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自己満足の果てに・・・

オリジナルマンガや小説による、形状変化(食品化・平面化など)やソフトカニバリズムを主とした、創作サイトです。

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ターディグラダ・ガール 第三話「丘福に集まった6つの星 一章」


ターディグラダ・ガール 3話01

―私は田村麻由美。地元の私立高校看護科を卒業後、この丘福中央病院に勤務して早二年。今ではある程度の看護まで任されるようになりました。辛いことも沢山あるけど、患者さんが元気になって「ありがとう」と言ってくれれば、それだけで辛さも吹き飛びます!―

 ……と本人の心の声が言うとおり、ここは丘福市にある丘福中央病院。時間は午後9時を回ったところ。
 麻由美は担当している入院患者の看護を終え、一人ナースステーションで備品の片付けを行っていた。
 それにしても余談だが、いつ頃からかだろう? 女性看護師の服装がスカートからパンツルックというか、ズボンが主流となってきたのは。おそらく動きやすさ、機能性を重視し、またしゃがんだ時など下着の露出を避けるためもあるのだろう。
 しかしこう言ってはなんだが、腰を曲げ、お尻を突き出した姿勢をとると、ズボンの方が身体に密着しやすい分、パンツライン。すなわち、下着の形は浮かびやすくなるものだ。
 今、棚の中下段あたりの片付けをしている麻由美は、ズバリ……その姿勢であった。薄いピンクのズボンのお尻には、ややエロチックでもあり可愛らしくもある下着の線が、クッキリと浮かび上がっている。
 思春期を過ぎた健全な男性であれば、目で追わずにはいられないし、正直……触ってみたいという衝動に駆られることだってある。
 そして今、その衝動に駆られたのか、彼女の背後に忍び寄る一つの影があった。
 その影は、突き出たお尻の高さに合わせるように中腰となった。

ターディグラダ・ガール 3話02

「!?」
 一瞬微かだが、お尻に何かが掠ったように感じられた。でも、「気のせいだろう」そう思った麻由美は、そのまま何事も無かったように片付けを続ける。
 すると、「なんだろう? なんか急にだるくなってきた……」
 ものの1~2分もしないうちに、クラっと貧血のような目眩と、身体のだるさを感じてきた。
―そういえば、さっきからお尻がムズムズするんだけど……―
 そう思い、ゆっくり背後を振り返る。
「……!?」
 目に映ったものが一体何だったのか、訳がわからなかった。しかし反射的というか本能的に、尻をひっこめようと身体が反応した。だが、何かに固定されかたのようにピクリとも動かない。
 やがて自分の尻のすぐ前にあるものは、何かの顔であることが理解できた。だが、それは人間の顔では無い。……かと言って、犬や猫のような見慣れた動物の顔でもない。
 どこかで見たことがある、だけど、通常見かけない顔。虫だ……!? そう……本の写真や、テレビで見たことがある。蚊だ! 蚊の顔だ……!?
 あの夏になると、耳元で「プ~ン……」と耳障りの羽音を発し、勝手に人の血を吸い、腹立つような痒みを残していく、あの……蚊の顔だ!?
 だが、今ここで問題なのは、その大きさだ。紛れもなく人間と同じ大きさである。しかも身体つきも、虫というより人間に近い。ただ、腕だけは一対(二本)ではなく、二対(四本)あった。

ターディグラダ・ガール 3話04

 その蚊人間(?)は、針のような口……正確には口吻(こうふん)を麻由美の尻に突き刺している。しかも四本の手で、逃げられないようにしっかり固定していた。
 そして針のような口吻がピクピク動くたびに、腹部が少しずつ膨れ上がっていく。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
 やっと今の自分の状況が理解できて、大きな悲鳴をあげた麻由美。
 そうなのだ。人ほどの大きな蚊人間は、麻由美の尻から血や体液を吸い取っているのである。
 そんな状況なのに、なぜ今まで気づかなかったのか? それは簡単だ。蚊は口吻を刺すと同時に、相手の体内に麻酔液のような物質を流し込む。それが、痛みも感覚も麻痺させるのだ。
 その結果、気づいた時はもう遅い。逃げようにも四本腕で掴まれてピクリとも動けないし、それにもう……三分の一は吸われているのだろう。彼女の意識は殆ど失いかけていた。
 やがて、腰だけ突き上げた形で床に伏した麻由美は、その身体はドンドン細くなり、ついには細い棒に皮膚だけがへばりついた、ボロ雑巾のような姿に成り果てていた。

ターディグラダ・ガール 3話03

「あーっ、やっぱり若い女性の体液は美味しいし、栄養価も高いわね!」そう満足そうな声を上げた蚊人間。
 
 彼……いや、彼女は『カツチ』という種族の蚊の精霊(妖怪)。
 古くから日本に生息する妖怪で、ある昔話では、人の多い都へ行って大勢の血を吸いたいがために、とある大名の家来になろうと企て、相撲までした者もいたという。
 だが実際は、全てのカツチが血や体液を吸うわけではない。本来この種族は樹液や草の汁を吸って生きているのだが、メスだけが産卵のための栄養補給や、自身が産んだ子が自立するまでの栄養補給として、人の血や体液を吸って回るのだ。

