2013.01.04 Fri
妖魔狩人 若三毛凛 if 第04話「最弱妖怪 猪豚蛇 -後編-」
①→
轟音と振動を鳴り響かせながら、吊り天井はどんどん下っていく。
「押し潰されて、死んでしまうダヨ~♪」
勝利を確定したかのように歓喜する猪豚蛇。
だが・・・・
バシッッッ!!!
瞬間、青白い閃光が立ち上ったかと思うと、吊り天井の真ん中が大きくぶち破られている。
そしてそこには弓を真上に構えた、凛が立っていた。
そう、凛は霊光矢で吊り天井を突き破ったのだ。
「そ……そんな……っ!?」
勝利を信じきっていただけに、その驚きようは半端では無い。
猪豚蛇は、思わず腰を抜かしてしまった。
「残念ね、わたしは一滴もあのお茶を飲んでいなかったの」
凛はそう言うと、勢いつけて一気に飛び上がった。
凛の着ている戦闘服は防御力を高めるだけでなく、その運動能力も数倍に引き上げる。
従って、三~四メートル程度の高さなら、一気に飛び上がる事も可能なのだ。
着地と同時に、矢を猪豚蛇に向ける凛。
「答えて、どうしたら金鵄の霊力を元に戻せるの?」
「し……知らねぇーダ……」
更に弦を引く凛。
「ほ……本当に知らねぇダ! で……でも、効力は……一時的なものだと、白陰様は言っておられたダヨ……」
泣きながら答える猪豚蛇。
たしかにこの妖怪は、わたし達を罠に嵌めたけど、この言葉は信じてもいいと思う。もっとも、その白陰という妖怪が嘘をついていなければの話だけど。
「では、さっきの話の続きを始めるわ。もし、またよからぬ事をするならば……」
凛の矢が猪豚蛇の眉間に照準を合わせる。
「あわわわわわわっ……」
本来気の弱い妖怪。凛の本気の眼差し、霊光矢の輝きに相当な恐怖を感じたのだろう。なんとも言えぬ臭気と湯気を沸き上げ、失禁をしてしまった。
「あなた、妖木妃に敵対心を持つ者、もしくは恨みを持つ者を知らない?」
「妖木妃様に敵対心ダか? そ……そんな恐ろしい考えているヤツ、知らねぇーダ!」
「そもそも妖木妃の配下には、何人くらいの妖怪がいるの?」
「オラもよくは知らねぇ。ただ直接命令を頂けるのは三人ダ」
「三人……、つまり幹部って事?」
「んダ。白陰様、嫦娥様、銅角様ダ」
銅角!? あの麒麟の封印を解く鍵を握る者・・・!
「その銅角という妖怪は、一体何処にいるの!?」
「わからねぇーダ。銅角様は気まぐれで、いつも別行動をとっておられる事が多いダヨ。ただ……」
「ただ……?」
「銅角様は不思議な術を使うらしく、銅角様に名を知られた者は生きては帰れないと、聞いたことがあるダ」
「不思議な術……」
結局この妖怪は肝心な事は何一つ知らないようね。どう見ても下っ端の妖怪、嘘は無いと思う。
「り……凛……」
隣の座敷から、よろめきながら金鵄が歩み寄ってきた。
「金鵄、大丈夫なの!?」
「うん、隣の部屋で話は聞いていた。霊力封じが一時的なものというのも、嘘じゃないだろう。少しずつだけど、回復してきているからね。」
「そう、よかった……」
金鵄も無事のようだし、猪豚蛇からも反抗の気配が見えない。凛は静かに弓を下ろした。
「残念だけど、これ以上手がかりになるような話は聞けそうにないわね」
「あ……あの……オラは……もう……?」
「わたしはむやみな殺生をする気は無いわ。だからあなたは大人しく中国へ帰りなさい」
凛はそう告げると、まだ動けぬ金鵄を抱え、古民家から出て行った。
翌日、この古民家に猪豚蛇の姿は無かった。
そして更にその翌日、凛と妖木妃が戦った神社の付近で、千佳が保護された。
その姿は全裸ではあったものの、怪我や損傷も無く、意識もハッキリしていたため、病院で検査を受けた後、自宅へ戻る事ができた。
「千佳~っ、今晩何が食べたい~っ!?」
「なんでもいいっちゃよ~っ。」
いつもと変わらぬ母娘の会話。だが、微笑む娘『千佳』の口元から『牙』のような鋭い歯が見え隠れする。
―凛、早く会いたいっちゃよ~。そして約束通り、シュークリームを食べたいとよ。―
第五話へつづく(正規ルート)
----------------------------------------------------------------
②は 》続きを読むをクリックしてください。
轟音と振動を鳴り響かせながら、吊り天井はどんどん下っていく。
「押し潰されて、死んでしまうダヨ~♪」
勝利を確定したかのように歓喜する猪豚蛇。
だが・・・・
バシッッッ!!!
