第一章「その後のCCSとパーピーヤス」
「そうです! うち(警備課)の職員が、行方不明……。ええ、未確認生物に拉致された可能性が高いんです。ですから、捜索協力を……。えっ!?」
そこまで言うと、石倉警備課長は火の出るような顔つきで、手にしていた受話器をフックに叩きつけた。
「くそぉーっ! 同じ警備部だっていうのに、公安も……外事の機動隊も、捜索協力が出来ないだなんて!?」
そんな石倉の剣幕に、
「何故なんです!? こうしている間にも、橘巡査の身に何が起こっているか、わかったもんじゃねぇーのに!?」
若い西東欄も、同調するかのように吠えまくる。
「あの強化服にはGPSが付いていたんじゃないの? それを探知すれば?」
男どもとは裏腹に、どちらかと言うと冷静さを保っている女性陣。そのうちの一人、中田素子はそう言って、もう一人の女性職員……藤村未希の顔を見た。
未希は黙々とパソコンを操作しながら静かに首を振ると、
「瑞鳥川さんが言っていたけど、相手はメカの天才……茶和麗華。その程度の事はとっくに気づいていて、GPS自体を破壊していると思われるわ。現に広範囲で探り続けているけど、一向に探知できそうな気配が無いもの。」
そう溜息をついた。
「そう言えば、(和)係長はどこにいるんだ!? こんな時だっつ~ぅのに!?」
そう囃し立てる欄の問いに答えるように、
「和くんは、橘くんが拉致された現場を、改めて調べ回っている。」
と、一人の中年男が部屋に入って来た。それはCCSを含む、県警本部警備部の部長である佐々木であった。
その姿を見て誰もが直立不動になり、一斉に敬礼する。
「それにしても…佐々木部長。自分には、同じ警備部である公安たちが協力しないことに、納得がいきません!」
「仕方ないんだ。一人の現職警官が未確認に拉致されたという情報は、マスコミなどの耳にも既に入っている。公安はそちらの対応があるし、機動隊には万が一に備えて待機せよと、本部長から命令が下っている。」
佐々木部長は眉間に皺をよせ、皆を見渡しながら…そう答えた。
「では橘巡査の捜索は、二の次という事ですか!?」
「そうは言っていない。それぞれが己の任務に専念せよということだ。その証拠に、刑事部捜査一課……鑑識課には、既に捜査を依頼している。」
「刑事部……に?」
「拉致…誘拐などの捜索は、彼らの得意分野だからな。」
佐々木部長のその言葉に、誰もが納得したように小さく頷いた。
佐々木部長はそんな彼らを見て、気持ち…目尻を下げると、
――それにしても、以前……藤岡が危惧していたことが、現実に起こるとは……な。―
「まさかターディグラダ・ガールの中身が、あの…橘東平の娘だったなんてねぇ~っ? しかも、LMO(遺伝子改良生物)だったなんて、全然…考えても見なかったわぁ~っ。」
呆れた口調で呟くように話しているのは、パーピーヤスマスターである糸目の若い女性……レイカ(茶和麗華)である。
ここはパーピーヤスが拠点の一つとして使っている廃校された小学校の校舎内。そこの元理科室だった教室。
大きな実験台の上には、眠る様に仰向けに横たわる若い女性……。
それは先日連れ去られた、橘明日香であった。
身につけていた特殊強化服は全て脱がされており、下着だけの彼女の脇には、数多くの薬瓶や注射器が並んでいる。
それらを手にしながら薬を調合したり、血液を採取したりしているのは、初老の男……尼元日出世。通称…死神教授。
彼は作業の手を止めることなく、脇で暇そうに明日香を眺めているレイカに向かって、
「お前ほどの女が、遺伝子工学の天才……橘東平の存在を知らなかったはずは無い。なぜ、ヤツを組織に引き入れなかったのだ?」
と、問い掛けた。
その問いに、レイカは大げさに頭を抱える仕草をすると、
「それがねぇーっ。前にうちのミンスーがぁ…、先走って殺しちゃったのよぉ~っ! ホント…ぉ、後先考えないんでぇ~、アタシも困ってるのよねぇ~っ!」
と溜息をついた。
それを聞いたミンスー。茫然とした顔でレイカを見つめ……
――いや……、仲間に加わらなければ殺してしまえ!…って仰ったのは、マスター……貴女様ですよね?―
「まぁ、ワシは橘東平という男を古くから知っている。どちらにしろ…お前のように、研究を悪用するような相手には、ヤツは死んでも首を縦には振らなかっただろうよ。」
そんな死神教授の言葉に、ミンスーは幾度も無く頷いた。
「ところでぇ~、教授~っ……。そのお巡りさんの”クローン”……。当然…作るんでしょ~ぉ?」
何故だか、甘えるような口調で問い掛けるレイカ。
それに対してまったく動じず、逆に苦虫を噛み砕いたように皺を寄せる死神教授。
「お前に言われんでも、そのつもりでいた。だが……」
「だが……?」
「結論から言えば、お前の望むクローン製造は不可能だ。なぜなら、この娘のゲノム……すなわち塩基配列は、異様な程…複雑になっている。したがって……」
「したがって……?」