 麻由美の体液を吸い尽くしたカツチは、足速に病院を飛び出し、近くにあるスイミングスクールへと向かった。
 丘福市は全国でも上位の商業都市。立ち並ぶビルやアスファルトにコンクリート。よほど郊外へ行かなければ、自然らしい自然もお目にはかかれない。
 それに今の季節は寒の内。たとえ公園などがあっても、寒さに弱いこの種族は凍てつくような池に産卵などできはしない。
 そこで温水プールのあるスイミングスクールを、産卵場所へと選んだわけだ。実は数日前から産卵をしており、もうそろそろ数体の子どもたちが孵化しているはずだ。
 自然の少ない住みにくい現代。毎度毎度……産卵するにも一苦労だ。だけど、その分孵化した子どもたちを見ると、それだけで心が弾んでくる。
 まぁ実際、膨れ上がった腹のせいで飛ぶこともままならず、まるでスキップを踏むような走りになってしまっているのは、それだけ心が弾んでいるためだから。……ということにしておこう。


「はーい、こちらCCS。ん……っ? 中央区のスイミングスクールに、複数の未確認生物が出現?」
 受話器を手にして気怠そうに応対しているのは、未確認生物対策係……通称CCSに派遣されている科学捜査研究所の瑞鳥川(みどりかわ)弘子。生まれてこの方、タバコなど吸ったことがないのに、なぜかいつも禁煙パイプを咥えている。
「現在、中央署の職員が対応。応援要請が出ているから、現場へ向かってくれ? あ~~っ……ごめん、それ無理! 今……みんな出はからっていて、誰もいないんだ。ごめんね~♪」
 瑞鳥川はそう言って、有無言わさず内線電話を切った。すると……
「あれ? 瑞鳥川さん、今電話か何かしていませんでした?」
 たった今トイレから戻ってきて、扉を締めながら首を傾げているのは、和(かのう)滝也。長身細身撫で肩のいかにも草食系男子といった雰囲気。だが、それでもこの警備部警備課未確認生物対策係の係長である。
「あぁ、気にしなくていいよ。ただの間違い電話。」瑞鳥川は、さも何事もなかったように、キーボードを打ち始めながら返答する。
「どうやら、中央区にあるスイミングスクールに未確認生物が複数体、出没したようです。その応援要請の連絡でした。」
 インカム(ヘッドセット)を付け、同じようにパソコンのキーボードを打ちながら淡々と答えたのは、この対策係に配属されて三週間の藤本未希(みき)。
「おおっ!? 藤本ちゃん、ひょっとして今の回線……盗聴していたの? 相変わらず、やるねぇ~っ!」
「この県警本部内全ての回線は、わたしのところで確認取れるようにしていますから。」
 そんな感じで続いていた瑞鳥川と未希の会話。和はしばらく呆気にとられて聞いていたが……
「ちょ……ちょ……っ、ちょっと待てっ!? 未確認生物が出没!? その応援要請~っ!? なんでそんな大事な事、無かった事にしようとしているんですか!? 僕の判断を仰いでください!!」
「いや、だって、和くんトイレ行っていたし、橘ちゃん……今日二ヶ月ぶりの休暇だし。戦えるヤツ、誰もいないじゃん!」
「いやいやいや……! 明日香くんは別として、僕はただ……トイレに行っていただけでしょ!? いない者扱いしないでくださいよ! きちんと報告してください! それと……」
 和は次に未希の方へ振り向くと、
「藤本くんは藤本くんで、なぜ署内で盗聴しているんですか!? この間、禁止したでしょう?」
 その問いに未希は毅然とした態度で、「どんな些細な事でも、情報収集はわたしの仕事であり、それ以上に大切な『趣味!!』ですから。」と返した。
「いやいやいや……! その趣味……犯罪!! 即、止めてっ!! てか、何で仕事より趣味の方が強調されるの?」
 ツッコミが多すぎて、それだけで疲れ果てそうな和。「とにかく……、今すぐ現場へ向かいます。藤本くんはここで待機、瑞鳥川さんは一緒に対策車両に搭乗してください」
「うん? 現場へ向かうって、もしかして橘ちゃんを呼ぶつもりか?」
「いえ。明日香くんは、今日はそのまま休ませます。未確認生物とは、僕が応戦します」
 和はそう言って即座に準備を進めると、足速に署内の銃保管庫へ向かった。