瞬間、青白い閃光が立ち上ったかと思うと、吊り天井の真ん中が大きくぶち破られている。
そしてそこには弓を真上に構えた、凛が立っていた。
そう、凛は霊光矢で吊り天井を突き破ったのだ。
「そ……そんな……っ!?」
勝利を信じきっていただけに、その驚きようは半端では無い。
猪豚蛇は、思わず腰を抜かしてしまった。
「残念ね、わたしは一滴もあのお茶を飲んでいなかったの」
凛はそう言うと、勢いつけて一気に飛び上がった。
凛の着ている戦闘服は防御力を高めるだけでなく、その運動能力も数倍に引き上げる。
従って、三~四メートル程度の高さなら、一気に飛び上がる事も可能なのだ。
着地と同時に、矢を猪豚蛇に向ける凛。
「答えて、どうしたら金鵄の霊力を元に戻せるの?」
「し……知らねぇーダ……」
更に弦を引く凛。
「ほ……本当に知らねぇダ! で……でも、効力は……一時的なものだと、白陰様は言っておられたダヨ……」
泣きながら答える猪豚蛇。
たしかにこの妖怪は、わたし達を罠に嵌めたけど、この言葉は信じてもいいと思う。もっとも、その白陰という妖怪が嘘をついていなければの話だけど。
「では、さっきの話の続きを始めるわ。もし、またよからぬ事をするならば……」
凛の矢が猪豚蛇の眉間に照準を合わせる。
「あわわわわわわっ……」
本来気の弱い妖怪。凛の本気の眼差し、霊光矢の輝きに相当な恐怖を感じたのだろう。なんとも言えぬ臭気と湯気を沸き上げ、失禁をしてしまった。
「あなた、妖木妃に敵対心を持つ者、もしくは恨みを持つ者を知らない?」
「妖木妃様に敵対心ダか? そ……そんな恐ろしい考えているヤツ、知らねぇーダ!」
「そもそも妖木妃の配下には、何人くらいの妖怪がいるの?」
「オラもよくは知らねぇ。ただ直接命令を頂けるのは三人ダ」
「三人……、つまり幹部って事?」
「んダ。白陰様、嫦娥様、銅角様ダ」
銅角!? あの麒麟の封印を解く鍵を握る者・・・!
「その銅角という妖怪は、一体何処にいるの!?」
「わからねぇーダ。銅角様は気まぐれで、いつも別行動をとっておられる事が多いダヨ。ただ……」
「ただ……?」
「銅角様は不思議な術を使うらしく、銅角様に名を知られた者は生きては帰れないと、聞いたことがあるダ」
「不思議な術……」
結局この妖怪は肝心な事は何一つ知らないようね。どう見ても下っ端の妖怪、嘘は無いと思う。
「り……凛……」
隣の座敷から、よろめきながら金鵄が歩み寄ってきた。
「金鵄、大丈夫なの!?」
「うん、隣の部屋で話は聞いていた。霊力封じが一時的なものというのも、嘘じゃないだろう。少しずつだけど、回復してきているからね。」
「そう、よかった……」
金鵄も無事のようだし、猪豚蛇からも反抗の気配が見えない。凛は静かに弓を下ろした。
「残念だけど、これ以上手がかりになるような話は聞けそうにないわね」
「あ……あの……オラは……もう……?」
「わたしはむやみな殺生をする気は無いわ。だからあなたは大人しく中国へ帰りなさい」
凛はそう告げると、まだ動けぬ金鵄を抱え、古民家から出て行った。
翌日、この古民家に猪豚蛇の姿は無かった。
そして更にその翌日、凛と妖木妃が戦った神社の付近で、千佳が保護された。
その姿は全裸ではあったものの、怪我や損傷も無く、意識もハッキリしていたため、病院で検査を受けた後、自宅へ戻る事ができた。
「千佳~っ、今晩何が食べたい~っ!?」
「なんでもいいっちゃよ~っ。」
いつもと変わらぬ母娘の会話。だが、微笑む娘『千佳』の口元から『牙』のような鋭い歯が見え隠れする。
―凛、早く会いたいっちゃよ~。そして約束通り、シュークリームを食べたいとよ。―
第五話へつづく(正規ルート)
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②→
「このままじゃ、本当に潰される!!」
頭上に迫り来る吊り天井を前に、凛は必死に立ち上がり霊光矢をもって破壊しようと考えた。だが……
グニャッ……
「えっ!?」