「他のクローン製造のように、20倍…30倍もの速さでの成長促進をさせれば、細胞分裂の際…暴走を起こし、その殆どが”悪性がん細胞”となる。そうなれば、まともな生命維持はできまいな。」
「それじゃ~ぁ、一人前の身体に成長させるためにはぁ、普通の人間のように、最低……10年も20年も掛かるってことぉ?」
「そういうことだな。」
「な…なによぉーっ!? それじゃ…全く使い物にならないじゃなぁ~い!!」
レイカはそう言うと、まるで河豚のように丸々と頬を膨らませた。
「そもそも、こんなゲノム編集を実現させたこと自体が奇跡なのだ。残念ながら、橘東平……ヤツの成果を超えるには、ヤツ以上の天才となり、研究が必要。そういうことだ。」
「はい…はぁーい! わかったわよぉーっ。それじゃ…研究が終わって気が済んだらぁ、声をかけてぇー。」
レイカはまるで玩具に飽きた子どものようにソッポを向くと、ミンスーを引き連れて理科室から出て行った。
その姿を見届けた死神教授は、さらに集中したかのように手の動きを速め、
「ワシ以上の知識と技術を持った橘東平。だが、たとえヤツを超えることは出来なくとも、必ず…そのレベルまで追いついてやるぞ!」
そう呟いていた。
それから一週間。
その間に死神教授は、明日香の身体を使って耐熱実験。凍結実験。プレス機で押し潰した圧縮実験。
考えられる様々な実験を行った。
それでも明日香は生き続けていた。
「なるほど。まさしく…ターディグラダ・ガール。閑歩生物の体質…そのままだ。」
興味深く研究資料を作成していく死神教授。
すると、そこに現れたのは、
「研究は、順調に進んでおられますか?」
童顔巨乳の銀髪ツインテール少女(?)、蛆姫マゴットであった。
「うむ、調べれば調べるほど、驚かされる事ばかりだ。」
そう答える死神教授にマゴットは、
「そうでございますか。」
そう返事をするものの、興味の対象は完全に横たわっている明日香に向いていた。
「お姉さん……まさか、意識が無いとか?」
「いや、先程…一つの実験が終了したばかりで、気を失って眠っているだけだ。なんなら、叩き起こしてやろうか?」
「いえいえ、お気遣いなくー。」
マゴットはそう言ってニコリと微笑むと、明日香の膝小僧に指を乗せ、ゆっくりと這い上がる様に太腿まで這わせていった。
更にその指は明日香の腰に纏っている薄い水色の下着へたどり着くと、
「教授、研究の間……お姉さんの下着(パンツ)は、お取替えになられたのですか?」
と尋ねた。
その問いに死神教授は首を傾げると、
「そんなもの、わざわざ取り換えるはずがないだろう?」
と、ぶっきら棒に返事をした。
「そ…そうですかぁ、一週間…穿き続けた下着ですかぁ!?」
じゅる…じゅる……っ!
そんなマゴットの口から、一筋…二筋と涎が零れ落ちる。
……と同時に、獲物を見つけた野生動物のように、明日香の両足の付け根にある小高い丘のようなふくらみに、そっと鼻を近づけた。
――あら? 思ったほど強い臭気ではありませんわ。一週間も履き続けていらっしゃったのなら、もっと下品な匂いを想像していたのですが……。で…でも、この処女特有の…ツンッ!と鼻を刺すような匂いは、通には堪えられない香りですわ♪ た…食べたい!!―
そんなマゴットの口は、もはやナイアガラの滝と化し、涎が止め処なく流れ落ちている。
死神教授は、そんなマゴットに呆れ果てたように小さく溜息をつくと、
「ワシはちょっと他の調べ事をしてくる。しばらくは好きなように弄ぶがいい。」
そう言って部屋を出て行った。
誰もいなくなったことで箍(たが)が外れたのか、本能剥き出しのまま…両手で明日香のパンツを摘み、ゆっくりと引き摺り下ろし始めるマゴット。
すると……、
「な……何を、しているんですかっ!?」
上半身を起こし、目を皿のように丸くして、その行動を凝視する明日香の姿。
そんな明日香と目が合うと、
「お…お姉さん、気がついていらっしゃったのですか?」
珍しく気まずいように頬を赤らめ、慌てて言葉を返す。
「あなたは以前にも…私の下着を食べようとした魔族の少女……! まさか、また私の下着を……!?」
もはや言い逃れ出来ない…この状況。だが、元々精神力(メンタル)の強いマゴット。一旦は己を見失いかけたが、すぐさま気を取り直し…通常運転に戻ると、、
「そうですわ…お姉さん。私め、女性の下着……、ましてお姉さんのように純粋で、真っすぐで、そして…まだ処女。そんな女性の下着が大好物ですの。」
そう言って満面の笑みを見せつけた。
「でも……」
マゴットの目は、今度は明日香の裸体に向いている。
「下着もいいですけど、お姉さんの身体自体も気になるところですわね!」
そう言いながら自ら実験台の上に這い上がり、そのまま明日香の横で足を伸ばす。
「こうして間近で見ると、お姉さんの可愛らしさがよく判りますわ!」
マゴットは明日香の耳元に顔を寄せ、
ガプッ!