「な……なんなの、これは……!?」
 二階建ての平たい建物になっているスイミングスクールに到着したカツチ。だが、その回りには数台のパトカーが停めてあり、建物内部からは叫び声などが聞こえる。
「中で何があってるの? 子どもたちは……?」
 不安を隠しきれないカツチ。なんとか建物に入り込めないかと辺りを見渡してみるが、入り口付近などには二~三人の警察官が待機しており、とても強行的には侵入できそうにない。
「仕方ない。屋上から……」
 カツチは重たい身体のまま必死で羽ばたきし、警察官に悟られないように屋上に舞い降りた。
 屋上の非常口から内部に侵入したカツチ。そこで見たものは、十数人の警察官に周りを取り囲まれ、プールサイドの隅に追い込まれた数体の異形の生物。体型的には人間に近いが、ゼリーのように半透明で節々に区切られた身体。それはカツチの子供……ボウフラチである。
 そもそもボウフラチは、水中で静かに微生物を食して生きる無害な妖怪。見た目は不気味だが、これといった攻撃能力も持っていないので、並の警官でも十分に退治できる。
 しかし、いくら弱い妖怪といっても、黙って退治されるわけにはいかない。反撃するかのように、数体のうちの二体が前に躍り出た。
 そして胸の前で両腕を×字に組み、「ごーりき・しょーらい!」と掛け声を掛ける!
 するとどうしたことか、全身が更に分厚い節々に覆われ、頑丈そうな身体つきへと変貌した。
 これはカツチ種族の変態で、いわば幼虫であるボウフラチから、成虫であるカツチまでの中間生態、『サナギツチ』という姿である。この姿を通してから、カツチへと成長するのである。

ターディグラダ・ガール 3話05

「な……なんだ、変身したぞっ!?」
 これにはさすがの警官たちも驚いた。なにしろ彼らは、最寄りの交番や地域管轄である中央警察署から寄せ集められた、未確認生物とは初対戦の者たち。敵の見知らぬ能力は、何もかもが恐怖の対象であった。
「全員、発砲を許可する!」この現場の主任らしき警官から射殺指示があがると、他の警官たちは一斉に拳銃を構え、サナギツチやボウフラチに向かって撃ち始めた。
パン!パン!パン! 鳴り響く銃声音。
 皮膚が厚くなったサナギツチはある程度の銃弾に耐えてはいるが、まるでゼリーのような皮膚のボウフラチは、1~2発の銃弾を受けただけで次々と倒れていく。
 それまで黙って様子を伺っていた母カツチ。いくら妖怪とは言え、我が子の危機をこれ以上は黙って見ていられない。危険を承知でその身を警官たちの前に曝け出すと、
「お……お前たちーっ、逃げてぇぇぇっ!!」と叫び声をあげた。
「おいっ! こっちにもいるぞ!?」
 その声で母カツチに気付いた複数の警官たち。三人ほどすぐさま駆け寄ると、彼女に向けて拳銃を構えた。
「はは……!?」
 それに気づいた一体のサナギツチ。高々と両手をVの字に広げ「ちょーりき・しょーらい!」と叫ぶ。すると分厚い節々の皮膚が砕け散り、中から成虫と化した……妖怪カツチが現れた。
 本来ならば、ボウフラチの姿で数日。サナギツチの姿で丸一日過ごしたあと変身をしなければ、体組織は定着しない。しかし今は、そんな悠長な事は言っていられない。自分の母親の危機なのだ。
 最終形態に変身した子カツチは背中の羽で一気に飛び上がると、そのまま猛スピードで母カツチの元へ飛んでいく。そして母と警官との間に、両手を広げ盾になるように入った。
「はは……こそ、にげて……」
 三人の警官を睨みつけながら子カツチは、呟くようにそう告げる。
「馬鹿な……!親が子を見捨ててなど……」
「はは……さえ生きていれば、また……子うまれる」
 子カツチはそこまで言うと、何かを吹っ切ったように警官に飛びかかる。
 カツチという妖怪は決して強い妖怪ではない。しかし昆虫というのは、小さな身体で驚くべき能力を備えている。それがもし人間と同じ等身大となれば、その力は人間とは比較にならない。まして、なにかを守ろうとするならば、尚更だ。
「さぁ……はやく!」
「しかし……!?」
 当然、簡単には割り切れない母カツチ。だが周りを見渡すと、プールサイドの隅で戦っているサナギツチも、倒れて伏せているボウフラチも、皆……子カツチと同じように「はは……逃げて!」と訴えるような目で、母カツチを見つめている。
「お前たちも……、できるなら……生き延びておくれ……!」
 母カツチは心苦しさを抑えながらもそう叫ぶと、踵を返して入ってきた屋上へ向かって走り出した。
「一匹逃げるぞっ!!」主任警官が叫ぶと同時に、他の警官たちが後を追おうとする。だが、子カツチは出口扉で立ち塞がると、全身全霊の力を振り絞って、彼らを先へと進ませなかった。
 それだけではない。サナギツチも……倒れていたボウフラチも起き上がり、誰もがその生命を投げ打って、母だけを守ろうとしていた。

 こうして、母カツチは無事に逃げ切ったわけだが、数分前に到着し、その状況を一部始終見ていた和は、複雑な心境に見舞われていた。

| ターディグラダ・ガール | 16:13 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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