立ち上がった瞬間、身体を支えるその脚がおかしな方向に曲がると、バランスを崩しそのまま大きく尻餅をついた。
「な……なんなの……!? 脚が……身体が……全然力が入らない……!?」
再び起き上がろうとするものの、脚も腕も身体を支える事ができず、そのままひっくり返ってしまう。
「無駄ダヨ! あのお茶に入っていた妖怪人参は霊力を封じるだけでなく、身体もグニャグニャにしてしまうダヨ~♪」
頭上から、猪豚蛇の歓喜の声が聞こえる。
白陰が妖怪人参の粉を手渡した時に言った言葉。
「一時的だが全ての霊力は封印され、生身の肉体は細胞がバラバラに分裂し、骨も筋肉もその強度を失い、まるで柔らかい粘土のようにグニャグニャになってしまう。」
今の凛の身体はまさしくその状態。人としての姿は維持しているものの、軽く押しただけで、簡単に押し潰れてしまう。
天井は、もう眼前まで迫ってきている。
「潰される……潰されるもんかーっ!!」
凛は必死で両手、片脚で天井を支え、押し返そうとした。だが……
「あ……っ、や……っ!」
ガーンッ!!
鈍い音と振動が家全体に鳴り響いた。
「やった……、やったどーっ!!」
大喜びで猪豚蛇は、もう一本の紐を引いた。
ガガガガガガガ…ッ
再び振動が起きると、ゆっくりと天井がせり上がっていく。数十秒後には天井は元の位置に戻っていた。
猪豚蛇は縄梯子を投げ下ろし、落とし穴へ降りていった。
「や……やった~! 見事にペチャンコだぁ~~っ!!」
落とし穴の底には、厚さ1センチ程度まで押し潰された、無様な凛の姿が。
猪豚蛇は凛の頭をつまみ、地面から引き剥がす。
「さすがの妖魔狩人も、ペラペラになったら手も足も出ないダベ~♪」
これ以上に無い笑顔で、ペラペラになった凛の姿を頭の先から足の先まで、舐めるように見下ろしていく。
「おやっ!?」
猪豚蛇は凛の股間、戦闘服のインナーパンツに目をやり、人差し指でなぞってみた。
ジメッとした感触が指先に伝わる。
「湿ってる……?」
くん…くん…、人差し指の匂いを嗅いでみる。ツンとした甘酸っぱい匂いが……。
「なんだ~っ、お漏らししてる!? 偉そうな態度とっても、所詮は子供ダヨ~ッ♪」
潰される恐怖からか、それとも潰された時、圧迫した為なのかわからぬが、ただでさえ情けない姿なのに、これ以上に無い失態の上塗り。
「さて、コイツをどう始末したらええダカ? 放っておいて、もし元の姿に戻りでもしたら、オラ間違いなくやられてしまう。ここで完全に息の根を止めておかねぇーと。」
凛をつまみ上げたまま見つめる猪豚蛇だが、ふと何かを思いついたように、凛の身体の匂いを嗅ぎだした。
くん…くん…くん…
「やっぱそうだ、美味そうな匂いダベ! うどんにしたら、すごく美味いうどんになるんじゃねぇーベカ?」
そう言うと、猪豚蛇は凛を担いで縄梯子を登り始めた。
台所へ行き、凛を調理台の上のまな板に乗せると、麺棒を手にとった。
「まだ少し厚みがあるから、もう少し薄く引き伸ばさないと、うどんの麺にはできねぇーダヨ」
凛のつま先から頭に向かって、ゆっくりと押しながら引き伸ばしていく。丁寧にゆっくりと。
ある程度薄くしたら、麺棒に凛の身体自体を巻き付け、押しながら回していく。こうすることで厚さが均一になるのだ。
次第に身につけていた衣類も肌と同化し、ついにはヒラヒラに波打った、厚さ三ミリ程度の人の形をした、麺生地が出来上がった。
次に生地となった凛を屏風だたみで折りたたみ、端から麺切り包丁で三ミリ間隔で切り落としていく。
後はその麺を大鍋で茹で上げるだけ。
猪豚蛇は、グツグツと沸騰した大鍋に麺(凛)を放り込むと、その間にツユや薬味の準備を始める。
茹でること約30分、ザルにあげよく水洗いをする。そしてしっかり水気を切り、ざるセイロに盛り付ければ、凛ザルうどんの完成。
「これは本当に美味そうダヨ! いただきまぁ~す♪」
薬味の入ったツユに麺を付け、一気に口へ運ぶ。
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
ゴクンッ!
