルギーのようなものを、吸収している節があるようです。」
「魂を…喰うようなものか?」
「それに近いものなんでしょうね? ですから、魂の中のエネルギーを補充してやれば、なんとか…その場は凌げるという事も解りました。」
 なんか、ガソリンを補給さえすれば良いような言い方をするなよ! そんな安っぽいものじゃねぇーだろ、魂のエネルギーっていうのは!? 
 ……って、ちょっと待て! 今の俺の魂のエネルギーって!?
「はい。王女の『魔力』です。今の貴方の魂は王女の魂の約半分ですから、当然…そのエネルギーも、王女の物を分け与えなければいけないのでしょう。」
 俺は、また…あの人の命の一部を頂いて生き延びたのか?
 麻奈美の事といい……、そして……この俺。王女には、助けてもらってばかりだぜ。
「その事ですが……。これは、あくまで僕の想像ですが、おそらく王女も同じ気持ちを抱いていると思います。」
「どういうことだ?」
「先程も言いましたが、もし…貴方がタラスクやスヴァルトアルヴヘイムの者たちを相手にしてくれなかったら、王女も無事では無かった可能性があります。」
 しかし、元々…俺の様子さえ見に来なければ、こんな事に巻き込まれることも無かった……。
「そうかも知れませんね。でも、貴方もご存知の通り、王女はああ見えても好奇心旺盛なところがあります。何のきっかけで何に巻き込まれるか? 正直、判ったものではありません。それに……」
「それに……?」
「貴方が今でも引け目を感じている……あのニブルヘイムの件も、あのとき、貴方は王女を守ろうとした結果、ああなってしまった。それは貴方の罪ではありません。ですから、王女が魂を分け与えたのも、そんな貴方への感謝の表れだと思います。」
 そう言ってくれるのはありがたいが、あの子どものような姿を見ると、素直に喜びにくいな。
「でしたら、僕からのお願いを聞いて頂けないでしょうか?」
「お願い……?」
「ハイ。王女はミッドガルド……特に、この日本の神田川県という地を大変気に入っていらっしゃるようで、しばらくは行ったり来たり、もしくは居つく可能性が充分にあります。」
「居つく……って、大丈夫なのかよ…冥界の方は!? たしか、死者の裁きとかしなきゃいけないんだろう?」
「ええ。貴方の仰る通り本当は大変困るのですが、あの方の我がままは今に始まったことではありません。その分は僕が穴埋めするしかないでしょうね。ですので……」
「うん?」
「こちら(ミッドガルド)での王女の守りを、貴方にお願いしてもよろしいでしょうか?」
 俺が、王女を守る……!?
「はい。王女は貴方の事を心から信頼していらっしゃいます。そして、それは僕自身も……。」
 それは買い被りすぎだぜ。ぶっちゃけ言って、また足を引っ張るのがオチだぜ。それを覚悟して言っているのか?
 そう思った矢先だ!
「倫人さん。今、王女の世話をしているメイドから、魔法による連絡が入って来ているのですが……。王女は、まだ脚が完全じゃないのにミッドガルドにやって来て、人間を襲っていた暗黒妖精らしき者と、トラブルに巻き込まれているようです。」
 オィ…オィ! またかよっ!?
「なんでも、人間をケーキ化する者らしく……、えっ!? 王女もケーキになりかけているですって!?」
 それを聞いた瞬間、俺は布団を蹴り上げ……ベットから飛び起きていた。そして、すぐさま服に着替え、部屋を飛び出そうとしたとき、丁度叔母さんが入って来た。
「倫人ちゃん。今…先生と話してきたんだけど、退院は明日と明後日のどっちがいい?」
「それじゃ~っ…急用が出来たので、今すぐの退院でお願いします!!」
 俺はそう言って部屋を飛び出したが、おっと一つ二つ…言い忘れた!

「出来れば麻奈美の退院と、それと……一番大事な事! キラリン大福の用意。俺と…王女の分、よろしくお願いいたします!!」


 おわり


| ネザーワールドクィーン | 16:09 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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