まるで餃子の皮のような可愛らしい耳たぶに甘噛みをした。
「ひぃぃぃっ!!」
予想外の責めに、思わず小さな悲鳴を上げる明日香。
「大丈夫、怖がらなくていいんです。私めにお任せください。」
そう言いながら静かに明日香の身体を倒し、今度は自身の唇を明日香の唇の上に重ねた。
生ぬるくて…ナメクジが口内を這いずり回っているような感覚に襲われる。しかし、だからと言って不快ではない。むしろ心地よい気分が脳内を駆け巡る。
「そう。それでいいのですわ。」
更に、深く…深く唇を重ねるマゴット。
「甘い……。お姉さんの唇は、想像以上に甘美な味わいですわ!」
次にマゴットの唇が向かったのは、明日香の胸の上。
逆さにしたお椀の上に、可愛らしい小さなレーズンがチョン!と乗ったような。
そのレーズンに貪り付くように吸い付くマゴット。
ピチャピチャと音を立て、まるで赤子のように吸いまくる。
「だ…だめ……ああっ……でも……」
身をくねらせ、たまらず声が漏れる明日香。
「可愛いですわ…お姉さん。そんなお姉さんを、もっと……もっと、甘く……とろけるような快感を味あわせて差し上げますわ♪」
更に強く貪るマゴット。そして…スルスルと伸びた右手は、なんと明日香の両足の付け根に。
細い白魚のようなマゴットの指が、割目に隠れた小さな突起物に触れる。
「あああああああああっ!!!」
激しい喘ぎ声と、ジャックナイフのように飛び跳ねようとする上半身。
そんな明日香を抑えつけながら、マゴットの指は更に激しく、それでいて繊細に動き回る。
「だめ……だめ……だめ……」
無意識に漏れる喘ぎ声。右へ左へと頭や腰をくねらせ、悶え続ける身体。
「いいですわ、お姉さん。心がもう……とろけ始めていますわね♪」
それから一時間後。
「な、なんだ……それは!?」
部屋へ戻って来た死神教授の目に入った物は、実験台の上にこんもりと盛り上がったクリーム状の塊。
「うふ…! つい気合入れて…”禁断のツボ”を責め続けていましたら、お姉さん……本当にとろけて、クリームになってしまいました♪」
マゴットの言葉通り、よく見るとその肌色のクリームには、明日香の顔らしき部分が見えている。
その表情はグルグルと目を回してはいるものの、ほのかに赤みを帯びており、半開きの口からは涎が零れ落ちていた。
「まるで最高級ミルクで作ったような…濃厚で優しい甘味のある見事なクリームです♪ 教授も一口…お舐めになりますか?」
もう既に何口か頬張っているのだろう。そう言うマゴットの口元は、クリームがまとわり付いていて、テカテカと輝いている。
「いや…ワシはいい。それにしても他人の実験材料をこんなにしてしまうとは。お前さんも茶和麗華と同じように、限度というものを知らんようだな?」
そんな死神教授の言葉に、マゴットは激しく首を振ると、
「私めはレイカさんほど疎慢ではありませんわ。充分に味わったあとは、モトモトパウダーを使って元の身体に戻しておきます!」
と強い口調で言い返した。
マゴットの返事に、死神教授は少し思いに耽るように考え込んだが、
「いや、この娘は放っておいても元に戻るはずだ。」
と切り返してきた。
「どういうことですの?」
「彼女の全細胞のうち4~5%ほど、全能性幹細胞が含まれている。」
「なんですか……その全能性幹細胞というのは?」
「プラナリアという生物を知っておるかね? 全身を細切れにしても元通りに再生してしまう生物がいる。ソイツには、全身どの部分でも元通りに復元できる…全能性幹細胞というものがあるわけだが。それと似たような細胞がこの娘の細胞にも含まれているのだ。」
「では…お姉さんを切り刻んでも、同様に再生できるというわけですか?」
「プラナリアほど単純ではないが、ある程度であれば…そういう事だ。」
そこまで言うと死神教授はジッとクリーム状の明日香を見据えて、
――閑歩生物の能力だけでなく、全能性幹細胞まで組み込んでいるとは。橘東平……。娘の命を救いたい一心とは言え、よくこんな怪物のような人間を作りだせたものだ……。―