「美味いダヨォォォォォォッ!!」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「今までに味わったことの無い、ほのかな甘味が口の中に広がって……」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「食感も、きめ細やかなツルツルした喉越しに、適度な弾力性があって……」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「こんな美味いうどん、初めて食ったダヨォォォォ!」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「んっ、この麺はちょっとしょっぱい……?
そぉーかーっ、さっきのお漏らしの部分ダベ! これはこれで、ちょっとした隠し味で美味いダベヨ~ッ♪」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「他の妖怪達が、人間の娘を食べる気持ちがよくわかるダ! 病みつきになる美味さダベ!」
初めて知った味に感激したせいもあり、猪豚蛇はうどん化した凛を一気に平らげてしまった。
「り……凛……」
動けない身体で座敷から一部始終を見ていた金鵄は、己の無力さに涙するしかなかった。
「ふぅ……食った、食った! それにしても気のせいダベか? なんだか、すごく妖力が上がった気がするダヨ。もしかしたら、あの娘っ子の力がオラの力になったダベか?
試してみるダヨ。」
猪豚蛇はそう言うと立ち上がり、座敷へ向かった。
そして座敷で動けぬ金鵄を掴みあげると、その手で一気に握りつぶした。
「やっぱりそうダ! 以前のオラでは考えられない力ダヨ。 この力なら、もう他の妖怪達に偉そうな態度は取らせないダ!」
あれから半月後、柚子村は妖木妃の配下の者達に占拠された。
その中で、最も残忍で多くの人々の命を奪ったのは、丸々太った子豚のような妖怪だったという。
BADEND
「このままじゃ、本当に潰される!!」
頭上に迫り来る吊り天井を前に、凛は必死に立ち上がり霊光矢をもって破壊しようと考えた。だが……
グニャッ……
「えっ!?」
立ち上がった瞬間、身体を支えるその脚がおかしな方向に曲がると、バランスを崩しそのまま大きく尻餅をついた。
「な……なんなの……!? 脚が……身体が……全然力が入らない……!?」
再び起き上がろうとするものの、脚も腕も身体を支える事ができず、そのままひっくり返ってしまう。
「無駄ダヨ! あのお茶に入っていた妖怪人参は霊力を封じるだけでなく、身体もグニャグニャにしてしまうダヨ~♪」
頭上から、猪豚蛇の歓喜の声が聞こえる。
白陰が妖怪人参の粉を手渡した時に言った言葉。
「一時的だが全ての霊力は封印され、生身の肉体は細胞がバラバラに分裂し、骨も筋肉もその強度を失い、まるで柔らかい粘土のようにグニャグニャになってしまう。」
今の凛の身体はまさしくその状態。人としての姿は維持しているものの、軽く押しただけで、簡単に押し潰れてしまう。
天井は、もう眼前まで迫ってきている。
「潰される……潰されるもんかーっ!!」
凛は必死で両手、片脚で天井を支え、押し返そうとした。だが……
「あ……っ、や……っ!」
ガーンッ!!
鈍い音と振動が家全体に鳴り響いた。
「やった……、やったどーっ!!」
大喜びで猪豚蛇は、もう一本の紐を引いた。
ガガガガガガガ…ッ
再び振動が起きると、ゆっくりと天井がせり上がっていく。数十秒後には天井は元の位置に戻っていた。
猪豚蛇は縄梯子を投げ下ろし、落とし穴へ降りていった。
「や……やった~! 見事にペチャンコだぁ~~っ!!」
落とし穴の底には、厚さ1センチ程度まで押し潰された、無様な凛の姿が。
猪豚蛇は凛の頭をつまみ、地面から引き剥がす。
「さすがの妖魔狩人も、ペラペラになったら手も足も出ないダベ~♪」
これ以上に無い笑顔で、ペラペラになった凛の姿を頭の先から足の先まで、舐めるように見下ろしていく。
「おやっ!?」
猪豚蛇は凛の股間、戦闘服のインナーパンツに目をやり、人差し指でなぞってみた。
ジメッとした感触が指先に伝わる。
「湿ってる……?」
くん…くん…、人差し指の匂いを嗅いでみる。ツンとした甘酸っぱい匂いが……。
「なんだ~っ、お漏らししてる!? 偉そうな態度とっても、所詮は子供ダヨ~ッ♪」
潰される恐怖からか、それとも潰された時、圧迫した為なのかわからぬが、ただでさえ情けない姿なのに、これ以上に無い失態の上塗り。
「さて、コイツをどう始末したらええダカ? 放っておいて、もし元の姿に戻りでもしたら、オラ間違いなくやられてしまう。ここで完全に息の根を止めておかねぇーと。」
凛をつまみ上げたまま見つめる猪豚蛇だが、ふと何かを思いついたように、凛の身体の匂いを嗅ぎだした。
くん…くん…くん…
「やっぱそうだ、美味そうな匂いダベ! うどんにしたら、すごく美味いうどんになるんじゃねぇーベカ?」
そう言うと、猪豚蛇は凛を担いで縄梯子を登り始めた。
台所へ行き、凛を調理台の上のまな板に乗せると、麺棒を手にとった。
「まだ少し厚みがあるから、もう少し薄く引き伸ばさないと、うどんの麺にはできねぇーダヨ」
凛のつま先から頭に向かって、ゆっくりと押しながら引き伸ばしていく。丁寧にゆっくりと。
ある程度薄くしたら、麺棒に凛の身体自体を巻き付け、押しながら回していく。こうすることで厚さが均一になるのだ。
次第に身につけていた衣類も肌と同化し、ついにはヒラヒラに波打った、厚さ三ミリ程度の人の形をした、麺生地が出来上がった。
次に生地となった凛を屏風だたみで折りたたみ、端から麺切り包丁で三ミリ間隔で切り落としていく。
後はその麺を大鍋で茹で上げるだけ。
猪豚蛇は、グツグツと沸騰した大鍋に麺(凛)を放り込むと、その間にツユや薬味の準備を始める。
茹でること約30分、ザルにあげよく水洗いをする。そしてしっかり水気を切り、ざるセイロに盛り付ければ、凛ザルうどんの完成。
「これは本当に美味そうダヨ! いただきまぁ~す♪」
薬味の入ったツユに麺を付け、一気に口へ運ぶ。
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
ゴクンッ!
「美味いダヨォォォォォォッ!!」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「今までに味わったことの無い、ほのかな甘味が口の中に広がって……」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「食感も、きめ細やかなツルツルした喉越しに、適度な弾力性があって……」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「こんな美味いうどん、初めて食ったダヨォォォォ!」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「んっ、この麺はちょっとしょっぱい……?
そぉーかーっ、さっきのお漏らしの部分ダベ! これはこれで、ちょっとした隠し味で美味いダベヨ~ッ♪」
ズルズルズル……ッ! モグモグ……ッ
「他の妖怪達が、人間の娘を食べる気持ちがよくわかるダ! 病みつきになる美味さダベ!」
初めて知った味に感激したせいもあり、猪豚蛇はうどん化した凛を一気に平らげてしまった。
「り……凛……」
動けない身体で座敷から一部始終を見ていた金鵄は、己の無力さに涙するしかなかった。
「ふぅ……食った、食った! それにしても気のせいダベか? なんだか、すごく妖力が上がった気がするダヨ。もしかしたら、あの娘っ子の力がオラの力になったダベか?
試してみるダヨ。」
猪豚蛇はそう言うと立ち上がり、座敷へ向かった。
そして座敷で動けぬ金鵄を掴みあげると、その手で一気に握りつぶした。
「やっぱりそうダ! 以前のオラでは考えられない力ダヨ。 この力なら、もう他の妖怪達に偉そうな態度は取らせないダ!」
あれから半月後、柚子村は妖木妃の配下の者達に占拠された。
その中で、最も残忍で多くの人々の命を奪ったのは、丸々太った子豚のような妖怪だったという。
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